だがこの気迫威厳に関わらず、その眼差しはどこかほっとさせるものを漂わせていた。
ただ強いのではなく、ただ威厳があるのではい。生まれつき人の上に立つ者の目だ。
──この男に負けたのだ、と不思議なほど素直に納得した。
ただ強いのではなく、ただ威厳があるのではい。生まれつき人の上に立つ者の目だ。
──この男に負けたのだ、と不思議なほど素直に納得した。
「窶れたな」
「歓待されたんでね」
覇王の眉が僅かに動いた。政宗ははんなりと造り笑った。
「奥州田舎の産であれば、口の利き方など存じませぬ。なれば浅学な女の言葉よとお聞き流し下されませ。
ご寛恕いただけぬのであれば、この口が呼んだ禍い、この身にてお詫び致しましょう」
幼い頃に躾られた、なよなよとした口調と仕草で減らず口をたたく。と、虎の口元がにいっと笑んだ。
「ふ。うわーははははははは!気に入った!佐助の手に負えぬのも道理!」
おやおや下郎、てめえこっちにまで気に入られてんのか。
しばし信玄は腹の底から笑い、政宗はただその覇気を受け止め、顔に出さないように堪えた。
「して伊達政宗。儂はぬしの領土と民にちと手を焼いておる」
政宗はふと目を見開いた。手を焼いて、だと。
「それは初耳だ」
肉食獣が笑う。
疲れ果て吐息一つで揺れる竜を見ている。
いいさ、信玄には隠すつもりなんて毛頭ねえよ。なあ、どこかで覗いてるんだろ下郎?
「佐助め、何一つ教えなかったか。伊達の者は一兵卒に至るまで武田への恭順を良しとせず、
皆民衆に身をやつし各地で暴れておる。農民までも一揆を起こしはじめる始末だ」
それは甲斐の虎、あんたにとっては恥だろう。
だが、オレの軍は……皆、負けたオレに義理立てしてんのか?おさまらない怒りにまかせ暴れているのか?
オレは無様に負けたんだ、一つもCoolじゃねえよ、捕らえられて嬲られたんだ、
それでも要領よく振る舞えなかったのか?
反抗する奴の末路なんて見えてんだろ?
「故に奥州の竜よ、争乱を鎮め儂に従うがよい。代わりに一つ、望みを叶えよう。何、気に病むことはない。
こちらも相応のものを要求する」
既に従うと決めている口ぶり。
奥州は、平安の昔からよい馬を産する土地だ。騎馬軍を抱える武田にとってはむやみに荒らしたくはないだろう。
だが、従わない者達を制圧することに、躊躇もないだろう。
「解った。オレに選択権はない、信玄公……否。お館様、そう呼ばせてくれ」
「ほう、思い切りもいい。ますます気に入ったわ!」
「そぃつぁ有り難く……Thanks」
深く深く頭を垂れる。にじみそうな涙を隠すために。
だが、そんなことをせずともきっと涙はこぼれないだろう。もう涙は乾ききった。
大体、誰のために流す涙だって言うんだ?誇りのため?
……そんなモン、もうねえんだよ、天下取りの夢が潰えた時に一緒に潰れてんだよ。
だから代わりに望めることはただ一つ、ならオレは──
「歓待されたんでね」
覇王の眉が僅かに動いた。政宗ははんなりと造り笑った。
「奥州田舎の産であれば、口の利き方など存じませぬ。なれば浅学な女の言葉よとお聞き流し下されませ。
ご寛恕いただけぬのであれば、この口が呼んだ禍い、この身にてお詫び致しましょう」
幼い頃に躾られた、なよなよとした口調と仕草で減らず口をたたく。と、虎の口元がにいっと笑んだ。
「ふ。うわーははははははは!気に入った!佐助の手に負えぬのも道理!」
おやおや下郎、てめえこっちにまで気に入られてんのか。
しばし信玄は腹の底から笑い、政宗はただその覇気を受け止め、顔に出さないように堪えた。
「して伊達政宗。儂はぬしの領土と民にちと手を焼いておる」
政宗はふと目を見開いた。手を焼いて、だと。
「それは初耳だ」
肉食獣が笑う。
疲れ果て吐息一つで揺れる竜を見ている。
いいさ、信玄には隠すつもりなんて毛頭ねえよ。なあ、どこかで覗いてるんだろ下郎?
「佐助め、何一つ教えなかったか。伊達の者は一兵卒に至るまで武田への恭順を良しとせず、
皆民衆に身をやつし各地で暴れておる。農民までも一揆を起こしはじめる始末だ」
それは甲斐の虎、あんたにとっては恥だろう。
だが、オレの軍は……皆、負けたオレに義理立てしてんのか?おさまらない怒りにまかせ暴れているのか?
オレは無様に負けたんだ、一つもCoolじゃねえよ、捕らえられて嬲られたんだ、
それでも要領よく振る舞えなかったのか?
反抗する奴の末路なんて見えてんだろ?
「故に奥州の竜よ、争乱を鎮め儂に従うがよい。代わりに一つ、望みを叶えよう。何、気に病むことはない。
こちらも相応のものを要求する」
既に従うと決めている口ぶり。
奥州は、平安の昔からよい馬を産する土地だ。騎馬軍を抱える武田にとってはむやみに荒らしたくはないだろう。
だが、従わない者達を制圧することに、躊躇もないだろう。
「解った。オレに選択権はない、信玄公……否。お館様、そう呼ばせてくれ」
「ほう、思い切りもいい。ますます気に入ったわ!」
「そぃつぁ有り難く……Thanks」
深く深く頭を垂れる。にじみそうな涙を隠すために。
だが、そんなことをせずともきっと涙はこぼれないだろう。もう涙は乾ききった。
大体、誰のために流す涙だって言うんだ?誇りのため?
……そんなモン、もうねえんだよ、天下取りの夢が潰えた時に一緒に潰れてんだよ。
だから代わりに望めることはただ一つ、ならオレは──
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