十二月二十三日は天皇誕生日。
国民の祝日にして、休日である。
年末の忙しい時期に設けられたこの休日の過ごし方は、人によって様々だ。
あるものは年末の慌ただしさから逃れるように、体を存分に休ませ、
またあるものはせっかく出来た丸一日の休みだからこそ、その時間を年末のイベントに向けた準備に注ぐ。
果たして日本国民の中に、この日天皇の誕生日を祝っているものはどれくらい居るのだろうか――と、疑問に思わなくもないが、
まあともかく、大抵の人はそんな事を気にせず、せっかく与えられた休日を各々の好きなように過ごしているのだ。
しかし、その男――
ウェカピポにとっては休日など関係ない。
天皇誕生日であろうと、国民の祝日であろうと、今日も彼は出勤することになっていた。
昨日のセンタービル爆破事件や以前から起きている人喰い事件を受け、市内各所の警備態勢は普段以上の高水準を要されていた。
それに、今日は休みということで、市内の観光施設や商店には普段以上に人が集まるのだから、
ウェカピポのような警備員職の需要がいっそう高まるのは仕方のないことである。
勿論、その分後日に埋め合わせの休みが与えられるのであろうが、
聖杯戦争の期間中――つまり僅かな間しか冬木市にいないウェカピポにとって、それはあまりありがたみのない話だ。
そもそもの話、聖杯戦争の最中に職場へ律儀に出ること自体がおかしいのかもしれない。
しかし、特に大した理由もなくこの忙しい時期に仕事を休むのは難しい。
万が一職場に聖杯戦争の関係者が居て、その人物から急に休んだことを疑われたら、面倒なことになりそうだ。
ここはやはり、普段通りの行動をするのが無難なのである。
というわけで。
本日も出勤することになっていたウェカピポは、いつも通りの朝早くに目を覚ましたのであった。
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ジャムを塗っただけの生の食パンに、湯に溶かして作るタイプのコーンスープ。
そしてコップに注がれたミルク。
成人男性の献立にしては量が少なめな朝食が、安っぽい机の上に並べられる。
それらを食べながら、ウェカピポは机の真ん中に広げた手紙を読んでいた。
それは今朝、聖杯戦争の主催者を名乗る者から彼に届けられた一通である。
内容の殆どは、聖杯戦争の説明の補足であった。
既知の情報は飛ばしながら、ウェカピポは手紙を読み進める。
しかしその途中。
見覚えが無く、とびきり目を引く項目を見つけた。
討伐令――聖杯戦争の運営上、障害となると判断された主従の排除命令だ。
成功した暁の報酬には、聖杯戦争のキーアイテムである令呪一画が約束されている。
また、そこには討伐対象の二つの主従について、写真付きで詳細が書かれていた。
一つはフードを被った男と赤い女。
最近の冬木市を騒がせる『人喰い事件』の犯人――二匹の人喰いである。
その被害の大きさに対し目撃証言はあまりにも少なく、世間では未だに外見情報すら定かではなかった彼らだが……なるほど。
人喰いと言うのだから、もっと化物じみた見た目を予想していたが、そのビジュアルは意外と人間のそれに近かった。
全身が血のように真っ赤で、獣のような耳が頭頂部に生えた女の方はともかく、フードの男の方は見た目を整えれば人間社会にいとも容易く溶け込んでしまうだろう。
だがその本質は人でない何か。
人を喰らう獣にして化物。
戦争で競う敵以前に、種としての天敵なのだ。
もう一つはピエロのような顔をした二人の男。
双子かと見間違うほどにそっくりな彼らだが、片方はマスターでもう片方がサーヴァントである以上、それはあり得まい。
サーヴァントがマスターの姿を鏡のように真似ている、と見るべきだ。
付け加えられていた説明によると、どうやら彼らは市内で猟奇殺人を起こしているらしい。
人喰い事件に紛れて現状あまり目立っていないが、その被害者数はかなり多いようだ。
その上、彼らは昨日のセンタービル爆破事件の犯人でもある。
討伐令について与えられた情報を一通り読んだ後、ウェカピポは写真の中の彼らに不快感を抱いた。
多くの命を屠った彼らについて知れば、誰もが取るリアクションであろう。
それは机を挟んでウェカピポの向かいに座るシールダーも同じだったようで、眉を顰めて狂人たちへの嫌悪感を露わにしていた。
いたずらに人を殺めるこの二主従は、許しがたい外道だ――そう思っているのだろう。
込み上げてくる不快感と共に食パンの最後の一口を飲み込んだウェカピポは、手紙を読む為に伏せていた目元を上げて、
「……それで、どうする?」
と、前置き無く問うた。
この場合の『どうする?』とは『討伐令に乗るか否か』だ。
問われたシールダーは凛とした表情で答える。
「当然、乗るべきだ。
民の命を奪う彼奴らを許すわけにはいかない。一刻も早く排除すべきだと思う」
「が」、と彼女は言葉を続ける。
「……そう考える主従は他にもいるだろうし、そうでなくとも報酬を目当てに乗る者だって居るはずだ。
故に、これに乗ればバーサーカーたち以前に他の主従と衝突する危険性が、飛躍的に上がるだろう」
それはつまり、ウェカピポが命の危険に晒される可能性もぐんと上昇するというわけだ。
マスターを守護する為に戦うシールダーにとって、そのような状況は好ましくない。
寧ろ避けるべき事態である。
彼女にマスターを守る自信があるとは言え、危険地帯にわざわざ足を運ぶのはどうしても躊躇われるのだ。
シールダーの返事からその思いを推知し、ウェカピポはふむ、と物思いに耽る。
彼も、討伐令に対してシールダーが言ったような意見を抱いていた。
『参加したいのは山々だが、それに伴うリスクは極力避けたい』――というわけである。
しばらく考え込んでから、ウェカピポは再びシールダーに顔を向け、
「それじゃあ、とりあえず今この件は保留、という形にしておこう。
実際に何らかの行動を起こすのは、他の主従が討伐令にどんなリアクションを取るのかを知ってからでも、遅くないはずだ」
シールダー、キミならな――と。
ウェカピポは、言葉の最後にそう付け加えた。
それを受け、シールダーは首肯する。
何だか周囲の後に回る感じで、消極この上ないような作戦に思えるが、これはウェカピポがシールダーのことを、
『彼女なら多少遅れを取っても巻き返せる実力があるだろう』と評価している証でもある。
この男、一度信頼した相手にはかなり高めの評価を下す節があるのだ。
信じて妹を嫁がせた義弟の件ではそれで痛い目を見たが、今回の場合、彼の目に狂いは無いと見て良いだろう。
何せ、シールダー――
ベンディゲイドブランは、此度の聖杯戦争において、文句無しにトップクラスの実力を持っているサーヴァントである。
最優のクラス、セイバーと肩を並べるほどにだ。
大抵の相手には遅れを取っても、余裕で追い越せるに違い無い。
マスターからの信頼をしかと受け、誇らしそうな顔をしているシールダー。
それを見つつ、ウェカピポは食べ終わった朝食を片付けようとした。
空の食器とカップ、コップを両手を駆使して持ち、椅子から立ち上がろうとする。
だが、その時。
「マスター」
と、シールダーが思い出したかのように声を掛けてきた。
「討伐令が出された、つまり聖杯戦争が本番へと突入したことを受けて、やっておきたい事があるのだが、提案しても構わないだろうか?」
本番へと突入した聖杯戦争に向けて、シールダーがやっておきたい事。
それは何だろうか? という純粋な好奇心もあり、ウェカピポは肯定の言葉を返した。
「何だ?」
「カラスを飛ばそうと思うのだ」
「カラス?」
予想だにしない言葉に、思わずウェカピポは普段の彼らしからぬ調子で返事をしてしまった。
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ベンディゲイドブランとカラスにまつわるエピソードは多い。
彼女の『ベンディゲイドブラン』という名前自体が『祝福されたカラス』を意味するのだから、当然と言えば当然だ。
特に有名なのは、『ロンドン塔の大カラス』である。
『ロンドン塔の大カラス』。
ベンディゲイドブランの首が埋められた場所であるロンドンでは、後に大カラス――ワタリガラスが数多く見られた。
屍肉を喰らい、周囲に不衛生を振りまく彼らは百害あって一利なし。
受け入れようとは、当然思えまい。
時の権力者であるチャールズ二世は、ワタリガラスたちを駆除しようとした。
しかし、その時彼は占い師から「カラスがいなくなれば国が滅ぶ」と助言を受ける。
加えて、ワタリガラスは古くからベンディゲイドブランの変身した姿、あるいは彼女の使い魔とも考えられていた。
巨人の戦士、ベンディゲイドブラン。
巨大なカラス、ワタリガラス。
この二つに、現地人が共通性を見出したのは無理のないことだ。
占い師の助言、古くからの言い伝え――これらを踏まえ、チャールズ二世はワタリガラスを駆除する方針から飼育する方針へと考えを変え、実行したのだ。
そして、今ではロンドン塔で何羽かのワタリガラスが飼育されている。
そういう理由があり、サーヴァント・ベンディゲイドブランは、ワタリガラスとの縁が非常に深く、彼らを使い魔として召喚できるようになったのだ。
彼女には『海王結界(インビンジブル・スウィンダン)』 という、非常に優れた気配探知能力を持つ宝具がある。
しかし、それは霧の結界――常時発動していては目立つし、何より探知できる範囲には限りがあるのだ。
当然ながら、範囲外に対して探知能力の手は及ばない。
何より、それがシールダーの霊基(からだ)の一部である以上、彼女が霊体化すれば霧も自然と消え失せる。
そこで役に立つのが、ワタリガラスたちだ。
召喚された彼らは戦闘能力こそないものの、空中において非常に高い機動力を持ち、シールダーからかなり離れた所までいつでも飛んで行ける。
冬木市の彼方此方を飛び回り、街の様子を上空から見下ろせるワタリガラスたちは、情報収集や敵性探知で優秀を誇るはずだ。
とはいえ、此度の聖杯戦争においてベンディゲイドブランは使い魔の使役に長けたキャスターでなく、シールダーとして現界している。
ということもあり、現在彼女が召喚できるのは、彼女の名前を冠した『ブラン』と妹と同じ名である『ブランウェン』の二羽だけとなっていた。
けれども、用途が戦闘ではなく偵察ならば、数の少なさは欠点になるまい。
激化しつつある聖杯戦争において、ワタリガラスたちが密かに集める情報は、きっと役に立つであろう。
「――先ほど貴方が言った、『他の参加者が討伐令に対して取るリアクション』も、カラスたちを介して調べれば容易く知ることが出来る。
しかし、彼らを扱うには一つの短所があるのだ」
時計を見ると、家を出る時間まであともう少し。
シールダーの説明を聞きながら食器を洗い、片付けたウェカピポは、外出用の服の袖に腕を通しながら、彼女が口にした不穏な言葉に反応した。
偵察用に使い魔であるカラスを飛ばすという意見には同意したいところだが、この後提示される短所次第では、それも覆りかねない。
シールダーはピアノの黒鍵のように艶やかな鎧から一羽のワタリガラスを召喚した。
ここから先は口で説明するよりも、実際に見てもらった方が早い――百聞は一見に如かずと言うわけだろう。
鎧の黒から滲み出すようにカラスを出現させるシールダーの姿は、まるで奇術師のようである。
一羽目が出現した後、続けて二羽目のカラスも召喚された。
カラスたちは湧いて出た勢いのまま机に向かい、羽毛が舞い落ちるかのようにふわりと着地した。
カァー! と鳴く声が狭い部屋に響く。
「これは……」
一連の光景を目の当たりにし、ウェカピポは目を見開いた。
それは、シールダーが行ったカラスの召喚に驚いた、というのもあるが――
「予想以上に大きいな……」
「うむ」
ワタリガラスの大きさが彼の予想を遥かに上回るものだったからである。
全長はウェカピポの片腕と同じか、それ以上はあるのではないだろうか。
シールダーの説明で散々大カラス大カラスと聞かされたが、それでも実際に目にすると、彼らの大きさに圧倒されそうだ。
それを自覚すると同時に、ウェカピポはシールダーが言わんとしている短所が何なのかを察する。
「あまりの大きさ故に印象的で目立つ、というわけか。
彼らは普段空高くを飛ぶのだろうから、大きさが目立つことはあまりないかもしれない――が、相手は人外の力を有する英霊だ。
異常に目が良く、遥か上空のカラスを正確に視認する者がいたって、なんらおかしくない……」
ウェカピポの言葉にシールダーは頷き、台詞を受け継ぐようにして口を開く。
「加えて、彼らはこの街では見られないタイプのカラスだ。
街の生態系から外れている彼らを、使い魔だと判断する聖杯戦争の参加者はそう少なくあるまい。
そしてもし彼らがワタリガラスだと知られたら……」
先ほども言った通り、ベンディゲイドブランとワタリガラスには深い縁がある。
だからこそ、使い魔としてのワタリガラスを知った者が、その召喚者がベンディゲイドブランであることを推測するのはあり得ない話ではないのだ。
宝具開放の瞬間を見られるまでもなく、使い魔から真名を推測される可能性がある。
これこそが、シールダーの言う短所だ。
「いくらやっておきたい事とはいえ、このような短所がある以上、彼らを私の独断で飛ばすわけにはいかない。私は貴方を守る為に戦うのだからな。
故にだ、マスター。貴方からの了承を頂きたい」
二つの翠眼がウェカピポを見据える。
同時に、カラスたちが黒い羽根をばたつかせた。
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ベランダから夜明けの空へと飛んで行くカラスたちを見上げ、ウェカピポは白い息を吐いた。
同時に飛び立った二羽はそれぞれ真逆の方角に向かって行く。
彼らがみるみるうちに小さくなり、やがて吹雪に隠れて見えなくなると、ウェカピポは部屋に入り、ベランダの戸を閉めた。
時計を再びちらりと見ると、普段家を出るのとちょうど同じ時間だ。
鞄を取って、中に『鉄球』が入っているかを確認する。ちゃんと入っていた。
『鉄球』は、シールダー以外でウェカピポが頼りに出来る唯一の武器だ。肌身離さず持ち歩かねばならない。
また、その大きさは拳大程度である為、鞄にも楽々と収納が出来るのが利点である。
靴を履き、玄関のドアを開ける。ベランダの時から外の寒さは十分承知していたので、頭には暖かい素材でできた帽子を被っておいた。
自分で決めたヘアスタイルとはいえ、頭部の地肌が出ているまま外を出歩くのは厳しい。
寒さに震える手でドアの鍵を閉め、横殴りの風に耐えながら、目的地に向かって歩き出す。
まだ朝早くだからか、道を歩く人は見られない。
まるで、この世界にいるのは自分だけになったかのような錯覚さえ抱く。
その時、ウェカピポの脳内に霊体化したシールダーからの念話が響いた。
『了承を貰い、改めて感謝するぞ、マスター』
それは感謝の言葉。
先ほどシールダーが行った使い魔のメリットデメリットの説明を受けて、統合的に判断し、ウェカピポはカラスを飛ばすことを了承したのである。
いくら短所があるからとはいえ、町中から情報を集められる手段があるならば、使わない手はない。
それに、たとえカラスから召喚者の真名を突き止めたとしても、そこからウェカピポたちに辿り着くまでには若干の時間がかかるはずだ。
使い魔を通じてその危機的状況を知っている分、その間にウェカピポたちが先に対策を練る時間はあるのである。
まあ、一番いいのは、そんな事態が起こらないことなのだけれども。
そのような判断の末、ウェカピポはGOサインを出したのであった。
【深山町 住宅街/12月23日 早朝】
【ウェカピポ@ジョジョの奇妙な冒険 Steel Ball Run】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]鉄球×2
[道具]日用品
[所持金]そこそこ
[思考・状況]
基本行動方針:国へ帰り、妹を幸せにする。
1.討伐令の参加については保留。
2.警備員として働く職場に向かっています。
[備考]
1.冬木市では警備員の役割を与えられています。
【シールダー(ベンディゲイドブラン)】
[状態] 健康
[装備] 国剣イニス・プリダイン
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:今度こそ、誰かを救う
[備考]
1.討伐令の参加については保留。しかし、対象者たちは許しがたいと考えている。
2.使い魔のワタリガラスである『ブランウェン』と『ブラン』を召喚し、空から冬木市を探索させています。
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ベンディゲイドブランと言えば、ワタリガラス。
ワタリガラスと言えば、ベンディゲイドブラン。
読者諸君がそのようなイメージを抱くであろう説明を先ほどしたが、ロンドンにはベンディゲイドブランの他にもう一人、ベンディゲイドブラン以上にワタリガラスと縁の深い人物がいる。
その名はアーサー王。
かの聖剣『エクスカリバー』を振るい、ブリテンを築き上げた、世界的に有名な大英雄である。
彼女の伝説には、ある魔法使いからワタリガラスに変身させられた、というエピソードがあるのだ。
その事から、後のロンドンにおいてワタリガラスを殺すことは、騎士王への叛逆だと考えられ、忌避されているのである。
日本で言えば、皇族を象徴する動物に危害を与えるようなものだ。誰だってやりたくないし、まず、やろうとも思わない。
先ほどの説明中でチャールズ二世がワタリガラスの駆除を諦めたのは、この言い伝えを考慮した部分も大きい。
かつてアーサー王によって統治された土地に住まう人々が、彼女への叛逆にあたる行為を進んで行うわけがないのだ――どこぞの叛逆の騎士でもあるまいし。
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時はやや進み、場所は変わって、新都の何処か。
それはまるで。
打ち上がりつつある花火のような。
地上から天空――通常とは真逆の向きに落ちる雷のような。
火を吹きながら飛び立つロケットのような。
そんな光景であった。
飛んでいるものの正体はバーサーカー――
モードレッド。
素の力プラス魔力放出のジェットエンジンによって、重力を無視した大跳躍をしている、叛逆の騎士である。
赤雷の尾を引きながら、彼女は遥か上空にある何かを目指す――先ほど、マスターであるウェカピポの妹の夫から迅速な帰還を命じられたにも関わらずだ。
寄り道をしている場合ではない。
向かう先に、マスターからの言葉を無視するほどに重要な物でもあるのだろうか。
しかし、彼女の視線の先にあるのは、ただの一羽の黒い鳥――所謂カラスであった。
そのサイズは通常のそれよりも大きい。
間違いなく、日本のものではないだろう。
けれどもカラスはあくまでカラス――多少大きいとは言え、それ以外に不審な点は見られない。
『直感』的に発見でもしなければ、地上からでは、まずその存在にすら気づかないであろう。
「Farrrrr……thhhhhhhh…………」
だが、バーサーカーはその何の変哲もないカラスを発見し、飛び向かっているのだ。
彼女の口からは、まるで『憎くて憎くてたまらない敵を、ようやく見つけた』かのような、憎悪と怨嗟に満ちた呟きが漏れていた。
跳躍の果てに、バーサーカーはカラスの真横に到達する。
その瞬間。
「errrrRRrrrrrrrRrrrrrrrrrr!」
携えた魔剣を一層強く握りしめ、カラスが居る空間を横薙ぎに切り裂いた。
まともにくらえば、サーヴァントでも致命傷に至る威力である。
ましてやカラスならば、そのインパクトの余波だけで、跡形もなく吹き飛ぶに違いない。
しかし――
「…………███?」
魔剣を振ったと同時に跳躍の勢いが弱まり、落下しつつあるバーサーカーは、手応えの無さを感じていた。
剣に視線を向けてみると、カラスの肉片どころか返り血一つ付いていない。
ふと、上を見上げてみる。
そこには先ほどと変わらず、大カラスが悠々と飛び回っていた。
つまり、バーサーカーの渾身の一振りはカラスにあっさりとかわされてしまった、というわけである。
サーヴァントからの攻撃を避けるとは、なんという機動力の高さか。
「█ッ!」
放電のような音を舌打ちと共に響かせるバーサーカー。
重力に従い、彼女の身体は地面に向かってするすると落ちていく。
轟音、そして舞い上がる雪。
跳躍の際に彼女の踏み込みが生んだクレーターは、着地の衝撃によって、その深度が更に増していた。
サーヴァントにとって、たかが数十メートルの落下は何てことはないのか、バーサーカーは着地点からすぐさま立ち上がる。
再び空を見上げた。
しかし、そこにはもうカラスの姿は見られない――どうやら、何処かへと逃げたようである。
それを知って諦めたのか諦めたのか、バーサーカーは「Grrrrr……」と低い唸り声を上げ、霊体化する。
こうして短い――時間にすれば一分にも満たない寄り道を終え、彼女は主人の元へと再び向かった行った。
【新都/12月23日 早朝】
【バーサーカー(モードレッド)】
[状態] 軽傷
[装備] 王剣 不貞隠しの兜 騎士甲冑
[道具] 無し
[所持金] マスターに依存
[思考・状況]
基本行動方針:Faaaaatthhhhhheeeeeeeerrrrrrrrrrr!!!!
[備考]
1.ウェカピポの妹の夫の指示で偵察に向かいました。
2.アーチャー(
ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)を認識しました。
3.アーチャー(ヴェルマ・ヘンリエッタ・アントリム)、セイバー(スキールニル)と交戦し、撤収しました。
4.シールダー(ベンディゲイドブラン)の使い魔であるワタリガラス『ブラン』を認識しました。しかし、それの捕獲や殺害にまでは至れませんでした。
時系列順
投下順
最終更新:2017年03月26日 12:59