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匿名ユーザー

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 その日、僕は学校から家に帰ると、家路を走ってきたせいで蒸れたスニーカーを脱ぎ捨て、居間にいるであろう母に一言の挨拶もせず、二階の自分の部屋へと向かった。ドアを開けると扉も窓も閉め切っていたせいか熱がこもり、中は軽いサウナ状態になっていた。僕はそのじめじめとした暑さに一瞬苛立ちを覚えながらも、肩にかけたカバンをベッドに放って、汗で濡れたYシャツと長ズボンを脱ぎ捨て素早く私服に着替えた。
さて、ここでの準備は済ませたのでいつものところへ出かける前に、台所へと向かうとしよう。緩い螺旋を描いた階段を下り廊下に足を踏み入れると、微かな冷気が居間のほうから押し寄せてくるのが分かった。僕はそれに誘われるように、居間のほうへと向かった。
居間に入ると、部屋全体を覆う冷ややかとした空気が体全体を包み込んだ。まるでこの家の中で居間だけが唯一の生活空間だとも言えるほど快適な温度だったが(夏場この部屋に入る度に、僕の部屋に何故クーラーがついてないんだろうと落胆するのは毎度のことだ)、僕はそれにゆっくりと浸る間もなく、台所へと向かった。台所の奥のほうに進み、そこに備え付けられた冷蔵庫を開けて、常にストックしてあるペットボトルの烏龍茶とちくわの詰め合わせを袋ごと取り出した。
その場で烏龍茶をラッパ飲みして一気に飲み干し、空になったボトルをゴミ箱に投げ入れて、居間へと再び戻る……居間に入ってからここまでで僅か一分半ほど。我ながらなかなかの好記録だ。僕はそれに満足して気分良く居間へと戻った。と、そこで睨み顔の母(どうやらトイレに行っていたらしい)とばったり出くわした。
「あんたはいつもいつも……帰ってたなら挨拶くらいしなさいよ」
目の前には般若みたいな顔、いや実際目の前には怒りをあらわにした鬼がいたのだが、しかし僕はそれに臆することなくその鬼婆の前を素早く軽やかなステップで通り抜けた。完璧だ。僕はそう確信し、玄関へと急ぎ足で向かった。途中、鬼婆の喚き声が家全体に響き渡ったが、僕は素知らぬ振りをし、スニーカーを素早く履き勢いよく玄関の扉を開けた。
外の景色は先刻とさほど変わらなかった。変化といえば、先程悠然と空を駆け抜けていた飛行機雲が、今はその長いしっぽを薄くして、少し溶けかかっていたり、空がほんの僅か夕暮れの薄い朱色を帯びていたことくらいか。そんな空をほんの少しの間眺めた後、僕は庭に置いてある自転車を取りに向かった。玄関をでて少し右手に進み家の角に沿って曲がり角を曲がるとすぐそこにその姿を捉えた。それは端から見ればお世辞にも格好いいとは言えないだろう。なんせどこにでもあるいわゆるママチャリというやつだったから。でもどんなに不格好なものでも長年使い続ければ愛着は湧くものだ。今ではそのハンドル部分はすっかりゴムをすり減らしながらも、僕の手にすっかり馴染みきっていた。
ストッパーを解除して、身体の重心をサドルに預ける。左足はペダルにかけて、右足のみで地面を蹴り上げながら、狭い庭の通路を抜けて家を出た。@wikiへ

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