「こっちに来て、気苦労が多いか?」
真剣に答えることを、声音と静かな気迫が強要している。
なんのこれしき屈するものか。
幸村は思い切り顔をもたげて政宗の顔を見た。
「な、何の話でござる」
独眼竜は目を細めて、眼光鋭く幸村を見ていた。
「――何の話かはわかり申さぬが、某奥州にて気苦労をおった事などござらぬ」
視線が幸村の言葉と表情を値踏みしている。
どうしようもない距離を感じる。
ここは確かに異郷。
戦場を通じ解り合ったつもりになっていても、
伊達に嫁しても、毎夜気安く言葉を交わしていようとも。
政宗と小十郎の間にあるような関係とはとても遠い。
多くの言葉を費やさずとも解りあう事もなければ、一言で頷かれるだけの信用も築けていないのだ。
なんのこれから、と幸村は言葉に気迫を込める。
幸村自身、佐助に感じるものと同じほどの信頼を政宗との間に持ってはいない。
政宗に感じるのは、佐助に対するものとは違う思いだ。
どんな言葉にしていいかは解らないが、確かに全く別の、なにか…自分自身が驚くほど強い感情だ。
「奥州は見るもの見るもの物珍しく、小十郎殿は何くれと気を使ってくださる。政宗殿は某との決着をつけると約束してくださった。…某自身が台無しにしてしまったのは悔恨の極みなれど、気苦労とは違うものにござろう。
某はこの地にて、この命果てるまで政宗殿に尽くす覚悟で参り申した。
その覚悟、いささかも揺ぎ無し!」
言い放つと、細めた目が放つ光の質が変わる。呼応するように幸村も肩の力を抜く。
言葉を費やさなければ解らずにいることを、確認されることをを嘆きはしない。
何万言を重ねても、信じてもらえぬわけではないのだ。
「その言葉、小十郎にも言っておけよ。心配してたからな」
「解り申した!政宗殿もわかっているではござらぬか。皆良くしてくださっていると」
政宗は曖昧な喉声で応えた。
それから背中に回った腕に力がこもり、自分の方へと引き寄せる。
あたたかい。鼓動を肌で感じ取り、ほぅっと落ち着く。
これだけでも、幸村はきっとここに来てよかったと言っただろう。
「あいつは犬好きだからな」
いきなり珍妙な方向に話が飛ぶ。
「犬でござるか」
解らないまま頷くと、どうせアンタは虎とか言い出すんだろと笑われた。
全く持ってその通りなので、もちろんでござるとまぶたを閉じる。
お館様!幸村はこの奥州の地にて生きておりまする!
「政宗殿は?」
「オレか。…鳥になりてぇな…空を飛んでみるのは気持ちよさそうだろ」
「気持ちいいでござるが、目がまわるでござる」
びっくりした視線が額に落ちて、幸村は誇らしく笑った。
「小さい頃に、鳥につかまり空を飛んだことがあるのでござる。遠く遠くまで見え申した」
「へえ…いいな。忍びみてーだけどな」
あの、はるか遠く知らないものが見える心地。
耳が冷えるほどの風が頬を叩く。
髪が乱れに乱れて、飾り紐がどこかにいってしまった。
困っていると佐助が長い長い布をくれて、
はーいこれが地面につかないように走ってみよーう、と遊んでくれた。
そうして地面を蹴る確かな感触が足の裏に頼もしかった。
「連れてくれたのは忍びでござる。
されど、某地上に戻った時にはずいぶんと安堵したのでござるよ。
自分の足で立つ事は、遠くが見えずとも良いことにござろう」
政宗は邪気のない顔を見せた。ここに来て、ほんの時折見せる顔。
「I See,その通り、今は鳥でも犬でもねえ、ただの戦国の世に生きる武将だ。
だが、オレはアンタとの決着をつけない限り、天下なんて見えないのさ」
ただ熱を帯びた視線を受け止めて見返す。
真剣に答えることを、声音と静かな気迫が強要している。
なんのこれしき屈するものか。
幸村は思い切り顔をもたげて政宗の顔を見た。
「な、何の話でござる」
独眼竜は目を細めて、眼光鋭く幸村を見ていた。
「――何の話かはわかり申さぬが、某奥州にて気苦労をおった事などござらぬ」
視線が幸村の言葉と表情を値踏みしている。
どうしようもない距離を感じる。
ここは確かに異郷。
戦場を通じ解り合ったつもりになっていても、
伊達に嫁しても、毎夜気安く言葉を交わしていようとも。
政宗と小十郎の間にあるような関係とはとても遠い。
多くの言葉を費やさずとも解りあう事もなければ、一言で頷かれるだけの信用も築けていないのだ。
なんのこれから、と幸村は言葉に気迫を込める。
幸村自身、佐助に感じるものと同じほどの信頼を政宗との間に持ってはいない。
政宗に感じるのは、佐助に対するものとは違う思いだ。
どんな言葉にしていいかは解らないが、確かに全く別の、なにか…自分自身が驚くほど強い感情だ。
「奥州は見るもの見るもの物珍しく、小十郎殿は何くれと気を使ってくださる。政宗殿は某との決着をつけると約束してくださった。…某自身が台無しにしてしまったのは悔恨の極みなれど、気苦労とは違うものにござろう。
某はこの地にて、この命果てるまで政宗殿に尽くす覚悟で参り申した。
その覚悟、いささかも揺ぎ無し!」
言い放つと、細めた目が放つ光の質が変わる。呼応するように幸村も肩の力を抜く。
言葉を費やさなければ解らずにいることを、確認されることをを嘆きはしない。
何万言を重ねても、信じてもらえぬわけではないのだ。
「その言葉、小十郎にも言っておけよ。心配してたからな」
「解り申した!政宗殿もわかっているではござらぬか。皆良くしてくださっていると」
政宗は曖昧な喉声で応えた。
それから背中に回った腕に力がこもり、自分の方へと引き寄せる。
あたたかい。鼓動を肌で感じ取り、ほぅっと落ち着く。
これだけでも、幸村はきっとここに来てよかったと言っただろう。
「あいつは犬好きだからな」
いきなり珍妙な方向に話が飛ぶ。
「犬でござるか」
解らないまま頷くと、どうせアンタは虎とか言い出すんだろと笑われた。
全く持ってその通りなので、もちろんでござるとまぶたを閉じる。
お館様!幸村はこの奥州の地にて生きておりまする!
「政宗殿は?」
「オレか。…鳥になりてぇな…空を飛んでみるのは気持ちよさそうだろ」
「気持ちいいでござるが、目がまわるでござる」
びっくりした視線が額に落ちて、幸村は誇らしく笑った。
「小さい頃に、鳥につかまり空を飛んだことがあるのでござる。遠く遠くまで見え申した」
「へえ…いいな。忍びみてーだけどな」
あの、はるか遠く知らないものが見える心地。
耳が冷えるほどの風が頬を叩く。
髪が乱れに乱れて、飾り紐がどこかにいってしまった。
困っていると佐助が長い長い布をくれて、
はーいこれが地面につかないように走ってみよーう、と遊んでくれた。
そうして地面を蹴る確かな感触が足の裏に頼もしかった。
「連れてくれたのは忍びでござる。
されど、某地上に戻った時にはずいぶんと安堵したのでござるよ。
自分の足で立つ事は、遠くが見えずとも良いことにござろう」
政宗は邪気のない顔を見せた。ここに来て、ほんの時折見せる顔。
「I See,その通り、今は鳥でも犬でもねえ、ただの戦国の世に生きる武将だ。
だが、オレはアンタとの決着をつけない限り、天下なんて見えないのさ」
ただ熱を帯びた視線を受け止めて見返す。




