物心がついたとき、私は強運なのだと気が付いた。
くじを引けば絶対に当たりが引けたし、懸賞に応募すれば必ず当選した。
私を轢きそうになったトラックは目の前で止まった。
テストは適当でも全部正解になった。
くじを引けば絶対に当たりが引けたし、懸賞に応募すれば必ず当選した。
私を轢きそうになったトラックは目の前で止まった。
テストは適当でも全部正解になった。
最初はそれが楽しかった。
けれど、何をしてもうまくいくのが段々退屈になって。
もっと私をハラハラさせる楽しい事はないか。
私を興奮させる刺激的な出来事はないか。
それが、どこかにきっとあると信じて、私は探し求めることにした。
けれど、何をしてもうまくいくのが段々退屈になって。
もっと私をハラハラさせる楽しい事はないか。
私を興奮させる刺激的な出来事はないか。
それが、どこかにきっとあると信じて、私は探し求めることにした。
◆◆◆◆
カチッ カチッ カチッ カチッ カチッ。
人気のない公園に拳銃の引き金を引く音が響く。
「うふふふ、今日も私は絶好調ですね」
拳銃をこめかみに突き付けながらブランコに座る一人の女性。
ロシアンルーレット。特に誰かに強要されたわけではない。
彼女―――杜若四葉が自発的に行っている日課の運試し。
彼女―――杜若四葉が自発的に行っている日課の運試し。
「まあ、私は幸運なので当然ですけどね」
けれど、何度やっても彼女は死なないと確信している。
四葉の『この世に絶対なんて存在しない 』は確率を操る能力だ。
彼女の前ではあらゆる事象は平等に起こりうる。
そして、彼女は誰よりも運に恵まれた人間なのだから、彼女に都合の良い出来事を引き当てることができるのだ。
彼女の前ではあらゆる事象は平等に起こりうる。
そして、彼女は誰よりも運に恵まれた人間なのだから、彼女に都合の良い出来事を引き当てることができるのだ。
「さて、今日は何をしましょうか」
拳銃をポケットにしまい、ブランコを漕ぎながら四葉は考えた。
四葉は常に刺激を求めている。楽しいことを探している。
だから、公園の目の前の道路で黒いハイエースが女子高生らしき人物を車中に無理やり押し込んでいるのを見た時、良い標的が見つかったと四葉は笑みを浮かべたのだ。
四葉は常に刺激を求めている。楽しいことを探している。
だから、公園の目の前の道路で黒いハイエースが女子高生らしき人物を車中に無理やり押し込んでいるのを見た時、良い標的が見つかったと四葉は笑みを浮かべたのだ。
「ええ、退屈しのぎにはなりそうですね」
ハイエースが走り去っていく。
無理に追いかける必要はない。どうせ証拠が残っている。
無理に追いかける必要はない。どうせ証拠が残っている。
「ええ、私は幸運ですから、手がかり探すのも朝飯前というわけです。」
四葉はブランコから降りると、ハイエースが止まった周囲を調べに向かった。
すぐにバッジが見つかった。書かれているのは広域指定暴力団『梁居組』の三次団体『舞須田会』の代紋だ。
犯人の一人が落としたものに違いない。
犯人の一人が落としたものに違いない。
◆◆◆◆
舞須田会事務所。
室内ではヤクザたちが談笑していた。
部屋に置かれた椅子には猿轡と両手両足を縄で縛られた少女が座らされている。
四葉が目撃した誘拐された少女だ。
名前を木戸内風優香 といい、衆議院議員の一人娘である。
四葉が目撃した誘拐された少女だ。
名前を
「いいか。てめえの親父が余計なことをしなきゃ、こっちもこんなことはせずに済んだんだ。恨むんならてめえの親父を恨むんだな」
ひときわ目立つ、大柄な男が風優香に話しかけた。
異様なのはその男が一糸纏わぬ裸体であったことだ。
異様なのはその男が一糸纏わぬ裸体であったことだ。
全身毛むくじゃらで屈強な全裸の大男。
彼こそが舞須田会組長 全裸王 羽田勘助である。
彼こそが舞須田会
「しかし親父、こいつの親父が警察にタレこみませんかね」
「親父じゃねえ。全裸王 と呼べ」
「へえ、全裸王 」
「まあ、サツに垂れ込んだときは、その時の代償はこいつで支払ってもらうだけだ。これだけ器量の良い女なら高くで売れるだろ。
「てめえらで味見したって言い」
「さすが、我らが親父、全裸王 !」「全裸王 !」
「親父じゃねえ。
「へえ、
「まあ、サツに垂れ込んだときは、その時の代償はこいつで支払ってもらうだけだ。これだけ器量の良い女なら高くで売れるだろ。
「てめえらで味見したって言い」
「さすが、我らが親父、
風優香が涙を眼に浮かベながら、全裸王 を睨んだ。
「生意気な女は嫌いじゃねえ。まあ、無事に帰りたかったら、てめえの親父が賢明なことを祈るんだな」
「ハッハッハッ」
「ハッハッハッ」
ヤクザたちが笑う。
―――その時だった。
―――その時だった。
「ここが舞須田会の事務所ですか」
突然、女の声が聞こえた。
攫ってきた女の声?いや違う。猿轡はつけられたままだ。
攫ってきた女の声?いや違う。猿轡はつけられたままだ。
どこからか、冷たい風が吹いた。
いつの間にかドアが開いている。その前には奇妙な女が立っていた。
肩まで伸ばした赤いメッシュが入った黒い髪。
白いワンピースに薄緑のコートを身に着けている女性。
宝石のような美しい瞳は整った眉は魅力的とも言えなくもない。
いつの間にかドアが開いている。その前には奇妙な女が立っていた。
肩まで伸ばした赤いメッシュが入った黒い髪。
白いワンピースに薄緑のコートを身に着けている女性。
宝石のような美しい瞳は整った眉は魅力的とも言えなくもない。
「なんだぁ?てめえは?」
(どこかの組のヒットマンか?それともこいつの親父が?)
先ほどまで談笑していた強面の男たちが一斉に四葉を取り囲んだ。
その手には拳銃が握られている。
だが、四葉にまったく動揺する様子はない。
その手には拳銃が握られている。
だが、四葉にまったく動揺する様子はない。
「何者かと言われますと、うーんそうですね」
少し首を傾げた様子を見せた後四葉がこういった。
「偶然、目撃した誘拐犯からいたいけな少女を助けに来た気まぐれな正義の味方、なんていかがでしょう?」
「ナメてんじゃねえぞこのアマァ!!」
「ナメてんじゃねえぞこのアマァ!!」
サングラスの男が拳銃の引き金を引いた。だが、
「ぐぎゃああああ」
男の拳銃が突如爆発した。
「なっ」
「ふざけんじゃねぞオラー!!」
「死ねやコラ!!!」
「ふざけんじゃねぞオラー!!」
「死ねやコラ!!!」
ヤクザたちが引き金に手をかける。だが、
「うぎゃあああああああああああああああ」
「あぼあああああぼっぼぐげあああ」
「あぼあああああぼっぼぐげあああ」
次から次へとヤクザたちの拳銃が爆発していく。
全裸王 や風優香が唖然としてその光景を見ていた。
「てめえ魔人か!!こいつらに何をしやがった!!!!」
「私が魔人かと問われれば、その通りですねと回答しましょう」
「私が魔人かと問われれば、その通りですねと回答しましょう」
四葉があっさりと認めた。
「ですが、私は何もしていませんよ」
事実。彼女は何もしていない。ただ、彼らの拳銃が勝手に腔発しただけだ。
「ただ、幸運なだけです」
「ふざけんじゃねええ!!こんな大量の拳銃が全部ぶっ壊れるわけねえだろぉぉがよ!!!」
「ふざけんじゃねええ!!こんな大量の拳銃が全部ぶっ壊れるわけねえだろぉぉがよ!!!」
何人たりとも回避は望めない確殺の攻撃。
だが、
四葉が特に何の問題もなかったかのように 回避した。
「なっ!?」
「この世に絶対なんて存在しない 」の前ではあらゆる事象は起こりうる。
だから、どれほど不可能な状況 であっても彼女は回避することできる。
なぜなら彼女は幸運だから。
だから、
なぜなら彼女は幸運だから。
「それが貴方の切り札ですか?つまらないですね」
期待外れだ。
もっと楽しませてくれるかと思ったのに。
もっと楽しませてくれるかと思ったのに。
「ああ、そういえば、先ほど私が何かしたかと言いましたよね。何かするというのはこういうことをいうんですよ」
四葉がコートの中から大量の爆弾を取り出した。
「なっ正気か!?こんなところで使ったらお前もこいつ巻き込まれて死ぬぞ!!」
「正気ですよ。だって、私もその方も死にませんから」
「正気ですよ。だって、私もその方も死にませんから」
そして、四葉は爆弾を起爆した。
◆◆◆◆
室内にいた全ての男たちは爆破に巻き込まれて死んだ。
窓ガラスは割れ、室内にあった調度品はすべて無惨なものだった。
だが、四葉も風優香も幸運にも 無傷のままだった。
窓ガラスは割れ、室内にあった調度品はすべて無惨なものだった。
だが、四葉も風優香も
「さて」
四葉が震える風優香の縄と猿轡を外した。
「大丈夫でしたか?」
「は、はい。あ、あ、あ、ありがとうございます」
「は、はい。あ、あ、あ、ありがとうございます」
感謝の言葉を告げた風優香の四葉を見る目は怯えていた。
無理もない。四葉が爆弾を取り出したときは本気で死ぬかと思ったのだから。
無理もない。四葉が爆弾を取り出したときは本気で死ぬかと思ったのだから。
「でも、いくらなんでも滅茶苦茶すぎませんか?!もっと穏当に解決できなかったんですか?」
最初に四葉の姿を見た時は助かるのかと思い、彼女の登場を喜んだ。
しかし、余りも傍若無人な四葉の行動を見ていると感謝よりも恐怖や困惑の方が上回ってしまう。
しかし、余りも傍若無人な四葉の行動を見ていると感謝よりも恐怖や困惑の方が上回ってしまう。
「あれが一番早そうでしたし」
「死んだらどうするんですか!!?」
「死にませんよ。私は幸運ですから。」
「私がですよ!?」
「だから、貴女も死にませんよ。私は幸運だから・」
「死んだらどうするんですか!!?」
「死にませんよ。私は幸運ですから。」
「私がですよ!?」
「だから、貴女も死にませんよ。私は幸運だから・」
四葉は自分の幸運を信じている。
幸運だから、彼女は死なない。
幸運だから、人質は死なない。
自分だけが無事で彼女にとって助けたかった誰かが死ぬようなら幸運だとは言えない。
だから、人質も死なない。
だから躊躇なく何でもできる。
魔人の力が「自分の妄想を他人に強制する力」であることを思えば、
幸運だから、彼女は死なない。
幸運だから、人質は死なない。
自分だけが無事で彼女にとって助けたかった誰かが死ぬようなら幸運だとは言えない。
だから、人質も死なない。
だから躊躇なく何でもできる。
魔人の力が「自分の妄想を他人に強制する力」であることを思えば、
「それに、死んだら仕方ないじゃないですか?運がなかっただけですよ」
四葉がさわやかに笑う。
風優香は恐ろしい人間に関わってしまったと思った。
風優香は恐ろしい人間に関わってしまったと思った。
その時、どこからともなく一枚の紙きれが飛んできた。
「これは?」
四葉が紙きれを拾い上げる。謎の主催者H・リーが主催する大会開催を告げるチラシだった。
『大会』予選枠の参加者を募集するために超有能美人秘書である栞ちゃんが刷ったものだ。
『大会』予選枠の参加者を募集するために超有能美人秘書である栞ちゃんが刷ったものだ。
「ああ、最近話題になってるやつですね。何でも試合の勝者は何でも過去をかなえてもらえるんだとか」
「へえ、そうなんですね」
「推薦枠で何人かは決まっていて、絶対面白くなると思って、面白いやつらに声をかけたと主催者の方は言ってるらしいですよ」
「絶対面白くなるですか。それはとても興味が引かれますね」
「へえ、そうなんですね」
「推薦枠で何人かは決まっていて、絶対面白くなると思って、面白いやつらに声をかけたと主催者の方は言ってるらしいですよ」
「絶対面白くなるですか。それはとても興味が引かれますね」
四葉のきらきらと輝き始める。
「貴方は詳しそうですし、私に大会について色々教えてくれますか?」
「え、ええ、いいですけど」
「え、ええ、いいですけど」
もうダメといっても巻き込まれそうな気がする。
本人がいうには幸運らしいし。
風優香は余計なことを言ってしまったと後悔し始める。
本人がいうには幸運らしいし。
風優香は余計なことを言ってしまったと後悔し始める。
「私は杜若四葉。貴女は?」
「木戸内……風優香……です」
「木戸内……風優香……です」
これが杜若四葉が『大会』に参加するまでの経緯だった。