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RUN

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RUN


RUN(一期最終話「軽音!」澪視点より)

 無慈悲にもステージの幕が上がる。

 私たち桜高軽音部2度目の文化祭であり、さわ子先生命名の「放課後ティータイム」の初ライブでもあった。

新入生歓迎も含めて三度目のライブ。しかし、今回は決定的に違った。

 我らのリードギターでボーカルでもある、平沢唯のいないままのライブの幕開けだった。


 我らが軽音部の二度目の文化祭へ向けた準備は波乱に満ちていた。

幼馴染の律の風邪に続き、さわ子先生のライブ衣装の浴衣を一日中着て過ごした為、今度は唯が病床についた。

そして、姉思いの憂ちゃんが彼女に扮して練習に入る珍事が発生し、その後、病の身でありながら姉の唯も登場した。

案の定、唯は倒れ、自分抜きでもライブをやるように言った。しかし、後輩の梓は全員で出来ないのなら辞退した方が

マシと激昂した。私は唯に体調を万全に、当日合流出来るよう早退させ、最悪を考え梓には彼女の代わりにリードギターをするように説得した。 

梓の主張と唯の意思を尊重させる形で、その場を収め、当日へ向けて練習を開始した。

 今思えば、唯の気持ちを考慮してのものと考えていたが、梓と同じ気持があったのも事実だ。

 当日、唯は万全の状態で、私たちと合流した。だが、「運命と言う女神がいるのなら、相当な暇人だ!!」と

ぶちまけたい事態が起きた。憂ちゃんは唯のギー太(ギブソン・レスポール・スタンダード)を持ち帰り、当の本人はギー太が

学校にあるものと思い込んで、家に置いてきてしまったのだ。

 唯は、今、一年と半年の相棒を取りに帰り、私たちはステージに立っている。

 今、唯の代わりに、さわ子先生がギターを担当している。

 私の隣に唯がいない事実が、改めて重くのしかかる。

 初めての合宿で見た花火をバックにした唯の演奏。彼女と幼馴染の律、それとムギのサプライズだったが、

彼女の無我夢中で歌う姿は私の中で今も輝き続けている。そして、初ライブではどんなにボーカルを練習しても自信が湧かず、

挫けそうになった私に唯は勇気を分けてくれた。彼女と一緒に立つと、不思議と何処でも行ける気がした。

 しかし、彼女のいないステージからの観客席は、夜の海よりも暗い様に感じた。覗けば吸い込まれそうな闇が蟲惑的に蠢いている

ようだった。

 そこで、気づいた。

 唯の存在の大きさを。彼女が与えてくれた物の大きさを。私たち軽音部にもたらしてくれたものの尊さを。

唯が全てを照らしてくれていたことを。太陽のような存在だったことを。

――お前が、私たちの太陽だった。

 梓は、ティータイム等の軽音部独特の空気に馴染めなかった。元来、努力家で真面目な彼女は、彼女の見た初ライブと現実の

ギャップに悩み、部にいるか辞めるかの瀬戸際に立つことは想像に難しくなかった。そんな彼女にこのバンドにいる理由を聞かれた。

私は、唯たちと一緒にいることが楽しいからこのバンドを続けていると答えたことがあった。その中心は、他ならぬ唯だった。

最終的に唯の包容力によって、彼女の心は溶け、私たちと音楽をすることになった。

 その中心となる彼女が今はいない。 

 無くなって初めて、大切なものに気付いてしまう。そんな後悔しか与えない神に、皮肉を考えることすら虚しかった。

 でも、それでも唯は、病に倒れながらも私たち軽音部のことを考えていた。

 和は、私たちの為にこの場にいない唯を全員として含め出席として扱い、他にも面でも力を貸してくれた。

 憂ちゃんが、姉に変装したのも姉の居場所である、軽音部を守る為の善意から来るものに疑いの余地は無い。

 唯の周りの人や私たちは、何事も全力で取り組む彼女の魅力に引かれ、不思議と手を差し伸べたくなる存在だった。

そして、彼女は不器用ながらもそれに応え、私たちは常に彼女に支えられていた。

 結果、唯の周りでは不思議と血よりも濃いモノが出来、その中には当然、私たちも組み込まれていた。

 それが、彼女と私たちの場所となるのに時間は掛からなかった。

 唯の意思に応えそして、彼女との場所を守る方法。ステージに立つ、私たちが考える間でもなかった。

 律のスティックの合図で、ライブは始まりを告げる。

 曲はふでペン~ボールペン~。

 歌っている中で、ふとある歌を思い出した。日本でも著名な男性二人のロックバンドの歌詞。

――だれかがまってる どこかでまっている
  死ぬならひとりだ 生きるなら ひとりじゃない


 私たち放課後ティータイムをするなら、五人だ。五人目はさわ子先生じゃない。憂ちゃんでもない。

 お前だ、平沢唯! 

 だから、私は歌えるだけ歌う。お前がこの場所に来るまで。五人で「放課後ティータイム」として歌えるまで、待つ!

 和には申し訳ないが、私たちの時間が終わっても、唯が来なくても、彼女が来るまで歌い続けてやる!!

 お前がこの場所へ向かって走っているから。なら私たちは待つしか出来ない。

 お前は、いつも、私たちを照らしてくれていた。なら、次は私たちの番だ。

 やがて歌い終わると、講堂の扉が開き、一筋の光が差し込んだ。

 その光を背に受けて、唯は現れた。私の心に残るあの時と変わらない輝きを放って、私たちのステージへ向かってくる。

 舞台に上がると、彼女は涙ぐんでいた。

 彼女の言葉は、嗚咽に遮られていた。今回のことについて、複雑な思いがあるのだろう。

でも、彼女に慰めはいるのか? 唯は色々な人の善意や気持を素直に受け取る。そして、自分の為を考える人のことを考えて

行動をする。それは、背負いやすいと云うことではないのか?

 今回の事故は客観的に見れば、彼女を原因としている。慰めは、今の彼女にとって重荷以外の何物でもなかった。

 だから、私が彼女に言うべき言葉、誇りを守る言葉は一つだけだった。


「タイぐらい、ちゃんと結べ」 


 涙に染まる彼女に、私は笑顔で、唯の首元の緩んでいたタイを結んだ。『大丈夫だ、お前の居場所は「放課後ティータイム」だ。皆、お前が好きだから、待つことが出来たんだ』

とそう心の中で言いながら。

 私は笑えているだろうか?

 彼女に与えてもらったものに、私たちは報いているのだろうか?

 その問いは、杞憂だった。彼女の顔から、涙は消えた。そして、私を励ましてくれた顔とは違う、ライブでまっすぐ見据えたそれに変わる。

 それを確認してか、さわ子先生はお役御免と言わんばかりに舞台袖に下がる。  

 そして、彼女のMCから「ふわふわ時間」に入った。

 唯の歌っている横顔を見て思う。

 この歌はお前が誉めてくれたな。あの時は、誰を思って作ったか分からなかったが、今ではお前が鮮明に映るよ。

 そして、私は、お前の隣にいよう。どれだけ傷ついても、冗談を言い合いながら荒野を走り、心臓破りの丘も越えよう。

数えきれない喜怒哀楽を共にし、立ち上ぼる希望へ向かおう。お前と見た物を、歌えるだけ歌おう。そして、地面を蹴りつけて前へ飛んで行こう。

やがて、互いに心開ける関係になるその時まで。


澪→唯SS "RUN" END

参考BGM "RUN" by B'z "http://www.youtube.com/watch?v=PTkJ6wVmT1w"

初出:3->>756,784

  • 澪の心情がわかるいい話だな -- (名無しさん) 2011-02-16 09:38:43
  • すっごいイイなこれ! -- (名無しさん) 2011-08-04 21:02:08
  • 神曲 -- (名無しさん) 2012-01-27 01:13:36
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