Y社財務部のリスク管理体制に関する立論

◎結論
我が班は、Y社財務部においてリスク管理体制が機能しておらず、リスク管理体制構築義務違反であると考える。以下にその理由を2つの論点に絞って述べる。

▼ 売掛金債権回収遅延に関する点
(結論)
この点に関して、最高裁は「回収遅延の理由が合理的である」との根拠をもとに、Y社財務部のリスク管理体制の構築義務違反がなかったと判示している。しかし、2年以上回収されてない売掛金債権に関しては、「経理部門会計責任者は相手先販売会社と残高を照合し、常に正確な残高を把握するとともに必要に応じて相手先からその残高確認を取り寄せる」旨の経理規定があった。我が班は、理由の合理性よりも経理規定の遵守に重要性があると考え、本件に関してY社財務部のリスク管理体制構築義務違反は明白であると考える。
(1)
大阪高裁平成18年6月9日判決のダスキン事件においては、社内において当時求められる内部統制システムの水準となる4項目を示しており、その中には、「経営上の重要な事項を取締役会に報告するように定めること」、「ミスや突発的な問題を速やかに報告するように定めること」を明示している。
(2)
大分地裁平成20年3月3日判決のアソシエント社事件においては、財務部担当の財務部長が粉飾決算を認識しており、その是正を取締役に進言していたにもかかわらず、取締役会に諮らなかったために、当該財務部長の損害賠償責任を認容した。
(3)
上述の2判例を基に本件を見ると、規定違反の事項に関しては取締役への報告のみならず、取締役会に諮ることが必要であったことは明白であり、Y社財務部のリスク管理体制が機能していなかったとの結論に達したものである。

▼ 監査法人の適正意見に関する点
(結論)
この点に関しては、最高裁は監査法人から適正意見が表明されていることがY社財務部のリスク管理体制構築の外観をより強固にしたものとして、体制が機能しているという結論の一理由に挙げている。しかし、監査法人から提出されたであろう「経営者による確認書」の内容を鑑みれば、これは平成14年の改正によって「内部統制を構築・維持する責任が経営者にあることの確認」という項目が追加されており、監査法人の適正意見表明は、内部統制システムが適切に構築・維持されていることを理由に表明されているというものであることがわかる。つまり監査法人は内部統制システムが構築・維持されている前提のもとに適正意見を表明しているのであって、内部統制システムが構築・機能しているから適正意見を表明したものではない。
以上から、監査法人の適正意見表明をY社財務部のリスク管理体制機能の理由に挙げるのは、見当違いであると考える。


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最終更新:2010年07月04日 16:10