それで話が済めばよかったのだ。
だが、毛利にも南蛮宗教にも近寄らずに生きたい元親の願いは、
たった十日ほどで破れた。
だが、毛利にも南蛮宗教にも近寄らずに生きたい元親の願いは、
たった十日ほどで破れた。
「アニキ!食料庫の中身が腐ったイカにすり替えられました!」
「焼き払え!」
「アニキィッ!ザビー教の宣教師が乗った小舟が四国の周りを埋め尽くしてますぜ!」
「薙ぎ払えっ!」
「アニキィー!木騎にザビー教の印が付けられちまったぁ!」
「何ぃぃぃぃっ!やって良いことと悪いことがあんだろが!
……もう俺は我慢できねえ。野郎ども!」
元親は碇槍を手に立ち上がった。
大体ザビー教団が煩くするせいで、辟易したオウムの鳥親が遊びに出てしまった。
鳥親が一月や二月の間外泊することなど珍しくもないが、
今回は南蛮宗教のせいだと思えば、いい加減腹に据えかねる。
「出航だ!」
「アニキ――――ッ!」
四国の海と空に、野郎どもの歓呼が響く。
「焼き払え!」
「アニキィッ!ザビー教の宣教師が乗った小舟が四国の周りを埋め尽くしてますぜ!」
「薙ぎ払えっ!」
「アニキィー!木騎にザビー教の印が付けられちまったぁ!」
「何ぃぃぃぃっ!やって良いことと悪いことがあんだろが!
……もう俺は我慢できねえ。野郎ども!」
元親は碇槍を手に立ち上がった。
大体ザビー教団が煩くするせいで、辟易したオウムの鳥親が遊びに出てしまった。
鳥親が一月や二月の間外泊することなど珍しくもないが、
今回は南蛮宗教のせいだと思えば、いい加減腹に据えかねる。
「出航だ!」
「アニキ――――ッ!」
四国の海と空に、野郎どもの歓呼が響く。
そこまで話すと喉が渇いた。しゃべり通しだ。
ちなみに目が覚めたヤツを引っ張ってやる義理はねえ、こいつは農耕馬じゃないんだぜと
素直じゃない言葉を投げられ、元親は戒めを解かれた上馬を与えられた。
どういう扱いか普通なら困るところだが、元親はありがとな、の一言で済ませていた。
ちなみに目が覚めたヤツを引っ張ってやる義理はねえ、こいつは農耕馬じゃないんだぜと
素直じゃない言葉を投げられ、元親は戒めを解かれた上馬を与えられた。
どういう扱いか普通なら困るところだが、元親はありがとな、の一言で済ませていた。
そして独眼竜がha、と呆れたように笑った。
「で、アンタ負けたのか」
「何でだよ」
「ケリつけに出たんだろ?」
独眼竜が不可解そうに眉根を寄せ、ひょいと竹筒を放った。
青い香りの移った清水を一口のみ、元親はああん、と肩をそびやかせた。
「あんなおっかねぇのが居る城、二度と行くか!俺は新天地を探しに来たんだ!
昔ッから逃亡者が向かうのは北、恋に破れたヤツが行くのも北、って決まってんだよ」
威張って胸を張ると、自分よりも頭半分ほど小さい独断竜は
もの凄く何かを言いたそうにした。
何だよ、と聞けば首を振る。
「いや、いい。ここで帰らすわけにいかねぇだろ」
もう、城は目前、今は城下の街並みのなか。
「おうよ。こっちもどっかで食料仕入れなくちゃならねえんだ。
聞けよ独眼竜!船出したと思ったらなあ、船の食料が全部オクラにすり替えられてたんだぜ!?」
独眼竜は明らかに聞く気がなかった。
「いいじゃねぇか、船の中じゃ青物は不足しがちだろ?
あんなもん下ゆでしなくても食えることは食えるんだ、元親に似合いの楽な食材だ」
「おいおい、俺が釣った魚とオクラだけで航海するほうの身にもなりやがれってんだ。
第一あのオクラ怪し過ぎんだよ、何日航海してもくさらねえわ、
食っても食ってもへらねえわ……
最後の方じゃ子分達が食料庫に近づくのも嫌がったんだぜ?
肌は綺麗になったけどよう」
気色の悪い体験を愚痴ったが、適当な返事すら返らなかった。
「で、アンタ負けたのか」
「何でだよ」
「ケリつけに出たんだろ?」
独眼竜が不可解そうに眉根を寄せ、ひょいと竹筒を放った。
青い香りの移った清水を一口のみ、元親はああん、と肩をそびやかせた。
「あんなおっかねぇのが居る城、二度と行くか!俺は新天地を探しに来たんだ!
昔ッから逃亡者が向かうのは北、恋に破れたヤツが行くのも北、って決まってんだよ」
威張って胸を張ると、自分よりも頭半分ほど小さい独断竜は
もの凄く何かを言いたそうにした。
何だよ、と聞けば首を振る。
「いや、いい。ここで帰らすわけにいかねぇだろ」
もう、城は目前、今は城下の街並みのなか。
「おうよ。こっちもどっかで食料仕入れなくちゃならねえんだ。
聞けよ独眼竜!船出したと思ったらなあ、船の食料が全部オクラにすり替えられてたんだぜ!?」
独眼竜は明らかに聞く気がなかった。
「いいじゃねぇか、船の中じゃ青物は不足しがちだろ?
あんなもん下ゆでしなくても食えることは食えるんだ、元親に似合いの楽な食材だ」
「おいおい、俺が釣った魚とオクラだけで航海するほうの身にもなりやがれってんだ。
第一あのオクラ怪し過ぎんだよ、何日航海してもくさらねえわ、
食っても食ってもへらねえわ……
最後の方じゃ子分達が食料庫に近づくのも嫌がったんだぜ?
肌は綺麗になったけどよう」
気色の悪い体験を愚痴ったが、適当な返事すら返らなかった。
政宗の注意が、別の場所に向いている。
視線の先を追う。誰もいない……いや、遠く声が聞こえる。
やがて馬蹄の響きが声に重なる。
独眼竜が笑う。
それは戦場で浮かべる凶悪な笑みではなく、元親は口をひん曲げた。
こちらに向かう馬の鞍に……またがるのではなく乗った、赤い姿。
「おいおい……」
呆れかえるが、同時に軽い既視感も覚える。
「政宗殿ぉぉぉっ!家臣一同、帰還をお待ち申し上げておりましたぞ!」
赤い侍は鞍の上にすっくと立ち上がる。
疾走する馬の勢いは変わらない。珍妙ながら、かなり馬の扱いに長けている。
「オイ政宗!ぶつか……」
自分の馬の手綱を引いて馬足を緩めたが、政宗は逆に速度を上げる。
城下の住民は慣れた様子で遠巻きにしている。
「待たせたな!」
独眼竜は鐙に力をこめ、腰を浮かせた。
「いざいざいざああぁぁぁっ」
「Ya――Ha――――ッ!」
青と赤の騎馬が交錯する。
うわっちゃあ、と元親は顔を覆った。
政宗の腕がどれだけ立つかはよく知っている。
一撃だな、一撃。
溜息をついたが、絶叫も断末魔も聞こえなければ血の匂いもしなかった。
顔を覆った手を退け、顔を上げる。
「あぁん?……何やってんだお前ら」
元親の少し先には、主の居ない馬一頭。疾走に疲れた様子で緩く歩み、ぶるる、と鳴いた。
視線の先を追う。誰もいない……いや、遠く声が聞こえる。
やがて馬蹄の響きが声に重なる。
独眼竜が笑う。
それは戦場で浮かべる凶悪な笑みではなく、元親は口をひん曲げた。
こちらに向かう馬の鞍に……またがるのではなく乗った、赤い姿。
「おいおい……」
呆れかえるが、同時に軽い既視感も覚える。
「政宗殿ぉぉぉっ!家臣一同、帰還をお待ち申し上げておりましたぞ!」
赤い侍は鞍の上にすっくと立ち上がる。
疾走する馬の勢いは変わらない。珍妙ながら、かなり馬の扱いに長けている。
「オイ政宗!ぶつか……」
自分の馬の手綱を引いて馬足を緩めたが、政宗は逆に速度を上げる。
城下の住民は慣れた様子で遠巻きにしている。
「待たせたな!」
独眼竜は鐙に力をこめ、腰を浮かせた。
「いざいざいざああぁぁぁっ」
「Ya――Ha――――ッ!」
青と赤の騎馬が交錯する。
うわっちゃあ、と元親は顔を覆った。
政宗の腕がどれだけ立つかはよく知っている。
一撃だな、一撃。
溜息をついたが、絶叫も断末魔も聞こえなければ血の匂いもしなかった。
顔を覆った手を退け、顔を上げる。
「あぁん?……何やってんだお前ら」
元親の少し先には、主の居ない馬一頭。疾走に疲れた様子で緩く歩み、ぶるる、と鳴いた。




