問おうとすると目が覚めた。
(夢……?)
だとしたら嫌な夢だ。胡坐をかいたままうたた寝をしていたせいか、体中が痛い。
小十郎は体をほぐし、刀を床に置いた。
夜の闇に沈んだ室内。寝具は用意してあるが引いていない。
すぐ隣の部屋で、政宗と幸村が睦んでいる。
準備をするような音と愛撫や口付けをするような音を聞いているうちに眠ってしまっていたらしい。
隣室の様子が一体どうなっているのか知りたいが、覗きの趣味はないので戸を開けることは躊躇われた。
小十郎は事情を知らない小姓や不寝番を下がらせ、離れには政宗と幸村、そして小十郎の三人以外の人が近づかないないように取り計らった。
その際、何か事情を勘違いしたらしい小姓が、そういうことですか、と頬を赤らめながらつぶやいていた。
誤解を解くには政宗の秘密と伊達家の内情を説明するところから始まるため、放っておいた。
今頃、小姓たちの間では政宗と幸村の衆道趣味の噂が広まっているかもしれない。
(夢……?)
だとしたら嫌な夢だ。胡坐をかいたままうたた寝をしていたせいか、体中が痛い。
小十郎は体をほぐし、刀を床に置いた。
夜の闇に沈んだ室内。寝具は用意してあるが引いていない。
すぐ隣の部屋で、政宗と幸村が睦んでいる。
準備をするような音と愛撫や口付けをするような音を聞いているうちに眠ってしまっていたらしい。
隣室の様子が一体どうなっているのか知りたいが、覗きの趣味はないので戸を開けることは躊躇われた。
小十郎は事情を知らない小姓や不寝番を下がらせ、離れには政宗と幸村、そして小十郎の三人以外の人が近づかないないように取り計らった。
その際、何か事情を勘違いしたらしい小姓が、そういうことですか、と頬を赤らめながらつぶやいていた。
誤解を解くには政宗の秘密と伊達家の内情を説明するところから始まるため、放っておいた。
今頃、小姓たちの間では政宗と幸村の衆道趣味の噂が広まっているかもしれない。
何故、真田なのだろう。
幸せになりたいのなら、もっと他に男がいるだろうに。
秘密を守れる安全な男が。
「寝てたか?」
声を聞いた。顔を上げると政宗がいた。身支度を整えた姿は、やはり小十郎の記憶の中の本物の政宗とよく似ていた。
「…何故、真田なのですか。貴方を守れる訳でもない、後ろ盾になれる訳でもない、
むしろ敵対している上に首を狙ってくるような男に、何故惚れたのですか」
「そういうもんだろ。安全なloverなんて、つまらねぇ」
「危険であればよいというのですか」
「そうじゃねぇ。あいつとなら渡り合える。あいつになら全部預けられる。そう思ったんだろ?」
「思ったんだろ、とは聞き捨てなりませんな。政宗様」
「だって俺、あいつじゃねぇし」
そういって笑う。小十郎は彼の正体を唐突に理解した。
悲鳴を上げそうになるが、政宗の手が小十郎の口を抑えた。ぞっとするほど冷たい手だった。
「呼ばれたような気がしてね。けどあいつら寝てるし。馬に蹴られたくねぇし」
手を離され、小十郎は政宗を凝視した。
星明かりしかない室内で、彼の姿は内側から光っているかのように仄かに輝いている。
こんなこと、生きている人間にありえることではない。
「分かってやれよ。あいつには真田幸村が必要だ」
「それは……。ですが、色恋に溺れては伊達が滅びます。それに真田は武田の家臣。いつ武田に重大な秘密が漏れるとも限りませぬ」
「それはないだろ。滅びるとしたら、中央が攻めてくるときだ」
「中央、ですか」
「豊臣が、奥州を平定するほどの力を持つ伊達の軍団に豊臣に目をつけられていること、分かってるか?」
「っ……それは、」
「考えてなかった、か」
政宗は冷静だった。死者故、生者以上に冷静にものを見られるのだろうか。彼には執着するものなどないのだろう。
「気をつけろ。豊臣は武田や上杉以上に力をつけてきている。いずれ、奥州を攻めてくる。
勝てればいいが、負けたら、お前たちは――生きる道を探れ」
「何故ですか。我等、伊達が滅ぶというのなら、命を繋ぐ意味など持ちませぬ」
「血を繋げ。生きて未来を見ろ。死んだら、何もかもが冷たくて寂しい。
お前らは、こっちに来るな。俺も、呼ぶような真似はしねぇ」
「それは」
「お前も、あいつも、幸せになれ。そうしないと、また出てくるぞ。今度は、目いっぱい驚かせてやる」
政宗は立ち上がった。衣擦れの音しか立たない優雅で機敏な所作。
「政宗」がどれ程真似ても、この優雅さは身につかない。
「Good Bye。息災に暮らせよ」
小十郎は旅立つ主君を見送った。ふわ、と蛍が飛ぶ。蛍が彼の従者を務めているのだろうか。
頭を深く垂れた。
共に行くことのできぬ不忠を心より詫びた。
幸せになりたいのなら、もっと他に男がいるだろうに。
秘密を守れる安全な男が。
「寝てたか?」
声を聞いた。顔を上げると政宗がいた。身支度を整えた姿は、やはり小十郎の記憶の中の本物の政宗とよく似ていた。
「…何故、真田なのですか。貴方を守れる訳でもない、後ろ盾になれる訳でもない、
むしろ敵対している上に首を狙ってくるような男に、何故惚れたのですか」
「そういうもんだろ。安全なloverなんて、つまらねぇ」
「危険であればよいというのですか」
「そうじゃねぇ。あいつとなら渡り合える。あいつになら全部預けられる。そう思ったんだろ?」
「思ったんだろ、とは聞き捨てなりませんな。政宗様」
「だって俺、あいつじゃねぇし」
そういって笑う。小十郎は彼の正体を唐突に理解した。
悲鳴を上げそうになるが、政宗の手が小十郎の口を抑えた。ぞっとするほど冷たい手だった。
「呼ばれたような気がしてね。けどあいつら寝てるし。馬に蹴られたくねぇし」
手を離され、小十郎は政宗を凝視した。
星明かりしかない室内で、彼の姿は内側から光っているかのように仄かに輝いている。
こんなこと、生きている人間にありえることではない。
「分かってやれよ。あいつには真田幸村が必要だ」
「それは……。ですが、色恋に溺れては伊達が滅びます。それに真田は武田の家臣。いつ武田に重大な秘密が漏れるとも限りませぬ」
「それはないだろ。滅びるとしたら、中央が攻めてくるときだ」
「中央、ですか」
「豊臣が、奥州を平定するほどの力を持つ伊達の軍団に豊臣に目をつけられていること、分かってるか?」
「っ……それは、」
「考えてなかった、か」
政宗は冷静だった。死者故、生者以上に冷静にものを見られるのだろうか。彼には執着するものなどないのだろう。
「気をつけろ。豊臣は武田や上杉以上に力をつけてきている。いずれ、奥州を攻めてくる。
勝てればいいが、負けたら、お前たちは――生きる道を探れ」
「何故ですか。我等、伊達が滅ぶというのなら、命を繋ぐ意味など持ちませぬ」
「血を繋げ。生きて未来を見ろ。死んだら、何もかもが冷たくて寂しい。
お前らは、こっちに来るな。俺も、呼ぶような真似はしねぇ」
「それは」
「お前も、あいつも、幸せになれ。そうしないと、また出てくるぞ。今度は、目いっぱい驚かせてやる」
政宗は立ち上がった。衣擦れの音しか立たない優雅で機敏な所作。
「政宗」がどれ程真似ても、この優雅さは身につかない。
「Good Bye。息災に暮らせよ」
小十郎は旅立つ主君を見送った。ふわ、と蛍が飛ぶ。蛍が彼の従者を務めているのだろうか。
頭を深く垂れた。
共に行くことのできぬ不忠を心より詫びた。




