- はじめに
- 最初に結論
- 規約の存在と、規約から導ける結論は別である
- Scratch利用規約第8条の意味
- 第8条は投稿者の権利確認を要求している
- 投稿者による表明・保証
- 音楽作品とカバー曲に関する第8条
- Scratch利用規約第12条とDMCA
- Scratch利用規約第19条の準拠法と裁判地
- 「日本法は一切関係ない」という主張--->属地主義の原則から日本法は関係しない。日本国内では日本のサーバへのアップロード、送信可能化、公衆送信が行われていない。
- ベルヌ条約と各国の著作権法
- フェアユースは自動的に成立しない
- スクリプト演奏とMIDI演奏
- YouTube・JASRAC・NexToneの契約
- YouTubeの収益化審査と著作権判断
- 収益分配と著作権侵害
- 歌詞の掲載
- アニメキャラクター画像と引用
- 親告罪と民事責任
- 日本初・収益実績・未成年者の収益化
- 相手の主張のうち、認められる部分
- 総合評価
- まとめ
- 参考資料
はじめに
本記事では、Scratch作品や音楽演奏動画のYouTube収益化をめぐる説明文と、それに対して追加された反論を取り上げる。
検討対象は、主に次の論点である。
- Scratch利用規約第8条、第12条、第19条の意味
- ScratchのDMCAポリシーと米国著作権法
- YouTubeとJASRAC・NexToneの契約
- スクリプト演奏、MIDI演奏、自作録音の権利関係
- ベルヌ条約とアメリカのフェアユース
- アニメキャラクター画像と著作権法上の引用
- YouTubeの収益化審査と著作権判断
- 親告罪と民事上の著作権責任
- 日本での利用と外国サービスの関係
本記事は、特定の個人を攻撃することを目的とするものではない。
相手の主張を取り上げる場合は、相手がそのように説明しているという事実と、本記事の検討結果を区別する。
本記事は法律相談や法的鑑定ではない。個別の動画、音源、歌詞、画像、キャラクター、Scratchプロジェクトについて、著作権侵害の成立を最終的に判断するものでもない。
最初に結論
Scratchの利用規約に、デラウェア州法、DMCA、デラウェア州ニューキャッスル郡の裁判所に関する条項があること自体は事実だ。
しかし、次の点は区別する必要がある。
- Scratchと利用者との契約関係
- 第三者の著作権者との権利関係
- 著作権侵害に適用される法律
- 裁判所の管轄
- Scratchが行うDMCA対応
- フェアユースが成立するかどうか
- YouTubeの収益化審査
- 著作権者による申立てや訴訟
Scratchの利用規約に米国関連の条項があることから、直ちに次の結論が導かれるわけではない。
Scratchに投稿すれば、第三者の楽曲、歌詞、画像、キャラクターを無許諾で自由に利用できる。--->Scratchは非営利で教育目的なのでフェアユースになりやすい。
アメリカのサーバーに投稿すれば、日本法は一切関係ない。--->その通りである。
Scratchの利用規約により、アメリカのフェアユースが自動的に成立する。-->Scratchは非営利で教育目的なのでフェアユースになりやすい。
YouTubeの収益化審査に通れば、動画内のすべての著作物について問題がない。--->YouTubeの著作権ポリシーを満足していれば動画内のすべての著作物について問題がない。
Scratch利用規約第8条は、むしろ投稿者が投稿コンテンツの各要素について必要な権利または許諾を持っていることを要求している。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
また、カバー曲について、元となる音楽作品に関する権利を確保してから投稿する責任を投稿者に負わせている。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
したがって、Scratchの利用規約を根拠に、第三者の著作物を自由に利用できると一般化することはできない。
規約の存在と、規約から導ける結論は別である
相手は、Scratchの利用規約に米国関連の条項があることを根拠として、次のように主張している。
Scratchの利用規約はデラウェア州法に準拠している。
ScratchはDMCAと米国著作権法に従っている。
Scratchと利用者の紛争はデラウェア州の裁判所で扱われる。
したがって、Scratchに投稿された作品にはアメリカの著作権法とフェアユースが適用される。--->当然である。
最初の三つは、規約の記載内容として検討できる。
しかし、最後の結論は別途検討が必要だ。
利用規約の存在、準拠法、裁判地、DMCAの手続、第三者の著作権侵害、フェアユースの成否は、それぞれ異なる法律問題である。
一つの条項を根拠にして、すべての問題がアメリカ法に一本化されるとは限らない。--->アメリカ法に一本化しないとScratchの使用は許可されない。これを疑うなら直ちにScratchの使用を停止しなければならない。
Scratch利用規約第8条の意味
投稿者は著作権を保持する
Scratch利用規約第8条は、ユーザーが投稿したUser Contentについて、投稿者が保有する著作権その他の権利を保持すると定めている。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
ただし、投稿者は、規約に定められた範囲でScratchにライセンスを与える。
つまり、次のような関係である。
投稿者が著作権を失うわけではない。
しかし、投稿者は規約に基づいてScratchに一定の利用許諾を与える。
このScratchへのライセンスは、投稿者が合法的に許諾できる権利の範囲を前提としている。
投稿者が持っていない第三者の権利まで、Scratchに移転できるわけではない。
例えば、投稿者がアニメ画像の著作権を持っていない場合、投稿者がScratchに作品を投稿したことだけで、そのアニメ画像についてScratchに完全な著作権を移転できるわけではない。
他のユーザーへのライセンス
第8条では、投稿されたUser Contentについて、他のScratchユーザーに一定の利用許諾が与えられる。
ただし、その利用は、規約上、原則として次の範囲に限定されている。
solely for personal use within the Service
つまり、他のユーザーによる利用は、
- 個人的な利用であること
- Scratchのサービス内で行われること
- Scratchの利用規約に従うこと
が前提となる。
したがって、このライセンスを根拠にして、他のユーザーが次の行為を自由にできるとは限らない。
- Scratch作品をYouTubeへ転載すること--->オフラインでScratchアプリで作ればYpuTubeへ投稿できる。
- YouTubeで広告収益を得ること--->オフラインでScratchアプリで作ればYpuTubeで広告収益を得られる。
- 他のサービスで販売すること--->オフラインでScratchアプリで作れば他のサービスで販売できる。
- Scratch外で無制限に配布すること--->オフラインでScratchアプリで作ればScratch外で無制限に配布できる。
Scratch内での個人的な利用を許可する条項と、Scratch外での商用利用を無制限に許可する条項は別である。--->Scratch WEBサイトに投稿しなければScratch外での商用利用を無制限に許可することになる。
Scratch Foundationへの広いライセンス
第8条では、Scratch Foundationに対して、次のような広い利用が許可されている。
- 公開表示
- 公開実行
- デジタル音声送信
- 複製
- 配布
- 派生作品の作成
- サービス提供
- 社内業務
- サービスの広告、マーケティング、宣伝
- 製品やサービスの改善
- 新しい製品やサービスの作成
- AIモデルのトレーニング
また、サブライセンスを付与・承認する権利も規定されている。
したがって、Scratch Foundationが投稿作品をサービス運営、宣伝、改善、AIモデルのトレーニングなどに利用できる可能性があることは認められる。
ただし、この条項だけから、Scratch Foundationが投稿作品を無制限に収益化できる、またはどのような目的でも利用できると断定することはできない。--->「その他使用及び利用する権利」はどのような目的でも利用できることを意味している。
規約上のライセンスは、サービス提供、宣伝、改善、新製品・新サービスの作成などの目的と結び付いている。
具体的な利用がライセンスの範囲内にあるかどうかは、利用目的、利用態様、表示方法、外部サービスとの関係などを個別に確認する必要がある。
「盗作」と呼べるかどうか
Scratch Foundationに規約上の利用ライセンスがある場合、規約に基づく利用を直ちに「盗作」と呼ぶことはできない。--->盗作目的そのものである。
「盗作」と表現するためには、少なくとも次の点を具体的に示す必要がある。
- どの作品が利用されたのか
- どの部分が複製されたのか
- 誰が利用したのか
- どの目的で利用されたのか
- 規約上のライセンスの範囲内か
- ライセンスの範囲を超えているか
- 自分の作品として発表されたのか
- 投稿者の表示や権利が不当に扱われたのか
一方、Scratch Foundationに広いライセンスがあることと、第三者の著作物まで自由に利用できることは別問題だ。--->盗作したことによる第三者の著作権侵害の賠償責任はユーザーが負う。
投稿者が持っていない楽曲、画像、キャラクターの権利まで、Scratch Foundationに移転するわけではない。
第8条は投稿者の権利確認を要求している
第8条には、投稿者が投稿コンテンツのすべての要素について、所有者であるか、十分な許諾を持っていなければならないという規定がある。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。著作権法はこのフェアユースの原理が前提となる。
規約には、次の趣旨が書かれている。
投稿するUser Contentのすべての要素について、権利者であるか、権利を許諾する十分な権限を持っていなければならない。
ここでいう要素には、次のようなものが含まれ得る。
- 楽曲
- 歌詞
- 原盤音源
- 演奏
- 効果音
- 背景画像
- アニメキャラクター
- 写真
- 動画
- ロゴ
- 他人の文章
- 他人の作品
- 音声や録音物に含まれる音楽
- 元となる音楽作品
また、規約は、録音物に含まれる音楽だけでなく、録音物の基礎となるUnderlying Musical Worksについても権利確認を要求している。
これは、スクリプト演奏やMIDI演奏であっても、元となる楽曲の権利が無関係になるわけではないことを示している。
投稿者による表明・保証
第8条では、投稿者が次の内容を表明・保証する構造になっている。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
- 投稿者がコンテンツの作者または所有者であること
- 必要なライセンス、権利、同意、許諾を持っていること
- Scratchと他のユーザーが規約上の利用をできる権限を持っていること
- 投稿が第三者の権利を侵害しないこと
- Scratchが第三者から追加の許諾を取得する必要がないこと
- Scratchが第三者に使用料や補償金を支払う必要がないこと
- 投稿によってScratchが法律や規則に違反しないこと
つまり、規約の構造は、
Scratchに投稿すれば第三者の著作物を自由に使える
というものではない。
むしろ、
投稿者が必要な権利や許諾を持っていることを前提として、Scratchが投稿コンテンツを利用する
という構造である。
音楽作品とカバー曲に関する第8条
第8条には、音楽作品と録音アーティストに関する特別な規定もある。
規約は、次の趣旨を定めている。
自分が音楽作品を作ったというだけで、Scratchや他のユーザーに必要なライセンスを与える権利があるとは限らない。
これは、作曲者や作詞者本人であっても、次のような事情があれば自由に許諾できない場合があることを示している。
- 音楽出版社に権利を譲渡している
- 著作権管理団体に権利を委託している
- レコード会社との契約がある
- 共作者がいる
- 編曲者など別の権利者がいる
- 契約によって利用方法が制限されている
さらに、カバー曲については、次の趣旨が明記されている。
カバー曲を演奏してScratchに投稿する場合、投稿前に元となる音楽作品について必要なすべての権利を確保する責任が投稿者にある。C この規定は、今回の問題と直接関係する。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
スクリプト演奏、MIDI演奏、ピアノ演奏、複数楽器による演奏であっても、元の曲のメロディーや構成を利用しているなら、元となる音楽作品の権利が問題になる可能性がある。--->フェアユース規定は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
自分で演奏することで、市販CDなどの原盤音源をそのまま使う問題を避けられる場合はある。
しかし、それは元の楽曲について必要な権利が不要になるという意味ではない。
Scratch利用規約第12条とDMCA
第12条には、次の内容が定められている。
- Scratch Teamは第三者の知的財産権を尊重する
- 本サービス上または本サービスを通じた侵害行為を容認しない
- 著作権侵害の申立てについてDMCAポリシーを確認する
- インターネットサービスプロバイダーに適用されるDMCA第512条に従う
この規定は、Scratchが著作権侵害の申立てに対応するための仕組みを定めたものである。
DMCAポリシーは、利用者に第三者の著作物を自由に使う包括的な許可を与えるものではない。--->DMCAポリシーには「1976年著作権法(17 USC § 107)に規定されている「フェアユース」の原則も考慮に入れてください。」とある。
また、DMCAの手続が存在することから、投稿作品がすべて適法であるともいえない。--->DMCAポリシーには「1976年著作権法(17 USC § 107)に規定されている「フェアユース」の原則も考慮に入れてください。」とある。
Scratchに第三者の権利者から申立てがあれば、Scratchは投稿コンテンツを削除、ブロック、編集、アクセス制限する可能性がある。
したがって、
DMCAがあるから、Scratchに第三者の楽曲や画像を自由に投稿できる。
という説明は、第12条の内容とは合わない。--->DMCAポリシーには「1976年著作権法(17 USC § 107)に規定されている「フェアユース」の原則も考慮に入れてください。」とある。
Scratch利用規約第19条の準拠法と裁判地
第19条には、Scratchの利用規約がデラウェア州法に準拠するという規定がある。
また、利用者とScratch Teamとの間の一定の訴訟や裁判手続について、デラウェア州ニューキャッスル郡の州裁判所および連邦裁判所の管轄に服するという規定がある。
このため、次の点は事実である。
- Scratchの利用規約にはデラウェア州法の準拠条項がある
- Scratchと利用者との契約関係ではデラウェア州法が重要になる
- Scratchと利用者との一定の紛争についてデラウェア州の裁判所が指定されている
しかし、ここから次の結論が自動的に導かれるわけではない。
第三者の著作権者も必ずデラウェア州の裁判所で訴えなければならない。--->Scratch Teamと利用者と著作権者はデラウェア州の裁判所に管轄権があり、裁判が行われる。Scratch Teamと利用者だけでは裁判にならない。
第三者の著作権侵害には必ずデラウェア州法だけが適用される。--->準拠法は利用規約に明記されている。
アメリカのフェアユースが自動的に適用される。--->準拠上はアメリカ法である。
日本から投稿した利用者の行為はすべてアメリカで行われたことになる。--->アップロードによる著作権侵害はアメリカで行われたことになる。なぜならアメリカのサーバーに著作物を複製したからである。その他送信可能化、公衆送信もアメリカのサーバー内で行われている。
この規約の当事者は、基本的にScratch TeamまたはScratch Foundationと利用者である。--->当事者には著作権者も含まれる。
一方、作曲者、作詞者、出版社、レコード会社、アニメ会社、画像の著作権者などは、通常、Scratch利用規約の当事者ではない。--->当事者には著作権者も含まれる。
したがって、第三者の著作権者がScratchの利用規約に当然に拘束されるとは限らない。--->当事者には著作権者も含まれ、利用規約に拘束される。
「日本法は一切関係ない」という主張--->属地主義の原則から日本法は関係しない。日本国内では日本のサーバへのアップロード、送信可能化、公衆送信が行われていない。
相手は、Scratchがアメリカのサービスであり、サーバーも外国にあるため、日本法は関係ないと主張している。--->属地主義の原則からアメリカ法が適用される。アメリカ国内ではアメリカのサーバへのアップロード、送信可能化、公衆送信が行われている。
しかし、次の問題は区別する必要がある。
- 刑事事件における日本刑法の適用範囲
- 民事上の著作権侵害
- 差止請求
- 損害賠償請求
- 契約違反
- プラットフォーム上の削除
- 収益の移転
- 公開地域の制限
日本の刑法に国外犯の規定があるとしても、それだけで民事上の著作権問題がすべて消えるわけではない。--->民事上の問題はアメリカの裁判所や警察に訴える必要があり、当然アメリカ法が適用される。
また、サーバーの所在地だけで、投稿者の所在地やアップロード操作の場所まで決まるわけではない。--->投稿者の所在地やアップロード操作の場所は関係しない。
日本にいる利用者が、日本国内からパソコンやスマートフォンを操作して作品を投稿した場合、その操作や送信行為まで、すべてアメリカ国内で行われたことになるわけではない。--->投稿者の所在地やアップロード操作の場所は関係しない。アメリカのサーバーへのアップロードは公衆送信とは違い、ただのリモートコントロールであり、複製行為が日本国内で行われていないため、著作権を侵害しない。一方、複製行為はアメリカのサーバー内で行われているから国外犯の著作権侵害である。
一方で、日本から投稿したから必ず日本法だけが適用されるとも限らない。--->投稿者の所在地やアップロード操作の場所は関係しない。
実際には、次のような事情を分けて検討する必要がある。
- 投稿者がどの国にいるか
- どの国から投稿したか
- 投稿操作がどこで行われたか
- サーバーや配信設備がどこにあるか
- 作品がどの国で閲覧されたか
- どの国の利用者を対象としたか
- どの国で権利者が保護を求めるか
- 侵害の結果がどの国で発生したか
- 利用規約がどの範囲を定めているか
したがって、サーバーの所在地だけを理由に、
日本法は一切関係ない。
と断定することはできない。--->投稿者の所在地やアップロード操作の場所は関係しない。サーバーの所在地が法律の属地主義により適用法が決まる。
ベルヌ条約と各国の著作権法
ベルヌ条約は、加盟国間で著作物を保護するための国際条約である。
外国人の著作物について、自国民の著作物と同等の保護を与える内国民待遇などが重要な原則となっている。
しかし、ベルヌ条約は、加盟国の著作権法を完全に同一にする条約ではない。--->完全に同一にする必要はない。ベルヌ条約で著作権法の基本を規定しているからである。その条約の規定に従う。
各国には、次のような違いが残っている。
- 引用の要件
- 著作権の例外
- フェアユースの有無
- 保護期間
- 損害賠償制度
- 差止制度
- 刑事罰
- 裁判手続
- 権利制限の範囲
そのため、ベルヌ条約加盟国の間でも、同じ利用行為が国によって異なる法的評価を受ける可能性はある。
日本で適法なら、ベルヌ条約加盟国ではすべて適法だ。
日本で違法なら、ベルヌ条約加盟国ではすべて違法だ。
という説明は正確ではない。
ベルヌ条約は、各国の著作物を保護する共通の枠組みを定めるものであり、各国の著作権法を一つに統一するものではない。--->ベルヌ条約は枠組みではない。きちんとルールが規定されている。
フェアユースは自動的に成立しない
相手は、アメリカの著作権法が適用されれば、フェアユース規定も自動的に適用されると主張している。--->最終的にはアメリカの裁判所の裁判官の総合的な判断でフェアユースか否かが決定される。著作権者は訴える前にフェアユースを回避できるか否かを検討し、不利な場合は訴えない。訴えなければ親告罪にならない。
しかし、「フェアユースという制度を検討できる可能性があること」と、「具体的な利用がフェアユースとして認められること」は別である。
仮にアメリカ法が問題になる場合でも、一般に次のような事情が検討される。
- 利用の目的と性質
- 商業利用か非営利利用か
- 元の著作物の性質
- 利用した部分の量
- 利用した部分の重要性
- 元の著作物の市場への影響
- 新しい目的や変形性の有無
Scratchが非営利・教育目的のサービスであることは、一つの事情になり得る。
しかし、Scratch作品をYouTubeに投稿して広告収益を得る行為は、Scratch Foundationのサービス目的とは別の利用行為である。
また、アニメ画像を装飾として表示する行為や、歌詞を説明欄に全文掲載する行為も、それぞれ別の利用として検討する必要がある。
したがって、
Scratchは教育目的だから、投稿作品はすべてフェアユースだ。--->フェアユースになる可能性が高い。
アメリカのサーバーにアップロードしたから、フェアユースだ。--->自動的にフェアユース規定が適用される。
規約がデラウェア州法を指定しているから、フェアユースだ。--->デラウェア州の法律にはフェアユース規定があり、適用される。
という結論は導けない。
スクリプト演奏とMIDI演奏
スクリプトによって音を鳴らし、市販CDや配信音源をそのまま使用していない場合、原盤音源を直接コピーした場合とは関係する権利が異なる。
この点で、相手が、
原盤音源を使用していない。
と説明すること自体は、一定の意味がある。
しかし、原盤を使用していないことは、元の音楽作品の権利が消えることを意味しない。
スクリプト演奏やMIDI演奏でも、次の要素が関係する可能性がある。
- 元の曲のメロディー
- 曲の構成
- 歌詞
- 編曲
- 翻案
- 音楽作品の利用方法
- 音楽と映像の組み合わせ
- 演奏の録音
- 公衆送信
したがって、
原盤音源を使っていない。
という説明と、
元の楽曲について許諾が必要ない。--->フェアユース規定が適用されるなら許諾は必要ない。
という説明は同じではない。
Scratch利用規約第8条も、カバー曲について元となる音楽作品の権利を確保する責任を投稿者に課している。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
YouTube・JASRAC・NexToneの契約
YouTubeとJASRACやNexToneとの契約によって、管理対象の音楽著作物について、一定の利用が処理される場合がある。
ただし、次のように一般化することはできない。
YouTubeとJASRACが契約しているから、どの楽曲でも自由に使える。--->著作権管理団体に委嘱・管理されている楽曲のみである。
YouTubeとJASRACが契約しているから、すべての演奏動画に問題がない。--->著作権管理団体に委嘱・管理されている楽曲は問題ない。
確認が必要になる事項には、次のようなものがある。
- 楽曲が管理対象か
- 作曲者・作詞者の権利が管理されているか
- 利用地域が契約の対象か
- YouTube上の利用方法が対象か
- 編曲や翻案が含まれるか
- 歌詞を掲載しているか
- 原盤音源を使用しているか
- キャラクター画像や映像を使用しているか
- ロゴを使用しているか
- 音楽と映像を組み合わせているか
JASRACやNexToneとの契約は、基本的に管理団体が管理している権利の範囲に関係する。--->管理団体に委嘱・管理されている権利は作曲権と作詞権のみである。
アニメキャラクター画像、アニメ映像、ロゴ、歌詞、原盤音源などの権利まで、音楽管理団体との契約で自動的に処理されるわけではない。--->音楽と歌詞以外は正当な引用として著作権を侵害しない。。
また、YouTube上の契約が、Scratchへの投稿を自動的に許可するわけでもない。--->そんなことは誰も言っていない。
サービスが異なれば、適用される契約と利用条件も異なる。
YouTubeの収益化審査と著作権判断
YouTubeのパートナープログラム審査、収益化審査、Content ID、自動検出、担当者による確認、権利者の申立て、裁判所の判断は、それぞれ別の制度である。
収益化審査に通過したことは、通常、次のような意味にとどまる。
- パートナープログラムの条件を満たした
- 広告掲載に適した内容と判断された
- 再利用コンテンツの条件に反しないと判断された
- YouTube上のポリシーに反しないと判断された--->これには著作権ポリシーも含まれる。
それは、
動画内のすべての楽曲、歌詞、画像、キャラクターについて、裁判所が利用許諾を認めた。--->裁判所ではなく、YouTubeの運営が認めた。
という意味ではない。
審査通過後も、次のような対応を受ける可能性がある。--->投稿動画本数は1万2千本以上あり、1つの動画が問題になっても大勢に影響はない。
- Content IDの申立て
- 収益の権利者への配分
- 動画の地域制限
- 動画の削除
- 著作権警告
- 収益化停止
- 権利者からの連絡や請求
YouTubeが自動システムや人による確認を行っているとしても、それは裁判所による著作権侵害の最終判断とは異なる。--->著作権を侵害していないと判断しているのだから裁判所には訴えない。
収益分配と著作権侵害
Content IDなどによって権利者と収益を分配している場合、それはYouTube上で権利者が選択した対応の一つである。
しかし、
収益を分配しているから、著作権侵害ではない。--->著作権者が訴えないから親告罪は成立しない。
とは直ちにいえない。
収益分配が行われる理由には、次のようなものがある。
- 権利者が削除ではなく収益化を選択している
- YouTube上の制度で処理している
- 現時点で削除請求をしていない
- 音楽については処理しているが、画像については処理していない--->画像の使用は正当な引用である。
- 他の権利については別途確認していない
音楽について収益分配が行われていても、同じ動画に含まれるアニメ画像、歌詞、ロゴ、映像などの権利まで処理されたことにはならない。--->画像の使用は正当な引用である。
「削除されても構わない」「収益を得られればよい」という本人の価値判断と、著作権法上の適法性は別問題である。
歌詞の掲載
歌詞は通常、作詞者の著作物である。 演奏動画で歌っていない場合でも、動画の説明欄などに歌詞を全文掲載する行為は、演奏とは別の利用として問題になる可能性がある。--->著作権管理団体との包括的利用契約を締結している。
したがって、
歌唱を含まない演奏動画だから、歌詞を掲載しても自由だ。--->著作権管理団体との包括的利用契約を締結している。
とはいえない。
歌詞の掲載については、次の点を別途確認する必要がある。--->著作権管理団体との包括的利用契約を締結している。
- 歌詞の著作権者
- 管理団体の管理範囲
- 掲載するサービス
- 掲載地域
- 掲載範囲
- 掲載方法
- 利用許諾の有無
アニメキャラクター画像と引用
アニメキャラクターの画像を数枚使用したことだけで、直ちに著作権法上の引用になるわけではない。
引用の成否については、一般に次のような事情が問題になる。--->すべての正当な引用の条件を満たしている。
- 引用の必然性
- 主たる内容と引用部分の関係
- 主従関係
- 明瞭な区別
- 必要最小限の範囲
- 出典表示
- 公正な慣行
- 批評、研究、報道などの目的との関係
- 著作権者の利益への影響
次の事情だけでは、引用の成立は決まらない。--->すべての正当な引用の条件を満たしている。
- 画像が数枚だけである
- 音楽が主で画像が従である
- アニメの題名を表示した
- 作曲者や作詞者を表示した
- 画像を曲のイメージに使った
- YouTubeのポリシーに違反していない
特に、批評や研究のためではなく、動画の装飾や視聴回数の増加を目的として画像を使っている場合、引用の必然性や正当な範囲が問題になる可能性がある。--->すべての正当な引用の条件を満たしている。
YouTubeのポリシーを満たしたという判断と、著作権法上の引用に該当するかどうかは別である。--->引用も含めてYouTubeの著作権ポリシーに規定されている。
親告罪と民事責任
相手は、
著作権法違反は親告罪だから、著作権者が訴えなければ問題ない。
と主張している。
しかし、親告罪は、一定の刑事事件について、告訴がなければ刑事訴追できない場合があるという刑事手続上の問題である。
親告罪であることから、次の結論は導けない。
- 告訴されなければ著作権侵害ではない
- 権利者が訴えなければ許諾を得たことになる
- 民事上の責任がなくなる
- 動画の削除や地域制限を受けない
- 収益化が停止されない
著作権者が裁判を起こしていない場合、それは「現時点で裁判を起こされていない」という事実にとどまる。
権利者が訴えない理由には、費用、時間、規模、証拠、プラットフォーム上の申立てで足りること、対応を見送っていることなどがある。--->だから親告罪なのである。
また、著作権に関する民事事件では、通常、「有罪」や「無罪」ではなく、次の事項が問題になる。
- 著作権侵害の有無
- 差止めの可否
- 損害賠償の有無
- 不当利得の返還
- 動画や作品の削除
- 利用地域の制限
刑事上の告訴の有無と、民事上の権利侵害の有無は分けて考える必要がある。--->相手国の裁判所や警察に訴えることになる。当然相手国の法律に従う。
日本初・収益実績・未成年者の収益化
収益額と入金額
本人が公開した収益額や入金額は、本人の説明として紹介することができる。
ただし、第三者が確認できる資料が示されていない場合、客観的に確認済みの事実として断定することはできない。--->断定する必要はない。
記事では、次のように記載するのが適切である。
本人の説明によれば、累計収益は約74,000円である。
本人の説明によれば、複数回の入金があった。
本人の説明によれば、一部の動画では権利者との収益分配が行われている。
日本初という主張
「日本で初めてScratch作品だけでYouTubeの動画広告収益化を達成した」という主張は、本人の説明だけでは確認できない。
YouTubeパートナープログラムの条件が厳しいことや、達成が困難であることは、日本初の証明にはならない。--->証明する必要はない。
日本初と断定するには、少なくとも次の情報が必要になる。
- 「Scratch作品だけ」の定義
- 日本のScratcherの範囲
- 調査対象期間
- 過去の達成者の調査方法
- 広告収益化の定義
- 客観的な確認資料
確認できない場合は、次のように書くべきである。
本人は、日本で初めてScratch作品だけでYouTubeの動画広告収益化を達成したと説明している。ただし、本記事では、その主張を独立して確認できる資料を確認していない。
未成年者の収益化
未成年者の利用や収益の受け取りについては、次の条件が関係する。
- YouTubeの年齢条件
- Googleアカウントの条件
- YouTubeパートナープログラムの条件
- AdSenseの名義条件
- 保護者の関与
- 支払いを受ける人の条件
- 税務上の扱い
- 国や地域の条件
親の口座を利用すれば、すべての中学生や高校生が一律に収益化できると一般化することはできない。--->YouTubeの規約を参照。
最新の公式規約と、対象地域の条件を確認する必要がある。
相手の主張のうち、認められる部分
相手の説明のすべてが誤りというわけではない。
次の点は、条件付きで認められる。
- Scratch Foundationがアメリカの団体であること
- Scratchの利用規約にデラウェア州法の条項があること
- Scratchの利用規約にDMCAに関する条項があること
- Scratchと利用者の一定の紛争についてデラウェア州の裁判所が指定されていること
- スクリプト演奏が市販CDの原盤音源の丸コピーとは異なること
- YouTubeで権利者への収益分配が行われる場合があること
- 著作権管理団体が管理する楽曲について一定の利用が処理される場合があること
- Scratch作品を外部サービスで利用できる場合があること
- 投稿者が自分の権利を持つ作品について利用許諾を出せる場合があること
ただし、これらの事実から、次の結論を導くことはできない。
第三者の楽曲や画像を自由に利用できる。--->フェアユースや正当な引用が認められれば、である。
日本法は一切関係ない。--->その通りである。
フェアユースが自動的に成立する。--->アメリカの裁判所の裁判官の総合的な判断による。
キャラクター画像は数枚なら必ず引用になる--->著作権法の引用規定を参照。
YouTubeの審査に通れば著作権上安全である。--->YouTubeno著作権ポリシーを満足している。
総合評価
今回の主張では、Scratch利用規約、DMCA、YouTubeと音楽管理団体との契約、フェアユース、引用、親告罪、YouTubeの審査が一つの根拠として扱われている。
しかし、これらはそれぞれ目的と適用範囲が異なる。
Scratch利用規約第8条は、投稿者が投稿コンテンツの各要素について必要な権利または許諾を持つことを要求している。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
さらに、カバー曲について、元となる音楽作品の権利を確保してから投稿する責任を投稿者に負わせている。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
第12条は、Scratchが第三者の知的財産権を尊重し、侵害行為を容認せず、DMCAに基づく申立てに対応することを定めている。
第19条は、Scratchと利用者との契約関係について、デラウェア州法やデラウェア州の裁判所を定めている。
これらの規定から、Scratchがアメリカとの強い関係を持つことは確認できる。
しかし、それだけで、第三者の著作権問題についてアメリカ法だけが自動的に適用されるとはいえない。--->裁判ではScratch Team、ユーザー、著作権者が裁判所の管轄権に服することになる。Scratch Teamとユーザーだけでは裁判にならない。
また、ベルヌ条約やScratchの利用規約によって、アメリカのフェアユースが自動的に成立するわけでもない。--->最終的にアメリカの裁判所の裁判官の総合的な判断による。
YouTubeの収益化審査、Content ID、収益分配、権利者の申立ては、裁判所による著作権判断とは異なる。===>YouTubeで著作権ポリシーを満足していれば問題ない。
したがって、相手の説明は、Scratchがアメリカの団体であることや、利用規約に米国関連の条項があることを根拠に、著作権、適用法、フェアユース、引用、YouTube審査の意味を広げすぎていると評価できる。
まとめ
Scratchの利用規約が示しているのは、第三者の著作物を自由に利用できるという許可ではない。---。DMCAポリシーを参照。
規約は、投稿者が投稿コンテンツの各要素について必要な権利または許諾を持っていることを前提としている。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
カバー曲については、元となる音楽作品に関する権利を確保してから投稿する責任が投稿者にあると明記されている。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されたユーザーの権利であり、利用規約に優先する。
また、Scratch Foundationには投稿コンテンツをサービス提供、宣伝、改善、AIモデルのトレーニングなどに利用する広いライセンスが与えられている。
ただし、そのライセンスの存在は、Scratch Foundationが第三者の著作物を無制限に利用できることや、具体的な利用が必ず「盗作」になることを意味しない。--->「その他の使用および利用する権利」には作品を盗作して動画化し、YouTubeに投稿して収益化する権利が含まれている。
最も正確な整理は、次のとおりである。
投稿者の著作権は残るが、規約に基づいてScratchに広い利用許諾を与える。
一方、第三者の著作物を含む場合、投稿者は必要な権利または許諾を持っている必要がある。--->フェアユースの権利は著作権法で保障されており、利用規約に優先する。
Scratchの利用規約、DMCA、YouTubeの契約、フェアユース、引用、親告罪、収益化審査は、それぞれ別の制度である。
いずれか一つの制度を根拠に、第三者の楽曲、歌詞、画像、キャラクターを無許諾で自由に利用できるとはいえない。
本記事は、特定の個人への嫌がらせ、脅迫、個人情報の掲載、作品やアカウントへの攻撃を促すものではない。
本人の主張、公式規約、著作権管理団体の説明、公的機関の情報、裁判例を区別し、個別の作品については断定を避けるものだ。
具体的な作品の適法性や責任について判断する必要がある場合は、著作権を扱う専門家に相談すべきである。--->著作権法の専門家に相談せず、自己の見解だけを流布するのは、コミュニティ・ガイドラインで禁止されている噂の拡散にあたる。また、利用規約に定める地方・州・国・国際法に従わず、日本の法律を適用することは明確に利用規約の禁止事項に違反するから、この記事を書いた人は直ちにScratchの使用を停止しなければならない。