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断片集 アル・アジフ

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断片集 アル・アジフ



ユメイさんを止めなきゃなんねぇんだよ! 俺一人じゃどうにもならねぇ……おまえの力が必要なんだ!!」

 そう叫ぶ大十字九郎の顔は真剣そのもの。鬼気迫る勢いとはまさにこのことだ。
 それだけ緊急の用件なのだろう。聡明なる妾だからこそ、九郎の心理は手に取るようにわかる。

 だが――しかし――いや――そうだな。
 正直に申すと、あのときの妾は嫉妬していたのだ。
 九郎の発言に在る『おまえ』という単語、これが差す対象は妾ではない。
 あの再会の瞬間、九郎の代わりに妾の隣に立っていた仮初のマスター……羽藤桂だったのだ。


 ・◆・◆・◆・


 我が名はアル・アジフ
 アブドゥル・アルハザードによって記された、最強の魔導書だ。
 凡百の衆には理解できぬだろうが、妾ほどの魔導書ともなれば魂を持つのは当然。
 少女としての肉体もまた、妾が取り得る姿の一つであると言えよう……心とて、雌のそれだ。

「……ってなわけだ。ユメイさんはまだ俺を探してる。今の内に打開策を練らなきゃならねぇ」

 歴代のマスターが必ずしも異性――外見を基準とするため、この場合は男――であったわけではない。
 もとより、性別など無意味なのだ。少女としての妾は魔導書の化身であって人間ではないのだから。

 さて、教会に向かう途中の林で偶然にも見つかった妾の元契約者、大十字九郎について話そうか。
 この魔術師崩れの三流探偵は、なにやら腹痛に襲われていたらしいが姿は以前と変わらずだ。
 妾の加護なしによくぞこの殺戮の舞台を生き延びた、と賛辞の一つでも与えてやりたかったが、

「桂よ。早急に碧たちを呼び戻すのだ。クリスとなつきもまた、教会に向かったとな」

 どうやらそんなことに時間を割いている場合ではないらしい。
 数時間前。羽藤桂のために、という名目で菊地誠を殺害し我らと決別したユメイが、この近くにいる。
 しかも九郎は、今もそのユメイから逃亡中の身の上だという。
 結果が行き倒れとは、頭の一つも抱えたくなるというものだが。

 ……九郎とユメイがこの地で面識を持っていたことは、当人に聞かずとも知っている。
 ユメイは既に、かつての知人を殺せるだけの意思を固めているというわけだ。
 真を殺害したときと変わらず、いやむしろ、より強固になったと見て取るべきだろうか。

 ユメイを止めることができる者がいるとすれば……妾や九郎では役不足だ。
 やはり、ここはユメイの縁者である桂に任せるしかあるまい。
 本人も罪の念に駆られているのか、桂とは顔を合わせたくないようだしな。
 揺さ振りをかけ、性根を正す機会があるとすれば、今を置いて他にあるまい。
 クリスやなつき、そして高槻やよいには悪いが、この場は一旦足を止め、ユメイへの対処に徹するとしよう。

 ……その前に、だ。

「九郎よ。事態は急を要する。さっさと済ませるぞ」
「は? 済ませるって、なにを……」
「決まっておろう。再契約だ」

 元のマスターである九郎と再会した今――戦力増強の意味も込めて、磐石を帰しておかなければ。
 ともなれば再度の契約は最優先事項、だというのに……な、なんだ、なんなのだ、九郎のこの素っ頓狂な反応は!?

「なにを呆けた顔をしておる。まさか、今の今まで契約が解除されていたことに気づいていなかったわけではあるまいな?」
「はぁ……いや、そりゃたしかにマギウスが使えなかったことにゃ気づいてたが……ああ、そうか。再契約できたのか」

 こ、この甲斐性なしめ……! どこまでうつけ者なのだ!
 妾は憤慨の意を冷静に鎮め、事を急ぐ。
 九郎との再会は喜ばしい。が、今は悠長に喜びを噛み締めている暇などないのだ。

「ええい、手順は初めて契約したときと同様だ! ほれ、もう少し寄れ近う寄れ!」

 妾は精一杯手を伸ばし、九郎の胸ぐらに掴みかかる。
 そのまま顔が届く位置まで引っ張り、致すのだ。

 ……アーカムシティの街路と、この島。
 舞台は違えどもすることは同じ、二度目となる契約の儀。
 どちらも色の知れぬ空気ではあったが、これが妾と九郎らしいと言えば、それまでなのか。

 ……ふん。

 光が、妾と九郎を包み込む。
 魔法陣が彩る力の海に、二人が沈む。

 そこから先は――――。


 ・◆・◆・◆・


 ……妾はいったい、なにを赤くなっているのだろうな。
 結局のところ、生きて再び唇を合わすことが叶ったのだ。
 桂とのことなど考えずとも、妾と九郎の縁は――切れようはずもなかった。

「九郎め……今頃は湯船の中か。生傷も癒えぬというのに、まったく無茶を――いや、『相変わらず』無茶をする」

 教会に集った者たちの数は、老若男女人間非人間含め十七人。
 随分と大所帯になったものだ。この中には当然、ユメイ……いや、羽藤柚明もいる。
 妾や桂があれだけ世話を焼かされたのだからな。今さら脱退など、死んでも許さん。

 生存者中唯一の障害である来ヶ谷唯湖、そして神崎らの一派。
 敵と呼べるのはこれらか。それに当たるのもまた、我ら十七名と。
 いや、現段階ではナイアという不確定要素も加えればならぬか。

 まったく、悩ましい。

 ……だが、以前よりは気が楽だ。

 なぜだろうな…………いや。

 わかっている、わかってはいるのだ。

 それをあえて認めるのは、妾の……。


「まったく、うつけ者めが」


 妾は羽藤桂との仮契約を破棄し、再び大十字九郎と契約を結んだ。

 そういうことなのだ。

 浅間サクヤの死を乗り越え、自らの力で柚明を取り戻した桂。

 もはや小娘などとは呼べまい……桂にはもう、妾は不要だ。


「……されとて、消えるわけにはいかないのが彼岸の者の宿命というやつか」


 今のアル・アジフは、大十字九郎と共に在る。

 これからの戦い、妾の隣を行くのは九郎でなくてはならない。

 それが契約というものなのだ……心しておくれよ、我が親愛なるマスター殿。

 さて、那岐にナイアなる存在について問い質さねばならん。
 今頃は外で警戒を続けているだろうか。周辺に魔力の気配はないが、妾も顔を出すとしよう。
 九郎は……ああ、風呂場にはドクター・ウェストも向かったのだったな。ならば、考えるのはやめにしよう。
 ……せめて妾の隣に立つときは、馬鹿もほどほどにしてほしいものだが。


「頼りにしておるぞ、九郎」



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