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世界【World】

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世界【World】

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●B・B・ピレス著、『ノーマッドの歴史』より抜粋

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ノーマッドの掟(旧)

1. クラン、とりわけファミリーを守り、尊ぶこと。
2. 人の品位は用いる言葉で決まる。
3. クランの仲間と分かち合うこと。
4. ファミリーのプライバシーと幸福を尊ぶこと。
5. クランを危険にさらさないこと。
6. 誠実な仕事には誠実な対価で報いること。

ノーマッドの掟(新設)

1. ファミリーとクランをこの順で優先して守ること。
2. クランの誰からも盗みを働かないこと。
3. クランの仲間の利になるものを私有しないこと。



農家ほど放浪の暮らしと縁遠い人種はいなそうだが、事実は奇なりというもので、ノーマッドの時代の火付け役となったのは彼ら農民である。自然災害、生物工学に由来する疫病とそれによる凶作、武力紛争、企業による投機や土地の私有化を認める戦時法、こうした要因が組み合わさり、彼らは放浪生活に追い込まれた。最初に「ノーマッド」と認識されたクランはアルデカルドスとジョーズだ。そのすぐ後にスネーク族、ザラス族、フォーク族、ブラッド族、メタコープが産声をあげ、全部で7つの民族ができあがった。

各民族は「トライブ」という集団によって構成されており、それがさらに「クラン」や「ファミリー」という小集団に分かれる。一般的なファミリーの人数は10人から100人ほどで、族全体では大きいもので100万人に達することもある。

当初、ノーマッドの活動は無政府主義で反体制的なものだと受け止められた。想像に難くないだろうが、主にそのようなレッテルを貼ったのは、ノーマッドを支配下に置くのは無理だと直感的に察した企業である。この話における最大の皮肉は、21世紀前半の象徴ともいえる戦争と大災害によって荒廃が進んだ都市の再建が、ノーマッドのおかげで果たされたという点だ。それもそうだろう。つまるところ、“ファミリー”の神髄は壊すことにあらず、生み出すことにあるのだから。

●水とクロームと血-第四次企業戦争

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…多くの犠牲者を出した第四次企業戦争のきっかけが、海洋開発企業であるCINOとOTECのライバル関係にあったということは実に興味深い。両社の対立は、失墜したIHA企業の経営支配権から始まった。OTECはミリテク社と契約し、営業利益の確保と「特殊任務」に当たらせ、CINOは同様の目的でアラサカ社と協力関係を結んだ。大手のセキュリティ企業同士が誇りをかけて武力衝突するような状況になったとき、第四次企業戦争の引き金が引かれたのだ。

始まりは、多くの企業闘争と同様、水面下の動きばかりだった。アラサカがミリテクの輸送を妨害し、ミリテクはアラサカの重要クライアントを暗殺した(と言われている)。両社は頻繁に妨害工作や情報窃盗に取り組み、ネットランナーをデータ要塞に侵入させ、情報を集め、株式市場を大混乱させた。この頃は誰も予想しなかったが、アラサカとミリテクの対立は世界経済の均衡を揺るがし、全世界の経済が崩壊しうる危機的状況にまで陥った。これを受け、ネットウォッチは両企業の通信停止に踏み切る。

しかし、対立が沈静化することはなく、CINOとOTECが「和平交渉」を通じて一方的に和解した後も、アラサカとミリテクの間の緊張感は高まるばかりだった。海洋開発事業との関係が切れた時点から、第四次企業戦争の次なる段階、いわゆる影の戦争が始まる。アラサカとミリテクの武力衝突では常に多くの血が流れたが、最大の被害をもたらした戦いは現実世界ではなく、ネット上で行われた。アラサカとミリテクのネットランナーたちは、当初実験段階のウイルスを用いた攻撃をしばしば行ったのだ。加えて、いざという時にいつでも攻撃できるよう、危険なICEや疑似AIプログラムをネットの影に長期間潜ませた。

2022年後半には、アラサカとミリテクの対決は最終章に突入する。両社はあらゆる資源と戦略を投入するようになり、全面的な衝突が始まった。この頃から、世界が親しんできたかつてのネットは失われ、両社に雇われた傭兵が先進兵器を用いた実戦で命を落とした。そして、この戦争の象徴ともいえる、最も衝撃的な転換点が訪れる。正体不明の傭兵集団が、アラサカのナイトシティ支社で核兵器を起爆したのだ。爆発の直後、日本政府から強い圧力を受けたアラサカは武装を解除し、ナイトシティを始めとするほとんどの戦略的地点から撤退。ミリテクは勝利したが、その代償はあまりにも大きすぎた…

●鳥類駆除法

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鳥類駆除法は2063年5月4日、ナイトシティ議会によって可決された。

目的: 致死率の高い人獣共通感染症の頻発を受け、市議会は市民の感染リスクを減らす最善策として、ナイトシティ市外18マイル圏内の鳥類の駆除を決定(図1)

駆除は請負業者の募集および選定が完了した2063年5月7日より実施される(資料2)

●妖怪:日本に伝わる化け物たち

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妖怪はどこにでもいる。山の頂、川や海。街中はもちろん、メガビルディングで4の数字がつく全ての階に。あなたの家の洗濯機はなおのこと、ひょっとするとインフォバイザーにも隠れているかもしれない。決まった場所に出る妖怪もいれば、決まった誰かに取り憑くタイプもいる。砂漠のど真ん中でおかしな音がしたら、それはきっと妖怪の仕業だ。誰かの視線を感じるのに、人っ子一人見当たらないその時も。何かが視界の端を横切った、でも他の人には見えておらず、目はこのあいだリパードクに診てもらったばかり、という時も。

日本の文学作品に初めて妖怪が登場したのは、797年のことである。この謎めいた存在は、目には見えない死の領域と切っても切れない関係にある一方、アニミズムが産声をあげた当初から日本人の意識とともにある。日本人は妖怪の存在を“信じている”わけではない。妖怪がそこにいることを“知っている”のだ。

[...] 妖怪には幻や鬼、その他さまざまな怪奇現象が含まれるほか、何かが姿を変化させて生まれたお化けや化け物がいる。それらは顔なしの人間や一つ目の案山子、あるいは動物の姿をとることがあるそうだ。

[...] ある程度長く生きた猫は、変化して化け猫になるという。彼らは二本足で歩き、言葉を話し、踊り、人間に化けることもできる。飼い主を取って食らい、本人になりすます不届き者もいる。人の夢に忍び込み、ときには死人を起こすこともあるそうだ。それも死体のうえにぴょんと飛び乗るだけで目を覚まさせるらしい。

妖怪の力はまだまだこんなものではない。しっぽが二股になった猫にはくれぐれも注意が必要だ。猫又と呼ばれるこの手の化け猫は妖術に長け、人に呪いをかけ、死者を操る力を持っている。人に化ける時は老婆のような姿をしているが、おかしなものをひたすら舐めるなど異様な雰囲気を漂わせているそうだ。

とはいえ、今この本を読んでいる読者はどうか安心してほしい。現代のアメリカ人が猫又に出会うことはまずあるまい。仮に化け猫の類に遭遇しても、招き猫と呼ばれる幸運のマスコットが関の山だ。そもそも、今となっては本物の猫を見ることの方が、妖怪に出会うより稀かもしれない。

●バッカー・ファミリーの没落

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ファミリー内のリーダーシップが衰えた間接的な要因は、逆説的ではあるが、対立の少なさだった。ファミリーのカリスマ的、そして長年のリーダー、セリータ・バッカーが命令を下すと、誰もが文句ひとつ言うことなく、直ちに遂行した。強権によってバッカー・ファミリーを率いたセリータは、独裁的ではあったが、決して暴君ではなかった。仲間たちから愛されていた彼女だが、晩年は、自身から権力を奪おうとする者はおろか、異議を申し立てる者すらいなかったことを残念に感じていたようにも見えた。

彼女の死後、ファミリーは変化の時期を迎えた。セリータの後はデルー・バッカー、ローナ・ルイス、チャリ・ダーリンがそれぞれリーダーの地位を継いだが、そのどれもが2年と持たずに次の代へとバトンを渡している(デルーはラフェン・シヴとの戦闘で命を落とし、ローナは自ら退任、チャリは自分の荷物をまとめ、ある日突然姿を消してしまった)。長きに渡りセリータの統率力に甘えた結果、いざそれが失われた際に、彼女のように厳格な意思決定を行える者がいなくなっていたのだ。

彼女の後を継いだファミリーのリーダーたちは皆、確固たる信念を持って統率することができなかった――そう語ったのはトリン・バッカーだ。トリンはスネーク族との合併が決定した際、他の大勢の若手と共にバッカー・ファミリーを離れている。

トリン: デルーとチャリに関して言えば、常に「セリータならどうする?」って考えてたのが丸わかりだった。ローナはマシだったが、ありゃ酒の飲みすぎさ。まあ、彼女を責める気はないけどな。ばあちゃんが見てたら心を傷めただろう。後継者たちがあっという間にファミリーの資産を使い果たして、他のクランとの契約や約束を次々と破棄していったんだからな。そして、よりによってスネーク族との合併なんて! いっそラフェン・シヴに頼んで、処刑してもらえばよかったんだ。まだその方がマシだったかもしれない。とにかく、それがファミリーの終焉だった。だから俺はオシアンやリル・イラム、アフシン、パーシアたちと一緒にファミリーを離れたんだ。

S・W: 彼らとは今も連絡を?

トリン: いや、取ってない。

●台頭するネットランナー集団

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昨今の注目すべきネットランナー集団の中でも、ファウンド・イン・トランスレーションの知名度(それとも悪名度?)の高さはダントツで群を抜いている。JD、AP、SK、BPMというハンドルネームで知られる4人のメンバーは、主に大手のブレインダンススタジオやプロダクション会社を標的として活動している。

ファウンド・イン・トランスレーション(FIT)の仕業として報じられた最初のサイバー攻撃は、とあるスタジオのデータ要塞への侵入だ。お目当てはそこに保存されていたリリース前のブレインダンスファイル。彼らはデータに軽く手を加え、企業を肯定する感情データを激しい憎悪に編集したほか、宣伝用に埋め込まれた企業ロゴを消すなどの処理を行った。

2076年7月、FITが改ざんしたバージョンの『バッドランズの襲撃』が太平洋岸北西部のマーケットに出回ると、大勢の消費者がシアトルの街に繰り出し、反企業を掲げる激しい暴動を繰り広げた。事件後、スタジオ側はセキュリティ対策を強化。警察当局はFITが公共の安全と秩序に多大な危険をもたらしたとして、テロリスト組織に指定した。これを受けてFITは戦略を変え、ブレインダンス制作会社を攻撃するだけに飽き足らず、国内の商業的ブレインダンスユニットに潜入し、データの破壊や改ざんまで手がけるようになった。『荒野の怒り』と『重役たちの奴隷』、この両ブレインダンスに対する先日のデータ操作攻撃は、FITが外部の圧力に屈しない、筋金入りのネットランナー集団であるという評判を確かなものにした。

●釜山を取り巻くうそのうわさ話

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ゴーストタウンと化した釜山に人間がいるらしい――陰謀論者たちの間で最近話題になっているトピックだ。若い読者は、かつて4百万人が住んでいたこの韓国の都市が、第四次企業戦争中に壊滅したことを覚えていないかもしれない。非公式な情報筋によると、ミリテク社が研究所で危険なウイルスを作成し、意図的に拡散させたとされている。事故か実験か、真相がどうであれ、そのウイルスはあまりに毒性が強く、大韓民合衆国政府は数十年たった今もなお、釜山を厳重な隔離状態に置いている。

それではなぜ、ゴシップ好きや陰謀マニアが50年前に死んだ街に再び興味を持つようになったのか? それはソウルに拠点を置く探偵が、生命の兆候を示す衛星画像を発見したのがきっかけだった。しかし“生命”とは言っても、厳密には稼働している機械が発見されただけで、そのこと自体は驚きに値しない。釜山は疫病の流行当時、世界で最も自動化が進んだ大都市の一つだった。街に広まったのは人間のウイルスでコンピューターウイルスではない。多くのロボットは屋外で作業や修理、ゴミの収拾や分別を行っていた。では謎の衛星画像は何だったのか。たまたま電源が落ちていないコンピューターがあった――それだけだ。

大韓民合衆国の人々は安心して眠っていい。釜山はゴーストタウンと言っても、幽霊がうろついているわけではない。

●千葉11区

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どの大都市にも中心部があり、周縁部があり、ビジネス街や歓楽街がある。しかし、忘れてはならないのがスラムの存在だ。スラムの1つや2つがなければ大都市と呼ぶことはできない。コーポでさえ恐がって行きたがらない場所。通報しても警察は対応してくれず、救急車は遠回りしてでも避ける。ひっきりなしに鳴り響く銃声。それがスラムという地域だ。ナイトシティではパシフィカ、ベルリンではパンコウ区、そして東京では千葉11区がこれに当たる。

不運にも千葉11区に生まれた者は、往々にして、次の2つのうちいずれかの道に進む。「殺るか殺られるか」のギャングの世界に入るか、うまく企業の庇護の下に潜り込むかだ。確かに、ガラス張りの高層ビルで働くコーポたちは千葉11区生まれの下々の者を見下している。その一方で、人を絶望的な貧しさから救えば、余計なことを考えず、あるいは良心の呵責もなく、命令に従ってくれることをよく知っている。日本の財閥が千葉出身の選ばれた少数――屈強で、意思が固く、何といっても狡知に長けた者たちに門戸を開くのはそのためだ。こうして“幸運”にもコーポに拾われた者たちは、世界の最も危険な地域に送り込まれ、多くが死ぬか姿を消す。しかし、この過酷な試練に見事打ち勝った者は、伝説として温かく迎え入れられるのだ。

●ワルシャワカトリック教会とその起源

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聖アウグスティヌスがおっしゃったように、この世に過ちを犯さない者はいませんが、進んで過ちを犯す者はサタンに仕えるも同然です。ファーディナンド法王1世とその継承者たちは、まさにこの罪を犯しています。キリストの教えを捻じ曲げ、テクノロジーとマモンの金の子牛を崇拝した罪です。彼らは自らの破滅を選んだばかりか、神の子羊たちもその道へと導こうとしています。コンラッド・ルワンドウスキー枢機卿は、愛する何百万もの永遠の魂たちのため、神が選ぶであろう決断をしました。彼はバチカンが救い主であるイエス・キリストを放棄したのを受け、聖座を率いるための推薦を辞退し、新設されたポーランド教皇を引き受け、教皇庁をポーランドのリヘンへと移したのです。

1. ワルシャワカトリックの信仰は?
ワルシャワカトリックは唯一の真の神を信仰し、家族を神から賜った自然の法則に従い、先祖の血によって神聖なものとされてきた伝統に則ったものと定めます。

2. 「神を信じる」とはどういう意味ですか?
唯一にして全知全能、我々の仕えるべき存在にして、愛と信仰をもって家族を作るべきだとおっしゃる神がいるという真実を受け入れることを意味します。神はかつてヨブに試練を与えたように、ポーランドにも試練を与えました。ポーランドこそが、神に選ばれた地だと証明されたのです。

3. 神は誰に我々の信じるべきものを伝えたのですか?
神の唯一の子、イエス・キリストです。その声は現在、ポーランド国教会会議で選ばれた法王によって伝えられています。

4. 神の言葉を信じるべき理由は?
救済され、天国で永遠の平和を得るためには、信仰しかありません。信仰を通して、我々は父や母が残した伝統に従って神を崇拝し、考え、ポーランド語を話すことができる、真のポーランド人となるのです。

●『自分であるべきか?プレインダンス中毒者の告白』

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序文

あなたは本当にあなたでいたいですか?

一度、真剣に考えてみてください。あなたは、自分の体が自分に合っていると感じますか? 仕事は好きですか? 友達や家族は? 鏡を見て、「自分はなんて幸せなんだ」と考えながら、運転手付きのレイフィールドに乗り込んでいますか?

さきほどの質問に1つでも「イエス」と答えた方は今すぐこの本を置いてください。時間の無駄です。答えが「ノー」だったあなた――この本はあなたのためのものです。

今世紀初頭、世界は「上位1%」が支配していると言われていました。現在は、「上位0.001%」と言ったほうが正確でしょう。そしてこの集団にあなたが入れる確率はさらに低いわけです。ですがそれはあくまで現実での話。あなたがあなたのままでいる限りは、到底無理な相談です。しかし、ブレインダンスの中でならあなたは誰にでもなれるんです。大金を扱う超優秀なブローカーにだって、テックショットガンで敵を吹き飛ばす兵士にだって、世界中のファンを熱狂させるクールなロッカーボーイにだって…

もう一度問います。この世界の誰にでもなれるとしたら、あなたはあなたのままでいたいですか? 私の答えはいつだって「ノー」でした。だからこそ、私の物語は始まったのです[...]

セルヒオ・モラレス

●サイバーサイコシスの真実

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毎日、多くの無実な人々の命を奪う銃撃にはもううんざりだ。内容のない、行き詰まったインプラント規制の議論を皮肉る風向きには吐き気がする。サイバーサイコシス問題を無視するのには飽き飽きだ。

今のアメリカ社会にはまだ、いわゆるテクノロジー関連の人格障害に関する作り話や誤解がたくさん存在する。人々は怪しげなリパードクの診療所で自分たちも“感染”するかもしれないと思っている。科学者たちの間でも、こうした病気の原因がそもそも実在するのかどうか意見が割れているそうだ。サイバーサイコが突然現れて、自分たちの研究所が修羅場に変わったら意見を変えるかもしれない。いや、それでも疑わしい。彼らは、商品がもたらす悲惨な副作用の可能性を公表するために、サイバーウェア協会から高額の収入を得ているわけではない。

私はサイバーサイコシスについて独自に研究を行った。私はこの病気が近代のライフスタイル、そして生活の中になんとしてでも近代技術を取り入れようとする風潮の副産物であると、最大限の自信を持って証言できる。サイバネティックインプラントは確かに私たちの脳内の化学性質に直接影響を与えるが、それは病気発症のきっかけにしかならない。

私たちの世界は、徹底的に非人間化されるようになっている。機械による自動化や人工知能にますます頼り、愛する家族は生まれつきの目や唇、顔を金属の仮面に変えている。一部の人たちは人間とは何かを忘れ始め、完全な疎外感と根深いパニックに陥っている。何が本物で何が“ただの”人工物、あるいはデジタル、合成物なのか区別する能力を失った人々は、自身を孤立させ始め、他人に対する共感を失い、加虐的な傾向を見せ始める。しかし特に恐ろしいのは、こうした人の大多数が診断されないまま生活していることだ。

サイバーサイコシス患者が全員、名の知れた退役兵やサンデヴィスタンの反射神経テックを備えた元傭兵というわけではない。全員がマックス・タックに撃ち殺されるわけでもない。世間にいる多くのサイバーサイコシス患者は膝や肝臓など、たった1つのインプラントをインストールしているだけだ。彼らは誰の目にも映らず、存在を気づかれていない。部屋に閉じこもり、友達や同僚、家族をも突き放す。ネットと妄想以外の世界は、意識から消え去っている。彼らは病気を抱えて孤立しており、そのことについて誰も、何も手を打っていないのだ。

これ以上、説得力のある要約などしようがない。このマニフェストの価値は、私がこれを書いたことによってゼータテクのサイバネティクス研究チームから追放されたという事実から評価してもらえばいい。

●ドバイ:砂と死の街

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…不穏な音が響いた。手元のガイガーカウンターだ。ここまでよくやってくれた、どうか安らかに眠れ。足元のガラスは、ところどころは氷のように滑らかで、かと思えばところどころはひび割れてギザついていた。この土地は水素爆弾が爆発し、砂浜が溶けてできたガラスで覆われている。ドバイに投下された5つの爆弾のうちの1つだ。

20世紀末の古い写真を思い出した。ここにはかつて、水晶でできたオベリスクのような摩天楼が空へ伸び、スーパーカーが走り、ヤシの木が並んでいたはずだ。今はいずれの面影もない。アラビア半島の放射線を帯びた埃で覆われ、奇妙な氷海が砂漠の太陽を浴びて輝いているだけだ。

だが驚くべきことに、かつての郊外だった近隣地域では、今も日常生活が営まれている。生活は困難で容赦ないが、それでも人々は暮らしているのだ。防護スーツや簡易的な防護服を着ずに外に出る者はほとんどいない。住居は13フィート以上の厚さのコンクリートで作らなければならないし、窓も付けられない。こうして生き延びることはできるが、いったいなんのためにここまでするのか? アラビア湾沖に作られたニュードバイとは違い、オールドドバイの平均寿命はわずか30歳だ。

それでもなお、ここに暮らす利点を見出している者がいる。誰も訪ねてこないし、ネットウォッチも企業の特殊部隊もここにはやってこない。ガラスと埃で覆われたこの地は、世界有数の指名手配犯の亡命先となっている。彼らが早々に死んで地獄に落ちるまでの時間稼ぎだと言う者もいれば、すでに地獄に落ちていると言う者もいる。

●パシフィカ-ハイチの再生:宗教の後とテクノ神秘主義の考察

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パシフィカの人たちが「アグウェ」という名前を口にする時、彼らは古代ヴードゥーの神、船乗りを守護するロア、海を渡って魂をギニーへ運ぶイマモウ号の船長のことを指しているわけでははない。150人の命を救うために暴風雨の波を超え、風を超え、豪雨を超えてゴムボートでハイチまで渡り、安全な場所まで届けたフィリッペ・オレステのことを指しているのだ。安住の地を求め、しばし洋上をさすらったオレステと避難民がようやくナイトシティに到着した時、伝説は生まれた。オレステは新たなアグウェになったのだ。

神話のアグウェは、やがてエルズリ、レグバ、その他の古いハイチのロアとともに人々の記憶から消えた。神々は、ナイトシティのヴードゥー・ボーイズのように人々を守ってくれなかったからだ。ヴードゥー・ボーイズは仲間を大切にし、よそ者を忌み嫌う。

近年のパシフィカの様子はどうだろうか? 離散したハイチ人のオアシスだ。迷信を信じる年老いた女性たちがつぶやく声。招かれざる客が予告なしにやって来た時の疑い深い視線。過ぎ去りし時代の子守歌… 「起きてると蟹に食べられちゃうぞ…」

●マックス・タックのサイコたち

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イカれた人殺しが街中をうろうろしていたら、彼らが私たちを守ってくれる。一般人が自分のデスクで突然キレたら、彼らはその人を捕まえて精神科に送る。彼らは狂った世界で私たちに安心感を与えてくれる… はずだった。だが、正直に答えてほしい。マックス・タックを目前にして、安心したことなどあるか?

主流メディアが伝えない話をしよう。マックス・タックが介入した場合、90パーセントはサイバーサイコの殺害という結果に終わるのだ。それについて問いただしても、「殺害による対処はやむを得ない場合のみ行っている」なんてお決まりの言葉が返ってくる。だが騙されてはいけない! 彼らにとって、殺しは必須なのだ。見物人に血の正義を見せて満足させるためだ! その過程で一般市民が何人か死んでも、仕方のないことなのだ。大義のための必要悪だと言うだろう。だがそれは… 誰のための大義だろうか?

私はこうした介入を間近で目撃したことがある。完全武装したサイバーサイコが勢いよくモールに入ってきた。7人を撃った後、急に大人しくなり、何やら一人でぶつぶつと言っていた。数分後に到着したマックス・タックはすぐに発砲した。その銃撃によって、サイコは再び狂乱状態に陥った。マックス・タックが一帯の安全を確保した頃には、25人が死んでいた。これで任務成功と言えるのか?

つまり何が言いたいかというと、マックス・タックのメンバーは全員、かつては自身もサイバーサイコだったのだ。一人残らず全員だ。少し前に街で無実の人々を惨殺していた人たちが、今は私たちの正義の味方なのだ。
彼らによる“介入”のほとんど全てが“避けられない”大虐殺に終わるのは驚くことだろうか? ただの偶然? ハッ、それはどうだろうな!

●『マックス・タックの流儀』マティアス・マドックス著

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第2版刊行にあたって

本著の初版刊行後、幸運にも様々な経験をしてきた人々と出会うことができた。サイバーサイコシス発症者の手で愛する者を失った方たちと話し、私が撃った相手の親族ともお会いしたが… 当然ながら、後味の悪い対面となることもあった。

また、読者から様々な質問を頂戴することがあるが、その内容を予想できるようになった。「撃たれたことはありますか?」(もちろん。数え切れないほど)「一番殺す/逮捕するのが難しかった相手は?」(2063年のゴールデンスプリングス・モール事件の犯人。生身の肉体よりチタニウム骨格と人工皮膚の割合が高かった)「サイバーサイコシスはなぜ発症するのか?」(解明できたら教えるさ!)

だが、ある時、ヘイウッドのサイン会でこのような質問をされた――「夜、眠れなくなるようなことはありますか?」。これまで聞かれたことがなかったが、思い返してみると、確かにあった。驚かれるかもしれないが、悪夢に出てきたのは無残に殺されたサイバーサイコ襲撃の被害者や、生きたまま燃やされた部隊の仲間の悲鳴ではない。残酷に聞こえるかもしれないが、そういうものには慣れてしまって、もはや仕事の一貫になっていた。そんな私が眠れなくなるほどの動悸に襲われるのは、自分もいつかサイバーサイコシスを発症するのではないかと疑心暗鬼に陥る時だ。この体には多くのサイバーウェアが取り付けられている。ほとんどの人よりその数は多いだろう。私は、恐れや疑いを抱く人間的な部分を押し殺そうと努めてきた。私は自分の人間性がいかに壊れやすいものかを知っている。自分の奥深くに眠る、私が私であるための部分だ。それが、神経回路を一つ切り損ねたり、ホルモンを少しでも過剰摂取したりしただけで永遠に消えてしまうかもしれない。そうなれば、私は人を殺すことしか眼中にない機械に成り果ててしまう。私はこうした不安に囚われることを恐れ、なるべく考えようないようにしてきた。

今でも、私は自分の中の悪魔と戦っている。妻には弾を込めたピストルをベッドサイドに置いてもらうよう頼んだ。もし、夜中に叫びだしたり、訳のわからないことをわめき始めたら、全弾、眉間に撃ち込んでくれと伝えてある。最初こそ彼女も嫌がったが、あなたのためならと承諾してくれた。愛する妻との約束があるからこそ、私は今ぐっすりと眠ることができるのだ。

●メタコープの内側

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ノーマッドという存在は、無秩序や社会の崩壊、技術の遅れといったものに結びつけられがちであり… それにはもっともな理由がある! しかし、どんな法則にも例外はあり、ノーマッドに関して言えば、その例外はメタ――もっと具体的にいえばメタコープである。

密輸や略奪にうつつを抜かす他のノーマッドと違い、メタは厳格に法を順守する。西部企業州連合に正式加盟しているメタコープは、多くの海運会社の株式を保有し、その大株主として名を連ねている。昨年の実績でアメリカ全体の物流量の53%を扱った躍進中の物流会社、DTR(デッカー、タナカ&ロジャース)もその1社だ。

メタコープの物語は、核戦争をもってしても壊されることのなかった2つの価値観、すなわちアメリカの起業家精神と未来に対する自信の物語であると言える。事実、メタコープという存在は、エントロピーから新たな秩序が生まれることの証左に他ならない。ユーロドルの札束の音は、どんな野蛮人をも文明人に変えてしまうのだ。

筆者は先月、メキシコ湾に浮かぶ移動型の人工島、メタキーにあるメタコープの本社に足を運んだ。同社のCEOを務めるノーマッドにして創業者ジョナサン・メタの孫娘でもあるビクトリア・メタに会うためだ。ビクトリアが祖父の厳格なまなざしだけでなく、彼の進取の気性をも受け継いでいるのは一目瞭然だった。

●映画における神秘的恍惚

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神秘性をテーマとした映画が姿を消しつつある一方で、それとは別の世界の兆候が、スピリチュアルな領域から世俗的な物質主義の吹き溜まりへと滑りこもうとしている。地獄の底で性的な逃避にふける中世の村人と悪魔を描いた映画『サタンの花嫁』は、だからこそ一層の注目に値するのだ。一見すると凡庸すぎるほど凡庸なこの脚本は、実は善悪の本質というものを考えさせる深みを内包しており、サタンの力に対する人類の圧倒的な無力さを私たちに連想させる。サタンの唯一の目的は、恐れに震える無力な人間の魂を蹂躙することなのだから。

『サタンの花嫁』は、価値論と中世ヨーロッパ史に興味のある人にとって必見の映画作品だ。

●密輸について

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…荷物の運搬には協力者が不可欠だ。協力者がいないから諦めろ。税関の職員、警備員、ガソリンスタンドの店員にはカネを握らせておけ。モーテルも忘れるな。それさえ抑えておけば、自由に姿を現したり消したりできる。相手を喜ばせておけば、ここぞという時に見て見ぬふりをしてもらえる。軌道上に物を運ぶつもりなら、オービタル・エアーの人間と親しくなっておくのも手だ。去年運んだ、苗木がぎゅうぎゅうに詰まったあの箱を覚えてるか? あんな代物を運べたのは、税関にいる知り合いが15秒よそ見してくれたからさ。

道具はちゃんとしたものを使え。普通のシグナルジャマーはダメだ。税関の職員もバカじゃない。あっという間にジャマーを無力化され、その場でお縄だ。ごく限られた範囲にだけ有効な改良型のジャマーを、ブツを隠してるまさにその場所で使え。荷物はICEで保護しろ。俺たちのところで買ったやつが理想的だ。仲間は信頼していい。

想像力を働かせろ。数十ポンド分のドラッグをどうやって南カリフォルニアまで運んだと思う? 然るべき人間に何も訊くなとカネを渡し、オールフーズのコンボイに乗せてもらったのさ。ドラッグを詰め込んだ食品コンテナが何個か混じってるなんて、誰も気づきやしなかった。

ルートの選定は慎重に。国境警備隊の巡回ルートと、企業の衛星がリアルタイムでスキャンするエリアについては、常に最新の情報を仕入れておけ。古きよきアメリカの道路もある。企業のコンボイが通りたがらない脇道やルートを使え。昔の地雷原を通るのも手だ。企業は通りたがらないからな。ただ、対策されるのも時間の問題だから気をつけろ。トンネルは最後の手段だ。近ごろは片道切符の旅になりつつある。トンネルを通って、外に出た瞬間、衛星がロックオンって寸法だ。もしそうなった場合には、思い切りアクセルを踏み込んで逃げろ。最後になるが、これだけは言っておく。とにかく捕まるな。

●いざ宇宙へ!素晴らしき軌道生活

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宇宙での暮らしはどうかって? 快適さ。

もちろん、何もかも薔薇色とはいかない。1G以下の重力は骨や筋肉によくないし、合成食は舌鼓を打つような味とは程遠い。地球のものは珍しいから、どうしても高くつく。住んでいるのがプライベートの軌道ステーションなら(おめでとう、私より金持ちだ!)、目にするのは毎日同じ顔ばかり。かといって、クリスタル・パレスのようなハイブリッドステーションに住めば、週末のたびにコーポどもの独身さよならパーティーに耐えなきゃならない。とはいえ、ゲッソリすることはない! 軌道上での暮らしには、マイナスよりもプラスの方が多いのだから。

第一に、安全だ。軌道に来るには、銀行口座にゼロがたくさん並んでなきゃならない。つまり、大勢のホームレスやイカれたギャングども、品のないジョイトイはいないってことだ(月のコロニーはその例外だが、我が身がかわいい軌道生活者はあんなところに足を運ばない)。別の言い方をすると、武器も持たず、護衛もつけずに夜外に出て、五体満足で帰ってこられるということだ。財布を狙われることもない。びっくりだろう?

第二に、サービスの質がいい。こっちでサービス業に従事している人間は、誰もが莫大な借金をこさえてここに来る。生きてるうちにその借金を完済するには、チップをたっぷり(それこそ山ほど)かき集めなきゃならない。そのためには、客のあらゆる気まぐれに応えなければならないわけだ。雇う側の立場からすると、せっかく雇って、懐を痛めて訓練した従業員が急に辞めるのを心配する必要はない。週給がたった2、3エディーいいからという理由で競争相手に引き抜かれることはないからだ。プライベートのところは特にそうだが、競争相手そのものが存在しないステーションも多い。あったとしても取るに足らない程度だ。そういう状況にならぬよう、談合するという手だってある。

第三に、そしてこれが一番大事なことだが、どこの政府にもうるさいことを言われない。軌道ステーションは自治が認められていて、独自の法によって統治されているからだ。法律の数もそこまで多くない。自分のステーションを持てるほどのお大尽は、ささやかながらも宇宙の一角を統べる、紛うことなき支配者になれるわけだ。使用人が粗相をやらかしたら、柱に縛り付けてムチで打とうと、誰も文句は言ってこない。5人の妻、あるいは4人の夫がほしいならそう言えばいい。きっと志願者が列をなしてやって来るだろう。

●パスファインダー:沈黙の半世紀

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2020年の夏、NASAのパスファインダーは木星へと旅立った。このニュースはあらゆるラジオ局、TVメディア、スクリームシートを大いに賑わせ、クルーの写真入りのマグカップ、Tシャツ、皿、ボブルヘッド人形、ステッカーなど、思いつく限りのさまざまなグッズが作られた。

しかし発射からたったの1週間で彼らのニュースはほとんど報じられなくなり、1ヶ月後には世間に忘れ去られたも同然だった。そして3年後、木星軌道に乗るまであと2年という時に、後に第四次企業戦争と呼ばれることになる紛争が始まったのだ。

ケープ・カナベラルは、最初に爆撃された戦略的地点の一つであり、現地にあったNASAの管制センターも破壊された。パスファインダーは広大な宇宙空間で通信が遮断されてしまったのだ。さらに3年後、紛争の当事者がようやく休戦協定を結んだことで、ミリテク社はパスファインダーのクルーとの通信再開を試みたが、失敗に終わった。パスファインダーは漆黒の宇宙空間で遭難したと考えられている。

今でも、パスファインダーの任務が成功したのかどうかはわからない。クルーが木星とその衛星まで到達できていたとしても、地球には通信も、データも、居場所の手がかりさえも届いていないのだ。そもそも無謀な任務だったのかもしれない。あるいは、50年も経った今になって、我々に言うことなどないのかもしれない。

●プロテインファーム:報告

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目下のところ、ナイトシティの肉と代替肉の供給は、プロテインファームがほぼ一手に担っている。業界をけん引するのは、街の代替タンパク質需要の半分以上を満たしているバイオテクニカだ。生産方法としては、今のところタンパク質の豊富なコオロギを利用したものが最も普及している。非常に高コストではあるが、最も高品質なタンパク質を製造可能なためだ。それより手頃な代替品としてはミミズが用いられることもあり、平方メートル当たりの生産量はこちらの方が上回っている。しかし、ミミズは販売上のハードルが高い。コオロギはずいぶん受け入れられるようになったが、ミミズを口にするという考えを生理的に受けつけない消費者が今も多くいるためだ。

●米羅戦争

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1990年代初頭から2000年代前半にかけて米国の領土で相次いだ武力紛争。その直接の結果として、ラテンアメリカ(南米と中米からなる地域)は相互支援と協力関係で結ばれた強固な独立国家連合へと変貌を遂げた。各国に駐留していたアメリカ軍は追い出され、唯一パナマにのみ、ゲリラ勢力の激しい抵抗を受けながらも踏みとどまった。

研究者や現代史の専門家の中には、後にアメリカ合衆国の崩壊を招いたのは米羅戦争だったとする向きも多い。ギャング・オブ・フォー(CIA、FBI、DEA、NSAの4組織)を解体に追い込み、アメリカ陸軍の息の根を止めたのもこの戦争だというのだ。しかし、そもそもアメリカ帝国主義がもろい粘土の土台に築かれたものでなければ、どんな外部の争いも崩壊を招きはしなかったということを忘れてはならない。

●サルでもわかる統一戦争!

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統一戦争は2069年1月から2070年6月まで続いた、崩壊後の北米で最も近年の武力衝突である。


統一戦争は、公式には新アメリカ合衆国(NUSA)と自由州連合政府との衝突とされているが、多くの学者は企業戦争と解釈している。新合衆国がミリテク社の機材や人員などの資源に支えられていた一方で、自由州連合はアラサカ社から非公式ながら多大な支援を受けていたことはよく知られている。


統一戦争はしばしば金属戦争と呼ばれる。これは、機甲部隊(いわゆるパンツァー)が大量に導入されたことに起因する。


統一戦争でもっとも多くの犠牲者を出した戦闘は、わずか一日で3078人が命を失ったリッジクレストの戦いである。


北カリフォルニアと南カリフォルニアはそれぞれ自由州連合と新合衆国を支持して州内で分裂したが、そのなかでナイトシティは中立を保っていた。


統一戦争は南カリフォルニアのアーヴィンで統一条約が締結されたことにより終結した。自由州連合は独立状態を守ったことを強調し、新合衆国は分裂以降のアメリカを再統一に近い状態まで回復したと主張して、両者ともに勝利宣言を出している。


統一戦争が終結してもなお、対立が収まることはなかった。最新のAI解析ソフトウェアは、2080年までに74%の確率で再び武力衝突が発生すると予想している。

●『星条旗のもとに集え』ロザリンド・マイヤーズ著

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20世紀は、核戦争、壊滅的な環境変化、世界規模の飢餓、そしてアメリカ合衆国の崩壊という多くの悲劇をもたらした。北部対南部。民主党対共和党、企業対連邦政府… 偉大なる我が国はたびたび内乱によって真っ二つに引き裂かれては、一致団結してきた。我々国民はどんな暗い時代でも、不満を乗り越え、強くなる術を持っている。これはいつの時代も、我々が愛し、支える国に対する義務でもあるのだ。

アメリカ合衆国は他に類を見ない国だ。我々は自由世界を守る兵士、そして番人だった。我が国の軍隊は世界の秩序を守り、企業は革新と進歩の原動力となり、産業は成長と富の増加を促し、出版社は人々の集団的意識をありのままに伝えた。アメリカ合衆国の崩壊とともに、文明も崩壊してしまったのだ。

いま再び、その時が来た。アメリカは立ち上がり、世界を新たな希望に導かなければならない。しかし、自分たちを見失っていては、より良い明日を手にすることはできない。今こそ、新合衆国の星条旗のもとに集おうではないか。我々の幸せを追求する権利を否定するような企業やならずもの国家の言葉に耳を貸してはならない。彼らには、公益のため犠牲になってもらわなければならない。我々を引き裂かんとする者たちとは、議論と誇り、そして血と鉄で戦うべきだ。

●メガビルディングの陰で

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私たちは安定した時代に生きていると言えるでしょう。第四次企業戦争は今や過去の出来事となり、自由都市となったナイトシティはまるで美しい宝石のように2つのカリフォルニアの間で輝いています。ここで暮らしていると、すべて世はこともなしという思いに駆られるかもしれません。ですが、周りをよく見てください。

世界は平穏とはほど遠い状態にあります。2020年から2040年にかけての技術的後退によって地球の汚染水準は低下しましたが、人類は依然として大きな生存の危機に瀕しています。気候変動は気候災害ともいうべきレベルに悪化しました。その影響は取り返しのつかない傷跡を残し、予測のつかない危険を孕んでいます。ハリケーンに竜巻、干ばつや洪水。自然災害は大陸全土で激しさと頻度を増し、地域全体を壊滅させかねない勢いです。きれいな水はますます入手困難になり、肥沃な土地も確保しづらくなっています。企業が関心を示さなかったばかりに、垂直農法、水耕栽培の植物工場が建てられなかったアジアやアフリカでは、飢えや食料不足が今も人々の命を奪っています。

一方で、サイバーウェア改造技術の進歩が新たな問題、サイバーサイコシスを引き起こしています。この病気が知られるようになって半世紀以上が経ち、その発症がインプラント施術の程度と密接に関連していることもわかってきました。しかし、他の人より暴力行為に走りやすい人がいるのはなぜか、その理由はいまだ不明なのです。ほかにも、格差の拡大や犯罪率の上昇(ナイトシティのような場所も例外ではありません)、移民の増加による社会不安の高まりなど、深刻な問題が世界中で広がっていることも忘れてはいけません…

ここでもう一度、最初の訴えに戻ります。皆さんの周りをよく見てください。もはやこうした問題はナイトシティでも珍しくないはずです。あなたはメガビルディングの陰にたたずみ、「ナイトシティはナイトシティだ。世界の問題が自分に害を及ぼすことはない」と思っているかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか?

●『アンドゥー:ファーストネットの凋落』

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第1章: 終末

レイシィ・バートモス。ファーストネットを破壊した男の名は誰もが知っている。だが問題は、なぜ破壊したのかだ。ネットウォッチは彼に犯罪者、無法者というレッテルを貼り、メディアは彼を狂人と呼んだ。果たしてそれは本当なのだろうか? その判断を下すのは読者諸君だ。下記は、R.A.B.I.D.Sリリース直前にバートモスが送った、初公開の手紙である。なぜ、今更見つかったのか? それは、誰かが決して公にならないように隠し続けていたからだ。我々はだからこそ、アクセスしうる情報にはディープダイブしなければならない。
    • マリア・ヒメネスへ



ファーストネットは人類を救うはずだった。声なき者たちのプラットフォームになるはずだった。知識に飢えたものが知識を得る手段に、そして分断された人類を、今までにないほど密につなぐ手段となるはずだった。だがこの希望は、空虚な偽りだったのだ。

ネットは圧倒的な早さで全世界に広まった。誰もが、それによって起こり得る事態を検討できないうちに普及した。この“情報のスーパーハイウェイ”は、実際は地獄への直通路だったのだ。我々のプライバシーは奪われ、自由意志は取り上げられ、人としての尊厳も損なわれた。

我々を救うはずのネットが、救いようのないところまで来ている。企業によって形作られ、切れ味の鋭い刃、棘、そして罠がネットのあらゆる箇所に仕掛けられている。ネットは穏やかな水流のように我々の頭に流れ込み… 凍りつき、膨張し、内側から破壊する。だが… 氷は硬いが、それと同時に驚くほど割れやすいものだ。たった一突きで、粉々に砕け散る。すぐにこの言葉の意味がわかるはずだ。

レイシィ・バートモス

●巨塔が倒れた日

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2023年8月初頭、ひとつの出来事が歴史の流れを変えた。血で血を洗う第四次企業戦争の最中に起こったにもかかわらず、世界中のメディアが連日この話題に群がった。彼らを責めることはできない。あるテロリストグループが核爆弾を爆発させ、アラサカ・タワーを吹き飛ばしてしまったのだから。テロリストが犯行を予告したタイミングはあまりに遅く、タワー従業員の中には避難が間に合わなかった者もいた。爆発による直接の死傷者は1万人以上にのぼり、その他にも数え切れない人々が放射線を浴びて命を落とした。21世紀最大のテロ事件はどのようにして起こったのか? この大惨事の裏には何者がいたのか? その答えを探るには、まずは当時の時代背景を理解しなければならない。

2020年代初頭のナイトシティは社会不安に揺れており、反企業感情がかつてないほどの高まりを見せていた。そんな無法地帯と化したナイトシティの中心にあったのが、アトランティスというクラブだ。このクラブは時の権力者に対する反逆者たちの拠点として機能していた。ここで言う権力者とは主にミリテクやバイオテクニカといった巨大企業を意味するが、なかでもナイトシティで最も強い影響力を持っていた兵器会社、日系財閥のアラサカは、のちに特別な地獄を見ることになる。企業は街の未来を乗っ取り、人々を消費者という名の奴隷に変えただけでなく、皮肉にも資本主義が最も愛した2つのもの、すなわち自由と選択を奪った――それがアトランティスに出入りしていた人々の訴えだった。彼らは自らをエッジランナーと名乗り、企業が打ち立てた秩序に反旗を翻した。独自の自由を求め、当時の体制への反対を表明したのだ。しかし、彼らの言う「体制」を意義ある形で変えようにも、それを平和的に実現する手段を奪われていた彼らは、より急進的な自己表現の方法に手を伸ばす。そうするうちに彼らは暴力と無縁ではいられなくなっていったのだ。

●報告:雲の海

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メア・ヌビアム(ラテン語: “雲の海”の意) – 月の表側にある海
直径: 444マイル
月面座標:
−11.85 ° N
−30.48 ° S
−5.45 ° E
−29.27 ° W
中央部: −20.59 ° N −17.29 ° E
経済的重要度: 低…大部分を占める研究施設は、より複雑な活動を行うための隠れ蓑になっている。
戦略的重要度: 高…メア・ヌビアムには革新的・実験的テクノロジーに関する研究を目的とした、重要な非正規クリニックが複数存在している。
物流的重要度: 中…西部マスドライバーがあるオシアナス・プロセラルムに比較的近い。

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