障子の向こうが薄明るい。
そろそろ夜明けか、と思い、元就は身を起こそうとした。
…が、腕に乗っている半兵衛の頭が重しとなって身動きが取れなかった。
そろそろ夜明けか、と思い、元就は身を起こそうとした。
…が、腕に乗っている半兵衛の頭が重しとなって身動きが取れなかった。
あれから、幾度か絶頂に達し、崩れるようにおちた半兵衛をそのまま己の布団に入れた事を思い出した。
汗ばんだままでは、まだこの季節の明け方は寒い。
面倒だと思いながらも、客人に風邪でも引かせたら困るのは我が身だと言い聞かせ、周囲に散っていた着物を着せてやったのだ。
腕に抱えながら、いつの間にか自分も眠りにおちていたらしい。
汗ばんだままでは、まだこの季節の明け方は寒い。
面倒だと思いながらも、客人に風邪でも引かせたら困るのは我が身だと言い聞かせ、周囲に散っていた着物を着せてやったのだ。
腕に抱えながら、いつの間にか自分も眠りにおちていたらしい。
安らかな寝息を立てている半兵衛の顔は、いつも口元に浮かべている皮肉めいた笑みが消えており、少し幼く見える。
さらりと秀でた額にかかる髪を払い、頬に触れてみる。
常に微熱を持つ彼女の頬は熱く感じた。
「……我も貴様の事は言えぬな」
この身に抱けぬ者を想い、代替にしていた事には変わらないのだと低く嗤う。
「…う……」
気が付いたのか、半兵衛の紫瞳がゆっくりと元就の顔を見た。
「……化け物でも見たような顔をしておるぞ、竹中」
「君の目が悪いのさ、元就君」
そんな細い目で良く物が見えるものだね、と悪態をつきながらも、口調は柔らかく感じた。
上体を起こして周囲を見回すと、半兵衛は小さく欠伸をした。
「…まだ明けていないんだ」
いつの間にか雨は止んでおり、澄んだ光が照らし出す。
「戻るか」
「だって人に見られたら困るのは君の方だろ?」
「…さて、それはどうであろう」
冷淡な回答に、半兵衛は不服そうに頬を膨らませる。
「まあ、いいけどね」
半兵衛は布団から抜け出し、障子を薄く開けて外を覗うと、すぱん、と勢い良く開けた。
丁度、山裾から日輪が昇る様が見えた。
「ああ…最後だから一つ君に教えておくよ」
振り返った半兵衛の顔は逆光で良く分からない。
ただ、白銀の髪が眩しく映る。
「元親君の腹の子の父親は、多分、元就君だよ」
揶揄するような声に、元就は顔を上げた。
「何…?」
「秀吉の子だとしたら時期が少し早過ぎるからね……これは女の勘だけど」
唇に人差し指を当てて思案する振りをする。
「…でも父親など誰だろうと関係ないさ、彼女の子は秀吉の子として立派に育てられるから安心して」
もっとも僕にはそれを見届ける事は出来ないだろうけどね、と言い残すと、半兵衛は部屋へと戻っていった。
さらりと秀でた額にかかる髪を払い、頬に触れてみる。
常に微熱を持つ彼女の頬は熱く感じた。
「……我も貴様の事は言えぬな」
この身に抱けぬ者を想い、代替にしていた事には変わらないのだと低く嗤う。
「…う……」
気が付いたのか、半兵衛の紫瞳がゆっくりと元就の顔を見た。
「……化け物でも見たような顔をしておるぞ、竹中」
「君の目が悪いのさ、元就君」
そんな細い目で良く物が見えるものだね、と悪態をつきながらも、口調は柔らかく感じた。
上体を起こして周囲を見回すと、半兵衛は小さく欠伸をした。
「…まだ明けていないんだ」
いつの間にか雨は止んでおり、澄んだ光が照らし出す。
「戻るか」
「だって人に見られたら困るのは君の方だろ?」
「…さて、それはどうであろう」
冷淡な回答に、半兵衛は不服そうに頬を膨らませる。
「まあ、いいけどね」
半兵衛は布団から抜け出し、障子を薄く開けて外を覗うと、すぱん、と勢い良く開けた。
丁度、山裾から日輪が昇る様が見えた。
「ああ…最後だから一つ君に教えておくよ」
振り返った半兵衛の顔は逆光で良く分からない。
ただ、白銀の髪が眩しく映る。
「元親君の腹の子の父親は、多分、元就君だよ」
揶揄するような声に、元就は顔を上げた。
「何…?」
「秀吉の子だとしたら時期が少し早過ぎるからね……これは女の勘だけど」
唇に人差し指を当てて思案する振りをする。
「…でも父親など誰だろうと関係ないさ、彼女の子は秀吉の子として立派に育てられるから安心して」
もっとも僕にはそれを見届ける事は出来ないだろうけどね、と言い残すと、半兵衛は部屋へと戻っていった。
視察を終えた彼女は、一度も振り返ることなく去っていった。
元就もまた、いつもと変わらずそれを見送るだけであった。
元就もまた、いつもと変わらずそれを見送るだけであった。
その後、竹中半兵衛が安芸を訪れる事はなかった。
豊臣からの正式な使者が訪れ、彼女が肺の病で亡くなった事を告げたからだ。
豊臣からの正式な使者が訪れ、彼女が肺の病で亡くなった事を告げたからだ。
毛利元就が大阪攻めを決意したのは、その数日後のことだと言う。
(了)