一人の男が駆けて去って行く騎馬達を山寺の屋根の上から眺めていた。
長めの橙色の髪を鉢金で引っ詰めた男は四十に差し掛かった頃で、
器用に軸足を使って空中に腰を下ろしている。
(やっぱり若旦那は来なかったか)
主をそのまま小さくした様な少年が一行に居ないのを見て溜め息を吐く。
「やれやれ…」
あの少年をどうやって宥め透かして此所まで連れて来るべきか。
男は暫し黙考する。
その時背後に気配を感じた。
「ちょっとアンタ、此所で何して……ってあれ?」
若い男の声だ。
振り向くと黒い脛巾を着けた青年が居た。
「よう、また会ったな若僧」
独眼竜が直々に組織した忍集団は揃いの黒革の脛巾をしている事から
黒脛巾組と呼ばれている。
少数精鋭で人数は最盛期の三つ者に比べれば一割程度でしかないが、
殊に諜報や籠絡に於て群を抜いていた。
「真田の忍隊長の親父さんじゃない。何の用だい?」
青年は顔を見るなり親しげに話し掛けた。
「ちっと様子見に来ただけだし、もう帰るわ」
うぅん、と首を回して忍隊長は立ち上がる。
「頃合を見てあの撥ねっ返りを外に出す。頼めるか?」
「任せてくれ。親父さんは?」
青年に親父呼ばわりされても気に留めず忍隊長はヘラっと笑った。
「俺は良いさ。俺達みたいな古い戦忍はここですっぱり滅んだ方が良い。
……それに」
一瞬、忍隊長の目がとても穏やかになって青年は驚いた。
「あいつの母親を独りにしとけないからな」
長めの橙色の髪を鉢金で引っ詰めた男は四十に差し掛かった頃で、
器用に軸足を使って空中に腰を下ろしている。
(やっぱり若旦那は来なかったか)
主をそのまま小さくした様な少年が一行に居ないのを見て溜め息を吐く。
「やれやれ…」
あの少年をどうやって宥め透かして此所まで連れて来るべきか。
男は暫し黙考する。
その時背後に気配を感じた。
「ちょっとアンタ、此所で何して……ってあれ?」
若い男の声だ。
振り向くと黒い脛巾を着けた青年が居た。
「よう、また会ったな若僧」
独眼竜が直々に組織した忍集団は揃いの黒革の脛巾をしている事から
黒脛巾組と呼ばれている。
少数精鋭で人数は最盛期の三つ者に比べれば一割程度でしかないが、
殊に諜報や籠絡に於て群を抜いていた。
「真田の忍隊長の親父さんじゃない。何の用だい?」
青年は顔を見るなり親しげに話し掛けた。
「ちっと様子見に来ただけだし、もう帰るわ」
うぅん、と首を回して忍隊長は立ち上がる。
「頃合を見てあの撥ねっ返りを外に出す。頼めるか?」
「任せてくれ。親父さんは?」
青年に親父呼ばわりされても気に留めず忍隊長はヘラっと笑った。
「俺は良いさ。俺達みたいな古い戦忍はここですっぱり滅んだ方が良い。
……それに」
一瞬、忍隊長の目がとても穏やかになって青年は驚いた。
「あいつの母親を独りにしとけないからな」