輝き
死の舞踏会で自分好みのダンスパートナーに巡り会えた事は幸運以外の何物でもない、筈だった。
先端から取っ手まで見れば、己の身長程もありそうな巨大な鋏を軽々と操る金髪の少年。
目からは狂気が溢れ出し、それでいながら理性をも同居させている。あの日野からだってここまでの狂気は感じられない。
殺人クラブで数々の人間を殺してきた岩下明美も、流石にこれほどの獲物は味わった事がない。
極上の獲物を前に、彼女の胸はまるで恋心を抱いているかのようにときめいていた。
(恋のときめき……うふふ。それも悪くないわね。けど、この年の差は犯罪かしら?)
サイレンが、鳴り響く。共鳴するかのように建物が揺れた。
どこか悲しげな遠吠えにも聞こえるそれは、風情などは欠片も無いものの、上演開始のBGMとしては妙に相応しく思えた。
全てのお膳立ては整えられた。後は、心行くまでダンスを楽しむだけ…………だったのだが。
明美が一歩踏み出そうとした正にその瞬間、舞台は開幕を待たずして暗転を始める。
(な、何なの?!)
明美も、少年も、状況が掴めず周囲に視線を巡らせるが、
彼女達の動揺などお構い無しに、闇は急速に広がり、世界を包み込んでしまった。
唐突に訪れ、そして一向に去ろうとしない暗闇、そして静寂。
目の前に手をかざしても何も見えない。数センチ先の手の動きが把握出来ない。完全なる闇だった。
いや、それは単に目が慣れていないだけの事なのかもしれない。
だが何にしてもこんな状況ではダンスに興じる事など到底不可能だ。
(ちょっと、どういうこと?!)
明美は心の中で怒鳴りかける。
わざわざルーベライズに願ったというのに、これでは折角のダンスが台無しだ。
それともこれがルーベライズより降りかかった不幸だというのか。
理性のある人間に出会えた代償が、ダンスのおあずけを喰らう事か。
そんな事で願いが叶ったと言えるのか――――見当違いの怒りがぐるぐると巡っていた。
それどころではない事には、間も無く気付かされるのだが。
「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ」
廊下に木霊したのは、声変わりもしていない子供特有の甲高いテノール。
あの狂気を孕んだ目で笑う少年の顔が見えるかのようだった。
明美は咄嗟に拳銃を前方に向けるが、笑い声は廊下全体に反響し、位置が掴めない。
銃身は揺れていた。明美が感じているプレッシャーを表しているかのように。
額から汗が流れ落ち、目に入る。慌てて拭うも、今は目が霞んでいるのかどうかも分からない。
「お姉ちゃん。見えないの?」
唐突に問い掛けてきた笑い声。明美は返答に窮した。
「見えないの?」とは――――この暗闇の中でも少年には見えているとでもいうのか。
明美が何らかの答えを出すよりも早く、ズズッと金属が擦り合う音が耳に届き、
ジャギン!
続け様に、あの巨大鋏特有の音が響いた。
廊下の左端だった。鋏から火花が飛び、少年の顔がほんの1コマ、暗闇に浮かび上がった。
目が反射的に少年の姿を追いかけたが、既にその場は暗闇が支配していた。少年の姿は見えない。
背筋にも嫌な汗が広がりYシャツを濡らし出す。
思わずジリっと一歩後退りをした明美に、再び笑い声が問い掛けてきた。
「見えないんだよねえ? おねえちゃん?」
ジャギン! ジャギン! ジャギン!
今度は右端からだった。
鋏を打ち付ける度に火花で浮かび上がる少年の視線は、
彼から見れば闇に溶け込んでいる筈の明美の目を確かに捉えていた。
(こいつ……?!)
明美は確信する。この少年は見えている、と。そして逆に、明美は見えていない事を確信された。
つまりは、ダンスに興じる事が出来ないのは明美一人で、相手は何ら支障を来さず踊り明かせるのだ。明美の息の根が止まるまで。
ルーベライズの不幸とは「おあずけ」などではなかった。この「暗闇」だ。――――思わずそう考えた。
(……ま、まずいわ)
Yシャツはべったりと背中に張り付いていた。
心地よかった緊張感は、内臓を握り潰すかのような圧迫感へと変わっていた。
彼女本来の美貌は、焦燥の余り醜く歪み見る影も無くなっていた。
その表情がお気に召したのか、少年はまたヒャッヒャッヒャッと笑い出す。
「ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ」
笑い声は次第に大きくなってきていた。
近付いてきているのだ。
ゆっくりと。ゆっくりと。反響する笑い声に足音を隠しながら、確実に近付いてきている。
先程までの様に鋏を打ち付けないのは、火花で居場所を悟られない為だろうか。
確かに自分は拳銃を持っているのだから、それは正しい判断かもしれない。
理性のあるパートナー。自分自身の望んだ事だったが、今はその理性に恐怖を覚えていた。
いつの間にか喉が渇ききっていた。唾液すら枯渇したかのように、口の中はカラカラだ。
身体能力だけを見れば、所詮明美はただの高校生。視覚を奪われては戦う術がない。
今手に持っているのは拳銃とメスだが、見えない相手に拳銃を撃っても当たるとも思えない。
メスをやたらめったら振り回しても、あの巨大な鋏はメスの間合い外から悠々とこちらを切り裂く事が出来るだろう。
では逃げるか。それも難しい。暗闇で方向も分からない中での鬼ごっこ。逃げ切れる訳がない。
逃げる側が目隠しをしている目隠し鬼など勝負は決まっている。
明美は頭をフル回転させ様々な策を考えた。
だが、これまで人を死に追いやってきた幾つもの経験を走馬灯のように思い出しても、
どれもこれもこの状況では使えないものばかりだった。
トンッ
明美の左肩に軽く何かが触れる。ビクりとしてつい振り返り、そこに左腕を擦り付けてしまった。
摩擦により走る痛み。しかしその感触で触れた物が壁だと分かった。
後退りを繰り返し、いつの間にか左の壁際まで寄っていたらしい。
(壁…………壁? ……廊下! そうだわ!)
一筋の閃き。
壁の感触を頼りに廊下の造りをイメージすると、明美は右手に持っていた拳銃を前に向けた。
直ぐ様廊下の左側、中央、右側に向かいパン、パン、パンと銃弾を撃ち込んだ。当たればラッキー程度の威嚇射撃だ。
同時に身体を翻し、右手で壁に触れ、壁伝いに走り出した。
要は明かりだ。明かりを確保すれば良いのだ。
この先には自分が降りてきたエレベーターがある。
そのエレベーターには、先程僅かだが確かに明かりが点灯していた。
壁伝いならば見えない廊下でも正確にエレベーターまで辿り着ける。
エレベーターを開けば、そしてその明かりで少年の姿を照らし出せば、自分もまだダンスを踊る事が出来る。
背後から笑い声も足音も聞こえてこなかった。威嚇射撃がたまたま当たったのだろうか。
いや、今はそれを考えるよりもエレベーターが優先だ。
その確認は明かりを確保してからで良い。
右手の触れる壁の感触が変わった。おそらくは扉だ。確かに廊下のこちら側には幾つかの扉があった。
明美は足を止め、逡巡する。もしもここが部屋なら電灯のスイッチは扉のすぐ側にある筈。
しかし、病院の扉は部屋に繋がっているとは限らない。
扉の先がまた廊下である場合も多々あるし、また、部屋であっても電灯が点くとは限らない。
ここは確実に点いていた明かりを求めるべきだ。
足音が聞こえた訳ではないが、立ち止まっていた分だけ距離を詰められた気がする。
そんな疑心暗鬼に駆られ、明美はもう一度右側に向けて銃を撃ち、走り出した。
一瞬、七不思議の無限に続く廊下が脳裏を過ぎったが、そんな恐怖心を無視し、明美はひたすらに走った。
右手が宙を押した。壁の終わり。つまり、曲がり角。ここを曲がればエレベーターだ。
バランスを崩しながらも右を振り向くと、エレベーターの階数表示のランプが目に飛び込んでくる。
距離感が全く掴めないが、ランプは1を示している。最後に使用したのは自分なのだからそれは当然の事。
あの下がエレベーターだ――――明美は両手を前に突き出しながら階数表示の下を目掛けて走り込んだ。
バンッと大きな音を立てて両手が金属の壁にぶつかる。間違いなくこれはエレベーターの扉だ。
笑い声も足音もまだ聞こえない。今の内にスイッチを押さなくては。必ず近くにあるのだ。必ず。必ず――――
「あった!」
明らかに周りとは違う材質の突起物が手に触れると同時に、明美はそれを連打した。
扉はゆっくりと開き、中から薄く漏れた明かりが明美を照らす。笑い声も足音もまだ聞こえない。
「やった…………え?!」
開こうとする扉を尻目に振り返ろうとして、視界に何かが入った気がした。
エレベーターの中に何かが居た気がしたのだ。
気のせいかとも思えたが、どうしても気になり明美は扉に向き直した。
そしてそれは気のせいではなかった。
確かにエレベーターは1階に止まっていた筈。だから誰かが乗り込んでいる隙なんて無かった筈。
しかし、エレベーターの中には顔の膨らんだナースが2体、手前と奥に乗っているではないか。
のっぺらぼうのナース達は、それでも見えているかのような振る舞いで明美に顔を向け、機械的に鉄パイプを振り上げた。
「今更……! あんた達に用なんて無いのっ!」
明美はエレベーターに乗り込みつつ、鉄パイプを掻い潜った。
手前のナースの脇を走り抜け、首筋に正確な斬撃を浴びせる。
奥のナースに鉄パイプを振り被る暇も与えず、顔面に銃撃を浴びせる。2体の命はあっさりと絶たれた。
直後「強烈な悪寒」という形で背後に何者かの気配を感じた。
振り返った明美が見たのは、無遠慮に迫る閉じたままの巨大な鋏。
反応する事も出来ず、明美は鳩尾から貫かれた。
「あっ……ふ…………」
こみ上げる血を、そのまま吐き出した。
激痛は数秒の事。それを越えると痛みがあるのかどうかも分からなくなった。
ただ、嘔吐感だけはこれまで経験した事がない程に激しかった。
体内に入り込んだ異物を追い出そうと、内臓が最後の力を振り絞っているのだろうか。
四肢が脱力する。口からも腹からも止め処なく血が流れ出る。出血に伴い、どんどん体温が下がっていく。
前に倒れ込む身体を支える事も出来ない。いや、支える必要も無かった。
明美は既に、鋏で支えられているのだから。
自分を貫きながら笑っている――――もう笑い声すら明美の耳には届かないが――――少年と目が合った。
そして、明美もまた、微かに微笑んだ。
(…………まだ、よ…………!)
最早指先1つ動かせない状態にも関わらず、明美はまだ諦めていなかった。
そう、まだ切り札がある。
彼女が持つルーべライトのパワーストーン。
願うだけで何でも望みが叶うこの石さえあれば、どんな状況に陥ろうとも巻き返せるのだ。
ある意味無敵のこの石をダンスパートナーに使用するのは野暮だとは明美も思うのだが、
ここまで追い詰められては四の五の言ってはいられない。
薄れ行く意識を勝利への執念で呼び戻し、明美は願った。
(こいつを殺して! 鋏も邪魔! それから私を治すのよ!)
般若の形相を作り、生への渇望を込めて、明美は願った。
しかし――――ルーベライズは輝かない。明美の望む輝きを見せてはくれなかった。
(…………え? 何で…………なん、で……?)
意識は再び薄れ行く。次は呼び戻せない。不思議とその実感があった。
明美はもう一度、いや、何度も願った。首にかかったルーベライズに向けて、必死で願った。
冷静な思考など出来はしない。それでもとにかく、殺して! 殺してよ! こいつを殺しなさい! それだけを願い続けた。
キラリ
(……あ!)
今、確かに輝いた。
ルーベライズに願いが届いた証の輝きが見えた。
これで願いが叶う。これで、助かるのだ。
キラリ
(……あ、れ? ……え?)
しかし、明美の希望は次の瞬間、絶望の底に叩き落とされた。
輝いたのはルーベライズではない。その下。自分の腹から突き出ている鋏だった。
今、少年が鋏を動かした為、それが僅かな明かりを反射して輝いただけの事だったのだ。
ギンッ
駄目押しを与えるかのように一際残酷な輝きを帯びる鋏。
少年はキャキャキャキャと笑いながら、取っ手を勢いよく左右に開いた。
鋏の突き刺さっている傷口がミチミチミチとグロテスクな音を立てる。
明美の身体は何の抵抗も出来ずに押し広げられ、真っ二つに切断――――いや、千切り飛ばされた。
潰れた臓物と砕けた骨を撒き散らしながら、明美はエレベーター内に転がり、崩れ落ちた。
(……まっ……て………………なん、で…………)
身体を半分にされても、明美の意識はまだ微かにだが残されていた。
彼女が最期に考えた事。それは、ルーベライズへの願い事ではない。
ルーベライズが願いを叶えてくれなかった理由だった。
願いさえ叶っていれば、こんな結末にはならなかった筈。
何故願いは成就されなかったのか。何故。何故。何故――――
(……な…………ん………………)
自らの血溜まりに、意識は沈んでいく。もがく事も、もう出来ない。
おそらく明美には、願いが叶わなかった理由にはどれだけ考えても辿り着けないだろう。
ルーベライズには明美も知らない、しかし、考えてみれば当然とも言えるルールが存在したのだ。
それは、ルーベライズは「もたらされた不幸を打ち消す様な願いは受け入れない」というルールだ。
もしも石への願いで石からの不幸を打ち消せたらどうなるか。もしも石からの不幸を克服出来るのならどうなるか。
その時は、この石は不幸を克服した誰かの所有物となり、他の人間の手に渡る事は永遠に無いだろう。
不幸さえなければ、幸運しか訪れないのなら、石を手放すだけの理由は誰にも生まれないのだから。
逆説的には、不幸を打ち消せないからこそ、石は明美の手に渡ってきたという事。
今回明美の願いの代償としてもたらされた不幸とは、明美の判断した「暗闇」ではなく、少年――エドワードそのものだった。
つまり、エドワードから逃れるような願いを石が叶える事は絶対に有り得なかったのだ。
これが、明美の辿り着けなかった答え。願いが届かなかった答えだ。
ジャギン!
エドワードはたった今自分が真っ二つにした少女の首を斬り飛ばした。
首は壁にぶつかりコロコロと転がって、閉まりかけてたエレベーターの扉に挟まった。
ガコンと音を立てて、扉はおっくうそうに再び開き出す。
その様が可笑しかったのだろう。エドワードはキャッキャと笑った。
しばらくの間、血に染め上げられたエレベーター内に愉快そうな声が響き渡っていた。
ひとしきり笑うと、エドワードはお目当ての物に近付いた。
少女の首にかかっていた、絶大な魔力の感じられる石。これさえあれば自分は魔力を取り戻せる筈だ。
わくわくしながら石を拾い上げたエドワードは――――ん? と首を傾げた。
確かに石からは絶大な魔力を感じられる。
しかし、どうやって魔力を引き出せば良いのか。その方法が分からなかった。
石を掲げてみたり、明かりに照らしてみたり、両手で擦ってみたり。
色々試したが、やはり魔力は引き出せない。
やがて諦めたエドワードは石をポケットにしまいこんだ。
鋏を出した分だけ魔力を更に消費してしまったが、焦る事は無いのだ。
魔力の源は自分の手にある。ゆっくり時間をかけて石から魔力を引き出す方法を見つければ良い。
それまでは哀れな少年エドワードを演じていても良いし、
この少女の様な頼りにならなさそうな人間が居たなら「遊んでも」良いだろう。
チラリとエレベーターの置石となっている首を見て、エドワードはそう思った。
(それじゃあ、これからどうしようかな?)
エドワードは思考を切り替える。
この病院では二人の人間と出会った。探せばまだ誰か居るかもしれない。
しかしこれだけ騒いで誰も来ないのだから、居ない可能性も充分ある。
院内を見回ってみようか。それとも病院から出て行こうか。
とりあえずは――――――――廊下から湧いて出てきているナース達と「遊んで」から考えようか。
ジャギン! ジャギン! ジャギン! ジャギン! ジャギン! ジャギン!
【B-6アルケミラ病院一階エレベーター内/一日目夜】
【エドワード(シザーマン)@クロックタワー2】
[状態]:健康。魔力が更に減っている。
[装備]:特になし。
[道具]:『ルーベライズ』のパワーストーン@学校であった怖い話
[思考・状況] 皆殺し。赤い液体の始末。
基本行動方針:人の中に紛れて機会をうかがう。
1:魔力を取り戻す為、石から魔力を引き出したい。
2:病院内を見回るか、それとも出て行こうか。
3:か弱い少年として振る舞い、集団に潜む。
4:相手によっては一緒に「遊ぶ」。
※魔力不足で変身できません。が、鋏は出せるようです。(鋏を出すにも魔力を使用します)
※エドワードは暗闇でも目が見えるようです。魔力によるものか元々の能力なのかは不明です。
※『ルーベライズ』のパワーストーンに絶大な魔力を感じていますが、使い方は分かっていません。
石から魔力を引き出して自分の魔力に出来るのかどうかは不明です。
※病院廊下は明かりが無ければ真っ暗闇です。目が慣れれば少しは見えるかもしれません。
バブルヘッドナースの死体が幾つかあります。
※エレベーター内には明美のバラバラ死体と武器の詰まった学生鞄、バブルヘッドナースの死体×2と鉄パイプ×2があります。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
岩下明美の首がエレベーターの置石となって、どれ程の時間が経過しただろう。
明美の瞳は虚ろに開き、一定感覚で迫る扉を眺めていた。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
扉に押され、壁に挟まれ、扉が開けば扉の溝に沿って転がり、
また押され、挟まり、転がり、押され、挟まり、転がり……。
ルーチンワークに抗う事も出来ず、明美は扉を眺めていた。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
その瞳に宿るのは、ほんの僅かな光。消えかかっている蝋燭の炎よりも、更に小さな光。
明美はまだ生きていた。首だけになりながらも。惨めな置石となりながらも。まだ意識が残されていた。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
一度沈んだ意識が戻った訳ではない。ただ、意識が沈みきる寸前で、明美の想いが願いとしてルーベライズにより叶えられただけだ。
明美自身には石に願ったつもりなど毛頭無かったが、石は願いを受け入れた。「まって」という願いを受け入れた。
その願いを拒否する理由は見受けられなかったから。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
「幸せの石・ルーベライズ」によりもたらされた延命治療。
石は明美が死ぬのを「待って」くれた。
果たしてこれは幸運によるものなのか、不運によるものなのか。
それは明美だけが知っている。明美だけが判断する事なのだろう。
ガコン――――ガコン――――ガコン――――ガコン――――
どちらであろうとも、もう明美の手元にはルーベライズは存在しない。
どちらであろうとも、もう明美の願いではルーベライズは輝きはしない。
暗い意識の中、明美は扉を眺め続けた。
運命は、決まっていた。
【岩下明美@学校であった怖い話 死亡】