第一歌 テレマコス、父の消息を求める旅を決意する
内容
神々の集会が開かれ、オデュッセウスの帰国が決まる さて、オデュッセウスは帰郷を望んでいたが、彼を愛する女神カリュプソの洞窟に引き止められていた。ある時、ポセイドンが留守の間に、神々はゼウスの屋敷で集会を開いた。ゼウスは、
といった。アテナは、
「父君よ、オデュッセウスはその男とは違います。望郷の念に苦しむ彼を憐れと思いませぬか」
といった。ゼウスは、
と答えた。アテナはいった。
アテナ、オデュッセウスの屋敷を訪れる アテナはタポス王メンテスの姿に変身し、イタカのオデュッセウスの屋敷を訪れた。屋敷の前では、驕慢な求婚者たちが肉を喰らい遊びに興じていた。テレマコスは門前の客に気づいて、すぐに屋敷の中に案内した。彼は客に食事と酒を与えて、その素性をたずねた。アテナは、
といった。テレマコスはいった。
「トロイアに赴いた父が行方不明になってしまうと、付近の島の領主たちが母の求婚に押し寄せて来て、我らの家財を食いつぶし始めたのです。母は嫌な結婚を拒みもせず、受けもしません。やがて彼らは財産を食い尽し、私を八つ裂きにするでしょう」
アテナ、テレマコスに助言をする アテナは憤然としていった。
アテナはその場を去ったが、テレマコスの胸に勇気を打ち込んだ。
「ペミオスよ、その歌だけはやめておくれ。それを聞くと立派なあの人のことが思い出されて悲しい」
といった。テレマコスは母に向かっていった。
「母上、楽人が人を楽しませているのに何がご不満ですか。聴く者に一番耳新しく響く歌こそ、最も世の喝采を博するのです。母上も気持ちをしっかりと持ち、辛抱してお聞きにならねばなりません。さあ、今は部屋に戻ってください」
妃はあっけにとられた心持ちで自分の部屋に戻ると、しばらく夫を想って泣いていたが、やがて眠りについた。
テレマコス、求婚者に立ち向かう テレマコスは求婚者らに向かって、
「一同よ、明日の朝、私は集会を広場で催し、そなたらにこの屋敷から退散するよう、きっぱりと申し渡すつもりだ。これからは、この屋敷での宴会も禁ずる。従わないなら、この屋敷で死んでもらうことになるだろう」
と言った。全員テレマコスの大胆な発言に肝をつぶした。アンティノオスは、
といった。テレマコスはそれに答えて、
「イタカの領主には、豪族たちの誰かがその地位につくのだろう。しかし、この屋敷はずっと私のものだ」
といった。するとエウリュマコスがいった。
「そなたの財産を奪うような男が出ねばよいがな。ところで、先ほどの客人は何者なのか」
テレマコスは答えた。
テレマコス、就寝する それから求婚者たちは夕暮れまで宴に興じた後、各自家路についた。テレマコスが寝室に向かうと、老女エウリュクレイアが松明で足元を照らした。この老女は数ある侍女の中でも、テレマコスを最もいとおしんでおり、幼い頃の彼を養育したのもこの女だった。テレマコスは寝台に横たわって、夜もすがら、アテナのいった旅のことを思いめぐらしていた。
関連
人名
ムーサ | 詩、文芸の神 |
ヘリオス | 太陽の神 |
ゼウス | 主神。クロノスの子。オデュッセウスを帰国させることを決める |
カリュプソ | アトラスの娘。オデュッセウスを夫にと望んでいる女神 |
ポセイドン | キュクロプスの目を潰したオデュッセウスに腹を立てている |
アガメムノン | トロイア戦争でのギリシャ勢の大将 |
オレステス | アガメムノンの息子。父の仇アイギストスを殺害する |
アイギストス | アガメムノンを謀殺する |
ヘルメス | ゼウスの命により、カリュプソの許へ遣わされる |
アテナ | オデュッセウスに同情的。イタカへ行きテレマコスを励ます |
オデュッセウス | イタカの王。ラエルテスの子。トロイア戦争の英雄。今は放浪の身 |
ポリュペモス | ポセイドンの子。オデュッセウスに盲目にされたキュクロプス |
ポルキュス | トオサの父。「海の翁」と呼ばれる海神 |
トオサ | ニンフ。ポセイドンと交わってポリュペモスを生んだ |
アルゴス | 百の目をもつ怪物。「アルゴス殺し」はヘルメスの枕詞 |
テレマコス | オデュッセウスの息子 |
ペネロペ | オデュッセウスの妻。イカリオスの娘 |
メンテス | タポスの王。アンキアロスの子。アテナが人間に扮するのに姿を借りた |
イロス | メルメロスの子。オデュッセウスが毒を求めて訪れた人物 |
アンティノオス | 求婚者のリーダー格。エウペイテスの子 |
エウリュマコス | 求婚者のリーダー格。エウリュマコスの子 |
ペミオス | 楽人。宴でアカイア勢のトロイアからの帰国の物語を歌う |
エウリュクレイア | 屋敷の侍女。ペイセノルの子オプスの娘。テレマコスを養育した乳母 |
地名
イタケ | オデュッセウスの故郷 |
オギュギア | カリュプソの住む島 |
オリュンポス | 神々の住みか |
トロイア | 西アジアの都市。トロイア戦争の舞台 |
ピュロス | ネストル王の領地 |
スパルタ | メネラオス王の領地 |
タポス | ギリシャ北西の島。メンテス王の領地 |
テメセ | 南イタリアの都市 |
ドゥリキオン | イタカ近辺の島 |
サメ | イタカ近辺の島 |
ザキュントス | イタカ近辺の島 |
エピュレ | オデュッセウスが毒を求めて訪れたイロスのいた町 |