のらブレイブ。
言ってみればこの措置は『篩』に近い。
魔物の蔓延るアルフヘイムで生き残り、キングヒルへたどり着ける実力の持ち主。
バロールの真意はともかく、事実上そうした有望株が選別されて彼の元へ集まることとなった。
バロールに出会えなかった者たちの辿る道は大別して3つある。
1つは死。
10連召喚は被召喚者が出現する場所もランダムであり、初期配置によって生存難易度は大きく変わる。
魔物のさほど強くない平原部や街の近くに出現できれば生き延びること自体は難しくないが、
アルフヘイムには峻険な山岳地帯、極寒の雪原地帯、乾きに苛まれる砂漠地帯といった生存に適さない環境も多数ある。
こうした場所になんの準備もなく放り出されれば一時間と保たず死を迎えるだろう。
当然、ブレイブに襲いかかるのは暑さや寒さだけではない。人食いの魔物など珍しくもない。
パートナーを喚び出して身を守る術を確保しなければ彼らのエサになるばかりである。
チュートリアルとして『謎の声』による導きがあるものの、
まず『自分がゲームの世界にいて』、『ゲームと同じくブレイブとしての能力がある』ということを自覚し、
精神のスイッチを『日常』から『戦い』へ迅速に切り替えることが出来なければならない。
さらに言えば、ある程度ゲームを進めていて強力なパートナーを育成していることも条件となる。
最悪のパターンは、中盤の高難易度エリア『
赭色(そほいろ)の荒野』に降り立つことだろう。
文字通りまともな草木も生えていない荒野であり、生息するモンスターは凶悪な
サンドワームや
コカトリス。
レベルの高い魔物との連戦を強いられるうえ、食料になるようなものはそれら魔物の肉のみである。
首尾よく
魔法機関車の駅を見つけられなければ早晩野垂れ死ぬことになるだろう。
2つめ。
仮に最序盤の選別を生き残ることが出来ても、『戦い続けられる』とは限らない。
常に命を脅かされ続ける環境は誰にとっても神経をすり減らされるものだし、
それが地球で文明の恩恵を受けながら暮らしてきた現代人であるならなおさらである。
こうした状況に倦み疲れ、生きながらえつつも攻略をドロップアウトした者たち。
マル様親衛隊の一人、スタミナABURA丸こと
田中洋子はその典型例である。
田中洋子の場合は
10連召喚ではなく、さらに戦いから完全に降りるために
スマホを破壊しているので、
厳密には脱落組の類型に当てはまらないのだが、
少なくとも
スマホの機能とゲームの知識を活用すれば、アルフヘイムで生活基盤を確保することは難しくはない。
パートナーモンスターは半端な賊よりも強いし、プレイヤーなら
ルピだって遊んで暮らせる程度には持っているだろう。
無限にアイテムを収納できる
インベントリは交易にも輸送にも役立つ。
アイテムの効果やレア度を把握していれば、物品の良し悪しを見定める目利きの世界でも大成できるだろう。
義務教育レベルの知識でも、アルフヘイムでは高度な技術として歓迎されるケースもある。
実際、アルフヘイムの各所にはブレイブがもたらしたと思しき地球の文化や技術が散見される。
安全な街にさえたどり着ければ、この世界で生き続けることは十分に可能と言える。
彼らは元の世界に帰ることこそ絶望的だが、世界の存続を巡るあれこれに振り回されることなく、
最低限身に降りかかる火の粉を払いつつ自身の生計を立てることに専念できる。
言ってみればみんな大好きスローライフである。
完全にアルフヘイムに骨を埋める覚悟が出来ているなら、案外賢い選択と言えるのかもしれない。
これも厳密には経緯が異なるが、
佐藤 メルトはメインクエストの攻略からは降り、
ゲーム知識を活用した
リバティムでの生活基盤確立にあたっている。
3つめは、スマホの指示を無視しつつ、戦い続ける選択。
つまり王都でバロールと邂逅することなく、独自に攻略を試みている者たちである。
王都へ向かわない理由は複数ある。
例えば地理的要因。国境をまたいだ
フェルゼン公国や
聖都エーデルグーテ、あるいは
ヒノデなど、
単純にキングヒルとの距離が遠すぎる場所が初期地点に選ばれた場合、すぐに向かうことは難しいだろう。
また、スマホを介して一方的に押し付けられる指示に不信感を抱き、あえて無視する者。
メインクエストを進めずサブクエばかりに耽溺してしまうタイプのプレイヤーも少なくない。
そして、バロールと出会う前に別の勢力からスカウトされた者。
大賢者
ローウェルは
十二階梯の継承者を各地へ派遣してブレイブに接触し、
発信機付きの
ローウェルの指輪を渡してブレイブ達の動向を把握している。
いわばツバ付けであり、有望なブレイブには再度継承者が勧誘して勢力に加えんと画策している。
ちなみに、マルグリットに付き従う
マル様親衛隊はこの3つ目の野良ブレイブにあたる存在と思いがちだが、
実際は
ニヴルヘイムに
ピックアップ召喚されたブレイブであるため、厳密には野良ではない。
経緯は若干複雑だが、彼女たちは本来ニヴルヘイム勢力の一員であり、
ニヴルヘイムを出奔して『マルグリット勢力』とも言える独立した勢力を構築している。
エンバースは、そもそも10連やピックアップとは異なる別の方式で召喚されている。
チームメンバーと共に召喚されているので性質的にはピックアップに近いが、
かといってニヴルヘイム所属というわけでもない、謎の存在と言えよう。
最終更新:2021年11月24日 12:28