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ナイトシティの人々【People of Night City】

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ナイトシティの人々【People of Night City】

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●黒と赤、ネオ無政府集産主義への道

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レナード・スウェーデンボルグ=リビエラ

後期資本主義に本来内在する性質は、資本と超自我レベルの欲求を融合させたいという原初的必要性であり、これは行動的意味で理解されると共に経済社会上のステータスによって決定される物質的な意味でも理解される。これは存在/非存在、生/死、善/悪といった根源的対立に対する強い嫌悪として、そしてシカゴ学派のような極端な個人主義的価値観の割り当てを通じて表出する。しかしそれは、知っての通り、 癌から生まれた古典的功利主義の雑種に過ぎない。自覚的ネオ・アナーコレクティビストは進化論者やダーウィン主義者の誘惑を打ち捨て、他者を犠牲にしてその遺伝子を次へと渡し、社会を思い描かなければならない。集合的ながら無意識的自己に組み込まれた平等かつ同時代の個人たちから成る超個体としての社会を。その目的はこの意識を目覚めさせ、アダムとイヴの双方となることだ。知恵の樹を恐れるのではなく、それを切り倒し、新たな意識にプロメテウスの火を灯すための薪とするのだ。

●衝撃! メディアの噂とセレブのゴシップ

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皆さんはジギーQになることを夢見ている。あるいはルース・ゼン、もしくはジョシュ・カヴォルキンに。そうだろう? リッチで有名で見目麗しく、いつも街中の噂の的。しかし、願い事には気をつけよう。悪魔はいつでも聞き耳を立てているのだから。

ショービジネスの世界はバラ色や虹色とは限らない。スターであっても同様だ。彼らに放送時間を与える企業は、その見返りにいささかばかりの対価を求める。その対価とは、彼らの名前や顔、さらには遺伝子情報の所有権だ。どうかしてるだろう? 要するに、知名度が高くファンから愛される番組の司会者が、テレビ局の逆鱗に触れるようなこと――たとえば税金の高さを嘆いたり、台本にないことをしたり、不都合な質問をしたりすると、哀れな彼らはただちにお払い箱となり、強制的に整形手術を受けさせられて、顔も名前も変えるはめになる。局は翌日の放送に間に合うようにクローンを作り、カメラの前に座らせる。画面に映るのはおなじみの笑顔だ。信じられない? 次にN54ニュースを観るときは、ジリアン・ジョーダンの顔に注目し、何が見えるか教えてほしい。空虚、それしかないはずだ。

●ドク・パラドックスの正体

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ドク・パラドックスとは何者なのか? ゆがんだ仮面の向こうに、どんな素顔があるのだろう?

ドク・パラドックスはその質問に答えてくれない。法を犯しているのだから当然だろう。彼はその素性を隠さなければならないのだ。ほんの僅かでもその正体に迫る手掛かりを見せれば、ネットウォッチ・エージェントがすぐさま彼を捕えるだろう。

だがよく考えてみてほしい。世界有数の大企業から何年も逃れ続けるという芸当は、そう容易いことではない。暗号化されたテレビチャンネルをハックし、厳重に守られた企業の機密情報を暴き出せる彼は、いったいどんな人間だろうか?

答えは明らかだ。ドク・パラドックスは内部の人間――つまり組織に操られた人形に過ぎないのだ。その目的は? 企業は彼を利用し、あえて大衆の怒りの捌け口を作っているのかもしれない。巧妙に矛先をコントロールしながら、絶対に一線を越えない反乱者をでっち上げているのだ。あるいは、競合他社にダメージを与える“真実”を暴露しているのかもしれない。それともただのブランド戦略だろうか? もしかしたら来月あたりに、アヴァンテの新作“ドク・パラドックス”シリーズが発表されることだってあるかもしれない。

答えは時が経てばわかるだろう。だがとにかく、あんなホラ吹きの言葉に耳を貸してはいけない。

●シルヴァーハンド: Samuraiの創造者(そして破壊者)

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Samuraiのフロントマンを務めた男、シルヴァーハンドの素顔… それはアラサカのプロパガンダと、彼自身が作り上げたイメージとの間に確かに存在する。だが実際のところ、その真実を求める者はいない。レッテル、伝説、キャッチ―なスローガン――人々が彼に求めたのは、ただそれだけだった。だが彼の人生の薄汚れた部分を細かく探っていくと、全ての矛盾や誇張が明らかになってくる。

シルヴァーハンドの生涯におけるもっとも大きな謎、最も大きな空白の1つは、彼がノーマッドと共に過ごした時期だ。文明社会から逃れた彼は、大衆の前で着けていた仮面を外し、本来の自分を見せていたのだろうか。この時期のジョニーと接触した人々から証言を集めることができれば、伝記作家の仕事が大いにはかどるばかりか、ロック界のアイコンとなった彼について、専門家による心理分析が可能になるかもしれない。

●ゼンのスペルは“DZENG”だってば!

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正直に言って本当はこんな本、書きたくなかった。でも原稿料を貰った以上、書かないといけないでしょ? ま、実際はゴーストライターに書かせたんだけど(ありがとね、ジェイク!)。っていうのは冗談。さすがの私もそこまで堕ちてません。今のところは…

でも今どき本なんて誰が読むの? せいぜい部屋の飾りに使われてるぐらいでしょ? 少なくとも私はそう。ていうか、棚ごと取っ払っちゃったほうがいいんじゃない? 考えてみた方がいいわね。

で、どこまで話したっけ? ああ、そうそう。出版社から私の自叙伝を出さないかって打診されたのよ。それで、何か質問はあるかって言うから、酔っぱらった船乗りみたいに悪態つきまくっても大丈夫? って確認したわけ。私はいつもそうだから。そしたら、「なんとかします」だって。

クソ、ファック、マスかき野郎! うん。本当に大丈夫みたいね! それじゃあこの件はよしとして、次に移りましょ。

私がやってる“インフォフラッシュ”って風刺番組は見たことある? これがなかなかおいしい仕事で、週に一度、インターンが考えた媚びまくりのジョークをプロンプター見ながら読み上げるだけで、一般人の年収以上のギャラが貰えるの。資本主義って最高じゃない?

でもそうなると、気になるのはここまでの経緯よね? 単純な話よ。父親の同僚にN54ニュースのプロデューサーがいて、気づいた時にはテレビ局でコーヒー係をやってた。「おかわりはどうですか?」なんて聞いて回るの。もちろん無償でね。コーヒーを注いでる時以外は他にすることも大してないから、奥の方でしょっちゅうタバコ休憩を取ってたわけ。そしたら、なんか知らないけど、色んな人が私のことを面白がってくれて。私の言うことで、大人たちが大笑いしてるの。そのうちカメラの前に立たされて、適当にやってたら今に至るって感じ。

どうしたら私みたいになれるかって? まあ無理でしょうね。あなたのお父さんはN54ニュースのプロデューサーと友達じゃないでしょ? テレビ局は街で適当に人材を見つけてくるわけでもない。私のような人間は、あなたみたいな底辺とは接する機会すらないしね。さっきも言ったでしょ? 資本主義って本当に最高よね。

●伝記: ユーロダイン(非公認)

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Samuraiが商業的に大きく成功できなかったことは特段驚くべきことではない。彼らの方向性を定めたのが、あの扇動的フロントマン、シルヴァーハンドだったからだ。音楽そのものの追求を目指していたユーロダインがその役割を担っていたら、彼らの運命も変わっていたかもしれない。シルヴァーハンドの心には、クリエイティブな表現を生み出そうという野心が全くなかったのだ。その代わりに彼は、破滅の道をひたすらに進んでいった。この危険な気質はケリーに多大な影響を与え、アラサカ・タワー襲撃とジョニーの失踪を経た後も、長く尾を引いていた。ユーロダインが自身のクリエイティビティを世に知らしめたのは、休止期間を経てからのことだ。彼は大勢のファンの想像力とハートをつかみ、伝説的ミュージシャンの座を確かなものとした。

●『グタグタ言わずに今すぐリッチになろう!』ジョシュ・カヴォルキン著

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最初にして最も重要なポイント: 今の自分の状況を作ったのはあなた自身です。政府が情けをかけてくれるのを、周囲の愛すべき人々が手を差し伸べてくれるのを待っていてはいけません。自ら立ち上がり、仕事を始めましょう! 言いたいことはわかります。現在の失業率は34%です。でもそんなことは関係ありません。自分で事業を始めればいいのです。簡単なことでしょう? そのためには教育を受けなくては? なら勉強すればいいのです! 言い訳は一切受け付けません。望みさえすれば、あなただってお金持ちになれるのです! そのための努力を惜しんではいけません!

●和とエレガンス

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ハナコ・アラサカのナイトシティ来訪は、 気品とスタイルのアイコンとも言える彼女を間近に見るまたとない機会です。先日亡くなったサブロウ・アラサカの娘である彼女は、謎めいた雰囲気とともに、洗練を極めたセンスの良さを改めて見せてくれました。

まず注目すべきは、ハナコが日本人デザイナーの洋服のみを身に着けていたことでしょう。そこには幼いころから身に付けた愛国心と献身の精神が大きく表れています。そして、目ざとい方はお気づきになったかと思いますが、アラサカ社のロゴを象った小さな金のブローチも注目のポイントです。節度を守りながらも洗練を忘れないハナコは、白いネオミリ・スタイルのペンシルドレスで威厳ある慎み深さを漂わせつつ、堅くなり過ぎないスタイルを披露してくれました。

彼女は、自分が企業界の王族であることをよく知っています。確かな自信に満ちているからこそ、派手なネオキッチュをねじ込むような真似は一切しません。それでも、ドレスや靴、ヘアアクセサリーに散りばめられたゴールドのアクセントでさりげない気品を見せ、それらはネイルやリアルスキンのシームと見事に調和しています。さらに強烈な赤のコートをまとうことで、攻撃的なポップさまでミックスしているのです。

この色のチョイスは偶然でしょうか? そんなはずはありません。 国旗の色をモチーフにしていることは明らか――ハナコはこれまでも幾度となく、母国の伝統とモダン要素を積極的に組み合わせることで知られています。

●Samurai: 交わる刃

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…ロックの神として君臨し、アメリカの文化的アイコンとなる以前のケリー・ユーロダインは、全くの別人だった。その頃の彼のことは、本人すらよく覚えていない――というより、彼にとっては忘れたい過去なのかもしれない。Samurai時代のケリーは悪名高いボーカリスト、ジョニー・シルヴァーハンドに次ぐ二番手のポジションにいた…

彼がその本心を語っている数少ない資料(メリル・アポストラキスとの貴重なインタビューなど)によれば、ユーロダインは少なくとも2回はSamuraiを離れたことがあり、その度にもう二度と戻らない覚悟だったという。音楽性の違い、シルヴァーハンドの性格、グループの不和など、理由には様々なことが挙げられているが、真実はそれ以外のところにある。簡単に言えば、それぞれが“アルファ”であるジョニーとケリーがマイクを奪い合い、ファンの愛情を奪い合うには、彼らが演奏を行っていたクラブのステージは狭すぎたのだ…

それでもケリーは、毎回Samuraiに戻って来た。なぜだろうか? ここから先は噂話に頼るしかない。なかでも特に面白いのは、ケリーの一連の行動を定番かつ、最もシンプルな理由にあてはめた説――即ち、愛がそうさせたというものだ。

●スーパーノヴァ - リズィー・ウィズィーの半生(非公式)

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リズィーのキャリアは2069年にターニングポイントを迎えた。彼女はこの年に、サイバー改造を施した新たな姿を披露したのだ。妖艶さをまとい、生まれ変わった白雪姫の姿を。この時、リズィーはコンサートの最後に合成リンゴを食べてみせた。それにはなんと、特別に用意された毒が仕込まれており、彼女を心停止させるようになっていたのだ。彼女はステージ上で倒れ、それから丸1分もの間、LEDスクリーンには心電図の“直線”がクローズアップで映された。そしてコンサートは5時間半も中断される。その間にリパードクのチームが現れ、彼女の生体臓器をムーア・テクノロジー製インプラントに取り替えたのだ。蘇生されたリズィーは「Re-start, Re-heart, Repeat」を歌い、この曲はワールドチャートで1年間トップの座を飾り続けた。「私はずっと、究極のフロンティアを開拓することが自分の使命だと考えてきたの」――彼女はその後、N54ニュースに語った。「そのフロンティアとは、“死”よ」

リズィーのアナクロ・テロリズム的“パフォーマンス”には、スタイルを頻繁に変容させる彼女自身が投影されている。彼女はよく要らなくなった服を友人に譲り、ストリートへの寄付も行っている。インプラントでも同じことをしようとしたが、高級サイバーウェアは使用者の情報が紐づけされているため、簡単に譲ることはできなかったようだ。

リズィー・ウィズィーといえば、インプラントによる人の均質化に反対し、バイオダイン・システムズの工場に武装攻撃を仕掛けたことは有名だ。このときリズィーは傭兵集団と共に施設を乗っ取り、約1,200種のインプラントを強奪、そしてそれらを即興コンサートで観客に配った。襲撃の模様は生放送されたが、これはリズィーが掛けた保険だった。テレビで生放送されているとなれば、企業兵や警官もそう簡単に自分を殺せないと踏んだのだ。

しかしその後、この襲撃がやらせではないかという議論が巻き起こる。メディアいわく、バイオダインとリズィーは事前に結託しており、インプラントと工場の改修費を彼女が支払っていたというのだ。バイオダインがリズィーに対して何の訴えも起こしていないという事実が、この説に信憑性を与えている。リズィーは現在もこの疑惑を否定しており、バイオダインが襲撃を自社のPRに利用しているだけだと述べている。

●飼いならされた龍: ヨリノブ・アラサカ

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ヨリノブ・アラサカの半生は、様々な点で古くから伝わる寓話と似ている。近代世界においてトップクラスの影響力を持つCEOの末男。彼はその遺産、持って生まれた権利を捨て、東京のストリートで生きるという険しい道のりを選択するも、結局は尻尾を巻いて父親のもとへと逃げ帰った。少なくとも、公になっている情報ではそう言われている。しかし、ヨリノブはそもそもなぜ父を裏切ったのか? そしてなぜ、家族のもとへ戻ったのか? 私は数年に渡って情報を探り、手掛かりを追い、彼のかつての友人や関係者に話を聞いた。そしてそうすることで、世間が関心を寄せる大きな疑問の答えが、徐々に明らかになったのだ。

ヨリノブは、サブロウ・アラサカの3番目の妻、ミチコの第一子として21世紀初頭に東京で生まれた。周りから大きな期待を寄せられ、立派な若者へと育っていくように思えたヨリノブだが… 21歳で東京大学を卒業した頃に、事態は大きく変わっていくこととなる。卒業式の終了後、アラサカ家では彼を祝うパーティーが開かれた。その晩、サブロウは書斎に彼を呼び、2人きりで話をしている。そこで何が起きたのかは明らかではないが、様々な証言により、ヨリノブがその数時間後にパーティーを抜け出したことが判明している。そして彼はそのまま邸宅を出て、夜の闇に消えてしまったのだ。

その後の数年に渡り、ヨリノブは鋼鉄の龍と呼ばれるノーマッド集団といるところを時おり目撃されている。この若き日の反抗において、彼は反企業スローガンを掲げ、意図的にアラサカエージェントとの抗争に身を投じた。ヨリノブの反逆行為について確証が得られると、サブロウは彼を勘当し、サブロウの長男であるケイは弟への復讐を誓った。皮肉なことに、ヨリノブが父親と和解したのは、そのケイの葬儀でのことだ。極端なまでのプライドの高さで知られるアラサカ家の家長が和解に歩み寄ったことには、多くの者が驚かされた。何がサブロウを変えたのか? 彼らの平和的再会に、ヨリノブの妹であるハナコはどのように関与していたのか? 真相は未だわかっていない…

●カリフォルニアの日は暮れて~リチャード・ナイトの生涯~

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リチャード・ナイトは厭世家であった。経済が終わりなき成長に向かい、核の脅威がもはや過去のものとなった80年代後期にさえ、彼はアメリカが崩壊に向かっていると危惧していたのだ。

リチャード・ナイトは楽天家であった。彼は世界がより良いものになり得ると、そしてそれを行うのは自分であると、心の底から信じていたのだ。

リチャード・ナイトは現実主義者であった。世界全体を一度に変えることは不可能だと考え、理想の街を1つ築くという、(少なくとも彼には)小さな一歩から始めることにしたのだ。彼のユートピアはコロナドシティと呼ばれることになっていた。世界にビジョンを示す、輝かしい理想郷だ。

リチャード・ナイトの失敗は運命づけられていた。それは彼の夢が実現不可能なものだったからではない。世界中の実力者たちが、その失敗を望んだからだ。

リチャード・ナイトは殺された。計画されていた街の基礎は、彼の死後に完成を迎えることとなる。が、しかし。ユートピアの夢はディストピアの悪夢と化し、当初の名前さえもが失われてしまった。悲劇的な死を遂げた街の創始者を讃え、コロナドシティの名は“ナイトシティ”と改められたのだ。皮肉にも、それはぴったりの名だった。ナイトシティは猫のような街だ。昼は眠そうにうなだれ、夜になると活気づく。そして、獲物を弄ぶのが大好きだ。

●沈黙の花 - ハナコ・アラサカ伝記

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公になっている情報だけでこの伝記を書こうとしたら、本書は2ページで終わっていただろう(序文、あとがき、献辞も含めての話である)。

ハナコ・アラサカが自分のことを明かしたがらない人物であることは有名だ。彼女の生涯について書こうとした記者が悲劇的な死を遂げたニュースは、誰もが知るところだろう。背後から銃弾を10発。警察によれば自殺らしい。

その件もあり、出版社からこの本の話が来たとき、私は丁重に断ろうと思った。だが提示された前金の額を見て、考え直すことにした。そしてアラサカ社の広報から多数の関係者に対するインタビュー許可が下りると、私はすぐさま東京に飛んだ。

だが私のやる気はすぐに萎んでいった。アラサカ社がインタビューを許可した関係者は皆、何を尋ねても、同じ答えを繰り返すばかりだったのだ。事前に暗記した回答であるのは明らかだった。1ヶ月の取材を経てわかったのはこれだけだ:

「ハナコ・アラサカはサブロウ・アラサカと彼の3番目の妻ミチコの間に生まれた娘である。1999年に東京で生まれて以来、東京を離れたことは5回しかない。世俗から隔絶された生活を送っており、アラサカ社の重要ポストに就いたことはない。一家の厄介者であるヨリノブ・アラサカとは親しい関係にある」

これ以上何も得られないかと諦めかけたとき、ローカルテレビ局のアーカイブである映像を発見した。アラサカ社の福岡支社が開業した時のものだ。ハナコはその場に出席し、ピアノの演奏を披露していた。曲はドビュッシーの『夢想』。ストイックな日本人ビジネスマンに囲まれた場で、なぜあんな幻想的で内省的な曲を選んだのだろうか? 彼女の黄金の指が、鍵盤を優しく撫でていた。私はその演奏に魅了され、いつの間にか涙をこぼしていた。私はそこで決意した――なんとしても、この本を最後まで書ききろう… 謎に満ちたこの女性と対面し、本当の「ハナコ・アラサカ」に迫ろうと。

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