「勝手なことを、言うな…!」
元就が唯一自由になる口で、女の声を止めた。もう聞きたくない。
まだどこか霞がかった意識の向こう、それでも女の言い分は不快だった。傷つけられようとしている、大切な何か。
「ねぇ、聞いて?…それでも、もしあなたが逃げるなら、――は無理に追いかけたりはしない…」
「言うな。離せ」
「聞いて。…逃げて。お願い…」
元就が唯一自由になる口で、女の声を止めた。もう聞きたくない。
まだどこか霞がかった意識の向こう、それでも女の言い分は不快だった。傷つけられようとしている、大切な何か。
「ねぇ、聞いて?…それでも、もしあなたが逃げるなら、――は無理に追いかけたりはしない…」
「言うな。離せ」
「聞いて。…逃げて。お願い…」
方法は、わかってるでしょう…?鬼を、あの男を受け入れて…愛することに、素直になって。
もしあなたが、もう戦わないなら、ただの女になってお姫さまに戻るなら…そうでなくても、鬼と手を取り合って共に戦うなら…
――は、ああ良かったわって、王子さまとお姫さまが出会えたのねって…永遠をみるから。お伽噺の普遍性を。…変わらない、夢を。
――達が、辿りつけそうにない場所を…消えない虹が架かる空を…お願い…
独りぼっちで、来ないで…――のかける罠を避けて…
あなたが、独りでくるなら…――、あなたに酷いことをする。容赦しない。あなたを壊す。めちゃくちゃにする。
脆いあなた、愛してるって言う鬼の声にすら戸惑って竦んでしまう…そんなあなたを壊すのなんて……とても簡単な事…
――ね、あなたと同じ女だから・・・何をすれば一番嫌か、わかるのよ…?
ぞわ、と元就の背に冷たいものが走った。足元の冷える感触は、じわじわと這い上がってきている。嫌だ。
無数の小さい指は、皮膚の表面を這い回るだけでは済まず内部にまで入り込んでくる。内側から侵食される不快感。
「止めよ…!」
「逃げて…まだ間に合うから…」
無数の小さい指は、皮膚の表面を這い回るだけでは済まず内部にまで入り込んでくる。内側から侵食される不快感。
「止めよ…!」
「逃げて…まだ間に合うから…」
お願い…
一瞬、風がやんで女の声が嫌に明瞭に聞こえた。それだけがこの世界の音になった。澄んだ、星振る声で禍言を告げる女。
「市、ただ生きていたいだけなの…長政様と一緒に。」
だからお願い。来ないで。
ずっと愛し合っていたい。ただ、それだけなのに。
潮の花59
潮の花59




