[ 1 ]
キリタくんは、私のクラスメイトだった。
正確には、クラスメイトだった時もあるし、そうじゃなかった時もある。
学年に2つしかない学級の中で、4年間同じクラスに入っていた。
学年に2つしかない学級の中で、4年間同じクラスに入っていた。
決して目立つ少年ではなかった。表情はいつも無愛想で、服装にも気を遣わないタイプ。友達も多くない。
よくノートに落書きをしては、声が大きい男子に揶揄われ、しかし顔色一つ変えないので、つまらないとすぐに飽きて放置される。そういう子だった。
よくノートに落書きをしては、声が大きい男子に揶揄われ、しかし顔色一つ変えないので、つまらないとすぐに飽きて放置される。そういう子だった。
きっと何事もなければ、日々ぼんやりと流されるように過ごしていた小学生時代の私にとって、時間と共に流れていく風景の一つになっていた────はずの人だ。
私が今でも彼の事を記憶しているのは、ちょっとした偶然があったからだ。
偶然に。
それこそ、「ぼんやりと流されるように」生きていた私だから。
昼休み、ひとりで人気のない小学校の校舎裏へと向かう姿を、「あっちに何かあるのだろうか」という好奇心で追いかけてみたのだ。
昼休み、ひとりで人気のない小学校の校舎裏へと向かう姿を、「あっちに何かあるのだろうか」という好奇心で追いかけてみたのだ。
追いかけると言っても、堂々とついていくような真似はできなかったから、曲がり角の一つ向こうからこっそりと付いていく、ストーカーのような真似をした訳だけど。
彼は裏門を通って、学校の外に出ようとしていた。
それは学校全体のきまりで禁止されている事で、当然、彼もそのことは分かっていたはずだ。
それは学校全体のきまりで禁止されている事で、当然、彼もそのことは分かっていたはずだ。
つまり、辺りに人目がないか確認しようとしたのだろう────そこで振り向いた彼と、私の視線が交わった。
「あ、その」
……言葉が続かない。気まずくなって、目を逸らしそうになる。
冷静に考えてみれば、やましい事をしているのは向こうなのだけど。
冷静に考えてみれば、やましい事をしているのは向こうなのだけど。
かと言って別に、きまりを破った事を咎めるつもりもなかった。
当時の黒磐ルイという生徒は教師受けの良い優良児として通っていたけれど、それは正義感の強さとは全く別の話だ。
当時の黒磐ルイという生徒は教師受けの良い優良児として通っていたけれど、それは正義感の強さとは全く別の話だ。
なら、私は何がしたくてここに来たのか。
まぐまぐと言葉を詰まらせる私に、彼は助け舟を出した。
まぐまぐと言葉を詰まらせる私に、彼は助け舟を出した。
「一緒に来る?」
[ 2 ]
そうして、私達は近くの高台に上がった。
裏門を抜けて山の手へ5分くらい、坂を少し登った所にある。
遠足で登ったルートとは別の道だったから、こんな場所があること自体、この時はじめて知った。
裏門を抜けて山の手へ5分くらい、坂を少し登った所にある。
遠足で登ったルートとは別の道だったから、こんな場所があること自体、この時はじめて知った。
山麓の木々の向こうに、私達の暮らす街並みが広がっている。
灰白い建物と、青い海。
灰白い建物と、青い海。
冷たい潮風が木の葉を揺らして、頬を撫でていった。
キリタくんは手近な岩に腰掛けると、スケッチブックを開いた。
私はどうしようかと少し足踏みをしてから、その少し後ろに立った。肩越しの白紙に、薄く線を引いただけの下書きが見える。
思えばかなり不躾な真似だったけど。彼は後ろを一瞥したきり、特に気にしない様子だった。
私はどうしようかと少し足踏みをしてから、その少し後ろに立った。肩越しの白紙に、薄く線を引いただけの下書きが見える。
思えばかなり不躾な真似だったけど。彼は後ろを一瞥したきり、特に気にしない様子だった。
そのまま、会話らしい会話もない。
彼はただ、黙々と手を動かして、私はそれを眺めている。
彼はただ、黙々と手を動かして、私はそれを眺めている。
一手ごと、私には分からない法則で、灰色の風景が編み上がっていく。
彼の目を通して見る世界は、自分でも不思議なほど新鮮で、飽きがない。
彼の目を通して見る世界は、自分でも不思議なほど新鮮で、飽きがない。
何か気の利いた感想を述べるでもなく、じっと見入って、時折ほうと息を飲む。
本当に、ただそれだけの時間だけど。
校庭のドッジボールの輪に混ざったり、教室でひとり塾の課題を進めるよりも、ずっと心地良いと感じた。
校庭のドッジボールの輪に混ざったり、教室でひとり塾の課題を進めるよりも、ずっと心地良いと感じた。
そうして昼休みの30分は、あっという間に過ぎる。
移動時間も考えれば、実際はもっと短かったのだろう。
移動時間も考えれば、実際はもっと短かったのだろう。
帰る準備をしようと、画材を片付ける彼に、私は声をかけた。
名残惜しさに、手を伸ばす。
名残惜しさに、手を伸ばす。
「……あの」
こちらに翻る視線。
また少し言葉に詰まったけれど、今度は助け舟を出されずに済んだ。
また少し言葉に詰まったけれど、今度は助け舟を出されずに済んだ。
「えっと……明日も、ここに来る?」
「来るよ。これが完成するまでは」
「その……私も、来てもいい……かな?」
「ん、いいけど」
キリタくんの方は顔色一つ変えないまま、淡々と返事をして、さっさと教室の方へ戻っていった。私の方はと言えば、きっとひどい表情になっていたと思う。
[ 3 ]
「……結局、悪いことをやりたいんだよな」
ある日。ぽつりと、キリタくんがそう言った。
私たちの間に流れる時間の、大半はただの沈黙だったけれど────たまにこうして思いついたように、彼の方から話を振ってくる事があった。私は彼とのそういう会話が好きだったが、苦手でもあった。
彼との会話を弾ませるのは難しい。私自身、彼よりはいくらか社交的である自信があったけれど、喋り上手な方ではない。
「悪いことって?」
「ちっぽけで、誰にも迷惑をかけないような、悪い事をさ」
鉛筆を置いて腕を屈伸しながら、彼はそう言った。
その様子が、家にいる時のパパの仕草にどこか似ているようで、少し可笑しくなった。
その様子が、家にいる時のパパの仕草にどこか似ているようで、少し可笑しくなった。
「ただ絵を描くだけなら、土日や放課後にでもやればいい。時間も、怒られる心配も、気にせずやれる」
「それは……そうかも」
「そうなんだよ。わざわざ校則を破って、昼休みに抜け出す必要はないんだよ」
「休み時間の教室がうるさいからかな、って思ってた」
「あー……それもあるけど」
彼は頭を掻きながら、何かに迷うように空を見上げた。
私も、つられて首を上げた。きのう大雪の降った一月の空は、綺麗に晴れ渡っていた。
私も、つられて首を上げた。きのう大雪の降った一月の空は、綺麗に晴れ渡っていた。
「単純に、こっそり学校を抜け出すのが楽しいんだって。……君も、そうじゃないの?」
同意を求められて、びくりと肩が震える。
「……私は」
そうだけど、そうじゃない。薄々と感じていたものが、はっきりと像を結んだ。
私の中のこれは、もっと単純な話だ。
私の中のこれは、もっと単純な話だ。
キリタくんと一緒にいたい。
そう思っているのでなければ、今の私自身に説明がつけられない。
そう思っているのでなければ、今の私自身に説明がつけられない。
そこまで考えて、恥ずかしくなって、ぐっと口を噤んだ。
冷たい潮風が、頰によく沁みる。
冷たい潮風が、頰によく沁みる。
きっと、言いたい事は決まっている。自分の望みは分かっている。
悩ましいのは、どこまで伝えるかだ。
悩ましいのは、どこまで伝えるかだ。
「君の絵を見るのが、好きだから」
そして、それが精一杯だった。
彼は少し目を丸くした様子で、それから照れ臭そうに笑った。
私も何だか恥ずかしくなって、そのまま俯いてしまった。
私も何だか恥ずかしくなって、そのまま俯いてしまった。
私がキリタくんの笑顔を見たのは、それが最初で最後だ。
[ 4 ]
ママは私を叱る時、感情を露に怒鳴るような事はしない人だった。
いま思えば、努めてそのようにしていたのだろう。
いま思えば、努めてそのようにしていたのだろう。
「ルイちゃん。ちょっと、お話しがあるのだけど」
代わりにこうして、わざとらしいくらいに抑揚のない声で呼びつけるのが、お説教の合図なのだ。
だからその日も、私は心臓の縮む思いでリビングへ向かった。
叱られる心当たりはある。丁度そのころ、塾のテストの成績が落ちてきていたから。
叱られる心当たりはある。丁度そのころ、塾のテストの成績が落ちてきていたから。
5年生も末期になって、塾の先生もテストの順番に口うるさくなって来る頃だった。
同じコースの子達も、どこかピリピリし始めていて、パパやママも、私自身も、少なからずその影響を受けていたと思う。
同じコースの子達も、どこかピリピリし始めていて、パパやママも、私自身も、少なからずその影響を受けていたと思う。
もっとも、その心当たりは全く、外れていた訳だけれど。
「……引っ越し?」
「そうなの、パパの転勤でね。ルイちゃんの学校も、転校してもらう事になると思うわ」
引っ越し。転校。
全く予想していなかった言葉に、しばらく現実感がなかった。
全く予想していなかった言葉に、しばらく現実感がなかった。
数秒、ママの真剣な目を見ていてようやく、”それ”がすぐそこにある未来なのだと分かった。
違う学校に移る事になる。私が。
「転校……」
「もうすぐ6年生って時に、悪いと思うし……貴女がどうしても嫌だったら、別の方法を考えてみるけれど」
……「どうしても嫌だ」。
そうやって頑なに言い張れるだけの何かが、私にあるだろうか。
そうやって頑なに言い張れるだけの何かが、私にあるだろうか。
心の中で指折り、数えていく。
クラスの友達のこと、先生のこと、近所で仲の良いお姉さんのこと────それから、キリタくんのこと。
クラスの友達のこと、先生のこと、近所で仲の良いお姉さんのこと────それから、キリタくんのこと。
どれも多分、足りない。大人に「どうしても仕方のないこと」と思ってもらうには。
嫌かどうかで言えば、嫌なのだ。だけど、それ以上の言葉が出てこない。
嫌かどうかで言えば、嫌なのだ。だけど、それ以上の言葉が出てこない。
そうしている間にも、ママは話を続けていく。
「パパの知り合いの伝手でね、いい物件が見つかったのよ」
「貴女も、今みたいに3駅も乗り継いで学校に通う必要なくなるわ」
「今よりも勉強に集中できるんじゃないかと思うの」
「ああ」とか「うん」とか、適当な相槌を打ちながら、私の心は諦めの方向に落ちていった。一言ごとに、ママの言葉の方が、どうしようもなく正しいのだと感じられた。
パパの仕事は私達の生活を支えているし、私の成績が悪ければ将来を左右する。
そこに、私一人のつまらない感情を秤にかけるなんて、してはいけないのだろうと。そう思った。
そこに、私一人のつまらない感情を秤にかけるなんて、してはいけないのだろうと。そう思った。
「ううん、気にしないよ」と、心にもない事を口にする。
母の表情は晴れやかになった。これでいいのだ、と自分に言い聞かせた。
母の表情は晴れやかになった。これでいいのだ、と自分に言い聞かせた。
「ルイちゃんも、お勉強頑張ってね。応援してるから」
黒磐ルイは良い子だった。
与えられたものに従順に、自分を押し殺す事ができた。
与えられたものに従順に、自分を押し殺す事ができた。
[ 5 ]
半年ほど続いた奇妙な習慣の終わりは、まあ呆気なかった。
始まりからして、別にドラマチックな出来事があった訳ではないし、往々にしてそんなものなのだろう。
私ひとりの胸の内では、重みのある出来事であったのだとしても。
この世界にとって、あるいはキリタくんにとっては、多分そうではなかったのだ。
この世界にとって、あるいはキリタくんにとっては、多分そうではなかったのだ。
私が転校するという事情を話すと、彼はしばらく沈黙した後に「そっか」と呟いた。
それからまた少し沈黙して、「大変なんだな」と付け足した。
それからまた少し沈黙して、「大変なんだな」と付け足した。
ああ、十分だ。彼が他に何を言えただろうか。
同情してくれるだけ、ありがたいと思うべきだ。
同情してくれるだけ、ありがたいと思うべきだ。
それから最後に私は、「また会おうね」と口にした。
彼は了承して、それは形ばかりの約束になった。
彼は了承して、それは形ばかりの約束になった。
こんなものはただの定型句だ。そういう儀式なのだ。
そんな事は、よく分かっていた。
そんな事は、よく分かっていた。
前にも、九州へ転校していったアカネちゃんとのお別れ会で、同じ言葉を口にした事がある。あの時の彼女はくしゃくしゃの顔で何度も頷いていたけれど、それだけだった。「きっともう会えない」事を認めたくない人間が、そういう儀式をやる。
だから、約束が果たされなかった事を恨む気持ちなどない。
だって、当然の事なのだ。
言葉にしなかった望みが叶う事はない。
言葉にしなかった望みが叶う事はない。
それから2年が経って。
私は、別に行きたい訳でもない、地方の名門私立中学に入った。
キリタくんは、地元の公立中に進学して、私の知らない娘と付き合うようになった。
私は、別に行きたい訳でもない、地方の名門私立中学に入った。
キリタくんは、地元の公立中に進学して、私の知らない娘と付き合うようになった。
全部、なるべくしてなった事だ。
言葉にしなかった望みが叶う事はない。
願いは吐かなければ報われない。
願いは吐かなければ報われない。
だから、私は良い子である事をやめた。不良ですら少し足りない。
悪党になろう。自分の気持ちに背く事のない、悪党に。
[ 6 ]
「うおおー! 強盗だぞ! 金を出せ!」
その声が響き渡ったのは、およそ5分前のこと。
日曜日、白昼のコンビニ。覆面の男が二人組。いかにもな強盗ルック。
日曜日、白昼のコンビニ。覆面の男が二人組。いかにもな強盗ルック。
彼らは見ての通り愚かで、それはもう沢山の間違いを犯した。
よりによって一番店が混んでいる時間帯に強盗に入ってしまったとか、事前の下見としてこの店を訪れた時と同じ靴を履いて来てしまったとか、そもそも強盗って成功しても大して儲からない割に罪が重いとか、単に人としての道を間違えたという以上に、まあ色々なミスをやった。
そうして、手近な客を人質に取ろうとして、その人選すらも間違えた。
女だから弱そうとか、黒いドレスはよく目立ったとか、たぶん理由としてはそれくらいだ。
女だから弱そうとか、黒いドレスはよく目立ったとか、たぶん理由としてはそれくらいだ。
つまりは、黒磐ルイであった。
「……この近くにさぁ」
「え?」
「花鳥園があるのは知ってるかな? 割と有名な行楽スポットなんだけど」
「はあ、そういえば見かけた気がするな……入った事はないけど……」
胸先にナイフを突きつけられたまま、急に近隣の観光地情報について話し始めた少女に、男は面食らっていた。しかしまあ、泣き叫んで暴れられるよりはマシだろうとも思った。
カウンターの向こう側を見る。相方は店員にレジの鍵を開けさせている所だ。まだ少し時間がかかる。
カウンターの向こう側を見る。相方は店員にレジの鍵を開けさせている所だ。まだ少し時間がかかる。
「出口がここから歩いて2分の所なんだ。あそこから出てきた人達は、大体このコンビニに寄っていくんだよね」
「へええ、そうなのか」
男はアホなので、やはり下調べなどちゃんとしていなかった。素直に感心してしまう。
「今、あの花鳥園にねぇ、両想いの幸せなカップルがいるんだよ」
「……? カップル?」
「射出 」
男は、どこか間の抜けた声を聞いた。
気付けば、今しも人質の胸先に付きつけていたはずのナイフが、いつの間にか手元からすっぽ抜けて────天井に突き刺さっている。
「え」
「そう、カップルだよ」
それを見上げた時には、既に夜色のドレスが翻っていた。
「私の片想い相手と……私の友達の友達の女の……幸せなカップルがなぁ〜〜〜!」
怨嗟と共に魔人的膂力から放たれた後ろ蹴りが、したたかに男の顎を打ち、意識を刈り取った。
ずしゃりと音を立てて、覆面男の体が通路に倒れ込む。
残る一人は、ちょうどレジの中身を袋に詰め込んでいた所だった。両手が塞がり、注意は他所を向いていた。
その無防備さを見越しての、このタイミング。
その無防備さを見越しての、このタイミング。
「オイ、何やって……!」
「射出 !」
状況に気付いてそちらを振り向いたところの視界を、真紅の激痛が襲った。
目に入れるとちょっとヤバい感じになる薬を詰め込んだ催涙薬莢。
それが正確に男の眼前で炸裂し、知覚を奪う。
目に入れるとちょっとヤバい感じになる薬を詰め込んだ催涙薬莢。
それが正確に男の眼前で炸裂し、知覚を奪う。
「射出 !」
左手の銃口は真下へ。持ち前のジャンプ力と、下方へ空気弾を撃ち込んだ反動を併せての跳躍移動。カウンター台を踏み越えて、一瞬の内に距離を詰めた。
視界を失ったまま、間近に人の気配を感じ取り、男は息を呑んで後ずさった。
視界を失ったまま、間近に人の気配を感じ取り、男は息を呑んで後ずさった。
「ま、待って……」
「待たない!」
「違う、降参だ! 降参するから……!」
「聞かない!」
どうしても 一発はぶっ飛ばしておきたい。そういう気分だった。
そう思ったなら、そうする。 黒磐ルイは我慢しない。悪党だから。
そう思ったなら、そうする。 黒磐ルイは我慢しない。悪党だから。
「くそっ……多分そういうとこだぞ! あんたが好きな男にフられたの!」
男の方は話が通じないと見るや、一か八かの精神攻撃に打って出た。
しかし少女は鼻で笑ってみせる。
しかし少女は鼻で笑ってみせる。
「いーや、全然的外れ! 違うからね!」
「そもそもあたし、フられてないから! 付き合ってもないし、告白だってしてない!!」
「……そうだよ! 不戦敗なんだよ!!!」
自分で言っていて、ちょっと胸が痛くなった。
「じゃあ、なんだ……あれなのか、あんた」
「別に告白した訳でもない片想い相手の、よく知らない女とのデートの様子を伺うためだけに、わざわざここに来てたのか!?」
「別に告白した訳でもない片想い相手の、よく知らない女とのデートの様子を伺うためだけに、わざわざここに来てたんだよ!!!!」
精神の乱調により、四連続で撃ち漏らす。後ろに積んであった段ボールの山が音を立てて崩れた。最後の5発目の弾丸が鳩尾に突き刺さり、男は失神した。
やりたいようにやる。
それは、自分の気持ちを捨てられないという事だ。
それは、自分の気持ちを捨てられないという事だ。
きっぱりと諦めて、別の恋に向き合う事ができていたなら、きっと楽だったに違いない。
もう3年が経ったというのに、後悔は消えない。未練は燻ったまま。
こんな場所をうろついて、八つ当たりめいた事をしている。
もう3年が経ったというのに、後悔は消えない。未練は燻ったまま。
こんな場所をうろついて、八つ当たりめいた事をしている。
彼の幸福を邪魔したくはない。
彼に嫌われたくはないし、二人はあのまま幸せになるべきだと思う。
彼に嫌われたくはないし、二人はあのまま幸せになるべきだと思う。
ただ、もしもあの時に戻る事ができたなら。
良い子だった頃の私の亡霊を、消し飛ばしてやりたいのだと。
そう願っている。
良い子だった頃の私の亡霊を、消し飛ばしてやりたいのだと。
そう願っている。