※IEで文字サイズを中以上にしてお読みください。
雲がかかった三日月。
それを背にして、眼下の竹薮に目を凝らす。
すぐに目当ての物を見つけて、私は慎重に――今、脚が片方しかないので――傍に降り立った。
それの傍らに座ろうとして地面に手を突き、突きそこねて無様に尻餅をついた。
――ああ、今日は右肘から先も持ってかれたんだっけ。忘れていたわ。
私は苦笑して身を起こし、傍らの私の腕をもいだ張本人――藤原妹紅の顔と、
胴体の一部と、たぶん腕の一部だった血まみれの肉片を憎らしげ に見つめた。
それを背にして、眼下の竹薮に目を凝らす。
すぐに目当ての物を見つけて、私は慎重に――今、脚が片方しかないので――傍に降り立った。
それの傍らに座ろうとして地面に手を突き、突きそこねて無様に尻餅をついた。
――ああ、今日は右肘から先も持ってかれたんだっけ。忘れていたわ。
私は苦笑して身を起こし、傍らの私の腕をもいだ張本人――藤原妹紅の顔と、
胴体の一部と、たぶん腕の一部だった血まみれの肉片を
もう何千回目の殺し合い だろうか。百を越えた辺りで数えるのは止めたけど、
永琳なら覚えているに違いない。後で聞いてみましょう、忘れてなければ。
永琳なら覚えているに違いない。後で聞いてみましょう、忘れてなければ。
空を見上げる。――ああ、無粋な雲だわ、とどうでもいいことをつぶやきつつ、
今日の勝負を思い返す。
私たちの勝負 は、どちらかが事前に申し入れて始まったことは一度もない。
時には永遠亭で休んでいる私を妹紅が奇襲したり、逆に私が妹紅の住処を襲ってみたりもするが、
一番多いのは、何となく予感がしてふらりと外出したら妹紅と出くわす、という場合だ。
今夜もそうだった。
――そして目と目が合うと、何を語るでもなく、そのまま殺し合い を始めるのだ。
今日の勝負を思い返す。
私たちの
時には永遠亭で休んでいる私を妹紅が奇襲したり、逆に私が妹紅の住処を襲ってみたりもするが、
一番多いのは、何となく予感がしてふらりと外出したら妹紅と出くわす、という場合だ。
今夜もそうだった。
――そして目と目が合うと、何を語るでもなく、そのまま
左脚の再生はもう始まっているというのに、右腕の治りが遅い。
高温の炎を薄く長く固めて振るう炎の刀。妹紅が少し前に編み出した新技だ。
斬られると、骨まで炙られるいつもの痛みと共に傷口が瞬時に炭化し、すぐには再生しなくなる。
血管も塞ぐので血が止まってしまい、貧血で落ちることも少なくなるという欠点があるのだけど
妹紅は気づいているのかしら。気づいてなくてもそこまで教えてあげる必要はないわね。
高温の炎を薄く長く固めて振るう炎の刀。妹紅が少し前に編み出した新技だ。
斬られると、骨まで炙られるいつもの痛みと共に傷口が瞬時に炭化し、すぐには再生しなくなる。
血管も塞ぐので血が止まってしまい、貧血で落ちることも少なくなるという欠点があるのだけど
妹紅は気づいているのかしら。気づいてなくてもそこまで教えてあげる必要はないわね。
今日はこの技を破るために考えてみた策を一つ試し、見事に成功した。
妹紅が私の腕を切り払った瞬間、肩を引っ掴んで、まだ残る炎の刀に私の脚を思いっきり突き込んだ。
妹紅の炎は熱すぎる。血が一瞬で沸騰して――脚が爆発した。
”水蒸気爆発”って言うんだっけ? 永琳が言ってたけど。
さすがに意識が飛ぶほど痛かったけど、両腕と胴体の半分が抉れた妹紅はもっと痛かったに違いない。
太腿に金属片を結わえた鎖を巻きつけて、爆発の威力を高めておいたのだ。
私たちの殺し合い は武器も罠も何でもあり。もっとも、唐突に始まるので小道具を用意 する暇はほとんどないんだけど。
妹紅が私の腕を切り払った瞬間、肩を引っ掴んで、まだ残る炎の刀に私の脚を思いっきり突き込んだ。
妹紅の炎は熱すぎる。血が一瞬で沸騰して――脚が爆発した。
”水蒸気爆発”って言うんだっけ? 永琳が言ってたけど。
さすがに意識が飛ぶほど痛かったけど、両腕と胴体の半分が抉れた妹紅はもっと痛かったに違いない。
太腿に金属片を結わえた鎖を巻きつけて、爆発の威力を高めておいたのだ。
私たちの
唯一の禁忌は、他人の加勢を得ること。
蓬莱人以外は命が有限だから、ではない。私と妹紅の勝負 を邪魔するなら永琳だって許さないつもりだ。
蓬莱人以外は命が有限だから、ではない。私と妹紅の
と、傍らで妹紅の残骸が赤熱し、火を噴いて激しく燃え上がった。
不死鳥は自らを焼いて灰の中から生まれ変わる――妹紅のはそんな大層なものではない けど。とにかく復活が始まったようだ。
私はというと、左脚はほぼ形を成したが神経は通っておらず、右腕はようやく半分程というところ。
いつも思うけど、死ななかった方が復帰が遅いって可笑しくないかしら?
不死鳥は自らを焼いて灰の中から生まれ変わる――妹紅のは
私はというと、左脚はほぼ形を成したが神経は通っておらず、右腕はようやく半分程というところ。
いつも思うけど、死ななかった方が復帰が遅いって可笑しくないかしら?
前に、勝ったはいいが満身創痍で意識を保つのもやっとというときに、わざと自尽して蘇生してみたことがある。
気がついた後、妹紅に激しく怒られた。
――勝手に死ぬなよ。そうあっさり帳消しにされたら私が死ぬ程頑張った意味がないじゃない。
とこしえに残機無限の蓬莱人が「死ぬ程頑張る」とは何たる言い草か。私は吹き出して、顔を真っ赤にした妹紅に殴られた。
今でも思い出すと可笑しい。くすくすと笑いながら、こうも思う。
――『お前を殺していいのは私だけだ』とか思っているのかしら。うざったい わね。
気がついた後、妹紅に激しく怒られた。
――勝手に死ぬなよ。そうあっさり帳消しにされたら私が死ぬ程頑張った意味がないじゃない。
とこしえに残機無限の蓬莱人が「死ぬ程頑張る」とは何たる言い草か。私は吹き出して、顔を真っ赤にした妹紅に殴られた。
今でも思い出すと可笑しい。くすくすと笑いながら、こうも思う。
――『お前を殺していいのは私だけだ』とか思っているのかしら。
やがて炎が鎮まり、灰の中から妹紅の傷一つない裸身が姿を現す。意識はまだ戻っていないようだ。
このまま妹紅の貧相 な体を眺め続けるのもいいが、目を覚ますと文字通り火を噴いて怒るので
そろそろ帰らなければならない。
そのくせ、私が負けた時は意識を取り戻すまで傍にいるのだ、この女は。
――事情を知らない人間が来たら騒ぎになるからね。
誰も来るわけがない のにそういう言い訳 をするところが憎らしい 。大嫌いだ 。
このまま妹紅の
そろそろ帰らなければならない。
そのくせ、私が負けた時は意識を取り戻すまで傍にいるのだ、この女は。
――事情を知らない人間が来たら騒ぎになるからね。
でも、ずっと私に抗い 、ずっと私に立ち向かってくる のは後にも先にも妹紅だけだ。
永琳は私を全肯定するので頼りにはなるけどこの点では物足りない。
その意味で、私にとって藤原妹紅は唯一無二の存在 と言える。
――妹紅は私をどう思っているんだろうか? それを聞いたことはない。
永琳は私を全肯定するので頼りにはなるけどこの点では物足りない。
その意味で、私にとって藤原妹紅は
――
ようやく左脚が動くようになったので私は立ち上がった。
再び空を見上げると、ようやく雲が晴れ、三日月が顔を見せたところだった。
再び空を見上げると、ようやく雲が晴れ、三日月が顔を見せたところだった。
タイトル案:「デート」「事後」「rubyの無駄遣い」