更なる精進を心に誓う俺の手を、姫君の指先がちょいちょいとつつく。
……細い右肩に乗せられたままだった、右の手を。
「で、コレは据え膳に手をつけかけたって解釈でいいのかよ?」
今度こそ心の臓が止まったかと思った。というか、数拍分は止まった。多分。
慌てふためいて引っ込め…ようとしたのだが、一瞬速く手首を捕獲される。
俺も非力なほうでは決してないが、何せ相手は六振りの刀を自在に操る姫君、
その握力たるや容易にどうこうできるものではない。
「この前とは言ってることとやってることが違うじゃねえか」
「違……あのときは確か、手をつけずとも恥とは思わぬと申し上げたはずで!」
表情を見るにつけ、明らかにこちらを揶揄っているのは間違いないのだが、
だからといって上手く躱すだけの技量などこちらも持ち合わせてはおらず、
結局また盛大に笑われてしまう結果となった。
「………嘘だよ」
「は?」
「気付いたのは、肩に手が掛かってからだ」
唐突に切り出された言葉の意味を把握するのには、瞬き五回くらいの猶予が
必要だった。
「アンタの手が暖かくて心地良かったから、もうちょっとそのままでいても
いいかなって思ったんだけど」
相変わらず捕らえられたままだった手に、姫君は軽く頬を寄せ―――――
「さてと、いい加減戻るか。今日は小十郎の小言はねえだろうなあ」
無造作に俺の手を解放して、隠れ場所を抜け出した細い身体は左の肩越しに
こちらに声を掛けた。
「どうした?置いてくぞ、真田幸村」
「……どうぞ、お先にお戻りを」
「ふぅん?」
それ以上気にする様子もなく歩き去った気配が完全に消えるのを待ち、俺は
先ほど姫君がしていたように、抱えた膝に顔を埋めた。
……細い右肩に乗せられたままだった、右の手を。
「で、コレは据え膳に手をつけかけたって解釈でいいのかよ?」
今度こそ心の臓が止まったかと思った。というか、数拍分は止まった。多分。
慌てふためいて引っ込め…ようとしたのだが、一瞬速く手首を捕獲される。
俺も非力なほうでは決してないが、何せ相手は六振りの刀を自在に操る姫君、
その握力たるや容易にどうこうできるものではない。
「この前とは言ってることとやってることが違うじゃねえか」
「違……あのときは確か、手をつけずとも恥とは思わぬと申し上げたはずで!」
表情を見るにつけ、明らかにこちらを揶揄っているのは間違いないのだが、
だからといって上手く躱すだけの技量などこちらも持ち合わせてはおらず、
結局また盛大に笑われてしまう結果となった。
「………嘘だよ」
「は?」
「気付いたのは、肩に手が掛かってからだ」
唐突に切り出された言葉の意味を把握するのには、瞬き五回くらいの猶予が
必要だった。
「アンタの手が暖かくて心地良かったから、もうちょっとそのままでいても
いいかなって思ったんだけど」
相変わらず捕らえられたままだった手に、姫君は軽く頬を寄せ―――――
「さてと、いい加減戻るか。今日は小十郎の小言はねえだろうなあ」
無造作に俺の手を解放して、隠れ場所を抜け出した細い身体は左の肩越しに
こちらに声を掛けた。
「どうした?置いてくぞ、真田幸村」
「……どうぞ、お先にお戻りを」
「ふぅん?」
それ以上気にする様子もなく歩き去った気配が完全に消えるのを待ち、俺は
先ほど姫君がしていたように、抱えた膝に顔を埋めた。
―――――お館様。
―――――指先にはまだ、あのかたの唇の感触が残っていて。
―――――某、今しばらくこの場に隠れているしかありませぬ。
―――――指先にはまだ、あのかたの唇の感触が残っていて。
―――――某、今しばらくこの場に隠れているしかありませぬ。
<了>