どこまでも蒼い――
高く澄み渡った空、その吸い込まれそうなほどの青さにふと車窓の外を見遣った目を暫くの間奪われ、
敦賀圭一は思わず真夏の凶暴な日差しに顔を顰めた。
圭一のそんな様子を知ってか知らずか、向かいの扉近くに立つ女子高生と思しき集団が華やいだ笑い声を上げる。
七月下旬在来線上野行き上り列車―
大宮駅を越した辺りから次第に混み始めた車内は人々の放つ熱と正午近くの太陽の日差しによって、
上野駅が近くなる頃にはさながら動く蒸し風呂と化していた。空調機器もこの熱気にやられているのかたまに届く風もじわりと生温かい。
しかし圭一にとってはそれが今はさほど不快ではない。痩せ気味で暑さに割りと強いというのもあるが、
この車内に充満する熱気に夏を迎えて浮き立つ心から来るものがいくらか高い割合で混じっている事を感じ取ったからだ。
事実車内は夏休みに入り早速遊びに行こうとする若者たち、ハイキングザックを背負い帽子を被った熟年夫婦、
大きなスーツケースを抱えた家族連れ、そして圭一たち帰省客― でごった返している。
圭一自身かすかに浮つく心を感じているせいもあるだろう。こういう空気は嫌いではない、
子供の頃の夏休み直前の雰囲気を思い出す。子供心には永遠にも思えた夏の始まり―
列車は上野駅に到着しようやく乗客達を解放した。次は山手線に乗り東京駅を目指す。
人混みと一体となって階段を昇り、乗り換えの表示案内を探す。見つけた。
案内に従い階段を下り山手線のホームに降り立つ。と同時に鶯色のラインが入った車両がホームに滑り込んできた。
思わず苦笑する。東京には何度も来ているがやはりこの本数の多さには慣れない。
特に今日はこれから向かう故郷の事を考えていたから尚更だ。地元の私鉄では一時間に3本、
通勤時間帯でもせいぜい5本がいいところだろう。
そんな笑みを噛み殺し満員の車両に乗り込む。先ほどまでの車内とは違い明らかに旅行客は少ない。
その代わり目に付くのがスーツに身を包んだサラリーマンだ。
サマースーツとはいえこの暑い中を黒系統の長袖上下で揃え、窮屈極まりないネクタイを締め、通気性が悪い革靴を履く。
スーツの一着も持っていない圭一にとってはおよそ想像し難い。
対する自身の格好はといえば白のフォトプリントTに黒系色のワークパンツとスニーカーというラフないでたちだ。
目の前の席に座るスーツ姿の青年にふと目を落とす。圭一と同じ位の年嵩か若干年下にも見えるが、入社したての新入社員といった気配はない。
薄くストライプの入った上品な風合いの3つボタンのスーツの着こなし一つとってもこなれている。
数年ビジネスマンとして第一線に立ってきたという印象を受ける。事実そうなのだろう。
仮に圭一と同い年だとしてみる。就活に明け暮れ内定を取り、大学を卒業し企業に入社して仕事に慣れ、失敗を繰り返し
そしてそれを乗り越え今日も仕事に向かう― 25年という年月はそれだけの事ができるだろう、いや出来てなければおかしい筈の年齢なのだ。
東京駅には10分も経たずに着いた。先ほどの乗換えより遥かに多い混雑と経路を潜り抜け新幹線乗換口に辿り着く。
乗車券と自由席特急券を買い、改札を抜けて発着案内を仰ぎ見る。
東海道新幹線11時50分発のぞみ69号12両編成広島行き―
これが一番近い時間にある車両のようだ。後15分ほど。並ぶことを考えたらちょうど良い時間だろう。
ホームに向かいエスカレーターを昇る。夏の蒼い空が見えてくる。
窓際に運良く座ることができ、荷物を降ろしペットボトルの水を一口飲む。冷冽な潤いが口内に広がった。
一息ついたところで車内を見回してみる。乗車率90%といったところか。お盆には早いせいかそれほどの混み具合ではない。
しかしそれでも席に着けたのは有難かった。出発直前までバイト先のコンビニで夜勤をしていたから少し疲れていた。
これから起こるであろうことをゆっくりと考えたかったのもある。
列車が動き出し車窓に映し出されたビル群が流れ始める。早速車内販売のカートが通路を行き交う。
圭一はバイト先で買ったパンとおにぎりを食べ、ペットボトルの水を口に含む。
食べ終えてから暫くすると緩やかな眠気が体を包み始めた。ぼんやりとした頭で考え事をする。
郷里のこと、家族のこと、こちらに出てきてからのこと、将来のこと、子供の頃のこと、好きだったあの人のこと――
高く澄み渡った空、その吸い込まれそうなほどの青さにふと車窓の外を見遣った目を暫くの間奪われ、
敦賀圭一は思わず真夏の凶暴な日差しに顔を顰めた。
圭一のそんな様子を知ってか知らずか、向かいの扉近くに立つ女子高生と思しき集団が華やいだ笑い声を上げる。
七月下旬在来線上野行き上り列車―
大宮駅を越した辺りから次第に混み始めた車内は人々の放つ熱と正午近くの太陽の日差しによって、
上野駅が近くなる頃にはさながら動く蒸し風呂と化していた。空調機器もこの熱気にやられているのかたまに届く風もじわりと生温かい。
しかし圭一にとってはそれが今はさほど不快ではない。痩せ気味で暑さに割りと強いというのもあるが、
この車内に充満する熱気に夏を迎えて浮き立つ心から来るものがいくらか高い割合で混じっている事を感じ取ったからだ。
事実車内は夏休みに入り早速遊びに行こうとする若者たち、ハイキングザックを背負い帽子を被った熟年夫婦、
大きなスーツケースを抱えた家族連れ、そして圭一たち帰省客― でごった返している。
圭一自身かすかに浮つく心を感じているせいもあるだろう。こういう空気は嫌いではない、
子供の頃の夏休み直前の雰囲気を思い出す。子供心には永遠にも思えた夏の始まり―
列車は上野駅に到着しようやく乗客達を解放した。次は山手線に乗り東京駅を目指す。
人混みと一体となって階段を昇り、乗り換えの表示案内を探す。見つけた。
案内に従い階段を下り山手線のホームに降り立つ。と同時に鶯色のラインが入った車両がホームに滑り込んできた。
思わず苦笑する。東京には何度も来ているがやはりこの本数の多さには慣れない。
特に今日はこれから向かう故郷の事を考えていたから尚更だ。地元の私鉄では一時間に3本、
通勤時間帯でもせいぜい5本がいいところだろう。
そんな笑みを噛み殺し満員の車両に乗り込む。先ほどまでの車内とは違い明らかに旅行客は少ない。
その代わり目に付くのがスーツに身を包んだサラリーマンだ。
サマースーツとはいえこの暑い中を黒系統の長袖上下で揃え、窮屈極まりないネクタイを締め、通気性が悪い革靴を履く。
スーツの一着も持っていない圭一にとってはおよそ想像し難い。
対する自身の格好はといえば白のフォトプリントTに黒系色のワークパンツとスニーカーというラフないでたちだ。
目の前の席に座るスーツ姿の青年にふと目を落とす。圭一と同じ位の年嵩か若干年下にも見えるが、入社したての新入社員といった気配はない。
薄くストライプの入った上品な風合いの3つボタンのスーツの着こなし一つとってもこなれている。
数年ビジネスマンとして第一線に立ってきたという印象を受ける。事実そうなのだろう。
仮に圭一と同い年だとしてみる。就活に明け暮れ内定を取り、大学を卒業し企業に入社して仕事に慣れ、失敗を繰り返し
そしてそれを乗り越え今日も仕事に向かう― 25年という年月はそれだけの事ができるだろう、いや出来てなければおかしい筈の年齢なのだ。
東京駅には10分も経たずに着いた。先ほどの乗換えより遥かに多い混雑と経路を潜り抜け新幹線乗換口に辿り着く。
乗車券と自由席特急券を買い、改札を抜けて発着案内を仰ぎ見る。
東海道新幹線11時50分発のぞみ69号12両編成広島行き―
これが一番近い時間にある車両のようだ。後15分ほど。並ぶことを考えたらちょうど良い時間だろう。
ホームに向かいエスカレーターを昇る。夏の蒼い空が見えてくる。
窓際に運良く座ることができ、荷物を降ろしペットボトルの水を一口飲む。冷冽な潤いが口内に広がった。
一息ついたところで車内を見回してみる。乗車率90%といったところか。お盆には早いせいかそれほどの混み具合ではない。
しかしそれでも席に着けたのは有難かった。出発直前までバイト先のコンビニで夜勤をしていたから少し疲れていた。
これから起こるであろうことをゆっくりと考えたかったのもある。
列車が動き出し車窓に映し出されたビル群が流れ始める。早速車内販売のカートが通路を行き交う。
圭一はバイト先で買ったパンとおにぎりを食べ、ペットボトルの水を口に含む。
食べ終えてから暫くすると緩やかな眠気が体を包み始めた。ぼんやりとした頭で考え事をする。
郷里のこと、家族のこと、こちらに出てきてからのこと、将来のこと、子供の頃のこと、好きだったあの人のこと――