夜魔口赤帽&夜魔口砂男幕間その1

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dangerousss3

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幕間SS・『探偵』は推理する生物である

ザ・キングオブトワイライト開催当日。

「それではっ!命知らずの参加選手たちのご紹介ですっ!」
実況の佐倉・解説の埴井コンビが暫定的に司会を務めながら、選手紹介が行われていた。

会場に設けられたモニターに、参加選手の姿と名前が映し出されていく――そんな中。
夜魔口赤帽の姿は、何故か映されることはなかった。

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数時間後、大控室にて。
選手全員を集め、試合に関する子細をスタッフが説明している最中のこと。

「……あー、ちょっといいか」
「ん、なんでしょう内亜柄選手」
「確か、夜魔口とかいうチンピラ……コンビでの参戦、とか言ってやがったのに
 さっきの映像も、そこにいんのも『一人』じゃあねえか。こりゃあ、反則失格退場モンだろ?」

魔人犯罪専門の検事・内亜柄影法が指摘した通り。
今、選手の集まっているこの会場には――夜魔口赤帽と思しき人物の姿は、どこにもなかった。

「あー…… 一応兄貴は幹部っちゅー立場上、姿をホイホイ見せるわけにいかねえんですよ。
 姿を覚えられると、色々と面倒があるっつーか……俺はチンピラなので構わないんですがね?」

頭を掻きながら、砂男が面倒そうに答える。
彼には珍しく、どこかトゲのある言い方なのは――チンピラ扱いに対しての、彼なりの抗議といえる。

「ま、別に構わんだろ。幹部が顔も晒さんような組織なんざ弱小に違いあるまいよ」

横から口を挟むのは、マフィアの首領・儒楽第。
彼自身組織のトップであるが故に、その言葉には内容以上の重みがある。

「……すいませんね、まあどうせ戦うことになりゃ嫌でも拝めるツラです。
 遅いか早いかの違いってことでカンベンしてつかーさいな。
 一応、ルール違反じゃあないってコトでしたし……
 どうせ、こん中にも色々伏せ札してる人はいるでショ。だーったら不平不満の言いっこなしでお願いしやす」

気怠げに答え、肩を竦める砂男。
結局、内亜柄も儒楽第も、他の者もそれ以上の追求はしなかった。
しかし、追求されなかっただけで――それを観察している者は、確かにいた。

――『探偵』達である。

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「ん~……な~んで姿隠してんだろうね~……
 案外『姿がない』魔人とか~?いやいや、それなら多分スペクターとか~
 透明っぽい名前をつけるよね~……なんで『レッドキャップ』なのかな~?」

偽名探偵こまね。
目を半分閉じながらも、間延びした独特の口調で呟く。
その頭脳に宿る『探偵』の本能に逆らうことなく、推理を進める。



「……姿を見せない……見せたくない。
 ――as a mock? (欺く、という意味の英語)」

ラーメン探偵・真野事実。
ラーメンと探偵、そして英語の巴調和による独自のスタイルは、異端ではあるが――
彼もまた、紛れもなく『探偵』なのだ。



「……何故、魔人能力や武器を明かしたのでしょうか」

そして――最も年少ながら、最も『探偵』らしい、『本格派』の少女。
遠藤終赤もまた、推理を始めていた。


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「いずれにしても、次の対戦相手である以上……
 答え合わせはすぐ、ということになりそうですが」

試合の組み合わせが発表された後、遠藤はさらに推理を続けていた。
『本格派探偵』であるとはいえ、遠藤はまだ14歳。
探偵塾で叩き込まれた知識はあっても、裏社会の事情には――まだ、さほど明るくはない。
あの場で砂男が言った理由も、あながち間違ってはいないのだろうが……

(……あるいは。わざと『伏線』を張っている?何のために?
 『探偵』である拙や、他の選手に対する牽制……?)

「……サン、遠藤サン」

「えっ!?」

声をかけられ、大袈裟に驚く遠藤。
推理に没頭していたが故に、些細な呼びかけに対しても無防備になっていたのだ。

(不覚――! これが『現場』なら、私は死んでいた――)

己の迂闊を恥じながらも、感情を押し殺しながら声の主に向き直る。
声を掛けた相手は、他ならぬ次の対戦相手――夜魔口砂男だった。

「や、考えゴトしてた途中ですんませんね。
 ちょーっと相談事っつうか、お願いがありまして」

「お願い、ですか……先に断っておきますが、共同戦線はお断りいたします」

緩んだ表情の優男相手に、やや過剰とも言える警戒心で望む遠藤。
しかし、魔人ヤクザ相手に警戒心抜きで会話や交渉を行うことは、取り返しのつかない悪手であることを彼女は学んでいる。

だが、そんな彼女の警戒は肩すかしに終わる。

「や、それよりも。 戦闘の海上が海水浴場でしょ?
 もし良かったら、水着に着替えてくんねっスかねーとか思っちゃったりして」
「……はい?」
「だって海水浴場ッスよ?バトんなきゃいけないのはわかってんですけど、
 ただボコスカやるだけじゃー面白くないッスよ。勝つにしろ負けるにしろ、どうせなら
 潤いっつうかー、オアシスっつうかー、オニイサンちょっとした役得が欲しいなー、って」
「……申し訳ありませんが、拙は探偵としてこの戦いに挑んでおります。
 貴方と拙は敵であり、暴力団員と探偵でもあります。……馴れ合うことは、できません」

呑気に欲望丸出しの“お願い”をする砂男に、呆れるような溜息を思わず漏らしながら。
遠藤は、それでも年長者への礼儀を忘れぬよう、丁寧な言葉で断りを入れた。

「……ま、そりゃそうッスよねー。
 んじゃ、もしアンタが俺達に負けたら、そん時は水着姿拝ませて下さいな」
「……」

なおも食い下がる砂男に、遠藤は怒りや呆れを通り越し何か憐れめいた感情を抱き始める。
話を変えようと、遠藤は話題を切り替えにかかる――砂男が答えに詰まるであろう話題を。

「砂男さん。パートナーの赤帽さんは何故、姿を晒さないのでしょうか」

その言葉が、遠藤の口から放たれた瞬間。砂男から、余裕が消えた。
引きつる口角、まばたきの回数の減少。
その一瞬の変化を見逃さず、遠藤は指を突きつける。

「……やー、それならさっき説明した通りで」
「いえ。きっと『真の理由』があるはずです」

取り繕う余裕は与えない。探偵術の初歩だ。
そんな初歩の探偵術に、あっさりと砂男は――折れたように見えた。

「あー……じゃあ、言いますけど……兄貴の面子にも関わるコトなんで、ご内密に。
 ……兄貴、身長が15cmしかないんですよ」
「……はい?」

深刻そうな表情を浮かべながら、兄貴分・赤帽について語り出す砂男。
対照的に、またも呆気にとられる遠藤。

「人斬りの悪鬼・夜魔口赤帽の正体がそんなちっこいのだってバレたら、威厳とか台無しでショ?
 なんで、伏せられるウチは伏せておきたかったんスよねー……あっはっは」

ケラケラと笑う砂男に、今度は遠藤が食い下がる番となる。

「身体的特徴がコンプレックスになっている、というだけでわざわざ隠すわけが――」

しかし、その食い下がりは――ここでは、無為に終わる。

「……あ、スンマセン兄貴、いや別に兄貴を笑いものにしたかったワケじゃ」

砂男の挙動が、急に不審なものとなる。
遠藤の探偵眼を発揮するまでもなく、その原因はすぐに解った――

砂男の喉元に、緋色の刃のドスがつきつけられている。
ドスは砂男の懐――ジャンパーの影、内ポケットの辺りから生えるように突き出ている。
おそらくは、あそこに居るのだろう……夜魔口赤帽が。

「と、とにかく! お互いガンバりましょうや、チャオ-!」

血相を変えたまま、砂男が踵を返して立ち去る。
おそらくは――この後、赤帽に叱責されるのだろう。口頭注意で済むかはともかくとして。

「……推理は『現場』で、ということですかね」

砂男を遠目に見ながら、遠藤は――改めて『探偵』の顔に戻る。
この戦いに望むことを諦めた『兄弟子』に恥じぬ推理をせねば、と決意を新たにしながら。