アットウィキロゴ
あなたの文章真面目に酷評します@wiki
掲示板 掲示板 ページ検索 ページ検索 メニュー メニュー

あなたの文章真面目に酷評します@wiki

猫と彼女の思い出

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
 むかし僕は子どもで、猫のことを不思議に思っていた。ふと気が付くとそこにいて、また気が付くとどこかへいなくなっている。彼らはどこからやって来て、そしてどこへ行くのだろうか。住んでいたのがマンションで、見るのは外の猫ばかりだったから、そういったことが余計に気になったのかも知れない。
 小学5年生になったころ、僕は好奇心をもって学校帰りなどによく猫の後を追いかけるようになった。猫は警戒心が強くて大抵のやつはすぐに逃げてしまう。けれども中にはのんびりとした性格のやつもいて、ついて行っても逃げないこともある。そういう猫に出会えた時はわくわくしながら、なるべくおどかさないように気をつけて、5メートルくらい後ろをそろりそろりとついて行った。
 僕が住んでいたマンションの辺りは、郊外の、住宅がたくさん立ち並ぶ土地だった。公園や空き地が幾つもあった。似たような細い道が何本もあった。溝川があった。線路があった。少し足を運べば林や山もあった。猫はとても物知りで、複雑な道を迷うこと無く歩き続ける。そして時々気に入った場所で休憩をする。
 けっきょく時間が遅くなったり猫にしか進めない場所に来たりで最後までついて行けることはないのだけど、僕はこの遊びを楽しいと思った。何だか猫は僕をどこかへつれていってくれそうな気がした。どこか、特別な場所に。それがどこだか分からないけど、きっと猫は気持ち良さそうにしているだろうと思った。きっと嫌な場所ではないはずだ。僕は大人や友達には頼らないことにした。どうしても自分の力でたどり着きたかったし、何よりそんな場所はないと言われるのが嫌だったからだ。僕は一人で密かに猫を追いかけた。
 同じころに、僕は初めての恋をしていた。新しいクラスで一緒になった、宮沢さんという、優しい、静かな女の子だった。彼女の前にいると胸が苦しくて、それでいて温かいような変な心地がした。話しをしたいのに恥ずかしくて言葉が出てこなかった。頭の中では面白いことを言って彼女を笑わせているのだけど、実際に面と向かうと何を言えばいいのか分からなくなってしまう。かえって意地悪なことを言って泣かしてしまうこともあった。僕は次に会う時までひどく悔やんだ。しかも彼女はとても泣き虫だった。
 僕はやっぱり猫を追いかけていた。猫は本当に色々な道を歩く。背の高い草が茂る空き地だったり、民家の塀と塀との狭い隙間だったり、神社の境内だったり。猫たちは静かな道の方が好きみたいだった。そして草の茂る空き地もアスファルトの道も彼らにとっては同じようなものだった。僕は色々な道を通ったけれど、猫の行き先はまだ見つからなかった。きっと宮沢さんと一緒に歩いたらもっと楽しいだろうと思った。

 季節は飛ぶように過ぎ、やがて1学期も終わりに近くなった。僕は少し宮沢さんと話せるようになり、少し猫を追いかけるのに飽きていた。猫の行き先なんてないのだろう、やっぱり。3ヶ月ほどが経ち、そう思うようになっていた。
 そのころ運よく宮沢さんと日直で一緒になった。日直には帰りの会が終わった後に日誌と窓閉めの仕事があった。僕が窓閉めをすると言うと、彼女は分かったと言った。僕は窓を開けたり閉めたりしながら、聞いてみたかったことを聞いてみた。
「なあ、宮沢って、猫のこと好き?」
なるべく自然に、しかもぶっきらぼうになるように気をつけて。彼女は日誌を書きながら、うん、何で、と答えた。僕は少し迷ったあと、別に、と言った。
 窓からはグラウンドが見え、友達が大勢で野球をしていた。打たれたカラーボールが大きな放物線を描き、喚声が教室までよく届いた。いつもならすぐに参加したいところだったけど、その時は教室に残っているほうがよかった。もう教室には2人だけしかいなかった。彼女が日誌を書き終えなければいいと思った。邪魔をしようかと考えたけどやっぱり止めておいた。
 その内に彼女は日誌張を閉じた。僕は「なあ」ともう一度言った。
「猫の行き先って知ってる?」
と聞いた。
「え?」
「だから猫ってさあ……いや、何でもない」
僕はすぐに後悔した。やっぱり聞くべきじゃなかったと思った。僕はもう小学5年生で、男だった。話そうとして突然、一人で猫を追いかけるのなんてダサいことだという気がしたのだ。それで、他のことを話そうとしたけど思い付かなかった。実際はもっと本当に聞きたいことがあったのだけど、それも当然聞くことはできなかった。尻すぼみになってしまったのが悔しくて、僕はむすっとしながら窓を閉めた。
 そうして僕は猫を追いかけるのを止めた。別にどうってことはなかった。猫を追いかける時間が野球やサッカーやカードゲームやテレビゲームに変わっただけだった。それらの遊びは十分面白かった。止めてすぐは道にいる猫が気になったりしたけど、そういうのも段々となくなっていった。まあけっこう楽しかったな、というくらいの気持ちだった。それでも僕は猫について誰かに聞こうとはしなかった。どこか特別な場所があってほしいという思いがやはり心の奥にはあった。

 やがて一学期は終業して、夏休みに入った。
 それは夏休みの初め頃のことだった。その日はプール教室があって僕は学校へ行った。宮沢さんは来るかなと期待していたけど、その日は欠席だった。
 クロールと平泳ぎを3往復ずつ泳ぎ終えた後に自由時間があった。僕はぷかぷかと水に浮かびながら空を見ていた。空には幾つかの雲があった。雲は大きくて真っ白で、低いところから高いところまで何段にも重なっているようだった。僕は初めソフトクリームを想像し、次にランプの魔人やアニメに出てくるロボットなんかを想像した。それからアイスクリームを食べる魔人やロボットを想像してみた。それはけっこう楽しい様子だったけど、ぼーっと見ている内にいつか雲は姿を変えていって、気付いたら自分と宮沢さんと猫とになっていた。青い空の中で僕と宮沢さんは猫を追い掛けていた。宮沢さんは笑っていた。僕も笑っていた。何故か猫まで笑っているようだった。幼稚だと思ったけど、水の上の僕も少し笑った。猫を追いかけなくなってからまだ何週間か過ぎただけだったけど、それは大分むかしの懐かしいことのような感じがした。太陽が眩しくてくしゃみが出そうになった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最近更新されたスレッド
ウィキ募集バナー