[誕生]
ある二つの国がある。
その国の間では昔、戦争があった。
人が死んだ。大量に死んだ。
もう、勝つために戦っているのか、それとも人を殺すために戦っているのか、解らない戦争だった。
ある時、片方の国が特殊な兵器の製作にとりかかった。
その兵器は勝つためではなく、完全に人を殺すために作られ始めた。
兵器が今まで物と違うのは、成長し、兵器自体が考える事であった。
それはまるで生物であった。いや、生物として軍は兵器を作っていった。
兵器はカプセルに入れられ、育っていった。人間の胎児のように。
しかし、カプセルのそれは大きくなるにつれ、おかしな形をしていった。
作っていた科学者達でさえも気分を悪くするような形だった。
ある科学者は言った。
「まさに人殺しの化け物にはピッタリの姿じゃないか。」
しかし、その化け物が世にでる事はなかった。
なぜなら生まれる前に戦争が終わってしまったのである。よって、生物の開発は中止された。
栄養も届けられなかった。そうすれば、その内に死ぬだろうと開発に関わった人間は考えた。
しかし、その考えは間違いであり、兵器は成長し続けた。
そして、それは生まれた。身体は大きく2メートルはある。下半身は蟷螂のようになっており、非常に太い足が6本生えている。上半身は筋肉の上に血管が浮かび上がっている。顔はその大半を異様に膨れ上がった目がある。
軍はそれの始末に困った。
なぜならすぐに殺す事もできない。
本能で死ぬ事も嫌がる。
軍は考えたすえにまだ、赤子並みの知能のそれに少しだけ言葉を教え、この場所から出てはいけないと教えて基地の中に残した。
軍は兵器に、「近い内に向かえに来る。」と言い、研究施設から出て行った。
そして、基地は封鎖された。
それから10年が経った。
軍はその化け物の事を忘れていた。
憶えている者もとうに死んでいると思った。
一応、見張りの隊はあったがサボってばかりで何の役にも立っていなかった。
兵器は忘れられた存在だった。
死んだと言ってもおかしく無い存在だった。
しかし、その兵器は生きていた。
いつまでも、自分を作ってくれた人達が迎えに来てくれるのを待っていた。
ずっと、ずっと。
[生活]
兵器はいつも同じ時間ぐらいに目を覚ます。
(今日は迎えに来てくれるのかな。)
兵器は毎朝、同じ事を思って起きている。
もう10年間同じ朝を迎えたが、兵器はいつも同じ事を思っている。
兵器は裏切られるという事を知らない。
彼の頭脳はまだ子供並みしかない。
兵器は何もかも知らない。
教えてくれる人がいないので、当然と言えば当然だった。
(お腹すいたな~。)
お腹が減っても食事を取る方法も知らなかったし、それを解消する方法も知らない。また、基地の中で食料も無かった。
兵器はつねに空腹という苦しみと共に生きている。
兵器は空腹で重い体を起こし、出来る限り外に近づくと外の音に耳をすませるのが日課になっていた。
兵器は外の音が大好きだった。
鳥の囀り、風の吹く音、木々のざわめき。
自然の音のすべてが彼にとっては心地良い音楽になる。
(外の世界ってどんな世界なんだろう。こんな気持ちのいい音が聞こえるんだから、きっと素晴らしい世界なんだろうな。)
兵器にとって外の世界は憧れだった。
兵器は外の音を1日中聞いているのが、楽しくてしょうがなかった。
ある日、いつものようにその場所で外の音を聞いていると兵器はだれかの声を聞いた。
その声は少し小さかった。
それは兵器が聞いた事の無い声だった。
(迎えの人が来てくれたのかな。)
兵器はドキドキして待った。
しかし、兵器の前に現われたのは1人の少女がだった。
髪の毛は栗色で可愛らしい顔立ちをしている。
兵器を見て、キョトンとしている。
(こんな人、軍の中にいたかな?)
兵器は少女を見つめる。
どう考えても兵器の中に少女の記憶は無い。
少女も兵器を見つめている。
「あなたはだれ?」
やがて少女が兵器に声をかけた。
「僕?僕はここで待っている者だよ。」
「待っているって何を?」
少女は興味深く兵器に聞く。
「僕を作ってくれた人達だよ。」
「作ってくれた人?あなたはだれかに作られたの?」
「うん、そうだよ。その人達が僕を向かえに来てくれるんだ。」
「そうなんだ。あなたの名前は?」
「名前?」
兵器は少女の質問の意味を理解出来なかった。
「名前って何?」
兵器は少女に逆に質問した。
「名前って何って・・・名前は名前よ。あなたにだって名前があるでしょ。」
「名前・・・僕にはそんなの無いよ。」
「名前が無いの!?」
少女は兵器に名前が無いという事に驚いた。
少女の驚いた顔を見て、兵器は名前が無い事がなんだか恥ずかしくなってきた。
「名前が無いって恥ずかしい事なのかな?」
兵器は少女に聞いた。
「う~ん、恥ずしいかどうかは解らないけど、困るじゃない。」
「え、僕は困った事無いよ。」
「そうなの?誰かに呼ばれる時はどうするの?」
「僕、誰にも呼ばれた事無いんだ。」
「え、誰にも呼ばれた事無いって、ここにはあなた以外にはだれもいないの?」
少女の顔は驚きに包まれる。
「うん、そうだよ。」
「あなた、お父さんは?」
「それは何?」
「お母さんは?」
「お母さん?それも知らない。君は色んな言葉を知っていて偉いんだね。」
兵器は少女に微笑んだ。
しかし、少女の顔は段々悲しくなってきた。
「あなたはずっと、ここに1人でいたの?」
「うん、そうだよ。」
「寂しくないの?」
「寂しいって何?」
この言葉を聞いて少女の目から涙が零れ始めた。
目の前にいる者がずっと1人でいるという事が可愛そうでしかたなかった。もしも、少女がもう少し大人であったり、もう少し意地が、いや、普通の考えの持ち主だったらすぐにこの場から逃げ出してしまっていただろう。それだけ、兵器の見た目は気持ち悪かった。しかし、少女は幼く、人を疑ったりする事を知らなかった。
少女は心にまだ何の色も付けられていない、ある意味では異質な女の子だった。
「どうしたの?目から水が零れているよ。」
兵器は涙という言葉も知らなかった。
「う、ううん、何でも無いよ。気にしないで。そうだ、あなた、私とお友達にならない?」
少女は笑顔を作り、兵器に提案した。少女はその提案を自分の考えながら素晴らしい物だと思った。寂しい思いをする者を放って置けなかった。
「お友達って何?ごめんね、さっきから聞いてばかりで。」
兵器は自分の無知が少し嫌になってきていた。もう少し、色んな事を学べばこんな思いはしなくていいのかなと考えていた。
「ううん、気にしないで。そうね、お友達っていうのは仲良く一緒に遊ぶ事よ。」
少女は兵器の質問を嫌がる事無く、ちゃんと答えてあげる。
「遊ぶって何?」
「遊ぶっていうのは凄く楽しい事よ。」
「そうなんだ。うん、いいよ、お友達になろう。」
兵器は楽しい事と聞き、それならばやってみたいと思った。
少女は提案が通った事が嬉しかった。
「よかった。それじゃ遊びましょうか。えっと。何をしようか?」
「僕は何でもいいよ。」
「そうね、それじゃあ。」
少女は考えている。
具体的に何をするかは考えていなかった。
「あ、そうだ。まずは私の自己紹介をしなくちゃ。私の名前はフィリー。年は10才になるの。次はあなたの番だけど、名前が無いのよね?」
「うん、そうだよ。」
「そっか。それじゃ・・・私がつけてもいい?」
フィリーは兵器に首を傾けて聞いた。
「うん、別に構わないよ。」
兵器の答えを聞いてフィリーは笑顔になる。
「やった!えっとね、あなたの名前はね・・・。」
フィリーはまた一生懸命考えている。
フィリーが考えている間、兵器はずっと待っていた。
兵器は人と喋るのは久しぶりなので、ドキドキしていた。
しばらくすると少女はポンと手を叩いた。
「あなたの名前はガーディアンよ。」
「ガーディアン?それはどういう意味?」
兵器はガーディアンという言葉の意味を解らず不思議そうな顔をしている。
「ガーディアンっていうのはね、守護天使って意味。守護天使というのはね、すごく強くて、すごく清い方達の事よ。」
フィリーは笑顔で答えた。
「そうなんだ。それってすごく良い名前なんだね。」
「ええそうよ。気に入ってくれた?」
「うん、もちろん。僕の名前はガーディアン。えっと、年齢は・・・。ねえ、フィリー、年齢って何?」
「年齢っていうのは生まれて何年経ったかってことよ。」
フィリーは優しくガーディアンに教えてあげた。
「そうなんだ。それじゃ、僕の年齢はえっと。」
ガーディアンは少し考えている。月の数え方は昔、軍人に聞いた事があった。どれくらい待てばいいのか、目安にするために。
「うん、僕の年齢は10才だよ。」
「10才なの?それじゃガーディアンは私と同じ年齢なのね。それってすごい事だわ。」
フィリーは嬉しそうな顔になった。
「そっか、僕達は同じ年齢なんだね。」
ガーディアンも嬉しそうな顔になった。
「それじゃ、紹介も終わった事だし、何して遊ぼうか?」
フィリーはガーディアンに聞いた。
「うんとね、う~ん?」
ガーディアンはまた考えている。
「どうしたの、ガーディアン?」
「うんとね、何をして遊んだらいいのか解らないんだ。」
「そっか。それじゃガーディアンは何がしたい?」
「僕のしたい事?僕は・・・色んな事を知りたいな。」
「色んな事?」
フィリーは不思議そうな顔をした。
「うん。僕ね、ずっとここにいたから知らない事がたくさんあるんだ。だから僕は色々な事が知りたい。それにさっきみたいにフィリーに色んな事ばかり聞いているのも恥ずかしいし。」
「そうなんだ。それじゃ、ここから出て色んな所に遊びに行きましょうか。」
「・・・それは駄目だよ。」
ガーディアンは残念そうな顔をした。
「え、どうして?」
「だって僕はここから出ちゃいけないんだ。僕を作ってくれた人達がここから出ちゃ駄目って言ったんだ。」
ガーディアンの顔は悲しみに変わった。
「そうなんだ。それじゃ、しょうがないわね。そうすると・・・そうだ!」
フィリーが手をポンと叩く。
「本を読みましょう。」
「本?」
「そう、本。本には色んな事が書いてあるから色んな事を知れるわ。」
「そうなんだ!その本はどこにあるの?」
「私のお家には本がたくさんあるから持って来てあげる。」
「本当に!フィリー、ありがとう。」
ガーディアンは嬉しかった。
それは本を貸してもらえるという喜びとは別に人の温かさを知った喜びも入った喜びだった。
「どういたしまして。それじゃ今日は本が無いから変わりに色んなお話をしてあげる。何か聞きたい事はある?」
「えっと、それじゃぁ、外の世界の話を聞きたい。」
「わかった。」
少女はガーディアンに外の世界について聞かせてあげた。
この基地の近くには、森がある事や、フィリーが住んでいる町の話、またフィリーの家族の話もしてあげた。それはガーディアンにとって、非常に楽しい物ばかりだった。
そして、時間はあっという間に過ぎて行った。
「あれ、もう随分時間が経ってしまったみたいね。今日はもう遅いからまた明日、本を持って来るね。」
「うん、お願い。」
「それじゃ、バイバイ。」
「ばいばい?」
「あ、バイバイっていうのは、お別れの挨拶でもあり、また会いましょうっていう意味よ。」
「そうなんだ。それじゃフィリー、バイバイ。」
「うん、バイバイ。また明日ね。」
フィリーは笑顔で手を振って帰って行った。
ガーディアンはフィリーが見えなくなるまで手を振り続けた。
[友人]
翌日、早い時間からフィリーはリュックサックを背負ってやってきた。
ガーディアンはフィリーが来たのに気付くと近寄った。
「おはよう、ガーディアン。」
「おはよう、フィリー。」
ガーディアンはフィリーの姿を見ると、とても嬉しそうな顔になった。
「ガーディアン、お腹空いてる?」
「お腹?うん、何も食べてない。」
「そう、それじゃ、これを食べて。」
フィリーはそういうと鞄から林檎とパンを取り出した。
「これは何?」
ガーディアンは珍しそうに食べ物を見た。
「林檎とパンよ。とっても美味しいの。」
「へー。」
ガーディアンは林檎を手に取り食べようとした。
「ダメ!」
それを見たフィリーはガーディアンを怒った。
「え。」
「ご飯を食べる前にちゃんと頂きますをしないといけないでしょ。」
「・・・いただきますって何?」
「あ、そっか。ガーディアン知らないのね。それじゃ私が教えるわ。」
そう言ってフィリーは両手を合わせた。
「はい、ガーディアンもして。」
「う、うん。」
ガーディアンは戸惑いながらも真似をする
「そう。そしていただきますっていうのよ。はい、やってみて。」
「うん。えっと、いただきます。」
「それでいいわ。ご飯をたべる前にはこれをしないといけないの。」
「うん、わかった。」
「はい、それじゃ、ガーディアン食べて。」
「うん、ありがとう。」
ガーディアンは林檎を手にすると一口で食べた。
そして、顔には喜びが表れる。
「フィリー、これ食べるとなんて言うんだろう、凄く嬉しくなる。」
「うんと、それはきっと美味しいからよ。」
「そうなんだ。美味しいと嬉しくなるんだ。」
「うん、それであってると思うわ。あと、その林檎は私の家の庭に生えてる林檎なの。今度来る時はもっと持って来てあげるね。」
「うん、ありがとう。」
「それじゃ、パンも食べて。」
「うん。」
ガーディアンはパンも一口で食べた。
「これもすごく美味しいよ、フィリー。」
「よかった。そのパンはママの手作りなの。さ、ご飯を食べ終わったらご馳走様をしなくちゃ。さっきのように手を合わせて。」
ガーディアンはフィリーの言う通りに手を合わせた。
「はい、それでご馳走様っていうのよ。」
「うん、ごちそうさま。これでいいの?」
「うん、よくできました。あ、そうだ。ガーディアン、昨日聞くのを忘れてしまっていたんだけど、あなたは文字って知っている?」
「ううん、知らない。」
「そっか。それじゃ、私が本を読んであげるわね。」
フィリーは鞄の中から絵本を取り出した。
「あ、持って来てくれたんだ。ありがとう。」
ガーディアンを売れしそうに絵本を見ている。
「これはね、絵本っていうの。だれでも最初はこの絵本から読むのよ。これは私が小さい頃にお母さんが読んでくれた物で『勇者の物語』っていうんだよ。私が今から読んであげるね。」
フィリーはガーディアンに見えるにするため、隣に座って本を開いた。
「はい、ガーディアン、ここに座って。」
フィリーは自分のとなりをポンポンと叩いた。
「うん。」
ガーディアンはゆっくりとフィリーの隣に座った。
「それじゃ、読むわよ。」
フィリーはゆっくりと読み始めた。
この『勇者の物語』という話は昔、ある王国に現れた化け物がその国のお姫様を誘拐してしまう。国民みんなが困っているとある勇者が現れて化け物を倒し、お姫様を助け出し、ハッピーエンドに終わるというどこにでもありそうな話だった。
「どうガーディアン、面白かった?」
フィリーはガーディアンの方を見て聞いた。
「うん、楽しかった。所でさ、僕、気になったんだけど化け物って何?」
「化け物?う~ん、化け物っていうのは、強くて恐い物よ。」
「へー、恐いんだ。会いたくないな。」
ガーディアンは怖がった。
「あれ、ガーディアン恐いの?」
フィリーはガーディアンをからかうように言った。
「そ、そんな事無いよ。」
ガーディアンはからかわれたのが恥ずかしかった。
だから、誤魔化すために強がった。
「えー、私には怖がってたように見えたけど。」
「だから、そんな事無いって!だって、僕強いんだもん!」
「へー、そうなんだ。どれくらい強いの?」
「とっても強いんだよ。だって僕を作ってくれた人が僕がとっても強いって言ってたもん。」
「そうなんだ。ガーディアンって凄いんだね。」
「うん、僕はすごいんだよ。」
ガーディアンは少し見得をはった。
「それじゃ、私が恐い人達に捕まったら助けてくれる?」
「うん、絶対に助けてあげる。」
ガーディアンは笑顔で答えた。
「ありがと。ガーディアン、大好き。」
フィリーの言葉にガーディアンの心が何だか暖かくなったような気がした。
「あれ、ガーディアンどうしたの?ぼーっとしちゃって?」
様子が変わったガーディアンに対して困惑した表情をするフィリー。
「え、ううん、何でも無いよ。」
今の自分の変な気持ちをフィリーに説明のしようが無いので、首を振るガーディアン。
「そう?あ、次はこの本を読みましょうか。」
そう言ってフィリーは鞄の中から別の絵本を出した。
こうして二人は遅くなるまで本を読んだ。
ガーディアンが気に入った本があると、フィリーは喜んでその本を貸してあげた。
そして、ある程度の時間になるとフィリーは帰っていく。
そのような二人にとって楽しい日々が続いた。
そんなある日。
そフィリーがガーディアンのいる基地に来るとガーディアンはいつも以上にニコニコしていた。
「どうしたの、ガーディアン?今日はいつも以上に嬉しそうね。」
「うん、実はね、フィリーに聞いて欲しい事があるんだ。」
ガーディアンはそう言って一番最初に読み、そしてフィリーから貸してもらった『勇者の物語』を取り出した。
フィリーは何をするのかと思っているとガーディアンは本を開いた。
「むかしむかしあるしあわせなくにがありました。」
そして、その本をガーディアンは読み出した。
「え!ガーディアン、読めるの?」
フィリーがその光景を見て驚く。
「うん!」
ガーディアンは嬉しそうに頷いた。
「すごいわよ、ガーディアン。私はその本を自分で読むのに、時間がかかったのに。ガーディアンは頭がいいのね。」
フィリーも嬉しそうにしている。
「へへへ。これだけじゃないよ。他にも色々読めるようになったんだ。フィリーが帰った後、ずっと文字を覚える練習してたんだ。」
「すごいすごい。ガーディアン、もっと聞かせて。」
「うん、いいよ。そのくににはとてもきれいなおひめさまがいました・・・」
ガーディアンはその続きもちゃんと読んでいった。
それはとても遅かったが、しっかりとガーディアンは読んでいった。
そして、読み終わるとガーディアンは嬉しそうにフィリーの方を見た。
フィリーの顔は喜びに満ちていた。
ガーディアンが1つの事を達成したのが、嬉しくてしょうがなかった。
「ガーディアン、本当にすごい。それじゃ、今度来る時はもっと色んな本を持って来てあげるね。」
「本当?僕、嬉しいな。」
ガーディアンはとても喜んでいる。ガーディアンが喜ぶとなぜかフィリーも嬉しかった。
「そうだ!ガーディアン、あなたにお勉強の道具を貸してあげるわ!」
「お勉強?」
「うん、私は学校で使っていた物よ。それを使えばあなたはもっと賢く慣れるわ。」
「本当!フィリー、僕とっても嬉しいよ!」
「ふふ、なんだか今日はガーディアン、ずっと笑顔ね。」
「うん、僕とっても嬉しいんだ。」
「そうなんだ。それじゃ、ガーディアン、他の読める本も読んでもらっていい?」
「うん、もちろんだよ。それじゃ、次はこれを読もう。」
ガーディアンは違う本を出し読み出した。
フィリーはずっとそれを楽しそうに聞き続けた。
それは二人が遊べる時間ぎりぎりまで続けられた。
「・・・こうしてみんなはしあわせにくらしましたとさめでたしめでたし。」
結局ガーディアンはフィリーに貸して貰った本を全部読んでしまった。
「ガーディアン、本当に凄い!全部読んじゃったわ。」
「へへ。フィリーに誉めてもらえると僕嬉しいよ。」
ガーディアンは相変わらず嬉しそうに笑っている。
「そう?そう言われると私も嬉しいわ。」
フィリーもニコニコしている。
その時、フィリーが外を見た。そこから見ると外は暗くなり始めていた。
「あ、もう空が暗くなってきてる。遅いから私もう帰るね。」
「あ、本当だ。ごめんね、なんだか僕がずっと本読み続けちゃって。」
ガーディアンがすまなさそうな顔をする。
「いいのよ、ガーディアン。私もすごく楽しかったわ。」
「本当、よかった。」
ガーディアンは安心したように笑った。
「ふふ、ガーディアン心配し過ぎよ。それじゃ、明日、本や勉強道具を持ってくるわね。」
「うん!」
ガーディアン嬉しそうに頷いた。
「それじゃバイバイ、ガーディアン。」
「うん、バイバイ、フィリー」
二人は手を振り合って別れた。
フィリーが去った後、ガーディアンはさっきまで読んでいた本を拾った。
「嬉しいな、僕もっと賢くなれるんだ。賢くなったらまたフィリーが喜んでくれる。よし、一生懸命勉強しよっと!」
ガーディアンは嬉しそうに決意した。
翌日になるとフィリーはたくさんの本と必要な勉強道具も持って来た。
「さ、ガーディアン、これでたくさん勉強しましょうね。」
フィリーは勉強道具や新しく持って来た本をガーディアンに見せた。
「うわー!フィリーありがとう。」
ガーディアンは興味深くそれを見ていった。
「それじゃ、ガーディアン、まず本を読んであげるわ。そして言葉を覚えましょう。」
「うん、わかった!。」
ガーディアンは元気に挨拶した。
それから、二人は遊ぶかわりに勉強をしていった。というより、二人にとって勉強する事が遊ぶ事のようになっていった。
来る日も来る日も二人は仲良く勉強した。
ガーディアンはフィリーが喜んでくれるのが嬉しいし、フィリーはガーディアンがどんどん頭が良くなっていくのが嬉しかった。
ある日の事だ。
フィリーが帰った後、ガーディアンは1人で本を読んでいた。
ガーディアンの知能の発達は素晴らしくどんどん上達していった。もう1人で色んなほんを読めるようになっていったし、フィリーが持ってくる本はガーディアンにとって大変興味深く面白い物ばかりだった。
その日もガーディアンはフィリーから借りたばかりの本の中から何を読もうか迷っていた。そして、「魔物大全」なる本を読んでいった。
中身は世界各地にある民話などから集めた魔物や化け物を載せている子供向けの本だ。
「よし、今日はこれを読もう。」
ガーディアンはページを捲り始めた。
しばらくガーディアンは楽しそうに本を読んでいた。
しかし、あるページに来るとその手が止まった。
「あれ?」
ページに書いてあるのはガーディアンとよく似ていた。
6本の脚、異常に膨れ上がった両腕、片目のみ大きくなっている顔、全てが似ていた。
似ていたのは偶然であろう。しかし、ガーディアンの顔はどんどん曇っていく。
ガーディアンの頭にフィリーの言葉が過ぎる。
「化け物っていうのは、強くて恐い物よ。」
(恐い物、僕って恐い物なの?)
ガーディアンの頭の中はフィリーの言葉で一杯になっていく。
必死になって自分が化け物というのを否定しようとするが、まったく消えなかった。
ガーディアンは初めて自分という存在の意味を考えた。
ガーディアンは軍が撤去しなかった鏡を見た。
そこに映っているのは、本に描かれている化け物と同じような格好の自分。
フィリーは凄くかわいいとガーディアンは思った。
(それに比べて僕の姿と言ったら。)
鏡に映るその姿は黒く、汚れた存在だった。
結局どれだけ考えてもガーディアンの心と頭が晴れる事は無かった。そして、ガーディアンはこの事は考えない事にした。
そうしないと自分が潰れてしまいそうになってしまうから。
それから数日たったある日。
ガーディアンとフィリーはその日も一緒に勉強していた。ガーディアンが頭がよくなる速さは相変わらず早く、ついにはフィリーを超えてしまっていた。
「ガーディアン、あなたすごいわ。」
フィリーはガーディアンを尊敬の目で見るようになってきている。
「そんな事無いよ。フィリーの教え方が上手いんだよ。」
ガーディアンは誉められて恥ずかしがっている。
「ううん、もう私ぐらいなら頭の良さを超えちゃってるもん。」
「え。」
フィリーの言葉を聞くとガーディアンが悲しそうな顔をした。
「どうしたの、ガーディアン。何だか悲しそうよ?」
ガーディアンの変化をフィリーはすぐに気付いた。普通の人なら解らないような変化だったがフィリーはすぐにそれが解るくらいに仲良くなっていた。
「そんな事ないよ。」
「ううん、すごく悲しそう。」
ガーディアンは誤魔化そうとしたが、フィリーが悲しそうな顔をしているのを見ると話さないといけないと思った。しかし、今の悩みをフィリーには言いたく無かった。
自分の頭の良くなる速さは異常なのでは無いだろうか。それは自分が化け物だからじゃないだろうか、と。
「うんとね、何だか恐いんだ。」
「恐い?」
「僕、フィリーに色んな事を教えてもらった。最初はすごく楽しかった。でもね、最近なんだか恐いんだ。今までフィリーが前にいてくれたのに、これからは自分で勉強しないといけない。だれも教えてくれないのがすごく恐いんだ。」
結局ガーディアンは正直には言えなかった。どこかで嘘を言っている自分に対して負い目を感じた。
そんなガーディアンの手にフィリーは自分の手を乗せた。
「フィリー?」
ガーディアンはフィリーの行動に驚いた。フィリーと手を握ったのは初めてだった。
「大丈夫だよ、ガーディアン。ガーディアンのそばには私がずっと居るよ。」
フィリーはガーディアンに微笑みながら言った。
「フィリー。・・・うん、ありがとう。」
ガーディアンはフィリーを安心させるようににっこりと笑った。
それはフィリーを安心させるための嘘の笑顔だった。
「よかった、ガーディアンが笑ってくれて。」
フィリーは安心するように言った。
その言葉は嘘をついているガーディアンにとって、重い十字架のように乗りかかった。
「フィリーは僕の笑顔を見るのは嬉しい?」
「ええ、ガーディアンの笑顔、大好き。」
「そっか。じゃあ、僕、フィリーのためにずっと笑顔でいるよ。」
「え、ありがとう。でも、無理しなくてもいいのよ。」
フィリーは心配そうに言った。
「ううん、僕はフィリーが嬉しそうにしているのが大好きなんだ。」
ガーディアンは笑った。
「それなら安心して。私はガーディアンと話せていれたらそれでとっても嬉しいわ。」
「そう、なんだ。うん、それは僕も同じだよ。」
二人は一緒にニッコリと笑った。
「そうだ。実はね、お父さんがいっぱい本を持っているの。お父さんに頼んだら本を貸してくれるかもしれないわ。」
フィリーは良い事を思いついたという表情で言った。実際問題、今までのガーディアンならば、とても喜んだだろう。
しかし、今のガーディアンは違った。
「え、でも。」
ガーディアンは困ってしまっている。
「あれ、ガーディアン嬉しくないの?」
フィリーはガーディアンが喜んでくれると思った。しかし、逆に困ってしまったのを見て少しショックだった。
「いや、すごく嬉しいんだけど、でもお願いがあるんだ。」
「何?」
「えっとね、お父さんにに貸して貰う時に僕の事は内緒にして欲しいんだ?」
ガーディアンの恐れている事は自分の正体がフィリー以外に知れてしまう事だった。
「どうして?」
ガーディアンの気持ちをわからないフィリーはなぜ内緒にしないといけないのか解らず、困惑して聞いてくる。
しかし、ガーディアンは答える事はできない。
ここで自分の事が化け物だからだと言うとフィリーに嫌われてしまうような気がしたからだった。
「うーん、わかったわ。それじゃ、内緒で借りてくるわね。」
「うん、ありがとう。」
ガーディアンはその言葉を聞いて安心した。
「それじゃ、今日はもう遅いから私、帰るわね。」
「うん、解った。それじゃ、帰り道には気をつけてね。」
「ええ、それじゃ明日本を持って来るから楽しみにしててね。」
「ありがとう。それじゃ、バイバイ、フィリー。」
「ええ、また明日。」
フィリーはお別れの言葉を言うと出て行く。ガーディアンはそれを見送っていく。
翌日、ガーディアンは基地の中をウロウロしていた。
何時もならフィリーは来ているはずの時間になってもフィリーは遊びに来ないからだった。
ガーディアンは心配になる。自分は嫌われてしまったのでは無いか、自分の見た目の気持ち悪さにフィリーは逃げてしまったんじゃか、と。
そんな事を考えているとガーディアンの目に涙が浮かび始める。
しかし、そんな考えは杞憂に終わる。
「ガーディアン、おはよう。」
フィリーはいつもの笑顔で現われた。
「あ。フィリーよかった。今日は遅かったんだね。」
「うん、寝坊しちゃったの。あれ、ガーディアンったら泣いてたの?」
フィリーはガーディアンの目にある雫を見つけ少し驚く。
「うん、少し。」
「大丈夫?何か嫌な事でもあったの?」
フィリーは心配そうに聞いた。しかし、ガーディアンは答えられない。
「なんでも無いんだ。ただ、少し恐い夢を見ただけ。」
「そう?それだったらいいけど。もしも何かあったら私にそうだんしてね、友達なんだから。」
フィリーは信用しようとは思うのだが、目の前にいる友人の涙が気になってしょうがなかった。ガーディアンにとってはフィリーの気持ちは嬉しかった。嬉しかったが、怖くもあった。何時かその優しさが無くなって、自分のような化け物に対して誰もが思うであろう、気持ち悪い物を見る目で見られてしまうんじゃないかと心配になった。
(もしも、もしも本当にフィリーが目の前から消えてしまったら。)
そう思うだけで潰されてしまいそうだった。
だから、ガーディアンは変えてしまった。
今までは楽しむ事に比重を傾けていた。しかし、フィリーに嫌われない事に比重を置いて遊ぶようになっていった。
つねにフィリーの顔を見て遊ぶ。そんな事を続けていった。
それはフィリーにとって凄く嫌な事になってしまった。
ガーディアンが楽しんでいないのが苦痛だった。
ある日、フィリーはガーディアンに我慢出来ずに聞いた。
「ねえ、ガーディアン、何だか最近おかしいわよ?」
「え、おかしいって何が?」
ガーディアンはキョトンとした顔をしてフィリーを見た。
「だって本当に変なんだもん!前まではガーディアンはすごく楽しそうにしてた。でも最近はなんだか全然楽しそうじゃない!」
「え。」
叫ぶフィリーの目には涙が浮かんでいる。
ガーディアンは目を静かに反らすしかできない。
「ねえ、何で目を反らすの!なんで!私の事を嫌いになったの!」
「・・・そんな事無い。」
小さな声でしかガーディアンは答えられない。
「それじゃ、どうして?私、解らない。どうすればガーディアンは元に戻ってくれるの?」
ガーディアンは答えようとはしなかった。
「ねえ、何で黙ってるの!答えてよ、ガーディアン。ねえ、私達は友達なんでしょ。」
「・・・嫌われたくなかった。」
今にも消えそうな声でガーディアンは答えた。
「え、どういう意味?」
予想だにしない答えにフィリーは困惑する。
「君に、フィリーに嫌われたくなかった。」
「なんで?どうして私がガーディアンを嫌いにならなくちゃいけないの?」
「僕が、化け物だからだよ。」
「え?」
フィリーにはなぜガーディアンが化け物なのか、理解できなかった。
「だってさ、君と僕は姿が全然違うんだもん。」
ガーディアンはフィリーの顔を見て、何を理解できていないのかを悟り、自嘲しながら答えた。
「そんなの、皆が同じ姿のわけ無いじゃない。」
「そう意味じゃないよ。生き物としてもうすでに違うんだよ。君の脚は走るための脚。僕の足はきっと人を怖がらせるために走る脚。君の手は人を助ける手。僕の手はきっと人を怖がらせるための手。君の顔は人を笑顔にさせる顔。僕の顔は、顔はきっと人を恐怖させるために存在しているんだ。」
ガーディアンは苦しそうに答えた。そんなガーディアンを見てフィリーも心が苦しくなっていった。それでも、解らなかった。どんなに言われてもフィリーにとってガーディアンは化け物などでは無く、友達だった。
「やっぱり、やっぱり解らないよ。何で、それで私がガーディアンの事を嫌いにならなきゃいけないの?私にはわからない!」
フィリーは怒鳴った。彼女があともう少し大人だったらガーディアンの言っている事が理解できたかもしれない。いや、あと少し大人だったらガーディアンに近付こうとすら思わなかっただろう。しかし、フィリーはガーディアンに出会った。
「解らない、か。そう、だろうね。多分フィリーには解らないと思う。僕のような姿に生まれてしまった者の気持ちなんて。」
下を向き、愚痴るようにガーディアンは言葉を吐いた。
その言葉にフィリーは怒りを感じた。その怒りの元が何なのか、フィリー自身にも解らない。何も解らない自分になのか、急に態度を変えたガーディアンなのか、それとも、ガーディアンの吐いた言葉になのか。あえて言うなら、その全てにフィリーは怒りを感じたのだろう。
「なんのよそれ!結局ガーディアンは私の事を信じられないだけなんでしょ!」
フィリーの言葉はガーディアンの胸に突き刺さった。
顔を上げ、フィリーの顔を見た。その顔は悲しそうに怒っていた。
ガーディアンは思った。そして理解した。
そういえば、フィリーの顔をちゃんと見たのは久しぶな、と。
ガーディアンはずっとフィリーの事を考えているつもりでいた。でも、本当は、自分自身の事だけしか考えていなかったのだと。
その結果がこれだった。
目の前にいる、もっとも自分と仲良くしてくれる少女は自分のせいで泣かせてしまった。
「ガーディアンのばか!」
フィリーは叫ぶと走って基地から出て行ってしまった。
ガーディアンは追いかける事は出来なかった。どうすればいいのか解らなかった。
彼には力無く座り込むしか出来なかった。
「・・・やっぱり僕って馬鹿だな。一生懸命勉強したつもりだったのに、一番大切な事を守る事も出来なかった。本当に何をしてきたんだろう。」
ガーディアンの目から一筋の雫が零れた。
[危機]
フィリーが基地から出た時、それを双眼鏡で覗いている人物がいた。彼の仕事はガーディアンのいる基地の見張り。だが、サボってばかりいる。いつもは雑誌を読んでいるくらいだ。ただ、この日だけは偶々、偶然、暇つぶしにちゃんと仕事をした。そんな彼の目に飛び込んできた光景はもっとも気をつけなければならない化け物のいる基地から少女が走って行く姿。
彼の頭の中には様々な考えが過ぎる。
その中でもっとも嫌な事は少女が村に戻り、見た化け物の事を言い広める事だ。化け物の事が広まったら軍に対するバッシングは凄い物になるだろう。彼は走り、すぐに上司の元に向かった。上司と言ってもここに配属されているのは、たったの5人だけだった。装備も大した事は無い。言わば、ここは軍でも左遷された者達が来る場所だった。
話を聞いた上司の顔が真青になる。このままでは、責任を取らされて極刑にされる可能性も少なくは無い。
上司はしばらく考えた後、顔を上げて命令した。
「あの少女を殺せ。すぐに捕まえてな。」
5人は出来る限りの装備を済ませると車に乗り、走り出した。
フィリーは基地を出ると涙を流しながら走った。ただただ走った。ある程度走った後、疲れてその場に座った。だが、涙は出続けてしまった。自分が言いたかった言葉はあんな言葉では無かった。ただ、ガーディアンと楽しく遊び続けたいだけだったのに。
彼女は俯いて、泣き続けた。
だから、近づいて来る殺意の集った車に気付く事は無かった。
フィリーは急に腕を捕まれた。
腕を掴んだ軍服の男が別の男に言った。
「隊長、この少女です。間違いありません。」
「そうか、ここで事を済ませたら問題だ。基地に連れて行くぞ。」
男は無理矢理フィリーを車に乗せようとする。
フィリーは今まで感じた事の無い恐怖に包まれた。そして思った。ガーディアンは化け物なんかじゃない。あんな優しい目が化け物のわけが無い。だけど、今、この目の前にいる人達は化け物だ。こんな恐い目をフィリーは見た事が無かった。
「助けて!ガーディアン!」
フィリーは力一杯叫んだ。彼の耳に聞こえるとは思わなかった。ただ、ガーディアンの事しか思い浮かばなかった。
なんとか逃れようとフィリーは精一杯暴れた。
「隊長、暴れてますけどどうしましょうか。」
「これでも、飲ませろ。」
隊長は薬を出し、部下に渡した。
「即効性の睡眠薬だ。」
渡された部下はフィリーに無理矢理薬を飲ませた。
フィリーは暴れようとするが、急激な眠りが体を襲った。少しづつ目が閉じていった。
ガーディアンの事を考えながら。
ガーディアンは悲しみで動こうとしなかった。何もしようとはしなかった。何もしたくなかった。
そんなガーディアンの耳にフィリーの悲鳴が聞こえた。
「・・・フィリー?」
自分の名前を叫ぶフィリーの声が。
彼の兵器として作られた耳は非常に優秀だった。
しかし、ガーディアンはその声を信用出来なかった。先ほどの事を考えたら自分の都合の良い空耳にしか思えなかった。
その声の特徴を考えるまでは。
ふと、気付いた。聞こえて来たフィリーの声は恐怖に包まれていた。フィリーはガーディアンの前でこんな声を出した事など無かった。
ガーディアンは立ち上がった。基地の出口に近付いた。
その出口は創造主が絶対に出てはいけないと言われた物だった。
彼は笑った。
そんな言葉は関係無い。ガーディアンはフィリーの笑顔を思い出し、あの約束を思い出した。
フィリーを守るという約束。
「今度は決して間違えない。」
ガーディアンは自分を捨てた創造主より、自分の近くに居てくれた友人の方が大切だった。
ガーディアンは勢いよく飛び出した。友人を助けるために。
フィリーを乗せた車は監視基地に着いた。そして、眠っているフィリーを兵士は降ろし、基地内部に入れた。
「どうしましょうか、この子。」
「刺すか?」
「さすがに刺し殺すとかは嫌ですね。」
「銃で撃っとけ。ちょうどいい実践訓練だ。」
「了解しました、隊長。」
兵士は皆、銃口をフィリーに向けた。
そして、ゆっくりとトリガーを引いた。
その瞬間、フィリーを守るように大きな塊が降って来た。
その塊を見て男達は青ざめた。
「・・・化け物。」
彼らの目には銃弾が当り、血だらけになった化け物がいた。
「殺せ!」
隊長が号令すると、ボケッとしていた兵士達が銃を構えようとした。
しかし、それよりも先にガーディアン達がその腕を振った。
兵士達の頭は胴体から外れた。
それを隊長は最初、何が怒ったのか理解できなかった。そして、理解すると、焦り始めた。
1人では、こいつに勝てるわけが無いと。
ガーディアンはゆっくりと隊長に近付いていく。憎しみを込めた目を隊長に向け、恐怖を浴びせていく。
隊長は考えた。生きるために必死に考えた。その時、気付いた。ガーディアンがフィリーを守ろうとした事を。
隊長を銃を向けるとフィリーに向かって撃った。ガーディアンはフィリーを守るためにその銃弾を喰らった。
隊長はニヤリと笑った。
「そうか、お前はその子を守りたいのか。」
隊長は銃弾を撃ちまくった。ガーディアンはフィリーのために決してよけようとはしない。攻撃をしたくても、隊長は攻撃がギリギリ届かない距離から動かない。
銃弾を浴びている内に少しづつ体が下がって行く。
やがて、完全に体を下げ、生気は無くなり、目を瞑った。
「ククク、ハハハハハハハハ!化け物が人間に頭で勝てるわけないだろうが。」
隊長は進むとガーディアンを避け、フィリーの前に立った。
「さてと、あとはこの子を殺すだけか。」
隊長は銃をフィリーに向けた。
その時、ガーディアンが目を開け、隊長の頭を掴んだ。
「え?」
隊長は何が起きたのか理解できなかった。
ガーディアンは手を引っ張ってフィリーから隊長を引き離すと、その頭を握り潰した。
フィリーに血がかからないように気をつけながら。
ガーディアンは体を引きずりながら、手を洗える所を捜すと手を洗った。
そして、フィリーのいた場所に戻るとフィリーに血が付かないように気をつけながら自分の帰るべき基地に戻った。
[死]
フィリーはゆっくりと目を開けた。まだ、頭は覚醒しきっていない、変な気分だった。
目の前にはガーディアンは居た。優しく笑っていた。
「おはよう、フィリー。」
ガーディアンは優しく呼びかけた。
「おはようガーディアン。私ね、さっき凄い恐い人達を見たの。」
「そっか。でももう大丈夫だよ。」
「ガーディアン、あなたが助けてくれたの?」
「うん、そうだよ。」
「そっか、ありがとうガーディアン。」
「ううん、だって約束したじゃないか。フィリーが危険な目にあったら助けるって。」
「そういえば、そんな約束をしたわね。あと、ごめんね、ガーディアン。嫌いなんて言っちゃって。」
「大丈夫だよ。本当は僕が謝らないといけないんだ。僕は自分の事しか考えていなかった。ごめんね。それともし、よければこれからも遊んでくれないかな。」
ガーディアンは心配そうな顔になった。
そんな顔を見てフィリーは笑った。
「もちろん。私の方こそお願いするわ。」
「そっか、よかった。ありがとう、フィリー。」
「そうね、本当によかった。」
そう言った後、フィリーは眠気に耐え切れず、目蓋を閉じた。
安心した笑顔をして。
そんな笑顔を見て、ガーディアンは笑顔のまま、ゆっくりと倒れていった。
[それから]
軍は化け物が消えている事と監視役の兵士が殺されている事を調べた。
結果、兵士達の近くに化け物の物と見られる血を見つけた。これだけ流れているのなら死んでいるだろうとし、この事を闇に消した。
そして、月日が流れた。
昔、少女だった女性が歩いていた。
ある場所を目指して。
しばらく歩き、人は絶対に来ないような場所に。
そこには、1匹の見たこともない生命体がいた。
女性が生命体に近づいて来る。
生命体の脚は女性を助けに行くために走る脚。
生命体が女性に気付き、笑顔になる。
生命体の手は女性を守るための手。
2人は近づいていく
生命体の顔は女性を安心させるための顔。
「こんにちは、フィリー。」
「こんにちは、ガーディアン。」
ある二つの国がある。
その国の間では昔、戦争があった。
人が死んだ。大量に死んだ。
もう、勝つために戦っているのか、それとも人を殺すために戦っているのか、解らない戦争だった。
ある時、片方の国が特殊な兵器の製作にとりかかった。
その兵器は勝つためではなく、完全に人を殺すために作られ始めた。
兵器が今まで物と違うのは、成長し、兵器自体が考える事であった。
それはまるで生物であった。いや、生物として軍は兵器を作っていった。
兵器はカプセルに入れられ、育っていった。人間の胎児のように。
しかし、カプセルのそれは大きくなるにつれ、おかしな形をしていった。
作っていた科学者達でさえも気分を悪くするような形だった。
ある科学者は言った。
「まさに人殺しの化け物にはピッタリの姿じゃないか。」
しかし、その化け物が世にでる事はなかった。
なぜなら生まれる前に戦争が終わってしまったのである。よって、生物の開発は中止された。
栄養も届けられなかった。そうすれば、その内に死ぬだろうと開発に関わった人間は考えた。
しかし、その考えは間違いであり、兵器は成長し続けた。
そして、それは生まれた。身体は大きく2メートルはある。下半身は蟷螂のようになっており、非常に太い足が6本生えている。上半身は筋肉の上に血管が浮かび上がっている。顔はその大半を異様に膨れ上がった目がある。
軍はそれの始末に困った。
なぜならすぐに殺す事もできない。
本能で死ぬ事も嫌がる。
軍は考えたすえにまだ、赤子並みの知能のそれに少しだけ言葉を教え、この場所から出てはいけないと教えて基地の中に残した。
軍は兵器に、「近い内に向かえに来る。」と言い、研究施設から出て行った。
そして、基地は封鎖された。
それから10年が経った。
軍はその化け物の事を忘れていた。
憶えている者もとうに死んでいると思った。
一応、見張りの隊はあったがサボってばかりで何の役にも立っていなかった。
兵器は忘れられた存在だった。
死んだと言ってもおかしく無い存在だった。
しかし、その兵器は生きていた。
いつまでも、自分を作ってくれた人達が迎えに来てくれるのを待っていた。
ずっと、ずっと。
[生活]
兵器はいつも同じ時間ぐらいに目を覚ます。
(今日は迎えに来てくれるのかな。)
兵器は毎朝、同じ事を思って起きている。
もう10年間同じ朝を迎えたが、兵器はいつも同じ事を思っている。
兵器は裏切られるという事を知らない。
彼の頭脳はまだ子供並みしかない。
兵器は何もかも知らない。
教えてくれる人がいないので、当然と言えば当然だった。
(お腹すいたな~。)
お腹が減っても食事を取る方法も知らなかったし、それを解消する方法も知らない。また、基地の中で食料も無かった。
兵器はつねに空腹という苦しみと共に生きている。
兵器は空腹で重い体を起こし、出来る限り外に近づくと外の音に耳をすませるのが日課になっていた。
兵器は外の音が大好きだった。
鳥の囀り、風の吹く音、木々のざわめき。
自然の音のすべてが彼にとっては心地良い音楽になる。
(外の世界ってどんな世界なんだろう。こんな気持ちのいい音が聞こえるんだから、きっと素晴らしい世界なんだろうな。)
兵器にとって外の世界は憧れだった。
兵器は外の音を1日中聞いているのが、楽しくてしょうがなかった。
ある日、いつものようにその場所で外の音を聞いていると兵器はだれかの声を聞いた。
その声は少し小さかった。
それは兵器が聞いた事の無い声だった。
(迎えの人が来てくれたのかな。)
兵器はドキドキして待った。
しかし、兵器の前に現われたのは1人の少女がだった。
髪の毛は栗色で可愛らしい顔立ちをしている。
兵器を見て、キョトンとしている。
(こんな人、軍の中にいたかな?)
兵器は少女を見つめる。
どう考えても兵器の中に少女の記憶は無い。
少女も兵器を見つめている。
「あなたはだれ?」
やがて少女が兵器に声をかけた。
「僕?僕はここで待っている者だよ。」
「待っているって何を?」
少女は興味深く兵器に聞く。
「僕を作ってくれた人達だよ。」
「作ってくれた人?あなたはだれかに作られたの?」
「うん、そうだよ。その人達が僕を向かえに来てくれるんだ。」
「そうなんだ。あなたの名前は?」
「名前?」
兵器は少女の質問の意味を理解出来なかった。
「名前って何?」
兵器は少女に逆に質問した。
「名前って何って・・・名前は名前よ。あなたにだって名前があるでしょ。」
「名前・・・僕にはそんなの無いよ。」
「名前が無いの!?」
少女は兵器に名前が無いという事に驚いた。
少女の驚いた顔を見て、兵器は名前が無い事がなんだか恥ずかしくなってきた。
「名前が無いって恥ずかしい事なのかな?」
兵器は少女に聞いた。
「う~ん、恥ずしいかどうかは解らないけど、困るじゃない。」
「え、僕は困った事無いよ。」
「そうなの?誰かに呼ばれる時はどうするの?」
「僕、誰にも呼ばれた事無いんだ。」
「え、誰にも呼ばれた事無いって、ここにはあなた以外にはだれもいないの?」
少女の顔は驚きに包まれる。
「うん、そうだよ。」
「あなた、お父さんは?」
「それは何?」
「お母さんは?」
「お母さん?それも知らない。君は色んな言葉を知っていて偉いんだね。」
兵器は少女に微笑んだ。
しかし、少女の顔は段々悲しくなってきた。
「あなたはずっと、ここに1人でいたの?」
「うん、そうだよ。」
「寂しくないの?」
「寂しいって何?」
この言葉を聞いて少女の目から涙が零れ始めた。
目の前にいる者がずっと1人でいるという事が可愛そうでしかたなかった。もしも、少女がもう少し大人であったり、もう少し意地が、いや、普通の考えの持ち主だったらすぐにこの場から逃げ出してしまっていただろう。それだけ、兵器の見た目は気持ち悪かった。しかし、少女は幼く、人を疑ったりする事を知らなかった。
少女は心にまだ何の色も付けられていない、ある意味では異質な女の子だった。
「どうしたの?目から水が零れているよ。」
兵器は涙という言葉も知らなかった。
「う、ううん、何でも無いよ。気にしないで。そうだ、あなた、私とお友達にならない?」
少女は笑顔を作り、兵器に提案した。少女はその提案を自分の考えながら素晴らしい物だと思った。寂しい思いをする者を放って置けなかった。
「お友達って何?ごめんね、さっきから聞いてばかりで。」
兵器は自分の無知が少し嫌になってきていた。もう少し、色んな事を学べばこんな思いはしなくていいのかなと考えていた。
「ううん、気にしないで。そうね、お友達っていうのは仲良く一緒に遊ぶ事よ。」
少女は兵器の質問を嫌がる事無く、ちゃんと答えてあげる。
「遊ぶって何?」
「遊ぶっていうのは凄く楽しい事よ。」
「そうなんだ。うん、いいよ、お友達になろう。」
兵器は楽しい事と聞き、それならばやってみたいと思った。
少女は提案が通った事が嬉しかった。
「よかった。それじゃ遊びましょうか。えっと。何をしようか?」
「僕は何でもいいよ。」
「そうね、それじゃあ。」
少女は考えている。
具体的に何をするかは考えていなかった。
「あ、そうだ。まずは私の自己紹介をしなくちゃ。私の名前はフィリー。年は10才になるの。次はあなたの番だけど、名前が無いのよね?」
「うん、そうだよ。」
「そっか。それじゃ・・・私がつけてもいい?」
フィリーは兵器に首を傾けて聞いた。
「うん、別に構わないよ。」
兵器の答えを聞いてフィリーは笑顔になる。
「やった!えっとね、あなたの名前はね・・・。」
フィリーはまた一生懸命考えている。
フィリーが考えている間、兵器はずっと待っていた。
兵器は人と喋るのは久しぶりなので、ドキドキしていた。
しばらくすると少女はポンと手を叩いた。
「あなたの名前はガーディアンよ。」
「ガーディアン?それはどういう意味?」
兵器はガーディアンという言葉の意味を解らず不思議そうな顔をしている。
「ガーディアンっていうのはね、守護天使って意味。守護天使というのはね、すごく強くて、すごく清い方達の事よ。」
フィリーは笑顔で答えた。
「そうなんだ。それってすごく良い名前なんだね。」
「ええそうよ。気に入ってくれた?」
「うん、もちろん。僕の名前はガーディアン。えっと、年齢は・・・。ねえ、フィリー、年齢って何?」
「年齢っていうのは生まれて何年経ったかってことよ。」
フィリーは優しくガーディアンに教えてあげた。
「そうなんだ。それじゃ、僕の年齢はえっと。」
ガーディアンは少し考えている。月の数え方は昔、軍人に聞いた事があった。どれくらい待てばいいのか、目安にするために。
「うん、僕の年齢は10才だよ。」
「10才なの?それじゃガーディアンは私と同じ年齢なのね。それってすごい事だわ。」
フィリーは嬉しそうな顔になった。
「そっか、僕達は同じ年齢なんだね。」
ガーディアンも嬉しそうな顔になった。
「それじゃ、紹介も終わった事だし、何して遊ぼうか?」
フィリーはガーディアンに聞いた。
「うんとね、う~ん?」
ガーディアンはまた考えている。
「どうしたの、ガーディアン?」
「うんとね、何をして遊んだらいいのか解らないんだ。」
「そっか。それじゃガーディアンは何がしたい?」
「僕のしたい事?僕は・・・色んな事を知りたいな。」
「色んな事?」
フィリーは不思議そうな顔をした。
「うん。僕ね、ずっとここにいたから知らない事がたくさんあるんだ。だから僕は色々な事が知りたい。それにさっきみたいにフィリーに色んな事ばかり聞いているのも恥ずかしいし。」
「そうなんだ。それじゃ、ここから出て色んな所に遊びに行きましょうか。」
「・・・それは駄目だよ。」
ガーディアンは残念そうな顔をした。
「え、どうして?」
「だって僕はここから出ちゃいけないんだ。僕を作ってくれた人達がここから出ちゃ駄目って言ったんだ。」
ガーディアンの顔は悲しみに変わった。
「そうなんだ。それじゃ、しょうがないわね。そうすると・・・そうだ!」
フィリーが手をポンと叩く。
「本を読みましょう。」
「本?」
「そう、本。本には色んな事が書いてあるから色んな事を知れるわ。」
「そうなんだ!その本はどこにあるの?」
「私のお家には本がたくさんあるから持って来てあげる。」
「本当に!フィリー、ありがとう。」
ガーディアンは嬉しかった。
それは本を貸してもらえるという喜びとは別に人の温かさを知った喜びも入った喜びだった。
「どういたしまして。それじゃ今日は本が無いから変わりに色んなお話をしてあげる。何か聞きたい事はある?」
「えっと、それじゃぁ、外の世界の話を聞きたい。」
「わかった。」
少女はガーディアンに外の世界について聞かせてあげた。
この基地の近くには、森がある事や、フィリーが住んでいる町の話、またフィリーの家族の話もしてあげた。それはガーディアンにとって、非常に楽しい物ばかりだった。
そして、時間はあっという間に過ぎて行った。
「あれ、もう随分時間が経ってしまったみたいね。今日はもう遅いからまた明日、本を持って来るね。」
「うん、お願い。」
「それじゃ、バイバイ。」
「ばいばい?」
「あ、バイバイっていうのは、お別れの挨拶でもあり、また会いましょうっていう意味よ。」
「そうなんだ。それじゃフィリー、バイバイ。」
「うん、バイバイ。また明日ね。」
フィリーは笑顔で手を振って帰って行った。
ガーディアンはフィリーが見えなくなるまで手を振り続けた。
[友人]
翌日、早い時間からフィリーはリュックサックを背負ってやってきた。
ガーディアンはフィリーが来たのに気付くと近寄った。
「おはよう、ガーディアン。」
「おはよう、フィリー。」
ガーディアンはフィリーの姿を見ると、とても嬉しそうな顔になった。
「ガーディアン、お腹空いてる?」
「お腹?うん、何も食べてない。」
「そう、それじゃ、これを食べて。」
フィリーはそういうと鞄から林檎とパンを取り出した。
「これは何?」
ガーディアンは珍しそうに食べ物を見た。
「林檎とパンよ。とっても美味しいの。」
「へー。」
ガーディアンは林檎を手に取り食べようとした。
「ダメ!」
それを見たフィリーはガーディアンを怒った。
「え。」
「ご飯を食べる前にちゃんと頂きますをしないといけないでしょ。」
「・・・いただきますって何?」
「あ、そっか。ガーディアン知らないのね。それじゃ私が教えるわ。」
そう言ってフィリーは両手を合わせた。
「はい、ガーディアンもして。」
「う、うん。」
ガーディアンは戸惑いながらも真似をする
「そう。そしていただきますっていうのよ。はい、やってみて。」
「うん。えっと、いただきます。」
「それでいいわ。ご飯をたべる前にはこれをしないといけないの。」
「うん、わかった。」
「はい、それじゃ、ガーディアン食べて。」
「うん、ありがとう。」
ガーディアンは林檎を手にすると一口で食べた。
そして、顔には喜びが表れる。
「フィリー、これ食べるとなんて言うんだろう、凄く嬉しくなる。」
「うんと、それはきっと美味しいからよ。」
「そうなんだ。美味しいと嬉しくなるんだ。」
「うん、それであってると思うわ。あと、その林檎は私の家の庭に生えてる林檎なの。今度来る時はもっと持って来てあげるね。」
「うん、ありがとう。」
「それじゃ、パンも食べて。」
「うん。」
ガーディアンはパンも一口で食べた。
「これもすごく美味しいよ、フィリー。」
「よかった。そのパンはママの手作りなの。さ、ご飯を食べ終わったらご馳走様をしなくちゃ。さっきのように手を合わせて。」
ガーディアンはフィリーの言う通りに手を合わせた。
「はい、それでご馳走様っていうのよ。」
「うん、ごちそうさま。これでいいの?」
「うん、よくできました。あ、そうだ。ガーディアン、昨日聞くのを忘れてしまっていたんだけど、あなたは文字って知っている?」
「ううん、知らない。」
「そっか。それじゃ、私が本を読んであげるわね。」
フィリーは鞄の中から絵本を取り出した。
「あ、持って来てくれたんだ。ありがとう。」
ガーディアンを売れしそうに絵本を見ている。
「これはね、絵本っていうの。だれでも最初はこの絵本から読むのよ。これは私が小さい頃にお母さんが読んでくれた物で『勇者の物語』っていうんだよ。私が今から読んであげるね。」
フィリーはガーディアンに見えるにするため、隣に座って本を開いた。
「はい、ガーディアン、ここに座って。」
フィリーは自分のとなりをポンポンと叩いた。
「うん。」
ガーディアンはゆっくりとフィリーの隣に座った。
「それじゃ、読むわよ。」
フィリーはゆっくりと読み始めた。
この『勇者の物語』という話は昔、ある王国に現れた化け物がその国のお姫様を誘拐してしまう。国民みんなが困っているとある勇者が現れて化け物を倒し、お姫様を助け出し、ハッピーエンドに終わるというどこにでもありそうな話だった。
「どうガーディアン、面白かった?」
フィリーはガーディアンの方を見て聞いた。
「うん、楽しかった。所でさ、僕、気になったんだけど化け物って何?」
「化け物?う~ん、化け物っていうのは、強くて恐い物よ。」
「へー、恐いんだ。会いたくないな。」
ガーディアンは怖がった。
「あれ、ガーディアン恐いの?」
フィリーはガーディアンをからかうように言った。
「そ、そんな事無いよ。」
ガーディアンはからかわれたのが恥ずかしかった。
だから、誤魔化すために強がった。
「えー、私には怖がってたように見えたけど。」
「だから、そんな事無いって!だって、僕強いんだもん!」
「へー、そうなんだ。どれくらい強いの?」
「とっても強いんだよ。だって僕を作ってくれた人が僕がとっても強いって言ってたもん。」
「そうなんだ。ガーディアンって凄いんだね。」
「うん、僕はすごいんだよ。」
ガーディアンは少し見得をはった。
「それじゃ、私が恐い人達に捕まったら助けてくれる?」
「うん、絶対に助けてあげる。」
ガーディアンは笑顔で答えた。
「ありがと。ガーディアン、大好き。」
フィリーの言葉にガーディアンの心が何だか暖かくなったような気がした。
「あれ、ガーディアンどうしたの?ぼーっとしちゃって?」
様子が変わったガーディアンに対して困惑した表情をするフィリー。
「え、ううん、何でも無いよ。」
今の自分の変な気持ちをフィリーに説明のしようが無いので、首を振るガーディアン。
「そう?あ、次はこの本を読みましょうか。」
そう言ってフィリーは鞄の中から別の絵本を出した。
こうして二人は遅くなるまで本を読んだ。
ガーディアンが気に入った本があると、フィリーは喜んでその本を貸してあげた。
そして、ある程度の時間になるとフィリーは帰っていく。
そのような二人にとって楽しい日々が続いた。
そんなある日。
そフィリーがガーディアンのいる基地に来るとガーディアンはいつも以上にニコニコしていた。
「どうしたの、ガーディアン?今日はいつも以上に嬉しそうね。」
「うん、実はね、フィリーに聞いて欲しい事があるんだ。」
ガーディアンはそう言って一番最初に読み、そしてフィリーから貸してもらった『勇者の物語』を取り出した。
フィリーは何をするのかと思っているとガーディアンは本を開いた。
「むかしむかしあるしあわせなくにがありました。」
そして、その本をガーディアンは読み出した。
「え!ガーディアン、読めるの?」
フィリーがその光景を見て驚く。
「うん!」
ガーディアンは嬉しそうに頷いた。
「すごいわよ、ガーディアン。私はその本を自分で読むのに、時間がかかったのに。ガーディアンは頭がいいのね。」
フィリーも嬉しそうにしている。
「へへへ。これだけじゃないよ。他にも色々読めるようになったんだ。フィリーが帰った後、ずっと文字を覚える練習してたんだ。」
「すごいすごい。ガーディアン、もっと聞かせて。」
「うん、いいよ。そのくににはとてもきれいなおひめさまがいました・・・」
ガーディアンはその続きもちゃんと読んでいった。
それはとても遅かったが、しっかりとガーディアンは読んでいった。
そして、読み終わるとガーディアンは嬉しそうにフィリーの方を見た。
フィリーの顔は喜びに満ちていた。
ガーディアンが1つの事を達成したのが、嬉しくてしょうがなかった。
「ガーディアン、本当にすごい。それじゃ、今度来る時はもっと色んな本を持って来てあげるね。」
「本当?僕、嬉しいな。」
ガーディアンはとても喜んでいる。ガーディアンが喜ぶとなぜかフィリーも嬉しかった。
「そうだ!ガーディアン、あなたにお勉強の道具を貸してあげるわ!」
「お勉強?」
「うん、私は学校で使っていた物よ。それを使えばあなたはもっと賢く慣れるわ。」
「本当!フィリー、僕とっても嬉しいよ!」
「ふふ、なんだか今日はガーディアン、ずっと笑顔ね。」
「うん、僕とっても嬉しいんだ。」
「そうなんだ。それじゃ、ガーディアン、他の読める本も読んでもらっていい?」
「うん、もちろんだよ。それじゃ、次はこれを読もう。」
ガーディアンは違う本を出し読み出した。
フィリーはずっとそれを楽しそうに聞き続けた。
それは二人が遊べる時間ぎりぎりまで続けられた。
「・・・こうしてみんなはしあわせにくらしましたとさめでたしめでたし。」
結局ガーディアンはフィリーに貸して貰った本を全部読んでしまった。
「ガーディアン、本当に凄い!全部読んじゃったわ。」
「へへ。フィリーに誉めてもらえると僕嬉しいよ。」
ガーディアンは相変わらず嬉しそうに笑っている。
「そう?そう言われると私も嬉しいわ。」
フィリーもニコニコしている。
その時、フィリーが外を見た。そこから見ると外は暗くなり始めていた。
「あ、もう空が暗くなってきてる。遅いから私もう帰るね。」
「あ、本当だ。ごめんね、なんだか僕がずっと本読み続けちゃって。」
ガーディアンがすまなさそうな顔をする。
「いいのよ、ガーディアン。私もすごく楽しかったわ。」
「本当、よかった。」
ガーディアンは安心したように笑った。
「ふふ、ガーディアン心配し過ぎよ。それじゃ、明日、本や勉強道具を持ってくるわね。」
「うん!」
ガーディアン嬉しそうに頷いた。
「それじゃバイバイ、ガーディアン。」
「うん、バイバイ、フィリー」
二人は手を振り合って別れた。
フィリーが去った後、ガーディアンはさっきまで読んでいた本を拾った。
「嬉しいな、僕もっと賢くなれるんだ。賢くなったらまたフィリーが喜んでくれる。よし、一生懸命勉強しよっと!」
ガーディアンは嬉しそうに決意した。
翌日になるとフィリーはたくさんの本と必要な勉強道具も持って来た。
「さ、ガーディアン、これでたくさん勉強しましょうね。」
フィリーは勉強道具や新しく持って来た本をガーディアンに見せた。
「うわー!フィリーありがとう。」
ガーディアンは興味深くそれを見ていった。
「それじゃ、ガーディアン、まず本を読んであげるわ。そして言葉を覚えましょう。」
「うん、わかった!。」
ガーディアンは元気に挨拶した。
それから、二人は遊ぶかわりに勉強をしていった。というより、二人にとって勉強する事が遊ぶ事のようになっていった。
来る日も来る日も二人は仲良く勉強した。
ガーディアンはフィリーが喜んでくれるのが嬉しいし、フィリーはガーディアンがどんどん頭が良くなっていくのが嬉しかった。
ある日の事だ。
フィリーが帰った後、ガーディアンは1人で本を読んでいた。
ガーディアンの知能の発達は素晴らしくどんどん上達していった。もう1人で色んなほんを読めるようになっていったし、フィリーが持ってくる本はガーディアンにとって大変興味深く面白い物ばかりだった。
その日もガーディアンはフィリーから借りたばかりの本の中から何を読もうか迷っていた。そして、「魔物大全」なる本を読んでいった。
中身は世界各地にある民話などから集めた魔物や化け物を載せている子供向けの本だ。
「よし、今日はこれを読もう。」
ガーディアンはページを捲り始めた。
しばらくガーディアンは楽しそうに本を読んでいた。
しかし、あるページに来るとその手が止まった。
「あれ?」
ページに書いてあるのはガーディアンとよく似ていた。
6本の脚、異常に膨れ上がった両腕、片目のみ大きくなっている顔、全てが似ていた。
似ていたのは偶然であろう。しかし、ガーディアンの顔はどんどん曇っていく。
ガーディアンの頭にフィリーの言葉が過ぎる。
「化け物っていうのは、強くて恐い物よ。」
(恐い物、僕って恐い物なの?)
ガーディアンの頭の中はフィリーの言葉で一杯になっていく。
必死になって自分が化け物というのを否定しようとするが、まったく消えなかった。
ガーディアンは初めて自分という存在の意味を考えた。
ガーディアンは軍が撤去しなかった鏡を見た。
そこに映っているのは、本に描かれている化け物と同じような格好の自分。
フィリーは凄くかわいいとガーディアンは思った。
(それに比べて僕の姿と言ったら。)
鏡に映るその姿は黒く、汚れた存在だった。
結局どれだけ考えてもガーディアンの心と頭が晴れる事は無かった。そして、ガーディアンはこの事は考えない事にした。
そうしないと自分が潰れてしまいそうになってしまうから。
それから数日たったある日。
ガーディアンとフィリーはその日も一緒に勉強していた。ガーディアンが頭がよくなる速さは相変わらず早く、ついにはフィリーを超えてしまっていた。
「ガーディアン、あなたすごいわ。」
フィリーはガーディアンを尊敬の目で見るようになってきている。
「そんな事無いよ。フィリーの教え方が上手いんだよ。」
ガーディアンは誉められて恥ずかしがっている。
「ううん、もう私ぐらいなら頭の良さを超えちゃってるもん。」
「え。」
フィリーの言葉を聞くとガーディアンが悲しそうな顔をした。
「どうしたの、ガーディアン。何だか悲しそうよ?」
ガーディアンの変化をフィリーはすぐに気付いた。普通の人なら解らないような変化だったがフィリーはすぐにそれが解るくらいに仲良くなっていた。
「そんな事ないよ。」
「ううん、すごく悲しそう。」
ガーディアンは誤魔化そうとしたが、フィリーが悲しそうな顔をしているのを見ると話さないといけないと思った。しかし、今の悩みをフィリーには言いたく無かった。
自分の頭の良くなる速さは異常なのでは無いだろうか。それは自分が化け物だからじゃないだろうか、と。
「うんとね、何だか恐いんだ。」
「恐い?」
「僕、フィリーに色んな事を教えてもらった。最初はすごく楽しかった。でもね、最近なんだか恐いんだ。今までフィリーが前にいてくれたのに、これからは自分で勉強しないといけない。だれも教えてくれないのがすごく恐いんだ。」
結局ガーディアンは正直には言えなかった。どこかで嘘を言っている自分に対して負い目を感じた。
そんなガーディアンの手にフィリーは自分の手を乗せた。
「フィリー?」
ガーディアンはフィリーの行動に驚いた。フィリーと手を握ったのは初めてだった。
「大丈夫だよ、ガーディアン。ガーディアンのそばには私がずっと居るよ。」
フィリーはガーディアンに微笑みながら言った。
「フィリー。・・・うん、ありがとう。」
ガーディアンはフィリーを安心させるようににっこりと笑った。
それはフィリーを安心させるための嘘の笑顔だった。
「よかった、ガーディアンが笑ってくれて。」
フィリーは安心するように言った。
その言葉は嘘をついているガーディアンにとって、重い十字架のように乗りかかった。
「フィリーは僕の笑顔を見るのは嬉しい?」
「ええ、ガーディアンの笑顔、大好き。」
「そっか。じゃあ、僕、フィリーのためにずっと笑顔でいるよ。」
「え、ありがとう。でも、無理しなくてもいいのよ。」
フィリーは心配そうに言った。
「ううん、僕はフィリーが嬉しそうにしているのが大好きなんだ。」
ガーディアンは笑った。
「それなら安心して。私はガーディアンと話せていれたらそれでとっても嬉しいわ。」
「そう、なんだ。うん、それは僕も同じだよ。」
二人は一緒にニッコリと笑った。
「そうだ。実はね、お父さんがいっぱい本を持っているの。お父さんに頼んだら本を貸してくれるかもしれないわ。」
フィリーは良い事を思いついたという表情で言った。実際問題、今までのガーディアンならば、とても喜んだだろう。
しかし、今のガーディアンは違った。
「え、でも。」
ガーディアンは困ってしまっている。
「あれ、ガーディアン嬉しくないの?」
フィリーはガーディアンが喜んでくれると思った。しかし、逆に困ってしまったのを見て少しショックだった。
「いや、すごく嬉しいんだけど、でもお願いがあるんだ。」
「何?」
「えっとね、お父さんにに貸して貰う時に僕の事は内緒にして欲しいんだ?」
ガーディアンの恐れている事は自分の正体がフィリー以外に知れてしまう事だった。
「どうして?」
ガーディアンの気持ちをわからないフィリーはなぜ内緒にしないといけないのか解らず、困惑して聞いてくる。
しかし、ガーディアンは答える事はできない。
ここで自分の事が化け物だからだと言うとフィリーに嫌われてしまうような気がしたからだった。
「うーん、わかったわ。それじゃ、内緒で借りてくるわね。」
「うん、ありがとう。」
ガーディアンはその言葉を聞いて安心した。
「それじゃ、今日はもう遅いから私、帰るわね。」
「うん、解った。それじゃ、帰り道には気をつけてね。」
「ええ、それじゃ明日本を持って来るから楽しみにしててね。」
「ありがとう。それじゃ、バイバイ、フィリー。」
「ええ、また明日。」
フィリーはお別れの言葉を言うと出て行く。ガーディアンはそれを見送っていく。
翌日、ガーディアンは基地の中をウロウロしていた。
何時もならフィリーは来ているはずの時間になってもフィリーは遊びに来ないからだった。
ガーディアンは心配になる。自分は嫌われてしまったのでは無いか、自分の見た目の気持ち悪さにフィリーは逃げてしまったんじゃか、と。
そんな事を考えているとガーディアンの目に涙が浮かび始める。
しかし、そんな考えは杞憂に終わる。
「ガーディアン、おはよう。」
フィリーはいつもの笑顔で現われた。
「あ。フィリーよかった。今日は遅かったんだね。」
「うん、寝坊しちゃったの。あれ、ガーディアンったら泣いてたの?」
フィリーはガーディアンの目にある雫を見つけ少し驚く。
「うん、少し。」
「大丈夫?何か嫌な事でもあったの?」
フィリーは心配そうに聞いた。しかし、ガーディアンは答えられない。
「なんでも無いんだ。ただ、少し恐い夢を見ただけ。」
「そう?それだったらいいけど。もしも何かあったら私にそうだんしてね、友達なんだから。」
フィリーは信用しようとは思うのだが、目の前にいる友人の涙が気になってしょうがなかった。ガーディアンにとってはフィリーの気持ちは嬉しかった。嬉しかったが、怖くもあった。何時かその優しさが無くなって、自分のような化け物に対して誰もが思うであろう、気持ち悪い物を見る目で見られてしまうんじゃないかと心配になった。
(もしも、もしも本当にフィリーが目の前から消えてしまったら。)
そう思うだけで潰されてしまいそうだった。
だから、ガーディアンは変えてしまった。
今までは楽しむ事に比重を傾けていた。しかし、フィリーに嫌われない事に比重を置いて遊ぶようになっていった。
つねにフィリーの顔を見て遊ぶ。そんな事を続けていった。
それはフィリーにとって凄く嫌な事になってしまった。
ガーディアンが楽しんでいないのが苦痛だった。
ある日、フィリーはガーディアンに我慢出来ずに聞いた。
「ねえ、ガーディアン、何だか最近おかしいわよ?」
「え、おかしいって何が?」
ガーディアンはキョトンとした顔をしてフィリーを見た。
「だって本当に変なんだもん!前まではガーディアンはすごく楽しそうにしてた。でも最近はなんだか全然楽しそうじゃない!」
「え。」
叫ぶフィリーの目には涙が浮かんでいる。
ガーディアンは目を静かに反らすしかできない。
「ねえ、何で目を反らすの!なんで!私の事を嫌いになったの!」
「・・・そんな事無い。」
小さな声でしかガーディアンは答えられない。
「それじゃ、どうして?私、解らない。どうすればガーディアンは元に戻ってくれるの?」
ガーディアンは答えようとはしなかった。
「ねえ、何で黙ってるの!答えてよ、ガーディアン。ねえ、私達は友達なんでしょ。」
「・・・嫌われたくなかった。」
今にも消えそうな声でガーディアンは答えた。
「え、どういう意味?」
予想だにしない答えにフィリーは困惑する。
「君に、フィリーに嫌われたくなかった。」
「なんで?どうして私がガーディアンを嫌いにならなくちゃいけないの?」
「僕が、化け物だからだよ。」
「え?」
フィリーにはなぜガーディアンが化け物なのか、理解できなかった。
「だってさ、君と僕は姿が全然違うんだもん。」
ガーディアンはフィリーの顔を見て、何を理解できていないのかを悟り、自嘲しながら答えた。
「そんなの、皆が同じ姿のわけ無いじゃない。」
「そう意味じゃないよ。生き物としてもうすでに違うんだよ。君の脚は走るための脚。僕の足はきっと人を怖がらせるために走る脚。君の手は人を助ける手。僕の手はきっと人を怖がらせるための手。君の顔は人を笑顔にさせる顔。僕の顔は、顔はきっと人を恐怖させるために存在しているんだ。」
ガーディアンは苦しそうに答えた。そんなガーディアンを見てフィリーも心が苦しくなっていった。それでも、解らなかった。どんなに言われてもフィリーにとってガーディアンは化け物などでは無く、友達だった。
「やっぱり、やっぱり解らないよ。何で、それで私がガーディアンの事を嫌いにならなきゃいけないの?私にはわからない!」
フィリーは怒鳴った。彼女があともう少し大人だったらガーディアンの言っている事が理解できたかもしれない。いや、あと少し大人だったらガーディアンに近付こうとすら思わなかっただろう。しかし、フィリーはガーディアンに出会った。
「解らない、か。そう、だろうね。多分フィリーには解らないと思う。僕のような姿に生まれてしまった者の気持ちなんて。」
下を向き、愚痴るようにガーディアンは言葉を吐いた。
その言葉にフィリーは怒りを感じた。その怒りの元が何なのか、フィリー自身にも解らない。何も解らない自分になのか、急に態度を変えたガーディアンなのか、それとも、ガーディアンの吐いた言葉になのか。あえて言うなら、その全てにフィリーは怒りを感じたのだろう。
「なんのよそれ!結局ガーディアンは私の事を信じられないだけなんでしょ!」
フィリーの言葉はガーディアンの胸に突き刺さった。
顔を上げ、フィリーの顔を見た。その顔は悲しそうに怒っていた。
ガーディアンは思った。そして理解した。
そういえば、フィリーの顔をちゃんと見たのは久しぶな、と。
ガーディアンはずっとフィリーの事を考えているつもりでいた。でも、本当は、自分自身の事だけしか考えていなかったのだと。
その結果がこれだった。
目の前にいる、もっとも自分と仲良くしてくれる少女は自分のせいで泣かせてしまった。
「ガーディアンのばか!」
フィリーは叫ぶと走って基地から出て行ってしまった。
ガーディアンは追いかける事は出来なかった。どうすればいいのか解らなかった。
彼には力無く座り込むしか出来なかった。
「・・・やっぱり僕って馬鹿だな。一生懸命勉強したつもりだったのに、一番大切な事を守る事も出来なかった。本当に何をしてきたんだろう。」
ガーディアンの目から一筋の雫が零れた。
[危機]
フィリーが基地から出た時、それを双眼鏡で覗いている人物がいた。彼の仕事はガーディアンのいる基地の見張り。だが、サボってばかりいる。いつもは雑誌を読んでいるくらいだ。ただ、この日だけは偶々、偶然、暇つぶしにちゃんと仕事をした。そんな彼の目に飛び込んできた光景はもっとも気をつけなければならない化け物のいる基地から少女が走って行く姿。
彼の頭の中には様々な考えが過ぎる。
その中でもっとも嫌な事は少女が村に戻り、見た化け物の事を言い広める事だ。化け物の事が広まったら軍に対するバッシングは凄い物になるだろう。彼は走り、すぐに上司の元に向かった。上司と言ってもここに配属されているのは、たったの5人だけだった。装備も大した事は無い。言わば、ここは軍でも左遷された者達が来る場所だった。
話を聞いた上司の顔が真青になる。このままでは、責任を取らされて極刑にされる可能性も少なくは無い。
上司はしばらく考えた後、顔を上げて命令した。
「あの少女を殺せ。すぐに捕まえてな。」
5人は出来る限りの装備を済ませると車に乗り、走り出した。
フィリーは基地を出ると涙を流しながら走った。ただただ走った。ある程度走った後、疲れてその場に座った。だが、涙は出続けてしまった。自分が言いたかった言葉はあんな言葉では無かった。ただ、ガーディアンと楽しく遊び続けたいだけだったのに。
彼女は俯いて、泣き続けた。
だから、近づいて来る殺意の集った車に気付く事は無かった。
フィリーは急に腕を捕まれた。
腕を掴んだ軍服の男が別の男に言った。
「隊長、この少女です。間違いありません。」
「そうか、ここで事を済ませたら問題だ。基地に連れて行くぞ。」
男は無理矢理フィリーを車に乗せようとする。
フィリーは今まで感じた事の無い恐怖に包まれた。そして思った。ガーディアンは化け物なんかじゃない。あんな優しい目が化け物のわけが無い。だけど、今、この目の前にいる人達は化け物だ。こんな恐い目をフィリーは見た事が無かった。
「助けて!ガーディアン!」
フィリーは力一杯叫んだ。彼の耳に聞こえるとは思わなかった。ただ、ガーディアンの事しか思い浮かばなかった。
なんとか逃れようとフィリーは精一杯暴れた。
「隊長、暴れてますけどどうしましょうか。」
「これでも、飲ませろ。」
隊長は薬を出し、部下に渡した。
「即効性の睡眠薬だ。」
渡された部下はフィリーに無理矢理薬を飲ませた。
フィリーは暴れようとするが、急激な眠りが体を襲った。少しづつ目が閉じていった。
ガーディアンの事を考えながら。
ガーディアンは悲しみで動こうとしなかった。何もしようとはしなかった。何もしたくなかった。
そんなガーディアンの耳にフィリーの悲鳴が聞こえた。
「・・・フィリー?」
自分の名前を叫ぶフィリーの声が。
彼の兵器として作られた耳は非常に優秀だった。
しかし、ガーディアンはその声を信用出来なかった。先ほどの事を考えたら自分の都合の良い空耳にしか思えなかった。
その声の特徴を考えるまでは。
ふと、気付いた。聞こえて来たフィリーの声は恐怖に包まれていた。フィリーはガーディアンの前でこんな声を出した事など無かった。
ガーディアンは立ち上がった。基地の出口に近付いた。
その出口は創造主が絶対に出てはいけないと言われた物だった。
彼は笑った。
そんな言葉は関係無い。ガーディアンはフィリーの笑顔を思い出し、あの約束を思い出した。
フィリーを守るという約束。
「今度は決して間違えない。」
ガーディアンは自分を捨てた創造主より、自分の近くに居てくれた友人の方が大切だった。
ガーディアンは勢いよく飛び出した。友人を助けるために。
フィリーを乗せた車は監視基地に着いた。そして、眠っているフィリーを兵士は降ろし、基地内部に入れた。
「どうしましょうか、この子。」
「刺すか?」
「さすがに刺し殺すとかは嫌ですね。」
「銃で撃っとけ。ちょうどいい実践訓練だ。」
「了解しました、隊長。」
兵士は皆、銃口をフィリーに向けた。
そして、ゆっくりとトリガーを引いた。
その瞬間、フィリーを守るように大きな塊が降って来た。
その塊を見て男達は青ざめた。
「・・・化け物。」
彼らの目には銃弾が当り、血だらけになった化け物がいた。
「殺せ!」
隊長が号令すると、ボケッとしていた兵士達が銃を構えようとした。
しかし、それよりも先にガーディアン達がその腕を振った。
兵士達の頭は胴体から外れた。
それを隊長は最初、何が怒ったのか理解できなかった。そして、理解すると、焦り始めた。
1人では、こいつに勝てるわけが無いと。
ガーディアンはゆっくりと隊長に近付いていく。憎しみを込めた目を隊長に向け、恐怖を浴びせていく。
隊長は考えた。生きるために必死に考えた。その時、気付いた。ガーディアンがフィリーを守ろうとした事を。
隊長を銃を向けるとフィリーに向かって撃った。ガーディアンはフィリーを守るためにその銃弾を喰らった。
隊長はニヤリと笑った。
「そうか、お前はその子を守りたいのか。」
隊長は銃弾を撃ちまくった。ガーディアンはフィリーのために決してよけようとはしない。攻撃をしたくても、隊長は攻撃がギリギリ届かない距離から動かない。
銃弾を浴びている内に少しづつ体が下がって行く。
やがて、完全に体を下げ、生気は無くなり、目を瞑った。
「ククク、ハハハハハハハハ!化け物が人間に頭で勝てるわけないだろうが。」
隊長は進むとガーディアンを避け、フィリーの前に立った。
「さてと、あとはこの子を殺すだけか。」
隊長は銃をフィリーに向けた。
その時、ガーディアンが目を開け、隊長の頭を掴んだ。
「え?」
隊長は何が起きたのか理解できなかった。
ガーディアンは手を引っ張ってフィリーから隊長を引き離すと、その頭を握り潰した。
フィリーに血がかからないように気をつけながら。
ガーディアンは体を引きずりながら、手を洗える所を捜すと手を洗った。
そして、フィリーのいた場所に戻るとフィリーに血が付かないように気をつけながら自分の帰るべき基地に戻った。
[死]
フィリーはゆっくりと目を開けた。まだ、頭は覚醒しきっていない、変な気分だった。
目の前にはガーディアンは居た。優しく笑っていた。
「おはよう、フィリー。」
ガーディアンは優しく呼びかけた。
「おはようガーディアン。私ね、さっき凄い恐い人達を見たの。」
「そっか。でももう大丈夫だよ。」
「ガーディアン、あなたが助けてくれたの?」
「うん、そうだよ。」
「そっか、ありがとうガーディアン。」
「ううん、だって約束したじゃないか。フィリーが危険な目にあったら助けるって。」
「そういえば、そんな約束をしたわね。あと、ごめんね、ガーディアン。嫌いなんて言っちゃって。」
「大丈夫だよ。本当は僕が謝らないといけないんだ。僕は自分の事しか考えていなかった。ごめんね。それともし、よければこれからも遊んでくれないかな。」
ガーディアンは心配そうな顔になった。
そんな顔を見てフィリーは笑った。
「もちろん。私の方こそお願いするわ。」
「そっか、よかった。ありがとう、フィリー。」
「そうね、本当によかった。」
そう言った後、フィリーは眠気に耐え切れず、目蓋を閉じた。
安心した笑顔をして。
そんな笑顔を見て、ガーディアンは笑顔のまま、ゆっくりと倒れていった。
[それから]
軍は化け物が消えている事と監視役の兵士が殺されている事を調べた。
結果、兵士達の近くに化け物の物と見られる血を見つけた。これだけ流れているのなら死んでいるだろうとし、この事を闇に消した。
そして、月日が流れた。
昔、少女だった女性が歩いていた。
ある場所を目指して。
しばらく歩き、人は絶対に来ないような場所に。
そこには、1匹の見たこともない生命体がいた。
女性が生命体に近づいて来る。
生命体の脚は女性を助けに行くために走る脚。
生命体が女性に気付き、笑顔になる。
生命体の手は女性を守るための手。
2人は近づいていく
生命体の顔は女性を安心させるための顔。
「こんにちは、フィリー。」
「こんにちは、ガーディアン。」