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神の魔法(ちから)と人の魔術(ちから)
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「さて、ボクたちの自己紹介も済んだことだし、次はここの説明をしようと思うけどいいかな?」

テーブルから降りてインデックスはそう言った。是非もない。君は謹んでお願いした。
インデックスは笑顔を浮かべて室内を歩く。君もそれについて移動する。

「この図書室はご主人様が世界各地で手に入れた様々な書物を保管しておく書庫で、夜のおかずからお城の攻め方までどんなことだって調べられるんだ。ちなみにご主人様ってのはメノウ男爵のことだよ。わかってると思うけど念のため補足」

たとえばこの本。と言いつつ棚から本を一冊抜き取った。

「クレッセンの機界都市ラグネロの軍師が書いた兵法書なんだけれどね。銃弾を最も効率よく使い虐殺を行う方法が書かれている」

読む?とインデックスは本を差し出した。君は丁重に断った、文字が読めない。

「ふーむ……文字が読めないのか……それは残念。本を読めないなんて人生の百割は損しているよ」

おそらく百パーセントと言おうとしたのだろうがいろいろと間違っている。

「コレはダイアルのバビロニアで手に入れた数学書だ。友達を作る101の方法が計算式と一緒に書かれている」

計算で友達をつくるんだ……と君どんな内容が書かれているのか気になった。
ふと君は、その隣の分厚い本に気付いた。
周りの書物に比べてかなり装丁がしっかりとつくられていて、妙に目を引いた。

「あぁ……これか」

インデックスは背表紙に指を引っかけ引っ張り出し、その本を持って読書用のテーブルの方へと歩いた、その後ろをリードマンがとてててとついていく。

「こっち」

インデックスに促されて君もついていく。インデックスが腰掛けていたテーブルへと戻り、本を置いて開いた。
インデックスが本をぺらぺらとめくってみせる、文字がぎっしりと書き込まれている。

「この本はこの世界に存在する神話を記したものなんだ」

この世界にも神話があるのか、などと君はそんな感想を抱く。

「へぇ、やっぱり君たちの世界にも神話とかの類はあるんだね。あとでじっくり聞かせてもらいたいね」

笑みを浮かべながらインデックスは紙をめくる。

「最もポピュラーなのはコレだね。リードマン」

リードマンはこくりと頷いて、読んだ。


この世界を作った四人の神様が居ました。
その神様はとても大きくて、一人は空に、一人は海に、一人は大地に。
そして最後の一人は昼と夜になりました。
世界と一つになった神様はまた自分たちの中から八柱の神を作り出しました。
海からは、水のイーエレオ、金のユロンが。
陸からは、土のクアルハ、木のヒノコスが。
空からは、風のシャクマヌ、火のゼベメケーネが。
昼と夜からは、光のブリギット、闇のナテニミウムが生まれました。
そして最後に全てから『名も無き獣』が生まれました
新たに生まれた神々は、母なる四人の神の思し召すまま、その世界を整えていきました。
草木が生まれ、動物が生まれ、生き物はどんどん増えていきました。
ところががあるとき、『名も無き獣』があろう事かこの世界を独り占めしようと考えたのです。
そして『名も無き獣』は竜をその世界に生み出してしまいました。
あわてた他の神々が止めるように説得しましたが、『名も無き獣』は既に神としての存在を放棄し、その世界の竜の中へと魂を移していたのでした。
竜の力はすさまじく、他の動物たちを喰らい、木々を焼き、海を干上がらせ陸を海に変えてしまいました。
困り果てた神々は、苦渋の選択をすることになりました。
すなわち、神々の力を地上の生き物に貸し与えること。その力を使い、竜を倒す者が現れるのを願うこと。
けれど神々の力は強大で、その力を使える生き物はなかなか出てきません。
何万年もの間、世界は竜の庭のようになっていたとき。
人が生まれたのです。
神の力は生物の体に宿りましたが、その力を使うことができたのは今の人の祖先だけでした。
それらは、有るモノは魔法として、有るモノは技術として、人間達はその類い希なる知性を以てみるみるうちに力を付けていきました。
やがて力を付けた人間達はドンドン強くなり、竜を倒せるまでの強さを発揮するようになったのです。
人間に倒されるようになった竜は、やがて人間を軽視することを止め、その暴虐ぶりを止めるようになりました。
やがて国は落ち着きを獲得し、地上に住む竜は辺境にてひっそりと暮らすようになりました。
けれど悲しいことが起こり始めたのです。
手を取り合って暮らしていた人間達が、お互いに争いを始めるようになったのです。
地面に線を引き、自分の国だと宣言し。
隣の国に勝手に入ってきて、そこに住んでいる人達を殺したり、誘拐して自分たちの国で奴隷のような扱いをしたりしました。
それを見かねたのが八人の神様達でした。
人間達が争いを止めるように、新しい動物たちを作り出したのです。
動物たちに自由意志を与え、時に知性を与えたりして。
そうして生まれた動物たちは、時に人間を襲い、そして人間はその動物たちを殺す為、人間同士での争いをしなくなりました。
それでも完璧にとは言えません、知性を得た人間は、もはや神様達の手から離れていってしまったのです。
そして今も、この世界に生きる人間達を神様達は見続けているのです。



「まぁ、要するに。四人の神さまが空と海と陸と昼と夜になって。またそれぞれから八体の神さまが生まれて。そして最後に『名も無き獣』が生まれた。ってこと」

リードマンが読んだのは世界創世の神話だった。
最初に神々が世界をつくったという話であれば、地球の神話にも同じような物語がある。神話のウラノスのガイアが有名ではないだろうか。
また、日本神話でも、有名なのはスサノオやアマテラスやツクヨミだが、その父や母であるイザナギやイザナミの存在は多少耳にしたことがあるだろう。
そして、そのイザナミやイザナギを生み出したとされる最古の神々もまた存在する。あまり一般的ではないが。
君は、昼と夜から光と闇の神が生まれたというのはわかりやすい構図だな、と感想を持った。
そして君は、君の世界の神話を教えた、日本神話の世界創世の話をした。
最古の神々の名前は君はわからなかったので、とりあえず国産みをしたとされるイザナギとイザナミの話をすることにした。
ユニバーサル携帯で文章を検索、葦原中津国にイザナギとイザナミはに降り立ち、天の鉾を用いて陸をつくった。
そして二人の神は結ばれて大地やその他の神々を産み落としていった。
君のその語る神話に、インデックスもリードマンも人は興味津々な様子で聞き入っていた。

「はい」

リードマンが挙手した。
お話を中断して君はなぁに?とリードマンに聞いた。

「……旅人さんの世界はその神さまが全部生み出したの?」

インデックスは君をじっと見つめている。君は少し悩んだ。
あくまでこれは日本神話だ。外国に行けばまたその地域ごとに神話が存在する。
ギリシャ神話や北欧神話、メソポタミア神話やケルト神話などは有名だろう。
有名どころだとギリシャ神話だ。初めに混沌があり、そこから大地が生まれ、大地は空を生み出した。
空の神と大地の神が仲違いをした話を君がすると、インデックスとリードマンは顔を見合わせた。

「旅人さんの世界の神さまは、神さまなのにケンカするんだね。なんだか人間っぽい」

神話とはおしなべてそのようなものだ。人の形に当てはめて偶像とする。人が想像したイメージである以上、人間くさくなるのは否めない。
たとえば日本神話も、実は史実を元にしてつくられたという説がある。有史以前の日本で起こった政治的な事柄が神話として語り継がれているものだ。
君は反論した、この世界の神々もケンカしたじゃないか。『名も無き獣』のことだ、君はその獣も神の仲間であると認識していた。
すると二人そろって「違うよ」と言った。
二人が言うには、四人の神さまから生まれた八柱の神々までが神で、その神々から生まれた『名も無き獣』は神ではないらしいとのことだった。
それに、神々の力を人の祖先が使えるようになってからはその『名も無き獣』たちは住処を追われ、今はどこか辺境にひっそりと暮らしているらしい。

「『名も無き獣』は今で言うドラゴンのことだって言われてるよ。ドラゴンを神聖視して神みたいにあがめる地域もあるみたいだけど、神さまとは違うよ。ナパームを見たでしょ? あれもドラゴンの一種だよ」

君はぶるっと震えた。燃える水を吐き出し、炎をまき散らした災害のようなアレがドラゴン。

「昔に比べて人間も多種族も強くなったし。今ではさほど驚異ではないかな……」

それは、魔法使いでもあり術士である男爵にとって、ナパーム程度の魔獣は軽くあしらえる魔獣であるが故の余裕の発言だ。
実際、館のメイドでナパームを相手取り撃退が可能なものはロベルタしかいないのだ。
それに、ナパームを凌ぐほどの魔獣の存在の可能性を失念している。
君はそう指摘した。

「うん、そうだね、でもそんなに恐ろしい魔獣はとんと聞かないしなぁ……」

インデックスがリードマンに視線を向ける。知ってる? ふるふる、知らない。

「今回みたいなケースってホントに稀だからさ。館に来るのってご主人様の噂を聞いて腕試しに来る冒険者くらいしか普段ないし。来たとしてもロベルタが……」

インデックスのセリフが尻すぼみになった、リードマンがインデックスのスカートをくいくいと引っ張った。

「うん、わかってる……そっか、ロベルタ故障中なんだよねぇ……うーん……」

眉間に皺を寄せてうーんと唸るインデックス。

「やっぱりメイドで一番強いのってロベルタだから。ロベルタが動けないってなると……困ったなぁ、どうするんだろ……」

ロベルタが故障中だと館の護りが手薄になる。
そんなにロベルタは強いの、と君は訪ねてみる。

「うん、戦うところ見てたでしょ? ロベルタは魔術は使えないけれど両手両足の魔道具で身体能力を強化してて。それに加えて素の身体自体も強化されてるらしいから」

らしい、というのはそれを行っているのがマイルスだから詳しくは知らないのである。
その時だ、君はふと気付いた。
魔法? 魔術? そういえば昨日から男爵もその言葉の違いを何度か強調していた。
インデックスに聞くと、彼女は「あぁそのこと」とばかりに棚に近づき本を一冊抜き取った。

「魔術ってのは、マナを使って発動させる技術のことを言うんだ」

インデックスが取り出したのは魔術の入門書だ。

「えっと例えば。リオー・ラー・マ・クラス・フィー・エン・ダン。『ファイア』」

ボッ、とインデックスの目の前に炎が出現した。

「炊事の薪に火をつけたり程度だけど、炎を出す魔術がこれぶっ」

説明の途中に水を差された、と言うか水をぶっかけられた。空中に灯った炎がじゅっと消える。

「……図書室は火気厳禁……」

君もとばっちりを食らってしまった、髪の毛から水がぽたぽたとこぼれ落ちる。
水を掛けたのはリードマンだ、小動物のような表情が険しくなっている。リードマンの立てられた指の回りに光の文字がグルグルと渦巻いているのを君は見た。

「ゴメンゴメン。ちなみにボクがやったのは音声魔術。リードマンの指先にあるあの式が刻印魔術だよ」

水をかぶっていながらもインデックスは説明をしてくれた。
音声魔術? 刻印魔術?

「魔術って、ある効果を出すための方法ってのはひとつに限らない場合が多いんだ。たとえば、ぼくがあなたに『水』と言う概念を教えたい場合」

インデックスは人差し指を自らの唇に当てた、桜色の唇がぷるんと震える。

「たとえば『コレは水です』と言う。もしくは『コレは水です』と文字で書くか。もしくは……」

インデックスがリードマンを見やる、するとリードマンは何故か踊り始めた。

「こんなふうに踊りで水を表現するか。コレでもいいんだ」

ゆらゆら、くるくる、ゆらゆら、リードマンが踊っている、小動物のようで可愛らしい。

「水を出す呪文、魔術式、あと振り付けとか。どれでも同じような効果が出せるんだ。どの手段を取るかはその魔術師の得手不得手によるかな」

ちなみにボクは音声魔術が得意だよ、とインデックスは笑いながら言った。
リードマンは術を文字にして発動させる刻印魔術と、術を体の動きで表す舞踏魔術が得意らしい。さっきして見せてくれたとおりのようだ。

「んで、魔法なんだけど。魔法ってのは特殊で、神さまの力なんだ」

神さまの力?

「そう、かつてこの世界を作った四人の神さまと、それから生まれた八柱の神々のことね」

世界創世の時に振るわれた神々の力のことだ、その神々の力こそが魔法と呼ばれる力らしい。

「その力を、この世界では『恩恵』と呼ぶの」

おんけい、君は復唱する。

「神々から与えられた神々の力。割合的に言ったら……そうだね、百人に一人くらいかな、恩恵を持っている人間は」

ちなみにティシューベーグルも恩恵持ちだよ、インデックスは補足した。まるで前言を撤回するかのような割合の高さだ。
するとインデックスは苦笑しつつ説明した。

「ご主人様はいろいろ訳ありの子供達とか拾ってこういう館で保護したりするから。恩恵持ちっていってもいいことばかりじゃないんだ」

そう、男爵やメイド達からしてみれば神々から与えられた恩恵でも、ところが変われば見方も変わる。周囲の人間とは異なる異形の力と見なされ、迫害されることも少なくない。

「ベーグルは知ってるでしょ」

君は頷いた、金色の髪に分厚いメガネを掛けていたメイドだ。確か被服室の副長で、君が今着ている服を仕立ててくれたメイドだった気がする。

「ベーグルね、髪に金の恩恵が宿ってて、あの髪って本物の金なんだ」

君はぽかんとなった、金? ゴールド? 本物? ホントに?

「うん。金だよ、純金。神さまの力ってホント意味わからないよね。髪の毛だけ金になったってどうするんだろ」

綺麗だよねー、個人的には凄く羨ましいんだけど……。インデックスは声のトーンを落とした。

「さっきも言ったけれど、その力が素晴らしいからと言ってそれが必ずしもいいことに繋がるとは限らないんだ」

生き物は利己的なものである。たとえそれがか弱き少女の姿をしていたとしても、平気で傷つけ陵辱し、人としての尊厳を踏みにじる。

「酷かったらしいよ、髪の毛捕まれて引きずり倒されるわ、刃物でズタズタにされるわで」

君はベーグルの顔を思い出す、美しい髪の毛を三つ編みにして、厚いメガネの奥から少し怯えたような表情を見せた少女の過去にそんなことがあったなんて。
不意に君は手に何か触れるのに気付いた。君は視線をそちらに向ける。リードマンだった。無意識のうちに硬く握りっていた拳を小さな手で包み込んでいた。

「あはは、ありがと、今ではもう心配は要らないよ、この館にいる限り安全は約束されているようなものだから」

インデックスが礼を述べた、ベーグルのために怒りをあらわにした君への感謝の気持ちだ。
だが、君は言った。ベーグルの髪の毛が切られていたことを。
すると、インデックスもリードマンもびっくりしたようで目を丸くしていた。

「切っていた? 髪を? ベーグルが?」

外から戻ってきたとき、ベーグルが君たちを出迎えてくれた。長かった三つ編みは肩口からばっさりと切り落とされていた。

「……マイルス」
「あぁ……そっか、マイルスが切ったのか」

マイルスが?
君は男爵の部屋にやってきた医者を思い出す、街に素材となる遺体を確保しに行った彼女だ。

「うん、ローズマリーやベルウッドは平気だったらしいけど、シャワータイムとロベルタは一段と酷いらしいから、たぶん」

というか、それ以外に考えられない、とインデックスは言う。
一人納得した様子なインデックスに、どういうことなのか君は説明を求めた。

「糸に使うんだよ、髪を」

糸?君はさらに問う。

「ほら、お医者さんってちくちくってするでしょ」

そう言いながらインデックスは針と糸で縫合をするジェスチャーをしてみせる。
針、糸、縫合。それらのキーワードから君はベーグルの髪を糸代わりにして傷口を縫合するという発想に至った。
できるの?

「できるよ」

できるらしかった。

「さっきも言ったけど、ベーグルの髪って金の恩恵が宿ってるから。金の力って安定と変質だからね。傷口縫うのに都合がいいんだって。もっともきちんと糸として紡ぐ作業を行う必要があるんだけどね」

市販されている縫合用の糸を使うよりも、ベーグルの髪を使って縫合を行った方が効果が高いらしい。その作業さえ行えば、糸は十分実用が可能とのことらしい。
インデックスは少し考える仕草をした。

「……とりあえずはこんなところかな? 魔術と魔法の違いは教えたし、神話も話したし、他に何か聞きたいことある?」

君はインデックスのパンツの色を尋ねてみた。

「へっ?…………あはっ、あはははははっ。やだなぁ、いきなりそんな変なこと聞くね。一瞬頭の中真っ白になったよ」

インデックスはけらけらと笑ったが、君は自分が何故そんなことを尋ねたのかわからなかった。
そんなことひとつも考えてなかったのに何故か口から飛び出てきたのだ。
やぱりなし、なんでもない、と慌てて取り消そうとした君の目の前で、インデックスは膝下まである大きなスカートを掴んでまくり上げた。

「ボクの場合はスパッツだね」

スパッツは下着の一種だ。形状は腰から足首までをぴったりと覆い、脚の線がくっきりと浮かび上がる。
足先まで包む物だとタイツと呼ばれ、別物として扱われる。
インデックスが穿いている物は腰からふとももまでを覆うタイプだ、健康的な膝小僧が空気にさらされている。
伸縮性に富み、吸汗性に優れた下着であるため、君の世界ではマラソンなどの陸上競技でユニフォームのズボンとして使用されている。
サッカーなどの球技ではスパッツを下着として穿いてその上にユニフォームとして着用する形態が一般的だ。
身体にぴったりと張り付くため、テーピング効果やマッサージ効果があるとされる。
インデックスの場合の色は黒、柄は無し。一見地味だが、そのフィット感によりぴちっとした身体の線がくっきりと浮かび上がっている。
ちょこちょこと足を動かして身体を回転させた。きゅっと引き締まった桃のようなおしりが目の前にやってきた。
どうやらインデックスは地肌にスパッツを穿いているようだ。正解である。
既存の下着の上にスパッツを穿くのは間違った使い方である。
下着の上に下着を履くなんて邪道の極みである、ジーク・スパッツ!ジーク・ブルマー!!
どこからか変な電波を受信してしまったようだ、カットしよう。

地肌にぴったり張り付いたスパッツのためにインデックスのおしりの形がくっきりとわかる。
テーピング効果によってインデックスのおしりは引き締まった桃のようだった。
くるっともう一度回転。よく見るとスパッツの上におへそが見える。

「もういいかな?」

スカートを離すとスカートがふわりと元に戻った。ぽんぽんと裾を整える。

「リードマンも下ろしていいよ」
「ん」

ちなみにインデックスの隣でリードマンもスカートをまくり上げていた。可愛いチェック柄に小さなフリルがついた可愛らしいパンツだった。

「ふふふ。他に何かある?」

インデックスはまだ少し笑いながら君に尋ねた。
とりあえず今のところ一番気になっているのはロベルタを含めた負傷者達の容態だ。

「行ってみる?」

君は頷いた。

「じゃぁちょっと待ってね、いま保健室どこ行ってたかな……」

インデックスが君に三歩後ろに下がるように言った、君はそれに従った。
魔術の入門書やリードマン取扱説明書をリードマンに渡すと、リードマンはトコトコと元の場所へと戻しに行った。
そして、テーブルに開いていた神話の本を、インデックスはばたんと閉じて持ち上げた。
そして、ダンッとひとつ大きく足を踏みならすと、君の目の前で机がくるりと回転した。
驚く君の目の前に出て来たのは腰の位置までの円柱に、球状の透明な器が乗っているような形。
そんな不可思議な器の中に、大小様々な積み木が山になって浮かんでいる。

「コレが、|積み木の城(シャトー・ジュー・ド・キューブ)の大本だよ」

これが……君はそれをじっと見る、どこからどう見ても単なる積み木の塊にしか見えない。

「リードマン」
「はーい」

インデックスに呼ばれ、リードマンは元気に返事をした。
リードマンがその両手を器に触れさせると、透明だった表面に幾何学な模様がビシッとひび割れのように刻まれた。
何のことはない、ガラスのように透明に見えていたが、元々表面にはこの模様が描かれていたのだ。
リードマンが触れることで魔力を注ぎ、浮かび上がっただけのこと。

「はい、できたよ」

できたって何が?

「館の間取りを元の位置に戻したんだ、元々この図書室は一階にあるんだけれど、さっきまでは一階からは行けないようになっていたからね」

そのことは君は身を持って知っていることだ、屋上から一階降りただけで辿り着いた図書室が、室内は天井をぶち抜いていたのだから。

「保健室に行くんでしょ? 保健室も一階にあるからね。こっちのドアを開けた先に中庭があるから、それを突っ切って二つめの角を右に曲がって突き当たりに保健室があるよ」

インデックスの説明を頭の中に刻み込む。

「何だったらリードマンに案内させてもいいけど」

君は首を振った、何とか一人で行ってみることにした。

「そっか、じゃぁまたいつでもおいでよ。ボクもリードマンも大体いつもここにいるからさ」

君は、二人に見送られながら図書室をあとにした。

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最終更新:2015年12月16日 20:58