小さな町の小さな商店街、昨日降った花散らしの雨のせいか町全体が少し蒸し暑く感じられた。その一角にある花屋でケビンは店長に怒られていた。店にバイトとして入って1月、傭兵を辞めて3ヶ月になるが傭兵時代からあまり笑うことがなかった彼にとって”笑顔で接客”することは
猪や熊を倒すよりずっと難しいことだった。「美形を雇って集客力を上げる!」と意気込んで店長が雇ったのだが、ケビンが仏頂面で接客をするせいで客足は遠のき、この1月の売り上げは落ち込むことが予想されている。褐色のきめ細かいの肌に白い髪、猛禽類を思わせる鋭い眼。微笑を浮かべればかっこよく映るのだろうが
仏頂面ではただ威圧感を与えるだけだった。
「あんたねぇ、毎日言ってるだろ? 接客の基本は”相手に対する親切心”だって。あんたにはその”親切心”が足りてないんだ。」
「すいません…」
店長よりも頭1つぐらい背が高いケビンだが、店長の前ではその大きな体も小さく見えてしまう。傭兵として体は鍛えていたので荷物運びなどの力仕事ではとても役に立つのだが、給料を出すからにはそれ以外の仕事もしてもらわなければならない。
「そんな仏頂面してちゃ、せっかくの男前が台無しだよ?」
「それは分かってんすけど…」
店長の話は続く。しかし、内心ケビンは穏やかではなかった。
(何で俺がこんな目に…!)
生活のためとはいえ、誰かの下について仕事をするのは今まで自分本位で行動していた彼には性に合わない行為だった。
猪や熊を倒すよりずっと難しいことだった。「美形を雇って集客力を上げる!」と意気込んで店長が雇ったのだが、ケビンが仏頂面で接客をするせいで客足は遠のき、この1月の売り上げは落ち込むことが予想されている。褐色のきめ細かいの肌に白い髪、猛禽類を思わせる鋭い眼。微笑を浮かべればかっこよく映るのだろうが
仏頂面ではただ威圧感を与えるだけだった。
「あんたねぇ、毎日言ってるだろ? 接客の基本は”相手に対する親切心”だって。あんたにはその”親切心”が足りてないんだ。」
「すいません…」
店長よりも頭1つぐらい背が高いケビンだが、店長の前ではその大きな体も小さく見えてしまう。傭兵として体は鍛えていたので荷物運びなどの力仕事ではとても役に立つのだが、給料を出すからにはそれ以外の仕事もしてもらわなければならない。
「そんな仏頂面してちゃ、せっかくの男前が台無しだよ?」
「それは分かってんすけど…」
店長の話は続く。しかし、内心ケビンは穏やかではなかった。
(何で俺がこんな目に…!)
生活のためとはいえ、誰かの下について仕事をするのは今まで自分本位で行動していた彼には性に合わない行為だった。
太陽が西に傾き、町全体が赤い色に染まり始める頃ケビンは家路に着いていた。その足取りは重く、これから顔をあわせなければいけない傭兵をやめる原因となった”元凶”のことが頭を痛めていた。
「ようケビン。 今日の仕事はどうだった?」
振り返ると彼よりさらに頭一つ大きい巨漢が買い物袋片手に立っていた。そのがっしりとした体は暗い夜道で出会ったら熊と見間違うほどだ。正方形の角を丸めたような頭には太い眉毛と角刈りの髪、陽気な笑顔があった。
「いつもどおり、店長に叱られながらの仕事だったよ」
「ハハハ、それでも働かせてもらってんだから感謝しなきゃな」
「…それはどういう意味だよ、マッシュ?」
ケビンとマッシュは並んで自分たちの住む小屋へと向かう。マッシュは傭兵時代の古い友人で、今は小麦や農作物を都市部へ運ぶ仕事をしている。最初はケビンもマッシュと同じ仕事をする予定だったのだが、ケビンの腕力や体力では雇うことができないと断られたのである。
ちなみにマッシュの仕事仲間のほとんどがマッシュ並の巨漢である。
「さてさて、見えてきたぜ。いとしき我が家」
「俺にとっては、忌まわしき我が家だけどな」
彼らの家は町を縦断するヴァルド川を渡ってすぐのところにある平屋建てのそれほど大きくない小屋である。今はここに3人で生活していた。
「ようケビン。 今日の仕事はどうだった?」
振り返ると彼よりさらに頭一つ大きい巨漢が買い物袋片手に立っていた。そのがっしりとした体は暗い夜道で出会ったら熊と見間違うほどだ。正方形の角を丸めたような頭には太い眉毛と角刈りの髪、陽気な笑顔があった。
「いつもどおり、店長に叱られながらの仕事だったよ」
「ハハハ、それでも働かせてもらってんだから感謝しなきゃな」
「…それはどういう意味だよ、マッシュ?」
ケビンとマッシュは並んで自分たちの住む小屋へと向かう。マッシュは傭兵時代の古い友人で、今は小麦や農作物を都市部へ運ぶ仕事をしている。最初はケビンもマッシュと同じ仕事をする予定だったのだが、ケビンの腕力や体力では雇うことができないと断られたのである。
ちなみにマッシュの仕事仲間のほとんどがマッシュ並の巨漢である。
「さてさて、見えてきたぜ。いとしき我が家」
「俺にとっては、忌まわしき我が家だけどな」
彼らの家は町を縦断するヴァルド川を渡ってすぐのところにある平屋建てのそれほど大きくない小屋である。今はここに3人で生活していた。
ケビンにとってマッシュと一緒に生活を送ることはまったく苦にならないことである。だが、一緒に生活をしているもう1人がケビンの悩みの種だった。玄関のドアを開けた途端、その問題のもう1人が飛び出してくる。
「おっかえり~!」
飛び出してきたのは13,4歳ぐらいの長い茶髪の少女であった。宙を舞っている彼女を避けるわけにもいかずケビンはしかたなく彼女を受け止める。しばらく前まで昼寝でもしていたのかその格好は寝る時に着るピンクのパジャマを着ていた。
「お姫様からの熱い抱擁だな」
「おまえなぁ、この出迎え方はやめろと何度も言っただろ?」
含み笑いをするマッシュを無視し、ケビンはその少女にうんざりした口調で言った。
「え~? レディーを家に残して仕事に行っといてそういうこと言うの~? クレナ寂しかったんだよ?」
「レディーなんて歳じゃないだろ、お前は」
そう言いながら家に入り彼女を下ろす。家の中は丸いテーブルと人数分の椅子、その他生活に必要な家具が所狭しと並べられ、暖を取るための暖炉の中で赤々と炎がゆれている。
マッシュが食事の準備をしている間、クレナの相手をケビンがする。これが彼女と一緒に生活をするようになってできた一つのサイクルであった。
「おっかえり~!」
飛び出してきたのは13,4歳ぐらいの長い茶髪の少女であった。宙を舞っている彼女を避けるわけにもいかずケビンはしかたなく彼女を受け止める。しばらく前まで昼寝でもしていたのかその格好は寝る時に着るピンクのパジャマを着ていた。
「お姫様からの熱い抱擁だな」
「おまえなぁ、この出迎え方はやめろと何度も言っただろ?」
含み笑いをするマッシュを無視し、ケビンはその少女にうんざりした口調で言った。
「え~? レディーを家に残して仕事に行っといてそういうこと言うの~? クレナ寂しかったんだよ?」
「レディーなんて歳じゃないだろ、お前は」
そう言いながら家に入り彼女を下ろす。家の中は丸いテーブルと人数分の椅子、その他生活に必要な家具が所狭しと並べられ、暖を取るための暖炉の中で赤々と炎がゆれている。
マッシュが食事の準備をしている間、クレナの相手をケビンがする。これが彼女と一緒に生活をするようになってできた一つのサイクルであった。
うるさいクレナが寝静まった後、ケビンは静かになった家の中で一人ブランデーを飲んでいた。窓から見える満月はあと少しで天の一番高いところに昇る。そんな月を眺めながらグラスを傾けるのが彼の数少ない心休まるひと時であった。
「あんまり飲むと、明日の仕事に差し支えるぞ?」
寝巻きに着替えながらマッシュは言う。彼は朝早くから仕事があるので毎日早寝早起きの生活している。傭兵をやめて5年も一般人として仕事をこなすようになれば嫌でもそういう習慣が染み付くのだろう。
「…ああ、わかってる」
「恋しくなったか? 傭兵時代のスリリングな生活が」
着替え終わったマッシュは自分の椅子に座りながら言った。スリリングな生活。あるときは貴族の護衛として、あるときは戦争に出る一兵として、あるときは遺跡の探索隊の一員として。そんな危険と隣り合わせの生活が刺激的だったのは確かであった。
「確かに今の生活はあの頃に比べたら退屈だ。店長やクレナはうるさいし、接客はもちろん荷物運びだってやりたくねぇし」
「そうか…」
「だけど」
そう言ってケビンは机の方に向き直る。酒のせいか心なしか顔が赤くなっている。
「クレナが俺にくっついて回る以上、そうそう戦場にはいけねぇよ。それに最近はこののんびりした生活も悪くはないかと思うようにもなってきた。」
「ほぉう? そいつは驚いたぜ、お前さんは三度の飯より戦いが好きじゃなかったのか?」
「少なくとも、今の生活をする前まではそうだった。けど、いろんな意味であいつが俺を変えたんだよ」
クレナは静かに寝息を立てている。時々なにかを言っているが一体どんな夢を見ているのだろうか。昼寝もしているはずなのにまったくよく眠れる者だとけビンは思った。
「戦場跡の廃屋で見つけたんだっけな?」
「ああ、廃屋で見つけて保護したまでは良かったんだがその後がなぁ。孤児院に預けるのもなんか気が引けたし」
ケビンはぼんやりと天井を見上げる。孤児で傭兵に助けられ、育てられた彼だからこそなにか思うところがあったのだろう。
「まぁ、今後のことはゆっくり考えるといい。すばらしいことにここにはゆっくり考える時間なんていくらでもある」
そういってマッシュは自分の寝室へと入っていく。残されたケビンは再び窓の外の暗い空に浮かぶ月へと目を移した。
「考える時間はいくらでもある、か。確かにな、今はこの静かなひと時をゆっくりと過ごすとするか…」
暖炉の火がパチパチと音を立てながら燃えている。薄暗い小屋の中でケビンは静かにグラスを傾けた。@wikiへ
「あんまり飲むと、明日の仕事に差し支えるぞ?」
寝巻きに着替えながらマッシュは言う。彼は朝早くから仕事があるので毎日早寝早起きの生活している。傭兵をやめて5年も一般人として仕事をこなすようになれば嫌でもそういう習慣が染み付くのだろう。
「…ああ、わかってる」
「恋しくなったか? 傭兵時代のスリリングな生活が」
着替え終わったマッシュは自分の椅子に座りながら言った。スリリングな生活。あるときは貴族の護衛として、あるときは戦争に出る一兵として、あるときは遺跡の探索隊の一員として。そんな危険と隣り合わせの生活が刺激的だったのは確かであった。
「確かに今の生活はあの頃に比べたら退屈だ。店長やクレナはうるさいし、接客はもちろん荷物運びだってやりたくねぇし」
「そうか…」
「だけど」
そう言ってケビンは机の方に向き直る。酒のせいか心なしか顔が赤くなっている。
「クレナが俺にくっついて回る以上、そうそう戦場にはいけねぇよ。それに最近はこののんびりした生活も悪くはないかと思うようにもなってきた。」
「ほぉう? そいつは驚いたぜ、お前さんは三度の飯より戦いが好きじゃなかったのか?」
「少なくとも、今の生活をする前まではそうだった。けど、いろんな意味であいつが俺を変えたんだよ」
クレナは静かに寝息を立てている。時々なにかを言っているが一体どんな夢を見ているのだろうか。昼寝もしているはずなのにまったくよく眠れる者だとけビンは思った。
「戦場跡の廃屋で見つけたんだっけな?」
「ああ、廃屋で見つけて保護したまでは良かったんだがその後がなぁ。孤児院に預けるのもなんか気が引けたし」
ケビンはぼんやりと天井を見上げる。孤児で傭兵に助けられ、育てられた彼だからこそなにか思うところがあったのだろう。
「まぁ、今後のことはゆっくり考えるといい。すばらしいことにここにはゆっくり考える時間なんていくらでもある」
そういってマッシュは自分の寝室へと入っていく。残されたケビンは再び窓の外の暗い空に浮かぶ月へと目を移した。
「考える時間はいくらでもある、か。確かにな、今はこの静かなひと時をゆっくりと過ごすとするか…」
暖炉の火がパチパチと音を立てながら燃えている。薄暗い小屋の中でケビンは静かにグラスを傾けた。@wikiへ