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音楽ゲームクロスワードパズル事件 -中編-

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78 :旅人:2007/12/30(日) 01:23:35 ID:BLa/J3bQ0
小暮は町田の携帯電話の番号を打ち込んでいき、そしてコールした。
テュルルルル…テュルルルガチャ

「もしもし、小暮君?」

「はい。ちょっとした用があって電話を掛けさせて頂きました」

「何?何の用?」

「町田さん、音楽ゲームって一通り出来るんですよね。ちょっと教えて欲しくて…」

「?今すぐ事務所に来いって事?」

「いえ、どうせやるならゲーセンでやりたいです。それに、事務所にプレステ2無いですし」

「んじゃあ『白壁』で待ち合わせね!今は正午か…んじゃあ一時半はどう?」

「いいですね。一時半に『白壁』で待ち合わせですね、分かりました。それでは」

じゃあね、と言って町田は自分から電話を切った。小暮は受話器を置いてパズルを見つめ、
何か考えこむような顔をしていた。その顔のまま田中に言う。

「刑事さん、さっきの作戦をもう少しひねったのを考えてみたのですが、聞いてくれませんか?」

「聞かせてくれ」

「あのパズル、町田さんに見せて解いてもらおうと思ったんです」

「馬鹿、あれはトップシークレットだ。一般人の目に触れてはまずい物なんだぞ!」

「大丈夫です。『勉強を教えている子供が僕に挑戦してきた』
と言えば町田さんは多分きっとすっかり騙されてくれるはずです」

そう言って小暮はコピー機に「音楽ゲームクロスワードパズル」を入れてスイッチを押した。
後ろで田中がおいコラ!この馬鹿!等と罵声を浴びせかける。
小暮はそんな田中の罵倒をスルーしてパズルのコピーを手に取って言った。

「大丈夫って言っているじゃないですか。
キーワードを見てこのパズルは本当に警察って所の盲点をね、 よく突いたと思いますよ。
警察の人間は遊ぶ時間が無いんでしょう?それならほら、『幕』だとか、『聖歌トランス』とか、こんな造語で表された曲名なんて分かるわけ無いでしょう?
なら音楽ゲームをやっている人に協力を仰げばいい。
町田さんみたいなちょっと変わった、いや、いい意味で変わっている人ならこのパズルが極秘物って分かってもばらさないと思うんです。
先に提案した回りくどい解き方より、こっちの方が単純ですぐ解けると思いますよ」

79 :旅人:2007/12/30(日) 01:27:53 ID:BLa/J3bQ0
「警察という立場からするとこんなやり方は嫌なんだが…仕方ない、これで行こう。
それに、犯人は今日中に市のどこかを爆破すると言っていたが…
奴は今日の何時かは指定していなかったからな、早めに終わる方が良い」

田中は渋々、といった様子で小暮の案を発展させた案を認めて、自分の車に乗るように小暮に言った。
ちなみに、田中の車はあの頭文字がDの峠バトル漫画で有名なあの豆腐店の車である。
小暮は助手席、田中は運転席に座り、田中の平凡な走りで二人はゲーセン白壁に向かう。

白壁というゲームセンターについて少し説明しておこう。
白壁は市の駅前にあり、客も多く非常に繁盛している。
ここは音ゲーに限らず、 あらゆるゲームを極めた者が多く集まる店でもある。
この市ではゲームを極めた者は一種の英雄となれるが、他の所へ行けば気持ち悪いと言われるのが関の山。
そんな事情も白壁のプレイヤーの平均レベルが非常に高い理由でもある。
(尚、白壁と言う名前は正式の名前ではない。『ゲームセンターパレス』というのが正式名称。
建物の外壁が白い事から白壁と呼ばれるようになった。IIDXのあの曲とは一切関係無い)

町田という女性についても説明しておきたい。
町田は白壁で上級者の動きを観察、研究してIIDXのSP皆伝を所持、
ポップンではニエンテプロバロ共にEXをクリアー、ギタドラでは泥鳥の赤なんて余裕余裕といった腕前、
DDRではFAXXなんて朝飯前、太鼓では全曲制覇を達成するほど音楽ゲームの腕を磨きまくった、と初対面の小暮に語ったことがある。
その時から小暮と町田は時々話をするくらいの関係になった。

「この市の市街地と北方に位置する住宅街、これを分けている川をまたぐ橋が二つある…って知っているよな」

「ええ、知っていますよ。確か二つとも『大桟橋』って言うんでしたっけ」

「ああ、正確には東の方角の橋は『大桟幕橋』、西の橋は『大桟冥橋』と呼ぶはずなんだが」

「それじゃ、今走っている橋は『大桟幕橋』なんですね」

これは田中の車の中で二人が交わしている会話である。
田中の言うとおり、この市には市街地と住宅街を結ぶ、二つの橋がある。
この『大桟橋』というのは市長が面白半分にIIDXにある一つの曲名から名づけたものだ。
勿論、市長は大桟橋が実在するものだと知っている。まぁどうでもいい事だが。
今日この日、どちらかの『大桟橋』を通って某国の音ゲー大好きな上官がこの市に遊びに来るという事を田中は小暮にした。
当然、これも極秘事項。決して他言しないようにと田中は小暮に念を押していた。

小暮は田中に駅前で下ろされて、歩いて白壁に向かった。
駅前からさほど離れた所に白壁はあるわけではないので、その看板代わりの真っ白いゲーセンはすぐに見つかり、すぐに小暮は入店していった。
調査費用と称して車内で言葉巧みに田中から貰った警察の捜査資金の一部の福沢一枚を右手に握り締めながら。

小暮が田中に駅前で下ろされていた頃には白壁の中で1つのギャラリーが形成されていた。
そこにある1つのIIDX筐体を囲むようにして、そのギャラリーはあった。
プレイヤーは一人の女性だった。イーパスをリーダーに挿入、百円硬貨を投入して、スタートボタンを押し、シングルプレーでゲームスタートした。
その時画面上に出ていた彼女の段位は、SP皆伝、DP8段である。
スタンダードを選択、すぐにlv12フォルダを開けて早速プレーした曲は何とAAだった。
初中級者では絶対に見切ることの出来ないぶっ飛んだノーツ配置、いわゆる譜面と呼ばれるそれを、
その女性は鍵盤とスクラッチを巧みに操作、ミスを殆ど犯さず、危なげなくクリアーした。
リザルト画面が出た瞬間、その評価はAだったがギャラリーの人々は大いに盛り上がっていた。
「おぉー!」「この人凄いね!」「AAをバップア一桁でクリアするなんて、人間か?」等、賞賛の声は絶えなかった。
次に女性は嘆きの樹の、当然アナザー譜面を選曲、AA以上にぶっ飛んで見えるその譜面を先程のように楽勝楽勝、
といった様子ではなかったが、ギャラリーの大半を占める初、中級者から見れば楽にクリアーしたと思われていた。

80 :旅人:2007/12/30(日) 01:31:30 ID:BLa/J3bQ0
その筐体はスタンダード三曲設定なので、女性はファイナルステージの選曲をしなければならない。
彼女を囲むギャラリーの期待に応えるように、女性は冥を(勿論アナザー譜面で)選曲した。
その瞬間、ギャラリーがどっと沸いた。最初のノイズみたいな音、イケイケな感じで盛り上がる曲調から一変して、
難所と言える低速地帯へ突入、流石の彼女もここは苦戦していたようで、100%もあったゲージはあっという間に
スクラッチに伴うBPMの加速と共にどんどん減って50%近くまでに減った。
しかしそれでもギャラリーの声は

「すげーよ、低速で50?」「50なら後はあの人にとったら回復だろうからクリア行けるんじゃない?」

と、この女性がこの難曲をクリアーする事を信じて疑わないでいる意思を表明していた。
実際、その後のピアノの大階段旋律と言えば良いのか、作者は音楽的知識は殆ど無いから上手く言えないが、
まぁそんな感じのピアノの所の譜面は彼女にとって回復地帯であったようだ。
ゲージをどんどん伸ばし、哀愁漂うラストは彼女を囲んでいたギャラリーの歓声で締められた。
(余談だが、その後のエキストラステージはTwelfth Styleを選曲してギャラリーの笑いを誘った)

女性がイーパスを抜いてIIDX筐体を離れた頃、小暮は鼻歌を歌いながら入口付近で突っ立っていた。
しばらくすると奥の方から小暮は見覚えのある女性がこちらに駆け寄ってくるのを見た。
彼女はあのギャラリーを沸かせた女性であり、町田その人であった。小暮は町田に声を掛けた。

「町田さん!久しぶりですね、元気そうで何よりです。
あの、今日は音楽ゲームを教えて欲しいと言いましたが、それとは別に」

そう言って小暮は町田にクロスワードのコピーを、子供からの挑戦状なんですよと言いながら手渡す。
町田はへーと感心しているのかどうかよく分からない声を出しながら感想を述べた。

「これ、音ゲークロスワードって事かい?面白いね!縦横のヒントで曲名を導くのかー、ちょっとやらせてよ」

「はい。どちらかと言えばこれを解いてもらうのがメインでしたからね」

小暮はそう言って近くの両替機で福沢一人を百円硬貨10枚と野口九人に替えて、歩き出した町田の後ろを追う。
二階の休憩スペースで小暮と町田の二人はテーブルをイス二つで挟んで座っていた。
町田は小暮から借りたペンを持って縦横のキーワードの文を読み進めていた。そして半分程度は彼女の知識で解いていった。
この位のキーワードなら、彼女を含む大抵の音ゲーマーは答えられるだろう。
「四葉」「愛社員」「コンチェ」「泥鳥」「百秒」「ズコー」「みそかつ」「タイピ」
これら造語や省略、空耳や置換で表された曲名は彼女の手にかかれば簡単に解けていった。
読者の皆様もお分かりになるだろう。

しかし、マニアックな所を突いていた問題も多々あった。
「幕」というキーワードの意味するところは一般的にはスクリーンというポップンで付けられたジャンルである。
しかしこのパズルは曲名を書かねばならない。
「GALAXY FOREST 11.6&12」というのが正式な、と言えば少々変かもしれないが、それが「幕」の曲名だ。
が、町田は実際にポップン筐体で調べるまでは全然覚えていなかったのだ。
読者の皆様も知っておられると思われるがポップンは曲に曲名の他にジャンル名を付けるという、他の音ゲーには見受けられないような独自性を持つ。
オリジナルのジャンル名から付けられた曲名を表す造語が出来たりする事が今までに結構ある。
この「幕」はスクリーンと言うジャンル名から直訳で造った造語であり、ギャラクシー何たらなどという覚えにくい曲名はそういう風に略されることが多い。
小暮がここに来る前に見た段階で確認していた「聖歌トランス」もアンセムトランスと言うジャンルから付けられていた。
(アンセム=聖歌というのが由来しているため、こう付けられた)
町田はそれは分かっていたが曲名が思い出せず、それもポップン筐体で調べなければならなかった。
案外簡単に解けるかもと思っていた小暮だったがこういった予想外の出来事を目の前にして、音ゲー世界も楽じゃないんだなぁ…と思っていた。
音ゲープレイヤーは全ての曲名を把握していると思っていたが、それは崩落した。

81 :旅人:2007/12/30(日) 01:38:01 ID:BLa/J3bQ0
白壁で小暮と町田がパズル解きに精を出している頃、田中は一度署に戻っていた。
「音楽ゲームクロスワードパズル捜査本部」と張り紙がある部屋に田中は入っていった。
小暮を車から降ろしてからもう二時間が経った。
しかし、町田にパズルの事情を悟られまいとしてか、小暮の自分の携帯電話を通じての報告の数は少なかった。
だが、一つ一つの報告はしっかり重みを持っていた。
そのお陰で田中は、近くでビートマニアとか言ったような音楽ゲームをプレーしてる同僚を横目に、パズルの空欄を埋めていく事が出来た。
田中の作業中に遊んでいた同僚はこう言っていた。

「よっしゃ!ハッピースカイの四級取った!
お、このキャラ結構可愛いな…案外楽しいぜ、このゲーム。田中ァ、お前もやろうぜ」

「あ?ちょっと待てよ、今作業しているんだ。…おら、パズルの鍵はいくらか解けたのか?」

「全然。意味がわからねぇからな。日本語で書いてあるのに言っている意味がわからねぇって、このパズル」

ここで「音楽ゲームクロスワードパズル」の仕様について説明しておきたい。
このパズルは縦横の鍵が音ゲーの曲名を導き出すもの、というものの他にも色んな独自性を持っている。
1つは「アナザーワード」(と、このパズルは表記している)というもの。
普通のクロスワードパズルといえば空いたマスを縦横の鍵から導いた単語で埋めてゆき、指定されたマスの一文字一文字を並び替えて
そのパズルに隠された答えを導き出す、というパズルゲームである。
この音楽ゲームクロスワードパズルも「基本」はこれに乗っ取っている。
アナザーワードとは親切にもこのパズルの紙に書いてある。それにはこう書かれてある。

「第一段階での答えの条件を絞り込んでいくためのもう1つの答えである第二段階ともいえるこれは解く必要は無い」

アナザーワードのマスにはいる文字のマスは、隅に小さな三角形の印が印刷されてある。
このマスはパズルのあらゆる所にあり、そしてアナザーワードの答えは6つのマスで出来るようになっている。
つまり、かなりの数のフェイクが存在するということだ。
このフェイクを絞り込んでいくためには、アナザーワードヘルプという枠にある言葉を見るといい、
とパズルの紙は語る。その枠にある言葉とは「High Level」とだけある。直訳すると「高難度」ということだ。

このように一筋縄ではいかないであろうクロスワードパズルを、果たして小暮と協力者の町田は解けるのだろうか?
いや、解いてもらわないと困る。
そう強く思っていた田中は先程CSHS四級をクリアーした同僚に、半ば無理矢理にビートマニア何とかと記憶していた音楽ゲームをやらされた。
渋々、といった面持ちで最初はプレーしていたが次第にその顔に笑みがこぼれるようになった。
この事件のお陰になるのだろうか、こうしてまた一人、音楽ゲームを支持する人間が増えたのである。

82 :旅人:2007/12/30(日) 01:41:39 ID:BLa/J3bQ0
そうして田中がIIDXを署でプレーしていた時、小暮は若い男と知り合った。男はゆうと名乗った。
彼の住む地域はここから遠く離れていると彼は語った。
何故、遠方のゲーセンに足を運んだのかと小暮が訊くと、

「それはですね、この市の全てのゲーセン、又はゲームコーナーが大変マナーが良いと聞いてですね。
どういう感じなのかなと思いまして、こちらの白壁の様子を一度見てみたいなと思いまして。
実は僕、何でも屋を営んでいて、それとは別に小規模ながらゲーセンも開業したいなと思っていたんです。
それで、マナーの良いゲーセンってどういう雰囲気かなと思って…見学ですね。そのために来ました」

と、彼は長ったらしく答えを返した。彼が言いながら手渡した名刺は、彼の発言の証拠となっていた。
ふと、小暮は思い、それを口にした。

「あなたの住んでいる所のゲーセンってとてもマナーの悪いところなんですか?」

「いいえ、並みのゲーセンですよ。ただ、少し前まではとても荒れていました。
けれど、流れの旅人さんが僕の住んでいる港町唯一のそのゲーセンの空気を良くしてくれました」

そうなんですか、と小暮は彼の質問に対し返ってきたその答えに納得する。それから数分後、ゆうは小暮に言った。

「あ、IIDXが空きましたよ、あなたこれからプレーするんですよね?少しながらアドバイスを差し上げられると思うのですが、
いかがでしょうか?ちょっと僕の話を聞いてみませんか?」

「いいんですか?それじゃ、ちょっと指導を受けてみようかな」

小暮はゆうの提案に賛同し、腰を下ろしていたベンチから立ち上がり、IIDX筐体のお立ち台に上がっていった。
右手に百円玉を握り締めて、周りの視線に少し怯えて、近くにいる知り合ったばかりのゆうと言う男の存在に安堵しながら。

時刻はもう午後四時を回っていた。冬もそろそろ近い時期では日が暮れるのも早くなっていく。
しかし『白壁』の常連たちには帰宅しようという気配は無い。それは小暮と町田にも言えることだった。
小暮は少し前に大変参考になった、と残して帰っていったゆうと名乗った男のアドバイスを思い出しながら IIDXのSPで、5.1.1.(N)をプレーしていた。
町田と共に進めているパズル解きの休憩がてらに遊んでいるのだが遊んでいる間はパズルの事を考えなくて済む。そこで余裕が生まれる。
それはパズルを解く原動力…思考力に繋がっていく。
音ゲーを楽しむということは小暮にとってとてもプラスの方向に働いていた。
時には休憩も大事、という言葉を彼は思い出した。最後のノーツを拾い、小暮は何度目かの同曲のクリアーを果たした。
これが2nd STAGEであったので次はFINAL STAGEであった。
小暮は今日始めてIIDXを始めた人間である以上、当然エクストラを出せる筈も無い。
最後の選曲はGOLD新曲から選ぶことにし、タイトルだけ見て選んで、four-leaf(N)を選曲した。
エレキギターのジャカジャカジャ-ジャカジャカジャーと、文字に直せばこんな感じの曲調を表す単純な譜面にオロオロしながら小暮は彼なりにその状況を楽しんでいた。
初心者にとってlv4表記の曲をプレーすることは特攻行為に近いものもあるだろう。
小暮はこの特攻行為をとても気に入っていた。
エクストラはどう頑張っても出せないのだから、初心者にとっての難曲をクリアーしてみようかと思うのも良いのではないか?と小暮は考えていた。

一方町田はポップンでニエンテEXをS-EXでプレーしていた。
悪い言葉で言うなら狂ったような、良い言葉で言うなら究極に難しい譜面を彼女は素早くしなやかに流れる手の動きでボタンを叩き、処理していく。
高速大階段地帯なども彼女にとっては少し難しい場所でしかないのであろうか。
殆どBAD評価を出さずにそんな難所も切り抜けていく。
そんな彼女を形容する時は多分、悪い言い方をすれば彼女はキ○ガイであり、良い言い方をすれば彼女は超人と形容すれば良いのだろう。

83 :旅人:2007/12/30(日) 01:44:46 ID:BLa/J3bQ0
その頃の田中は数少ない小暮からの報告(パズルの答えの一部)を
署の「音楽ゲームクロスワードパズル捜査本部」の全体に共有させ、先の同僚と共にCSハピスカをプレーしていた。
犯人からは沢山のソフトやPS2、そして専コンが送られてきているので、物が足りないという事には全くならない。
犯人はよほど金銭に余裕があると見える。
田中の隣…2P側でプレーしている同僚が鍵盤やターンテーブルを操作しながら言った。

「このEDENって曲良いよな。とくに『そう!』の所とかさ」

「あ?俺はさっきのあの女、こっち見んじゃねぇよと思ったがな」

捜査本部は家庭用の音ゲー(所謂CS作品)をプレーしてパズル解きに挑戦していたのだが、捜査員の殆どが音ゲーをプレーしない人達ばかりだった。
それ故に田中の同僚のように完全に遊んでいる者もいれば5.1.1.(N)すらクリアーできず嘆く者もいて、
パズルの鍵の文にある音ゲー用語の意味が分からずただただ苦悩する者もいた。
結局、捜査本部はこのクロスワードパズルについて殆ど成果を挙げていなかった。
それは田中の言った「数時間に渡っての会議」で出た案「私立探偵にこのクロスワードパズルを解かせる」での私立探偵、
つまりは小暮に捜査員達が無責任な過多な信頼を寄せているから、という事が影響を与えているのかもしれない。
しかしこれでいいのだろうか、警察は。


午後五時。
この密かに爆破予告を受けた音楽ゲームの市から遠い所にある国際空港にて。
某国の上官がお忍びでその市へ遊びに行くためにそこへ自家用ジェット機を着陸させた。
男はその様子をじっくりと観察していた。彼には護衛がいなかった。近いところにも、離れているところにも。
完全に一人で遊びに来られたようだ。
これは、奴を殺りやすくなるという事だ、と彼は思った。
上官はレンタカーを利用し、あの市へ走り出した。彼もまた彼の車のエンジンを始動させ、車を発進させた。
空港の駐車場を出る前に彼は思った。

「あのクロスワードは、解かれたかな?」

駐車場を抜けてからしばらくして、自作のクロスワードパズルが解かれた可能性は極めて低いと判断した。
警察の人間が遊ぶ時間なんて殆どないだろうと踏んで、警察にあのパズルを送ったのは正解だろうと改めて思う。
そして捜査の過程、つまりは遊んでいるうちに捜査員たちの捜査のスピードはどんどん落ちていく。
遊びに久しく触れた人間がそれにずっと依存していたいから、という心理が働いてくれるだろうと考えて、俺はCSとかを送ったんだ。
そう改めて思い、緩やかな左カーブを走っていった。
彼の車は、上官のレンタカーをひたすら追跡していた。…事件が終わる時は、もう近い。





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