ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

To all people

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To all people ◆AZWNjKqIBQ


月光に曝され海の底の様な蒼さの中に沈んでいる石の雛壇。
その端にぽつんと、小さな銀色に輝く人形がお行儀よく座っていた。

壇と人形の大きさは非常にアンバランスで、月光を銀に跳ね返す人形は綿埃程度にしか見えない。
人形は、まるで御伽噺の中に出てくる巨人の家に迷い込んだかの様な錯覚を覚えていることだろう。

いや、前提が間違っていた。
石の雛壇。積もった時を規則正しく切り取ったその跡は、正体を明かせば採石場と呼ばれる場所であり、
その端に座り、月を見上げている人形は人間だった――いや。

人形の様な人間だった。

天にそれを覆うものは無く、雨の様に降り注ぐ月光で白い髪を銀色に輝かせている人間。
朧な存在ではないかと錯覚させるような薄い色の肌。
真っ直ぐに通った綺麗な鼻筋。わざとらしいまでに綺麗な面の造詣。
見開かれ、長い睫に飾られた真っ赤な、人ではないような、まるで人形のような瞳。

人間の名前は――黒須太一

白い夏用のシャツに空色のスラックスと、何の変哲もない衣装をまとっていながらも、普通には見えない少年。
彼はその『何か』が見える赤い瞳で、天上の月を見上げていた。

黒須太一は、採石場の壇の端でただぼぅっと白い月を見上げていた。
直前の、赤色に酔った頭を冷ますために彼は白い月を見上げていた。


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夢を……、夢を見ていたのではないか、と……彼は思う。そういうイメージとして過去を想う。


あの時、月を見上げていた自分は本当に人形の様だった。
上等のドレスを着せられ、凝ったレースとそのレースでできたリボンで飾られていた。
そんな姿のとおりに振る舞い。そんな姿に相応しい時間を、冗談の様な時間を過ごしていた。

時は移ろい、記憶は途切れ、舞台は切り替わる。

あの時、暗い天井に月を見上げることを妨げられていた自分は本当に人形だった。
人形として見られ、人形として扱われ、人形として使われて、あくまで人の形をしたモノでしかなかった。
そんな姿のとおりに振る舞い。そんな姿に相応しい時間を、悪い冗談の様な時間を過ごしていた。

時は移ろい、記憶は途切れ、舞台は切り替わる。

あの時、ただ独りで月を見上げていた自分は人であることを忘れていた。
人形として生きているうちに人の振る舞いを忘れ、それを恐れ周りの人間の振る舞いを真似していた。
まるで人間のように振る舞い。そんな姿に相応しい時間を、面白い冗談の様な時間を過ごしていた。

時は移ろい、記憶は途切れ、舞台は切り替わる。

あの時、たった一人ぼっちで月を見上げていた自分は……一体何だったのだろう?
人間として生きているうちに恐ればかりを募らせ、それを払うために必死にまた人間のフリをしていた。
気付けば、まるでそこに忘れ去られたかのように、たった8人。バラバラの人モドキが、たったの8人。

そしてまた、時は移ろい、記憶は途切れ、舞台は切り替わる――。


 † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † †


夢中夢。夢中夢。夢中夢。夢中夢。そうであると考えなければ、辻褄が合わないぐらいに不条理な人生だ。
しかし、その場その場で確かなリアリティがあったことも彼は覚えている。

尻の下の砂利の感覚。夜の空気。どれも嘘ではない。世界に嘘はない。
だとしたら嘘を疑うのなら自分自身となるのだが、そしてその自分自身が信用ならないことは重々承知しているが、
とりあえず彼は現状をその自分自身なりに整理してみる。

――諸君らにはコレから互いを傷付け騙し犯し欺き――そして、殺し合って貰う。

眩しさを感じるほどに『人間』らしい指令だった。
互いに傷つけ、騙し、犯し、欺き、そして殺し合う。……なんら通常の人間の有様と変わるところはない。
騙し欺くというのはコミニュケーションである。切望する人と人との交差でもある。
殺し合う――殺す、ではなく殺し合う。互いが同等であり、遠慮や気兼ねのいらない存在であるということの肯定だ。
人間未満の自分に与えられるには、十分がすぎる環境だろうと彼は考える。

64人。それは、たった8人の8倍であることを意味する。
8人になる前は無数ではあったが、殺し合うというほどの密度とまで考えるとそれ程の人間は0に近かった。
故に、彼としては今最も『人間』と多くの関係性を結んでいる状態とも解釈できた。
64人もの人間と、殺し合うなどという濃密な関係性を与えられているのだ。

その64人の中には、彼の見知った名前もあった。
鞄の中から出てきた紙切れに書かれていた――『支倉曜子』と『山辺美希』&『佐倉霧
スーパーニンジャとフラワーズ。
前者に関しては全くの心配はない。むしろ警戒を必要とするか? この状況、彼女が何をするか解らない。
後者に関しては心配だった。しかし、こちらも警戒を必要とするかもしれない。向こうも警戒しているだろうから。

自分を含めれば合わせて4人。つまりは、前のステージから4人減ったということになる。
おそらくは領域の問題か? この4人は殺しあえるが、あの4人は殺されるだけだ。この世界のルールにそぐわない。
前のステージで、世界が8人を選んだように、このステージでは4人と他の面々が選ばれたのだ。

気になるのは、その他の面々だろう。
全く未知の存在。そして、自分の中に築き上げてきた常識の更新を必要とする存在。

――君達の中には明らかに超常的な力を持っている人間がいる。

さらりと言われてしまったが、遅れながらもツッコマざるをえない。そんな人間はいないと。
彼は夢想家ではあったし電波の受信感度も良好ではあったが、そこまでにリアリティを無視した男でもなかった。
あの場所で見たアレ。魔法やお化けと解釈するのは思考停止も甚だしいだろう。故に彼は突き詰める。

アレは――宇宙人だ。そう、これならばなんらリアリティに反しない解釈だ。
宇宙人だったら、確率論的に広い空の彼方のどこかにいてもおかしくはない。むしろ、いないとおかしい。
宇宙人ならば、その振る舞いもただの人間から見れば超常的であってもおかしくはない。
アレは、アイツらは宇宙人。それが解答に間違いない。たった4行でQ.E.Dである。

宇宙人。広義で捉えれば我々人類も宇宙人だと言える。なんせ、宇宙船地球号の一員なのだから。
なので、アレと人間を分け隔てる言葉を使う。言葉による分別は、言語学の基本でもあるのだ。

アレは――エイリアンだ。人間から見れば外敵という意味にとることができる存在だ。

しかし、彼はエイリアンを恐れない。彼には『カラデ』があるのだから恐れる必要はない。
カラデ……決して、空手といった紛い物とは違う。遥かに高度な全方向対応型汎用格闘術である。
これがあればエイリアンなど全く問題にならない。少なくとも1度に4匹までだったら許容範囲内である。
……無論。これは、彼の脳内設定にしかすぎないのだが。
それはさておき、もっと具体的なリアリティのある話をすれば、彼にはリアルな『武器』が与えられていた。

一つは、グロック19。
全長は20センチ足らず、重さは500mlペットボトルよりやや重い程度の、非常にコンパクトで携帯性に優れた拳銃である。
装弾数は15+1のタイプ。マガジンの予備はないので、切れれば一々装填しなおさないといけないが、弾数は多かった。
全部で64発。8×8になる64発だ。丁度人数分。一人一発使えば、最後に自殺用が一発余る計算になる。

もう一つは、サバイバルナイフ。
ランドール製作のいかにもといった感の、サバイバルナイフと思えば大体の人が想像するそのままのデザインのそれ。
刃渡りは15センチ足らずといったところだが、高炭素鋼を打ち鍛えたその刃身は非常に頑強で頼もしい。
銃刀法というものがある日本に住む彼にとっては、銃に比べれば馴染みのある獲物であった。

武器は以上2つ。この言い方だと思わせぶりだが、そう……鞄の中にはもう一つアイテムが入っていた。

最後の一つは拡声器。
同じ様なものでも、マイクよりは大げさなラッパの形をした、文字通り拡声を目的とした機器。
シャイなボーイが愛の告白に使うもよし、痴呆症の老人にランチのメニューを伝えるもよしの一品である。
決して武器ではないコレ。鞄の中からコレを見つけた時、彼は『ああ、なるほどな』と思った。

島とは聞かされたが、どうやら相当に広いらしい。どうやってその中から人間を探そうかと思っっていたらコレだ。

コレがあれば、人一人がカバーできる範囲は飛躍的に広がるだろう。
みんながみんなコレを貰っているのかは不明だが、コレを使えば互いの距離は縮まり交流が始まる。
交流――素晴らしい2文字である。恋愛と同じ文字数で、同じくらい重要な文字列だ。

異文化交流という言葉があるが、時にはエイリアンとも交流ができるかも知れない。
勿論、人に紛れ込んでいるエイリアンとはスパイであり、侵略者の尖兵であるからには相容れないのだが、
もしかしたら奇跡――これも素敵な2文字だ。が、起こるかもしれない。


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黒須太一は見飽きた月から目を放し、灰色の砂利の上に立ち上がる。
尻についた埃を払い、鞄を持ち上げ、視線を道の先へと向ける。

一歩足を踏み出すには目的と方向を決めなればならない。そして、それは今までの思考で確定した。
黒服達がエイリアンであることは間違いない。そして64人の中にもエイリアンが混ざっていることも分かっている。
自分は人間の側である。ならば、目的は一つしかありえない。

『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を――人間の平和を守る。

あまりに壮大だった。何と言っても、地球の未来が彼の双肩にかかっている。
しかし彼はそれを前に怯むことも、絶望することも無い。
人類には友情、努力、勝利といった素敵な2文字の数々があるのだから、恐れることはない。

ガピッ――と、片手に構えた拡声器が喉を鳴らす。

とりあえずはリハーサルなのだが、もしかしたらコレが人類最初で、最大の一歩となるかも知れない。
そんな心地よい緊張を得て、彼は言葉を発する器官とそれを広げる機械とを接続した。


黒須太一は交流を始める――……。




「……――――――――――――――――生きている人、いますか?」


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【C-4 採石場/1日目 深夜】
【黒須太一@CROSS†CHANNEL】
【装備】:拡声器、グロック19(拳銃/弾数15+1/予備48)、サバイバルナイフ
【所持品】:支給品一式
【状態】:健康
【思考・行動】
 基本:『人間』を集めて『エイリアン』を打倒し、地球の平和を守る
 1:拡声器を使って、人と交流する
 2:『人間』なら仲間に、『エイリアン』なら倒す
 3:『支倉曜子』『山辺美希』『佐倉霧』と出会えれば、仲間になるよう説得する

 ※太一の言う『エイリアン』とは、超常的な力を持った者を指します。
 ※登場時期は、いつかの週末。固有状態ではありません。



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黒須太一 048:クモノイト

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