日本が隕石で滅亡するなんて、そんな馬鹿みたいな話を政府が公式見解として発表したのは今日未明のことだった。
二十四時間後の滅亡から逃れるために人々が長蛇の列を成してどこかへ向かっているのを、私はマンションの屋上から、何となく眺めていた。
どこからか始まって、何処かへと歩いていく人々の群れ。遅々として進まないその歩みを長めながら、この中のどれくらいの人が助かるんだろうと、私はそんなことを考えた。
飛行機で逃げるにせよ、船で逃げるにせよ、これだけの人数が逃げ切れるとは到底、思えない。
諦めの悪いことで。
二十四時間、何をして暇を潰そうかと、そんなことを考えていたとき。
「おねーさんもリタイア組?」
私は、声をかけられた。
振り返れば、少年が一人立っている。マンションの住人の一人だろう。眼鏡をかけたその少年は、手を軽く広げて言う。
「どうせ逃げ切れない。そんなことを考えてたね?」
「まぁ、そうだけど。あなた誰?」私が尋ねると、
「別にどーでもいーじゃない」と、少年は言う。
「二十四時間後には、知ってても知らなくても同じになっちゃうんだから、さ」
そう言って、少年は笑って。
「確かに……ね」
私は答えて、人々の群れへと視線を戻した。
歩いてくる足音。少年は私の隣、フェンスに手を乗っけて、歩く人達を眺める。
しばらく、そのままで。
「ちょっと俺の話を聞いてくれないかな」
そして唐突に、少年はそんなことを言った。
「なんで? 聞いたって聞かなくたって、どっちだって同じ事、でしょ」
「いいや変わるね」
「なんで?」
「綺麗なおねーさんと楽しいお喋りをした、という思い出が残る」
「馬鹿じゃないの」
「正直言うと、誰でもいいんだよね。でも、電話は通じないし、列を歩く人は話しかけると起こるしさ」
「だろうね」
「だからさ」と、少年はふいっと視線を巡らし、列とは反対方向の空を見上げて、そして――
「迷惑だね。感傷に浸らせてよ」と、私はそう言った。
「……です、か」
少年は肩をすくめて、そして屋上の入り口へと歩いていく。
私は見送りもしなかった。ドアを開ける軋んだ音が響いて、すぐには、閉じなかった。
「感傷なんてくだらねーよ」
「自分語り程度にはな。失せろクソガキ」
扉を閉める音。私は列を眺め続ける。@wikiへ