ふたば系ゆっくりいじめSS@ WIKIミラー
anko1539 ろんどさん
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ankoss
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ご注意!
前半(【1】の部分の5行目から【2】の頭まで)は、でいぶ無双です。
苦手な方は流し読みするなり、目の焦点を合わせないなりして下さい。
【プロローグ】
「ゆぴいっ!」
れいむは地面に突っ伏した。
体の下には申し訳程度に枯れ草が敷かれていた。しゅっさんっ時の赤ゆっくりに対する衝撃を抑え
るために敷かれたであろうそれは、しかしあまり役に立ってくれなかったようだ。
じんじんと痛む体に、れいむは涙が出そうになったが、それでも初めて地面に立ったことの喜びの
方が勝った。にっこり笑って思いのたけを口に出す。
「うまれちゃよ! れいみゅがゆっくちうまれちゃよ!」
おうちの天井を見上げながら、れいむは小さく丸い体を歓喜に振るわせた。そして勢いよく振り返
る。いよいよ両親と感動のご対面だ。餡子脳に刻まれた本能が命令する――初めてのご挨拶は、ゆ
っくりしっかり決めなくてはいけない。ご挨拶もできないゆっくりは、ゆっくりしていない最低な
ゆっくりなのだ。
「おかあしゃん! おとうしゃん! ゆっくちしていっちぇにぇ! れいみゅはれいみゅだよ!」
一息に言ったその瞬間、れいむは固まった。れいむを見下ろすお母さんが、とてもゆっくりしてい
るとは言えないお顔をしていたからだ。
乾ききって所々ひび割れている、見るからに不健康なお肌。あちこち縮れて埃の浮く髪の毛さん。
そのぎょろりと剥かれた右と左のおめめは、とてもかわいい我が子を見るそれではなかった。お口
は気味悪く歪んでいる。
そんなお母さんはご挨拶も返してくれない。お父さんは――見当たらなかった。
ふと、おうちのそこかしこから、ゆっくりできない臭いが漂ってきた。
「く、くちゃいっ!?」
れいむは顔をしかめて周りを観察した。
あちこちに赤いおリボンさんや、黒いお帽子さんが落ちている。臭いの源はあれらだ。あのお飾り
さんが異臭を放っている。
「ゆっくちできにゃいよおっ!」
叫んではみたが、これはゆっくりできないどころの騒ぎではない。れいむは一刻でも早くこんな場
所から逃げ出したかった。
おうちには沢山のごはんも積まれていた。しかし、こんな所でむーしゃむーしゃしても美味しく食
べられそうにない。
――お母さんは平気なのだろうか?
そう思って正面にいるお母さんを見上げると、そのおめめは真っ直ぐにれいむを睨みつけていた。
れいむはますます逃げ出したくなった。
思い返せば、お母さんのぽんぽんの中も何だかゆっくりできない気配に満ちていた。そして、夢に
見たお外はもっとゆっくりできないときている。
「……ゆ、ゆっくち……していっちぇにぇっ!!」
もう一度ご挨拶。れいむはぎゅっと目をつむり、ぽんぽんの底からありったけの声を絞り出した。
しかし今度もお母さんからのご挨拶はなかった。それどころか、表情がますますゆっくりできない
ものに変わっていった。眉間に皺を刻み、おめめを細めている。まるでれいむを憎んでいるかのよ
うに見えた。
「ゆ……ゆっ? おか、しゃ……」
思わず言葉を失った。れいむが生まれたというのに、どうしてお母さんは喜んでくれないのか。笑
ってくれないのか。ご挨拶を返してくれないのか。
れいむはゆっくりと考える。
――ひょっとしたら、れいむがゆっくりしていないから怒っているのだろうか?
その考えを瞬時に打ち消す。れいむがとてもゆっくりしていることは、他ならぬれいむ自身が保証
する。
ということは――つまり、れいむのお母さんが悪いのだ。考えたくはないが、そういうことになっ
てしまう。
「ゆ、ゆゆううう……」
れいむが上目遣いに見やると、お母さんがゆっくりとお口を開いた。
【1】
春。
子ゆっくりとしては大きめのれいむが、ゆっくりできないお母さんの元を飛び出した。行くあては
特に無い。
しばらくぽよんぽよんと森の中を移動して、れいむはあることに気付いた。
この辺りには、ゆっくりが住んでいない。おうちの形跡はそこかしこにあったが、中には誰もいな
いのだ。
春になったので、揃ってお出かけでもしているのだろうか。
『おうち宣言』を済ませた空家を寝床に、夜露や雑草に頼る生活をしばらく続けた後、れいむはと
あるゆっくり家族に世話してもらうことになった。――いや、家族に世話させてやることにした。
親のいないかわいそうなれいむを世話するのは、ゆっくりとして当然だろう。光栄に思って欲しい
くらいだ。
無事に冬を越せたお祝いとして、少し離れた場所からピクニックに来ていたらしい一家――父まり
さに母れいむ、子まりさに子れいむ――は、れいむを歓迎した。
「あんこはつながっていないけど、みんなほんとうのかぞくだよ! ゆっくりしていってね!」
しかしそんな一家との生活は長くは続かなかった。れいむが一家をまとめて永遠にゆっくりさせた
からだ。
れいむには一家が許せなかった。
なぜなら、その家の両親が、自分の本当のおちびちゃんとれいむとで、まったく同様の扱いをした
からだ。
ふざけるなと、れいむは思った。
両親が健在でしあわせーに暮らしているおちびちゃんたちと、両親としあわせーな思い出を作れな
かったれいむを同じレベルで可愛がるとは、ゆっくりの風上にも置けない。
健気でかわいそうなれいむこそ、何より大事にされてしかるべきだ。ごはんの量ももすーりすーり
の回数もみんな同じなんて、とてもじゃないが我慢できるものではない。
しかし文句を言っても無駄だった。
「ゆふふ! わがままをいうこはゆっくりできないよ!」ゲス両親は笑顔で言った。「おとうさんと
おかあさんは、おちびちゃんたちみんな、おなじくらいだいすきだよ! えこひいきは、めっ! だ
よ!」
まったく話にならないゲスどもだ。
堪忍袋の緒が切れたれいむは、まず眠っているゲス父まりさとゲス母れいむを、木の枝――父まり
さのお帽子さんの中に入っていた――で突いて殺した。正面から行っても良かったが、抵抗された
ら面倒なのでやめた。
「すーやすーや」などと間抜けな寝息を立てていた二人は、驚くほどあっさり死んだ。悲鳴すらあ
げなかった。――この方法は使える。覚えておくことにした。
れいむがひと眠りして目を覚ますと、ゲス子まりさとゲス子れいむが半狂乱になっていた。
「おとうしゃんとおかあしゃんがしんじゃったあああああ!! どぼちてええええ!?」
実に耳障りな声で泣き叫ぶ二人。
うるさくてかなわなかったので、れいむはゲス親ゆっくりと同様、ゲスおちびちゃんたちも木の枝
で突き刺した。ゲス子まりさの「どぼちてこんなことしゅるのおおおおお!?」という質問にはあ
きれ果てた。なぜわからないのだろう。
「れいみゅをかわいがらないからだよ! りかいできりゅ?」
優しいれいむがそう教えてやると、理解したのかしなかったのか、ゲス子まりさはぽかんとしたお
顔のまま死んだ。
ゆっくりできない一家をせいっさいっして、れいむはとてもいい気分だった。不幸な身の上だが、
これからも頑張って生きていこうと思った。
れいむが生まれたおうちの辺りと違って、この一帯には結構な数のゆっくりが住んでいるようだ。
れいむを養わせるゆっくりには事欠かないだろう。
次にれいむの世話をさせてやったのは、ぱちゅりーの一家。母ぱちゅりーに、三人の子ぱちゅりー
だ。
「むきゅ! おちびちゃんはきょうからぱちぇのおちびちゃんよ!」
やはり歓迎されたが、このおうちもハズレだった。
将来、群れを率いるための英才教育をおちびちゃんたちに施しているらしいゲス母ぱちゅりーは、
れいむにも勉強をさせようとした。
「いっちょにがんばりまちょう!」そう言って笑うゲス子ぱちゅりーたち。
冗談ではなかった。いちいちそんな面倒なことをしていられるか。そんな時間があるならごはんを
食べさせて欲しい。たくさんでいい。
「おかあさんのいうことをきいてね。ごはんはおべんきょうのあとでたくさんあげるわよ」
れいむのお願いを聞かないゲス母ぱちゅりーのその言葉に、ゲス子ぱちゅりーたちは喜んでいた。
馬鹿ぞろいだと思った。
くだらなすぎてゆっくりできない生活に、温厚なれいむも爆発した。
「おやなら、れいみゅをゆっくちさせちぇにぇ!」と、れいむは母ぱちゅりーに体当たりをした。
「れいみゅはかわいしょうなゆっくちなんだよ! さっさとごはんをよこちぇ、くしょばばあ!」
ちょっと痛い目に合わせるだけのつもりだったのだが、れいむが二度三度とぶつかると、「やめっ…
…やめなさい!! どぼじでこんなこどずるのおおおお!?」と叫んだゲス母ぱちゅりーは「えれ
えれ」と体内のクリームを吐き出し、そのまま永遠にゆっくりしてしまった。
それを見たゲス子ぱちゅりーたちは一斉に「えれえれ」とやった後、そのまま揃って死んだ。とて
もあっけなかった。れいむが手を下すまでもなくゲスの子は全滅した。
勉強勉強と騒いだ結果がこれだ。何の役にも立っていないではないか。
れいむはおうちに備蓄されていたごはんを数日かけて「むーちゃむーちゃ! ちあわちぇー!」と
たいらげた後、お外に出た。
ありす一家にも出会った。
「おちびちゃんはきょうからありすのいえのこよ! とかいはなゆっくりにしてあげるわ!」
母ありすに連れて行かれたおうちには、五人の子ありすがいた。
「あ、あら! ずいぶんいなきゃもののれいみゅね! でも、ときゃいはのれでぃになりたいのな
ら、ありしゅがつきあってあげちぇもいいのよ!」
子ありすの一人が開口一番、れいむを罵ってきた。
かわいそうなのに健気にゆっくり生きているれいむに向かって、何と言う暴言。一目でわかった―
―この子ありすはゲス以外のなにものでもない。
「げしゅはゆっくちしにぇ!」れいむはゲス子ありすに何度も体当たりした。「ゆっくちしにぇ!
れいみゅをばかにしゅるありしゅは、ゆっくちしにぇ!」
「ときゃいはっ! ときゃいはああああっ!」
れいむとおうちの壁に挟まれ続けたゲス子ありすは、潰れた声を出しながら、それに見合った姿で
潰れて死んだ。都会派とは口ばかりの醜い死に顔だった。思わずれいむも「おお、みにきゅいみに
きゅい」と言ってしまおうというものだ。
ものはついでと、二人目のゲス子ありすも同じように潰してやった。
ぽかんとしていたゲス親はここで我に返ったようだ。ノロマすぎるが、れいむには好都合だった。
「やめなさいっ! やめでっ! ありずのとかいはなおちびぢゃんたちがあああああ!? どぼじ
でこんなこどずるのおおおお!?」そんなゲス親ありすの悲鳴は、やがて「うふふふふ」というど
こか歪んだ笑い声に変わった。そして「……んほおおおおおおおお!!」と奇声を発したかと思う
と、ゲス親ありすは生き残りのゲス子ありすに襲いかかった。
「やめちぇ! やめちぇね、みゃみゃああああ! こんなのときゃいはじゃないわああああ!!」
「おちびちゃんのまむまむは、とってもとかいはねええええええ! きょういくのせいかだわああ
あああ!!」
ゆっくりできないゲスれいぱー親ありすには、ゲス子ありすたちの声は届かないらしい。
我が子をれいぽぅするなんて、とんだ親もいたものだ。
この家族もハズレだった。かわいいれいむの世話をしたいのはわかるが、それならそれなりの格と
気品を持ち合わせていてもらいたい。
逃げる子ありすたちとそれを追う親ありすを尻目に、ごはんをむーしゃむーしゃして、れいむはお
うちを後にした。
おうちからおうちを渡り歩く生活――ゆっくりしたおうちは一つもなかった――を繰り返すうちに
時は経ち、もともと大きかったれいむは、ますます巨大に成長した。
冬はすぐそこ。山では多くのゆっくりたちが無事に春を迎えるための準備に勤しむ。
しかし、れいむはそれをしようとしなかった。する必要がないからだ。
要は今までと一緒だ。
おなかが減ったら、寒くなったら、色々なおうちを渡り歩いて、そこで冬ごもりしているゆっくり
たちにれいむを世話させればいい。
何せ、両親も姉妹もいないかわいそうなれいむなのだ。これでさらに冬を越せないなんてことにな
かったら、ますます悲惨ではないか。
だから他のゆっくりたちは、れいむを手厚く保護しなくてはいけないのだ。当然だろう。
そのおうちが気に入ったら春まで住んでやってもいいが、ごはんがなくなったら出ていくしかない。
冬にごはんが取れなくなることは知っている。いくらかわいそうなれいむの為とはいえ、無いもの
を無理に取って来いとまでは言わない。れいむは賢くて優しいのだ。
この越冬方法は、我ながらいいアイデアだと思った。これならみんながしあわせーになれる。どう
して他のゆっくりはこの方法をとらないのか不思議だ。――いや、これはれいむの頭脳だからこそ
思いつき、れいむの境遇だからこそ実行できる手段なのだ。他ゆんにそこまで求めるのは酷な話か。
「えらばれしゆっくりでごめんね!」と、れいむは自分自身を誇った。
どのおうちでも、なかなかれいむにごはんを食べさせようとはしなかった。運の悪いことに、この
辺にはゲスしか住んでいないらしい。
さらに面倒なことに、ゲスどもはすでにおうちに篭りっきりになっている。仕方ないので、わざわ
ざおうちの前の『けっかい』を破壊して侵入しなくてはいけなかった。
「これがないとふゆさんがこせなくなっちゃうんだよ! わるいけど、れいむにはわけてあげられ
ないよ!」ゲス一家はみな一様に言った。「れいむもがんばってごはんをあつめてね! いそげば、
まだまにあうよ!」
こいつらの体の中の餡子は腐っているのではないかと、れいむは思った。
そっちの都合など関係ないだろう。れいむが食べたいと言っているのだから、食べさせるのが常識
だ。だいたいごはんを食べられなかったら、れいむこそ餓死してしまうではないか。
仕方ないので、そういうゲス連中は皆殺しにした。ゲスはせいっさいっ――これも常識だ。もっと
も、ゲスどもはその常識すら理解していないようだが。揃いも揃って「どぼじでこんなこどずるの
おおおお!!」だ。
他の言葉を知らないのかとうんざりした。
「れいむのいうことをきかないげすは、せいっさいっだよ!」れいむは優しく諭してやった。「その
ごはんは、れいむがかわりにむーしゃむーしゃしてあげるからね!」
ゲスは手がかかって仕方ない。ゆっくり全部がれいむのようなゆっくりなら、もっとゆっくりした
世界になるだろうに。
れいむにごはんを食べさせないゲス一家をせいっさいっして、蓄えられていたごはんを食べて、ま
た別のおうちに赴く。そこに住む一家がゲスだったら、またせいっさいっして――れいむの計画は
順調だった。すでに季節は冬だが、とてもゆっくりした生活を送っている。
稀にれいむに歯向かってくるゆっくりもいた。一人寂しく生きている健気でかわいそうなれいむに
手を上げるとは、何ともゆっくりしていない。さすがはゲスだ。
そんな手合いを相手にするのも面倒なので、れいむは正面からのせいっさいっよりもスマートな方
法を開発した。
「ごはんをくれなかったら、おちびちゃんがどうなってもしらないよ!」ゲス一家のおちびちゃん
を押さえつけて、そう言うのだ。
ついでに見せしめとしておめめの一つも潰してやれば、それだけでゲス親は降伏する。
「ゆっくりできないれいむはでていってね! ぷくううううう!」と、最初は無礼なことをしてい
たゲス親どもが、あっという間に手の平を返すからおもしろい。「やべでっ! やべでぐだざい!
ごはんはあげばずがら……どうか、おちびちゃんだげはああああ!!」
さすがはゲスだ。愚かにもほどがある。はじめからそうしていれば、かわいそうなれいむに手間を
かけさせることもなかったのに。
れいむが苦労して手に入れたごはんをむーしゃむーしゃした後は、もちろんおちびちゃんを永遠に
ゆっくりさせた。するとゲス親は誰も彼も「どぼじでっ! どぼじでこんなこどずるのおおお
お!?」というお馴染みのセリフを吐いた。
そんなことはわかりきっているだろう。――しかし優しいれいむはあえて説明してやる。
「れいむによけいなてまをかけさせたばつだよ! ゆっくりはんせいしてね!」
加えて言うなら、おちびちゃんの「たしゅけちぇえ! おとうしゃん、たしゅけちぇえ!」という
声もゆっくりできなかった。ゲスはおちびちゃんの教育もできないのだろうか。それとも、ゲスの
子はどうやってもゲスなのだろうか。
いくら賢いとはいえ、あまりにも清廉潔白な自分には、いくら考えてもゲスのことなどわからない。
――れいむはそう結論付けた。
この辺りは大して雪が降らないこともあって、思ったよりも楽に冬を越せそうだ。これもれいむの
日頃の行いのせいだろう。ゲスをせいっさいっし続けた甲斐があったというものだ。
「れいむ! げすのせいっさいっがおわったのぜ!」
ゲスらんの死骸から体を離して、死臭に苦々しく顔をしかめながらそう言ったのは、先日知り合っ
たまりさだ。
まりさは、れいむの考案した越冬方法――他のおうちに赴き、そこに住む家族に援助させる――を
独自に考案し、実行していたらしい。
れいむと同じ方法に辿り着くとは、なかなか見所のあるゆっくりだと思った。
賢いのもそうだが、腕っ節もいい。――もちろん、どちらもれいむほどではないが。
初めて出会ったゆっくりしたゆっくりだ。れいむはすぐにまりさと意気投合し、それから行動を共
にしてきた。
家族がおらず、一人で一生懸命生きているところも気に入った。れいむの言うことを何でも聞く所
など申し分ない。
今もこのおうちに住んでいたゆっくり――ゲスらんにゲスちぇん、そのゲスおちびちゃんたちを、
れいむの命令でせいっさいっさせた所だ。
「ゆっくりごくろうさまだよ、まりさ!」
れいむはゲス一家が溜め込んでいたごはんに目をやった。冬ごもりも大詰めだろうに、まだ結構な
量のごはんが蓄えられている。ゲスなりに、やりくり上手だったのだろうか。
ともあれ好都合だ。と言うのも、もうこの辺にはゆっくりの住むおうちが見当たらなくなっていた
からだ。しかしこれだけのごはんがあれば、春まで余裕だろう。
春になったら別の土地へ移り住もう。れいむはここに残って、まりさを狩りに遣わせてもいい。
「さっそくごはんをむーしゃむーしゃするよ!」
れいむがそう言ってごはんに向き合った時だった。
「ゆっへっへ! おとなしくするのぜ!」突如、背後からまりさが覆いかぶさってきた。
「むーしゃむーしゃ――ゆゆっ?」
気づいた時にはごはんの山に押し倒され、まむまむにぺにぺにをそうっにゅうっされていた。
これがれいむのふぁーすとすっきりーだった。
こんな形で、望まぬ相手に、清らかなるれいむの純潔のばーじんさんを奪われてしまった。――れ
いむは呆然とした。自分では見えないが、普段はお空に輝く星のようにキラキラとしているれいむ
のおめめも、今はおそらく、お空を覆うゆっくりできない雨雲のように黒く沈んだれいぽぅおめめ
になっているだろう。
「ゆふう、ゆふう」と息を荒げたまりさの興奮気味な独白によると、まりさはれいむに付き従った
ふりをしながら、ずっとこの機会を狙っていたらしい。
今までの素直な態度はすべて演技だったのだ。なんという卑劣なゆっくりか。正真正銘、ゲスの中
のゲスだ。
れいむが絶世の美ゆっくりで、世のゆっくりたちが自分のものにしたくなるのはよくわかる。れい
む自身、美しすぎて申し訳ないとさえ思う。
しかしこんな暴挙が許されるはずはない。
れいむは確かに賢い。天才だ。しかし、あまりにも純粋すぎた。純粋がゆえに、ゆっくりを疑うこ
とを知らなかったのだ。
だからこそ、ゆっくりしたゆっくりの皮を被ったゲスまりさなどに騙され、こんな仕打ちを受けて
しまった。
――むくなれいむのこころをもてあそぶなんて、ぜったいに、ぜったいにゆるさないよ!
体内の餡子が灼熱した。
れいむの極上まむまむの余韻に浸っているのか、「ゆふい~」などと上機嫌になっているまりさ。れ
いむはその背中に体当たりした。
「ゆっくりしねっ!!」突き倒したまりさの上を何度も飛び跳ね、踏みつける。「ゆっくりしねっ!!
ゆっくりしねっ!!」
「ゆべえっ! やめるのぜっ! いたいのぜっ! れいむっ! やめるのぜっ!」
「ゆっくりしねっ!!」懇願には耳を貸さず、れいむはまりさの体を踏むのをやめない。「ゆっくり
しねっ!! ゆっくりしねっ!!」
「いだいっ! いだいっ! やべでぐだざいっ! やべでぐだざいっ!」
まりさはその辺りのゲスと同じような言葉を口にし始めた。しかし聞いてやる義理など無い。こい
つはゲスなのだから。
「ゆっくりしねっ!! ゆっくりしねっ!!」
その時、れいむのぽんぽんが、不意にどくんと脈打った。
「ゆゆゆう!?」
その奇妙な感覚に、れいむは動きを止めた。そしてあきらかに大きく膨らんでいる自らのぽんぽん
を見て、すぐにそれが何であるかを知った。
すっきりーしたのだから、必然的にこうなる。
「れいむ、おかあさんになっちゃったよおおおおおおお!!」
にんっしんっしたのだ。ゲスまりさにれいぽぅされたかわいそうなれいむのぽんぽんの中に、赤ち
ゃんが宿ったのだ。
れいむは呆気にとられたが、しかし次の瞬間、心の底から喜んだ。
望んだにんっしんっではない。しかしそんな事はれいむには関係なかった。
――ぽんぽんのあかちゃんに、つみはないよ!
れいむの中に、赤ちゃんと共に発生した新たな何か。その『何か』がそう告げている。
ぽーかぽーかと温かいこの『何か』の正体を、れいむは本能で悟った。
母性――。
心の中にその言葉を思い浮かべた瞬間、れいむの気持ちが言葉となって溢れた。「ししししっ! し
あわせえええええ!!」
感極まって涙を流すれいむ。突然、そのあんよに激痛が走った。
「いだいいいいいいっ!? あんよおおおおおおおっ!!」
痛みはまりさによるものだった。まりさが、汚らしいお帽子さんの中に入っていた木の枝で、れい
むのあんよを刺したのだ。喜びのあまり油断して、とどめを忘れていた。
「ゆるさないのぜえええええっ!!」と叫びながら、なおもれいむに襲い掛かってくるまりさ。「し
ぬのぜええええええ!!」
右目を潰された。「きらめきらりなおめめがああああああっ!?」
あんよをより深く切り裂かれた。「ぐんばつのあんよがああああああっ!?」
額を、ほっぺを、ゲスの凶器が襲う。「いだいっ! いだいよおおおおおおおおっ!!」
しかしゲスがぽんぽんを狙ってきた瞬間――れいむの『母性』が弾けた。
――あかちゃんは、れいむがまもるよ! ししゅするよ!
体を左に回転させ、背中で小枝を受けとめる。「ゆぎっ!」痛みは気にしていられない。回転を続け
つつ、勢いそのまま、左の揉み上げさんでまりさに一撃を与えた。
「へぶうっ!」と体を反らして後退するまりさの頭上に、痛むあんよを堪えてダイブ。
あとは先ほどの再現だ。
「ゆっくりしねっ!!」あんよから餡子が噴き出すのもかまわず、れいむは跳ね続ける。「ゆっくり
しねっ! ゆっくりしねっ!」
「ゆべっ! ゆべっ! ゆべえええええええっ!?」
それがまりさの断末魔だった。
れいむばかりか赤ちゃんまで殺そうとした、最低最悪のゲスは死んだのだ。
かなりの手傷を負わされた――しかし、ぽんぽんだけは死守した――れいむは、その場にへたり込
んだ。
「ゆふう、ゆふう……。あかちゃんをねらうなんて……」息も荒く、れいむは呟く。「ゆっくりの…
…かざかみにも、おけない……ゆっくりだよ……」
もう一度「ゆふう」と息を吐いて緊張を解く。
「あかちゃん! れいむみたいに、ゆっくりしたゆっくりになってね!」
笑顔で叫んだ刹那、れいむの中の『母性』がれいむ自身に思い出させた。『母性』に叩きつけられた。
全てを。
おうちを飛び出してからの行い、全てを。
「……きぼぢわるいいいいい!!」
初めて覚える不安感、恐怖感、そして嫌悪感。餡子を吐き出し、れいむはもがいた。
忘れていた――むしろ気にも留めていなかったはずのれいむの過去は、まったくゆっくりしていな
かった。
満足に抵抗することもできないおちびちゃんを一方的に嬲り、お父さんとお母さんを悲しませ、家
族のしあわせーを踏みにじってきた。
『母性』が揺れる。
とてもお母さんとなるゆっくりが取れる行動ではない。
こんなゆっくりから生まれてくるなんて、こんなゆっくりに育てられるなんて、赤ちゃんがかわい
そうだ。――れいむの中の『母性』が、れいむ自身が、れいむに向けてそう言った。
【2】
「ゆっくち! ゆっくち!」
「おちびちゃん! ゆっくりだよ! あんまりいそぐと、ころんでいたいいたいだよ!」
れいむはおちびちゃんを連れて、お花畑へピクニックに来ていた。
一面に色とりどりの花。どれもとても甘い香りを放っている。その周りには、美味しそうな蝶々さ
んもたくさん飛んでいた。
その蝶々さんを追いかけて、おちびちゃんがぽよんぽよんと跳ねている。「ちょうちょしゃん! ゆ
っくちまっちぇね! ゆっくちまっちぇね! れいみゅにたべられてにぇ!」
「ほらほら、おちびちゃん! あわてたらすってんころりんしちゃうよ!」
「わかっちぇるよ、おかあしゃん! ちょうちょしゃん、まちぇまちぇー!」
返答こそあったが、聞いているのかいないのか。おちびちゃんは蝶々を追うことに夢中だ。
「ゆふふっ! おちびちゃんはおてんばさんだね!」
れいむは微笑んだ。
おちびちゃんは最高にゆっくりしている。さすがは最高にゆっくりしたれいむのおちびちゃんだ。
そしてこのお花畑。――来て良かった。ここは素晴らしいゆっくりプレイスだ。
「ゆふう……」
空を見上げておめめを閉じる。柔らかな風がほっぺに気持ちいい――。
突然だった。
「ゆんやあああああああ!!」と、辺りに漂うゆっくりした雰囲気を引き裂く、甲高い悲鳴が聞こ
えた。
れいむは閉じていたおめめを限界まで見開いた。聞き間違えようもない。今のは最愛のおちびちゃ
んの声だ。
「おちびちゃんっ!?」れいむは叫んだ。何かゆっくりできないことでもあったのだろうか。
おちびちゃんのいた方に目をやると、そこには見知らぬ大きなゆっくりの背中だけがあった。
あれは誰だろう。体の大きさも――れいむと同じくらいだ――もちろんだが、あのゆっくりしてい
ない気配はどう見てもおちびちゃんではない。
「おちびちゃんっ! どこおおおお!? おへんじしてねえええええ!?」おちびちゃんはどこに
いったのだろうか。――その答えはすぐにわかった。
「おかあしゃん! たしゅけ……たしゅけちぇえええええ!!」大きなゆっくりの影から、おちび
ちゃんの助けを求める声が聞こえた。「やめちぇっ! やめっ……ゆっ!? ゆびゃあああああああ
あ!!」
れいむの位置からは見えないが、おちびちゃんはどうやらあのゆっくりに圧し掛かられ、何か酷い
ことをされているらしい。
「ゆゆゆっ!? ま、まっててね! おちびちゃん!! いまそっちにいくよ!! ゆっくりそく
ざにそっちにいくよ!!」
お花を踏み潰しながら、れいむは必死におちびちゃんの元に跳ねようとして――何だろう、いつも
よりあんよが重い。思うようにぴょんぴょんできない。
「やめろおおおおおおお!!」
思い通りに動いてくれないあんよに痺れを切らし、れいむは叫んだ。
おちびちゃんの身に何かあったら、あのゆっくりはただではおかない。絶対にせいっさいっしいて
やる。
「ゆえええええええん!! いぢゃいっ! いぢゃいよおっ!」おちびちゃんの苦しそうな声が、
ゆっくりしたお花畑に響く。「ゆびゃっ! ゆびゃっ! ゆっ、ぎゃっ……!!」
「れいむのおちびちゃんになにしてるのおおおおおおお!?」
れいむのその声に、おちびちゃんを虐めていた大きなゆっくりが反応した。ゆっくりと、れいむの
方に振り返る。
目が合って、れいむは飛び上がって驚いた。「……ゆっ? ゆううううっ!?」
その顔に見覚えがあったからだ。そう、たとえば水面によく見た顔だ。
大きなゆっくりは、ぷっと、口に咥えた小枝を地面に落とした。小枝の先には――餡子の糸をひく、
おちびちゃんの小さなおめめ。
「ゆぎっ……! ゆ、ふっ……!」足元でおちびちゃんがぐったりしているのが見える。時々ぴく
ぴくと動く小さな体は、そこかしこが千切られ、破られ、餡子も漏れているようだ。
「おっ! おぢびぢゃああああああああん!?」
「うるさいよ! ゆっくりしていないおちびちゃんをせいっさいっしているんだよ! じゃましな
いでね!」
大きなゆっくりが――れいむ自身が、れいむに向かってそう言った。
「ゆげえええええええっ!!」
かつてはらんとちぇんが住んでいたおうちの中で、れいむは絶叫しながらおめめを開いた。
左目で反射的にぽんぽんを確認する。
大丈夫。おちびちゃんは――赤ちゃんはまだ、れいむのぽんぽんの中にいる。お花畑で殺されてな
どいない。
「よかった……。あかちゃん、よかったよおお……」
また、この夢だ。
絶対にありえない夢。れいむがれいむのおちびちゃんを襲う、ゆっくりできない夢――。
おちびちゃんを授かってから今日まで、眠りに落ちるたびに同じような夢を見てしまう。おうちで、
森で、川辺で、そしてお花畑で。あらゆる場所で、れいむでないれいむがおちびちゃんを殺すのだ。
おかげでまともにすーやすーやしていなかった。
それと同時に、今日までほとんどむーしゃむーしゃしていない。
「ゆっ。きょうは……むーしゃむーしゃ、するよ……」
空腹に耐えかねたれいむは、決意を持って、うずたかく積まれたごはんに体を向けた。ずーりずー
りと移動すると、裂けたあんよが痛み、そこからこぼれた餡子が地面を汚した。
おそるおそる、れいむはごはんに口を付けた。
今日は大丈夫だろうか――。
らんとちぇんのツガイと、あのゲスまりさが対峙している。れいむはゲスまりさの後ろで、ニヤニ
ヤとその様子を眺めている。
まりさのおくちには、子ちぇんが咥えられていた。
「ゆっへっへ! おちびちゃんのいのちがおしかったら、まりさたちのいうことをきくのぜ!」
おちびちゃんを盾に、親ゆっくりを脅す。いつものやり方だ。
「やめてあげてくれ! おちびちゃんがいやがっているぞ!」
「このごはんは、かぞくがえっとうするのにひつようなんだよー! わかってねー! おちびちゃ
んをはなしてねー!」
そう叫んだのは、確かにらんとちぇんだったはずだ。
それがいつの間にかれいむ自身になっていた。らんとちぇんの二人はもういない。いるのは、れい
む一人だ。
れいむの正面にはこちらを向いたゲスまりさと、もう一人のれいむ自身。そしてゲスまりさの口に
は――れいむのおちびちゃん。
おちびちゃんは泣き叫んでいる。「ゆえええええん! おかあしゃあああああん! ごあいよおおお
おおおお!」
かわいそうなおちびちゃんの悲痛な声にも、ゲスまりさと、その向こうにいるれいむ自身はニヤニ
ヤとするばかりだ。
「どうするのぜ? れいむ?」まりさが、れいむではないれいむ自身に問いかける。
れいむ自身が間髪いれずに言った。「みせしめに、おちびちゃんをすこしいためつけてあげようね!
げすはせいっさいっ! これはじょうしきだよ!」
そう答えるのはわかっていた。他ならぬ自分が、いつもそう言っていたからだ。
次の瞬間、すでに心得ていたゲスまりさが、おちびちゃんのかわいいほっぺを噛み千切った。
「いぢゃいいいいいいいい!! れいみゅのもちもちほっぺぎゃああああああ!! ゆえええええ
ええん!!!」
「くっちゃくっちゃ……ゆぺっ! ゆへっ、まずいほっぺなのぜ!」
ほっぺを咀嚼し、吐き出したゲスまりさが、足元でのた打ち回るおちびちゃんを嘲笑う。
「ゆふふ! つぎはそのかわいいおめめを、いつものようにぷーすぷーすしてあげてね!」
「ゆっへっへ! さすがはれいむなのぜ! ないすあいであなのぜ!」
れいむの指示を受け、ゲスまりさはお帽子さんの中から尖った小枝を取り出した。そしてそれを、
おちびちゃんのおめめに近づけて――。
「やべでっ……おでがいだがら、やべでえええええええっ!! 」
こんなれいむの懇願など、あの二人は意に介さないだろう。そんなことくらいわかっている。なぜ
なら、自分は一度も意に介した事がなかったからだ。
涙のせいでいつも以上にキラキラ光るおちびちゃんのおめめに、小枝が突き刺さった。「いぢゃいい
いいいいいいいっ!! いぢゃっ! いぢゃっ! いぢゃいいいいいっ!!」
「ゆわあああああああああっ!!」
悲鳴と共に、れいむはごはんの山から飛び退いた。「ゆあっ!? ……ゆええ。むーしゃむーしゃ、
させてよお……!」
やはり今日も駄目だった。ごはんを口にしようとすると、どうしてもこの幻覚を見てしまう。この
場でらんとちぇん一家に起きた惨劇を、れいむ親子が代わりに演じるのだ。
悪夢と幻覚、それに伴う不眠と拒食の原因は、すでにわかっている。
『母性』のせいだ。
あの時、赤ちゃんとともに生まれた『母性』が、れいむのこれまでの行いを責め、苛んでいる。
赤ちゃんやおちびちゃんをかわいいと思う気持ちと、それを脅かすモノを絶対に許さない気持ち。
それがゆっくりの『母性』だ。
今まで数え切れないほどのおちびちゃんを、それを守るお父さんやお母さんを蹂躙してきたれいむ
を、『母性』が許すはずはない。
そんな理屈なんてわかりたくもなかったが、相手は自分の感情だ。れいむは自然と理解してしまっ
ていた。
「『ぼせい』はゆっぐりでぎない……! れいぶのながからでていっで……! ででいげえええええ
ええええ!!」
れいむは地面に寝転んで、じーたばーたと体を動かしたが、すぐに動くのをやめた。
ゲスまりさにやられた怪我の痛みもあるが、何よりも、その乱暴な行動がぽんぽんの中の赤ちゃん
に障ると気付いたからだ。
それを気付かせてくれたのも、やはり『母性』だった。
「ゆう、ごめんね……。あかちゃん、いたいいたいじゃなかった……?」
言いながら、揉み上げさんでぽんぽんを擦る。
いっそこの赤ちゃんを殺してしまえば、れいむにゆっくりできない事を囁く『母性』は消えてなく
なるのではないか。――そう考えたのも、一度や二度ではない。しかし、そのたびにそのドス黒い
考えを抹消してきた。
こんなにゆっくりした――ぽんぽんごしでもわかる――赤ちゃんを殺すなんてことが、れいむにで
きるわけがない。
先ほど思わず「出て行け」と言ってしまったが、当然、『母性』を体外へ追いやることなど不可能だ。
そしてもし仮にそれが可能だったとしても、そうなった場合、自分はこのかわいい赤ちゃんを愛せ
るのかどうか、それが不安だった。
おそらく無理だろう。『母性』が生まれる以前、つい先日の自分を思い出せばよくわかる。れいむに
とって『母性』とは、赤ちゃんを愛する感情そのものなのだ。そして赤ちゃんを愛せない自分など、
もはや考えられない。考えたくもない。
れいむの中で、赤ちゃんと『母性』は切り離せないものになっていた。
言い換えれば『母性』に赤ちゃんをゆん質に取られているようなものだ。――ごはんを貰う為に、
れいむが他ゆんのおちびちゃんたちをそうしてきたように。
今はあの時の親ゆっくりたちの気持ちがよくわかる。おちびちゃんを盾にされたら、もうどうしよ
うもない。どうしたらいいのかわからない。考えただけでも気が狂いそうになる。
「もういやぢゃよ……。あがぢゃん、れいぶをゆっぐりさせで……」
過去の自分を思い出し、さらにゆっくりできない気持ちになったれいむは、ぽんぽんの中の赤ちゃ
んに話しかけた。
「ゆっぐりはやぐ……おおきぐなっでね。おかあさんとゆっくりじようね……。いっしょに、ゆっ
ぐりじてくれるよね……」
すーやすーやも、むーしゃむーしゃもできない。何もしていなくても落ち着かない気持ちになる。
何かが怖い。ゆっくりできない。
こんなことではいつまで経っても傷が癒えるはずもない。
助けてくれるゆっくりは、周りに誰もいない。全員れいむが殺してしまったからだ。
満足に体を動かす事も叶わず、れいむは泣きながら赤ちゃんに話しかけることしかできなかった。
「あがぢゃん……あがぢゃん……」
そうすることで、ますます膨らんでいく『母性』。
れいむをゆっくりさせてくれる感情と同時に、れいむをゆっくりさせてくれない感情が、日に日に
大きくなっていく。
「ゆっくりのひ……まったりの、ひ~……」
いつか誰かに聞かせてもらったお歌が、不意にれいむの口からこぼれた。
【3】
「うう、うばれるううううううううう!! あがぢゃんうばでどぅううううううううう!!」
しゅっさんっの苦しみは予想以上だった。
『母性』のせいでろくにすーやすーやもむーしゃむーしゃもしていない体が耐えられるかどうか、
れいむには自信が無かった。
しかし、そんな満身創痍のれいむを支えるのもまた『母性』だった。
惨めでゆっくりできない思いをしながらも、『母性』のおかげでここまで生きながらえる事ができた。
れいむを苛むゆっくりできない『母性』だが、同時に、これ以上なくゆっくりした味方でもあるの
だ。
「あがぢゃ……っ! れいぶのあがぢゃ……っ!」左目を閉じ、歯を食いしばるれいむ。「……っ!
……っ!」
れいむの空洞になった右目から、背中から、あんよから、傷という傷から餡子が噴き出す。
砂糖水の涙が、汗が、涎が、体液という体液がれいむの体を濡らす。
――がんばるよっ! ぐるじいげど……いだいげど……あがぢゃんのたべに、れいぶはがんばるよ
っ!!
やがて、すぽーんという音とともに、れいむのまむまむから赤ちゃんが飛び出した。
そしてクッション代わりに敷かれた枯れ草の上に、勢いそのまま着地――いや、むしろ墜落した。
「ゆぴゃっ!」
赤ちゃん――おちびちゃんの短い悲鳴。事前の予想よりも衝撃があったようだ。おちびちゃんは枯
れ草の上に突っ伏したままふるふると震えて、なかなか起き上がろうとしない。
大丈夫だろうか。痛い思いをしていないだろうか――。
そんなれいむの心配をよそに、やがてすくっと立ち上がったおちびちゃんが宣言した。
「うまれちゃよ! れいみゅがゆっくちうまれちゃよ!」
痛くないわけがないのに、それをおくびにも出さない元気な声だ。小さいとは言え、おちびちゃん
のその背中には頼りがいすら感じる。
――おちびちゃんっ……! えらいねっ……! よくがまんしたねっ……!
れいむは言葉にできないほど感動した。――いや、お口を動かして言葉にしたつもりなのに、音が
出なかった。
疲弊しきった体でのしゅっさんっは、やはり自殺行為だったらしい。話すどころか、もはや体も満
足に動かせない。
れいむは自分の体の限界を悟った。
おちびちゃんにすーりすーりして、お歌を聞かせてあげて、そして一緒にすーやすーやする。れい
むが思い描いていた、そんな親子として当たり前の行為を、この先してあげる事もできそうにない。
――ごめんねっ……! おちびちゃん、ごめんねっ……!
れいむは心の中で、誠心誠意おちびちゃんに謝罪した。何にもしてやれないお母さんで、本当に申
し訳ないと思った。我ながら情けなくて涙が出そうになる。
しかし、涙は流れなかった。
今、れいむの体をべたべたと濡らしているのは、しゅっさんっの時に流した体液だ。あの時に流し
つくしてしまったのか、新しい涙は流れてこない。もはや汗も涎も、しーしーさえも流れ出ないだ
ろう。本当に何もできない体になってしまった。まったくゆっくりしていない。
それでもただ一つだけ――。
ただ一つだけ、おちびちゃんにしてあげられることが残っている。
最期にただ一言だけ言葉にできれば、自分はもうそれだけでいい。
それを行うだけの気力を、体力を、どうにかして振り絞るのだ。れいむの『母性』が燃え上がった。
「おとうしゃん! おかあしゃん! ゆっくちしていっちぇにぇ! れいみゅはれいみゅだよ!」
おちびちゃんが振り返り、自分に向かってご挨拶した。何度も夢に出てきた通りの、れいむにとて
もよく似た美ゆっくりだ。
――ゆううううう!! りっぱに……とってもりっぱにごあいさつできたねっ!! ゆっくり!!
おちびちゃん、ゆっくりしていってね!!
声には出ないが、れいむはせめて表情で応えたつもりだった。
その瞬間、おちびちゃんが固まった。そして顔をしかめたと思うと、聡明なおちびちゃんらしから
ぬゆっくりできない声で叫んだ。「く、くちゃいいいいいっ!?」
おうちの中を見回して、さらに叫ぶ。「ゆっくちできにゃいいいいいい!!」
れいむはハッとした。
らんやちぇん、そのおちびちゃんたち、そしてゲスまりさが付けていたお飾りさんの放つ死臭が、
おちびちゃんには我慢できないのだろう。
うっかりしていた。れいむは子ゆっくりの頃からその臭いに慣れてしまっていたので、そこまでは
気が回らなかったのだ。あれらはあらかじめ埋めるなり、おうちの外に捨てるなりしておくべきだ
った。
――ごめんねええっ!! おちびちゃん、ごめんねえええええっ!!
産まれたばかりのおちびちゃんが、あんなに苦しんでいる。
できることなら、おつむを地面にこすりつけて謝りたい。そんな気分でおちびちゃんを見ると、ち
ょうどおめめがあった。
「……ゆ、ゆっくち……していっちぇにぇっ!!」
おちびちゃんが、またご挨拶をしてくれた。
こんな情けないお母さんだというのに見放さないでくれている。何と健気で優しいおちびちゃんな
のだろうか。
れいむは精一杯ゆっくりした表情を作った。残されている左目を細めて、優しく微笑んだつもりだ。
「お……おか、しゃ……」
おちびちゃんが戸惑う気配が伝わってきた。どうしたのだろう。
ひょっとしたら自分は、ゆっくりできない表情をしているのではないか。たとえば――そう、かつ
てのれいむのお母さんのような。
れいむの『母性』が刺激される。――ここまでか。もう少しかわいいお顔を見ていたい気持ちはあ
るが、ゆっくりできない自分の姿を見せ続けるのも、それはおちびちゃんに気の毒だ。
何より、手遅れになる前に済ませなくてはいけないだろう。
――れいむは……おかあさんは、おちびちゃんにゆっくりしてほしいんだよ。なにもしてあげられ
なくてごめんね……。だからね、せめておかあさんを……。
『母性』に後押しされて、れいむはゆっくりとお口を開く。
おちびちゃんに己の体を食べて、ゆっくり大きくなって欲しい。――それがれいむの最期の願いだ。
そのくらいしかしてあげられない自分が恨めしい。
ご挨拶すら満足にできない今のれいむが、おちびちゃんにしてあげられる事、遺せる事。それは食
料としての自分の体、ただそれだけなのだ。
「……さあ……」
声は出た。これならやり遂げられる。
お食べなさい――失敗しないようにゆっくりそう言おうとしたれいむに向けて、おちびちゃんが口
を挟んだ。
「このっ……くしょばばあ! どうちてれいみゅをむししゅるの!? ごあいさちゅもできにゃい
の!? れいみゅを……ゆっくちさしぇろおおおおお!!」
そのかわいいお口に似合わない罵声を早口で発しながら、おちびちゃんがれいむに体当たりしてき
た。
「おたぶえっ!?」小さなおちびちゃんによるほんの軽い一撃ではあったが、今のれいむにはそれ
に耐える力も無い。無様にごろんと転がった。
霞むおめめでおうちの天上を見ながら叫ぶ。――命を賭して産んだ我が子の、あまりにも信じられ
ない言動に、『母性』と本能がれいむに絶叫させる。
「どぼじでこんなこどずるのおおおおっ!?」
――どぼじでこんなこどずるのおおおお!?――
それはれいむが殺したゆっくりたちが揃って叫び、そのたびに鼻で笑ってきた言葉だ。
絶望と未練の中、自分のお母さんの最期を思い出しながら、れいむは死んだ。
【エピローグ】
「むーちゃむーちゃ! むーちゃむーちゃ!」
おうちには、小さなれいむが食べるには十分すぎるほどのごはんが蓄えてあった。これだけ食べれ
ば、すぐにでも大人ゆっくりになれそうだ。
このごはんはお母さんが集めたものだろうか。
れいむにご挨拶もできない残念なお母さんではあったが、ごはんに関しては素直に感謝しようと思
った。ありがたく食べさせてもらおう。
まだ寒くてお外には出られないが、もうすぐ暖かい春が来る。ちょうどこのごはんを食べ終える頃
でもあるはずだ。
そうしたら即座にこのおうちから出て行こう。
「むーちゃむーちゃ! ちあわちぇー!」」
そういえば、おうちに散乱しているお飾りさんの臭いは、いつのまにか気にならなくなっていた。
当初はどうしたものかと思ったが、慣れたのだろう。汚いものとも思わなくなった。「そういうもの」
だと思ってしまえば、案外どうということはない。この香りを嗅ぐと、気分が高揚するとさえ思え
た。
「くっちゃくっちゃ」と口を動かすれいむの視界にお母さんが入った。
仰向けに寝転がるお母さんの死骸。ぷっくりと膨らんでいた体は日に日に萎んできた。表皮の傷も
広がってきている。
すぐに目をそらし、見なければ良かったと少し悲しい気持ちになる。しかしその大きな体は、どう
しても視界に入ってしまうのだ。
もう食事をする気分にはなれなかった。
「おかあしゃん……」
一言つぶやき、そしてゆっくりと、お母さんの死骸をよじ登った。「ゆんしょ…… ゆんしょ……」
お母さんの体の中心辺りに立ったれいむは、ぎゅっと自分のおめめを閉じた。
そして「ゆうう……」とぽんぽんに力を入れて、声を出す。
「うんうんしゅるよ! れいみゅがうんうんしゅるよ! ゆゆ~ん……しゅっきりー!」
れいむのあにゃるから出たうんうんが、お母さんのお口にぽとりと落ちた。
最近ではお母さんの体をトイレとして活用している。特にこの大きなお口などは使い勝手がいい。
おうちの中の汚いものはひとまとめに――要はそういう発想だ。これも「そういうもの」なのだ。
春。
子ゆっくりとしては大きめのれいむが、ゆっくりできないお母さんの元を飛び出した。行くあては
特に無い。
しばらくぽよんぽよんと森の中を移動して、れいむはあることに気付いた。
この辺りには、ゆっくりが住んでいない。おうちの形跡はそこかしこにあったが、中には誰もいな
いのだ。
春になったので、揃ってお出かけでもしているのだろうか。
(了)
前半(【1】の部分の5行目から【2】の頭まで)は、でいぶ無双です。
苦手な方は流し読みするなり、目の焦点を合わせないなりして下さい。
【プロローグ】
「ゆぴいっ!」
れいむは地面に突っ伏した。
体の下には申し訳程度に枯れ草が敷かれていた。しゅっさんっ時の赤ゆっくりに対する衝撃を抑え
るために敷かれたであろうそれは、しかしあまり役に立ってくれなかったようだ。
じんじんと痛む体に、れいむは涙が出そうになったが、それでも初めて地面に立ったことの喜びの
方が勝った。にっこり笑って思いのたけを口に出す。
「うまれちゃよ! れいみゅがゆっくちうまれちゃよ!」
おうちの天井を見上げながら、れいむは小さく丸い体を歓喜に振るわせた。そして勢いよく振り返
る。いよいよ両親と感動のご対面だ。餡子脳に刻まれた本能が命令する――初めてのご挨拶は、ゆ
っくりしっかり決めなくてはいけない。ご挨拶もできないゆっくりは、ゆっくりしていない最低な
ゆっくりなのだ。
「おかあしゃん! おとうしゃん! ゆっくちしていっちぇにぇ! れいみゅはれいみゅだよ!」
一息に言ったその瞬間、れいむは固まった。れいむを見下ろすお母さんが、とてもゆっくりしてい
るとは言えないお顔をしていたからだ。
乾ききって所々ひび割れている、見るからに不健康なお肌。あちこち縮れて埃の浮く髪の毛さん。
そのぎょろりと剥かれた右と左のおめめは、とてもかわいい我が子を見るそれではなかった。お口
は気味悪く歪んでいる。
そんなお母さんはご挨拶も返してくれない。お父さんは――見当たらなかった。
ふと、おうちのそこかしこから、ゆっくりできない臭いが漂ってきた。
「く、くちゃいっ!?」
れいむは顔をしかめて周りを観察した。
あちこちに赤いおリボンさんや、黒いお帽子さんが落ちている。臭いの源はあれらだ。あのお飾り
さんが異臭を放っている。
「ゆっくちできにゃいよおっ!」
叫んではみたが、これはゆっくりできないどころの騒ぎではない。れいむは一刻でも早くこんな場
所から逃げ出したかった。
おうちには沢山のごはんも積まれていた。しかし、こんな所でむーしゃむーしゃしても美味しく食
べられそうにない。
――お母さんは平気なのだろうか?
そう思って正面にいるお母さんを見上げると、そのおめめは真っ直ぐにれいむを睨みつけていた。
れいむはますます逃げ出したくなった。
思い返せば、お母さんのぽんぽんの中も何だかゆっくりできない気配に満ちていた。そして、夢に
見たお外はもっとゆっくりできないときている。
「……ゆ、ゆっくち……していっちぇにぇっ!!」
もう一度ご挨拶。れいむはぎゅっと目をつむり、ぽんぽんの底からありったけの声を絞り出した。
しかし今度もお母さんからのご挨拶はなかった。それどころか、表情がますますゆっくりできない
ものに変わっていった。眉間に皺を刻み、おめめを細めている。まるでれいむを憎んでいるかのよ
うに見えた。
「ゆ……ゆっ? おか、しゃ……」
思わず言葉を失った。れいむが生まれたというのに、どうしてお母さんは喜んでくれないのか。笑
ってくれないのか。ご挨拶を返してくれないのか。
れいむはゆっくりと考える。
――ひょっとしたら、れいむがゆっくりしていないから怒っているのだろうか?
その考えを瞬時に打ち消す。れいむがとてもゆっくりしていることは、他ならぬれいむ自身が保証
する。
ということは――つまり、れいむのお母さんが悪いのだ。考えたくはないが、そういうことになっ
てしまう。
「ゆ、ゆゆううう……」
れいむが上目遣いに見やると、お母さんがゆっくりとお口を開いた。
【1】
春。
子ゆっくりとしては大きめのれいむが、ゆっくりできないお母さんの元を飛び出した。行くあては
特に無い。
しばらくぽよんぽよんと森の中を移動して、れいむはあることに気付いた。
この辺りには、ゆっくりが住んでいない。おうちの形跡はそこかしこにあったが、中には誰もいな
いのだ。
春になったので、揃ってお出かけでもしているのだろうか。
『おうち宣言』を済ませた空家を寝床に、夜露や雑草に頼る生活をしばらく続けた後、れいむはと
あるゆっくり家族に世話してもらうことになった。――いや、家族に世話させてやることにした。
親のいないかわいそうなれいむを世話するのは、ゆっくりとして当然だろう。光栄に思って欲しい
くらいだ。
無事に冬を越せたお祝いとして、少し離れた場所からピクニックに来ていたらしい一家――父まり
さに母れいむ、子まりさに子れいむ――は、れいむを歓迎した。
「あんこはつながっていないけど、みんなほんとうのかぞくだよ! ゆっくりしていってね!」
しかしそんな一家との生活は長くは続かなかった。れいむが一家をまとめて永遠にゆっくりさせた
からだ。
れいむには一家が許せなかった。
なぜなら、その家の両親が、自分の本当のおちびちゃんとれいむとで、まったく同様の扱いをした
からだ。
ふざけるなと、れいむは思った。
両親が健在でしあわせーに暮らしているおちびちゃんたちと、両親としあわせーな思い出を作れな
かったれいむを同じレベルで可愛がるとは、ゆっくりの風上にも置けない。
健気でかわいそうなれいむこそ、何より大事にされてしかるべきだ。ごはんの量ももすーりすーり
の回数もみんな同じなんて、とてもじゃないが我慢できるものではない。
しかし文句を言っても無駄だった。
「ゆふふ! わがままをいうこはゆっくりできないよ!」ゲス両親は笑顔で言った。「おとうさんと
おかあさんは、おちびちゃんたちみんな、おなじくらいだいすきだよ! えこひいきは、めっ! だ
よ!」
まったく話にならないゲスどもだ。
堪忍袋の緒が切れたれいむは、まず眠っているゲス父まりさとゲス母れいむを、木の枝――父まり
さのお帽子さんの中に入っていた――で突いて殺した。正面から行っても良かったが、抵抗された
ら面倒なのでやめた。
「すーやすーや」などと間抜けな寝息を立てていた二人は、驚くほどあっさり死んだ。悲鳴すらあ
げなかった。――この方法は使える。覚えておくことにした。
れいむがひと眠りして目を覚ますと、ゲス子まりさとゲス子れいむが半狂乱になっていた。
「おとうしゃんとおかあしゃんがしんじゃったあああああ!! どぼちてええええ!?」
実に耳障りな声で泣き叫ぶ二人。
うるさくてかなわなかったので、れいむはゲス親ゆっくりと同様、ゲスおちびちゃんたちも木の枝
で突き刺した。ゲス子まりさの「どぼちてこんなことしゅるのおおおおお!?」という質問にはあ
きれ果てた。なぜわからないのだろう。
「れいみゅをかわいがらないからだよ! りかいできりゅ?」
優しいれいむがそう教えてやると、理解したのかしなかったのか、ゲス子まりさはぽかんとしたお
顔のまま死んだ。
ゆっくりできない一家をせいっさいっして、れいむはとてもいい気分だった。不幸な身の上だが、
これからも頑張って生きていこうと思った。
れいむが生まれたおうちの辺りと違って、この一帯には結構な数のゆっくりが住んでいるようだ。
れいむを養わせるゆっくりには事欠かないだろう。
次にれいむの世話をさせてやったのは、ぱちゅりーの一家。母ぱちゅりーに、三人の子ぱちゅりー
だ。
「むきゅ! おちびちゃんはきょうからぱちぇのおちびちゃんよ!」
やはり歓迎されたが、このおうちもハズレだった。
将来、群れを率いるための英才教育をおちびちゃんたちに施しているらしいゲス母ぱちゅりーは、
れいむにも勉強をさせようとした。
「いっちょにがんばりまちょう!」そう言って笑うゲス子ぱちゅりーたち。
冗談ではなかった。いちいちそんな面倒なことをしていられるか。そんな時間があるならごはんを
食べさせて欲しい。たくさんでいい。
「おかあさんのいうことをきいてね。ごはんはおべんきょうのあとでたくさんあげるわよ」
れいむのお願いを聞かないゲス母ぱちゅりーのその言葉に、ゲス子ぱちゅりーたちは喜んでいた。
馬鹿ぞろいだと思った。
くだらなすぎてゆっくりできない生活に、温厚なれいむも爆発した。
「おやなら、れいみゅをゆっくちさせちぇにぇ!」と、れいむは母ぱちゅりーに体当たりをした。
「れいみゅはかわいしょうなゆっくちなんだよ! さっさとごはんをよこちぇ、くしょばばあ!」
ちょっと痛い目に合わせるだけのつもりだったのだが、れいむが二度三度とぶつかると、「やめっ…
…やめなさい!! どぼじでこんなこどずるのおおおお!?」と叫んだゲス母ぱちゅりーは「えれ
えれ」と体内のクリームを吐き出し、そのまま永遠にゆっくりしてしまった。
それを見たゲス子ぱちゅりーたちは一斉に「えれえれ」とやった後、そのまま揃って死んだ。とて
もあっけなかった。れいむが手を下すまでもなくゲスの子は全滅した。
勉強勉強と騒いだ結果がこれだ。何の役にも立っていないではないか。
れいむはおうちに備蓄されていたごはんを数日かけて「むーちゃむーちゃ! ちあわちぇー!」と
たいらげた後、お外に出た。
ありす一家にも出会った。
「おちびちゃんはきょうからありすのいえのこよ! とかいはなゆっくりにしてあげるわ!」
母ありすに連れて行かれたおうちには、五人の子ありすがいた。
「あ、あら! ずいぶんいなきゃもののれいみゅね! でも、ときゃいはのれでぃになりたいのな
ら、ありしゅがつきあってあげちぇもいいのよ!」
子ありすの一人が開口一番、れいむを罵ってきた。
かわいそうなのに健気にゆっくり生きているれいむに向かって、何と言う暴言。一目でわかった―
―この子ありすはゲス以外のなにものでもない。
「げしゅはゆっくちしにぇ!」れいむはゲス子ありすに何度も体当たりした。「ゆっくちしにぇ!
れいみゅをばかにしゅるありしゅは、ゆっくちしにぇ!」
「ときゃいはっ! ときゃいはああああっ!」
れいむとおうちの壁に挟まれ続けたゲス子ありすは、潰れた声を出しながら、それに見合った姿で
潰れて死んだ。都会派とは口ばかりの醜い死に顔だった。思わずれいむも「おお、みにきゅいみに
きゅい」と言ってしまおうというものだ。
ものはついでと、二人目のゲス子ありすも同じように潰してやった。
ぽかんとしていたゲス親はここで我に返ったようだ。ノロマすぎるが、れいむには好都合だった。
「やめなさいっ! やめでっ! ありずのとかいはなおちびぢゃんたちがあああああ!? どぼじ
でこんなこどずるのおおおお!?」そんなゲス親ありすの悲鳴は、やがて「うふふふふ」というど
こか歪んだ笑い声に変わった。そして「……んほおおおおおおおお!!」と奇声を発したかと思う
と、ゲス親ありすは生き残りのゲス子ありすに襲いかかった。
「やめちぇ! やめちぇね、みゃみゃああああ! こんなのときゃいはじゃないわああああ!!」
「おちびちゃんのまむまむは、とってもとかいはねええええええ! きょういくのせいかだわああ
あああ!!」
ゆっくりできないゲスれいぱー親ありすには、ゲス子ありすたちの声は届かないらしい。
我が子をれいぽぅするなんて、とんだ親もいたものだ。
この家族もハズレだった。かわいいれいむの世話をしたいのはわかるが、それならそれなりの格と
気品を持ち合わせていてもらいたい。
逃げる子ありすたちとそれを追う親ありすを尻目に、ごはんをむーしゃむーしゃして、れいむはお
うちを後にした。
おうちからおうちを渡り歩く生活――ゆっくりしたおうちは一つもなかった――を繰り返すうちに
時は経ち、もともと大きかったれいむは、ますます巨大に成長した。
冬はすぐそこ。山では多くのゆっくりたちが無事に春を迎えるための準備に勤しむ。
しかし、れいむはそれをしようとしなかった。する必要がないからだ。
要は今までと一緒だ。
おなかが減ったら、寒くなったら、色々なおうちを渡り歩いて、そこで冬ごもりしているゆっくり
たちにれいむを世話させればいい。
何せ、両親も姉妹もいないかわいそうなれいむなのだ。これでさらに冬を越せないなんてことにな
かったら、ますます悲惨ではないか。
だから他のゆっくりたちは、れいむを手厚く保護しなくてはいけないのだ。当然だろう。
そのおうちが気に入ったら春まで住んでやってもいいが、ごはんがなくなったら出ていくしかない。
冬にごはんが取れなくなることは知っている。いくらかわいそうなれいむの為とはいえ、無いもの
を無理に取って来いとまでは言わない。れいむは賢くて優しいのだ。
この越冬方法は、我ながらいいアイデアだと思った。これならみんながしあわせーになれる。どう
して他のゆっくりはこの方法をとらないのか不思議だ。――いや、これはれいむの頭脳だからこそ
思いつき、れいむの境遇だからこそ実行できる手段なのだ。他ゆんにそこまで求めるのは酷な話か。
「えらばれしゆっくりでごめんね!」と、れいむは自分自身を誇った。
どのおうちでも、なかなかれいむにごはんを食べさせようとはしなかった。運の悪いことに、この
辺にはゲスしか住んでいないらしい。
さらに面倒なことに、ゲスどもはすでにおうちに篭りっきりになっている。仕方ないので、わざわ
ざおうちの前の『けっかい』を破壊して侵入しなくてはいけなかった。
「これがないとふゆさんがこせなくなっちゃうんだよ! わるいけど、れいむにはわけてあげられ
ないよ!」ゲス一家はみな一様に言った。「れいむもがんばってごはんをあつめてね! いそげば、
まだまにあうよ!」
こいつらの体の中の餡子は腐っているのではないかと、れいむは思った。
そっちの都合など関係ないだろう。れいむが食べたいと言っているのだから、食べさせるのが常識
だ。だいたいごはんを食べられなかったら、れいむこそ餓死してしまうではないか。
仕方ないので、そういうゲス連中は皆殺しにした。ゲスはせいっさいっ――これも常識だ。もっと
も、ゲスどもはその常識すら理解していないようだが。揃いも揃って「どぼじでこんなこどずるの
おおおお!!」だ。
他の言葉を知らないのかとうんざりした。
「れいむのいうことをきかないげすは、せいっさいっだよ!」れいむは優しく諭してやった。「その
ごはんは、れいむがかわりにむーしゃむーしゃしてあげるからね!」
ゲスは手がかかって仕方ない。ゆっくり全部がれいむのようなゆっくりなら、もっとゆっくりした
世界になるだろうに。
れいむにごはんを食べさせないゲス一家をせいっさいっして、蓄えられていたごはんを食べて、ま
た別のおうちに赴く。そこに住む一家がゲスだったら、またせいっさいっして――れいむの計画は
順調だった。すでに季節は冬だが、とてもゆっくりした生活を送っている。
稀にれいむに歯向かってくるゆっくりもいた。一人寂しく生きている健気でかわいそうなれいむに
手を上げるとは、何ともゆっくりしていない。さすがはゲスだ。
そんな手合いを相手にするのも面倒なので、れいむは正面からのせいっさいっよりもスマートな方
法を開発した。
「ごはんをくれなかったら、おちびちゃんがどうなってもしらないよ!」ゲス一家のおちびちゃん
を押さえつけて、そう言うのだ。
ついでに見せしめとしておめめの一つも潰してやれば、それだけでゲス親は降伏する。
「ゆっくりできないれいむはでていってね! ぷくううううう!」と、最初は無礼なことをしてい
たゲス親どもが、あっという間に手の平を返すからおもしろい。「やべでっ! やべでぐだざい!
ごはんはあげばずがら……どうか、おちびちゃんだげはああああ!!」
さすがはゲスだ。愚かにもほどがある。はじめからそうしていれば、かわいそうなれいむに手間を
かけさせることもなかったのに。
れいむが苦労して手に入れたごはんをむーしゃむーしゃした後は、もちろんおちびちゃんを永遠に
ゆっくりさせた。するとゲス親は誰も彼も「どぼじでっ! どぼじでこんなこどずるのおおお
お!?」というお馴染みのセリフを吐いた。
そんなことはわかりきっているだろう。――しかし優しいれいむはあえて説明してやる。
「れいむによけいなてまをかけさせたばつだよ! ゆっくりはんせいしてね!」
加えて言うなら、おちびちゃんの「たしゅけちぇえ! おとうしゃん、たしゅけちぇえ!」という
声もゆっくりできなかった。ゲスはおちびちゃんの教育もできないのだろうか。それとも、ゲスの
子はどうやってもゲスなのだろうか。
いくら賢いとはいえ、あまりにも清廉潔白な自分には、いくら考えてもゲスのことなどわからない。
――れいむはそう結論付けた。
この辺りは大して雪が降らないこともあって、思ったよりも楽に冬を越せそうだ。これもれいむの
日頃の行いのせいだろう。ゲスをせいっさいっし続けた甲斐があったというものだ。
「れいむ! げすのせいっさいっがおわったのぜ!」
ゲスらんの死骸から体を離して、死臭に苦々しく顔をしかめながらそう言ったのは、先日知り合っ
たまりさだ。
まりさは、れいむの考案した越冬方法――他のおうちに赴き、そこに住む家族に援助させる――を
独自に考案し、実行していたらしい。
れいむと同じ方法に辿り着くとは、なかなか見所のあるゆっくりだと思った。
賢いのもそうだが、腕っ節もいい。――もちろん、どちらもれいむほどではないが。
初めて出会ったゆっくりしたゆっくりだ。れいむはすぐにまりさと意気投合し、それから行動を共
にしてきた。
家族がおらず、一人で一生懸命生きているところも気に入った。れいむの言うことを何でも聞く所
など申し分ない。
今もこのおうちに住んでいたゆっくり――ゲスらんにゲスちぇん、そのゲスおちびちゃんたちを、
れいむの命令でせいっさいっさせた所だ。
「ゆっくりごくろうさまだよ、まりさ!」
れいむはゲス一家が溜め込んでいたごはんに目をやった。冬ごもりも大詰めだろうに、まだ結構な
量のごはんが蓄えられている。ゲスなりに、やりくり上手だったのだろうか。
ともあれ好都合だ。と言うのも、もうこの辺にはゆっくりの住むおうちが見当たらなくなっていた
からだ。しかしこれだけのごはんがあれば、春まで余裕だろう。
春になったら別の土地へ移り住もう。れいむはここに残って、まりさを狩りに遣わせてもいい。
「さっそくごはんをむーしゃむーしゃするよ!」
れいむがそう言ってごはんに向き合った時だった。
「ゆっへっへ! おとなしくするのぜ!」突如、背後からまりさが覆いかぶさってきた。
「むーしゃむーしゃ――ゆゆっ?」
気づいた時にはごはんの山に押し倒され、まむまむにぺにぺにをそうっにゅうっされていた。
これがれいむのふぁーすとすっきりーだった。
こんな形で、望まぬ相手に、清らかなるれいむの純潔のばーじんさんを奪われてしまった。――れ
いむは呆然とした。自分では見えないが、普段はお空に輝く星のようにキラキラとしているれいむ
のおめめも、今はおそらく、お空を覆うゆっくりできない雨雲のように黒く沈んだれいぽぅおめめ
になっているだろう。
「ゆふう、ゆふう」と息を荒げたまりさの興奮気味な独白によると、まりさはれいむに付き従った
ふりをしながら、ずっとこの機会を狙っていたらしい。
今までの素直な態度はすべて演技だったのだ。なんという卑劣なゆっくりか。正真正銘、ゲスの中
のゲスだ。
れいむが絶世の美ゆっくりで、世のゆっくりたちが自分のものにしたくなるのはよくわかる。れい
む自身、美しすぎて申し訳ないとさえ思う。
しかしこんな暴挙が許されるはずはない。
れいむは確かに賢い。天才だ。しかし、あまりにも純粋すぎた。純粋がゆえに、ゆっくりを疑うこ
とを知らなかったのだ。
だからこそ、ゆっくりしたゆっくりの皮を被ったゲスまりさなどに騙され、こんな仕打ちを受けて
しまった。
――むくなれいむのこころをもてあそぶなんて、ぜったいに、ぜったいにゆるさないよ!
体内の餡子が灼熱した。
れいむの極上まむまむの余韻に浸っているのか、「ゆふい~」などと上機嫌になっているまりさ。れ
いむはその背中に体当たりした。
「ゆっくりしねっ!!」突き倒したまりさの上を何度も飛び跳ね、踏みつける。「ゆっくりしねっ!!
ゆっくりしねっ!!」
「ゆべえっ! やめるのぜっ! いたいのぜっ! れいむっ! やめるのぜっ!」
「ゆっくりしねっ!!」懇願には耳を貸さず、れいむはまりさの体を踏むのをやめない。「ゆっくり
しねっ!! ゆっくりしねっ!!」
「いだいっ! いだいっ! やべでぐだざいっ! やべでぐだざいっ!」
まりさはその辺りのゲスと同じような言葉を口にし始めた。しかし聞いてやる義理など無い。こい
つはゲスなのだから。
「ゆっくりしねっ!! ゆっくりしねっ!!」
その時、れいむのぽんぽんが、不意にどくんと脈打った。
「ゆゆゆう!?」
その奇妙な感覚に、れいむは動きを止めた。そしてあきらかに大きく膨らんでいる自らのぽんぽん
を見て、すぐにそれが何であるかを知った。
すっきりーしたのだから、必然的にこうなる。
「れいむ、おかあさんになっちゃったよおおおおおおお!!」
にんっしんっしたのだ。ゲスまりさにれいぽぅされたかわいそうなれいむのぽんぽんの中に、赤ち
ゃんが宿ったのだ。
れいむは呆気にとられたが、しかし次の瞬間、心の底から喜んだ。
望んだにんっしんっではない。しかしそんな事はれいむには関係なかった。
――ぽんぽんのあかちゃんに、つみはないよ!
れいむの中に、赤ちゃんと共に発生した新たな何か。その『何か』がそう告げている。
ぽーかぽーかと温かいこの『何か』の正体を、れいむは本能で悟った。
母性――。
心の中にその言葉を思い浮かべた瞬間、れいむの気持ちが言葉となって溢れた。「ししししっ! し
あわせえええええ!!」
感極まって涙を流すれいむ。突然、そのあんよに激痛が走った。
「いだいいいいいいっ!? あんよおおおおおおおっ!!」
痛みはまりさによるものだった。まりさが、汚らしいお帽子さんの中に入っていた木の枝で、れい
むのあんよを刺したのだ。喜びのあまり油断して、とどめを忘れていた。
「ゆるさないのぜえええええっ!!」と叫びながら、なおもれいむに襲い掛かってくるまりさ。「し
ぬのぜええええええ!!」
右目を潰された。「きらめきらりなおめめがああああああっ!?」
あんよをより深く切り裂かれた。「ぐんばつのあんよがああああああっ!?」
額を、ほっぺを、ゲスの凶器が襲う。「いだいっ! いだいよおおおおおおおおっ!!」
しかしゲスがぽんぽんを狙ってきた瞬間――れいむの『母性』が弾けた。
――あかちゃんは、れいむがまもるよ! ししゅするよ!
体を左に回転させ、背中で小枝を受けとめる。「ゆぎっ!」痛みは気にしていられない。回転を続け
つつ、勢いそのまま、左の揉み上げさんでまりさに一撃を与えた。
「へぶうっ!」と体を反らして後退するまりさの頭上に、痛むあんよを堪えてダイブ。
あとは先ほどの再現だ。
「ゆっくりしねっ!!」あんよから餡子が噴き出すのもかまわず、れいむは跳ね続ける。「ゆっくり
しねっ! ゆっくりしねっ!」
「ゆべっ! ゆべっ! ゆべえええええええっ!?」
それがまりさの断末魔だった。
れいむばかりか赤ちゃんまで殺そうとした、最低最悪のゲスは死んだのだ。
かなりの手傷を負わされた――しかし、ぽんぽんだけは死守した――れいむは、その場にへたり込
んだ。
「ゆふう、ゆふう……。あかちゃんをねらうなんて……」息も荒く、れいむは呟く。「ゆっくりの…
…かざかみにも、おけない……ゆっくりだよ……」
もう一度「ゆふう」と息を吐いて緊張を解く。
「あかちゃん! れいむみたいに、ゆっくりしたゆっくりになってね!」
笑顔で叫んだ刹那、れいむの中の『母性』がれいむ自身に思い出させた。『母性』に叩きつけられた。
全てを。
おうちを飛び出してからの行い、全てを。
「……きぼぢわるいいいいい!!」
初めて覚える不安感、恐怖感、そして嫌悪感。餡子を吐き出し、れいむはもがいた。
忘れていた――むしろ気にも留めていなかったはずのれいむの過去は、まったくゆっくりしていな
かった。
満足に抵抗することもできないおちびちゃんを一方的に嬲り、お父さんとお母さんを悲しませ、家
族のしあわせーを踏みにじってきた。
『母性』が揺れる。
とてもお母さんとなるゆっくりが取れる行動ではない。
こんなゆっくりから生まれてくるなんて、こんなゆっくりに育てられるなんて、赤ちゃんがかわい
そうだ。――れいむの中の『母性』が、れいむ自身が、れいむに向けてそう言った。
【2】
「ゆっくち! ゆっくち!」
「おちびちゃん! ゆっくりだよ! あんまりいそぐと、ころんでいたいいたいだよ!」
れいむはおちびちゃんを連れて、お花畑へピクニックに来ていた。
一面に色とりどりの花。どれもとても甘い香りを放っている。その周りには、美味しそうな蝶々さ
んもたくさん飛んでいた。
その蝶々さんを追いかけて、おちびちゃんがぽよんぽよんと跳ねている。「ちょうちょしゃん! ゆ
っくちまっちぇね! ゆっくちまっちぇね! れいみゅにたべられてにぇ!」
「ほらほら、おちびちゃん! あわてたらすってんころりんしちゃうよ!」
「わかっちぇるよ、おかあしゃん! ちょうちょしゃん、まちぇまちぇー!」
返答こそあったが、聞いているのかいないのか。おちびちゃんは蝶々を追うことに夢中だ。
「ゆふふっ! おちびちゃんはおてんばさんだね!」
れいむは微笑んだ。
おちびちゃんは最高にゆっくりしている。さすがは最高にゆっくりしたれいむのおちびちゃんだ。
そしてこのお花畑。――来て良かった。ここは素晴らしいゆっくりプレイスだ。
「ゆふう……」
空を見上げておめめを閉じる。柔らかな風がほっぺに気持ちいい――。
突然だった。
「ゆんやあああああああ!!」と、辺りに漂うゆっくりした雰囲気を引き裂く、甲高い悲鳴が聞こ
えた。
れいむは閉じていたおめめを限界まで見開いた。聞き間違えようもない。今のは最愛のおちびちゃ
んの声だ。
「おちびちゃんっ!?」れいむは叫んだ。何かゆっくりできないことでもあったのだろうか。
おちびちゃんのいた方に目をやると、そこには見知らぬ大きなゆっくりの背中だけがあった。
あれは誰だろう。体の大きさも――れいむと同じくらいだ――もちろんだが、あのゆっくりしてい
ない気配はどう見てもおちびちゃんではない。
「おちびちゃんっ! どこおおおお!? おへんじしてねえええええ!?」おちびちゃんはどこに
いったのだろうか。――その答えはすぐにわかった。
「おかあしゃん! たしゅけ……たしゅけちぇえええええ!!」大きなゆっくりの影から、おちび
ちゃんの助けを求める声が聞こえた。「やめちぇっ! やめっ……ゆっ!? ゆびゃあああああああ
あ!!」
れいむの位置からは見えないが、おちびちゃんはどうやらあのゆっくりに圧し掛かられ、何か酷い
ことをされているらしい。
「ゆゆゆっ!? ま、まっててね! おちびちゃん!! いまそっちにいくよ!! ゆっくりそく
ざにそっちにいくよ!!」
お花を踏み潰しながら、れいむは必死におちびちゃんの元に跳ねようとして――何だろう、いつも
よりあんよが重い。思うようにぴょんぴょんできない。
「やめろおおおおおおお!!」
思い通りに動いてくれないあんよに痺れを切らし、れいむは叫んだ。
おちびちゃんの身に何かあったら、あのゆっくりはただではおかない。絶対にせいっさいっしいて
やる。
「ゆえええええええん!! いぢゃいっ! いぢゃいよおっ!」おちびちゃんの苦しそうな声が、
ゆっくりしたお花畑に響く。「ゆびゃっ! ゆびゃっ! ゆっ、ぎゃっ……!!」
「れいむのおちびちゃんになにしてるのおおおおおおお!?」
れいむのその声に、おちびちゃんを虐めていた大きなゆっくりが反応した。ゆっくりと、れいむの
方に振り返る。
目が合って、れいむは飛び上がって驚いた。「……ゆっ? ゆううううっ!?」
その顔に見覚えがあったからだ。そう、たとえば水面によく見た顔だ。
大きなゆっくりは、ぷっと、口に咥えた小枝を地面に落とした。小枝の先には――餡子の糸をひく、
おちびちゃんの小さなおめめ。
「ゆぎっ……! ゆ、ふっ……!」足元でおちびちゃんがぐったりしているのが見える。時々ぴく
ぴくと動く小さな体は、そこかしこが千切られ、破られ、餡子も漏れているようだ。
「おっ! おぢびぢゃああああああああん!?」
「うるさいよ! ゆっくりしていないおちびちゃんをせいっさいっしているんだよ! じゃましな
いでね!」
大きなゆっくりが――れいむ自身が、れいむに向かってそう言った。
「ゆげえええええええっ!!」
かつてはらんとちぇんが住んでいたおうちの中で、れいむは絶叫しながらおめめを開いた。
左目で反射的にぽんぽんを確認する。
大丈夫。おちびちゃんは――赤ちゃんはまだ、れいむのぽんぽんの中にいる。お花畑で殺されてな
どいない。
「よかった……。あかちゃん、よかったよおお……」
また、この夢だ。
絶対にありえない夢。れいむがれいむのおちびちゃんを襲う、ゆっくりできない夢――。
おちびちゃんを授かってから今日まで、眠りに落ちるたびに同じような夢を見てしまう。おうちで、
森で、川辺で、そしてお花畑で。あらゆる場所で、れいむでないれいむがおちびちゃんを殺すのだ。
おかげでまともにすーやすーやしていなかった。
それと同時に、今日までほとんどむーしゃむーしゃしていない。
「ゆっ。きょうは……むーしゃむーしゃ、するよ……」
空腹に耐えかねたれいむは、決意を持って、うずたかく積まれたごはんに体を向けた。ずーりずー
りと移動すると、裂けたあんよが痛み、そこからこぼれた餡子が地面を汚した。
おそるおそる、れいむはごはんに口を付けた。
今日は大丈夫だろうか――。
らんとちぇんのツガイと、あのゲスまりさが対峙している。れいむはゲスまりさの後ろで、ニヤニ
ヤとその様子を眺めている。
まりさのおくちには、子ちぇんが咥えられていた。
「ゆっへっへ! おちびちゃんのいのちがおしかったら、まりさたちのいうことをきくのぜ!」
おちびちゃんを盾に、親ゆっくりを脅す。いつものやり方だ。
「やめてあげてくれ! おちびちゃんがいやがっているぞ!」
「このごはんは、かぞくがえっとうするのにひつようなんだよー! わかってねー! おちびちゃ
んをはなしてねー!」
そう叫んだのは、確かにらんとちぇんだったはずだ。
それがいつの間にかれいむ自身になっていた。らんとちぇんの二人はもういない。いるのは、れい
む一人だ。
れいむの正面にはこちらを向いたゲスまりさと、もう一人のれいむ自身。そしてゲスまりさの口に
は――れいむのおちびちゃん。
おちびちゃんは泣き叫んでいる。「ゆえええええん! おかあしゃあああああん! ごあいよおおお
おおおお!」
かわいそうなおちびちゃんの悲痛な声にも、ゲスまりさと、その向こうにいるれいむ自身はニヤニ
ヤとするばかりだ。
「どうするのぜ? れいむ?」まりさが、れいむではないれいむ自身に問いかける。
れいむ自身が間髪いれずに言った。「みせしめに、おちびちゃんをすこしいためつけてあげようね!
げすはせいっさいっ! これはじょうしきだよ!」
そう答えるのはわかっていた。他ならぬ自分が、いつもそう言っていたからだ。
次の瞬間、すでに心得ていたゲスまりさが、おちびちゃんのかわいいほっぺを噛み千切った。
「いぢゃいいいいいいいい!! れいみゅのもちもちほっぺぎゃああああああ!! ゆえええええ
ええん!!!」
「くっちゃくっちゃ……ゆぺっ! ゆへっ、まずいほっぺなのぜ!」
ほっぺを咀嚼し、吐き出したゲスまりさが、足元でのた打ち回るおちびちゃんを嘲笑う。
「ゆふふ! つぎはそのかわいいおめめを、いつものようにぷーすぷーすしてあげてね!」
「ゆっへっへ! さすがはれいむなのぜ! ないすあいであなのぜ!」
れいむの指示を受け、ゲスまりさはお帽子さんの中から尖った小枝を取り出した。そしてそれを、
おちびちゃんのおめめに近づけて――。
「やべでっ……おでがいだがら、やべでえええええええっ!! 」
こんなれいむの懇願など、あの二人は意に介さないだろう。そんなことくらいわかっている。なぜ
なら、自分は一度も意に介した事がなかったからだ。
涙のせいでいつも以上にキラキラ光るおちびちゃんのおめめに、小枝が突き刺さった。「いぢゃいい
いいいいいいいっ!! いぢゃっ! いぢゃっ! いぢゃいいいいいっ!!」
「ゆわあああああああああっ!!」
悲鳴と共に、れいむはごはんの山から飛び退いた。「ゆあっ!? ……ゆええ。むーしゃむーしゃ、
させてよお……!」
やはり今日も駄目だった。ごはんを口にしようとすると、どうしてもこの幻覚を見てしまう。この
場でらんとちぇん一家に起きた惨劇を、れいむ親子が代わりに演じるのだ。
悪夢と幻覚、それに伴う不眠と拒食の原因は、すでにわかっている。
『母性』のせいだ。
あの時、赤ちゃんとともに生まれた『母性』が、れいむのこれまでの行いを責め、苛んでいる。
赤ちゃんやおちびちゃんをかわいいと思う気持ちと、それを脅かすモノを絶対に許さない気持ち。
それがゆっくりの『母性』だ。
今まで数え切れないほどのおちびちゃんを、それを守るお父さんやお母さんを蹂躙してきたれいむ
を、『母性』が許すはずはない。
そんな理屈なんてわかりたくもなかったが、相手は自分の感情だ。れいむは自然と理解してしまっ
ていた。
「『ぼせい』はゆっぐりでぎない……! れいぶのながからでていっで……! ででいげえええええ
ええええ!!」
れいむは地面に寝転んで、じーたばーたと体を動かしたが、すぐに動くのをやめた。
ゲスまりさにやられた怪我の痛みもあるが、何よりも、その乱暴な行動がぽんぽんの中の赤ちゃん
に障ると気付いたからだ。
それを気付かせてくれたのも、やはり『母性』だった。
「ゆう、ごめんね……。あかちゃん、いたいいたいじゃなかった……?」
言いながら、揉み上げさんでぽんぽんを擦る。
いっそこの赤ちゃんを殺してしまえば、れいむにゆっくりできない事を囁く『母性』は消えてなく
なるのではないか。――そう考えたのも、一度や二度ではない。しかし、そのたびにそのドス黒い
考えを抹消してきた。
こんなにゆっくりした――ぽんぽんごしでもわかる――赤ちゃんを殺すなんてことが、れいむにで
きるわけがない。
先ほど思わず「出て行け」と言ってしまったが、当然、『母性』を体外へ追いやることなど不可能だ。
そしてもし仮にそれが可能だったとしても、そうなった場合、自分はこのかわいい赤ちゃんを愛せ
るのかどうか、それが不安だった。
おそらく無理だろう。『母性』が生まれる以前、つい先日の自分を思い出せばよくわかる。れいむに
とって『母性』とは、赤ちゃんを愛する感情そのものなのだ。そして赤ちゃんを愛せない自分など、
もはや考えられない。考えたくもない。
れいむの中で、赤ちゃんと『母性』は切り離せないものになっていた。
言い換えれば『母性』に赤ちゃんをゆん質に取られているようなものだ。――ごはんを貰う為に、
れいむが他ゆんのおちびちゃんたちをそうしてきたように。
今はあの時の親ゆっくりたちの気持ちがよくわかる。おちびちゃんを盾にされたら、もうどうしよ
うもない。どうしたらいいのかわからない。考えただけでも気が狂いそうになる。
「もういやぢゃよ……。あがぢゃん、れいぶをゆっぐりさせで……」
過去の自分を思い出し、さらにゆっくりできない気持ちになったれいむは、ぽんぽんの中の赤ちゃ
んに話しかけた。
「ゆっぐりはやぐ……おおきぐなっでね。おかあさんとゆっくりじようね……。いっしょに、ゆっ
ぐりじてくれるよね……」
すーやすーやも、むーしゃむーしゃもできない。何もしていなくても落ち着かない気持ちになる。
何かが怖い。ゆっくりできない。
こんなことではいつまで経っても傷が癒えるはずもない。
助けてくれるゆっくりは、周りに誰もいない。全員れいむが殺してしまったからだ。
満足に体を動かす事も叶わず、れいむは泣きながら赤ちゃんに話しかけることしかできなかった。
「あがぢゃん……あがぢゃん……」
そうすることで、ますます膨らんでいく『母性』。
れいむをゆっくりさせてくれる感情と同時に、れいむをゆっくりさせてくれない感情が、日に日に
大きくなっていく。
「ゆっくりのひ……まったりの、ひ~……」
いつか誰かに聞かせてもらったお歌が、不意にれいむの口からこぼれた。
【3】
「うう、うばれるううううううううう!! あがぢゃんうばでどぅううううううううう!!」
しゅっさんっの苦しみは予想以上だった。
『母性』のせいでろくにすーやすーやもむーしゃむーしゃもしていない体が耐えられるかどうか、
れいむには自信が無かった。
しかし、そんな満身創痍のれいむを支えるのもまた『母性』だった。
惨めでゆっくりできない思いをしながらも、『母性』のおかげでここまで生きながらえる事ができた。
れいむを苛むゆっくりできない『母性』だが、同時に、これ以上なくゆっくりした味方でもあるの
だ。
「あがぢゃ……っ! れいぶのあがぢゃ……っ!」左目を閉じ、歯を食いしばるれいむ。「……っ!
……っ!」
れいむの空洞になった右目から、背中から、あんよから、傷という傷から餡子が噴き出す。
砂糖水の涙が、汗が、涎が、体液という体液がれいむの体を濡らす。
――がんばるよっ! ぐるじいげど……いだいげど……あがぢゃんのたべに、れいぶはがんばるよ
っ!!
やがて、すぽーんという音とともに、れいむのまむまむから赤ちゃんが飛び出した。
そしてクッション代わりに敷かれた枯れ草の上に、勢いそのまま着地――いや、むしろ墜落した。
「ゆぴゃっ!」
赤ちゃん――おちびちゃんの短い悲鳴。事前の予想よりも衝撃があったようだ。おちびちゃんは枯
れ草の上に突っ伏したままふるふると震えて、なかなか起き上がろうとしない。
大丈夫だろうか。痛い思いをしていないだろうか――。
そんなれいむの心配をよそに、やがてすくっと立ち上がったおちびちゃんが宣言した。
「うまれちゃよ! れいみゅがゆっくちうまれちゃよ!」
痛くないわけがないのに、それをおくびにも出さない元気な声だ。小さいとは言え、おちびちゃん
のその背中には頼りがいすら感じる。
――おちびちゃんっ……! えらいねっ……! よくがまんしたねっ……!
れいむは言葉にできないほど感動した。――いや、お口を動かして言葉にしたつもりなのに、音が
出なかった。
疲弊しきった体でのしゅっさんっは、やはり自殺行為だったらしい。話すどころか、もはや体も満
足に動かせない。
れいむは自分の体の限界を悟った。
おちびちゃんにすーりすーりして、お歌を聞かせてあげて、そして一緒にすーやすーやする。れい
むが思い描いていた、そんな親子として当たり前の行為を、この先してあげる事もできそうにない。
――ごめんねっ……! おちびちゃん、ごめんねっ……!
れいむは心の中で、誠心誠意おちびちゃんに謝罪した。何にもしてやれないお母さんで、本当に申
し訳ないと思った。我ながら情けなくて涙が出そうになる。
しかし、涙は流れなかった。
今、れいむの体をべたべたと濡らしているのは、しゅっさんっの時に流した体液だ。あの時に流し
つくしてしまったのか、新しい涙は流れてこない。もはや汗も涎も、しーしーさえも流れ出ないだ
ろう。本当に何もできない体になってしまった。まったくゆっくりしていない。
それでもただ一つだけ――。
ただ一つだけ、おちびちゃんにしてあげられることが残っている。
最期にただ一言だけ言葉にできれば、自分はもうそれだけでいい。
それを行うだけの気力を、体力を、どうにかして振り絞るのだ。れいむの『母性』が燃え上がった。
「おとうしゃん! おかあしゃん! ゆっくちしていっちぇにぇ! れいみゅはれいみゅだよ!」
おちびちゃんが振り返り、自分に向かってご挨拶した。何度も夢に出てきた通りの、れいむにとて
もよく似た美ゆっくりだ。
――ゆううううう!! りっぱに……とってもりっぱにごあいさつできたねっ!! ゆっくり!!
おちびちゃん、ゆっくりしていってね!!
声には出ないが、れいむはせめて表情で応えたつもりだった。
その瞬間、おちびちゃんが固まった。そして顔をしかめたと思うと、聡明なおちびちゃんらしから
ぬゆっくりできない声で叫んだ。「く、くちゃいいいいいっ!?」
おうちの中を見回して、さらに叫ぶ。「ゆっくちできにゃいいいいいい!!」
れいむはハッとした。
らんやちぇん、そのおちびちゃんたち、そしてゲスまりさが付けていたお飾りさんの放つ死臭が、
おちびちゃんには我慢できないのだろう。
うっかりしていた。れいむは子ゆっくりの頃からその臭いに慣れてしまっていたので、そこまでは
気が回らなかったのだ。あれらはあらかじめ埋めるなり、おうちの外に捨てるなりしておくべきだ
った。
――ごめんねええっ!! おちびちゃん、ごめんねえええええっ!!
産まれたばかりのおちびちゃんが、あんなに苦しんでいる。
できることなら、おつむを地面にこすりつけて謝りたい。そんな気分でおちびちゃんを見ると、ち
ょうどおめめがあった。
「……ゆ、ゆっくち……していっちぇにぇっ!!」
おちびちゃんが、またご挨拶をしてくれた。
こんな情けないお母さんだというのに見放さないでくれている。何と健気で優しいおちびちゃんな
のだろうか。
れいむは精一杯ゆっくりした表情を作った。残されている左目を細めて、優しく微笑んだつもりだ。
「お……おか、しゃ……」
おちびちゃんが戸惑う気配が伝わってきた。どうしたのだろう。
ひょっとしたら自分は、ゆっくりできない表情をしているのではないか。たとえば――そう、かつ
てのれいむのお母さんのような。
れいむの『母性』が刺激される。――ここまでか。もう少しかわいいお顔を見ていたい気持ちはあ
るが、ゆっくりできない自分の姿を見せ続けるのも、それはおちびちゃんに気の毒だ。
何より、手遅れになる前に済ませなくてはいけないだろう。
――れいむは……おかあさんは、おちびちゃんにゆっくりしてほしいんだよ。なにもしてあげられ
なくてごめんね……。だからね、せめておかあさんを……。
『母性』に後押しされて、れいむはゆっくりとお口を開く。
おちびちゃんに己の体を食べて、ゆっくり大きくなって欲しい。――それがれいむの最期の願いだ。
そのくらいしかしてあげられない自分が恨めしい。
ご挨拶すら満足にできない今のれいむが、おちびちゃんにしてあげられる事、遺せる事。それは食
料としての自分の体、ただそれだけなのだ。
「……さあ……」
声は出た。これならやり遂げられる。
お食べなさい――失敗しないようにゆっくりそう言おうとしたれいむに向けて、おちびちゃんが口
を挟んだ。
「このっ……くしょばばあ! どうちてれいみゅをむししゅるの!? ごあいさちゅもできにゃい
の!? れいみゅを……ゆっくちさしぇろおおおおお!!」
そのかわいいお口に似合わない罵声を早口で発しながら、おちびちゃんがれいむに体当たりしてき
た。
「おたぶえっ!?」小さなおちびちゃんによるほんの軽い一撃ではあったが、今のれいむにはそれ
に耐える力も無い。無様にごろんと転がった。
霞むおめめでおうちの天上を見ながら叫ぶ。――命を賭して産んだ我が子の、あまりにも信じられ
ない言動に、『母性』と本能がれいむに絶叫させる。
「どぼじでこんなこどずるのおおおおっ!?」
――どぼじでこんなこどずるのおおおお!?――
それはれいむが殺したゆっくりたちが揃って叫び、そのたびに鼻で笑ってきた言葉だ。
絶望と未練の中、自分のお母さんの最期を思い出しながら、れいむは死んだ。
【エピローグ】
「むーちゃむーちゃ! むーちゃむーちゃ!」
おうちには、小さなれいむが食べるには十分すぎるほどのごはんが蓄えてあった。これだけ食べれ
ば、すぐにでも大人ゆっくりになれそうだ。
このごはんはお母さんが集めたものだろうか。
れいむにご挨拶もできない残念なお母さんではあったが、ごはんに関しては素直に感謝しようと思
った。ありがたく食べさせてもらおう。
まだ寒くてお外には出られないが、もうすぐ暖かい春が来る。ちょうどこのごはんを食べ終える頃
でもあるはずだ。
そうしたら即座にこのおうちから出て行こう。
「むーちゃむーちゃ! ちあわちぇー!」」
そういえば、おうちに散乱しているお飾りさんの臭いは、いつのまにか気にならなくなっていた。
当初はどうしたものかと思ったが、慣れたのだろう。汚いものとも思わなくなった。「そういうもの」
だと思ってしまえば、案外どうということはない。この香りを嗅ぐと、気分が高揚するとさえ思え
た。
「くっちゃくっちゃ」と口を動かすれいむの視界にお母さんが入った。
仰向けに寝転がるお母さんの死骸。ぷっくりと膨らんでいた体は日に日に萎んできた。表皮の傷も
広がってきている。
すぐに目をそらし、見なければ良かったと少し悲しい気持ちになる。しかしその大きな体は、どう
しても視界に入ってしまうのだ。
もう食事をする気分にはなれなかった。
「おかあしゃん……」
一言つぶやき、そしてゆっくりと、お母さんの死骸をよじ登った。「ゆんしょ…… ゆんしょ……」
お母さんの体の中心辺りに立ったれいむは、ぎゅっと自分のおめめを閉じた。
そして「ゆうう……」とぽんぽんに力を入れて、声を出す。
「うんうんしゅるよ! れいみゅがうんうんしゅるよ! ゆゆ~ん……しゅっきりー!」
れいむのあにゃるから出たうんうんが、お母さんのお口にぽとりと落ちた。
最近ではお母さんの体をトイレとして活用している。特にこの大きなお口などは使い勝手がいい。
おうちの中の汚いものはひとまとめに――要はそういう発想だ。これも「そういうもの」なのだ。
春。
子ゆっくりとしては大きめのれいむが、ゆっくりできないお母さんの元を飛び出した。行くあては
特に無い。
しばらくぽよんぽよんと森の中を移動して、れいむはあることに気付いた。
この辺りには、ゆっくりが住んでいない。おうちの形跡はそこかしこにあったが、中には誰もいな
いのだ。
春になったので、揃ってお出かけでもしているのだろうか。
(了)