堕辰子様に叱られるから







消えていた。




培養漕に入れておいた『堕辰子の首』が、いつの間にか消え去っていた。
今、培養漕の中には何も存在していない。
いわゆる『もぬけの殻』というやつである。

此処に侵入してきた者はいない。
誰一人として、この部屋に置かれている『神』の肉体には近づいてはいない筈だ。
例え誰かがいたとしても、自分は培養漕のすぐ近くで『首』を見張っていたのだから、
そいつが『首』を取り出せるわけがない。

確かに、厳重に見張っていたのだ。
事実、培養漕から目を離した事は数回しかない。
(しかも、その『数回』もニ、三分程度のものである)
にも関わらず、首は何処かに行ってしまった。一瞬の内に、煙の様に消えてしまったのだ。
あの、高尚かつ神聖な、神の肉体が、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い、無い……!

へなへなと、地面に座り込んだ。
彼女の顔からは生気がほとんど抜き取られており、
真っ白な毛髪も合わさり、まるで『齢90~100の老婆』の様である。

もう、絶望しか無かった。
儀式を行なう為に必要不可欠である『堕辰子の首』が、自らの手元を離れてしまったのである。
首が無い以上、秘祭を行なう事は出来ない。

――もう、どうしようもない。

嗚呼――嗚呼!神よ!
何故このような仕打ちを受けなくてはならないのですか。
私はずっと、ずっと罪の許しを請いてきたではありませんか。
何年も、何十年も、何百年も、何千年も……。
それでも、まだ足りないというのですか?
さらに生き続けて、贄を捧げなくてはならないのですか?
それとも、そもそも私には楽園に行く資格が無いのですか?
最初から秘祭が何の意味を持たないものだと分かっていたのなら、
何故それをもっと早く教えて下さらなかったのですか?

嗚呼、なんて……なんて残酷な話なのだ!
せめて、私がそれを知っていたのなら……。
私に『資格』があったのなら……。
『資格』を得る権利さえあったのなら……!


――――『権利』?


ハッとなり、八尾は机に足を進める。
その机の上には、一枚の紙が置かれていた。
手に取って、血の様に赤い文字で紙に書きなぐられた文章に、目を向ける。

八尾の頭をよぎったのは一つの『予感』である。
――もしや、これは私自身が『試されている』のではないか?
――『神』そのものが、私が本当に『首』を手にする資格があるのか、試しているのでは?


――――――――――――――――――――――――

1. 殺 せ
  この街から生きて帰りたいのなら、皆殺して最後の一人になること。

――――――――――――――――――――――――


最初これを見た時は、首を見張るのに夢中でよく考えてはいなかった。
だが、今ならこれの意味する事が理解できる。
周りには目もくれずに、『ルール』を一字一字、ゆっくりと読み進める。
そして、全ての文章に目を通した頃には――八尾の『予感』は『確信』へと変わっていた。


――――――――――――――――――――――――

4. ご 褒 美 
  最後の一人にはご褒美が用意してあります。頑張って殺してください。 

――――――――――――――――――――――――


成程――そういう事だったのか。
全て、理解した。

これは首を手にする為に行なわなくてはならない闘争――すなわち『試練』。
『楽園』への切符を手にする為に必要な、乗り越えなくてはならない『儀式』なのだ。

殺し合い?
いいでしょう。乗ってあげますとも。
『神』がそれをお望みになるというのなら、
それで罪滅ぼしが出来るのなら、何人でも殺して差し上げましょう。

幸い、此処には武器があります。
これさえあれば、人間の息の根を止める事など容易いでしょう。
――『試練』を乗り越える為に、『神』が用意して下さった物に違いありません。


射殺、斬殺、撲殺、絞殺、爆殺、毒殺……。
もちろん、手段は選ぶつもりは毛頭ありません。
笑いながら、泣きながら、怒りながら、罵声を浴びせながら、
殺しましょう!
殺しましょう!
殺しましょう!
殺しましょう!
殺しましょう!
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して
殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し殺して殺して殺して――殺し尽くしましょう!
それが神が私に与えた『試練』なのだ!
神は与えて下さった『試練』――私は必ず乗り越えてみせる!


【D-3/研究所内部培養槽前/一日目夕刻】


【八尾比沙子@SIREN】
[状態]半不死身、健康、ハイ、錯乱
[装備]武器(何なのかは不明)
[道具]ルールのチラシ
[思考・状況]
基本行動方針:神が提示した『殺し合い』という『試練』を乗り越える。
1:とりあえず、研究所から出る。
2:最後の一人となる。
3:出来れば、もう二度と須田恭也には会いたくない。
※須田恭也が呼ばれている事を知りません



大きな変動の時には、必ず立ち向かわなくてはならない『試練』がある。

『試練』には必ず「戦い」がある。
そして、戦いには必ず「流される血」がある。

『試練』は供え物。
立派であるほど良い。この世界にいる「呼ばれし者達」がそれだ。

誰が『楽園』への扉を開くのか。誰が幸せになるのかは、まだ分からない。
だが、一つだけ言える事があるとすれば――――『試練』は、流される血で終わる、という事だ。



■ ◆ ■


さて、首が何処に消えたのかは、それはまだ誰にも分からない。

もしかしたら既に別の時間の『八尾比沙子』に渡されたのかもしれないし、

本当に跡形もなく消えてしまったのかもしれない。

『堕辰子の首』がまだサイレントヒルにまだ存在している可能性も、否定する事は出来ないだろう。

可能性は無限。

それを支配する事は、誰にも許されない。




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最終更新:2012年06月22日 23:33