(今だけなら、あの『甲斐の信玄』すら凌ぐ虎ぶりだな…)
大量の空瓶に埋もれて眠るふたりを眺めながら、小十郎は、政宗の部屋に散らばったものを片付ける。
ひとしきり済ませた後で、小十郎はだらしなく畳の上に引っくり返っている政宗に近付くと、彼女の耳元に呼び掛けた。
「──政宗様」
「うぅ…ん…?」
「身体を痛めます。隣に寝床をご用意しましたので、そちらでお休みなされ」
「ぁ…元親は…?このままじゃ、いくら夏でも風邪引いちまう……」
ぼやけた頭を巡らせながら、政宗は、自分から少し離れた所で身体を丸めている元親の
姿を探す。
「長曾我部は、小十郎が客間に運んでおきます。ご安心を」
「そっか…頼んだぜ」
「はい」
のそのそと這いながら、政宗は隣室へ移動する。
小十郎は、元親を起こさぬよう腕に抱き上げると、政宗から背を向けた。
「…小十郎」
「──は」
元親を抱えて部屋を出ようとする小十郎に、政宗の声がかかる。
「もう、コソコソすんのイヤだから、言っとく。俺…今、好きなヒトがいるんだ」
「……そうですか」
「うん、それだけ。Sweet dream。……お休み」
「お休みなさいませ」
掛けられた声が、随分と女の艶を帯びている事に気付いた小十郎は、一度だけ感慨深げに目を閉じると、政宗の部屋を後にした。
ひとしきり済ませた後で、小十郎はだらしなく畳の上に引っくり返っている政宗に近付くと、彼女の耳元に呼び掛けた。
「──政宗様」
「うぅ…ん…?」
「身体を痛めます。隣に寝床をご用意しましたので、そちらでお休みなされ」
「ぁ…元親は…?このままじゃ、いくら夏でも風邪引いちまう……」
ぼやけた頭を巡らせながら、政宗は、自分から少し離れた所で身体を丸めている元親の
姿を探す。
「長曾我部は、小十郎が客間に運んでおきます。ご安心を」
「そっか…頼んだぜ」
「はい」
のそのそと這いながら、政宗は隣室へ移動する。
小十郎は、元親を起こさぬよう腕に抱き上げると、政宗から背を向けた。
「…小十郎」
「──は」
元親を抱えて部屋を出ようとする小十郎に、政宗の声がかかる。
「もう、コソコソすんのイヤだから、言っとく。俺…今、好きなヒトがいるんだ」
「……そうですか」
「うん、それだけ。Sweet dream。……お休み」
「お休みなさいませ」
掛けられた声が、随分と女の艶を帯びている事に気付いた小十郎は、一度だけ感慨深げに目を閉じると、政宗の部屋を後にした。
客間に着いた小十郎は、布団の上に元親を下ろすと、乱れた銀髪を優しく払う。
「ん…」
夢を見ているのか、元親は僅かに眉を顰めると、短く声を上げた。
「…お前には、思い知らされたよ。政宗様は、いつまでも子供じゃねぇって事をな」
年頃の娘を持つ父親というのは、こういう心境なのだろうか。
かつて、自分の傍で泣いてばかりいた引っ込み思案の女の子は、いつの間にか奥州を背負う屈強の武者として、そして大人の女性として成長していたようだ。
ずっと一緒にいた筈なのに、この頃の政宗は、自分の知らない所で様々な経験をしている。
それが、主君を見守る家臣としては嬉しくもあり、また、心の何処かでは、それを認めたくないとも考えていたのだ。
「ん…」
夢を見ているのか、元親は僅かに眉を顰めると、短く声を上げた。
「…お前には、思い知らされたよ。政宗様は、いつまでも子供じゃねぇって事をな」
年頃の娘を持つ父親というのは、こういう心境なのだろうか。
かつて、自分の傍で泣いてばかりいた引っ込み思案の女の子は、いつの間にか奥州を背負う屈強の武者として、そして大人の女性として成長していたようだ。
ずっと一緒にいた筈なのに、この頃の政宗は、自分の知らない所で様々な経験をしている。
それが、主君を見守る家臣としては嬉しくもあり、また、心の何処かでは、それを認めたくないとも考えていたのだ。
(アンタの行動次第では、竜の『左目』すら、濁らせるおそれがあるんだ)
(俺は、男の慰み者でも、アンタの大切な政宗様の代わりでもねぇ!)
(俺は、男の慰み者でも、アンタの大切な政宗様の代わりでもねぇ!)
「……他人(ヒト)の事は判るクセに、何で自分の事は判らねぇんだ?」
元親の身体を跨ぐように近付くと、小十郎は彼女のあどけない寝顔に目を細めた。
「お前は、いい女だ。うわべしか見ねぇバカ共のたわ言なんかに惑わされるな。本当
のお前を判ってるヤツは、ちゃんといる。お前の部下や政宗様。…そしてこの俺もだ」
反応がない元親に、小十郎は低く甘い声で囁きながら、更に顔を近づけた。
「西海の姫。何なら俺と、ひと時のアバンチュールに酔いしれてみるか…?」
そして、節くれた小十郎の指が元親の頬に触れようとした瞬間。
元親の身体を跨ぐように近付くと、小十郎は彼女のあどけない寝顔に目を細めた。
「お前は、いい女だ。うわべしか見ねぇバカ共のたわ言なんかに惑わされるな。本当
のお前を判ってるヤツは、ちゃんといる。お前の部下や政宗様。…そしてこの俺もだ」
反応がない元親に、小十郎は低く甘い声で囁きながら、更に顔を近づけた。
「西海の姫。何なら俺と、ひと時のアバンチュールに酔いしれてみるか…?」
そして、節くれた小十郎の指が元親の頬に触れようとした瞬間。
「……漸く姿を現したか。これまでのは、みんなアンタの仕業だったんだな」
尋常ではない殺気が、背後の人影と共に、小十郎の延髄に迫ってきた。




