『赤ちゃんゆっくりの冒険-後編-』




母ゆっくりを待つ赤ちゃんゆっくり達は親の残骸を食べながら雑談していた。

「おかーしゃんおそいね!」
「ゆっくりしすぎだよ!!」
「でていったみんなはゆっきゅりしてるかな?」
「みんななかよしだもん! だからだいじょうぶだよ!!!」
「しょうだね! おかーしゃんがかえってきたらあいにいこうね!!」
「あいにいこうね!! それまではゆっきゅりしようね!!」
「「「「ゆっくりしていってね!!!」」」

親の残骸も残りわずかだ。










「ゅ…ゆっくりちていっちぇね!!!」
「「「「ゆっくりちていっちぇね!!!!」」」」

木の根元で寝ていた30匹余りの赤ちゃんれいむと赤ちゃんまりさの群れは目覚めと共に挨拶をする。
昨日の疲れもすっかり取れたようで皆すっきりとした表情をしている。

「ゅっくりくさをたべるよ!!」
「たべりゅよ!!!」

早速あたりに生えている雑草を元気に食べ始める。
お互いに笑顔で雑談しながらむーしゃむーしゃと食べていく。
何も昨日のこと、姉妹が次々と死んでいったことを忘れた訳ではない。
ただ過去の事と今の事を同時に考えると頭がショートするのでゆっくり出来る今を楽しんでいるだけだ。


「いっぱいたべてゆっきゅりしたよ!!」
「きょうもゆっくりしよーね!!」
「ゅ! ゆっくりできるばしょはこっちにあるきがするよ!!」
「ゅっくりついてくよ!!!」

お腹が一杯になった赤ちゃんゆっくり達はゆっくりと移動を始めた。
先頭を跳ねるゆっくりに追従してぴょんぴょんと笑顔を浮かべて跳ねていく。
きっとこっちにゆっくり出来る場所がある。ただそれだけを信じて赤ちゃんゆっくりは跳ねていく。



「ゅ! ゆっくりがいるよ!!」
「れいむとまりさといっしょだよ!! ゆっくりできるよ!!!」
「なにかたべてるよ!! はしってちゅかれたからもらおーね!!!」
「「「ゆっくりいくよ!!!」」」

先頭集団が他のゆっくりを見つけたようだ。
彼女らの視線の先には子供サイズのれいむとまりさ、さらに赤ちゃんサイズも数匹群れて幸せそうに食事していた。
子供サイズの姉れいむと姉まりさは妹ゆっくり達に虫を取ってあげたり、遊び相手になってあげている。
自分達もあそこにいけばお姉さん達にゆっくりさせてもらえる。
赤ちゃんゆっくりの集団はようやくゆっくりプレイスを見付けたのだと安堵した。
中には感動して涙を流すものまでいた。


「「「「「「「ゆっくりちていっちぇね!!!!」」」」」」」

他のゆっくり姉妹の目の前に赤ちゃんゆっくり達は並ぶとゆっくり挨拶をする。
それを聞いた向こうの妹赤ちゃんゆっくり達も笑顔を浮かべて挨拶してくる。

「ゅ? ゆっくりちていってね!!」
「「「「「ゆっくりちていってね!!」」」」」
「「「ゆっくりしていって……ね?」

しかし姉ゆっくり達の様子がおかしい。
ゆっくり挨拶を最後まで言わないだけでなく、汚いものを見るような目つきをしていた。
実際赤ちゃんゆっくり達の集団は汚かった。体も飾りも汚れているし、中には餡子を被ったゆっくりもいる。
姉ゆっくりはそんな赤ちゃんゆっくり達を見て"ゆっくりできない"と判断したようだ。
その妹の赤ちゃんゆっくり達も先ほどは無邪気に挨拶をしたが、ひどく汚れていることに気付いて少しおびえている。

「ゅっきゅりあそびょうね!!」
「いっしょにゆっくりちようね!!!」

赤ちゃんゆっくり達にはそんな姉妹の感情を理解できていなかった。
他のゆっくりに会うのは初めてなのが嬉しくて、やや興奮気味に妹ゆっくり達へ飛び跳ねていく。
餡子にまみれたれいむや、帽子が不自然に折れた汚いまりさが寄ってくるのだ。
それは妹ゆっくり達からすれば恐怖でしかなかった。

「こないちぇぇぇ!!」
「こわいよ!! こないでよぉぉ!!」
「きちゃないこはゆっきゅりできないよぉぉ!!!」

近づいてくる赤ちゃんゆっくり達から必死に逃げ回っていた。
そんな妹ゆっくり達を見た赤ちゃんゆっくり達は追いかけっこと勘違いして楽しげに追いかけ続ける。
嫌がって逃げ回る妹を見た姉ゆっくりたちが取るべき行動は一つ。
妹に嬉々として危害を加える汚いゆっくりの排除だ。

「ゆっくりできないこはゆっくりしね!!」
「ゅぎゃっ!!?」

一匹の赤ちゃんれいむが姉まりさに潰された。
姉まりさの底部から餡子の飛沫が放射状に広がっていた。
辺りが静寂に包まれる。
赤ちゃんゆっくり達は無い頭をフル回転して何が起きたのかを考える。
姉妹の悲鳴が上がった場所を見ると茶色の染みが広がっている。
その上には姉まりさ。
何度見ても、どんなに考えても答えは一つしか思い付かない。

「ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!! なんでごんなごどずるのぉぉぉぉ!!!」
「にゃんでちゅぶしたのぉぉぉ!!!」
「ゆっきゅりできないよぉぉぉ!!!」

状況を把握した赤ちゃんゆっくり達が泣き叫び始めた。
しかし泣き喚いたぐらいで姉ゆっくり達は攻撃をやめなかった。
姉れいむ達も加わって次々と赤ちゃんゆっくり達に暴力を振るい始めた。

「きたないゆっくりはいきてるかちないよ!!」
「つぶれたすがたもみにくいね!!」
「おお、きたないきたない」
「どうせきたないからおやにすてられたんだよ!!!」

姉ゆっくり達は汚い赤ちゃんゆっくり達を罵倒しながら体当たりし、潰していく。
赤ちゃんゆっくり達は泣く以外の抵抗もせずに姉ゆっくりに突き飛ばされ、または潰されていた。
だが最後の言葉、親に対する言葉に反応した。

「ち、ちがうよ! おかーしゃんはれいむたちをすててないよ!!」
「しょうだよ! ゆっきゅりできるばしょにいるんだよ!!!」
「おかーしゃんをわるくいうなぁぁ!!!」

「うるさいよ!! そういうのをすてられたっていうんだよ!!」
「きたないうえにばかなんてすくえないね!!!」
「ゅ"ぁ"っ!?」

また一人体当たりで吹き飛ばされた。
吹き飛ばされた先は妹ゆっくり達の輪の中だった。

「きちゃないこがとんできたよ!」
「ほんとゆっきゅりできないね!!」
「きっときたないおかーしゃんからうまれてきたんだよ!!」
「かわいしょうだね! だからさいごはみんなであそんであげようね!!」

「ゅ? あ、あそんでくれるの?」

何だか悪口を言われたような気もするが、赤ちゃんゆっくりは"あそぼう"という言葉だけ記憶に残った。
赤ちゃんゆっくりに笑顔が戻る。ようやくゆっくりできるのだ、と。
しかし次の瞬間赤ちゃんゆっくりは体当たりされた。

「ゅぎっ!? な、なにしゅるの…ひきっ!?」

姉ゆっくりのように強烈な衝撃は無いものの、妹ゆっくり達の体当たりに翻弄されてふらつく赤ちゃんゆっくり。
周りを囲んでいる妹ゆっくり達は自分の方にふらついてきた赤ちゃんゆっくりに体当たりを仕掛ける。
その衝撃で左に行けば左の妹ゆっくりに、右に行けば右の妹ゆっくりにとサッカーボールのように体当たりで回される。
体当たりでふらつく限り止まる事の無い集団リンチだ。

「ゅ! しょっちいったよ!」
「こんどはそっちにいくよ!!」
「ゅびっ!? や、やめてっ!! ぐるじぃよっ!! い"だい"ぃ"ぃ"」
「きたないこえでしゃべらないでね!!」
「あぎゅっ!?」

少し体の大きい妹ゆっくりの体当たりに、とうとうふら付くことすら出来なくなってへたり込んでしまった。
赤ちゃんゆっくりの視界がぼやける。口元からは餡子が漏れ出してしまっていた。
しかし限度を知らない妹ゆっくり達の遊びは続く。

「こんどはひとりずつはねてつぶそうよ!!」
「ゅ! じゃあいっかいずつつぶしてころしたゆっくりがかちね!!!」
「ゆっくりつぶそうね!!!」
「ゃ、ゃめ…ぎゃっ!?」

まず一匹の妹れいむが赤ちゃんゆっくりへと勢い良く飛び乗った。
情けも容赦も無い、潰すための本気プレスだ。
たまらず餡子をまた吐き出して悶え苦しむ赤ちゃんゆっくり。

「ゅ! きちゃないあんこをだしたよ!!」
「ぉぉ、きちゃないきちゃない」
「でもしんでないよ!」
「おもったよりしぶといね!!」
「でもいっかいでしんでもつまらないよ!!」
「そうだね! ゆっくりあそばないとね!!」

圧し掛かっていた妹れいむが退くと、休む間もなく次の妹ゆっくりがプレスしてくる。
その妹ゆっくりが退けばまた次のゆっくりが飛んでくる。
赤ちゃんゆっくりはその度に少しずつ餡子を吐き出し、代わりに苦痛の声を出さなくなった。
体の大きい妹ゆっくりが自分の体に飛び降りてくるのを見て、赤ちゃんゆっくりは瞳を閉じ、そのまま潰れて死んだ。

「ゅ! れいむのかちだね!! つぶれてしんだよ!!」
「ゅ~! ちゅよいよぉぉ!!」
「からだおおきいからずるいよ!!」
「つぎはゆっくりじちょうするよ!! でもほかにもきたないこいるからあそべるよ!!」
「そうだね! つぎのこでゆっくりあそぶよ!!」


妹ゆっくり達が次の遊び道具を探し始めた頃、赤ちゃんゆっくり達の群れには無傷のゆっくりはいなかった。
体格の違いすぎる姉ゆっくりの攻撃は凄まじかった。
体当たりされれば吹っ飛ばされて体が痛みで震え、潰されれば即死か良くても餡子を吐き出して瀕死だった。
もう満足に動ける赤ちゃんゆっくり達はいなかった。
このままでは全滅するだろう。

だが、運命は赤ちゃんゆっくり達を見捨てていなかったようだ。


「ゆ!!! そこまでだよ!!!」
「もうやめようね!!!」

大きなゆっくりの声がこの場に響く。
現れたのは成体のゆっくりれいむとゆっくりまりさだった。

「ゅっ!? おかーさん!!?」
「おかーしゃんだー!」

また、その成体ゆっくりは赤ちゃんゆっくりを虐めたゆっくり姉妹の親でもあった。

「ゆ! きたないこをさわったらきたなくなっちゃうよ!!」
「ゆっくりはなれてね!!」
「ゅ…ゆっくりりかいしたよ!」
「きたないこからはなれるね!!」

赤ちゃんゆっくり達は親ゆっくりにもひどいことを言われたが、今は危険が去ったことを安心していた。
動けるものはズルズルと這うように動き、同じくボロボロにされた姉妹同士で集まっていく。

「ゅ! みてよ! きたないこがあつまってるよ!!」
「あつまるともっときたないね!!」
「そのまましねばいいのにね!!」

そんな赤ちゃんゆっくり達を嘲笑う非常な姉妹を親ゆっくりは叱る。

「ゆ!! そんなきたないことばいっちゃだめだよ!!」
「ゅ…ごめんなさい」
「きをつけるねおかーしゃん!!」
「ゆっ、わかればいいんだよ!!
「それよりもきたないこにさわってきたないからきれいにしないとね!!」
「ここじゃきたないこがみてるからむこうのかわにいこうね!!」

非情ゆっくり家族はここから離れて川に行くようだ。
ようやく助かった。
赤ちゃんゆっくり達がそう思った時、傷の少ない一匹の赤ちゃんまりさがその家族へ近づいていった。

「ゆっくりまってね! きれいになるからまりさをかぞくにいれちぇね!!!」

赤ちゃんゆっくり達はこのまりさの発言に驚愕した。
姉妹を虐殺したゆっくり家族の元へ行こうと言うのだ。狂気としか思えないし、裏切りでもある。
言われた方の家族も流石に驚きを隠せなかった。

発言したまりさは自分が綺麗になれば家族に入れてもらえると本気で思っていた。
だから綺麗になると言えば分かってくれるとも。

だがそれは親ゆっくりを怒らせるだけだった。

「ゆ! きたないくせになにいってるの!!」
「ゅ…だ、だからきれいになりゅよ!」
「ばかいわないでね!! れいむのこどもはうまれもそだちもちがうんだよ!!」
「そうだよ!! まりさとれいむのこどもはえりーとなんだよ!!」
「ゅ…ゅぅぅ……」

本気で上手くいくと思っていた赤ちゃんまりさは涙目になって俯いてしまった。

「ふん! いつまでそこにいるの!!」
「れいむ、いってもむだだよ! きたなくてバカなゆっくりはしんだほうがいいんだよ!!!」
「!!?」

親まりさの圧し掛かりで断末魔すら出せずに赤ちゃんまりさは潰れてしまった。
残った証はひしゃげた帽子と僅かな餡子の飛沫だけ。

「ゅ! まりさおかーさんもよごれたよ!!」
「ゆ! すぐにあらいにいこうね!!」
「そうだね! みんなでゆっくりあらおうね!!!」

ゆっくり家族は赤ちゃんまりさの死など目もくれず、幸せそうにじゃれあいながら去っていった。
赤ちゃんゆっくり達は空ろな目で、確かな幸せのある家族が去っていくのを眺め続けていた。


しばらく経って痛みの引いてきた赤ちゃんゆっくり達は動き出した。
今は昼。怪我したのもあってそろそろ栄養を取らないとゆっくり出来なくなってしまうのだ。
辺りにある草をもそもそとゆっくり食べていく赤ちゃんゆっくり達。
誰も喋る物はいない。
同種のゆっくり達にボロボロに虐められ、姉妹も殺されたのだから元気良く食事できるわけがない。

周りには姉妹の亡骸と死にかけで動けない姉妹。
赤ちゃんゆっくり達はそんな異様な光景の中で思う。

ゆっくり出来る場所は本当にあるのか。おかーさんは本当にどこかにいるのか。
しかし答えは出ない。

一人で行きぬく力の無い赤ちゃんゆっくり達はそれが存在すると信じるしかなかった。








「ゆっくり…ちようね…」
「きっともうすこしでゆっきゅりできるよ」
「うん、ここまでがんばったんだからゆっくりできるよ…」

夕日が差し込み始める頃
移動できるほどに回復した赤ちゃんゆっくり達は森を抜け、平らな道を元気なく跳ねていた。
その数は10匹にも満たない。
他にも生き残った姉妹はいたが、食べることも動くこともできないので泣く泣く放置してきたのだ。

元気なく跳ねる赤ちゃんゆっくりだったが、ふと目の前に大きな生き物がこっちに向かっていることに気がついた。
今までとは違い、赤ちゃんゆっくり達は警戒してすぐに逃げられるよう身構える。
ここに来てようやく学んだのだ。未知なる物を警戒することを。

その大きな生き物は夕日の逆光でよく見えなかったが、近づいてくると人間だと分かった。
その人間は赤ちゃんゆっくり達に優しく話しかけてくる。

「君達、お母さんはどうしたのかな? 赤ちゃんだけだと危ないよ?」
「ゅ…おかーしゃんどこにいるかわからないの」
「もりのなかからみんなでさがしにきちゃの」
「きっとゆっきゅりできるばしょがあってそこにいるはずなんだよ」

赤ちゃんゆっくり達は人間の穏やかな声に安心して警戒を解いた。
そして人間の質問に対して素直に答えた。

「そうか。でもそろそろ夜になって危ないよ? 良かったらうちに来てゆっくりしないか?」
「ゅ? ゆっきゅりできるの!?」
「ああ、そうだよ。それにお菓子も上げるよ。甘くて美味しいぞ」
「おかし! ゆっくりちゃべたいよ!!」
「ゆっくりつれてってね!!!」
「ああ、いいとも。じゃあまずはこの箱に入ってね」

人間が出したのは箱だった。透明な箱。
赤ちゃんゆっくり達はゆっくり出来る場所に案内されるとあって、誰一人警戒するものはいなかった。
ぴょんっと跳ねて人間が傾けた箱の中に入っていく。
その箱は成体ゆっくりが入れば窮屈かも知れないが、赤ちゃんゆっくりが八匹入ってもまだ余裕があった。
人間は箱に蓋をかけたが、蓋も透明なので赤ちゃんゆっくり達は天井に蓋をされたことに気づかない。

「さあ行こうね」
「「「「ゆっくりいこうね!!!」」」」

こんな笑顔をしたのは何時間ぶりだろう。ゆっくり単位時間的に久しぶりだった。
ゆっくり出来る場所、探していた場所へもうすぐ着けるんだ。
そう思うと赤ちゃんゆっくり達は今までの辛い出来事も忘れ、今の状況を楽しみだした。
何せ今は透明な箱に入って人間に抱えられ、通常ありえない高い目線から世界を見ているのだ。

「わあ、すごい! おそらをとんでるみたい!!」
「すごいよ! まわりがすっごくよくみえるよ!!!」
「すごくゆっくりしてるよ!!」

透明な箱の中から外を眺め、無邪気に喜んでる赤ちゃんゆっくり達を見て人間はニコニコと微笑んでいた。
その人間に対して赤ちゃんゆっくり達は一斉に人間を見上げて笑顔でお礼を言った。

「ゆっきゅりできるよ! ありがちょう!!」



そんな楽しい時間も終わり、人間のおうちへと着いた。
おうちの中にも見たことのない物がたくさんあり、興味を引くものがいっぱいあった。

「おにいさん! あれなに! ゆっくりあしょびたいよ!!」
「ゅ! あっちいってみたいよ! ゆっくりつれてってね!!」
「まあゆっくり待ちなよ。よいしょっと」

赤ちゃんゆっくり達の入った透明な箱を囲炉裏の脇におくと人間は部屋の奥へと行ってしまう。
自分達も行こうと動く赤ちゃんゆっくりだったが、ここでようやく外に出られないことに気がついた。

「ゆ! おにいさんどこいくの!」
「ゆっきゅりだしてね!!」
「かえってきてよぉ!」

周りにある楽しそうなものでゆっくりしたい赤ちゃん達は喚きだす。
しばらくすると鍋と桶を持った人間が戻ってきた。

「ゅ! おそいよおにいさん!!」
「ゆっくりしすぎだよ!!」
「とにかくここからだしてね!!!」

「ああ、それじゃあお前とお前からだ」

人間は蓋を開けるとれいむとまりさを摘んで箱の外へ運んでいく。
選ばれなかった赤ちゃんゆっくりは必死に跳ねて箱から飛び出ようとするが赤ちゃんのジャンプ力では出ることは出来なかった。
外に運ばれた赤ちゃんゆっくり二匹は優越感に浸ったような笑顔で他の姉妹を見下ろしていた。

「まずは汚れを取ろうか」
「ゅ! いいからはなしてね!!」
「しょうだよ! はなしてね! あしょばせてね!!」
「ダメダメ。まずは洗わないとね。汚いのは嫌だろ」
「ゅ…い、いやだよ! きたないとゆっくりできないよ!!」
「ゆっくりきれいにしてね!!!」

汚かったせいで他のゆっくり家族に虐められた赤ちゃんゆっくり達は素直に従った。
人間は持ってきた桶に汲んである水に赤ちゃん達を浸からせる。
水に使ったことで赤ちゃん達は先日のことを思い出す。

「み、みずはだめだよ!! ゆっくりできないよ!!!」
「し、しじゅめないでぇぇ!!」

水に触るとふやけて死んでしまう。そうなった姉妹を見た赤ちゃんゆっくり達は大声で叫んで人間の手から逃げようとする。
その声を聞いた箱の中の姉妹も叫びだす。

「ゆ!? みず! だめだよ! みずはだめだよ!!」
「おにいさんやめでぇぇぇ!!!」
「ころしゃないでぇぇぇ!!!」

しかし人間は一斉に叫ばれて驚いたものの、穏やかに説明した。

「大丈夫だよ。長い間水に浸からなければ大丈夫なようになってるんだよ」
「ゅっ…ほ、ほんとう?」
「ああ、もちろん。少し水に触るぐらいならゆっくりできるさ」

この言葉を聞いて赤ちゃんゆっくり達は安心した。
そう言われれば確かに湖で死んだ姉妹は水にずっと浮かんでいたからああなった。
その姉妹達も最初は気持ち良さそうにゆっくりしていた。

「ゅ! わかったよ!」
「うたがってごめんなしゃい!!」
「分かればいいんだよ」

そういって人間は二匹のゆっくりを水で濡らして指で汚れを取ってくれた。

「「すっきりー!!」」

汚れが取れてすっきりした後は縦に細長い鍋の中に入れられた。
鍋の中は真上に照明があって明るいものの、金属の壁に囲まれて楽しくない。

「おにいさん! このなかじゃつまらないよ!!」
「ゆっくりだしてね!!!」

鍋の中から空を見上げて二匹はそう叫ぶ。
しかし人間は聞き入れることなく他の姉妹を洗っているようだ。
少し洗って鍋の中に入れる。それを繰り返すと鍋の中は赤ちゃんゆっくり全員が集まっていた。
中の赤ちゃんゆっくり達は皆一様に人間に対して外に出してとお願いする。
しかし人間はこんなことを言い放ってきた。

「このおうちで飼えるのは一匹だけだから、生き残った赤ちゃんをゆっくりさせてあげるね」
「「「「「ゅ"っ!?」」」」」

赤ちゃんゆっくり達は疑問符を頭に浮かべて固まった。
おうちに迎え入れてくれて体も洗ってくれた優しい人間が変なことを言ったので混乱してしまったのだ。
一匹だけゆっくりできる?
しかしここにいる赤ちゃんゆっくり達は誰もそんなこと望んでいない。
もう一匹も姉妹を失いたくないのだから。

「ゅ! どういうことなの??」
「ひとりじゃなくてぜんいんゆっくりさせてよね!!」
「いいからここからだしてね!! ここはきゅーくつでちゅまんないよ!!」
「あー、煩いなぁ…糞饅頭」

人間はそう言いながら何かの液体をかけてきた。
それはとても滑りが良くて、何か美味しそうな匂いがする。でも美味しくは無い。

「ゅ? ぬるぬるするよ!」
「でもあまりゆっくりできないよ!!」

それは油だった。鍋に赤ちゃんゆっくりの体が引っ付きにくいようにするための。
その後人間は囲炉裏に火を付ける。赤ちゃんゆっくりは床が暖かくなったのを感じた。
だがそれは最初の数秒だけ。すぐに熱さとなって襲い掛かる。

「ゅ"っ!? なんだがあづいよ"…」
「お、おにいさん!! あついよ! ゆっくりできないよ!!!」
「このままじゃゆっきゅりできないよ! たすけてよぉっ!!」

鍋の中のゆっくり達は底の熱さに耐え切れずぴょんぴょんと跳ね続けて人間に助けを求めた。
しかし人間は鍋の上から笑みを浮かべてこちらを見るだけ。助けてくれる様子もない。
赤ちゃんゆっくり達は絶望した。
ようやく真にゆっくり出来る場所を見つけたと思ったのに。
母ゆっくりがいなくても優しいお兄さんが面倒見てくれると思ったのに。
その希望はこうして簡単に砕けてしまった。

「ゅー! ゅー!」
「だして! だしてよぉぉ!!」
「もうやだ! おうちかえる!!」
「おかーしゃんんん!! だしゅげでぇぇ!!!」

泣き叫びながら鍋の中を跳ね続ける赤ちゃんゆっくり達。
すでに足は軽く焼け焦げ、鍋の側面に近いものは頬も焼け焦げて髪も少し溶けていた。
そんな中、一匹の赤ちゃんゆっくりが鍋の底に足がくっついてしまった。

「ゅ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!! あ、あしがっ! からだがあちゅいよぉぉ!!!」
「ゅ!? ゆっくりはねてね!! はねないとゆっくりできないよ!!」
「くっちゅいてはねられないよぉぉぉぉ!!! あぢゅ、あぢゅぃぃぃぃぃ!!!」
「が、がんばってね!! ゆっくりはねてね!!」
「むりだよぉぉ!!! からだがっ、とけちゅぶばばあばあぁぁ……」

とうとう高熱で体の底から溶けていってしまった。

「あ"あ"あ"あ"!! しんじゃだめだよ! しんだらゆっくりできないよぉぉぉ!!」
「へんじしてぇぇぇ!!!」

その後はなし崩しに死んでいった。
鍋の側面にくっ付いて、体を溶かしながら徐々に底へと下っていくもの。
他の姉妹と体が繋がって上手く跳ねられずにそのまま死んだもの。
「まりさのうえではねてね…」と、他の姉妹に未来を託したもの。

ここまで運良く生き残った赤ちゃんゆっくり達はようやく"未知への警戒"を覚えた。
だがそれも人間相手にはそれも意味が無かった。
人間は自分たちと同じ言語で話し、偽りのゆっくりを餌に誘ってくる。
水よりも、虫よりも、れみりゃよりも、野犬よりも…同種のゆっくり達よりもずっと恐ろしい天敵。
赤ちゃんゆっくり達はまんまと引っ掛かった。

最後に残ったのは途中から他の姉妹の死体の上で飛び跳ねた赤ちゃんれいむだった。
人間は生き残ったれいむが死ぬ前に箸でつまんで透明な箱へと放り込む。
れいむは苦しそうにしながらも人間を睨み付けた。

「ゅっきゅり…しねぇぇ……」
「怖いこと言うなよ。生き残ったお前はゆっくり出来るんだぞ?」
「みんな、しんだ…のにゆっくり、できないよ…!」
「そんなこと言うなよ」
「もう…ころして……」
「殺して、だと…?」

こんなに苦しいのならいっその事死んでしまいたかった。
死ねば先に逝った姉妹とも会える気がする。
生きていてもゆっくり出来ない。それがここまで生き残ったれいむの学んだことだった。
だから殺してと人間に頼んだのだ。
きっと姉妹を喜んで殺した人間なられいむも同じように殺してくれるだろう、と。

「だが断る」
「ゆ…?」
「俺はゆっくりが嫌がることをするのが好きでね。お前が殺してと願うなら意地でも生かし続けてやるさ」
「ゆる、して…おねがいだから、ころしてよぉぉ……!」

れいむの生死はすでにこの人間によって握られていた。
もう死ぬことも生きることすらも自由に出来ない。
今ここに、れいむが永遠にゆっくり出来ないことが約束された。













かつて赤ちゃんゆっくり約百匹の生まれた巨大な倒木の空洞の中、
すでに存在しない母ゆっくりを待ち続ける赤ちゃんゆっくりが九匹いた。
今まで食料にしていた親の残骸もすでに無くなった。
しばらくはおうちに生えるコケや入ってくる虫を食べていたが、最近はコケも無くなって虫もほとんど入ってこないので飢えていた。

「ゅ…かえってこないね…」
「ゆっくりしすぎだよ…おかーしゃん」
「これいじょうまったらおなかがすいてしんじゃうよ」

赤ちゃんゆっくり達は一か所に集まって寄り添い、体力を使わないようにじっとしていた。
その体は生まれて間もない頃と同じぐらいに小さくやせ細り、肌には張りがなく、目は半開きで今にも眠ってしまいそうだ。

食べ物はないか。動くものはないか。
閉じない瞳はただ食料を探すためだけに機能していた。
後はお互いに生きていることを確認するために口が動くだけだ。


赤ちゃんゆっくりは視点を左から右に動かして食べ物を探る。
空腹で視線がぼやける中、一匹の赤ちゃんゆっくりが美味しそうな塊を見つけた。
少し汚れているがモチモチとして柔らかそうだ。

「ゅ…なんかおいしそうなものがみえるよ」
「ゅ? どこ? どこにあるの??」
「ここだょー…」
「ゅ"…」

その赤ちゃんゆっくりが噛みついたのは喋る元気の無くなるほど弱った姉妹だった。
弱った赤ちゃんはくぐもった声をあげるだけで、そのまま食べられていく。
久しぶりの美味しいご飯を食べたことで、姉妹を食べる赤ちゃんゆっくりは元気が出始めた。

「むーしゃ、むーしゃ、ちあわちぇ~!」
「ゅ…! な、なにをたべてるの?」
「それはおねぇちゃんだよっ! たべちゃだめだよ…!」

周りの姉妹がその赤ちゃんゆっくりが姉妹を食べていることにやっと気が付いた。
むしゃむしゃと姉妹を咀嚼するゆっくりに体を押し付けて止めさせようとする。
しかし姉妹を食べて元気の出た赤ちゃんゆっくりは止まらない。

「なに、いってるの? むしゃむしゃ。これはたべものだよ! あまくておいしーよ!!」
「だめだよぉぉ!! たべちゃだめぇぇ!!」
「なんでごろじだのぉぉぉ!!!」
「?? みんなもたべようよ!! ゆっきゅりできるよ!!」

狂ったゆっくりは姉妹が泣き叫ぶ理由が分からない。
こんなに美味しい食べ物があるのに。
喰いちぎられた姉妹の最後の一切れをぺろりと飲み込むと次の喋らない赤ちゃんゆっくりに目を付けた。

「ゅ! ほかにもあるよ!! みんなたべようよ!!」
「ゅぅぅぅ! やめでぇぇぇ!!!」
「それはいもうどだよぉぉ!!」
「どうみてもたべものだよ! みんながたべないならゆっくりたべるよ!!」

次の赤ちゃんゆっくりもガツガツと食べられる。
狂ったゆっくりの口は小さいので少しずつ噛み千切られて食べられていく。

「ゅ"…ゅ"…ゅ"…」

食べられる赤ちゃんゆっくりは体が食べられていく痛みに白眼を向いてビクビクと痙攣する。
上半身を全部食べられると声を出すことも震えることもなくなった。
後は最後まで狂った赤ちゃんゆっくりに食べられていった。

「ぁ"ぁ"ぁ"! ひどいよ! やめてよぉぉ!!」
「おかーしゃん、たしゅけてよぉぉ…」
「? たべものたべればいいのに」

共食いするゆっくりの瞳は姉妹を映していなかった。
喋る饅頭が姉妹、喋らない饅頭は食べ物、ただそれだけだ。
まだお腹は足りないと訴える。だったら食べないと。狂ったゆっくりは次の姉妹を食べ始める。

声の出せる赤ちゃんゆっくり達は無力だった。
喋らない姉妹が食べられていくのを最後まで見るしかなかった。
そして泣き叫んで体力が尽きたところで狂ったゆっくりに食べられてしまった。


「ゆぅ、これでゆっきゅりできるよ!!」

他の八匹の姉妹をすべて食べた赤ちゃんゆっくりは一回りも二回りも成長していた。
すでに子ゆっくりと言われるぐらいの大きさだ。

「みんなでおかーしゃんをゆっきゅりまとうね!!
 …ゅ? なんでだれもいないのぉぉぉぉ!?」

狂ったゆっくりが正気に戻ったが周りには誰もいなかった。完全な孤独だった。

「みんなもでていったのかな?
 いいよ! れいむひとりでもゆっくりまつよ!!」


それから子ゆっくりは待ち続けた。
食べる物がなくても待ち続けた。
体が赤ちゃんサイズに戻っても待ち続けた。

ゆっくり待ち続けた結果、腐って死んだ。











巨大ゆっくりから百匹近くの赤ちゃんゆっくりが産まれてから数ヶ月経った。

唯一の生き残りである人間に捕まった赤ちゃんれいむは窮屈な透明な箱の中、
人間の出す生ゴミだけを食べさせられて成体ゆっくりになっていた。

最初の数日は泣き叫んだり、人間に怒りをぶつけたりしたが、その度に散々痛みつけられた。
今では「ゆっくりころしてね」が口癖になっていた。
人間はいつまで経っても殺してくれなかったが、
今日になってやっと殺してくれることになった。

「最後にひとつ、言う事を聞いたらお望みどおり殺してあげる」
と言われたのだ。

死にたいという願いが叶うなられいむは何でもやろうと決心した。
人間は親とはぐれた赤ちゃんゆっくり達を殺せと命じてきた。
かつての自分と同じ境遇の赤ちゃんゆっくりを殺せと言うのだ。
だがそんな命令でもれいむの決心が揺らぐことは無かった。
それほどに死にたかったのだ。

「君を赤ちゃんゆっくり達にお母さんだと紹介するから、お母さんになりきって殺してあげてね。
 うまく出来たら殺してあげるよ」
「ゆっくりりかいしたよ!!」

自分が死ねるなら躊躇いなんてない。
れいむは自分のために他のゆっくりを殺すことを選んだ。

「おかーしゃん!」「あいたかったよおかーしゃん!」
「これからいっしょにゆっきゅりしようね!!」

そう言って甘えようとしてくる赤ちゃんゆっくり達を潰して、または食べて殺した。
赤ちゃんが涙を流してころさないで、と懇願しても容赦なく殺した。
ごめんなしゃい、いいこにするから…何を言われても無言で殺し続けた。

最後の一匹を殺す時に流していたれいむの涙は、どんな感情の篭った涙だったのだろう。



















最後まで生き残ったれいむは死因は精神疲労だった。
れいむの望みは最後まで叶えてもらうことはなかったのである。
考えようによっては間接的に殺されたようなものだが、
れいむが望んだのとは違って、ずっとゆっくりとした殺され方だった。

そうして百匹近くいた赤ちゃんゆっくり達は全滅した。

親である巨大ゆっくりが最後に言ったように、確かに元気で賢い赤ちゃんが産まれた。
だが力も知恵もない赤ちゃんが生き抜けるような甘い世界ではない。
それでも生き残れるのは守ってくれる存在があるから。
それが最初から無かったのだからこの悲劇は当然の結果だった。

赤ちゃんゆっくり達の探したゆっくりポイントは守ってくれる親の存在そのもの。
それが最初から無いことに気づいていればもう少し違った未来が見れたのかも知れない。












by ゆっくりしたい人(現 赤福)
090218 修正




=あとがき=

こんなSS書いたけど赤ちゃんゆっくりは大好きです。
本SSの一番の悪は親ゆっくりですね。間違いなく黒幕だ。

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最終更新:2022年05月19日 15:25