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ただ深い森の物語

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ただ深い森の物語 ◆UcWYhusQhw


「……よく眠ってますね」

灼熱の太陽の下、木陰で座っている黒髪の少女、桂言葉が呟いた。
彼女の膝の上にやすらかに眠っている子猫のような子、棗鈴の髪を撫でる。
その様子は赤子をあやす聖母のようだった。
いや一点、聖母から程遠い物がある。
それは彼女の眼。
まるで人形の眼のように生気がなく光を失っている。
まさしく死んでいるような眼だった。

「……誠くん、今どうしてますか?」

そんな彼女が思うはひとりの愛してやまない少年、伊藤誠
今こそ、言葉は自説を説いて廻ったりしてるが元は普通の少女。
ただ誠が好きでその事にしか精一杯にできない少女だったのだから。
それは今でも変わらない。
彼女の根本にあるのは誠への愛。
今まで行なってきた事は誠の為だけといっても言い過ぎではないのだから。

「……うん?」

その時、ピクリと言葉が反応した。
彼女が見据える先は鬱蒼とした木々の向こう。
彼女の沈んだ瞳は途端に鋭くなり気配が変わっていく。
そして傍にあった小鳥丸を持ち警戒を始める。

「……んう? ことのは? どうかしたのか?」
「……いえ、大した事ではないですよ、来客のようですから対応してきますね。鈴さんはそこで休んでいていいですよ」
「……ん、わかった」


言葉の警戒に気付いたのか鈴が目を醒ました。
何が起こったかとフルフルと首を振る様はまるで子猫のようだ。
そんな鈴に言葉は微笑んで接する。
まるで姉妹のように。

鈴はそんな言葉を見て安心したのかもう一度欠伸をして木陰で丸くなった。
言葉はそのまま木々の中に入り人の気配がする場所に向かう。
少しの間歩いた先に木々が開いた場所があった。
そこに歩いていた男が一人。

「……貴方は?」

それは一言で言うなら。
まさしく『亡霊』と称するに値する男だった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇






(もう少しで放送、か)

怜二は鬱蒼とした森を歩いていた。
もう少しで放送の時間が訪れるので少し休める場所で聞きたいと思ったからだ。
思う事はキャルが呼ばれないことを願うだけ。
古河秋生、自分が殺した少女が呼ばれようと気にする事では、ない。


(……キャル)

思うはキャルの事。
未だに情報すら手に入らないのは不安であるが焦っていても仕方がないのだ。
ただ無事であればいいだけ。
彼女の邪魔する敵は殺す。
彼女が生きるためならどんな人間であろうと殺す。
自分にはそれが出来る。
それが『ファントム』と称された自分の存在価値なのだから。

「……!?」
「……貴方は?」

そんな時、木々の間から一人の少女が現れた。
その姿は怜二を戦慄させるに充分だった。
怜二の至高とも言える狙撃を避けたその少女そのものだったのだから。
その少女の目は濁っており怜二を睨む。
怜二は狙撃したから知っているものの少女からしたら知らないのは必然。
怜二はその事実を再確認しつつもただ事務的に答える。

「吾妻怜二……ツヴァイとも言う」
「私は桂言葉です」

言葉はそういって若干笑う。
瞳は濁ったまま。
少しの恐怖を覚えつつ怜二はあくまで事務的に一番大事なことを聞く。

「キャル、キャル=ディヴェンスって子知らないか? ドライと名簿には書いてあるが」
「残念ですが知りませんね……」
「……そうか」


怜二は嘆息しつつも仕方ないかと即座に割り切った。
さて、と。
怜二はいつもの行動を始めようとする。

その時、言葉が不意に怜二に話し始める。
まるで楽しそうに。

「怜二さん……少しお話をききませんか?」
「……は?」

言葉には怜二にも話を聞いて欲しかった。
怜二が名前を出したキャルという名前はきっと大切な人なんだろうと言葉は思ったから。
何故ならその時僅かだが怜二の顔がほころんでいたから。
とても優しい顔を。

しかし怜二は特に興味を示す事もなく話を打ち切ろうとする。
だが言葉が出したある言葉。
その言葉に怜二はピクッと動きを止めてしまった。
その言葉は、

「死者蘇生って信じますか?」

死者蘇生という言葉。
放送でも示唆されていたが参加者から直接聞かせられるとは思わなかった。
さらに言葉が続けた事はさらに驚くべき情報でもあった。

「私は生き返りました。一度死んでもう一度ここにやってきました」


それは桂言葉が一度死んで蘇ったという事。
にわかに信じられないような事。
しかしこれならアインが復活した事に疑問を持つ事はない。
それを言葉は自信を持って言う。

「私はマンションから飛び降りてぐしゃぐしゃになって死んだのを憶えています。
 なのに生きてこの島に居るんです。それはどういうことでしょうか?
 だから考えたんです。主催者は人を生き返らせる能力があるって。私はそれが欲しい。
 大切な人が蘇るんです。それはどんなに素晴らしい事でしょう! いつでも何処でもずっとずっといられるんです!」

言葉は優越な表情を浮かべて語る。
満面の笑みで説法をする。
自分の考えが間違えない様に。
大切な人が蘇る、というフレーズに怜二が震えたのがとても言葉を満足させた。

「そう……怜二さんには願いがあるのですね。大切な人といたいという願いが」
「……っ!?」

言葉がまるで預言者の様に怜二の望みを当てる。
怜二その言葉に大きく動揺した。
キャルといたい。
それは怜二が願い続けてる事実なのだから。

「大丈夫です、叶います――貴方が」

そして言葉に怜二に至言を与える。
アカルティクスマイルのような笑みを浮かべ。
迷える子羊を救うように。

「――私を信じるなら」


怜二は信じられない風に言葉を見つめる。
本当に叶うのかと。
信じられるのかと。
その様子に言葉は力強く頷く。
怜二が乾いた声で切望する。

「叶う……のか?」
「叶います。絶対。貴方が願うなら絶対。大切な人が居たいと言うならそれは叶うなら。
 私を信じるなら救われます。どうです? 一緒に来ませんか? 怜二さん。
 貴方の願い、キャルさんと一緒にいたいという願いが叶うんです!」

言葉が手を伸ばす。
まるで救いの女神のように。
そっと、そっと。

「か……な……う」

怜二は掠れた声で呟く。

澄み切った青空の下。
その青空に耀く太陽。
碧く深く静かな木々。
さやさや吹くそよ風。

その美しい風景の中で。

怜二は。


手を―――――




「―――――そうか。でもこれが俺が進んできた道なんだ。神など存在しない、程遠い世界で。
 ただ血濡れ続けた道を、そんな説法如きで変えるほど甘い物じゃないんだ。俺が生きた全ては」




―――――とらなかった。


スパンッと。

一つの音がこの神聖のような場所に響く。


「え……?」

言葉が戸惑う。
圧倒的な違和感。
そして気付く。

頭に生える銀の矢を。

それは神を殺す神槍の如く。
深く深く刺さっていた。



紅く紅く。
溢れて止まらない鮮血。

「それに……俺の願いは俺自身で叶える。他人に頼る事などするか。それは俺自身の力で叶える事にこそ意味がある、俺自身で救う事にな……」

最後に『亡霊』がそう呟いたのを聞こえるのと同時に。
言葉は自身が倒れていくのを感じる。

最後に彼女が感じるのは

澄み切った青空の下。
その青空に耀く太陽。
碧く深く静かな木々。
さやさや吹くそよ風。

その美しい風景の中で。

一羽の漆黒の鴉が啼いた。

まるで死を告げるが如く。


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122:決意 ~誇りと思い出を胸に 時系列順
110:希望の星 ツヴァイ
120:増えては困る猫ばかり拾ってた 桂言葉
120:増えては困る猫ばかり拾ってた 棗鈴

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