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断片集 アリッサ・シアーズ

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断片集 アリッサ・シアーズ



 こんこん、とノックをひとつ。人はいるのにへんじがない。
アリッサはドアノブをかちゃり、へやに入る。せまくてまっ白でうす暗い。

「グリーアさん、グリーアさん、引きこもってばかりいると、みんなにきらわれるよ」

 テレビにくぎ付けのおじいさんは、頭をとても重たそうに回す。

「ふぅ、アンドロイドを調整する時間になったのかな」
「ちがう、ちがう、ごはんもってきたの。さめない内に食べてね」
「ああ、そこのテーブルに置いてくれ」

 グリーアはお皿も見ないでがめんにムチュウ。アリッサはほっぺたをぷうっとふくらませる。

「もうっ、そうじゃないの。すぐにちゃんと食べてくれないと、アリッサが困るの。
 パパから、みんなのケンコーに気をくばれって、言われてるんだから」
「ああ、すまないが、そのマニュアル染みた芝居を止めてくれないかね。どうも違和感を覚える」

 アリッサはグリーアの深いため息を耳にして、

「ほぉ、酔狂だな。我は儀式遂行用の人型兵器だぞ。演技なしには癒しも激励も期待できないと思え」

 純朴な微笑みを端正な嘲笑に変貌させた。ジョセフ=グリーアはその方がマシだと投げやりに呟く。
最新鋭のOSを持つ生体機械は老人の凝視するモニターを覗き込む。

「また、深優・グリーアを観察していたのか。よもや、アレを殺し合いから救い出せると考えてはいまい」

 神父は眉を顰め、顔に深い皺を刻む。そして、ゆっくりと、くたびれた、失望しきった声を搾り出す。

「そんなことは、無理だろう……できるわけがない」

 紅眼の少女は彼の脳波、呼吸、汗腺、血流、筋肉を俯瞰。不敵に笑う。

「正常な認識さえあればそれで良い。だが、深優のモデルは汝の実娘、優花なのだろう。こうも執心だと少々疑念が沸くのだな。
 身の潔白を晴らすのも兼ねて、気晴らしでもしたらどうだ。なんなら、我が一曲歌って見せようか?」
「悪いが、気分が優れない。少し放っておいてくれないか。もちろん、これからも自分の勤めは果たすつもりだ」
「そうか、とにかく食料を経口摂取しろ。栄養剤とは脳の刺激が違う。それから、精神安定剤の処方は今のままで構わないな?」


 グリーアはただ形式的な相槌で反応するのみ。そして、静寂。音響スピーカーから、草木の擦れる音だけが響いている。


 少女は部屋を後にした。


 ・◆・◆・◆・


 こんこん、とノックをひとつ。人はいるのに反応がない。
アリッサはドアノブを半回転させ、室内に足を踏み入れる。薄暗い照明の白い防音壁の個室へ。

「ミスターグリーア。まだ、その調子か」
「今度は何の用かな」

 グリーアは視線をモニターに固定したまま、鈍い声で反応する。アリッサは再び、彼の前にランチを置いた。

「汝のモチベーションを高めにきた。我なりに考えた答えがこれだ」

 グリーアは皿に盛られた料理を見て、焦点をアリッサに合わせる。彼女はエプロンの皺を伸ばしながら、表情を変えずに語る。

「食せ、毒は入ってないぞ」


 彼は皺だらけの手でフォークを握り、絡め取ったパスタをゆっくりと咀嚼。

「悪魔のソース仕立てか。優花のレシピを深優のバックアップメモリーからトレースしたかな」
「深優はアリッサ優先で、刺激の強い食事は滅多に作らなかったのだろう」

 だが、アリッサはグリーアのストレス上昇を確認する。少女は少し首を傾げ、自分の小さな手を結んで開く。そして、真顔で、

「ん、香辛料の配分は同じはずだが、微妙に味の違いが出たか。
 まあ、こうも体格が違うと調理の誤差は免れんのだ。そこは脳内補完で優花が作ったと思い込め」

 グリーアは目頭を軽く押さえてから、顔をモニターに向ける。

「悪気はないのだろうね。ああ、料理は懐かしかったよ、胸が締め付けられるほどに。
 ただ、深優はまだ生きている。そういう気持ちにはなりたくないのだ」

 彼の視線の先にあるものはアリッサの興味を惹いた。それは線路脇にぐったりと倒れた深優。

「だが、時間の問題だな。『この深優』には早々に見切りをつければ気が楽だろうに」

 グリーアは無言だ。だが、穏やかだった顔が僅かに険しくなる。少女は得意げに言葉を続ける。

「なに、アレにはバックアップが存在するのだ。ここで功績を挙げさえすれば、もしかすると、新たな研究プロジェクトを――」

「出て行ってくれ……」

 ついに、老人の悲痛な哀願が少女の言葉を遮る。

「頼むから、出て行ってくれ。ああ、君にわかるまい。人間の気持ちなど、絶対にわかるまい。
 だが、せめて、これ以上、私を苦しませないでくれ!」

 男は瞳を閉ざしたまま。テーブルを握る彼の指は、力を入れ過ぎて血流が滞っている。
アリッサは軽く頭をかくと、ゆっくりと腕を組む。

「む、逆効果であったか。そこは詫びよう。ただ、これは我の独断ゆえ、財団は恨まぬようにな。今後、汝の食事は他の者に運ばせる」 

 グリーアは無反応。彼は双瞳を閉ざし、少女からのあらゆるアプローチを遮断しているようだった。



 少女は部屋を後にした。


 ・◆・◆・◆・


 こんこん、とノックをひとつ。一番地を鎮める贄はあるのに返事が無い。
アリッサはマスターキーを挿入し、ジョセフ・グリーアの私室に踏み入れる。

 あの男は彼女の顔を見て安堵の息を漏らす。だが、すぐに唇を固く締め、緊張した趣を見せる。

「もう来ない筈ではなかったのかね」
「汝を反逆者として処刑するため、神崎の下へ連行する」

 アリッサは顔色ひとつ変えずに宣告する。グリーアはソファーから腰を上げ、軽く語気を強めて抗議する。

「私はずっとモニターを眺めていただけだ。そのせいでこの殺し合いの意味すら把握していない有様だ。
 そのような老いぼれに反逆の機会などあったと考えるのかな。根拠無しに一番地に譲歩すれば君達も危害を蒙るだろう」
「だが、叛意は初めからあっただろう? 我の目を欺けると思うな」

 アリッサはグリーアに背を向け、モニターを観察する。HiMEに覚醒した深優は衛宮士郎と熾烈な戦闘を繰り広げている。

「ほぉ、面白いことになっている。もしかすると、アレは『第二幕』に到達できるかもしれん。
 汝はその時の保険ゆえ、丁重に扱いたかったのだが。そうするには状況が大きく変わってしまった。ただ、気がかりなのは――」

 左肩に食い込む9mmパラベラム弾。赤い人工血液が飛散する。アリッサは後ろを振り返る。
M92が骨ばった手の中で小刻みに震えていた。

 アリッサは一振りの刀、real the wordのプロトタイプを虚空から抜き出す。


 この場での殺害は正当防衛。これでグリーアの尋問にすずの言霊を使われずに済む。
一番地にシアーズの秘密を渡さずに済む。神崎をもう暫く欺くことができる。

「今の汝に望んだのは要するにそういうことだ。汝の蛮勇と聡明さに敬意を表し、殉職手当を三割増にしよう」


 幼い少女は緋眼を輝かせていた。今までにない満面の笑顔だった。



 彼女は部屋を後にした。



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