そして始まる物語 ◆guAWf4RW62
虫の音一つすらも聞こえて来ない、静寂に包まれた絶望の孤島。
天より降り注ぐ月明かりの下、生い茂る茂みに身を潜めている少女が一人。
天より降り注ぐ月明かりの下、生い茂る茂みに身を潜めている少女が一人。
黒一色の制服に、濡れ羽色の美しい長髪。
短い丈のスカートから伸びた足は、黒のストッキングに包まれている。
夜闇に溶け込むような装いのこの少女こそが、千羽烏月。
人に仇なす鬼と対峙する機関――鬼切部千羽党の鬼切り役である。
数多の死地を潜り抜けし剣士が、しかし動揺を隠し切れぬ声で呟いた。
短い丈のスカートから伸びた足は、黒のストッキングに包まれている。
夜闇に溶け込むような装いのこの少女こそが、千羽烏月。
人に仇なす鬼と対峙する機関――鬼切部千羽党の鬼切り役である。
数多の死地を潜り抜けし剣士が、しかし動揺を隠し切れぬ声で呟いた。
「まさかあの鬼達が、あそこまで簡単に倒されるなんて……」
烏月を戦慄させているのは、主催者達とノゾミ達が行った闘争の顛末だった。
主催者達は殆ど片手間のような手軽さで、ノゾミとミカゲを仕留めて見せた。
自分ですら苦戦したあの鬼の双子を、だ。
それに、自分を含む参加者全員に嵌められた首輪。
何か不穏な行動を起こせば、その瞬間に首輪を爆破されてしまうだろう。
主催者達は殆ど片手間のような手軽さで、ノゾミとミカゲを仕留めて見せた。
自分ですら苦戦したあの鬼の双子を、だ。
それに、自分を含む参加者全員に嵌められた首輪。
何か不穏な行動を起こせば、その瞬間に首輪を爆破されてしまうだろう。
得体の知れない、しかし圧倒的な実力を持つ主催者達。
参加者の反抗を決して許さない鋼鉄の枷。
これではもう、主催者達の打倒は絶望的であると云わざるを得ない。
ならば、どうするか。
参加者の反抗を決して許さない鋼鉄の枷。
これではもう、主催者達の打倒は絶望的であると云わざるを得ない。
ならば、どうするか。
「……斬るしかないな。桂さん以外の参加者、全員を」
冷え切った自分の心に温もりをくれた少女。
自分の全身全霊を懸けて守ると誓った少女――羽藤桂。
何よりも大切な彼女を生還させる事こそが、今の自分にとって最優先目的である。
殺人遊戯の破壊が不可能である以上、桂が生き残るには優勝するしか無い。
故に、自分が桂を優勝させる。
桂以外の人間を例外無く殺し尽くして、最後に自分も自害する。
これで桂だけは生き残れる筈だった。
そして、その目的を成し遂げ得るだけの力も手に入れた。
自分の全身全霊を懸けて守ると誓った少女――羽藤桂。
何よりも大切な彼女を生還させる事こそが、今の自分にとって最優先目的である。
殺人遊戯の破壊が不可能である以上、桂が生き残るには優勝するしか無い。
故に、自分が桂を優勝させる。
桂以外の人間を例外無く殺し尽くして、最後に自分も自害する。
これで桂だけは生き残れる筈だった。
そして、その目的を成し遂げ得るだけの力も手に入れた。
「刀、か。お誂え向きだね……まるで私に人を殺せと云ってるみたいだよ」
今烏月が手にしているのは、竜鳴館に伝わる名刀――地獄蝶々である。
月明かりを反射して光り輝くその刀身は、禍々しい程に美しい。
未だ切れ味を試してはいないが、外観から見て取れる情報だけでも、稀代の名刀である事は容易に推し量れた。
剣の道に生きてきた自分からすれば、使い慣れぬ銃などよりも余程頼りになる武器だ。
この刀の秘めたる性能を最大限に引き出せば、人を殺すという目的は難無く達成出来るだろう。
月明かりを反射して光り輝くその刀身は、禍々しい程に美しい。
未だ切れ味を試してはいないが、外観から見て取れる情報だけでも、稀代の名刀である事は容易に推し量れた。
剣の道に生きてきた自分からすれば、使い慣れぬ銃などよりも余程頼りになる武器だ。
この刀の秘めたる性能を最大限に引き出せば、人を殺すという目的は難無く達成出来るだろう。
武装は完璧に近い。
使い手の技量も十分。
こと剣の扱いに関してなら、誰が相手であろうとも遅れを取るつもりは無い。
そして覚悟の面でも、問題などある筈が無かった。
使い手の技量も十分。
こと剣の扱いに関してなら、誰が相手であろうとも遅れを取るつもりは無い。
そして覚悟の面でも、問題などある筈が無かった。
「私は守る。どんな事をしてでも、何を犠牲にしてでも、桂さんだけは守り切ってみせる……!」
守る。
この手がどれだけ血に塗れようとも、他者の命をどれだけ踏み躙ってでも、桂だけは守り切る。
自分はもう幾度と無く人を殺してきたのだから、今更躊躇などしない。
桂さえ無事で居てくれるのならば、他には何も望まない。
今後の方針を決定した烏月は、最初の獲物を探し出すべく動き始めた。
この手がどれだけ血に塗れようとも、他者の命をどれだけ踏み躙ってでも、桂だけは守り切る。
自分はもう幾度と無く人を殺してきたのだから、今更躊躇などしない。
桂さえ無事で居てくれるのならば、他には何も望まない。
今後の方針を決定した烏月は、最初の獲物を探し出すべく動き始めた。
何時の間にか掌に浮かんでいた汗を拭き取って、地獄蝶々をしっかりと握り直す。
命が懸かったこの状況で全く緊張しないのは不可能だが、だからと云って下らぬミスを犯す訳にはいかない。
汗で手が滑った所為で敵を取り逃した、などという事態は絶対に避けねばならないのだ。
烏月は大きく一度深呼吸をした後、森の中を静かに歩いてゆく。
そうやって進んでいると、やがて視界にとあるモノが映った。
命が懸かったこの状況で全く緊張しないのは不可能だが、だからと云って下らぬミスを犯す訳にはいかない。
汗で手が滑った所為で敵を取り逃した、などという事態は絶対に避けねばならないのだ。
烏月は大きく一度深呼吸をした後、森の中を静かに歩いてゆく。
そうやって進んでいると、やがて視界にとあるモノが映った。
(……あれは、女の子か)
烏月の前方二十メートル程の所に居たのは、制服姿の少女。
少女は艶やかな黒髪を風に靡かせながら、狼狽した表情で東の方角へと駆けて行く。
突然殺人遊戯の舞台に放り込まれた所為で、恐らくは混乱しているのだろう。
少女がこちらに気付く様子は無いし、武器も持っていない。
今襲撃すれば、造作も無く仕留められるように思えた。
少女は艶やかな黒髪を風に靡かせながら、狼狽した表情で東の方角へと駆けて行く。
突然殺人遊戯の舞台に放り込まれた所為で、恐らくは混乱しているのだろう。
少女がこちらに気付く様子は無いし、武器も持っていない。
今襲撃すれば、造作も無く仕留められるように思えた。
(私は無実の人間を…………っ、迷うな! 桂さんを守る為には、これが最善の選択なんだ!)
己の心に沸き上がった躊躇を握り潰して、烏月は勢い良く地面を蹴り飛ばした。
早鐘のように鳴り響く足音が、森の静寂を乱暴に切り裂いてゆく。
早鐘のように鳴り響く足音が、森の静寂を乱暴に切り裂いてゆく。
「きゃあああああっ!?」
ようやく襲撃者の存在に気付いた少女――桂言葉が、迫る脅威から逃亡すべく一目散に駆け出した。
しかし、烏月の身体能力は常人を大きく上回っている。
程無くして両者の距離は零となり、言葉は木の幹に背中を合わせる形で追い詰められた。
しかし、烏月の身体能力は常人を大きく上回っている。
程無くして両者の距離は零となり、言葉は木の幹に背中を合わせる形で追い詰められた。
「あ……あのっ…………」
未だ状況を理解し切れていない様子の言葉が、怯えた声で何か話そうとする。
しかしそれを遮る形で、烏月が一言だけ呟いた。
しかしそれを遮る形で、烏月が一言だけ呟いた。
「――――すまない」
「……え?」
「……え?」
天高く掲げられた地獄蝶々の刀身が、月光を浴びて妖しく光り輝く。
烏月は祈るように目を瞑ると、言葉に向けて容赦無く白刃を振り下ろした。
烏月は祈るように目を瞑ると、言葉に向けて容赦無く白刃を振り下ろした。
「あ―――――」
言葉は動けない。
呆然とした表情のまま、頭上より迫る死を眺め見ている。
だが、刃が獲物を切り裂く寸前――――
呆然とした表情のまま、頭上より迫る死を眺め見ている。
だが、刃が獲物を切り裂く寸前――――
「……待ちやがれっ!」
「――――――ッ!?」
「――――――ッ!?」
響き渡る叫び声。
烏月が手を止めて振り返ると、そこには回転式拳銃――ニューナンブM60を構えた少年の姿があった。
ニューナンブM60の銃口は、正確に烏月の方へと向けられている。
このままでは不味いと判断し、烏月は即座に近くの木の陰まで飛び退いた。
烏月が手を止めて振り返ると、そこには回転式拳銃――ニューナンブM60を構えた少年の姿があった。
ニューナンブM60の銃口は、正確に烏月の方へと向けられている。
このままでは不味いと判断し、烏月は即座に近くの木の陰まで飛び退いた。
「まさかお前、本気で殺し合いなんてするつもりなのか? 悪いが正気を疑うぞ」
「貴方だって、目の前で人が殺される所を見ただろう? 私達には、もう殺し合うしか道が残されていないんだよ」
「別に殺し合わなくたって、皆で力を合わせれば何とかなるだろ。
大体……姉貴や貴明を殺した奴の言う事なんかに、誰か従うかってんだよ!」
「別に殺し合わなくたって、皆で力を合わせれば何とかなるだろ。
大体……姉貴や貴明を殺した奴の言う事なんかに、誰か従うかってんだよ!」
憎き主催者達の取り決めに従う意志など、雄二は全く持ち合わせていなかった。
皆で手を取り合えば、このような馬鹿げた殺人遊戯など直ぐに覆せると思っていた。
しかしそんな雄二の考えを、烏月はぴしゃりと跳ね除ける。
皆で手を取り合えば、このような馬鹿げた殺人遊戯など直ぐに覆せると思っていた。
しかしそんな雄二の考えを、烏月はぴしゃりと跳ね除ける。
「私は貴方みたいに楽観的じゃないからね。見ず知らずの人間と組むなんてリスクは犯せない。
それに貴方はあの神父達がどれだけ恐ろしい存在か知らないから、そんな事が云えるんだよ」
それに貴方はあの神父達がどれだけ恐ろしい存在か知らないから、そんな事が云えるんだよ」
烏月からすれば、面識の無い人間と手を組むなど有り得ない話。
桂の生存確率を一割でも引き上げる為には、余分な行動など取れる筈も無い。
安易に他人を信用し、結果として寝首を掛かれてしまう、といった事態は絶対に避けねばならないのだ。
故に、今からやるべき事は一つだけ。
桂の生存確率を一割でも引き上げる為には、余分な行動など取れる筈も無い。
安易に他人を信用し、結果として寝首を掛かれてしまう、といった事態は絶対に避けねばならないのだ。
故に、今からやるべき事は一つだけ。
「桂さんを守る為には、他の参加者達を全員殺さなければいけない。
貴方達にも死んで貰わなければいけないんだ」
貴方達にも死んで貰わなければいけないんだ」
烏月は深く腰を落として、足元の枯れ葉を思い切り踏み締めた。
木の向こう側に居る獲物達へ向けて、告げる。
木の向こう側に居る獲物達へ向けて、告げる。
「故に――千羽党が鬼切り役、千羽烏月がお相手致す!!」
「…………ッ!?」
「…………ッ!?」
瞬間、烏月の足元が爆ぜた。
舞い上がる落ち葉の中、烏月は恐るべき脚力で雄二との間合いを縮めてゆく。
舞い上がる落ち葉の中、烏月は恐るべき脚力で雄二との間合いを縮めてゆく。
「速、いっ…………!」
予想外の速度に驚きながらも、雄二が慌てて銃のトリガーを引き絞る。
しかし素人如きの銃撃では、高速で動き回る烏月を捉えられる筈も無い。
何度銃撃を試みても、弾丸は虚しく空を切るだけだった。
しかし素人如きの銃撃では、高速で動き回る烏月を捉えられる筈も無い。
何度銃撃を試みても、弾丸は虚しく空を切るだけだった。
「フ――――――――」
刀を構えた長髪の修羅が、左右へとステップを踏みながら前進し続ける。
四発目の銃弾が放たれるよりも早く、烏月は剣戟が届く距離まで詰め寄った。
雄二も咄嗟の判断で後方へ跳躍しようとしたが、それを上回る速度で地獄蝶々の刃が振るわれる。
四発目の銃弾が放たれるよりも早く、烏月は剣戟が届く距離まで詰め寄った。
雄二も咄嗟の判断で後方へ跳躍しようとしたが、それを上回る速度で地獄蝶々の刃が振るわれる。
「あづぅっ…………!!」
悲鳴と共に舞い散る鮮血。
唸りを上げる白刃が、雄二の右太股を深々と切り裂いた。
大きく態勢を崩した雄二に向けて、烏月は尚も追撃を仕掛けてゆく。
ダンと一歩前に踏み込むと、その勢いのまま刀を一直線に突き出した。
雄二も何とか上体を横に捻って逃れたが、それは烏月の予想通り。
烏月は殆ど密着した状態から、強烈な体当たりを雄二の胴体へと見舞った。
唸りを上げる白刃が、雄二の右太股を深々と切り裂いた。
大きく態勢を崩した雄二に向けて、烏月は尚も追撃を仕掛けてゆく。
ダンと一歩前に踏み込むと、その勢いのまま刀を一直線に突き出した。
雄二も何とか上体を横に捻って逃れたが、それは烏月の予想通り。
烏月は殆ど密着した状態から、強烈な体当たりを雄二の胴体へと見舞った。
「がっ……!」
雄二の体が力無く揺らぐ。
烏月は続け様に大きく腰を捻ると、刺すような鋭さの回転蹴りを繰り出した。
蹴撃は雄二の胸部へと沈み込み、その身体を大きく後ろへと弾き飛ばす。
烏月は続け様に大きく腰を捻ると、刺すような鋭さの回転蹴りを繰り出した。
蹴撃は雄二の胸部へと沈み込み、その身体を大きく後ろへと弾き飛ばす。
「――――ハッ!」
「ぐがあっ! あぐっ……げほ……っ」
「ぐがあっ! あぐっ……げほ……っ」
肺まで伝わる激しい衝撃に、雄二が苦痛の表情を浮かべながら後退してゆく。
そこへ追い縋る鬼切りの修羅。
烏月は確実に前進を続けながら、地獄蝶々を大きく横へと振りかぶった。
十分な予備動作を伴って放たれる剣戟は、文字通り必殺の一撃と化すだろう。
そこへ追い縋る鬼切りの修羅。
烏月は確実に前進を続けながら、地獄蝶々を大きく横へと振りかぶった。
十分な予備動作を伴って放たれる剣戟は、文字通り必殺の一撃と化すだろう。
(俺は……此処で死ぬ、のか……?)
雄二は動けない。
斬られた足は今も激痛を訴えているし、胸を強打された所為で呼吸すらも侭ならない。
眼前には、刀を構えたまま踏み込んでくる烏月の姿。
あの刀が振るわれた時自分は死ぬのだと、当然のように理解出来た。
しかし雄二が全てを放棄しかけたその瞬間、脳裏に姉の姿が浮かび上がった。
斬られた足は今も激痛を訴えているし、胸を強打された所為で呼吸すらも侭ならない。
眼前には、刀を構えたまま踏み込んでくる烏月の姿。
あの刀が振るわれた時自分は死ぬのだと、当然のように理解出来た。
しかし雄二が全てを放棄しかけたその瞬間、脳裏に姉の姿が浮かび上がった。
(――あね、き)
(姉貴……、俺は――――)
環は最後に、『このみ、雄二――頑張って生きてね』と言い残した。
死を目前にして尚、残される者達を励ましてみせたのだ。
なのにその想いに応えられぬまま、自分はこんな所で朽ち果てるのか?
死を目前にして尚、残される者達を励ましてみせたのだ。
なのにその想いに応えられぬまま、自分はこんな所で朽ち果てるのか?
(……ふざけんな)
力の限り拳を握り締める。
今自分が倒れたら、誰が姉と貴明の無念を晴らすというのだ。
誰がこのみを守るというのだ。
未だ倒れる訳にはいかない。
未だ終わる訳にはいかない。
自分の全存在を懸けて、一秒後に迫った死を否定する――!
今自分が倒れたら、誰が姉と貴明の無念を晴らすというのだ。
誰がこのみを守るというのだ。
未だ倒れる訳にはいかない。
未だ終わる訳にはいかない。
自分の全存在を懸けて、一秒後に迫った死を否定する――!
「終われない! 俺はまだ、終われないんだあああああっ!!!」
「な――――!?」
「な――――!?」
気合の咆哮。
雄二は強引に痛みを噛み殺すと、上体を屈めた態勢で烏月の懐へと飛び込んでいった。
横薙ぎに振るわれた地獄蝶々の白刃は、雄二の頭上を空転するに留まる。
その空振りの隙を狙って、雄二は渾身の力で拳を上方へと振り上げた。
雄二は強引に痛みを噛み殺すと、上体を屈めた態勢で烏月の懐へと飛び込んでいった。
横薙ぎに振るわれた地獄蝶々の白刃は、雄二の頭上を空転するに留まる。
その空振りの隙を狙って、雄二は渾身の力で拳を上方へと振り上げた。
「がっ…………!」
顎を強打された烏月の動きが一瞬停止する。
続けて雄二は烏月の頭を両手で掴み取ると、強烈極まりない頭突きを見舞った。
堪らず烏月が後退しようとするが、尚も雄二は攻める手を緩めない。
両の拳を強く握り締めて、何度も何度も眼前の敵へと叩き込む。
続けて雄二は烏月の頭を両手で掴み取ると、強烈極まりない頭突きを見舞った。
堪らず烏月が後退しようとするが、尚も雄二は攻める手を緩めない。
両の拳を強く握り締めて、何度も何度も眼前の敵へと叩き込む。
「おらあぁぁああああっ!!」
「グ、カ、ハ――――」
「グ、カ、ハ――――」
殴る、殴る、殴る、殴る……!
立て続けに撃ち放たれた拳撃が、烏月の脇腹へ、肩へ、頬へと突き刺さる。
雄二は更に追い打ちを掛けるべく、大きく一歩前へと踏み込んだ。
立て続けに撃ち放たれた拳撃が、烏月の脇腹へ、肩へ、頬へと突き刺さる。
雄二は更に追い打ちを掛けるべく、大きく一歩前へと踏み込んだ。
「食らい……やがれえええ!」
雄叫びと共に、全身全霊の正拳突きが放たれる。
だが烏月とて日々鍛練を積み重ねてきた猛者であり、そう容易く押し切られたりはしない。
烏月は上体を右へ傾けると同時に、肘撃ちによるカウンターを雄二の顔面へと打ち込んだ。
だが烏月とて日々鍛練を積み重ねてきた猛者であり、そう容易く押し切られたりはしない。
烏月は上体を右へ傾けると同時に、肘撃ちによるカウンターを雄二の顔面へと打ち込んだ。
「ご、があっ…………!」
自身の前進力を倍返しされた雄二が、たたらを踏んで後退してゆく。
それは烏月にとって十分過ぎる隙。
烏月は刀を深く構えてから、一気に距離を詰めようとして――そこで、凄まじいまでの悪寒に襲われた。
それは烏月にとって十分過ぎる隙。
烏月は刀を深く構えてから、一気に距離を詰めようとして――そこで、凄まじいまでの悪寒に襲われた。
「…………ッ!?」
何かが決定的に不味い。
心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような、喉元に刃物を押し付けられたような、そんな感覚。
それとほぼ同じタイミングで、背後から迫る足音。
心臓を冷たい手で鷲掴みにされたような、喉元に刃物を押し付けられたような、そんな感覚。
それとほぼ同じタイミングで、背後から迫る足音。
「う、アアァ――――!」
悪寒の正体を確認している暇は無い。
己が勘を信じて、振り向きながら剣を一閃する――!
己が勘を信じて、振り向きながら剣を一閃する――!
「っ…………!」
凶器と凶器が衝突して、甲高い金属音が鳴り響く。
烏月の視界に飛び込んだのは、刀を振り下ろした言葉の姿だった。
言葉は何もせずに、ただ戦いを見守っていた訳では無い。
他の者達が戦っている隙に、鞄から支給品の刀――小鳥丸を取り出していたのだ。
烏月が態勢を整えるのを待たずして、言葉は矢継ぎ早に鋭い剣戟を繰り出してゆく。
烏月の視界に飛び込んだのは、刀を振り下ろした言葉の姿だった。
言葉は何もせずに、ただ戦いを見守っていた訳では無い。
他の者達が戦っている隙に、鞄から支給品の刀――小鳥丸を取り出していたのだ。
烏月が態勢を整えるのを待たずして、言葉は矢継ぎ早に鋭い剣戟を繰り出してゆく。
「やああああぁぁっ!!」
「く、ッ――――――」
「く、ッ――――――」
一発、二発、三発、四発。
次々と降り注ぐ連撃の中、烏月は紙一重の回避を強要される。
振り下ろしの剣戟は横への跳躍でやり過ごし、心臓を穿ちに来る一撃は地獄蝶々で受け止めた。
しかし次の瞬間言葉は腰を落とし、更に一歩奥へと足を踏み入れた。
地面スレスレの位置から、烏月の喉に向けて最短距離で白刃が突き上げられる。
次々と降り注ぐ連撃の中、烏月は紙一重の回避を強要される。
振り下ろしの剣戟は横への跳躍でやり過ごし、心臓を穿ちに来る一撃は地獄蝶々で受け止めた。
しかし次の瞬間言葉は腰を落とし、更に一歩奥へと足を踏み入れた。
地面スレスレの位置から、烏月の喉に向けて最短距離で白刃が突き上げられる。
「この……っ…………!」
烏月は驚異的な反射神経で上体を後ろへと逸らし、間一髪の所で迫る死を空転させた。
だが相手の剣戟が予想以上に鋭い所為で、反撃にまではとても手が回らない。
先ずは態勢を立て直すべきだと判断し、一旦後方へと飛び退いた。
だが相手の剣戟が予想以上に鋭い所為で、反撃にまではとても手が回らない。
先ずは態勢を立て直すべきだと判断し、一旦後方へと飛び退いた。
「……驚いたな。まさか剣の勝負で、私が一瞬でも押されるとは思わなかった」
「私も驚きました。何しろ、会話をする暇も無いまま殺される所だったんですから」
「私も驚きました。何しろ、会話をする暇も無いまま殺される所だったんですから」
会話を交えながらも、烏月は首筋に嫌な汗が流れ落ちるのを感じていた。
言葉の剣戟は、烏月にとって警戒に値すべきものだった。
ほんの一瞬でも回避が遅れていれば、間違い無く喉を刺し貫かれていただろう。
それでも、自分とて千羽党の鬼切り役を勤めし剣士。
正面から斬り結べば、誰が相手であろうとも打倒する自信はある。
しかし、と烏月は言葉の横へ視線を移した。
言葉の剣戟は、烏月にとって警戒に値すべきものだった。
ほんの一瞬でも回避が遅れていれば、間違い無く喉を刺し貫かれていただろう。
それでも、自分とて千羽党の鬼切り役を勤めし剣士。
正面から斬り結べば、誰が相手であろうとも打倒する自信はある。
しかし、と烏月は言葉の横へ視線を移した。
「――形成逆転、だぜ」
「ッ…………」
「ッ…………」
烏月の眺め見る先では、雄二がこちらに向けて銃を構えようとしている所だった。
これで、状況は一対二。
言葉だけでなく、銃を持った人間までもが相手となっては、いかな烏月と云えども危険は免れない。
それに先程から、普段に比べてどうも身体の動きが鈍い。
このまま戦い続ければ、致命的な傷を負ってしまう可能性も十分考えられた。
これで、状況は一対二。
言葉だけでなく、銃を持った人間までもが相手となっては、いかな烏月と云えども危険は免れない。
それに先程から、普段に比べてどうも身体の動きが鈍い。
このまま戦い続ければ、致命的な傷を負ってしまう可能性も十分考えられた。
「潮時だね、此処は退かせて貰う。だけど次に会った時こそ――貴方達を殺す」
烏月はそう云うと、言葉達の方へと身構えたまま後ろ足で後退し始めた。
言葉達も、無理に追撃を仕掛けようとはしない。
痺れるような緊迫感の中、両者の距離だけが少しずつ離れてゆく。
灯りが届かぬ森の中という事もあって、直ぐに烏月の姿は闇に紛れていった。
言葉達も、無理に追撃を仕掛けようとはしない。
痺れるような緊迫感の中、両者の距離だけが少しずつ離れてゆく。
灯りが届かぬ森の中という事もあって、直ぐに烏月の姿は闇に紛れていった。
「…………」
戦場より離脱した烏月は、立ち並ぶ木々の隙間を縫う様に疾走する。
背後への警戒は決して怠らぬまま、血に塗れた地獄蝶々の刀身を眺め見た。
自身の手には、未だ雄二の太股を切り裂いた時の感触が残っている。
先の一戦は、間違い無く現実に起こった出来事。
命を奪うには至らなかったものの、自分は無実の人間を殺そうとしてしまったのだ。
それは許されざる大罪だが、だからと云って道を変えるつもりは毛頭無い。
背後への警戒は決して怠らぬまま、血に塗れた地獄蝶々の刀身を眺め見た。
自身の手には、未だ雄二の太股を切り裂いた時の感触が残っている。
先の一戦は、間違い無く現実に起こった出来事。
命を奪うには至らなかったものの、自分は無実の人間を殺そうとしてしまったのだ。
それは許されざる大罪だが、だからと云って道を変えるつもりは毛頭無い。
「桂さん……どうか、暫くの間持ち堪えて欲しい。
貴女を守ると誓ったあの時の約束、絶対に果たして見せるから……!」
貴女を守ると誓ったあの時の約束、絶対に果たして見せるから……!」
真っ直ぐに前を見据える烏月の瞳には、既に一切の迷いも浮かんでいない。
今回は敵を倒し切れなかったものの、次こそは必ず戦果を挙げてみせる。
そう胸に誓うと、烏月は暗い森の中を走り抜けていった。
今回は敵を倒し切れなかったものの、次こそは必ず戦果を挙げてみせる。
そう胸に誓うと、烏月は暗い森の中を走り抜けていった。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふう……。どうやら、戻って来たりはしないみたいだな」
烏月が走り去ってから十数分後。
傷付いた身で警戒を続けていた雄二だったが、敵が戻ってくる気配の無い事を確認すると、ようやく張り巡らしていた緊張を解いた。
途端に鈍い痛みが右足の傷口へと襲って来て、思わず地面に座り込んでしまう。
傷付いた身で警戒を続けていた雄二だったが、敵が戻ってくる気配の無い事を確認すると、ようやく張り巡らしていた緊張を解いた。
途端に鈍い痛みが右足の傷口へと襲って来て、思わず地面に座り込んでしまう。
「あっ……お怪我は大丈夫ですか!?」
言葉は慌てて雄二に駆け寄ると、ポケットからハンカチを取り出した。
そのまま腰を落として、ハンカチを雄二へと手渡す。
そのまま腰を落として、ハンカチを雄二へと手渡す。
「サンキューな。えーと……俺は向坂雄二だ。そっちは何て名前なんだ?」
「桂言葉です。先程は、危ない所を助けて頂いて有難う御座いました。私にとって貴方は命の恩人です」
「いや、助けられたのは俺も同じだって! 本当に、有り難うな」
「いえいえ、私の方こそ向坂さんが居なければどうなっていたか……」
「桂言葉です。先程は、危ない所を助けて頂いて有難う御座いました。私にとって貴方は命の恩人です」
「いや、助けられたのは俺も同じだって! 本当に、有り難うな」
「いえいえ、私の方こそ向坂さんが居なければどうなっていたか……」
二人は互いに何度も感謝の気持ちを伝え合う。
ペコリペコリと頭を下げ合う姿は、端から見れば滑稽なものだったかも知れない。
やがて雄二が、堪え切れなくなったかのように笑い出した。
ペコリペコリと頭を下げ合う姿は、端から見れば滑稽なものだったかも知れない。
やがて雄二が、堪え切れなくなったかのように笑い出した。
「はは、何だかお互い礼ばっかりだな。キリが無いから止めようぜ?」
「フフ……そうですね」
「フフ……そうですね」
言葉も微笑みを浮かべながら、雄二の云い分に同意した。
互いが互いにとって命の恩人である事は確かだが、このままでは一向に話が進まない。
雄二は少し間を置いた後に、疑問を言葉へと投げ掛ける。
互いが互いにとって命の恩人である事は確かだが、このままでは一向に話が進まない。
雄二は少し間を置いた後に、疑問を言葉へと投げ掛ける。
「なあ、桂は誰か探してる奴とか居ないのか?」
「え? 探してる人、ですか?」
「言い方が悪かったかな。つまり、知り合いが参加させられていないかって事だよ」
「あ――そうです、名簿を見ないと!」
「え? 探してる人、ですか?」
「言い方が悪かったかな。つまり、知り合いが参加させられていないかって事だよ」
「あ――そうです、名簿を見ないと!」
雄二に問い掛けられて、ようやく言葉は自分のミスを悟るに至った。
いきなり殺戮の孤島に放り込まれた所為で動揺してしまい、未だ名簿のチェックを行っていなかったのだ。
雄二が苦笑する中、言葉は慌てて鞄から名簿を取り出した。
いきなり殺戮の孤島に放り込まれた所為で動揺してしまい、未だ名簿のチェックを行っていなかったのだ。
雄二が苦笑する中、言葉は慌てて鞄から名簿を取り出した。
「え…………嘘……。誠くん……が……?」
名簿に目を通した言葉は、ハンマーで頭を強打されたかのような錯覚を覚えた。
伊藤誠――自分に出来た初めての恋人。
根暗な自分にも優しく接してくれた人物。
何を差し置いてでも守るべき、自分にとって全てとも云える存在。
そんな存在が、この殺し合いに参加させられている。
しかし次の瞬間、言葉は先に倍する衝撃を味わう事となった。
伊藤誠――自分に出来た初めての恋人。
根暗な自分にも優しく接してくれた人物。
何を差し置いてでも守るべき、自分にとって全てとも云える存在。
そんな存在が、この殺し合いに参加させられている。
しかし次の瞬間、言葉は先に倍する衝撃を味わう事となった。
「さい、おんじ、さん――――――」
言葉の視線が、一点へと集中的に注がれる。
名簿には、機械的な字で西園寺世界という名が記載されていた。
極めて珍しい名前である以上、同姓同名の別人という事は無いだろう。
言葉や誠と同様に、世界も殺人遊戯の舞台へと連れて来られているのだ。
そう、殺人が許されているこの孤島に。
名簿には、機械的な字で西園寺世界という名が記載されていた。
極めて珍しい名前である以上、同姓同名の別人という事は無いだろう。
言葉や誠と同様に、世界も殺人遊戯の舞台へと連れて来られているのだ。
そう、殺人が許されているこの孤島に。
「その誠って奴と、西園寺って奴は桂の知り合いなのか?」
「ええ、誠くんは私の恋人です。それに西園寺さんも、私にとって大切なお友達です」
「ええ、誠くんは私の恋人です。それに西園寺さんも、私にとって大切なお友達です」
雄二が疑問を投げ掛けると、言葉は迷わず首を縦に振った。
時を置かずして、世界との関係について説明を続けてゆく。
時を置かずして、世界との関係について説明を続けてゆく。
「そう……本当に大切なお友達。西園寺さんが紹介してくれたからこそ、私は誠くんと付き合えたんですから。
私、とても感謝しています」
私、とても感謝しています」
言葉の話に嘘偽りは一切無い。
嘗て西園寺世界は、誠と言葉が関係を深められるように尽力した。
もし世界の助力が無ければ、二人は会話する機会すら持てぬままだったかも知れないのだ。
嘗て西園寺世界は、誠と言葉が関係を深められるように尽力した。
もし世界の助力が無ければ、二人は会話する機会すら持てぬままだったかも知れないのだ。
「そっか。だったらまずは、その二人から探す事にするか?」
それは雄二からすれば、至極真っ当な提案だった。
今名前が挙がった二人は、言葉と極めて親しい間柄だと考えて間違いないだろう。
ならばその両名や柚原このみから探索してゆくのが、最も妥当な行動方針であるように思えた。
しかし次の瞬間雄二の耳に飛び込んできたのは、全く予想だにしない台詞だった。
今名前が挙がった二人は、言葉と極めて親しい間柄だと考えて間違いないだろう。
ならばその両名や柚原このみから探索してゆくのが、最も妥当な行動方針であるように思えた。
しかし次の瞬間雄二の耳に飛び込んできたのは、全く予想だにしない台詞だった。
「なのに――あの女は誠くんを誘惑した」
冷え切った声。
周囲の雑草が風に揺れ、ざわざわと耳障りな音を奏でている。
気温が数度下がったかと錯覚させられる程の、圧倒的な悪寒が雄二へと襲い掛かった。
周囲の雑草が風に揺れ、ざわざわと耳障りな音を奏でている。
気温が数度下がったかと錯覚させられる程の、圧倒的な悪寒が雄二へと襲い掛かった。
「かつ、ら……?」
雄二は呆然とした表情になって、眼前の少女を正面から直視する。
言葉の大きな瞳に、燃え盛る憎悪の火炎が浮かび上がっていた。
言葉の大きな瞳に、燃え盛る憎悪の火炎が浮かび上がっていた。
「西園寺さんは、私から誠くんを奪おうとしてるんです。友達の振りをしてた癖に、突然私を裏切ったんです。
誠くんは私とお付き合いしてるのに、それなのに西園寺さんは彼を誘惑しようとするんです」
誠くんは私とお付き合いしてるのに、それなのに西園寺さんは彼を誘惑しようとするんです」
少女が抱いている憎悪は何処までも暗く、何処までも根深いものだった。
友人だった筈なのに。
自分と誠の仲を応援してくれていた筈なのに。
世界は最悪の形で言葉を裏切って、誠と恋人関係になろうとしているのだ。
友人だった筈なのに。
自分と誠の仲を応援してくれていた筈なのに。
世界は最悪の形で言葉を裏切って、誠と恋人関係になろうとしているのだ。
「酷いですよね。絶対に許せませんよね。大体、誠くんが私以外の女の子を好きになる訳無いじゃないですか。
誠くんは何時だって、私の事だけを想ってくれています。
誠くんは私の事を名前で呼んでくれました。誠くんは私をデートに誘ってくれました。
誠くんは私の事を好きだって云ってくれました。
私と誠くんの気持ちは通じ合っているんです。
ただ誠くんは優しいから、本当に優しいから、西園寺さんの誘惑を断り切れないだけなんです。
たったそれだけの事なのに、馬鹿な西園寺さんは勝手に勘違いして……!」
誠くんは何時だって、私の事だけを想ってくれています。
誠くんは私の事を名前で呼んでくれました。誠くんは私をデートに誘ってくれました。
誠くんは私の事を好きだって云ってくれました。
私と誠くんの気持ちは通じ合っているんです。
ただ誠くんは優しいから、本当に優しいから、西園寺さんの誘惑を断り切れないだけなんです。
たったそれだけの事なのに、馬鹿な西園寺さんは勝手に勘違いして……!」
終わらない独白、膨れ上がってゆく憎悪。
雄二は一言も口を挟めない。
余りにも異常な独白を前にして、身体は完全に硬直してしまっていた。
ただ心臓だけが音を立てて、血液と共に不安を全身へと行き渡らせる。
そして数秒後、雄二の不安は現実のものとなった。
雄二は一言も口を挟めない。
余りにも異常な独白を前にして、身体は完全に硬直してしまっていた。
ただ心臓だけが音を立てて、血液と共に不安を全身へと行き渡らせる。
そして数秒後、雄二の不安は現実のものとなった。
「だけど私、思い付いちゃいました。誠くんを取り戻す方法も、西園寺さんに罰を下す方法も。
この島って、殺人が認められているんですよね。だから――」
この島って、殺人が認められているんですよね。だから――」
瞬間、言葉は目にも留まらぬ速度で鞄から刀を取り出した。
言葉の手元から奔る銀光が、雄二の脇腹へと吸い込まれてゆく。
言葉の手元から奔る銀光が、雄二の脇腹へと吸い込まれてゆく。
「ガ、ハ――――――――」
足を怪我している雄二には、逃れ得る術など無かった。
言葉は手にした小鳥丸で雄二の脇腹を貫いたまま、底冷えのする声で告げる。
言葉は手にした小鳥丸で雄二の脇腹を貫いたまま、底冷えのする声で告げる。
「――殺しちゃえば良いんです。先ずは西園寺さんを殺して、それから誠くんと一緒にこの島を抜け出せば良いんです」
言葉はおもむろに刃を引き抜くと、傍に転がっているニューナンブM60を抜け目無く回収した。
続けて力任せに雄二を押し倒して、馬乗りの態勢となる。
続けて力任せに雄二を押し倒して、馬乗りの態勢となる。
「その為には、足を怪我した味方なんて邪魔なんです。足手纏いを連れたままじゃ、誠くんも西園寺さんも探せませんから。
ですから、向坂さんは此処で死んで下さい」
ですから、向坂さんは此処で死んで下さい」
それは紛れも無い死刑宣告。
武器を失って動きも封じられた雄二には、逃げ延びる手段など最早存在しない。
だが――此処で直ぐに殺されていれば、未だ僅かながら救いがあったかも知れない。
少なくとも、これ以上の苦痛には晒されずに済んだかも知れない。
しかし次に言葉が行ったのは、余りにも無情な宣言だった。
武器を失って動きも封じられた雄二には、逃げ延びる手段など最早存在しない。
だが――此処で直ぐに殺されていれば、未だ僅かながら救いがあったかも知れない。
少なくとも、これ以上の苦痛には晒されずに済んだかも知れない。
しかし次に言葉が行ったのは、余りにも無情な宣言だった。
「直ぐには殺しません。私は西園寺さんを、出来るだけ苦しませた上で殺したいんです。
ですから、先ずは向坂さんで調べさせて下さい。どんなやり方をすれば、相手を一番苦しめられるかを」
「あ…………ぁ…………」
ですから、先ずは向坂さんで調べさせて下さい。どんなやり方をすれば、相手を一番苦しめられるかを」
「あ…………ぁ…………」
告げられた台詞の意味を理解した途端、雄二の表情が絶望に侵食されてゆく。
とどのつまり言葉は、雄二を実験台にしようとしているのだ。
冷たい白刃が、雄二の右人差し指へと添えられる。
とどのつまり言葉は、雄二を実験台にしようとしているのだ。
冷たい白刃が、雄二の右人差し指へと添えられる。
「糞っ…………ちくしょおおおおおおおおおおおおおおぉぉ!!」
雄二が叫ぶ。
良いように利用されたまま終わる、自らの身を呪って。
だがそんな叫びも空しく、雄二の指は無慈悲にも斬り落とされた。
良いように利用されたまま終わる、自らの身を呪って。
だがそんな叫びも空しく、雄二の指は無慈悲にも斬り落とされた。
「あガアアアアアアアアアアァァァァァっ!!!」
周囲一帯に響き渡る絶叫。
切断された指の斬り口からは、シャワーと見紛わんばかりの鮮血が噴き出している。
続けて言葉は雄二の顎を掴み取ると、空いている方の手で剣を構えた。
白刃の切っ先は、真っ直ぐに雄二の右目へと向けられている。
切断された指の斬り口からは、シャワーと見紛わんばかりの鮮血が噴き出している。
続けて言葉は雄二の顎を掴み取ると、空いている方の手で剣を構えた。
白刃の切っ先は、真っ直ぐに雄二の右目へと向けられている。
「ひ、……う…………ッ」
これから降り掛かるであろう厄災を予見し、雄二が懸命に瞼を閉じる。
しかしその程度の抵抗、時間稼ぎにすらなりはしない。
鋭い刃は難無く標的の瞼を突破して、そのまま奥にある眼球をも貫いた。
しかしその程度の抵抗、時間稼ぎにすらなりはしない。
鋭い刃は難無く標的の瞼を突破して、そのまま奥にある眼球をも貫いた。
「ああああああああああ…………ッ!!!」
グシャリという嫌な音と共に、凄まじい激痛が雄二の神経を埋め尽くす。
潰された眼球からは、赤白く濁った液体が涙の如く溢れ出している。
潰された眼球からは、赤白く濁った液体が涙の如く溢れ出している。
「――このくらい、未だ序の口です。もっともっと、色々試させて下さいね?」
「……う……ぁ……ぁあっ…………」
「……う……ぁ……ぁあっ…………」
拷問は止まらない。
世界を苦しめる為に、ただそれだけの為に、言葉は自らの恩人を刻んでゆく。
指を、目を、鼻を、耳を、口を、身体中のあらゆる箇所を、即死しない程度に斬り刻んでゆく。
静まり返った森の中で、雄二の悲鳴だけが何度も何度も木霊していた。
世界を苦しめる為に、ただそれだけの為に、言葉は自らの恩人を刻んでゆく。
指を、目を、鼻を、耳を、口を、身体中のあらゆる箇所を、即死しない程度に斬り刻んでゆく。
静まり返った森の中で、雄二の悲鳴だけが何度も何度も木霊していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「……ふう。向坂さんも死んでしまいましたし、実験は此処までですね」
言葉は額に浮かんだ汗を拭き取ってから、返り血に塗れた身体をゆっくりと起こした。
足元には、数十分前までヒトの形をしていた肉塊が転がっている。
完全に破壊尽くされたその状態からは、最早誰の死体であるか推し量るなど不可能だろう。
足元には、数十分前までヒトの形をしていた肉塊が転がっている。
完全に破壊尽くされたその状態からは、最早誰の死体であるか推し量るなど不可能だろう。
「それでは行きましょうか。西園寺さんを殺す為に、誠くんを取り戻す為に」
言葉の目的は二つ。
最低の裏切り者である西園寺世界の殺害。
そして、最愛の恋人である伊藤誠との生還。
それらの目的を成し遂げる為には、余計な行動など一切するつもりは無い。
利用出来る人間は利用し尽して、襲撃者や足手纏いは容赦無く殺害する。
全ては、自分と誠の幸せな未来の為に。
最低の裏切り者である西園寺世界の殺害。
そして、最愛の恋人である伊藤誠との生還。
それらの目的を成し遂げる為には、余計な行動など一切するつもりは無い。
利用出来る人間は利用し尽して、襲撃者や足手纏いは容赦無く殺害する。
全ては、自分と誠の幸せな未来の為に。
大丈夫、雄二を殺したお陰で銃も手に入った。
世界を苦しめ抜く方法も十分に研究出来た。
服が血塗れになってしまったのは面倒だが、新たな服を手に入れれば良いだけの話。
何も、問題は無い。
世界を苦しめ抜く方法も十分に研究出来た。
服が血塗れになってしまったのは面倒だが、新たな服を手に入れれば良いだけの話。
何も、問題は無い。
「誠くん、誠くん、誠くん、誠くん…………」
薄暗い森の中、返り血に染まった少女が独り歩いてゆく。
異常極まりない妄執を、胸の内に抱きながら。
異常極まりない妄執を、胸の内に抱きながら。
【向坂雄二@To Heart2 死亡】
【F-4 森/一日目 深夜】
【桂言葉@School days】
【装備:小鳥丸@あやかしびと -幻妖異聞録-、ニューナンブM60(1/5)、ニューナンブM60の予備弾15発】
【所持品:支給品一式×2、他不明支給品0~4(言葉の分と、雄二の分)】
【状態:小程度の肉体的疲労、血塗れ(向坂雄二の返り血)、殺人にタブーがない】
【思考・行動】
基本方針:西園寺世界を殺してから、誠と共に島を脱出する
1:西園寺世界に最大の苦痛を与えた上で殺す
2:伊藤誠と共に島から脱出する
3:利用出来る人間は利用して、襲撃者や足手纏いは容赦無く殺す
4:返り血の付いていない服に着替える
5:千羽烏月を警戒
【桂言葉@School days】
【装備:小鳥丸@あやかしびと -幻妖異聞録-、ニューナンブM60(1/5)、ニューナンブM60の予備弾15発】
【所持品:支給品一式×2、他不明支給品0~4(言葉の分と、雄二の分)】
【状態:小程度の肉体的疲労、血塗れ(向坂雄二の返り血)、殺人にタブーがない】
【思考・行動】
基本方針:西園寺世界を殺してから、誠と共に島を脱出する
1:西園寺世界に最大の苦痛を与えた上で殺す
2:伊藤誠と共に島から脱出する
3:利用出来る人間は利用して、襲撃者や足手纏いは容赦無く殺す
4:返り血の付いていない服に着替える
5:千羽烏月を警戒
【千羽烏月@アカイイト】
【装備:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-】
【所持品:支給品一式、他不明支給品0~2】
【状態:小程度の肉体的疲労、身体の節々に打撲跡】
【思考・行動】
基本方針:羽藤桂を生還させる為、他の参加者達を皆殺しにする
1:桂以外を全員殺して、最後に自分も自害する
2:桂を発見したら保護する
【備考】
※烏月は桂言葉や向坂雄二の名前を知りません(外見的特徴のみ認識)
※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています
※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です
【装備:地獄蝶々@つよきす -Mighty Heart-】
【所持品:支給品一式、他不明支給品0~2】
【状態:小程度の肉体的疲労、身体の節々に打撲跡】
【思考・行動】
基本方針:羽藤桂を生還させる為、他の参加者達を皆殺しにする
1:桂以外を全員殺して、最後に自分も自害する
2:桂を発見したら保護する
【備考】
※烏月は桂言葉や向坂雄二の名前を知りません(外見的特徴のみ認識)
※自分の身体能力が弱まっている事に気付いています
※烏月の登場時期は、烏月ルートのTrue end以降です
002:To all people | 投下順に読む | 004:月夜に踊る隠密少女 |
時系列順に読む | ||
千羽烏月 | 040:蒼い鳥に誘われて | |
桂言葉 | 051:私の救世主さま | |
向坂雄二 |