――残り5歩
吉田良子を殺し、吉田優子を壊す最後の一手を打つ。
常人の感性を持つ者なら嫌悪して当然な、だが最上にとっては今更過ぎる汚れ仕事。
背後から近付き手刀を一閃、たったそれだけの動作を行えば。
童女の細い首など、魚の小骨よりも簡単にへし折れる。
常人の感性を持つ者なら嫌悪して当然な、だが最上にとっては今更過ぎる汚れ仕事。
背後から近付き手刀を一閃、たったそれだけの動作を行えば。
童女の細い首など、魚の小骨よりも簡単にへし折れる。
――残り4歩
最上から見た吉田姉妹は、どこまでいっても哀れの一言に尽きる存在だ。
魔の者の血筋にありながらも、荒事とは程遠い位置で生きて来た。
自身の協力者たる陰陽師と会わなかったら、そもそも殺し合いに参加しなければ。
悪辣なデスゲームなど知る由もなく、穏やかな日常を謳歌出来たろう。
魔の者の血筋にありながらも、荒事とは程遠い位置で生きて来た。
自身の協力者たる陰陽師と会わなかったら、そもそも殺し合いに参加しなければ。
悪辣なデスゲームなど知る由もなく、穏やかな日常を謳歌出来たろう。
――残り3歩
現実はそうならなかった。
残念なことに悪辣な神は、人とまぞくののんびりとした日々では満足しないらしい。
檀黎斗に目を付けられたその瞬間、まちカドで繰り広げられる賑やかな物語は終わりを告げた。
現実に抗い牙を突き立てんとする一方で、翻弄され続け心身を甚振られる者もいる。
天高くからさも楽し気に見下ろし、これもまたゲームの一要素と臆面もなく言い放つ。
そんなゲームマスターに弄ばれる彼女達は、何度考えても哀れ以外の言葉が出て来ない。
残念なことに悪辣な神は、人とまぞくののんびりとした日々では満足しないらしい。
檀黎斗に目を付けられたその瞬間、まちカドで繰り広げられる賑やかな物語は終わりを告げた。
現実に抗い牙を突き立てんとする一方で、翻弄され続け心身を甚振られる者もいる。
天高くからさも楽し気に見下ろし、これもまたゲームの一要素と臆面もなく言い放つ。
そんなゲームマスターに弄ばれる彼女達は、何度考えても哀れ以外の言葉が出て来ない。
――残り2歩
かといって、最上が罪悪感から殺害を躊躇する展開もまた起こらない。
肉親の為に手を汚し続け、その実全くの逆効果だと思い知った時。
世直しを決意し悪霊に堕ちた瞬間から、止まる選択は消え失せた。
或いは、自身をして目を見張る超能力者の少年との一戦を経て。
人の善性を信じ続けた少年に根負けした、もう少し先の未来の最上なら。
また違ったかもしれないが、所詮は単なるIFの想像でしかない。
肉親の為に手を汚し続け、その実全くの逆効果だと思い知った時。
世直しを決意し悪霊に堕ちた瞬間から、止まる選択は消え失せた。
或いは、自身をして目を見張る超能力者の少年との一戦を経て。
人の善性を信じ続けた少年に根負けした、もう少し先の未来の最上なら。
また違ったかもしれないが、所詮は単なるIFの想像でしかない。
――残り1歩
蹲り嘔吐を繰り返す姉の背を、妹は労わるように擦り続ける。
吐瀉物の臭いへ顔を顰めるでなく、ただ少しでも姉が落ち着くようにと。
献身的な良子は未だ、最上の接近へ気付いていない。
いらぬ手間を掛けぬ為に気配を殺し近付かれたと、理解する余裕も与えられない。
捻じ曲がった思考のままで、自身の死を自覚出来ずに脱落。
小倉しおんや吉田清子に比べると、遥かにマシな最期と言えよう。
吐瀉物の臭いへ顔を顰めるでなく、ただ少しでも姉が落ち着くようにと。
献身的な良子は未だ、最上の接近へ気付いていない。
いらぬ手間を掛けぬ為に気配を殺し近付かれたと、理解する余裕も与えられない。
捻じ曲がった思考のままで、自身の死を自覚出来ずに脱落。
小倉しおんや吉田清子に比べると、遥かにマシな最期と言えよう。
――残り0歩
放送前に一匹、兎を殺しただけだったが。
ここで遂に参加者、それも幼い少女を殺す。
数秒先に訪れる未来へ、何ら深く感じるものもなく。
眼下目掛け、さながらギロチンの如く腕は振り下ろされ、
ここで遂に参加者、それも幼い少女を殺す。
数秒先に訪れる未来へ、何ら深く感じるものもなく。
眼下目掛け、さながらギロチンの如く腕は振り下ろされ、
弾かれたように振り返った良子が刃を振り上げ、殺害はいとも容易く阻止された。
『――――――』
切っ先がデイパックの肩紐を裂き、床へ落ちるまでの僅かな間。
暫し互いの意識は硬直、見開いた瞳が交差。
一切の反応を間に合わせずに仕留める気で襲ったが、まさか防がれるとは予想外。
手心を加えた覚えは微塵もなく、しかし現実に殺害は失敗。
思ってもみなかった結果に、最上にしては珍しく次の動作へ僅かながら遅れが生じる。
暫し互いの意識は硬直、見開いた瞳が交差。
一切の反応を間に合わせずに仕留める気で襲ったが、まさか防がれるとは予想外。
手心を加えた覚えは微塵もなく、しかし現実に殺害は失敗。
思ってもみなかった結果に、最上にしては珍しく次の動作へ僅かながら遅れが生じる。
まぞくの血筋を引いてはいるものの、悪霊たる最上の一撃を防げる程の力は持たない。
但しそれは、本来の吉田良子だったらの話だ。
リンボが施したのはバリアンズ・フォースによる洗脳だけではない。
自身の術式を組み込ませた事による、簡易(インスタント)版の英霊剣豪化。
下総国にて血の河を作り上げた、一切塵殺の屍に匹敵する程ではなくとも。
有する身体機能は常人を凌駕し、アーマードライダーとの戦闘も可能にする程。
最上が手刀を振り下ろす際に発した音と、瞬間的に開放された殺気。
両方を察知し、思考を回すよりも早く肉体が死を跳ね除けるべく反応を見せたのだ。
但しそれは、本来の吉田良子だったらの話だ。
リンボが施したのはバリアンズ・フォースによる洗脳だけではない。
自身の術式を組み込ませた事による、簡易(インスタント)版の英霊剣豪化。
下総国にて血の河を作り上げた、一切塵殺の屍に匹敵する程ではなくとも。
有する身体機能は常人を凌駕し、アーマードライダーとの戦闘も可能にする程。
最上が手刀を振り下ろす際に発した音と、瞬間的に開放された殺気。
両方を察知し、思考を回すよりも早く肉体が死を跳ね除けるべく反応を見せたのだ。
良子を狂わせた原因が、此度は命を救うのに繋がった。
思わぬ場面で協力者の遊びが、自身を躓かせる小石になった。
皮肉な事実に舌を打つのは後回しで、両者の時間が動き出す。
一度防がれたとて結局のところ、最上がやるべきは何も変わっていない。
妹を殺し姉を壊す、果てに『世直し』の為の道具を手に入れるだけ。
思わぬ場面で協力者の遊びが、自身を躓かせる小石になった。
皮肉な事実に舌を打つのは後回しで、両者の時間が動き出す。
一度防がれたとて結局のところ、最上がやるべきは何も変わっていない。
妹を殺し姉を壊す、果てに『世直し』の為の道具を手に入れるだけ。
一方で良子もまた、現実へ理解が追い付く。
何故、最上が自分を殺そうとしたのか。
理由に思い当たらずとも、事実として今確かに殺されかかった。
自分が死ねば次は姉が狙われる、その可能性が存在するのなら。
訪れるだろう結末は否定させてもらう。
何故、最上が自分を殺そうとしたのか。
理由に思い当たらずとも、事実として今確かに殺されかかった。
自分が死ねば次は姉が狙われる、その可能性が存在するのなら。
訪れるだろう結末は否定させてもらう。
刀を振るうよりも、最上が二撃目を放つ方が遥かに速い。
幸運は一度で使い切ったと、良子とて分かっている。
幸運は一度で使い切ったと、良子とて分かっている。
だったら、別の手を使って切り抜ければいい。
「チッ……」
最上の視界を覆い隠すは、大量の紙切れ。
宣伝に用いられるチラシの山が、刃の如き鋭さを発揮し飛来。
骸人形と化した苺香を操り、専用装備による『とっておき』を繰り出したのだ。
霊力を籠めた腕の一振りで防ぐも、良子が動くには十分な隙となる。
最上が落としたデイパックを素早く拾い上げ、次なる行動を瞬時に選択。
宣伝に用いられるチラシの山が、刃の如き鋭さを発揮し飛来。
骸人形と化した苺香を操り、専用装備による『とっておき』を繰り出したのだ。
霊力を籠めた腕の一振りで防ぐも、良子が動くには十分な隙となる。
最上が落としたデイパックを素早く拾い上げ、次なる行動を瞬時に選択。
「お姉、逃げるよ」
「え、あ、わっ……!?」
「え、あ、わっ……!?」
ただ一人、急変する事態について行けないのはシャミ子だ。
放送で母と友人の死を告げられ、衝撃も覚めぬ内に民家内で戦闘が勃発。
処理し切れない現実へ目を白黒させるが、時間は待ってくれない。
妹に手を引かれるまま、外へと飛び出す。
放送で母と友人の死を告げられ、衝撃も覚めぬ内に民家内で戦闘が勃発。
処理し切れない現実へ目を白黒させるが、時間は待ってくれない。
妹に手を引かれるまま、外へと飛び出す。
術式や装備の効果で、共に身体能力が劇的に強化済。
陸上のプロ選手も目じゃない速度を叩き出し、民家からは遠ざかる。
少し遅れて、八房の所持者の意志に従い苺香も並走。
後は一目散に逃げるだけと、言うは易しだが実現は困難だった。
陸上のプロ選手も目じゃない速度を叩き出し、民家からは遠ざかる。
少し遅れて、八房の所持者の意志に従い苺香も並走。
後は一目散に逃げるだけと、言うは易しだが実現は困難だった。
身体機能に優れるのは最上も同様。
ガラス窓を突き破るや、即座に追跡を開始。
簡単に撒けると思ったら大間違いだ、ほんの少しだけ終焉を先延ばしたに過ぎない。
ガラス窓を突き破るや、即座に追跡を開始。
簡単に撒けると思ったら大間違いだ、ほんの少しだけ終焉を先延ばしたに過ぎない。
「あ、あの人追って来て……!」
チラと振り返ったシャミ子に言われるまでもなく、良子も振り切る為の手に出る。
走りながら最上の支給品を確認、現状に最も効果的な物を取り出す。
走りながら最上の支給品を確認、現状に最も効果的な物を取り出す。
「迷宮壁-ラビリンス・ウォール-を召喚!」
宣言と同時に掲げた片手には、一枚のカード。
ゲームで度々使用されたデュエルモンスターズが、此度は姉妹の逃走をアシスト。
良子達と最上を阻むように現れる、巨大な壁。
開けたエリアは一瞬で、石造りの迷路に変貌を遂げた。
ゲームで度々使用されたデュエルモンスターズが、此度は姉妹の逃走をアシスト。
良子達と最上を阻むように現れる、巨大な壁。
開けたエリアは一瞬で、石造りの迷路に変貌を遂げた。
迷宮壁-ラビリンス・ウォール-。
嘗て、武藤遊戯達が決闘王国(デュエル・キングダム)で戦った決闘者。
迷宮兄弟が操るモンスターの一体。
モンスターカードでありながらフィールドカードでもあるという、他にない特殊な性質は殺し合いでも健在。
まして決闘(デュエル)が現実の戦闘にも干渉可能な舞台では、相応に調整を施されている。
所持者を起点に石造りの迷宮を出現させ、逃走の手助けになった。
嘗て、武藤遊戯達が決闘王国(デュエル・キングダム)で戦った決闘者。
迷宮兄弟が操るモンスターの一体。
モンスターカードでありながらフィールドカードでもあるという、他にない特殊な性質は殺し合いでも健在。
まして決闘(デュエル)が現実の戦闘にも干渉可能な舞台では、相応に調整を施されている。
所持者を起点に石造りの迷宮を出現させ、逃走の手助けになった。
「な、なんですかこれ!?迷路!?」
「お姉、はぐれちゃうから良の手を離さないでね」
「お姉、はぐれちゃうから良の手を離さないでね」
ギョッとし視線をあっちこっちへ向かわせる姉を尻目に、良子はスパイセットを起動。
眼球型のカメラを放り、空中からの映像をモニターへ映し出す。
物言わぬ苺香に本体部を持たせ、逐一チェックを行う。
画面を見るに自分達と最上の位置は離れており、すぐに追いつかれはしないだろう。
眼球型のカメラを放り、空中からの映像をモニターへ映し出す。
物言わぬ苺香に本体部を持たせ、逐一チェックを行う。
画面を見るに自分達と最上の位置は離れており、すぐに追いつかれはしないだろう。
「最上さんに見付かる前に行こう!」
「ちょ、良!?」
「ちょ、良!?」
だがのんびり構えていられる場面でもない。
混乱中のシャミ子の手を掴み、出口へ向けて駆け出す。
横目で映像を見やれば、最上は訝しく周囲を見回したまま動かない。
今がチャンスだ、一気に距離を引き離す。
混乱中のシャミ子の手を掴み、出口へ向けて駆け出す。
横目で映像を見やれば、最上は訝しく周囲を見回したまま動かない。
今がチャンスだ、一気に距離を引き離す。
テーマパークのアトラクションと違い、自分達の命が掛かった状況。
スリルへの興奮など微塵もなく、モニターをこまめに確認する良子の顔へ笑みはない。
自分がミスを犯せばその時点でアウト、シャミ子共々ゲームオーバーは確定。
そんな事態には絶対にさせない。
スリルへの興奮など微塵もなく、モニターをこまめに確認する良子の顔へ笑みはない。
自分がミスを犯せばその時点でアウト、シャミ子共々ゲームオーバーは確定。
そんな事態には絶対にさせない。
「大丈夫だよ。お姉は絶対に死なせないから」
「……っ」
「……っ」
手を握る力を強め、己に向けられた言葉にシャミ子は顔を曇らせる。
人を殺し、人が死ぬ場面を見てもケロッとしていて。
母の死を知っても、悲しむ仕草を全く見せなかったのに。
人を殺し、人が死ぬ場面を見てもケロッとしていて。
母の死を知っても、悲しむ仕草を全く見せなかったのに。
「良……」
繋いだ手に籠めた力から察する、姉を必ずや守ろうとの意志は。
普段、自分を強く慕ってくれる妹と同じだったから。
正気を失ってもその想いだけは、失くしていないと分かってしまうから。
余計にやり切れず、無意識の内に唇を噛んだ。
普段、自分を強く慕ってくれる妹と同じだったから。
正気を失ってもその想いだけは、失くしていないと分かってしまうから。
余計にやり切れず、無意識の内に唇を噛んだ。
「もうちょっとだよ……!」
姉の内心を知る術を持たない良は、殺されかかった事への不安だろうと考え。
不安を取り除く言葉を投げながら出口を目指す。
不安を取り除く言葉を投げながら出口を目指す。
モニターとの睨めっこと、迷路内の疾走を並行しどれ程経ったか
互いに身体機能が強化されていなかったら、早々に体力が限界を迎えたのは想像に難くない。
疲労が蓄積されているも、動ける余裕はまだ残されている。
完全にスタミナ切れを起こす前に、逃げ切らなければと足を動かし、
互いに身体機能が強化されていなかったら、早々に体力が限界を迎えたのは想像に難くない。
疲労が蓄積されているも、動ける余裕はまだ残されている。
完全にスタミナ切れを起こす前に、逃げ切らなければと足を動かし、
「見えて来た……!」
視界に飛び込むは、真正面に設置された扉。
デカデカと『迷』の一文字が記してあり、間違いなく抜け出せる。
安堵で表情を綻ばせ、
デカデカと『迷』の一文字が記してあり、間違いなく抜け出せる。
安堵で表情を綻ばせ、
『――――――っ!!!??!』
直後、扉付近の壁が粉塵を巻き上げ消し飛んだ。
咄嗟に急ブレーキを掛けるも、破壊の余波でシャミ子達も吹き飛ぶ。
地べたへ転がり、痛みに呻く間に破壊を起こした張本人が姿を見せた。
咄嗟に急ブレーキを掛けるも、破壊の余波でシャミ子達も吹き飛ぶ。
地べたへ転がり、痛みに呻く間に破壊を起こした張本人が姿を見せた。
「思ったよりも時間が掛かったな……余計な枷の対象はこちらも同じか」
瓦礫を踏みつけ、自身の手に視線を落とす少女。
哀れな女子高生を仮の器で操る悪霊、最上が脱出寸前で良子達に追い付いた。
つまらなそうに零れた愚痴は、ここにはいないゲームマスターへ向けらたもの。
哀れな女子高生を仮の器で操る悪霊、最上が脱出寸前で良子達に追い付いた。
つまらなそうに零れた愚痴は、ここにはいないゲームマスターへ向けらたもの。
やった事を説明するなら、そう難しくはない。
悪霊と化す前から有する霊能力者としての力、霊力探知で良子達の位置を詳細に特定。
まぞくの血を引くシャミ子達なら、常人以上に探るのは容易い。
更に自らが宿す絶大な霊力を収束、純粋な破壊目的で放ち壁を破壊。
最短ルートを力技で生み出し、苦も無くゴール前に辿り着いた。
本当だったらもっと迅速に特定出来たが、普段よりも梃子摺った理由は一つ。
リンボが術の出力や魔力総量に制限を掛けられたように、最上も力を幾らか抑え付けられてある。
悪霊と化す前から有する霊能力者としての力、霊力探知で良子達の位置を詳細に特定。
まぞくの血を引くシャミ子達なら、常人以上に探るのは容易い。
更に自らが宿す絶大な霊力を収束、純粋な破壊目的で放ち壁を破壊。
最短ルートを力技で生み出し、苦も無くゴール前に辿り着いた。
本当だったらもっと迅速に特定出来たが、普段よりも梃子摺った理由は一つ。
リンボが術の出力や魔力総量に制限を掛けられたように、最上も力を幾らか抑え付けられてある。
目障りな真似に出た自称神への苛立ちは後回しにし、己の仕事をさっさと終わらせる。
右拳に軽く霊力を纏わせ、良子へと接近。
起き上がるまでを待ちはしない、一撃で以て仕留める。
今になって罪悪感が生じる、などと向こうにとって都合の良い展開は起きず。
作業を一つ終える程度の気安さで、命を刈り取らんと拳が放たれた。
右拳に軽く霊力を纏わせ、良子へと接近。
起き上がるまでを待ちはしない、一撃で以て仕留める。
今になって罪悪感が生じる、などと向こうにとって都合の良い展開は起きず。
作業を一つ終える程度の気安さで、命を刈り取らんと拳が放たれた。
「良に……私の妹に……!酷いことしないでください!」
到達まで残り僅かな距離で、拳が阻まれる。
童女の頭部を潰す感触はなく、何が起きたかは自分の目に映る全てが答え。
運良く良子よりもいち早く復帰出来たのか、家族の危機に火事場のなんとやらでも発揮したか。
巨大フォークを構えたシャミ子が、最上の一撃を受け止めていた。
童女の頭部を潰す感触はなく、何が起きたかは自分の目に映る全てが答え。
運良く良子よりもいち早く復帰出来たのか、家族の危機に火事場のなんとやらでも発揮したか。
巨大フォークを構えたシャミ子が、最上の一撃を受け止めていた。
殴り飛ばそうにも、意外なことに両者拮抗を見せる。
最上が制限を施され、専用装備の効果でシャミ子の力が上がってるにしても。
些か不自然な光景と言わざるを得ないが、理由に察しは付く。
巨大フォークには放送前、リンボが自身の魔力を付与し性能を大幅に引き上げた。
能力面に関しては最上も認める陰陽師の、術の影響下にあるとくれば。
成程、こちらの妨害も不可能ではない。
最上が制限を施され、専用装備の効果でシャミ子の力が上がってるにしても。
些か不自然な光景と言わざるを得ないが、理由に察しは付く。
巨大フォークには放送前、リンボが自身の魔力を付与し性能を大幅に引き上げた。
能力面に関しては最上も認める陰陽師の、術の影響下にあるとくれば。
成程、こちらの妨害も不可能ではない。
(奴の遊びにこうも足を引っ張られるか……)
一度目も二度目も、良子殺害を遠ざけたのは。
本人が意図した類でないが、リンボの仕込みによる所が大きい。
つくづく、能力以外は厄介な男だと内心辟易する。
本人が意図した類でないが、リンボの仕込みによる所が大きい。
つくづく、能力以外は厄介な男だと内心辟易する。
尤も、本格的な戦闘になればシャミ子を捻じ伏せるのは簡単。
それが分かっているのは最上本人のみならず、復帰を果たした良子もだ。
仮に自分が加勢に加わっても、勝てる見込みはゼロに等しい。
ではどうするかと、長々考え込む必要も無し。
それが分かっているのは最上本人のみならず、復帰を果たした良子もだ。
仮に自分が加勢に加わっても、勝てる見込みはゼロに等しい。
ではどうするかと、長々考え込む必要も無し。
「行って!」
指示を受け取った苺香が、光弾を連射しながら接近。
横目で見つつ、最上は焦らずに対処へ移行。
拳を自ら引き、すかさずシャミ子へ蹴りを放つ。
巨大フォークの防御こそ間に合ったが、構えた体勢のまま背中から地面へ倒れた。
横目で見つつ、最上は焦らずに対処へ移行。
拳を自ら引き、すかさずシャミ子へ蹴りを放つ。
巨大フォークの防御こそ間に合ったが、構えた体勢のまま背中から地面へ倒れた。
「お前もいい加減に眠れ」
殺到する光弾を跳躍し回避、背後へ降り立つや両足を蹴り砕く。
死体に痛覚は存在せず酷使可能なれど、再生能力までは持っていない。
物理的に行動不能へ追い込めば、脅威ではなくなる。
左腕も引き千切り、残るは生前に手首を失った右腕だけ。
二度と光を宿さない瞳が最上を見上げ、
死体に痛覚は存在せず酷使可能なれど、再生能力までは持っていない。
物理的に行動不能へ追い込めば、脅威ではなくなる。
左腕も引き千切り、残るは生前に手首を失った右腕だけ。
二度と光を宿さない瞳が最上を見上げ、
モゴモゴと口を動かしたと思えば、ナニカを吐き出した。
「なっ――」
骸人形に人間らしい反応は起きず、当然最上の驚愕にも無反応。
吐き出されたソレに向け、右腕を振るって打ち付ける。
緑色に輝く、キューブ状の物体が足に当たった。
何のダメージにもならないが、これで良い。
命中さえすれば無問題、良子にとっての勝ちが決まる。
吐き出されたソレに向け、右腕を振るって打ち付ける。
緑色に輝く、キューブ状の物体が足に当たった。
何のダメージにもならないが、これで良い。
命中さえすれば無問題、良子にとっての勝ちが決まる。
やられた、そう舌を打った時には手遅れだ。
最上の全身を緑の正方形が包み込み、一瞬で縮小。
掌に収まるサイズへ早変わりし、乾いた音を立てて転がった。
最上の全身を緑の正方形が包み込み、一瞬で縮小。
掌に収まるサイズへ早変わりし、乾いた音を立てて転がった。
「消えちゃい、ました……?」
一部始終を見たシャミ子には、何が何やらサッパリ。
苺香の体が惨たらしく破壊され、止める為に立ち上がった時。
緑の箱に閉じ込められた最上が、姿を消した。
苺香の体が惨たらしく破壊され、止める為に立ち上がった時。
緑の箱に閉じ込められた最上が、姿を消した。
「間一髪だったけど、作戦成功だね」
シャミ子とは反対に、小さく拳を握って良子は達成感を味わう。
普通に戦っても最上には勝てない、だから正攻法以外で決着に持って行ったのだ。
普通に戦っても最上には勝てない、だから正攻法以外で決着に持って行ったのだ。
最上を閉じ込めたキューブの正体は、良子の三つ目の支給品。
マギウスの一人、アリナ・グレイが使う結界。
ゲームにおいてはフグ田タラオに支給された、振り子の魔女を封じたものと同じ。
大型の魔女の捕獲も可能な結界を使えば、参加者を捕えるのも難しくない。
マギウスの一人、アリナ・グレイが使う結界。
ゲームにおいてはフグ田タラオに支給された、振り子の魔女を封じたものと同じ。
大型の魔女の捕獲も可能な結界を使えば、参加者を捕えるのも難しくない。
強力な効果なのは疑いようもないが、問題は如何に相手へ当てるかだ。
ただ投げ付けただけでは、あっさり躱され終わりだろう。
良子もその点は理解しており、白羽の矢を立てたのが苺香だった。
骸人形ならどれだけ傷を負っても泣き言一つ零さず、完全に動けなくなるまで無茶も利く。
口の中に結界を隠し、虚を突く形で至近距離から投擲。
急ごしらえの作戦ながら結果は上々、代償として苺香の損傷も深い。
捨て時が来たと分かれば、もう用はない。
ただ投げ付けただけでは、あっさり躱され終わりだろう。
良子もその点は理解しており、白羽の矢を立てたのが苺香だった。
骸人形ならどれだけ傷を負っても泣き言一つ零さず、完全に動けなくなるまで無茶も利く。
口の中に結界を隠し、虚を突く形で至近距離から投擲。
急ごしらえの作戦ながら結果は上々、代償として苺香の損傷も深い。
捨て時が来たと分かれば、もう用はない。
「ひっ……!」
近付き、実に呆気なく苺香の首を斬り落とす。
死した仲間の凄惨な姿と、よりにもよって妹がその光景を生み出した。
二重のショックにシャミ子が悲鳴を上げる傍ら、テキパキと首輪や支給品を回収。
忘れないようにとキューブ型結界も拾い、一仕事終えた顔で振り向く。
少女一人の柔肌に刃を刺したとは思えない笑みだった。
死した仲間の凄惨な姿と、よりにもよって妹がその光景を生み出した。
二重のショックにシャミ子が悲鳴を上げる傍ら、テキパキと首輪や支給品を回収。
忘れないようにとキューブ型結界も拾い、一仕事終えた顔で振り向く。
少女一人の柔肌に刃を刺したとは思えない笑みだった。
「お姉、たくさん走ったしちょっと休憩しよっか。それからリンボさん達の所に行こ?」
「っ!だ、駄目です!あの人達のとこに行ったら……!」
「っ!だ、駄目です!あの人達のとこに行ったら……!」
妹を狂わせ、幾つもの惨劇を生み出した張本人。
そのような男の手元へ、これ以上良子を置いてなどおけるものか。
むしろ別行動中の今こそ、連れ出し離れるチャンス。
この機を逃すまいとするシャミ子だが、妹の反応は鈍い。
一人焦る姉を、愛くるしい小動物のように見やるのみ。
そのような男の手元へ、これ以上良子を置いてなどおけるものか。
むしろ別行動中の今こそ、連れ出し離れるチャンス。
この機を逃すまいとするシャミ子だが、妹の反応は鈍い。
一人焦る姉を、愛くるしい小動物のように見やるのみ。
「我儘言っちゃ駄目だよお姉。最上さんの事もあるし、リンボさんにちゃんと全部伝えないと」
良子にとっての最優先は、シャミ子とリンボの二人。
最上やPhoにこれまで殺意を抱かなかったのは偏に、リンボの協力者という一点に尽きる。
今すぐ殺す事をリンボは望んでない、だから殺そうとしなかった。
結界に捕えた最上にトドメを刺さないのもそう。
自分が勝手な判断で手を下せば、リンボに迷惑が掛かってしまうかもしれない。
なので直接会いに行き、彼に判断を仰ぐ。
良子の中では姉と同じくらいに、己を壊した陰陽師の存在は大きい。
最上やPhoにこれまで殺意を抱かなかったのは偏に、リンボの協力者という一点に尽きる。
今すぐ殺す事をリンボは望んでない、だから殺そうとしなかった。
結界に捕えた最上にトドメを刺さないのもそう。
自分が勝手な判断で手を下せば、リンボに迷惑が掛かってしまうかもしれない。
なので直接会いに行き、彼に判断を仰ぐ。
良子の中では姉と同じくらいに、己を壊した陰陽師の存在は大きい。
「……っ!良…駄目なものは駄目なんです……!今だけ、お姉の言うことを――」
聞いてください。
悲痛な想いで紡いだ言葉が、シャミ子の口から飛び出す瞬間。
見えない壁に押し出されるように、後方へと吹き飛ばされた。
異変が起きたのは良子も同じだ、小さな体が枯れ葉同然に宙を舞う。
悲痛な想いで紡いだ言葉が、シャミ子の口から飛び出す瞬間。
見えない壁に押し出されるように、後方へと吹き飛ばされた。
異変が起きたのは良子も同じだ、小さな体が枯れ葉同然に宙を舞う。
「あぐっ……!?」
姉妹揃って地面に激突し、痛みで視界が白く染まり掛ける。
何事かと頭を振り、見た。
何事かと頭を振り、見た。
「つくづく腹立たしいな、この枷は」
顰めた顔で不満を吐き捨て、首を軽く解すその者は。
今さっき身動きを封じ込められ、良子の掌に捕らえてあった存在。
傷一つない有様の最上が、堂々とそこへ立っていた。
今さっき身動きを封じ込められ、良子の掌に捕らえてあった存在。
傷一つない有様の最上が、堂々とそこへ立っていた。
「な、なんで……」
「方法は悪くなかったが、私を弱らせずに封じ込んだのは失策だ」
「方法は悪くなかったが、私を弱らせずに封じ込んだのは失策だ」
アリナが使う結界は並大抵の方法では、内側から破るのは不可能。
しかし最上が宿す霊力もまた、無尽蔵と見紛う程に莫大。
数多の悪霊を取り込んだ末に自害し、自らも悪霊と化したのが最上啓示。
これまで目立った戦闘の機会こそなかったが、秘めた力を加味すれば。
ゲームにおいては間違いなく、上位に名を連ねる強者に他ならない。
相応に消耗しているならまだしも、万全の状態では長々と捕らえるのも不可能。
先の霊力探知同様、制限の影響で多少時間を要しこそしたものの。
自力での脱出を果たし、吉田姉妹の逆転劇は完全に潰える。
しかし最上が宿す霊力もまた、無尽蔵と見紛う程に莫大。
数多の悪霊を取り込んだ末に自害し、自らも悪霊と化したのが最上啓示。
これまで目立った戦闘の機会こそなかったが、秘めた力を加味すれば。
ゲームにおいては間違いなく、上位に名を連ねる強者に他ならない。
相応に消耗しているならまだしも、万全の状態では長々と捕らえるのも不可能。
先の霊力探知同様、制限の影響で多少時間を要しこそしたものの。
自力での脱出を果たし、吉田姉妹の逆転劇は完全に潰える。
「これも返してもらうぞ」
吹き飛ばされた際に落ちたデイパックを拾われても、良子から文句は飛ばない。
最上が戻って来た以上、最早自分達の勝ち目はゼロ。
ならせめてシャミ子だけでも逃がそうと、時間稼ぎの為に立ち向かわんとする。
最上が戻って来た以上、最早自分達の勝ち目はゼロ。
ならせめてシャミ子だけでも逃がそうと、時間稼ぎの為に立ち向かわんとする。
「お姉!早く逃げて!」
背後にシャミ子を庇い、八房を構え直す。
最上の強さは本物なれど、自分だって前までの自分じゃない。
人一人を容易く殺せるだけの力を手に入れた。
選びたくないと思っていた選択も、一切躊躇せず選べるようになった。
姉の為、大好きな家族を守る為ならどんな手だって使う。
たとえ自分の知り合いだろうと、姉を生き残らせる為には――
最上の強さは本物なれど、自分だって前までの自分じゃない。
人一人を容易く殺せるだけの力を手に入れた。
選びたくないと思っていた選択も、一切躊躇せず選べるようになった。
姉の為、大好きな家族を守る為ならどんな手だって使う。
たとえ自分の知り合いだろうと、姉を生き残らせる為には――
「…………………………あれ?」
何か、違和感があった。
自分で考えた事なのに、どこか不自然な気がしてならない。
姉を生き残らせる、だから全員殺す。
リンボがそうしろと言った、だから全員殺す。
おかしな所なんて一つもない、全部正しいだろうに。
自分で考えた事なのに、どこか不自然な気がしてならない。
姉を生き残らせる、だから全員殺す。
リンボがそうしろと言った、だから全員殺す。
おかしな所なんて一つもない、全部正しいだろうに。
「え、なんで……リンボさ…あの人、を……?」
正しい道を自分に示してくれた男、それこそがキャスター・リンボ。
ではなく、恐怖と苦痛を齎す悪魔の如き怪人。
リンボへ抱いた印象は、初対面時に向けたものが全てだった筈。
好感を抱くのなんて、天地が引っ繰り返っても有り得ない。
ではなく、恐怖と苦痛を齎す悪魔の如き怪人。
リンボへ抱いた印象は、初対面時に向けたものが全てだった筈。
好感を抱くのなんて、天地が引っ繰り返っても有り得ない。
唐突にわなわなと震え出す良子を、最上は一切疑問に思わない。
これ以上余計な抵抗をされるのも面倒と、手っ取り早い方法を取った。
取り返した自身のデイパックに、仕舞われたままのカード。
バリアンズ・フォースによる洗脳を、解除したのである。
これ以上余計な抵抗をされるのも面倒と、手っ取り早い方法を取った。
取り返した自身のデイパックに、仕舞われたままのカード。
バリアンズ・フォースによる洗脳を、解除したのである。
良子を歪ませた要因はリンボの術式だが、制限の範囲内にあったせいで些か完成度に疑問が残った。
そこで、補う為に使ったのがバリアンズ・フォース。
カードを媒介に発動する性質上、所持者がリンボでなくとも発動や解除は可能。
最上の意思一つで良子に掛けられた洗脳術式の内、片方は取り除かれた。
そこで、補う為に使ったのがバリアンズ・フォース。
カードを媒介に発動する性質上、所持者がリンボでなくとも発動や解除は可能。
最上の意思一つで良子に掛けられた洗脳術式の内、片方は取り除かれた。
「え、なん、え、え、あ、あ、え?」
但し、良子本人からすれば何一つ救いにはならない。
今の今まで欠片程の疑問も挟まなかった行いへ、正気の頭で向き合わされる。
突如拉致され殺し合いを命じられ、リンボと最悪のエンカウントを果たした。
自分がマトモでいられたのはそこが最後、後は底なしの深淵を落ちて行くだけ。
今の今まで欠片程の疑問も挟まなかった行いへ、正気の頭で向き合わされる。
突如拉致され殺し合いを命じられ、リンボと最悪のエンカウントを果たした。
自分がマトモでいられたのはそこが最後、後は底なしの深淵を落ちて行くだけ。
「ひっ、いやっ……!」
心強い武器と見なした八房も、恐怖と嫌悪の対象でしかない。
投げ捨てるも、刃に血を吸わせた事実までは消せなかった。
平然としてられる段階は過ぎ、過去が蛇のように巻き付く。
心臓を貫き、首を刎ねる。
人間の体を壊す感触が、手に染み付いて離れない。
投げ捨てるも、刃に血を吸わせた事実までは消せなかった。
平然としてられる段階は過ぎ、過去が蛇のように巻き付く。
心臓を貫き、首を刎ねる。
人間の体を壊す感触が、手に染み付いて離れない。
「あ、やっ、ち、ちが、わた、し、ちがくて……」
どれだけ否定を口にしたとて、自分自身の記憶は誤魔化せない。
知っている、骨が砕けるまで殴ったのを。
覚えている、脳みそが潰れる程に拳を振り下ろしたのを。
忘れるなんて出来ない、あの人の顔が腐ったトマトのようになって。
転がった目玉と視線が合った瞬間を。
知っている、骨が砕けるまで殴ったのを。
覚えている、脳みそが潰れる程に拳を振り下ろしたのを。
忘れるなんて出来ない、あの人の顔が腐ったトマトのようになって。
転がった目玉と視線が合った瞬間を。
「あ――――――――――」
小倉しおんが死に際に、自分へ向けた表情は――
「あぁぁ……!」
そして、笑ってしまう程呆気なく限界は訪れた。
「あああぁぁああああああぁぁぁぁああぁぁあああああぁぁぁっ!!!!!」
瞬きを忘れ、両膝から崩れ落ちた。
叫んで叫んで、叫び続ける。
喉が枯れようと、魂の絶叫は鳴り止まず。
流れる涙を拭う事にすら、思考を回す余裕はない。
叫んで叫んで、叫び続ける。
喉が枯れようと、魂の絶叫は鳴り止まず。
流れる涙を拭う事にすら、思考を回す余裕はない。
もとより、耐えられる筈などなかったのだ。
まぞくが身近に存在すれど、ファンガイアや鬼と苛烈な闘争を繰り広げるのとは違う。
魔法少女が身近に存在すれど、神浜や見滝原で起きた死闘とも異なる。
日常をほんの少しだけはみ出した、優しい非日常に住まう少女が。
洗脳下にあったとはいえ、人を殺した事実に魂が砕かれないなんて有り得ない。
まぞくが身近に存在すれど、ファンガイアや鬼と苛烈な闘争を繰り広げるのとは違う。
魔法少女が身近に存在すれど、神浜や見滝原で起きた死闘とも異なる。
日常をほんの少しだけはみ出した、優しい非日常に住まう少女が。
洗脳下にあったとはいえ、人を殺した事実に魂が砕かれないなんて有り得ない。
「お姉」
だけど、たった一つ。
姉に死んで欲しくないという、この想いだけは偽りじゃない。
これだけは否定したくないから、
姉に死んで欲しくないという、この想いだけは偽りじゃない。
これだけは否定したくないから、
「逃げて」
触れれば砕ける微かな理性で、その三文字を言い残し。
直後に首を刎ねられ、吉田良子の物語は幕を閉じる。
直後に首を刎ねられ、吉田良子の物語は幕を閉じる。
どこで間違えたかと言うならきっと。
キャスター・リンボ…蘆屋道満と出会ったその時点で詰んでいた。
あの瞬間より定められた結末が、変えられることなく訪れた。
キャスター・リンボ…蘆屋道満と出会ったその時点で詰んでいた。
あの瞬間より定められた結末が、変えられることなく訪れた。
ただそれだけの、ありふれた悲劇に過ぎない。
【吉田良子@まちカドまぞく 死亡】
○
小娘一人片付けるのに、随分時間が掛かった。
そう独り言ちるのは内心に留め、散らばる道具を手早く回収。
憑依した肉体は普通の女子高生でも、最上が動かせば立派な凶器になる。
素手で人体を貫通出来るくらいだ、子供の首を刎ねるのも難しくない。
生前、汚れ仕事で幾人もの標的を呪殺の餌食にした以上。
今更揺れ動かされる心など、持ち合わせていない。
そう独り言ちるのは内心に留め、散らばる道具を手早く回収。
憑依した肉体は普通の女子高生でも、最上が動かせば立派な凶器になる。
素手で人体を貫通出来るくらいだ、子供の首を刎ねるのも難しくない。
生前、汚れ仕事で幾人もの標的を呪殺の餌食にした以上。
今更揺れ動かされる心など、持ち合わせていない。
利用するだけ利用され、一切の救いを得られぬまま死んだ。
神仏の加護とは絵空事に過ぎぬと、聖人君主でさえ断言するだろう救われない末路を辿った少女。
吉田良子の死体も、最上には路傍の石程度かそれ以下でしかなく。
意識は生存中の者へ向けられる。
神仏の加護とは絵空事に過ぎぬと、聖人君主でさえ断言するだろう救われない末路を辿った少女。
吉田良子の死体も、最上には路傍の石程度かそれ以下でしかなく。
意識は生存中の者へ向けられる。
「…………」
茫然自失。
へたり込んだシャミ子は正に、その四文字が当て嵌まるに相応しい有様だった。
目の前で起きた光景を受け入れたくない、幻覚だと思いたい。
瞬き一つを終えればそこは、普段と変わらないばんだ荘の自室だと。
現実から逃げたいのに、悪夢は一向に覚めてくれない。
じわりじわりと目に見えぬ傷口は広がり、嫌でも妹の死へ理解が追い付きそうになる。
へたり込んだシャミ子は正に、その四文字が当て嵌まるに相応しい有様だった。
目の前で起きた光景を受け入れたくない、幻覚だと思いたい。
瞬き一つを終えればそこは、普段と変わらないばんだ荘の自室だと。
現実から逃げたいのに、悪夢は一向に覚めてくれない。
じわりじわりと目に見えぬ傷口は広がり、嫌でも妹の死へ理解が追い付きそうになる。
改めて、良子共々不運な娘だと最上は思う。
リンボに関わらなければ、もっと言うと殺し合いに参加しなければ。
ゲームマスターに目を付けられなければ、回避出来たやもしれぬ末路だったろうに。
リンボに関わらなければ、もっと言うと殺し合いに参加しなければ。
ゲームマスターに目を付けられなければ、回避出来たやもしれぬ末路だったろうに。
哀れ以外の言葉が出ずとも、そこへ慈悲が宿る余地はない。
砕けた魂はバリアンの力によって再構築し、果てに生まれるは吉田優子でもシャドウミストレス優子にも非ず。
負の念で構成された、名も無き魔王が産声を上げる。
どういった形に作り替えられるかはさておき、利用できるなら問題無し。
バリアンズ・フォースの対象をシャミ子に発動、たった一手で全てお終い。
砕けた魂はバリアンの力によって再構築し、果てに生まれるは吉田優子でもシャドウミストレス優子にも非ず。
負の念で構成された、名も無き魔王が産声を上げる。
どういった形に作り替えられるかはさておき、利用できるなら問題無し。
バリアンズ・フォースの対象をシャミ子に発動、たった一手で全てお終い。
エリア一帯に及ぶ天災が起こらなければ、の話だが。
「これは……っ」
目を見開く間にも体は宙へ浮き、シャミ子からあっという間に引き戻される。
意識を研ぎ澄ませば、強い呪力が肌を突き刺す感覚を覚えた。
確かこの方向はリンボ達が向かった先と一致。
協力者がいらぬ遊びで藪蛇を突き、邪神の類でも引っ張り出したか。
意識を研ぎ澄ませば、強い呪力が肌を突き刺す感覚を覚えた。
確かこの方向はリンボ達が向かった先と一致。
協力者がいらぬ遊びで藪蛇を突き、邪神の類でも引っ張り出したか。
絶望に突き落とされたまぞくを救ったのが、同じく絶望をトリガーに引き起こした現象だと。
シャミ子も、陽夏木ミカンも知る由はなく。
悪霊とは別の方へと吹き飛び、後に残るは地面に散った血の痕のみ。
シャミ子も、陽夏木ミカンも知る由はなく。
悪霊とは別の方へと吹き飛び、後に残るは地面に散った血の痕のみ。
これが別の闘争を引き起こす原因になろうとは、当然誰も知らなかった。
◆◆◆
「っ!?」
前触れなく、細胞が粟立つ感覚を覚えた。
この場で装備を増やすか、後でデュエルモンスターズのカードを手に入れるか。
今後を見据えた選択はどちらが正解かを、士郎と風が悩む真っ最中。
指先で触れられてすらいないにも関わらず、突き刺されるのに似た痛みを感じる。
取引は中断し振り向く。
この場で装備を増やすか、後でデュエルモンスターズのカードを手に入れるか。
今後を見据えた選択はどちらが正解かを、士郎と風が悩む真っ最中。
指先で触れられてすらいないにも関わらず、突き刺されるのに似た痛みを感じる。
取引は中断し振り向く。
「女の子……?」
風の呟きは正しく、二人が見つめる先には少女が立っていた。
手入れを怠ったのかボサボサの髪に、寝間着のような服装。
病因を飛び出した患者と、外見だけならそう言えるかもしれない。
手入れを怠ったのかボサボサの髪に、寝間着のような服装。
病因を飛び出した患者と、外見だけならそう言えるかもしれない。
「散々探し回って当てが外れたか。あの娘、どこまで行った?」
士郎達を視界に収めつつ、別の誰かへ向けて不満を零す。
不遜な態度の少女へ、緊張を抑えられない。
足元から侵食し、骨まで腐らせるような存在感。
発する魔力の質は、人の形をしながら人とは思えぬ程に邪悪。
フェントホープで見かけた、六眼の侍と同じく異形の類に他ならないと。
理屈抜きに、本能で察しが付いた。
不遜な態度の少女へ、緊張を抑えられない。
足元から侵食し、骨まで腐らせるような存在感。
発する魔力の質は、人の形をしながら人とは思えぬ程に邪悪。
フェントホープで見かけた、六眼の侍と同じく異形の類に他ならないと。
理屈抜きに、本能で察しが付いた。
良子を手に掛けた直後、台風によって大きく吹き飛ばされた最上である。
自身の力を使えば落下を無傷で凌げるが、望んだ場所に降りるとはいかない。
移動に数時間を費やし、ようやっと見つけたのが士郎と風の二人だ。
標的のシャミ子か、そうでなくともリンボ達と合流出来れば尚良かったのだが。
自身の力を使えば落下を無傷で凌げるが、望んだ場所に降りるとはいかない。
移動に数時間を費やし、ようやっと見つけたのが士郎と風の二人だ。
標的のシャミ子か、そうでなくともリンボ達と合流出来れば尚良かったのだが。
「……誰を探してるのか知らないけど、ノコノコ出て来て余裕じゃない」
気圧された自分を誤魔化すように、表面上は強気な態度を取る。
喧嘩腰とも捉えられる風へ、まるで今気付いたとばかりに見やった。
視線が合う、ただそれだけで意識を奪い取られ兼ねないプレッシャー。
無意識の内に生唾を飲み込む横では、協力者の少年が一歩前に出た。
喧嘩腰とも捉えられる風へ、まるで今気付いたとばかりに見やった。
視線が合う、ただそれだけで意識を奪い取られ兼ねないプレッシャー。
無意識の内に生唾を飲み込む横では、協力者の少年が一歩前に出た。
「悪いけど、人探しなら俺達は役に立ちそうもない。他を当たって欲しいんだが……」
一度区切り、息を吐き出す。
「あんたは、殺し合いでどう動く気だ?」
問い掛けへの答え次第で、こちらも対応を変えざるを得ない。
得物を意識しつつも、早まった真似には出ない。
数では自分達が有利なれど、油断を持ち込める相手じゃないのだから。
得物を意識しつつも、早まった真似には出ない。
数では自分達が有利なれど、油断を持ち込める相手じゃないのだから。
緊張を滲ませた問いに顔色を変えず、数秒の沈黙を挟み返答があった。
「私は私の目的の為に動く、それだけの話だ。利用できる者は利用し、邪魔と見れば消す。参加者だろうと、ゲームを仕組んだ連中だろうと変わらん」
「つまり……優勝者の願いを叶える力も、効果が本物だったら手に入れるのか?」
「逆に聞くが、価値があると知りあえて放置する理由はなんだ?」
「つまり……優勝者の願いを叶える力も、効果が本物だったら手に入れるのか?」
「逆に聞くが、価値があると知りあえて放置する理由はなんだ?」
具体的にどうやって、勝ち残った者の願いを叶えるかは知らない。
しかし、運営が本物の願望器を有するのであれば。
『世直し』という唯一絶対の目的達成に、利用できるのなら。
あえて見逃す理由は無く、他者に譲るなど以ての外。
何を当たり前の事をと言わんばかりに返すと、今度は士郎が沈黙を返す番だった。
しかし、運営が本物の願望器を有するのであれば。
『世直し』という唯一絶対の目的達成に、利用できるのなら。
あえて見逃す理由は無く、他者に譲るなど以ての外。
何を当たり前の事をと言わんばかりに返すと、今度は士郎が沈黙を返す番だった。
最上の目的が何かは知らないし、仮に知ったからといって否定をぶつける気もない。
譲れないものの為に戦うのは、別に自分と風だけに限った話でもあるまい。
但し、はいそうですかと優勝への道を……美遊を奪われる未来を認めるのはお断りだ。
例え大勢を救うのに繋がる願いであっても、美遊という一人の犠牲が生じる以上。
断じて、妹の元へは到達させない。
譲れないものの為に戦うのは、別に自分と風だけに限った話でもあるまい。
但し、はいそうですかと優勝への道を……美遊を奪われる未来を認めるのはお断りだ。
例え大勢を救うのに繋がる願いであっても、美遊という一人の犠牲が生じる以上。
断じて、妹の元へは到達させない。
「こっちから聞いてなんだが、あんたの目的を叶えさせる訳にはいかなくなった」
明確に優勝を狙うプレイヤーは、優先して殺す。
美遊の存在を知った時からの方針を、変える気は無し。
シンケンマルを手に取り、構えを取った。
横では暫し遅れて、風もまた聖剣を引き抜く。
美遊の存在を知った時からの方針を、変える気は無し。
シンケンマルを手に取り、構えを取った。
横では暫し遅れて、風もまた聖剣を引き抜く。
「悪い、俺の方で全部決めて……」
「良いわよ別に、勝手やったのは私もおあいこだし。それに、今殺すか後で殺すかの違いだけでしょ?」
「良いわよ別に、勝手やったのは私もおあいこだし。それに、今殺すか後で殺すかの違いだけでしょ?」
心なしか、エーデルフェルト邸やフェントホープでの奇襲時以上に好戦的。
士郎の変化へ少々驚きつつも、戦闘へ臨むのへ不満はない。
今言った通りだ、殺すタイミングが前倒しになっただけのこと。
ここで仕留めれば首輪や支給品も手に入り、物々交換で差し出せる物にも困らない筈。
未だ燻り続ける罪悪感から目を逸らし、無理やりにでも殺意を引き出す。
士郎の変化へ少々驚きつつも、戦闘へ臨むのへ不満はない。
今言った通りだ、殺すタイミングが前倒しになっただけのこと。
ここで仕留めれば首輪や支給品も手に入り、物々交換で差し出せる物にも困らない筈。
未だ燻り続ける罪悪感から目を逸らし、無理やりにでも殺意を引き出す。
「……成程。予定とは違うが、試して損はないか?」
両者の内心を見透かしたように射抜き、独り言ちつつ最上も意識を戦闘状態へ移行
元は良子の支給品、八房を構える。
骸人形が無くとも帝具の一つ、武器として申し分ない。
剣呑な空気を察し、すたこらさっさと避難する魔導雑貨商人には見向きもしなかった
元は良子の支給品、八房を構える。
骸人形が無くとも帝具の一つ、武器として申し分ない。
剣呑な空気を察し、すたこらさっさと避難する魔導雑貨商人には見向きもしなかった
先手を打って士郎と風が斬り掛かる、という展開を現実にはしない。
八房を持つのとは反対の手に、霊力を収束。
複数の光弾をばら撒けば、相手は飛び退き回避。
八房を持つのとは反対の手に、霊力を収束。
複数の光弾をばら撒けば、相手は飛び退き回避。
最上の霊力を籠めただけあって、威力は馬鹿に出来ない。
アスファルトが砕け散り、そこかしこから焼ける臭いが漂う。
単なる牽制でここまでの火力だ、改めて骨の折れる相手と認識し接近を試みる。
アスファルトが砕け散り、そこかしこから焼ける臭いが漂う。
単なる牽制でここまでの火力だ、改めて骨の折れる相手と認識し接近を試みる。
懐に潜り込むや双剣を繰り出し、早期決着で首を狙う。
敵はシンケンマルの間合いに閉じ込めた、この近さで外す気はない。
運動能力に優れるだけの少年に非ず、英霊への置換による影響へ後押しされた速さだ。
肌に刃が触れたと認識する事も叶わずに、首と胴体が泣き別れ。
敵はシンケンマルの間合いに閉じ込めた、この近さで外す気はない。
運動能力に優れるだけの少年に非ず、英霊への置換による影響へ後押しされた速さだ。
肌に刃が触れたと認識する事も叶わずに、首と胴体が泣き別れ。
などと、呆気ない決着が付くようなら最上は上位のプレイヤーに数えられていない。
迫り来る二振りの刀身を、己が視界で明確に捉える。
確かに速い、だが対処不可能と言った覚えも無し。
八房を力任せに一閃、双剣を纏めて弾き返す。
刃を遠ざければ間髪入れず、士郎の腹部目掛け蹴りが飛ぶ。
迫り来る二振りの刀身を、己が視界で明確に捉える。
確かに速い、だが対処不可能と言った覚えも無し。
八房を力任せに一閃、双剣を纏めて弾き返す。
刃を遠ざければ間髪入れず、士郎の腹部目掛け蹴りが飛ぶ。
所詮は女子の足一本と、甘く見はしない。
身を捩って躱し、タイミングをほぼ同じくしてもう一人の剣士が仕掛ける。
両手持ちの聖剣をしかと握り締め、風が一撃を見舞う。
頭上から叩き付ける刃をモロに受けては、股まで真っ二つの末路は確実。
それを分からない最上ではなく、必然的に聖剣は止められた。
身を捩って躱し、タイミングをほぼ同じくしてもう一人の剣士が仕掛ける。
両手持ちの聖剣をしかと握り締め、風が一撃を見舞う。
頭上から叩き付ける刃をモロに受けては、股まで真っ二つの末路は確実。
それを分からない最上ではなく、必然的に聖剣は止められた。
「はぁっ!?」
簡単に勝利が手に入るとは、風も期待していない。
だが敵がやったのは指二本で刀身を挟み、聖剣の進撃を阻止するというもの。
クラスカードを使った自身の膂力は、大の大人ですら余裕で殴り殺せるレベルだ。
にも関わらず、己が持ち得る強さを鼻で笑うかのような光景。
驚愕の表情を貼り付けるも、敵は待ってくれない。
だが敵がやったのは指二本で刀身を挟み、聖剣の進撃を阻止するというもの。
クラスカードを使った自身の膂力は、大の大人ですら余裕で殴り殺せるレベルだ。
にも関わらず、己が持ち得る強さを鼻で笑うかのような光景。
驚愕の表情を貼り付けるも、敵は待ってくれない。
刀身を挟んだまま、聖剣諸共風を持ち上げ投げ飛ばす。
あっという間に距離を離されるが、呑気に見送る最上じゃあない。
左手を翳し、霊力を練り固めた光弾を発射。
風が撃ち落とされるまで、一刻の猶予もなかった。
あっという間に距離を離されるが、呑気に見送る最上じゃあない。
左手を翳し、霊力を練り固めた光弾を発射。
風が撃ち落とされるまで、一刻の猶予もなかった。
なれど風に意識を割いた瞬間は、士郎が攻め込む絶好の隙。
踊り狂うように双剣を操り、斬り刻まんとする。
間近で殺意を察知し、霊力発射を中断。
剣には剣だ、八房を的確に振るい我が身へ傷を付けさせない。
踊り狂うように双剣を操り、斬り刻まんとする。
間近で殺意を察知し、霊力発射を中断。
剣には剣だ、八房を的確に振るい我が身へ傷を付けさせない。
シンケンマルによって繰り出される斬撃の嵐を、八房一本で凌ぐ。
身体能力こそ優れているも、剣の技術自体は然程高くない。
放送前にぶつかった、魔戒騎士や聖女の方が手強かった。
だが絶大な霊力が膂力や剣速を大きく引き上げ、猛攻を難なく捌き切る
何より、戦闘中常に肉体へ負荷を強いられるのは士郎の方だ。
身体能力こそ優れているも、剣の技術自体は然程高くない。
放送前にぶつかった、魔戒騎士や聖女の方が手強かった。
だが絶大な霊力が膂力や剣速を大きく引き上げ、猛攻を難なく捌き切る
何より、戦闘中常に肉体へ負荷を強いられるのは士郎の方だ。
(何だこいつは……打ち合う度に体が軋む……!)
内臓が鉛のように重く、骨が万力へ掛けられたと錯覚せん程に痛む。
肉体の内側を蝕むのに似た現象は、刀身を通じて流し込まれる霊力。
あらゆる心霊スポットへ巣食った悪霊を喰らい、我が物へと変えた負の力だ。
人間にとっては言うまでもなく、致死性の猛毒も同然。
クラスカードによる置換がなかったら、士郎とて早々にダウンは免れなかったろう。
肉体の内側を蝕むのに似た現象は、刀身を通じて流し込まれる霊力。
あらゆる心霊スポットへ巣食った悪霊を喰らい、我が物へと変えた負の力だ。
人間にとっては言うまでもなく、致死性の猛毒も同然。
クラスカードによる置換がなかったら、士郎とて早々にダウンは免れなかったろう。
「衛宮さん!」
自分を呼ぶ声と、視界へ映り込む甲冑姿へ意図を即座に察し。
飛び退いた直後に、後方から放たれる暴風の砲丸。
風王鉄槌(ストライク・エア)の直撃が襲い来る中、最上は僅かに瞳を細める。
慌てて回避へ動くまでもない、八房へ霊力を掻き集め振り下ろす。
単純な攻撃方法も最上が行えば、必殺級の威力を瞬時に叩き出せるのだ。
飛び退いた直後に、後方から放たれる暴風の砲丸。
風王鉄槌(ストライク・エア)の直撃が襲い来る中、最上は僅かに瞳を細める。
慌てて回避へ動くまでもない、八房へ霊力を掻き集め振り下ろす。
単純な攻撃方法も最上が行えば、必殺級の威力を瞬時に叩き出せるのだ。
「嘘でしょっ!?」
暴風を斬り裂き飛来する刃へ、慄く暇もない。
こちらも聖剣を振るって打ち消すも、衝撃で刀身が弾かれた。
時間にすれば2秒も経たずに構え直せるが、敵がそんな猶予をくれてやるかは別。
地を蹴り風の目前へ到達、がら空きの胴体に拳が捻じ込まれた。
こちらも聖剣を振るって打ち消すも、衝撃で刀身が弾かれた。
時間にすれば2秒も経たずに構え直せるが、敵がそんな猶予をくれてやるかは別。
地を蹴り風の目前へ到達、がら空きの胴体に拳が捻じ込まれた。
「がふっ……!」
鎧越しとは思えぬ威力に、苦悶の声を吐き出す。
よろけた所へ更に手が伸び、頭部を鷲掴みにされた。
得物を振り回し遠ざけようにも、最上が間合いに踏み込んだ時点で『詰み』だ。
一瞬の硬直後、両手がだらんと下がり崩れ落ちる。
右手から聖剣が零れ落ち、拾い上げる事すらしない。
よろけた所へ更に手が伸び、頭部を鷲掴みにされた。
得物を振り回し遠ざけようにも、最上が間合いに踏み込んだ時点で『詰み』だ。
一瞬の硬直後、両手がだらんと下がり崩れ落ちる。
右手から聖剣が零れ落ち、拾い上げる事すらしない。
「犬吠崎っ!?」
協力者の異変に反応し掛けるも、すぐに意識は最上へ引き戻される。
アスファルトを片足で踏みつけ跳躍、一跳びで士郎との距離を詰めた。
顔面へ放たれた蹴りを、双剣を交差し防御。
刀身を震わせる衝撃へ腕が痺れ、得物を取り落としそうになるも歯を食い縛り耐える。
アスファルトを片足で踏みつけ跳躍、一跳びで士郎との距離を詰めた。
顔面へ放たれた蹴りを、双剣を交差し防御。
刀身を震わせる衝撃へ腕が痺れ、得物を取り落としそうになるも歯を食い縛り耐える。
尤も、直後に無駄な行為と化した。
最上が腕を振り下ろすと、上空からは鮮血色を発する髑髏が落下。
悪へ染まった霊力を、より攻撃的な形へ変えての攻撃。
飛び退くも僅かに遅い、地面が弾け飛び余波が叩き付けられた。
最上が腕を振り下ろすと、上空からは鮮血色を発する髑髏が落下。
悪へ染まった霊力を、より攻撃的な形へ変えての攻撃。
飛び退くも僅かに遅い、地面が弾け飛び余波が叩き付けられた。
「がっ!?」
芯まで揺さぶる痛みへ呻き、間を置かずに近場の民家の壁へ激突。
地面へ倒れた時には既に、両手にシンケンマルは存在しない。
吹き飛んだ時に落としたと、冷静に考える余裕など抱ける場面でもない。
人差し指を銃口に見立て、最上は照準を合わせる。
地面へ倒れた時には既に、両手にシンケンマルは存在しない。
吹き飛んだ時に落としたと、冷静に考える余裕など抱ける場面でもない。
人差し指を銃口に見立て、最上は照準を合わせる。
シンケンマルを拾いに行く時間はない。
デイパックから別の武器を取り出す暇も惜しい。
風は未だ石像の如く固まったまま。
打つ手なしと、誰が見ても顔を覆う他ないだろう。
デイパックから別の武器を取り出す暇も惜しい。
風は未だ石像の如く固まったまま。
打つ手なしと、誰が見ても顔を覆う他ないだろう。
であれば最早、出し惜しみは無しだ。
「投影開始(トレース・オン)――――!」
詠唱(トリガー)に呼応し、魔術回路が起動。
使い方なら知っている、無銘(ブランク)カードが可能性を引き寄せた。
嘗て自分と、義父が目指した正義の到達点。
そこへ至った英霊の力を、解禁するのは今しかない。
両手に現れるは、侍戦隊の共通装備に非ず。
黒と白、陰陽の夫婦剣は士郎の手に最も馴染む武器だ。
使い方なら知っている、無銘(ブランク)カードが可能性を引き寄せた。
嘗て自分と、義父が目指した正義の到達点。
そこへ至った英霊の力を、解禁するのは今しかない。
両手に現れるは、侍戦隊の共通装備に非ず。
黒と白、陰陽の夫婦剣は士郎の手に最も馴染む武器だ。
姿勢を低くし疾走、銃口から逃れるではなく正面特攻で仕掛ける。
そちらから近付くのなら望む所だ、自動拳銃の連射さながらに光弾を発射。
怯んで足を止める真似はしない、行けると己自身の力故に確信を抱く。
霊力の塊に顔を照らされ、先程よりも精細さを増した動きで剣が走った。
そちらから近付くのなら望む所だ、自動拳銃の連射さながらに光弾を発射。
怯んで足を止める真似はしない、行けると己自身の力故に確信を抱く。
霊力の塊に顔を照らされ、先程よりも精細さを増した動きで剣が走った。
光弾に貫かれ、蜂の巣状の死体が完成。
といった最期を自らの手で跳ね除け、士郎が再び最上を間合いへ閉じ込めた。
霊力の連射を凌いだ双剣が乱舞を描き、敵もまた八房で対処に動く。
戦場一帯へ剣戟の音色が響き渡り、殺伐としたハーモニーを奏でる。
といった最期を自らの手で跳ね除け、士郎が再び最上を間合いへ閉じ込めた。
霊力の連射を凌いだ双剣が乱舞を描き、敵もまた八房で対処に動く。
戦場一帯へ剣戟の音色が響き渡り、殺伐としたハーモニーを奏でる。
打ち合った数が丁度三十を迎えた時、先に手を変えたのは最上。
後方へと跳び距離を取り、片手へ霊力を掻き集める。
シンプルな破壊力で叩き潰す算段だろうが、その選択は士郎にとっても好都合。
後方へと跳び距離を取り、片手へ霊力を掻き集める。
シンプルな破壊力で叩き潰す算段だろうが、その選択は士郎にとっても好都合。
「投影、重装(トレース・フラクタル)――」
英霊■■■が得意とする、もう一つの兵装。
黒塗りの弓を出現させ、番えるは矢に非ず剣。
構え、弦を引き、狙いを付け、射る。
複数の工程を、一瞬としか形容出来ぬ速さで完了。
黒塗りの弓を出現させ、番えるは矢に非ず剣。
構え、弦を引き、狙いを付け、射る。
複数の工程を、一瞬としか形容出来ぬ速さで完了。
「――赤原猟犬(フルンティング)!!」
北欧の英雄が振るった魔剣が、此度は、贋作者(フェイカー)の矢となり発射。
40秒という時間さえ掛ければ、最優のサーヴァントすら回避一択を選ばざるを得ない。
追尾機能を備えた剣も、必須となる溜め(チャージ)抜きでは相応に劣化。
だが問題無い、元より狙いはそこじゃない。
40秒という時間さえ掛ければ、最優のサーヴァントすら回避一択を選ばざるを得ない。
追尾機能を備えた剣も、必須となる溜め(チャージ)抜きでは相応に劣化。
だが問題無い、元より狙いはそこじゃない。
狙われた先にあるのは最上、の右手に握られた刀。
八房を正確に射抜き、あらぬ方へと弾き飛ばす。
帝具ならではの強度故か、破壊こそ免れたが最上の意識は微かに逸れた。
八房を正確に射抜き、あらぬ方へと弾き飛ばす。
帝具ならではの強度故か、破壊こそ免れたが最上の意識は微かに逸れた。
「――投影、装填(トリガー・オフ)」
となると、生まれた隙をこじ開けるのは必然の流れだろう。
烈火大斬刀をも凌駕する、巨大な得物を造り出す。
狂戦士の為に用意された、鉄塊と呼ぶのが相応しい大剣。
ただ闇雲に振るうのではない、技へ昇華し放つのだ。
烈火大斬刀をも凌駕する、巨大な得物を造り出す。
狂戦士の為に用意された、鉄塊と呼ぶのが相応しい大剣。
ただ闇雲に振るうのではない、技へ昇華し放つのだ。
良からぬものが来ると、対峙中の最上も理解。
八房を弾き飛ばされたのは、ある意味好都合。
左手のみに集めていた霊力を、両手に収束。
来る攻撃を迎え撃つ準備を進めれば、士郎も必要な工程を全て終える。
八房を弾き飛ばされたのは、ある意味好都合。
左手のみに集めていた霊力を、両手に収束。
来る攻撃を迎え撃つ準備を進めれば、士郎も必要な工程を全て終える。
「全工程投影完了(セット)……っ」
肉体が悲鳴を上げ、苦痛を訴えるも捨て置く。
聖杯戦争を勝ち残ったその時点で、余りにも肉体を酷使し過ぎた。
投影魔術を使い続ければ、限界の到達を更に縮める。
理解などとっくにしている、していて尚も止める気は起きない。
己の命の使い道は、後輩を喪った雪降る夜に決めているのだから。
聖杯戦争を勝ち残ったその時点で、余りにも肉体を酷使し過ぎた。
投影魔術を使い続ければ、限界の到達を更に縮める。
理解などとっくにしている、していて尚も止める気は起きない。
己の命の使い道は、後輩を喪った雪降る夜に決めているのだから。
「――是、射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)!!」
斧剣が繰り出す超高速の連続攻撃こそ、かの大英雄が編み出した絶技。
一度飲み込まれれば、生存への期待は毛先程も抱けまい。
己を打ち滅ぼさんとする九閃を前に、最上は逃げも隠れもせず迎撃に出た。
一度飲み込まれれば、生存への期待は毛先程も抱けまい。
己を打ち滅ぼさんとする九閃を前に、最上は逃げも隠れもせず迎撃に出た。
両手より放つ霊力は、津波と形容する他ない。
斧剣と真っ向から激突、互いが互いを喰らうべくひたすらに突進。
威力・範囲共に両者譲らず拮抗、ややって泡のように弾け飛ぶ。
衝撃波となって双方へ叩き付けるも、最上は腕の一振りで薙ぎ払う。
視界が晴れ、赤胴色の髪を揺らす標的は、
斧剣と真っ向から激突、互いが互いを喰らうべくひたすらに突進。
威力・範囲共に両者譲らず拮抗、ややって泡のように弾け飛ぶ。
衝撃波となって双方へ叩き付けるも、最上は腕の一振りで薙ぎ払う。
視界が晴れ、赤胴色の髪を揺らす標的は、
「――凍結、解除(フリーズ・アウト)」
先の大技すらも次の一手の布石に使い、動き出した後。
一つ一つ用意しては間に合わない、だからこそこの瞬間の為に準備を重ねた。
二色の双剣が手元に現れた時、既に士郎の腕は最上の急所を捕えてある。
脳と心臓の両方へ突き刺し、確実な終焉を与える。
別の肉体への憑依が封じられた以上、コンティニューの機会は手に入らない。
一つ一つ用意しては間に合わない、だからこそこの瞬間の為に準備を重ねた。
二色の双剣が手元に現れた時、既に士郎の腕は最上の急所を捕えてある。
脳と心臓の両方へ突き刺し、確実な終焉を与える。
別の肉体への憑依が封じられた以上、コンティニューの機会は手に入らない。
「これで――!」
終わらせるべく、トドメを刺す。
エインズワースの人形ではない、命を奪う感覚を初めて味わうとしても。
悪に堕ちてでも守ると決めた者がいる、それだけで躊躇など打ち砕く。
エインズワースの人形ではない、命を奪う感覚を初めて味わうとしても。
悪に堕ちてでも守ると決めた者がいる、それだけで躊躇など打ち砕く。
「誰にも、願いは叶えさせるかよ……!」
切っ先が肉に食い込む正にその時、士郎と最上の視線が交差。
向けられた瞳に宿るは焦燥か、恐怖か、憤怒か。
向けられた瞳に宿るは焦燥か、恐怖か、憤怒か。
「……っ」
そのどれでもない、深淵を思わせる闇が広まっていた。
絶体絶命に等しい状況下で、欠片程も焦りが存在しない。
絶体絶命に等しい状況下で、欠片程も焦りが存在しない。
猛烈な悪寒を、土壇場で士郎は感じ取った。
何か、何か重大な事を見落とした気がする。
死に物狂いで抗い、牙を突き立てる寸前まで来たと思ったが。
それは本当に、自分の力で辿り着いたと言えるのか。
何か、何か重大な事を見落とした気がする。
死に物狂いで抗い、牙を突き立てる寸前まで来たと思ったが。
それは本当に、自分の力で辿り着いたと言えるのか。
――俺はただ、踊らされただけじゃないのか?
マズいと思うも、一度放った刃は止められない。
秒と待たずに死が訪れるだろう光景へ、最上は恐ろしい程に冷静だった。
勝負を諦めたのではない、大人しく終わりを受け入れてもいない。
ここから何が起こるかを、最上は知っている。
秒と待たずに死が訪れるだろう光景へ、最上は恐ろしい程に冷静だった。
勝負を諦めたのではない、大人しく終わりを受け入れてもいない。
ここから何が起こるかを、最上は知っている。
ソレが起きるよう仕込みを済ませた本人だけが、知っているのだ。
「――――」
衝撃が走った。
最上にではなく、士郎にだ。
双剣の到達寸前で、不意に感じた猛烈な熱さ。
視線を落とせば、胸から生える一本の刃。
何が起きた、誰がやったかの答えは振り返ってすぐに分かった。
最上にではなく、士郎にだ。
双剣の到達寸前で、不意に感じた猛烈な熱さ。
視線を落とせば、胸から生える一本の刃。
何が起きた、誰がやったかの答えは振り返ってすぐに分かった。
「犬、吠崎……っ」
名前を口に出されても、少女は言葉を返さない。
全ての迷いから解放されたような顔で、風は士郎を刺し貫いた。
全ての迷いから解放されたような顔で、風は士郎を刺し貫いた。