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こんなはずじゃなかった!

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こんなはずじゃなかった!



作者:あびす






 ―ミュークト学園体育館―

 本日、ミュークト学園では、体育館にて高等部各クラス代表の自由研究発表会が行われている。
 控室として当てられた体育館の休憩室は、クラス代表となった発表者達が発する、異様なまでの熱気でいっぱいだった。
 それもそのはず。この発表会で優秀賞、優良賞、審査員特別賞を得た生徒には、学園長から景品が授与される事になっており、その景品がまた豪華なのである。
 優秀賞1件には、学園と隣接している大型アミューズメント施設『アミューズメントミュークト』の特別招待券と、学園食堂食券三万円分が用意されている。優良賞3件と審査員特別賞1件には、食券1万円分。
 食券はともかく、アミューズメントミュークトとは、プールやボウリングなどの充実したアミューズメント施設。それだけでなく、温泉やスポーツジムなども敷地内に建てられており、様々な娯楽を楽しむ事が出来る。地域住民にも好評で、年間会員になっている人も少なくない。
 しかし、敷地内すべての施設を利用するとなれば、学生には出すのが躊躇われる、それなりの金額が必要となる。しかし、特別招待券があれば、一定期間中、すべての施設を何名でも利用することが出来る。要するにフリーパスのようなものだ。
 その期間が夏休み一杯となれば、学生たちが燃えないはずがないのである。
 十万円相当の商品価値がある特別招待券を手に入れるために、代表生徒達は発表原稿の見直しに余念がない。
 ……が、しかし、ある組のクラス代表二名は、椅子に座ったまま小さくなって、震えているようにも見える。
 その代表とはハーゼ・バルクホルンと真田槍助の学園お騒がせコンビである。
 その異名どおり、こういったイベントではかなりのやる気を見せる二人であるが、今の二人の姿からはやる気の欠片すら見えない。
 理由は二週間前に遡る……。

~二週間前

「はーい、みなさーん聞いてくださーい」
 担任のシルフィーナが、黒板に文字を書く。長い髪を三つ編みに纏め、Yシャツの胸元ををこれでもかと言うほどに開けた、教師とは到底思えないような服装だ。
 思春期真っ只中の男子生徒達には些か刺激の強すぎる格好なのだが、シルフィーナが受け持つクラスの生徒はその格好に慣れてしまい、誰もが彼女の大きくはだけた胸元を気にも留めず、その話に耳を傾ける。
「実は二週間後に高等部の生徒が全校生徒の前で、『もしもの世界』について発表することになったわ」
「もしもの世界?」
 諏訪が反射的に聞き返す。シルフィーナは待っていましたと言わんばかりに目を輝かせた。
 突っ込んでほしい事を的確に突っ込んでくれる諏訪は、教師陣の中でも評判がいい。授業内容が解り難い時は、諏訪を重点的に教えれば、皆が理解できるだろう。そういう指導法が教師陣の中で出回っているほどだ。
「ええ、たとえばそうね。宇宙。人類が生活の場を宇宙に移した世界はどういった世界になっているか。それを事細かに書くのよ。地球では移動手段としては車があるけれど、宇宙での生活に車は必要かしら? 必要だったとしても地球と同じ車でいいのかしら? そんな想像を書いてもらえればいいわ。あ、一人だと辛いと思うから何人でも組んでいいわよ」
 生徒達からは面倒臭いというオーラが立ち上る。
「あ、どのクラスも全校生徒の前で発表するのは一組だけで、クラス内発表の結果を見て代表を決めるわ」
「えぇー。もううちのクラスの代表正義でいいじゃん。面倒だし」
 ノートに『正義が潰えてしまった世界』というタイトルで、一人黙々と下書きをしていた、正義ことジャスティスマンに皆の視線が向けられる。
 シルフィーナは想像していた通りの流れに、思わず苦笑を浮かべた。
「あー、正義ちゃんは全校生徒の前で発表しないと気が済まないだろうし、それにクラス不定の正義ちゃんをどこかのクラスの代表にするのはちょっと問題があるんじゃないかという話になって。正義ちゃんは特別枠で、本番で発表することが既に決まっているのよ」
 クラス不定という状況が公認になっていることは置いといて、シルフィーナの言葉にぴくりと反応したジャスティスマンは、ペンを走らせる速度を上げる。どうやら正義の心に火が点いたようだ。
「じゃあうちのクラスの代表は諏訪ちゃんで決定だろ? 俺達が真面目にやっても諏訪ちゃんグループの発表に勝てる気がしないしな」
 一人の男子生徒が背もたれに背を預け大きく伸びをする。
「ほらほら、そこ。やる気を失わないの。男の子なら誰が相手でも、やる気だけは失っちゃ駄目よ」
 シルフィーナが教師らしい言葉で男子生徒を窘める。だが、その言葉には裏がありそう……いや、裏しかなさそうなので誰も感動などしない。
「まぁ、皆のモチベーションが低いってのは学園長も最初から見抜いてるみたいで、全校発表での頂点に立った生徒には、記念品が贈られるらしいわ」
 羽振りの良い学園長の記念品という事で、やる気がなくなっていた生徒達にも活力が戻り始める。
「先生、記念品って?」
「記念品はアミューズメントミュークトの特別招待券。すべての施設が使える上に夏休み中なら何度でも何人でも使えるみたいね。ほんと先生が欲しいくらいよ」
 シルフィーナの言葉を聞いて教室内がざわめき始める。
 アミューズメントミュークト。すべての施設を利用しようとすれば、一万五千円はくだらない。それが夏休み、おおよそ四十日間使えるだなんて、賞金五十万円と見てもおかしくはない。
「確かエステやネイルサロンもあったよね、あそこ」
「この券さえあれば今年の夏はアバンチュールな夏になりそうだ……」
 どん底だった生徒達のモチベーションがみるみる上昇していく。
 学園長はこうなる事を予測していたのでは。シルフィーナは改めて学園長に畏怖する。まったくもって底が知れない人だ。
「よし、みんな気合いを入れるぜ野郎ども! この券さえあれば毎日が女の子と一緒の夏になるぜ!」
「諏訪ちゃん、組みましょう! エステやネイルサロンの為に!」
 教室内はチーム組をする生徒の活気で満ち始めた。
「じゃ、ハーゼ組もうか?」
「お、さなだんか……実はいい策があるんだ」
「ほう、奇遇だな。俺もだ」
 教室の片隅でニヤリと怪しい笑みを浮かべる二人組。
 頭の中に浮かんだ悪だくみが後々の騒動に繋がるとは、二人ともこの時点では微塵も思っていなかったのだ。

~真田槍助宅

「よく来たなハーゼ。とりあえず上がってくれや」
 放課後、それぞれが図書館に資料を探しに行くのを尻目に、二人はいち早く真田の家に集まった。
「もう解っているとは思うが、さなだん……」
 ハーゼが真田の部屋のクッションに腰を下ろし、ベッドに胡坐をかいて腰掛ける真田に話し掛ける。
「あぁ、俺達がいくら頑張ったって、あの諏訪たちの発表に勝てる気はしないからな。アミューズメントミュークトは諏訪たちについて行こうぜ。なんだかんだであいつも面倒見いいから、一緒に連れてってくれるだろ」
「そうだな、それが俺達にとって一番可能性のある行動だよな」
 そう、初めから二人は他力本願。自分達は楽をしようという考えなのだ。取らぬ狸の皮算用、という言葉もあるが。
「形上でも発表はしなきゃいけないから、何かウケを狙った発表が良いよな」
 ハーゼは大学ノートを開いて、どの発表が一番ウケるかを考え始める。そう、ここに集まった目的はネタ出しなのだ。
「どうせクラス内で終わる発表だから、身内ネタで考えりゃいいんじゃね?」
 そうだな……そう呟いてハーゼは頭を働かせる。
「じゃあ諏訪ちゃんがいっぱいいる、諏訪ちゃんだらけの世界ってどうだ?」
 ハーゼの提案に真田は想像を働かせる。
「諏訪だらけの世界かー。なんか色々と突っ込みの収まらない世界になりそうだよな」
「確かにそうだよな、碌な事言えないよな。オチのない話とかできねーよ。ツッコミ怖くて」
「いや、よく考えたらいい考えかも知れない。あいつは意外にガードが甘い。パンチラがたくさん拝めるぞ!」
「ちょ、おま…………一応候補に入れておくか」
 突っ込もうとしたハーゼだったが、彼とて男。パンチラという言葉には弱い。候補に「諏訪だらけの世界」を入れる。
「じゃ、なぎーだらけの世界は?」
 真田が次の案を言う。二人は頭の中に渚だらけの世界を思い浮かべ数秒。
『人類滅びるわwww』
 意見が一致。人口の増加が止まってしまう。これはなしなしと、「渚だらけの世界」に斜線を引いて案から消す。
「じゃあさなだん……アキラちゃんだらけの世界は?」
「おぉ、お前頭いいな。アキラの性格ならみんな薄着……むしろ下着じゃね?」
「いい世界だよな……」
 女性が皆下着姿という世界を思い浮かべた二人の表情が緩む。
「……いや待て。冷静に考えてみれば、下着ってのはたまに見えるからドキドキするんじゃね?」
 その世界を想像してニヤニヤしていたハーゼだったが、想像しているうちに重大な欠点に気付いたようだ。
「毎日すき焼きだったら飽きるのと同じ、皆が下着だったらドキドキが失せる。キャミソールを考えてみろ。元は下着に近い存在だったが、今じゃれっきとした服じゃないか!」
「……それは確かに。それに、アキラだらけの世界って地球が太陽になっちまうよ」
「それもそうだな。喜ぶのはレミングだけだろ」
 よくよく考えると欠点だらけだった。アキラだらけの世界も却下。
「んじゃ、ミナだらけの世界ってどうよ?」
「気が休まらねぇなそれ。罵倒されてばっかだぜ、多分。俺はまだそっち方面には目覚めてないし」
「でも目覚めなきゃやっていけねーって」
「いや、そもそもミナちゃんばっかだと今度は地球が氷の星になっちまう。みんな厚着だからパンチラとか拝める気がしねーし」
 色気は大事だ。ミナだらけの世界も却下。
 ネタになりそうな身内を探していた真田が、ふと思い出したかのように呟く。
「中等部のウインドだらけの世界ってのは?」
「あぁ、ウインドちゃんか」
 高等部と中等部は直接のつながりはないのだが、ウインドは中等部屈指の美少女として、高等部でも有名である。大人しい彼女としては迷惑だろうが。
「巨乳だらけの世界! これは夢みたいだ」
 嬉しそうな真田を尻目に、ハーゼは苦しそうだ。
「……待ってくれ! そんな世界、俺が耐えられない!」
 ロリコンのハーゼからすれば、巨乳だらけの世界は拷問のようだ。
 しかし世間一般は巨乳が大事だ。ウインドだらけの世界、というのは候補として残し、二人は他の案を考え出した。

~一時間後

 一通りネタを出しつくした二人は、候補の絞込みに入った。が、どれもパッとしない。
 諏訪だらけの世界、というのはそこそこウケそうだが、後で彼女に何をされるかわからない。それはもちろん、拳的な意味で。
 しばらく悩んでいた二人だったが、ほぼ同時に、とあるアイディアを思いついた。
『正義だらけの世界ってのは?』



~正義だらけの世界



 ここは一般道。制限速度40キロの、どこにでもあるような道だ。
 そこを一台の車が走っていた。速度は45キロ前後と、制限速度こそオーバーしているが、常識からすればゆっくりな速度だ。
 が、正面に突如として正義が現れ、車を停める。正義はドライバー側の窓をノックして、運転手に開けさせた。
「君! ここの制限速度は40キロだ! 正義を守る者として、見過ごせんな! 制限速度というのは君達が安全に通行できるように定められているんだぞ!」

 夏休み、地元からほとんど出たことのない高校生達が、何キロも先の観光スポットに自転車で冒険を始めていた。
 ちょっと背伸びをして、煙草なんて吸いつつ、一生の思い出になるかもしれない冒険に舞い上がっている。
「正義分煙(ジャスティスウォーター)!!」
 そこに正義の声とともに水が浴びせられた。煙草が消え、うろたえる少年達。
「君達! 成長途上にある体で煙草を吸うとは愚の骨頂! 正義ではない!」
 見知らぬ土地は怖い。少年達は再び、地元に引きこもることになった。

 放課後、一人の少年の家に、彼の友人が集っていた。
 目的は少年が必死の思いで入手した裏ビデオ鑑賞。未知の領域を知るべく、少年達はわくわくしながらテレビに釘付けになる。
 女優のインタビューの後、彼女の衣服が次第に脱がされていく。少年達のテンションは最高潮。
「正義妨害(ジャスティスジャミング)!」
 突如、正義の拳がテレビ画面に炸裂する。
「君達!! こういうビデオは18歳になってからだ!! そして、健全な文化を育成するためにも、モザイクは必要なのだ!」
 すると、血走った目をした少年達が正義を取り囲む。
「ちょ、君達、話せばわか……」

 そう、正義は毎日地域の平和と正義を守るため、ジャスティスパトロールを行っているが、体は一つしかないので、小さな悪にはなぁなぁで対処していた。
 が、正義だらけの世界となったため、小さな悪にも目が届き、今までは見逃さるを得なかった悪に対処することが可能になったのだ。

「えぇ、住みやすくなったわ。ガラの悪い人とか全員街からいなくなったもの」(40代・主婦)
「子供にはいい環境よね。ジャスティスマンのような子供に成長してほしいわ」(30代・母親)
「ジャスティスマンかっこいい! ぼくもジャスティスマンになる!」(6歳・子供)

 治安が一気に向上したと、街の人からの評判は上々である。
 しかし、苦い顔を浮かべる人も少なくなかった。

「ちょっとやりすぎじゃなかろうか。息苦しくてたまらんよ」(40代・サラリーマン)
「正義を恐れて、学生がエロ本を買いに来てくれなくなりました」(40代・書店経営)
「ジャスティスマンかっこわるい!! 時代は骨だろ!!」(匿名希望)

 ジャスティスパトロールは次第に過激になっていき、ほんの些細な違法行為でも正義が出動してくる。
 人々は次第に道に落ちているものも拾わなくなり、必要以外に外出することもなくなった。

「……なんだ、この活気の無い街は……」
 骨はこの街を支配に来ていた。が、前情報と異なり、あまりにも活気のない街だ。
「しょうこりもなくまた現れたか!!」
 正義。
 人通りの無い商店街で、骨と正義はにらみ合っていた。
 しばらくにらみ合った後、骨は不適に笑う。
「ふはは、俺たちは今までの俺たちじゃない。合体!!」
 二体の骨が合体する。四本足・四本の腕を持つ、超絶破壊絶対神閃光灼熱紅煉鬼天上慈愛迷宮鋼鉄唯我独尊戦神骨(ファイナルボーン)である。
『ふふふ、これで俺達は貴様を上回る力を手にした!!』
「それはどうかな!」
「正義は一人じゃない!!」
 ジャスティスマンがもう一人。
『な、もう一人だと!? ……だが、二人ならこの超絶(略)骨の力を持ってすれば!』
「フッ……。あなた方も飽きませんね……」
 さらにもう一人。
「おいどんに任せんしゃーい!」
 さらにもう一人。
「オイラ達の町は、誰にも渡さない!」
 さらにもう一人。
「「「「「正義の心がある限り、我々は絶対に負けやしないッ!!!」」」」」
 気が付けば、5人の正義が、骨を囲んでいる。
『ちょ、おま……』
「「「「「覚悟しろ、骨!!!」」」」」
『待て、話せばわか……』
 5人の正義によって、骨の野望は完膚なきままに打ち砕かれた。

 もはやこの町は、正義が支配していると言ってもよかった。
 彼らの「正義」を守るため、多くの「悪」が毎日のように打ち砕かれていく。
 そして、彼らの「正義」にそぐわない者も、毎日のように「悪」として打ち砕かれていく。
 一人の男が、夜空を見上げて呟いた。
「正義よ。君はその名の下に、一体いくつの自由を奪えば気が済むのだ」
 正義に満ちた町は、何事も無いかのように一日を終えていくのだった。



「……以上で、真田&ハーゼの『ナイスガイズ』による発表を終わります」
 結局、題材を「正義だらけの世界」にした真田とハーゼは、無事に発表を終えた。ここで巻き起こるのは失笑や「ねーよwww」コール……。
 の、はずだったのだが。
「良かったじゃない、見直したわ!」
 諏訪の感嘆と拍手。それに続いて、クラス中から拍手が巻き起こる。
「……え?」
「ちょ……」
「いやー、いっつもふざけてた二人がこんなに立派な発表をするなんて。先生感無量だわ……」
 シルフィーナが目頭を押さえる。
「この後じゃ『魔女っ子だらけの世界』なんてふざけた題材、発表できないじゃないか……」
 頭を抱える祐司。
 そして、正義は明らかに元気を失っていた。彼の正義の灯火が消えてしまったのか、ヘルメットやボディスーツの装飾が消え、非常に弱弱しい姿―リトルジャスティスマン―になってしまっている。
「これ、もう二人が代表でよくないか?」
「賛成ー」
「異議なーし」
「ちょっと待てぇ!? なんでそんな方向に話が進んでるぅ!?」
「俺たち、全校発表なんて気、さらさらないのに!?」
「だって一番いい発表だったもん」
「だなー」
「だねー」
「「え、えー!?」」



~発表者控室



 そんなこんなで、二人は予想だにしていなかった場所にいるのだった。
 プログラムを読んでみれば、「鉄がなくなってしまった世界」や、「天地がひっくり返った世界」「重力が軽くなった世界」「10人しかいない世界」など、ちゃんと下調べをして、綺麗にまとめたようなテーマばかりだ。二人の「その場の勢いでまとめましたー」なんて雰囲気のテーマは一つもない。
「さなだん……」
「……どした?」
「俺達、どう見ても場違いだよな……」
「だな……」
 そして、発表する側もみんな優等生に見える。隣の芝は青く見えるものだが、それを差っ引いても真田とハーゼのナイスガイズは場違いであった。
「真田とハーゼはここかぁ!?」
 すると、コンドルが控室に乗り込んできた。明らかに怒っている。控室の雰囲気はピリピリしているため、皆がコンドルに右手の人差し指を唇に当てるジェスチャーをとった。
「……ちょっと話がある。ツラ貸せ」
「ツラって、おま……」
「や、やらしくしてね……?」
「いいから来い!」
 コンドルは二人の首根っこを掴んで、控室から引っ張り出した。
「お前らか、お前らのせいなのか?」
 コンドルの声はドスが効いていて、なおかつ指を鳴らしている。今すぐにでも拳骨が飛んできそうな雰囲気だ。
「な、何が!?」
「正義だよ! 二週間前からあいつ、毎日保健室に来ちゃ『私の正義は間違っているのでしょうか? 答が出ないまま正義を守ることはできません! 正義を守らないことには私の存在意義はありません!』なんて言ってくんだよ! おかげで寝る時間が……じゃない、俺の仕事一つもできねぇじゃねぇか!!」
「そ、そんなこと言われても!?」
「シャレのつもりだってば!!」
「人を傷つけた奴はみんなそう言うんだよ! っとに、正義じゃなけりゃぶん殴ってるわ!!」
 何気にコンドルが一番ひどいことを言っている。
「……いいか、その侘びとして、絶対に優勝しやがれ。それが正義と俺の安眠に対する手向けだ」
 コンドルはそう言って、真田とハーゼの肩を励ますかのように叩いた。
「……さらにハードル上がったよ」
「これほどのプレッシャーはないな……」
 二人はとぼとぼと控室に戻り、原稿を見直す。教室内で終わらせるつもりだったので、落書きだらけの、これまた場違いな原稿だ。
「ナイスガイズさん、そろそろ発表です」
 裏方が呼びに来る。
「……行くか」
「だな……」
 二人は覚悟を決め、全校生徒の前に歩いていくのだった。


 発表の結果がどうなったかは、言うまでもないだろう。
 もちろん、正義がどうなったのかも。

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