誰かが君を…… ◆NIKUcB1AGw
いったい、どれほどの間寝ていたのだろうか。
森の中で、ジーコサッカーは意識を覚醒させた。
「俺は……」
ぼやける意識を無理に引き戻し、ジーコサッカーは自分が置かれた状況を整理する。
自分は餓狼伝説との戦いに勝利し、その後疲労とダメージで意識を失ったはずだ。
まだ生きていることを考えると、幸い無防備なところを他の参加者に襲われることはなかったようだ。
あるいは、半身であるSM調教師瞳が何かをした結果かも知れないが。
自分は餓狼伝説との戦いに勝利し、その後疲労とダメージで意識を失ったはずだ。
まだ生きていることを考えると、幸い無防備なところを他の参加者に襲われることはなかったようだ。
あるいは、半身であるSM調教師瞳が何かをした結果かも知れないが。
「ん? これは……」
そこでジーコサッカーは、SM調教師瞳の手に紙切れが握られていることに気づく。
開いてみると、そこには数十人の参加者の名前と三つのエリアが記されていた。
開いてみると、そこには数十人の参加者の名前と三つのエリアが記されていた。
「放送の内容だろうな、これは……。俺の代わりに聞き取ってくれていたということか。
感謝しなければならんな」
感謝しなければならんな」
そう呟きながら、メモに目を通すジーコサッカー。
やがて内容を頭に叩き込むと、彼はゆっくりと体を起こした。
さすがに多少休んだだけでは完全に回復してはいないが、それでもある程度動けるようにはなっている。
おのれの目的を果たすために、ジーコサッカーは再び歩き出した。
やがて内容を頭に叩き込むと、彼はゆっくりと体を起こした。
さすがに多少休んだだけでは完全に回復してはいないが、それでもある程度動けるようにはなっている。
おのれの目的を果たすために、ジーコサッカーは再び歩き出した。
◆ ◆ ◆
ヒーロー戦記は、野球場にいた。
会場を彷徨っていた彼はこの施設を見つけ、入ってすぐの廊下にあった椅子で体を休めていたのだ。
よって彼は、グラウンドの惨劇についてはまだ把握していない。
会場を彷徨っていた彼はこの施設を見つけ、入ってすぐの廊下にあった椅子で体を休めていたのだ。
よって彼は、グラウンドの惨劇についてはまだ把握していない。
「くそっ……!」
ヒーロー戦記は、おのれの無力を呪っていた。
先ほど流れた放送は、30体以上のソフトがすでに命を落としたことを告げていた。
殺し合いは、非常に激しく行われている。
なのに自分は、殺し合いの打破という目的にまったく近づけないままこうしてボロボロになっている。
なんと情けないことか。
先ほど流れた放送は、30体以上のソフトがすでに命を落としたことを告げていた。
殺し合いは、非常に激しく行われている。
なのに自分は、殺し合いの打破という目的にまったく近づけないままこうしてボロボロになっている。
なんと情けないことか。
(だが今は、屈辱に耐えなければ……! 重傷を負ったこの体では、殺し合いに積極的なゲームと戦っても勝つのは困難だ。
せめて体力だけでも回復させないと……)
せめて体力だけでも回復させないと……)
いらだつ気持ちを、なんとか抑えようとするヒーロー戦記。
その時、何者かの足音が彼の耳に入ってきた。
その時、何者かの足音が彼の耳に入ってきた。
(他の参加者が来たか……!)
ヒーロー戦記は、対応に迷う。
戦闘になれば苦戦は免れない今の状態では、他の参加者との接触は避けた方が無難だ。
だが相手が自分と同じように殺し合いをよしとしない参加者であった場合、仲間を作る大きなチャンスとなる。
少し考えてから、ヒーロー戦記は入り口が見える場所に隠れることにした。
これならば、相手の姿を見てから対応を改めて考えることができる。
やがて、足音の主が野球場の中へと入ってきた。
戦闘になれば苦戦は免れない今の状態では、他の参加者との接触は避けた方が無難だ。
だが相手が自分と同じように殺し合いをよしとしない参加者であった場合、仲間を作る大きなチャンスとなる。
少し考えてから、ヒーロー戦記は入り口が見える場所に隠れることにした。
これならば、相手の姿を見てから対応を改めて考えることができる。
やがて、足音の主が野球場の中へと入ってきた。
(あれは……!)
目に入ってきた姿に、ヒーロー戦記は強い衝撃を受けた。
新たに球場にやってきたのは、体が男女半分ずつの姿をしたゲームだった。
だがヒーロー戦記は、その異様な姿に驚いたのではない。
彼の心を揺り動かしたのは、そのゲームが全身に負っていた傷であった。
新たに球場にやってきたのは、体が男女半分ずつの姿をしたゲームだった。
だがヒーロー戦記は、その異様な姿に驚いたのではない。
彼の心を揺り動かしたのは、そのゲームが全身に負っていた傷であった。
「君、大丈夫か!」
考えるより先に、ヒーロー戦記は飛び出してそのゲームに話しかけていた。
彼の持つヒーローの魂が、負傷者を放っておけなかったのだ。
だが、それは彼自身にとって悪手であった。
そのゲーム……ジーコサッカーは、殺し合いに乗っていたのだから。
彼の持つヒーローの魂が、負傷者を放っておけなかったのだ。
だが、それは彼自身にとって悪手であった。
そのゲーム……ジーコサッカーは、殺し合いに乗っていたのだから。
「…………」
ジーコサッカーは、姿を見せたヒーロー戦記に無言で近づく。
そして、無造作に蹴りを放った。
そして、無造作に蹴りを放った。
「っ!」
ヒーロー戦記は、ヒーローとしての優れた反射神経でとっさにそれを回避する。
だが、今のコンディションでは完全に回避することはできない。
ジーコサッカーの足がヒーロー戦記の腕をかすめ、鮮血がまき散らされる。
だが、今のコンディションでは完全に回避することはできない。
ジーコサッカーの足がヒーロー戦記の腕をかすめ、鮮血がまき散らされる。
「ぐっ!」
たまらず苦悶の声をあげるヒーロー戦記。だがそれでもなお、彼のヒーロー魂は消えていなかった。
「落ち着け! 俺は敵じゃない! 君と戦うつもりはないんだ!」
ひょっとしたら相手は錯乱していて、誰彼かまわず攻撃を仕掛けてしまう状態なのかもしれない。
わずかな可能性に賭け、ヒーロー戦記は説得を試みる。
だがジーコサッカーは、まったく耳を貸す様子を見せない。
再び蹴りが繰り出されるが、今度はヒーロー戦記がかろうじて回避する。
わずかな可能性に賭け、ヒーロー戦記は説得を試みる。
だがジーコサッカーは、まったく耳を貸す様子を見せない。
再び蹴りが繰り出されるが、今度はヒーロー戦記がかろうじて回避する。
「くっ、説得は不可能か……! やむを得ないな……変身!」
覚悟を決め、ヒーロー戦記は戦うためにその姿を変える。
今回選択したのは白き戦士・ガンダムだ。
今回選択したのは白き戦士・ガンダムだ。
「このぉっ!」
まず牽制に、バルカン砲を連射するヒーロー戦記。牽制といえど、生身の体に命中すればダメージは大きい。
ジーコサッカーは大きく後ろに跳んで、それを回避した。
ジーコサッカーは大きく後ろに跳んで、それを回避した。
(近づくのは難しいか……。ならば遠距離戦だ)
冷静に戦況を分析したジーコサッカーは、あらかじめいつでも取り出せるようにしておいた餓狼伝説の支給品を手に取る。
格闘家のプライド故に餓狼伝説が使わなかった支給品、それはSFC本体と同じくグレーを基調にしたカラーリングの、大型銃器。
その名を、「スーパースコープ」。
なお現実の周辺機器としてのそれではなく、実際に殺傷力を持つ「ヨッシーのロードハンティング」仕様である。
格闘家のプライド故に餓狼伝説が使わなかった支給品、それはSFC本体と同じくグレーを基調にしたカラーリングの、大型銃器。
その名を、「スーパースコープ」。
なお現実の周辺機器としてのそれではなく、実際に殺傷力を持つ「ヨッシーのロードハンティング」仕様である。
「っ!」
ふいに取り出された新たな武器に、ヒーロー戦記の反応が一瞬遅れる。
そこに襲いかかる、スーパースコープから放たれた光弾。
避けきれないと判断したヒーロー戦記は、シールドを掲げ防御する。
だがそれにより、ヒーロー戦記の視界が狭まる。
その隙を突き、ジーコサッカーが跳んだ。
そこに襲いかかる、スーパースコープから放たれた光弾。
避けきれないと判断したヒーロー戦記は、シールドを掲げ防御する。
だがそれにより、ヒーロー戦記の視界が狭まる。
その隙を突き、ジーコサッカーが跳んだ。
「終わりだ」
オーバーヘッドキックの体勢で、脚が振り下ろされる。
狙いは、ヒーロー戦記の頭部。
だがヒーロー戦記も、必死で直撃を避けようとする。
結果として、ジーコサッカーのキックはヒーロー戦記の肩口を捉えた。
狙いは、ヒーロー戦記の頭部。
だがヒーロー戦記も、必死で直撃を避けようとする。
結果として、ジーコサッカーのキックはヒーロー戦記の肩口を捉えた。
「ぐああああ!!」
急所への命中は防いだとはいえ、ダメージは甚大。
激痛に絶叫するヒーロー戦記は、変身も解けてしまう。
生身の姿に戻ったヒーロー戦記へ、ジーコサッカーが今一度脚を振り下ろす。
だがヒーロー戦記は、すかさず後ろへ飛び退いてそれを回避した。
激痛に絶叫するヒーロー戦記は、変身も解けてしまう。
生身の姿に戻ったヒーロー戦記へ、ジーコサッカーが今一度脚を振り下ろす。
だがヒーロー戦記は、すかさず後ろへ飛び退いてそれを回避した。
「もうろくに動けないものと思っていたが……。しぶといな」
「ヒーローだからな」
「笑わせるな。お前は何も救えない。そんな無力なヒーローがいるものか」
「痛いところを突いてくるなあ……」
「ヒーローだからな」
「笑わせるな。お前は何も救えない。そんな無力なヒーローがいるものか」
「痛いところを突いてくるなあ……」
ヒーロー戦記の口元に、自嘲的な笑みが浮かぶ。だがすぐに、その口は引き締められる。
「だが俺は、ヒーローの名を冠するゲームソフトだ。
たとえかりそめの体でも、刻まれた記憶(メモリー)は紛れもなく本物のヒーローのもの。
ヒーローにふさわしい結果は出せないかもしれない。何一つ守れないかもしれない。
それでも俺は、最後まで正義を守るヒーローとして行動させてもらう」
たとえかりそめの体でも、刻まれた記憶(メモリー)は紛れもなく本物のヒーローのもの。
ヒーローにふさわしい結果は出せないかもしれない。何一つ守れないかもしれない。
それでも俺は、最後まで正義を守るヒーローとして行動させてもらう」
体勢を整え、ヒーロー戦記はポーズを決める。
「変身」
静かなつぶやきと共に、ヒーロー戦記の体が光に包まれる。
そしてその姿は、仮面ライダーブラックへと変わった。
そしてその姿は、仮面ライダーブラックへと変わった。
「何に変身しようと、お前は死ぬ。その未来に変わりはない」
「それはどうかな。絶望の運命を切り開くのも、ヒーローというものだ」
「それはどうかな。絶望の運命を切り開くのも、ヒーローというものだ」
ジーコサッカーの言葉にも、ヒーロー戦記は冷静に返す。
そして彼は、空中へと飛翔した。
門外漢であるジーコサッカーでも、ヒーロー戦記が何をしようとしているのか理解できた。
この期に及んで仮面ライダーが繰り出す攻撃といったら、ひとつしか無い。
そして彼は、空中へと飛翔した。
門外漢であるジーコサッカーでも、ヒーロー戦記が何をしようとしているのか理解できた。
この期に及んで仮面ライダーが繰り出す攻撃といったら、ひとつしか無い。
「ライダー……キック!」
静かに、されど高らかに、ヒーロー戦記はおのれの切り札の名を叫ぶ。
だが、蹴りを得意とするのはジーコサッカーも同じ。
上空へ大きく振り上げる蹴りで、ライダーキックを迎撃する。
二つの蹴りが、激突した。
だが、蹴りを得意とするのはジーコサッカーも同じ。
上空へ大きく振り上げる蹴りで、ライダーキックを迎撃する。
二つの蹴りが、激突した。
(ぐおおおお……!)
脚から全身へと広がる苦痛に、ジーコサッカーはもだえる。
空気に呑まれ真っ向から受けてしまったが、やはりライダーキックの威力は半端ではない。
このまま負けて死ぬのかという弱い思いが、ジーコサッカーの脳裏をよぎる。
空気に呑まれ真っ向から受けてしまったが、やはりライダーキックの威力は半端ではない。
このまま負けて死ぬのかという弱い思いが、ジーコサッカーの脳裏をよぎる。
(諦めては駄目よ、ジーコサッカー)
(SM調教師瞳……!)
(私たちは、こんなところで死ぬわけにはいかない。私もありったけの力を貸すわ。
だから、絶対にあいつに勝ちましょう)
(そうだな……。勝つのは俺たちだ)
(SM調教師瞳……!)
(私たちは、こんなところで死ぬわけにはいかない。私もありったけの力を貸すわ。
だから、絶対にあいつに勝ちましょう)
(そうだな……。勝つのは俺たちだ)
ジーコサッカーの肉体に、よりいっそう力がみなぎる。
その脚は、ライダーキックをはねのけるかに見えた。
だが、ヒーロー戦記もこのままでは終わらなかった。
その脚は、ライダーキックをはねのけるかに見えた。
だが、ヒーロー戦記もこのままでは終わらなかった。
(ヒーロー戦記の名にかけて……。ライダーキックは破らせるものか!)
ヒーロー戦記の脚から、オーラが吹き出す。
お互い一歩も譲らぬ、蹴りのぶつかり合い。
そして、互いの脚が爆ぜた。
お互い一歩も譲らぬ、蹴りのぶつかり合い。
そして、互いの脚が爆ぜた。
◆ ◆ ◆
その場は、まさに血の海と化していた。
片足を失ったヒーロー戦記とジーコサッカーが、その中に沈んでいる。
お互い脚だけではなく、全身の傷が開きさらなる血があふれ出ている。
二人とも、このままでは失血死は免れないだろう。
片足を失ったヒーロー戦記とジーコサッカーが、その中に沈んでいる。
お互い脚だけではなく、全身の傷が開きさらなる血があふれ出ている。
二人とも、このままでは失血死は免れないだろう。
「まだだ……まだ俺は……私は……」
死に向かおうとする体を気力で動かし、ジーコサッカーはスーパースコープを構える。
狙いをヒーロー戦記に定め、引き金を……。
狙いをヒーロー戦記に定め、引き金を……。
その時、不思議なことが起こった。
「なんだ……何が起きている!」
ジーコサッカーの目が、驚愕に見開かれる。
その理由は、ヒーロー戦記のベルトから放たれた神秘的な光だった。
その光を浴びているうちに、ジーコサッカーは自分の中から殺意が急激に薄れていくのを感じていた。
その理由は、ヒーロー戦記のベルトから放たれた神秘的な光だった。
その光を浴びているうちに、ジーコサッカーは自分の中から殺意が急激に薄れていくのを感じていた。
「せめてその憎悪から……君を解放する……」
「やめろ……やめろ……! 俺は解放など望んでいない! 俺は俺は私はぁぁぁぁ!!」
「君の憎悪の理由までは……俺はわからない……。けど……誰からも愛されないゲームなんてない……。
きっと誰か、君のことを愛してくれているプレイヤーがいるはずなんだ……。
だから……!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」
「やめろ……やめろ……! 俺は解放など望んでいない! 俺は俺は私はぁぁぁぁ!!」
「君の憎悪の理由までは……俺はわからない……。けど……誰からも愛されないゲームなんてない……。
きっと誰か、君のことを愛してくれているプレイヤーがいるはずなんだ……。
だから……!」
「やめろぉぉぉぉぉ!」
スーパースコープが床に落ちる。ベルトの光が消える。
二人は穏やかな表情を浮かべたまま、もう動くことはなかった。
二人は穏やかな表情を浮かべたまま、もう動くことはなかった。
【D-5 野球場入り口周辺】
【ヒーロー戦記プロジェクトオリュンポス 死亡】
【ジーコサッカー 死亡】
【ジーコサッカー 死亡】
