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酷評ヨロ

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
酷評よろしくお願いします。
(※元々縦書きで書いたので、漢数字になっています。すみません)

「助けてほしい」
 そんなメールが届いていたのは午後十時過ぎ。
 そして現在、十時四十分を回ったあたり。風呂上りにマナーモードにしている携帯の着信ランプに気が付いて、開いてみたらこんな一言だった。送信者は大学のサークル仲間。十二月の底冷えする寒さに身を縮めながら、すぐさま返信する。
「どうした」
 送信後、直ぐに再びバイブレーションがなる。
「ちょっと難しい話。匿ってほしい」
 夜十一時も前に匿ってほしいとは何事か。とはいえ、無碍に断るわけにもいかない。了承の旨を返信し、目に付いたゴミを片付け始めた。1LKの部屋はこういう時だけ広く感じる。

 最後のメールからおよそ十分。玄関のチャイムが鳴る。ドアの覗き穴からその姿を確認し、ロックを外した。
「夜分遅くに申し訳ない。事情はちゃんと話すからとりあえず中に入ってもいいかな」
 よく見ると、こいつの肩は少し震えていた。まだ片付けきっていない汚い部屋に通し、施錠をしっかりと確認する。それからキッチンに入り、予め沸かしていたお湯でコーヒーを入れる。リビングに戻ってみると、ソファーで両足を抱えていた。いつもは我が物顔で寝転がっているというのに。
 節電のために出来るだけ使わないようにしていたエアコンのスイッチを入れ、室外機が重低音を響かせ始める。ローテーブルにコーヒーを置き、脱いだコートを預かった。コートからは、パチョリの薄っすら甘く香ばしい香りがした。
「寒いだろ。毛布いるか」
 肩まで伸ばした黒髪が横に揺れる。
「じゃあ、とりあえず、落ち着いたら話を聞こう」

「……兄に、襲われそうになった」
 一言だけ言って、冷めてしまったコーヒーを口に含んだ。
「喧嘩でもしたのか。お前達、二人そろってツッケンドンだから喧嘩くらい日常茶飯事だと思っていたけど」
 そう問うと、少し離れて隣に座っているこちらに尖った視線が突き刺さる。そうそう、二人揃ってこんなガラの悪い目付きとぶっきらぼうな言葉遣いをしているから、お互いに意思疎通が難しくなるのだ。
「いや、なんというか。そうだな、あまり言いたくはないけども喧嘩とかではない方の襲われる、なんだ」
 そう言って顔を背けてしまった。数秒の静寂の後、恐らくは正解にたどり着いた脳みそは、なんと言っていいのやら分からずに、彼女の名前を呟いていた。
「キリ、お前……」

 これ以上何も聞かずにいてやるべきだろうか、聞いてやるべきだろうか。
「なあ、キリ。今日は泊まっていくか。それとも、他の、女の子に頼もうか」
 キリ(樹里)の鋭い視線が再びこちらに向けられる。その意味が分からない。こっちは気を使っているつもりだし、名前だって、女々しい『じゅり』という発音が嫌いだからという理由で呼ばされている『キリ』の呼称も守っている。
「私は、お前が嫌じゃなければここがいい。だから、最初に連絡したんだ。お前のことは信用しているから」
 ボソボソと呟くように喋る彼女に、思わず口元がにやける。
「わかった。泊まっていけばいい。ただし、貸せるのはソファーだ。ベッドは譲れない」
 キリは当然といったように深く頷く。
「うん。そもそもお前の匂いだらけの布団じゃ寝られない」

 彼女の希望でシャワーを貸し、厚手のセーターとジャージの下を貸し、オマケに高級羽毛掛け布団も貸したところで、時刻は午前零時になった。
「さて、寝るか」
 そう言ってテレビを消そうとすると、キリに手を掴まれる。
「まだ何も話してないんだけど」
「言い難くないのかよ。無理して話さなくてもいいよ。察する事にするから」
「いや、どちらかというと相談したい」
 珍しく弱弱しい声で頼まれる。それなら聞きましょう、と、座りなおした。


 私、江藤樹里は兄と両親の4人家族で、両親は共働きだから兄と二人で過ごす時間が長い。特に父は出張でほとんど家にいない。そんな私は、兄のカサカサした性格が感染し、女だというのに言葉遣いは悪いし、お洒落だってほとんど興味ない。まあ、一応身だしなみという事で化粧くらいはするけども。
 兄も私を弟のように扱うし、だからといって何の違和感も問題もなかったから、これまでずっとそうやってきた。いや、正確には今夜まではそうだった。それは、親しい人間なら皆が知っている話だ。
 だというのに、今夜の兄は私を女(異性)として扱おうとした。
 兄妹なんだから異性として扱われるなんておかしな話だと思うし、これまでとは全く正反対な扱いに嫌悪感すら覚えた。
 フリーターと音楽をやっている兄は、私より早く帰った日は夕食を作る。七時過ぎに帰ると、案の定、シチューか何かを作っているところだった。二人とも目をあわすだけで何を言うでもなく、私は二階の自室に戻った。
 着替え終わってバッグの荷物の放り出していると、ドアがノックされた。返事をすると、エプロン姿の兄がドアの隙間から顔を覗かせる。
「おかえり」、「ただいま」と、どうでもいい挨拶をした後、入ってもいいかと問われ、私は頷いた。
 兄は手近なクッションに腰を下ろし、ちょっと来いと手招きする。兄妹会議でもするのかね。と思いつつ座卓を挟んで正面に座る。
「鍋は大丈夫なの」
「火は止めてきた。それと、今日は母さん夜勤だってさ」
 兄は、連絡事項を済ませ、それからこちらに向き直った。
「あのさ、いきなりだけど、俺に彼女いるの知ってるだろ」
 私は頷く。ちょっと猫被りしすぎの点は気に入らないが、見た目は結構可愛い人だ。兄だって外ではどうだか知らないが、家の中ではぐうたらしているのだから、お互いさまだろう。
「最近うまくいってないんだ」
「メッキがはがれてきたとか」
「いや、そういう話じゃなくて。俺、あいつのこと本当に好きなのか分からないんだ」
 タバコを吸いながら坦々と話す兄の口調は、重大発表をしているというよりは日記でも付けているような調子だった。
「と、言われてもな。私は付き合ったことなんてないし、あんたに似たせいで女らしいところなんて無いからアドバイスなんてできない」
「アドバイスしてほしいんじゃないんだ」
「じゃあ、なんだ。話を聞いてほしいだけか」
「う、ん。それもあるけどな。……お前、好きな人いるか」
「いや、いない。というか、男とか女とか、あまり考えないタイプの人間に育っているんだ。あんたの妹は。思春期なんてあったかどうかも疑わしいくらい」
 そういうと、兄は笑って私の肩を叩く。ご愁傷様、と。
「ごめんごめん。だから睨むなよ。それでだ、俺はさ……」
 ニヤついた顔のまま謝り、続けて言いよどむ。
「別れてしまえばいいだろう。好きじゃなくなったなら」
 はっきりしない態度に腹が立つ。うじうじ悩むのはいいが、そうしている間、聞かされているこっちは待つしかないのだ。どうせ誰かにはっきり言ってほしいだけなんだろう。
 別れて後悔すると思うならもう一度彼女さんをしっかり見つめなおせばよかろう。好きなんだと思い込んで恋人を続けたらいいじゃないか。
「簡単に言うなよ。……でもな、お前の言うとおり、別れたいのかもしれない。理由はいろいろあるんだ。俺、定職についてるわけでもないし、好きな事やっているだけで、将来の事とか考えたらアイツを振り回してるだけで幸せにさせてやれるとも思えない。
 それに、アイツと一緒にいて前みたいに楽しいと思えなくなってきてるし。それこそお前と話してる方が気が楽なくらい」
「兄妹だからな。彼女さんより気が抜けて当然じゃないか。あんたの日常生活見たら、きっと大抵の女は幻滅するだろうよ」
「お前も幻滅してるか?」
「いや、幻滅も何も、あんたに幻想も妄想も抱いてないから幻滅のしようがない。あんたが風呂上りにパンツ一丁で尻掻きながら大事なベースをチューニングしてようと、寝癖もなおさず昼までボーっとリビングでテレビ見てようと、私は何も思わないからな」
 当たり前だろう。と、兄に告げる。兄は、苦笑しながら一度座りなおした。
「じゃあ、お前、俺の事好きか。それと、嫌いになったりしないか」
「なんか気持ち悪いな。好きかと聞かれれば嫌いじゃないから好きだし、嫌いになったりしないかと問われれば、まあ、余程の事が無ければ嫌いになることも無いだろうさ」
 そう言って、よく分からん、と手のひらをヒラヒラと振ってみせる。
「じゃあ」
 兄は、座卓に片手をついてこちらに身を乗り出し、反対の手で私を抱き寄せた。
 唇が衝突する。
「うえっ。お前! 何すんだバカ!」
 驚きながらも全力で兄を押し返し、口元をゴシゴシと服の袖で擦る。
 兄は冷めた表情で視線をそらす。
「兄妹なんだから、それくらいでいちいち怒るなよ」
 その言葉に、怒りがこみ上げてくる。
「お前、部屋から出て行けよ。二度と入ってくるな」
 久しぶりに殺意を込めて声を低くする。
 兄は、タバコを近くにあった私の灰皿に押し付けて、素直に出ていった。
 なんだったのだろう。彼女と仲悪くて溜まっているんだろうか。だからといって、いや、むしろ尚のこと、妹に手を出そうとするのはいかがなもんか。本当に兄妹として悪戯のつもりだったのか、それとも女として認識されていたのか。
 しばらく考えてアホらしくなり、気でも違えたんだろ、と思う事にした。

 私の担当である風呂掃除を終え、八時過ぎに兄と夕食を食べた。口は利かなかったし、食べた後はさっさと自分の皿を洗って部屋に戻った。
 気を落ち着かせてリラックスするために、お香を焚いた。シナモンとパチョリで悩み、目を閉じてぱっと選んだパチョリに決めた。
 大学図書館で借りた推理物の小説を読みながら静かに過ごす。
 しばらくして、兄がドア越しに「風呂は」と訊ねてくる。「後でいい」と答えると、兄の気配はすぐに消えた。
 区切りのいいところまで本を読み、キッチンに下りて喉を潤した後、兄が風呂から出たのを確認して入った。
 風呂から上がってみると、兄はリビングのソファーで横になったまま携帯を弄っている。バスタオルで髪を拭きながら兄に尋ねる。
「さっきのことだけどさ」
「なんだ」
「あれはどういう意味だよ」
 兄は携帯をテーブルに放ると、こちらを見上げる。
「お前、自覚無いけど美人だぞ」
「……あっそう。だからって妹に欲情するなんて変態だな」
「欲情じゃないけどさ、ただの愛情表現」
「本気で意味が分からん」
「可愛い妹がいてお兄さん嬉しいなって話」
 テレビに視線を移しながら軽くそんなことを言う。せっかく落ち着いたのに、また腹が立ってきた。
「冗談でも二度とするなよ、変態」
 私は見下ろしながら兄のシャツの胸倉を掴んでこっちを向かせた。兄は少し怒った表情をみせ、逆に私の腕を引っ張った。頭から兄の腹の上に倒れこみ、そのまま兄の上に圧し掛かる体勢になる。
「何すんだバカ!」
 泣きそうになりながら兄の上でもがく。それを力強く抱きしめられ、悔しいが動けなくなった。
「俺、樹里の事好きだよ」
 全身鳥肌が立った。まさか、本当に変態だったとは思いもしなかった。
「私はあんたのこと嫌いだ」
「嫌いでもいいさ。俺が好きなんだから」
 こいつは本気で危ない。恐怖のためか急に胃が痛くなる。必死にもがくが、兄の片腕をどける事も出来ない。兄の片手が私の背中を撫でる。
「っ!」
 あまりの気持ち悪さに吐き気までしてきた。もがく内になんとかフリーになった右手で、躊躇無く兄のわき腹にコブシを叩き込む。
 驚いた兄の顔が歪み、その隙に腕の中から逃げ出した。部屋に閉じこもり、普段しない鍵も掛け、バクバクいってる胸に手を当てて落ち着かせようとするが、全く治まる気配が無い。ドアに耳を当てて廊下の様子を窺うが、何も聞こえない。兄はまだリビングにいるのだろうか。
「いったいなんなんだ。いきなりおかしくなったじゃないか。彼女と何があったんだ」
 言いながら、普段着に着替える。この家にいたら危ない。とりあえず、今日は友達に泊めてもらおう。
 そこまで考えてようやく落ち着いてくる。
 時刻は午後十時。
「連絡取れるやつは……」
 考えなくても、そいつの名前が頭に浮かんだ。一人暮らしだし、いつも暇そうにしてるし、なにより、一番信用しているから。
 兄にバレたくなかったので電話ではなくメールを送った。

 だけど、十分待っても二十分待っても返事が来ない。
「くそっ、あいつ何してんだよ。さっさと返事よこせよ」
 相手は悪くないのに難癖をつける。すでに家を出る準備は済んでいる。着替えくらいは持っていこうと思ったが、出来るだけ身軽にしたかったので、結局荷物は財布と携帯だけにした。コートもマフラーも装備済みである。室内では正直暑い。
 そして、十時四十七分。ようやく携帯電話が振動する。
「どうした」
 あれだけ待たせてたった一言かよ。
 腹立たしいのを押さえて用件だけ返信した。
 今度は直ぐに返事が返ってくる。それを読んで頷く。
「よし、行くぞ」
 兄の部屋も、兄がいるだろうリビングも南向き。私の部屋は北向き。だから、私はサークルで使う体育館シューズを部屋で履き、子どもの頃のように、窓の外に這っているエアコンや雨樋が纏められたパイプを利用して一階まで降りた。そして、そのまま走って家を出た。兄にバレた様子は無い。白い息を吐きながら、なんでこんなことしてるんだろうと一人愚痴をこぼした。


「……ということがあったんだ」
 説明を終えたキリは、溜息を吐いてこちらに視線をやった。
「あー、それで逃げてきたのか。正直な感想を申しますと、とても驚いてる。キリの兄さんてバンドやってて格好いいし、結構憧れてたんだけどな」
「それはやめてほしい」
「うん、まあ、そうだな。それで率直な話、今夜の事は親に言うのか」
「いや、言えない。流石にさ。かといって、親が二人ともいない日なんて結構あるからな。どうしたもんかな。ははっ、振るえが止まらないや。結構怖かったよ」
 思い出したのだろう、既に温まった部屋の中でキリの腕は震えている。手を握ってやろうと伸ばすが、
「大丈夫」
 キリは手を引っ込めて断った。行き先の無くなった手で頭を掻く。
「キリの兄さんは家を出たりはしないのか」
「たぶん、しないと思う。生活費とかは家に入れてるけど、音楽でお金が飛んでいくから」
「じゃあさ、キリが一人暮らししてみたらどうかな。未成年でもないしバイトしてるんだし」
 我ながら良いアイデアだと思ったのだが、彼女は首を横に振る。
「きっと初期費用だけで貯金なくなる。それに、家から近いって理由もあって選んだ大学だから、親も許してくれない」
「じゃあ、女友達に頼んでしばらく泊めてもらうとか」
 うん。と呟いて、そのまま黙ってしまう。どうしたんだろう。彼女に女友達がいないわけじゃない。
「私は、……できればお前がいい」
「え」
「お前なら信用できる」
 彼女の目は真っ直ぐだった。言葉が出ない。
「俺、男だけど」
「だから、『信用』してる。けど、嫌ならいい」
「いや、嫌じゃないけど」
「ああ、勘違いしなくていいぞ。私がお前に惚れているとかそういう話じゃないから」
「それはなんとなく分かってる」
 答えるとキリが小さく笑みをこぼした。
「じゃあ、頼むよ」

 確かに俺達は大学でも外でもよくつるんでいる。おそらく、知らない人が見れば恋人どうしに見えるかもしれない。でもお互い、不思議とそういった感情が生まれない。男っぽいとはいえ、間違いなく美人に属するキリ相手にそういった感情が芽生えないのは、もしかしたら変なのかもしれない。
 これだけは不思議としかいえない。
「ねえ」
 話が落ち着いて息抜きにテレビを見ていると、キリがベッドの方にやってきて隣に座った。
「ん?」
 何か悪戯でも思い浮かんだのか、ニヤニヤと笑っている。
「もしかして、お前、私の事好きか?」
「は?」
 アホな声が出た。
「いや、私は正直なところ、お前にも他の誰にも異性として付き合いたいとか、思ってないんだ。けどさ、それはきっと私が変だからで、もしかしたら、お前は私の事好きなのに、私がこんなだから言い出せないのかなと思ったわけだ。そうだな、なんなら形式だけでも彼氏彼女でもいいぞ。尤も、お手手つないでー、なんてのは御免だけど」
「いきなり何を言い出すのかと思えば……。でもな、残念ながら俺も同じだよ。今まで付き合った子はいるけど、お前とはそういう関係にはならない気がする。なんというか、そういう関係になったら俺達は終わるような気がする」
「うん」
 キリは、俺の言葉に強く頷く。
「まったくもって同感だ」

「さて、安心できたし眠くなってきた。私はもう寝る」
「わかった。じゃあ、電気消すぞ」
 お互いソファーとベッドにもぐり、電気を消した。
「ねえ、明日遊びに行かない」
「明日は一限から講義だって。お前も同じ講義取ってるだろ、ジュリ」
「……だから、その呼び方はやめろって何度も」
「おやすみ、樹里」
「はいはい、おやすみロミオ」

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