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勇者と竜と魔王と俺と


「討伐令、報酬は令呪一画、ね」

昨日のセンタービル爆破のせいか不穏な空気が漂う冬木の早朝。
仮の住まいのポストに投函されていた手紙をひらひらさせながらアレルが呟く。 この聖杯戦争の管理者をなのる人物から送られてきた討伐令に書かれていた対象は人食い事件の犯人と、昨日センタービルを爆破した犯人。
神秘の秘匿などという魔術師のルールをアレルが知る道理はない。それでいても討伐令を出されたこの二人があまりにもやり過ぎたという事は理解はしている。
そして同時に彼らと同じ様に周囲の被害を考えずに暴れまわる事があれば、次はここに載るのが自分になるのだという警告と彼は受け取った。
アレルのサーヴァントであるライダーの宝具。夢で見た、都をたった一騎で焼き付くした光景は今でも鮮明に記憶の中に焼き付いている。
周囲に熱波を放出するという、防御手段が限られる宝具は強力な類ではあるが、雑多に建物が並ぶこの街で一度でも火力や範囲の調整を誤ってしまえば炎焼による大惨事は免れないだろう。
サーヴァント同士の戦いの場合はどこまでのレベルの被害が討伐令を出す基準になるかはわからないが、少なくとも街の一角を焼く危険なサーヴァントに対抗する為と他の主従に結託をされては堪らない。

「軽率にあんたの宝具を使えば俺もこいつらの仲間入りって訳かね、ライダー」
「さてな、しかし加減を誤れば他のサーヴァントらに目をつけられることは確実だ。面倒ではあるが使いどころは見極めねばならんだろうよ」

アレルが用意した簡単な朝食を口にしながらライダーが問いかけに答える。
自身と同じ思考をライダーがしていた事に、内心で安堵の溜め息をつきながら、アレルも朝食を口にした。
サクリ、と小気味いい音を立てるくらいに表面が程よく焼けたトーストを咀嚼しながら、思考はこの討伐令に乗るか反るかの判断へと切り替わっていく。

「令呪が一画、報酬としては魅力的だよな」
「その為にこちらの手札をむざむざ他の主従に晒してまで得るものか、といったところだな。加えて先ほど俺が答え、お前が懸念していることを忘れた訳ではあるまい?」

ライダーの言葉に、アレルは「そこだよなぁ」と返して悩ましげな表情で天井を仰ぎ見る。
討伐令に参加するということは対象のサーヴァントと戦闘をしなければならないという事だ。
暗殺という手の取れるアサシンであるならばまだしも、ライダーは正攻法で勝負をするか、あるいは漁夫の利を狙って強襲する以外の方法はない。
そこでネックとなるのが無差別に周囲を炎焼させるライダーの宝具となる。
周辺被害を鑑みると使う場所が著しく制限されてしまう宝具を使わずに、被害を顧みず暴れまわるであろう討伐対象を殺害するのは骨が折れるだろう。
逆に宝具の使用に踏み切った場合、もしもその特性を他の参加者に知られてしまえば対策を取られる危険性もある。
無論、危険なサーヴァントと判断され、対ライダー同盟として徒党を組まれる可能性も無視できない。
一画分令呪が増えるというのは確かに他の主従に対してのアドバンテージになるが、それに比べて発生するリスクは彼らが勝ち残るという最終目標からしてみれば大きい。

「結局のところ、令呪が一画増えたからって、それを使われる前に倒しちまえばいいって話だもんな」
「よくわかっているではないか」

アレルの言葉に董卓の厳めしい顔がにんまりと歪む。
危険を侵してまで令呪を狙うこと、また他者に令呪を渡さないこと、その両方は自身らにとっての優先度としてはそこまで高くはない。仮にこの討伐で敵対者が令呪を得たとしても令呪を使われる前に使い手を無力化させるか、令呪を使えない状況にまで持ち込めばいい、という考えにアレルは最終的に行き着いた。
相手の強みを潰す。それは無数の魔物の軍勢に単身で戦い続けたアレルが自然と覚えた戦い方だ。
魔法を得手とする敵なら魔封じの呪文で魔法を唱えられなくしてやればいい。
剣を弾く堅牢な装甲を誇る敵でも閃熱の呪文ならば焼き殺せる。
身体能力に優れた敵には眠りの呪文で動きを鈍らせて叩く。
それと何ら変わらない。やることが分かれば対策を取るというだけの話だ。

「だったらいっそ、令呪はくれてやるって前提で他の参加者と協力するのはどうだ? どうしてもあいつらを倒したいってていで持ち掛けてさ」
「あまり勧められんな。都合のいい話は相手に疑心を呼び裏を読まれるぞ? 目先の利益にしか目のいかぬ凡百の有象無象どもならまだしも、ここに呼ばれているのは一騎当千の英雄達だ。こちらの思惑に乗せたつもりがあちらの罠に嵌まっていたなどということもありえるかも知れん」

ことり、とライダーが中身を飲み干したコップをテーブルに置く。
アレルの提案は同盟にかこつけて他の主従の能力を少しでも多く把握するというものだった。
しかし、ライダーはその提案を逆に相手に利用される危険性を示唆し、同盟事態に乗り気でない姿勢を見せる。

「一度討伐令を敷かれ連合軍を組まれた人間から言わせてもらえばな、最終的に争い合う道しか持たぬ者共が徒党を組んだところで基本的には烏合の衆と変わらぬのだ。
倒すべき敵が眼前にいるにも関わらず、一人でもそこで保身を見せれば余程の阿呆か傑物でもない限り全員がそれに倣い、一人でも欲を見せればそれは全軍に波及して不和を呼び敵につけ入れられる隙となる。……その結果は語らずともわかるな?」

経験則からくる重みのある言葉に、アレルは難しい顔になる。
アレルがその様な手に出るのを諫めるだけでなく、同盟を組んだサーヴァントのどれか一組でもその様な手に出ることがあれば同盟などあっさり瓦解するのだという忠告だった。

「理では討伐に参加する事が得策でない事は理解している。しかし情ではこいつらを始末したい。といったところか」

アレルの煮え切らない様子を見たライダーが少しの思案の後、確かめる様な調子で呟く。
その言葉に、アレルはピクリと反応を示して気まずそうに目線を逸らした。
図星であることは明白であり、ライダーは嘆息混じりに口許を吊り上げる。

「この手の輩は"勇者"としては捨ておけんか? 立派な事だな」
「関係ないだろ、勇者は」

ライダーが嘲るような笑いと共に問いかける。
アレルにとって勇者という単語がコンプレックスになっていることを理解した上で、中途半端な正義感で動くのならばやめておけと言外に釘を刺す。
そんなライダーの意図を読み取り、アレルは顔を不機嫌そうにしかめた。

「確かに関係ない人間を無差別に巻き込むような奴らを見過しちゃおけないって思いはあるさ、それは認める。
でもそれと同じくらい、こいつらに俺は脅威」
「脅威、か」

興味を持ったのか話を聞く体制に董卓が入った事を確認し、アレルが話を続ける。

「こいつら、特にビルを爆破した奴らは俺達みたいに聖杯戦争に勝利するって事を第一に動いてる様には見えない。それはいいか?」
「ああ、俺も同意見だ。もしもこれで聖杯を狙って動いていたのであればこのような令を出された時点で余程の大間抜けかサーヴァントを制御できていない無能のどちらかだろうよ」

アレルの推察に董卓が首肯と共に同意する。
まだ本戦も始まっていない段階では目をつけられる事を防ぐ為に表立った行動は控えるものであるし、もし人を襲っていたにしても隠蔽工作くらいは行う筈だ。
しかしこの二組に関してはそれは行っていない。それどころか片方は態々目立つような真似を進んで行っている。
だからこそ聖杯戦争の優勝ではなく、別の何かに沿って動いている可能性は大いに有り得ると考えた。

「つまりこいつらに聖杯戦争のセオリーは通じない可能性が高い。俺達がまずやらないような事や予測がつかない事を回りの被害や自分達の後先を考えずにやる危険性が高いんだ。今回は偶々巻き込まれなかっただけで次は俺達も巻き込まれるかもしれない。
買い物に行ってようが、他のサーヴァントと戦っている最中だろうが、家に引きこもっていようが、こいつらが生きている限りその危険性はついて回る訳だ」

もし、昨日の爆発でターゲットに選ばれていたのがセンタービルではなく、アレルが立ち寄っていたヴェルデであったらどうなっていたか。同じ新都に立ち並ぶ巨大施設である以上、可能性が無い訳ではない。
冬木市という限定した空間の中でいつ爆発するかもわからない爆弾が2つも彷徨いている。これを厄介と呼ばずになんと呼ぼう。
聖杯戦争が本格化し戦いが激化していく最中にこの二組に引っ掻き回されるようでは堪らないのだ。

「ざっくり言っちゃえばさ、こいつらは邪魔なんだよ、俺達が聖杯戦争をするにあたって。で、こいつらに対して俺と同じように考えている参加者だって決して少なくはない筈だ。だからまあ、こっちの手が少しくらいバレてもさ、それは必要経費なんじゃないかって俺は考えてる」
「 湯の沸騰を止めるには薪を取り去るのに勝るものは無い、か」
「なんだって?」
「先人の言葉よ。噛み砕いて言えば厄介なものは根から絶つに限るという意味でな。たしかに既に見えている禍根の根を絶たずにいて、後々に俺達の災いになるようでは目もあてられんか」

そう言うと、ライダーがのっそりと立ち上がる。文字通りに重い腰を上げたというところだろうか。
ライダーが討伐令に乗る姿勢を見せた事で、アレルは一先ず安堵する。
ライダーとアレルの関係がサーヴァントからマスターへの絶対服従ではない以上、ライダーが反対の意を示した行動を強要する訳にはいかない。
ましてやライダーが自身の意にそぐわぬと感じた者であれば例え皇族であろうと構わずに殺害する男であると知っている以上、互いの行動方針を出来るだけ一致させる事は大切な事だった。

「当面の方針は承諾しよう。して、これからどうするつもりだ?」
「一先ずはセンタービルに足を運ぶさ。何かわかるかもしれないし……」
「お前と同じ考えのマスターに出会えるかもしれん、か」
「そういうこと。組むかどうかはそいつの人となりを見てってところかね」

そう言ってアレルは食器を片付け始めた。
出来ることなら話の分かりそうな相手に出会える事を祈りつつ、アレルは出発の準備を黙々と進めていく。


爆音。
紅蓮。
悲鳴。
警報。

昨日の夕暮れ時に発生した爆発事件。
スティーブ・ロジャースはそれを黙って見ている事しかできなかった。
駆けつけた時には全てが遅く、昼間に彼がコスチュームをつけて見回っていた時とは大きく様変わりしたセンタービルにはただ破壊の痕と収束しきれぬ混乱だけがあった。
消防隊員や警察官、救急隊員が忙しなく動くこの場所で彼がやれることはもうない。
血が滲むほどに彼はギュッと自身の手を握りしめる。
しんしんと降り積もる雪にも構わず、未だに紅く燃えるセンタービルを青い瞳に映し、ただ立ち尽くしていた。

「……」

次の日の朝、スティーブは爆破事件の犯人の手掛かりがないかとセンタービルの近くまでバーサーカーを伴って足を運んだ。
12/23は日本では祝日とはいえ、雪が降り冷え込んだ早朝、ましてや連日の通り魔事件と昨日の爆発の事もあってかセンタービル周辺の人通りは極端に少ない。
ビルの周りには立ち入り禁止のテープが貼られ、その外には昨夜の惨状を伝えるマスコミ、そして内には事件を調べる捜査員達の姿がある。
今いる場所はセンタービルへと繋がる裏手の路地、だがここからも侵入する事は難しそうだった。

『これでは中の様子を調べられそうにないな』
『ああ、そうみたいだ』

バーサーカーの念話に同じく念話で返しながら、スティーブは自分の元に送られて来た手紙、二組のバーサーカーの討伐令を見つめる。
連続殺人事件の犯人、そしてセンタービル爆破の犯人、そのどちらもが彼にとって見過ごせる存在ではない。
例え討伐令が出てなくとも、スティーブはこの二人の凶行を止める事を第一に動いていただろう。

「討伐令を出すくらいなら彼らの真名か宝具くらい教えてくれてもいいだろうにね」
『逸脱した行いをしていても聖杯戦争の参加者である事に代わりない。特定勢力が不利になり過ぎる事態を避けたのかもしれん。
そもそもどうしてもこの二組を排除したいのであればルーラー自身がその権限を持って排除にあたればいいだけの話だ。
それをしない以上、この聖杯戦争の主催にとって彼らは多少聖杯戦争の進行の邪魔にはなるが自分達が出ていってまで排除するほどのものでもない、という認識なのかもしれないな』

スティーブの呟きにバーサーカーが自分なりの推測で答える。
聖杯戦争の進行や運営を司るエクストラクラス・ルーラーという存在が他のサーヴァントに対して強権を発動できるという話はスティーブも聖杯戦争の知識としてバーサーカーから聞かされていた。
そんな存在が今日までにこれだけの被害を出してきた相手に対し、自ら動かず他の参加者達へ処分を一任した事に対してスティーブは苦い表情を浮かべる。

「彼らを止めるだけの力を持っているにも関わらず、被害が出るのを黙って見ているだけ、か」

怒気の混じった呟きが漏れた。
何人もの人間が既に亡くなっている、亡くならせてしまっている。
それは力を持っているにも関わらずに状況を放置しているルーラー達への怒りであり、力を持っているにも関わらずにみすみす被害を出してしまった自分自身への怒りだった。
やはりこの聖杯戦争を止めなくてはならない、痛ましい爆発の爪痕を眺めながらスティーブはその思いを募らせていく。

『報酬かそれとも別の動機があるかまでは分からないが、他の陣営もこの二組に関しては動きを見せてくるだろうな』
『出来れば手を組みたい。僕らだけでやれる事には限度があるからね』

スティーブとバーサーカーは戦闘力だけで見れば、この聖杯戦争でも上位に入る主従だ。
しかし、直接戦闘力に秀でている分、斥候や探索能力には乏しい。今回の様に潜伏している特定の対象を捕捉するという一点に関しては地道な捜索以外に有用な手を持っていないと言えるだろう。
アサシンやアーチャー、キャスターのクラスが主に該当する、比較的探索能力に優れたサーヴァントとの協力を取りつける事が望ましかった。

『だが、お前の望みはこの場に呼ばれた者達の大半と相反するものだ、そいつらの利になるかもしれないぞ』
『今一番大事なことはどうやってこの二組のバーサーカーを止めるかさ。勿論、報酬の令呪を手にして悪戯に被害を出そうとしている奴らや、聖杯を悪用しようとしている奴らになら報酬の令呪は渡しちゃ行けないし、そもそも協力はしないさ』

そう言って、スティーブは手に持っていた手紙をジャケットのポケットにしまい、センタービルから視線を外す。
ここに留まっていても得られる物は少ないと分かった以上、宛は無いとはいえ別の場所に捜索に行かねばならない。
出発する為にバーサーカーに念話をしようとしたその時、ザリっという足音が響いた。

「!!」

弾かれる様に音がした方向へとスティーブが顔を向ける。
視線の向かう先は路地裏の入り口、センタービルの様子を探る為にスティーブ達が入ってきた道。
彼の目に映ったのは黒髪の青年、アレルだった。

「あ……」

アレルの口から呆けた様な声が漏れた。
驚きに目を見開きこちらを凝視するアレルを見て、スティーブはこれが互いにとって想定していない突発的な遭遇である事が推察する。

「……やあ」
「……どうも」

奇妙な緊張の生まれた空間で、場繋ぎ的な挨拶を交わす。
何故、目の前の男は早朝にこんな人通りの少ない路地裏にいるのかという当然の疑問がお互いの中に芽生える。
そして、疑問はこの男が聖杯戦争の参加者ではないかという疑惑に変わっていく。
確証は無いにしろ、事件のあった翌日に現場近くでかつ人の目を割けるような場所に態々いるのだ。疑いを持つ材料として充分だろう。
問題はそれをどう切り出すか。

『バーサーカー、どう思う』
『怪しくは思う、がサーヴァントが霊体化していては俺も目の前の青年がマスターであると確信は持てないな。そしてそれは相手も同じだ』
『そうか、なら話し合うしかないな』

「酷い事件だ」

バーサーカーとの念話を経て、口火を切ったのはスティーブだった。
顔をセンタービルへと向けると、アレルもつられる様に視線をビルへと向ける。

「そう、ですね。俺も酷いと思います」

少し、思考する様な沈黙の後、アレルが頷きながらスティーブの言葉に同意する。
一歩、二歩とアレルがスティーブの方へと近づいていく、それに気付きながらもスティーブはそれに反応を見せる事はなかった。

「この街のシンボルの1つだ。沢山の人があそこで働いていた。君はこの街に住んで長いのかい?」
「いえ、少し前に来たばかりで」
「そうか、僕もだ」

他愛もない世間話を装った会話。
隣に立ったアレルに対し微かにスティーブが視線を向けると、アレルの視線とぶつかった。

「観光ですか?」
「いや、不可抗力みたいなものさ、巻き込まれたって言った方が正しいかもしれない。君は?」
「俺は……ちょっとやらなきゃいけないことがあって」

言葉を交わす。
腹の内を探るというよりも自分がマスターであると教えるかのように、断片的に身の上の情報を出していく。
互いに現地の住民ではない事を明かし、疑惑は確信へと近づいていくが、それでもまだ会話は続いていく。

「やらなきゃいけないことって言うのは?」
「そうですね、色々とはあるんですけど……、今は悪い奴らを倒すってところですかね。なにせこんな事をする奴らが街にいたら、おちおち買い物も出来ませんから」
「そうか、僕も同じ事を考えていた」

視線だけの交錯だった二人が、ゆっくりと体を向けあい対峙する。
それはお互いに分かりきった繕いを取り払い、腹を割って話し合おうという意思の表れでもあった。

「自己紹介がまだだった。スティーブ・ロジャースだ。何としても手配された二組のバーサーカーを止めたい」
「アレルって言います。俺もそいつらを倒すつもりです」

二人の英雄は自分がマスターである事を明かす。
いずれはぶつかり合う事になる運命ではあるが、今一時は轡を並べる意思をお互いに表明したのだった。

「僕と君は当面の目的が一致している、それはとても喜ばしい事だ。ただ……」
「だからってそのまますんなり共闘が出来るとは限らない、ですよね。報酬の問題もありますし、最低ラインでは討伐令が出された2人が脱落するまではお互いを攻撃しない約束をする、あたりが落としどころかなっていうのは俺たちも考えています」
「そうだ。だから僕はお互いの聖杯戦争に対するスタンスだけでも表明しておいた方がいいとは思っている、もちろん聖杯にかける願いがどういったものかっていうプライベートなものまでは強要はしないけどね」

スティーブの提案に対し、アレルは特に否定の意見は出さず「ええ」という軽い返答と首肯によって同意示す。
「なら、提案した人間から話すのが筋だろう」と、スティーブが口を開いた。

「僕は聖杯戦争を止めるつもりだ。万能の願望器なんてものを僕は信用していないし、その為に関係ない人達が犠牲になることを認められる訳がない。殆どの参加者からしてみれば僕は異端だろう」

スティーブの発言に、アレルが目を驚きによって微かに見開く。
聖杯戦争を止めるなどという、他の参加者が聞けば十中八九敵対か警戒の意思を見せるであろうスタンスを臆面もなく伝えてくるとは予想外だったのだろう。
僅かな沈黙。アレルの視線が時おりチラチラと動く、どう返事をするか考えているのか、それとも彼のサーヴァントと相談しているのかまでは、スティーブにもわからなかった。

「そうですね、俺はその聖杯に叶えて貰わなきゃいけない願いがありますから。ここでスティーブさんと一緒に戦えたとしても、いつかは必ずぶつかる事になる」

暫くして、言うべき事を決めたのかアレルは一度ふんぎりを着けるかの様に一度だけ深く息を吐き、スティーブの方針に対する自身の考えを述べた。
"やらなきゃいけない事がある"というアレルの先程の言葉から推察はしていたが、本人の口から聖杯によって叶える願いがあると聞いて、スティーブの表情に微かに苦いものが混ざる。
見た目からみてスティーブより一回り以上は若いであろうこの青年がどの様な願いを持っているのであれ、願いの為に血濡れの争いに荷担するのであれば止めなければならないという思いがあった。

「君は、その願いの為に関係のない人間を巻き込んでもいいというのか?」
「いい悪い以前に聖杯がなければ俺の人生はきっとそこで終わりになりますから」

スティーブが問う。言葉に込められた否定的なニュアンスにアレルがバツが悪そうに視線を反らしたが、それも一瞬の事。
澱みなく言い返すアレルの目には迷いも葛藤もなく、覚悟の光が宿っていた。
そして、人生が終わるというアレルの発言にスティーブは僅かに眉根を寄せる。

「君にとって聖杯への願いは自分の生き死にに関わると、そういうことか」
「ええ、奇跡にでも縋らなければ助からない、聖杯戦争は多分、最初で最後のチャンスなんです。そんな人間が『他の人間に犠牲が出るから助かるな』と言われて諦めると思いますか?」
「……すまない、そんなつもりで言った訳では」
「結局、聖杯戦争を止めるっていうなら同じですよ」

棘の生えたアレルの言葉に、スティーブはキレの悪い反応を返す以外の方法が取れなかった。
アレルにとって聖杯戦争を脱落する、あるいは戦争そのものを止められるという事は閉じ込められた暗闇の世界から戻れなくなる事を意味している。
ここに残れるかどうかすら定かではない以上、スティーブの方針を受け入れるという選択肢を取れる訳がないのだ。
例え他の誰かが犠牲になったとしても、アレルはその犠牲を防ぐ為に自身が犠牲になることを受け入れられるほどには聖人でもなければ、自己犠牲精神にあふれている訳でもない。
居心地の悪い微妙な沈黙が漂い始めた。

「なんだ、交渉は決裂か?」

膠着を見せた空気を振り払うかの様に低い声が路地裏に響く。
同時にアレルの背後から音もなく巨大な人影が姿を現し、ジロリとスティーブへと鋭い視線を向けた。アレルのサーヴァントであるライダーだ。
心臓を鷲掴みにする様な威圧感をライダーは放つライダーに対し、スティーブは咄嗟に物陰に立てかけておいたシールドを即座に装着し、アレル達との距離を開ける。
臆する様子もなく視線をぶつけ合うスティーブの様子にライダーの口が狂暴に歪んだ。

「おい、なに勝手に出てきてるんだよ。ライダー」
「空気が悪くなってきていたのでな。万が一の為にもサーヴァントとしてはマスターを守る為に前へ出ざるをえまい?」

押し殺した様な声を上げながら振り向くアレルを見下ろしながらライダーが答える。
無論、表情や態度からそれが本心でないことはアレルも察する事ができた。

「そら、あちらもお目見えの様だ」

楽しそうなライダーの声にアレルが視線を戻す。
空気が歪む、そう言っても過言ではない程の圧力が彼を襲った。

「こちらとしては無用な争いをする気はない。それが俺のマスターの本意だからだ」

声と共に姿を現していく異形の男。
その姿を見て、アレルは思わず言葉を失った。

「だが、お前達がマスターへの害意を持つというのならば話は別になる」

側頭部から生える一対の角。
両の手をまるで手甲の様に覆う鱗と、そこから伸びる鋭い爪。
その特徴的で特異な体のパーツは4足と2足の違いこそあれ、アレルにとって命をかけた激闘を繰り広げた相手を想起させるに十分だった。
囚われた姫を逃がさぬ為に数多の戦士を屠った魔物。
竜王の城にて、無数の傷を負いながらを討ち果たした魔物。

「戦うしか能のない男なのでな、存分に思い知らせてやろう」

竜――ドラゴン――。
魔物の中でも最上位に位置する強靭な種族。
目の前のサーヴァントにその面影を感じ、アレルはごくりと唾を飲み込んだ。
倒したとはいえ、竜という種族の恐ろしさは身をもって体感している。
全ての魔物を倒し竜王の座へとやってきた彼をして、勝てた事が奇跡と思うほどの難敵。
それが再び目の前に、今度はサーヴァントとして立ちはだかる。

「反英雄か、この様な男に貴様の様な存在が宛がわれるとは皮肉が効いている」
「お前も似たようなものだと見受けたがな、反英雄なのはそちらとて同じだろう?」
「さて、どうかな?」

バーサーカーとライダーがそれぞれのマスターを守る様に、一歩前に歩み出た。
バーサーカーが竜の手を前に構るのに呼応してライダーが腰に差した刀をスラリと抜き放つ。

「待ってくれバーサーカー」

一触即発の空気を止めたのはスティーブだった。
制止が入り逡巡を見せたものの、バーサーカーが構えを解く。
ライダーとアレルはそこにつけ入って攻めるような真似もせずに、ただ黙ってスティーブへと視線を向ける。

「僕達はお互いに相容れない、それは分かった。だけど今ここで僕達は戦うべきじゃあない。違うかい?」
「……ええ、そうですね。下がっていてくれライダー、話はまだ終わっちゃいないんだ」

戦闘の意志はないと告げるスティーブにアレルが同調する。
ライダーはアレルの命令を受けると黙って刀を収めた。

「ならばここは剣を収めてやろう。今度は無駄な沈黙で余計な時間を使わぬようにな」

そう言ってライダーはアレルの背後へと移動する。
それを見届けるとバーサーカーも同様にスティーブの後ろへと歩を進めていく。
市街地のど真ん中での戦闘を回避できた事に、お互いが安堵の溜め息を吐いた。

「で、どうします?」
「そうだな、最終的な方針は違っても今お互いの目的は一緒な訳だ。なら一時的に協力はできると思うけど、それはいいね?」
「ええ、俺もそれが前提でしたから」

互いに共闘には前向きな姿勢であることを確認し、頷きあう。
二人の後ろに控えるサーヴァント達も異論はないようだった。

「そちらのライダーは探索は得意だったりするかい?」
「せせこましく動き回るのは部下の仕事だ。俺の仕事ではなかったな」
「僕のバーサーカーもそういうのは得手じゃない。探索に長けたわけでもないサーヴァントが二騎連れだって歩くよりは、別々に捜査を行う方が幾らかは効率的じゃないかというのが僕の考えだ」
「なら手を組むけども行動は別、不戦の協定に近い形になりますか」
「だろうね。お互い調べた情報に関しては時と場所を設けて共有すればいい。君も今日は捜査に?」
「ええ、まあ。ここに特に何もなければ新都の方を適当に探して回るつもりでしたけど」
「OKだ、なら手分けをしよう。僕は深山町で君が新都。何かわかれば連絡してくれ。これが僕の連絡先だ……」

そう言ってスティーブが懐からメモ帳を取り出し、自分の携帯電話の番号を書いて渡す。
対するアレルは差し出された紙を見て怪訝な表情を見せる。

「……」
「どうした?」
「いや、何の数字です?これ」
「何を言っているんだ? 電話番号さ、君だって携帯電話の1つくらい持っているだろう?」

予想していない返答に、今度はスティーブが怪訝そうに眉を潜める番だった。
冗談か何かという疑惑がスティーブの脳裏を駆け巡るのに対し、電話番号という単語を聞き、アレルが「あー……」と歯切れの悪い声をあげる。
そして申し訳なさそうな表情を浮かべるアレルの口から飛び出した発言にスティーブは耳を疑う羽目となった。

「俺、電話っていうんですか? それ持ってないんですよ」
「……なんだって?」

アレフガルド生まれアレフガルド育ち。連絡手段はもっぱら手紙か人手を使う以外の手段のない世界から来たアレルは当然の事ながら電話を持っていない。
聖杯戦争の説明のついでに得た知識の中には電話についてのものも存在し"便利な道具だなぁ"程度の認識はあったものの、他者に連絡を取る必要も無かった為か今の今まで購入には至ってなかったのだった。
無論、そんなアレルの身の上など知る筈もないスティーブは、信じられない物を見たかのような目付きでアレルをまじまじと見つめる。

「り、りろんはしっています」
「そ、そうか……」

取り繕うような笑みを浮かべたアレルの発言にスティーブはただ絶句する他はない。
取り急ぎ、今日は夜に一度合流し情報交換をするという約束を交わして、二人のマスターはその場を後にした。


人通りの少ない路地をスティーブが歩く。
その顔には微かに陰がさしている。

『どうかしたのか、マスター』
『ああ、いや……』

スティーブの様子に気づいたのだろう、バーサーカーがスティーブへと心配そうな声を投げかけると、スティーブは歯切れの悪い返事で返す。

『可能性はあるのは分かっていたんだ、奇跡に縋るしか方法がない人だって参加者にはいるって事ぐらい』
『……さっきの青年か』

苦々しい声に、バーサーカーは先ほど自分のマスターと協力関係を結んだ青年の姿を思い浮かべる。
スティーブの望みを達成させるのであれば、恐らくアレルは何らかの理由で助からないのだろう。
本人の言でしかなかった以上、どこまで信用できるのかは分からないが、スティーブの問いかけに対する返事には少なくとも嘘らしいものは感じなかった。

『僕は僕の道を変えるつもりはない、でもそうなると僕は彼の人生を終わらせる事になるんだろう』
『恐らくはそうなるだろうな』
『何か、彼を助けられて聖杯戦争を止める手立てがあればいいんだけれどな』
『マスター、それは』
『わかってるさ、都合のいい話だ。現実はそんなに都合よくは進んじゃくれない』

脳裏に浮かぶのはここに来るまでの経緯。
かつての自分を知る友人の殆どいなくなった世界。
殺し屋として洗脳されその手を多くの血で濡らしてしまった親友。
年老い、亡くなった愛した女性。
信じるべき道を進んだ結果、衝突した仲間達。
親友を守る為に今の時代に出来た友人との決裂と死闘。
現実はとても残酷だ。
そんな事はスティーブは骨身にしみてよく分かっている。
それでも、だからといって膝を折る事を良しと出来るほどに彼は諦めは良くなかった。
超人となる前から持っていた彼の強さだった。

『それでも、もしそんな方法があるのなら、僕はそれを諦めたくない。そう思うんだ』
(トニー、こんな時に君ならどうする? 色んな不可能を可能にして君なら、いったい)

決別した友に思いを馳せる。
主義から主張まで様々な事で衝突したが、信頼できる仲間の一人だった。
今更会わせる顔もないが、もしこの場にいてくれたらと、そんな事を思わずにはいられなかった。
一陣の風が吹く。今のスティーブにはいつもの風より寒く感じられた。


『気に食わん事でもあったか』

街を歩くアレルにライダーが唐突に念話で語りかけてきた。

『なんだよ藪から棒に』
『いやなに、あのスティーブとかいう男の問いかけに対するお前の返事はやけに棘があったものでな』

ライダーの指摘にアレルの顔が渋いものに変わる。
実際、ライダーが乱入をする前の会話の時はアレル自身攻撃的だった自覚があった。
その理由もアレルは理解している。それをライダーに話すかどうか悩むものの、しつこく聞かれるよりはマシという答えに至る。

『スティーブさんが聖杯戦争を止めるっていった時さ、ご先祖様を思い出したんだ』
『初代の勇者か』
『ああ、きっとご先祖様もこの人みたいに迷う事なく聖杯戦争を止めるって言っただろうな、って思ったら悔しくなった』

自虐的な笑いがアレルに浮かぶ。
今の自分が取っている方針に迷いはない。
だが、まるでお伽話の英雄の様に迷いなく聖杯戦争を止めると言ったスティーブの姿に小さい頃から伝え聞かされた勇者ロトの姿を重ねてしまった時、"だからお前は勇者になれなかったんだ"と内なる嘲りが聞こえた気がした。
英雄然としたスティーブが勇者という存在そのものにコンプレックスを抱いているアレルの琴線に突き刺さると自然と口調も攻撃的になっていた。

『皮肉な話じゃないか、あれだけ憧れて解放されたがっていた肩書きと、何度も何度も戦って最後には屈しちまった相手がタッグを組んで襲ってきやがったんだ』

勇者の様な高潔さを見せたスティーブと、それに尽き従う竜のバーサーカー。
勇者と竜、それはアレルにとってどちら因縁深く、切っても切り離せない存在と言えた。

『だからこそさ、俺は多分あの人を超えなきゃいけない気がするんだ。縁と因縁とか天命とかってやつは良く分かんないけどさ。ここで最初にあったのがあの二人だったっていうのは偶然じゃあない気がするんだ』

アレルが聖杯を狙う以上、いずれ彼らと戦う時は来る。
羨望とも嫉妬ともつかない感情から端を発した決意は、スティーブ達を明確に敵と捉えていた。
強大で乗り越えなければいけない壁。いずれ戦うであろう竜王の前哨戦にするならおあつらえ向きだとアレルは闘志と敵意を燃やす。
だが、それはまだ先の話。スティーブの戦いの前に倒せねばならない敵がいる。
アレルの姿が雑踏に紛れ消えていく。その目に映る敵の姿は道化か喰種か、それとも勇者か。

【新都 センタービル周辺/1日目 早朝】
【スティーブ・ロジャーズ@マーベル・シネマティック・ユニバース】
[状態] 健康
[装備]
[道具] 特製シールド
[令呪] 残り三画
[所持金] 10万前後
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争を止める。
[備考]
1.討伐令が出された二組のバーサーカー主従の凶行を止める
2.深山町周辺にて捜索、夜7時頃に一度アレルと合流して情報共有。
3.バーサーカー討伐の協力者を探す。
4.聖杯戦争を止めた上でアレルを助ける手がないか探してみる。
※ライダー(董卓)の姿を確認しました。
※アレルと共闘関係になりました。期限は討伐令の出されたバーサーカーの二組が脱落するまでです

ファヴニール @バーサーカー】
[状態] 健康
[装備]
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:マスターに従う。
[備考]
1.マスターに同行する

【アレル(DQ1勇者)@ドラゴンクエストⅠ】
[状態] 健康
[装備]
[道具]
[令呪] 残り三画
[所持金] 5万前後
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手にする
[備考]
1.討伐令が出された二組のバーサーカー主従を優先して倒す
2.新都周辺にて捜索、夜7時頃に一度スティーブと合流して情報共有。
3.バーサーカー討伐の協力者を探す。
4.スティーブとバーサーカーを倒す。
※バーサーカー(ファヴニール)の姿を確認しました。
※スティーブと共闘関係になりました。期限は討伐令の出されたバーサーカーの二組が脱落するまでです

【ライダー@董卓 仲穎
[状態] 健康
[装備] 刀、弓
[道具]
[思考・状況]
基本行動方針:一先ずは小僧に従う。
[備考]
1.小僧に同行する

時系列順


投下順


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:WINter soldiers スティーブ・ロジャーズ :Wake Up People
バーサーカー(ファヴニール)

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:WINter soldiers アレル(DQ1勇者) :[[]]
ライダー(董卓 仲穎)

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最終更新:2017年03月26日 12:47