第18歌 オデュッセウス、イロスと格闘する
内容
オデュッセウスと乞食のイロスが言い争う そこへ乞食のイロスが現れた。意地汚いイロスはオデュッセウスに向かって出て行けと罵った。オデュッセウスは「わしはおぬしに害をなす気はない。屋敷はわれら二人を容れるのに十分な大きさであろう。わしに喧嘩をしかけて怒らせぬがよいぞ」と言った。イロスは怒ってさらに罵り挑発し、二人は激しく言い争った。アンティノオスは二人を見て笑い「面白い。この二人を戦わせてやろうではないか。勝った方にはこの山羊の肉を賞品にくれてやり、今後常にわれらと食事をとらせてやろう」と言った。オデュッセウスは「老いた身で若者と戦うのは辛いことであるが、御一同、どうかイロスにひいきしてわしを打ちのめし、この男を勝たすことのないよう堅く誓ってほしい」と言うと、一同は言われた通りに誓った。
オデュッセウスとイロスの戦い オデュッセウスがぼろを腰に巻いて服を脱ぐと、見事な肉体が現れたので、一同は驚いた。イロスはすっかり怯えてしまったが、下男がかまわず彼を前に曳き出した。アンティノオスはイロスを叱って「このような老人を前に震えていては、お前など生きている値打ちもない。もし負けたらお前を本土のエケトス王の所へ送ってやる。彼は人間を誰彼かまわず不具にしてしまう男だ」と言った。イロスとオデュッセウスの戦いが始まった。オデュッセウスは怪しまれないよう死なない程度に打つのが得策と考え、相手の耳の下あたりを撃って骨を砕いた。イロスは砂の中に倒れ、悶えた。求婚者たちは死ぬほど笑い転げた。オデュッセウスはイロスを引きずり出して中庭の囲いに座らせた。
オデュッセウスはアンピノモスに警告する 求婚者たちは笑いながらオデュッセウスに祝いの言葉をかけた。アンティノオスは賞品の肉を彼に取ってやり、アンピノモスは二個のパンを彼に与え、杯をあげて、彼の健康と幸せを祈った。オデュッセウスは「アンピノモスよ、あなたは思慮分別のある人とお見受けする。だから申し上げたい。求婚者たちは無法なことを企み、他人の財産を浪費し人妻に恥辱を与えているが、その夫たる人はもうすぐそこまで来ておられる。願わくば、かの人が帰ってこられる時に、あなたが彼と相対することのないように祈りたい」と言った。アンピノモスは不吉な予感がして気が重くなった。
ペネロペ求婚者の前に出る このときペネロペが求婚者の前に姿を現す気になった。エウリュノメは「奥様、お肌をお洗いになり、お顔に油をおつけになってください」と言ったが、ペネロペは「そんなことをいわないでおくれ。あの人が船で旅立って以来、神々は華やいだものを全て私からなくしてしまわれたのだから」と言った。女神アテナはペネロペに眠りを注ぎ、寝椅子で眠っている間に美しい化粧を施した。ペネロペは目を覚ますと「なんと安らかな眠りに包まれたことだろう。アルテミスがこのような安らかな死を賜ったら、どんなに良いことだろう……」と言った。ペネロペが広間に降りていくと、求婚者たちはその美しさに見とれ、愛欲のおもいにとらわれた。
ペネロペ求婚者から贈物をせしめる ペネロペはテレマコスに「そなたは立派に育ったが、他国人がこのように無残な仕打ちを受けているのを見過ごすのですか」と言った。テレマコスは「私は成長しましたが、ここの連中がわたしを妨げて、正しい行いをさせないのです。ゼウスよ、求婚者たちが、中庭のイロスのように打ちのめされますように」と言った。エウリュマコスはペネロペの美しさを褒め称えた。ペネロペは「夫が帰らない以上はいずれ誰かに嫁がなければなりません。しかし、求婚者というものはさまざまな贈物をするもので、他人の財産を食いつぶしたりはしないものです」と言った。すると求婚者たちは使いを出して贈物を取りにいかせた。さまざまな贈物がペネロペに届けられた。
オデュッセウス女中を叱りつける 求婚者が歌と踊りに興じているうちに、夜になった。オデュッセウスは女中たちに「明りの世話はわしがやるから、そなたらは妃のそばについているがよい」と言った。女中のメラントがオデュッセウスを罵った。彼女はエウリュマコスと情を通じていた。彼女は「お前は厚かましく、恐れるということを知らないのだね。乞食のイロスに勝って思い上がってるのかね。もっと強い男が現れてお前をたたき出すことがないよう気を付けることだね」と言った。オデュッセウスは「この恥知らずの牝犬め。お前の雑言は若様にお話しするぞ」と怒鳴りつけ、女たちを追い払った。
オデュッセウスはエウリュマコスと口論する エウリュマコスは求婚者の間でオデュッセウスを笑いものにし、「どうだ、わしの所で雇われて働く気はないか。といっても、お前は仕事なんかできまいから、物乞いをして歩く方が良いのだろう」と言った。オデュッセウスは「わしとあなたで仕事の競争をしてみたいものじゃ。同じ道具を持って牧草の刈りくらべをするのだ。あるいは、どこかで戦争が起これば、わしの姿をご覧になれようものを。あなたは無礼で残忍なお人じゃ。もしオデュッセウスが帰ってこられたら、決して逃れられますまい」と言った。エウリュマコスは怒って足台を投げつけたが、下男の右手に当たり、彼は苦痛の叫びをあげて床に倒れた。
一同は帰宅する 求婚者たちはオデュッセウスの無礼に騒ぎ出したが、テレマコスは「そなたらは飲み食いが過ぎて心狂っている。帰って眠られた方がよい」と言った。一同は彼が大胆な口をきくのに唖然とした。アンピノモスは「一同よ、今の言い分は尤もである。他国の男はテレマコスに世話を任せて、われらは帰宅しよう」と言った。その言葉に一同は納得し、献酒した後、各自屋敷へと帰っていった。
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