暫くの間、政宗たちは上田の城下にある寺の世話になることとなった。
何かと幸村が世話を焼いてくれるので不自由はない。怪我を癒し、心を落ち着かせる。
政宗は愛姫に呼ばれた。ついに来たと覚悟を決める。
髪を下ろしたいという愛姫を、政宗は許した。
二度も夫の死に立ち会ったのだ。後を追わないのが不思議なくらいだった。
「それでいいっていうんなら、止められない」
「ありがとうございます」
泣き腫らした眼を隠そうともせず、愛姫は微笑む。上田に来てから、愛姫はずっと泣いていた。
「やっと……夫の菩提を弔うことができます」
「やっぱり、嫌だった?」
冷えた風が吹いた。それが答えのような気がした。
政宗は愛姫に湯を差し出した。愛姫は湯飲みを両手で包み込み、湯気に息を吹きかける。
一口飲むと湯飲みを茶たくに戻した。羽織っている赤い打ち掛けを脱ぎ、政宗にかける。
「愛?」
「赤も、お似合いです」
「……そうか?」
「真田様の赤い具足の傍に立たれれば、さぞかし麗しゅうございましょう」
「赤の傍に赤があると嫌味だ。青か緑なら映えるぜ」
「それも、よろしいですわね」
愛姫の手が肩にかかった。小さな手に、綺麗な爪がちょこんと乗っている。自分の手とは大違いだ。
「本当に夫婦だったらと思いました。けれど、政宗様は女で、しかも他の男にうつつを抜かされる。
わたくし、妬いておりました」
「妬くって……いや、その前に、うつつを抜かすって聞き捨てならない」
「毎晩、聞かされましたわ。わたくし、真田様に詳しくなりました。
真田様は、わたくしの名前すら御存知ないのに」
くすくすと愛姫は笑った。頬が、髪が政宗をくすぐった。
しばらく二人で思い出話を語り合った。くだらない、どうでもいいことばかりだった。
ただただ二人で静かに時を過ごした。
これが最後になると分かっているからこそ、二人は夕餉の時刻になっても話をやめなかった。
何かと幸村が世話を焼いてくれるので不自由はない。怪我を癒し、心を落ち着かせる。
政宗は愛姫に呼ばれた。ついに来たと覚悟を決める。
髪を下ろしたいという愛姫を、政宗は許した。
二度も夫の死に立ち会ったのだ。後を追わないのが不思議なくらいだった。
「それでいいっていうんなら、止められない」
「ありがとうございます」
泣き腫らした眼を隠そうともせず、愛姫は微笑む。上田に来てから、愛姫はずっと泣いていた。
「やっと……夫の菩提を弔うことができます」
「やっぱり、嫌だった?」
冷えた風が吹いた。それが答えのような気がした。
政宗は愛姫に湯を差し出した。愛姫は湯飲みを両手で包み込み、湯気に息を吹きかける。
一口飲むと湯飲みを茶たくに戻した。羽織っている赤い打ち掛けを脱ぎ、政宗にかける。
「愛?」
「赤も、お似合いです」
「……そうか?」
「真田様の赤い具足の傍に立たれれば、さぞかし麗しゅうございましょう」
「赤の傍に赤があると嫌味だ。青か緑なら映えるぜ」
「それも、よろしいですわね」
愛姫の手が肩にかかった。小さな手に、綺麗な爪がちょこんと乗っている。自分の手とは大違いだ。
「本当に夫婦だったらと思いました。けれど、政宗様は女で、しかも他の男にうつつを抜かされる。
わたくし、妬いておりました」
「妬くって……いや、その前に、うつつを抜かすって聞き捨てならない」
「毎晩、聞かされましたわ。わたくし、真田様に詳しくなりました。
真田様は、わたくしの名前すら御存知ないのに」
くすくすと愛姫は笑った。頬が、髪が政宗をくすぐった。
しばらく二人で思い出話を語り合った。くだらない、どうでもいいことばかりだった。
ただただ二人で静かに時を過ごした。
これが最後になると分かっているからこそ、二人は夕餉の時刻になっても話をやめなかった。
愛姫が髪を下ろして数日後、幸村が佐助と共に大量の柿を持って現れた。
「政宗殿、柿はいかがですか」
政宗はせっせとむいては幸村の口の中に放り込んだ。ものすごい量がある。
「どうしてこんなに持ってきたんだよ。食い切れねぇ」
「干し柿を作ればよろしいではないですか」
「お前、干し柿は渋柿で作るんだぜ?」
幸村は目を丸くした。知らなかったのかと訊くと、幸村は頷く。
「渋柿は渋うござる。あれは何故育てるのかと不思議に思っておりました」
「干したら甘くなるんだよ。――そういえば、これどうしたんだよ。城に生えてたっけ?」
ぱきんと四つに割り、政宗はひとつを自分の口に入れ、後の三つを幸村に押し付けた。
幸村は実にうまそうに食べながら、寺の姫様にと城下で貰ったと言った。
「俺のじゃねぇか!」
だん、と音を立てて膝を立て、柿の汁でべとべとになった手で幸村の口をこじ開けようとした。
幸村は腕で政宗の腕を払って佐助を呼ぶ。しかし佐助は寺の和尚と話しているため、助けに入ってこない。
「某が貰ったのです! ひとつくらいよろしいではないか!」
「柿飛ばしながら言うんじゃねぇ! ひとつどころじゃねぇだろ! 俺より食ってるじゃねぇか! 返せ!」
「もう飲み込んだ故、返せませぬ!」
「じゃあ吐け!」
政宗は幸村の腹に馬乗りになり、ぐいぐいと頬を引っ張る。
「吐け吐け吐け! 今すぐ吐け!」
「ほんなふひゃぐひゃな(そんな無茶苦茶な)!」
「聞こえねぇなぁ。ちゃんとしたJapaneseを喋れよ」
べたついた手で唇をなぞる。怯えた表情がおかしくて、政宗は足でがっちり抑えたままかがみ込んだ。
ちゅ、と音を立てて頬に口付ける。柿の味がした。
「jokeだよ。人が吐いたモン、食えるかよ」
幸村から体をどけ、何事もなかったかのように柿を手に取る。
皮をむいて四つに割り、寝転んだままの幸村に二つ渡す。
残りの二つは自分の手の中に置く。
「もう十分だろ。胆を悪くするぜ」
「もう一つ、むいてくださらぬか」
「自分でむけよ」
笑いながら一つ食べる。種を出し、皮と一緒に笊の中に入れた。
幸村は勢いをつけて起き上がり、政宗の隣に座って柿を一気に頬張った。種はぷっと庭に吐いた。
「政宗殿、柿はいかがですか」
政宗はせっせとむいては幸村の口の中に放り込んだ。ものすごい量がある。
「どうしてこんなに持ってきたんだよ。食い切れねぇ」
「干し柿を作ればよろしいではないですか」
「お前、干し柿は渋柿で作るんだぜ?」
幸村は目を丸くした。知らなかったのかと訊くと、幸村は頷く。
「渋柿は渋うござる。あれは何故育てるのかと不思議に思っておりました」
「干したら甘くなるんだよ。――そういえば、これどうしたんだよ。城に生えてたっけ?」
ぱきんと四つに割り、政宗はひとつを自分の口に入れ、後の三つを幸村に押し付けた。
幸村は実にうまそうに食べながら、寺の姫様にと城下で貰ったと言った。
「俺のじゃねぇか!」
だん、と音を立てて膝を立て、柿の汁でべとべとになった手で幸村の口をこじ開けようとした。
幸村は腕で政宗の腕を払って佐助を呼ぶ。しかし佐助は寺の和尚と話しているため、助けに入ってこない。
「某が貰ったのです! ひとつくらいよろしいではないか!」
「柿飛ばしながら言うんじゃねぇ! ひとつどころじゃねぇだろ! 俺より食ってるじゃねぇか! 返せ!」
「もう飲み込んだ故、返せませぬ!」
「じゃあ吐け!」
政宗は幸村の腹に馬乗りになり、ぐいぐいと頬を引っ張る。
「吐け吐け吐け! 今すぐ吐け!」
「ほんなふひゃぐひゃな(そんな無茶苦茶な)!」
「聞こえねぇなぁ。ちゃんとしたJapaneseを喋れよ」
べたついた手で唇をなぞる。怯えた表情がおかしくて、政宗は足でがっちり抑えたままかがみ込んだ。
ちゅ、と音を立てて頬に口付ける。柿の味がした。
「jokeだよ。人が吐いたモン、食えるかよ」
幸村から体をどけ、何事もなかったかのように柿を手に取る。
皮をむいて四つに割り、寝転んだままの幸村に二つ渡す。
残りの二つは自分の手の中に置く。
「もう十分だろ。胆を悪くするぜ」
「もう一つ、むいてくださらぬか」
「自分でむけよ」
笑いながら一つ食べる。種を出し、皮と一緒に笊の中に入れた。
幸村は勢いをつけて起き上がり、政宗の隣に座って柿を一気に頬張った。種はぷっと庭に吐いた。




