ドストイエフスキイの小説は、人類の残した業績の最も偉大なものの一つであることは云ふまでもないが、この天才が露西亜に生れたといふことを、われわれは特に注意すべきであると思ふ。
混沌たるが故に深いのではなく、深いが故に錯乱を想はせる異常にして素朴な魂の光芒を、われわれ日本人の精神の世界に見出さうとすることは殆ど不可能である。
文学の地図は一民族の領土を限りなく含んでゐるけれど、所詮本質を異にする土壌に咲く花の香りには、誇るべき限界があるとしなければならぬ。
最終更新:2021年04月05日 15:07