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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 3

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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 3 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


「ピッチャー交代! クリスくんに変わって九郎くん!」

 二回の表、再び《Aチーム》の攻撃。
 このゲームの発案者であり、《Bチーム》の采配の権利を握る碧は、先の回を二失点で終えたクリスを引っ込め、九郎をマウンドに上げた。

「クリスくんはそのまま、九郎くんのいたセカンドに移動。さー、気持ちを切り替えていくよーっ」

 キャプテン気分で声を出す。実に生き生きとした姿だった。
 付き合わされるほうとしては、気苦労が溜まるというものだが。
 九郎は降板するクリスからボールを受け取り、早くもげんなりする。

 そのクリスも俯いた面持ちで、特別声をかけてきたりはしない。
 九郎は多少心配になりつつも、碧に急かされるのはごめんなのですみやかにマウンドに立った。
 捕手は変わらず玖我なつき。そしてバッターボックスに立つのは、

「どぅわーっはっはっはっは! ドォクタァァ――――ッ! ウェェェストッッ!!」
「……」

 ひとり、ユニフォームではなく一張羅の白衣を身につけるドクター・ウェストだった。


 二回表   【A】 2 - 0 【B】   無死無塁   A:打者:ドクター・ウェスト   B:投手:大十字九郎 


「二回の表にして我輩と大十字九郎がぶつかることになろうとは、これも天の采配に違いないのであ~る。
 先のギャンブル合戦ではマッスル☆トーニャ他オーディエンスの邪魔に遭い決着がつかなかったが、今回は一対一。
 負けたとしても人のせいにはできないであるからして、今のうちに泣いておくのが利口であるぞ?」

 あからさまな挑発には、乗る気にもなれない。
 なんだかんだで長い付き合いなのだ。免疫など、とっくの昔についている。

(でも、ま、ここいらでヤローの鼻っ柱を折っとくのも悪くないか)

 むしろ故意にデッドボールでも狙ってやろうか、などとも思う。

「臆したか大十字九郎。我輩からの豪打を浴びるのが怖いというのなら、ベンチに引っ込んでいてもいいのだぞ?」
「うっせぇ! いま投げてやるよ!」

 苛立ちながらも、九郎は投球のモーションに入る。
 男は度胸、喧嘩をふっかけるときは正面から。オーバースロー以外の投げ方など、知っていたとしても使わない。
 全身を駆使して放つ豪速球が、一直線に伸びる。
 ウェストはまともに反応することすらできず、ボールはなつきの構えるミットに突き刺さった。

「よっしゃあ! 見たか、これが大十字九郎様必殺の」
『ボール』
「って、なぁにぃぃぃ!?」

 ストライクゾーンの中心点を射抜いただろう一球は、しかし審判の判定によりボールと下される。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <あれ? 今のボールはストライクのように見えましたが……。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <審判は彼だ。彼がボールと言うのなら、ボールなのだろう。
(i゙i†i´.r')


 これにより気勢を削がれた九郎。追い討ちをかけるように、ウェストが呵呵大笑する。

「ぶぅわーひゃっひゃ! どうしたどうした、大十字九郎。いくら球が速くとも、入らなければ意味はないぞ?
 以前から凡人の中の凡人とは思っていたが、それに『ノーコン』の属性を加味してほしいのであるか?
 ぷぷ、“平凡なるノーコン”大十字九郎――おおう、これぞ正しく、貴様にお似合いの称号なのであ~る」

 ギリ、ギリ、と硬いものが擦れ合う音が響く。九郎の歯軋りだった。

「まだ初球だぞ九郎。奴のペースに乗るでない」
「ああ。んなこたぁわかってるよ!」

 遠方、レフトのアルから忠告を受け取り、怒りを静める。
 熱くなっては負けだ。今はボールコントロールのみに意識を配ろう。と、

「う、らぁっ!」

 自らに言い聞かせての第二球。
 今度こそど真ん中のストライクを確信したが、

『ボール』

 判定は先ほどと同じく、コースから外れています、とでた。

「ぬぅおおおおおお! あれか? やっぱ俺は平凡なノーコン野郎だったのかあっ!?」
「のわぁーっひゃひゃひゃ! そのまま地面に突っ伏し夏の地区予選一回戦敗退の味を噛み締めるがいいのであーる!」
「おい、さすがに今のはおかしいだろう。九郎の投げた球は、間違いなくストライクだったぞ」

 ショックのあまりマウンド上で四つん這いになる九郎。代わって、キャッチャーのなつきが審判に抗議を訴えた。
 しかし、審判員は寡黙なブラックロッジ戦闘員だ。発する言語はガー、ビー、といった機械音と、基礎的な野球用語のみ。
 なつきの抗議に対しては、ふるふると首を振るだけだった。

「くっ……こいつ、故障しているんじゃないのか?」
「故障? 我輩の作品が? なんという片腹大激痛。地球がひっくり返ったとしてもありえんことなのである。
 が、どうやら凡人は凡人なりに、この判定がどこかおかしいということには気づいたようであるな。
 このまま疑問を抱えて溺死するのはあまりに滑稽。慈悲深い我輩が今ここで種明かしをしてやろう」

 ウェストは自身が改造した覆面審判を指差し、笑いながら熱弁する。

「これぞ、ドクター・ウェスト球審マシン『そんなことより野球しようぜ!君』の秘密機能。
 打者もしくは投手が大十字九郎のときのみ、球審のモード設定がオートで『鬼』へと変化するのであ~る」

 ウェストの激白に、九郎は愕然とした表情を浮かべながらも、ゆっくりと身を起こしていった。

「つまり……九郎が相手のときだけ、判定が厳しくなるということか?」
「Exactly(その通りでございます)」
「さすがにイカサマだろうこれは!」

 ウェストに掴みかからん勢いのなつき。ファーストでは、碧が失笑を零していた。

「う~ん、ウェスト博士にそれ頼んだのは私だけどさぁ。ルールもなんでもありって言っちゃったしねぇ」
「おまえ、さっきから自分で自分の首を絞めてばかりじゃないか!?」
「にゃにー! なつきちゃんもキャッチャーなら、気合と根性でなんとかしてみせなさいよー!」

 やり場のない怒りは、仲違いすら生もうとしている。
 それすら計算して戦闘員を改造したというのなら、天才の名に恥じぬ恐るべき謀略だ。
 だからといって、それに屈することなどありえない。完全に立ち上がってみせた大十字九郎が、不敵な面構えで対戦者を見た。

「なつきぃ! いいからミットを構えろぉぉっ!」

 言い放った直後、なつきが体勢を整えるのも待たずに、九郎は第三球を投げた。
 今度は意図的にストライクゾーンから外した、暴投すれすれの悪球である。
 ストライクがボールと判定されるならば、ボールに投げてストライクを取ればいい。
 凡人なりの逆転的発想は、あまのじゃくな球審の心を揺さ振り、

『ボール』

 それでも、ボールはボールだった。

「なぜだぁぁぁ!?」
「いや、あたりまえだろう」

 九郎の珍プレーでなつきの熱は冷めたようだが、これでノースリーと窮地に追いやられてしまった。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <解説の言峰神父。これは九郎選手にとっては随分と厳しい状況ですねぇ。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <大リーグボール1号でも投げない限り、この状況は打破できまい。
(i゙i†i´.r')


 どこに投げてもボールはボール。ウェストがバットを振らない限り、フォアボールが決定してしまう。

(……ん? いや、待てよ)

 待ち受ける結果を確認して、九郎はふと気づいた。

「やい、ウェスト」
「なんであるか大十字九郎。よもやこの期に及んで命乞いなど――」
「そうじゃねぇ。このままいくとフォアボールになっちまうが、本当にそれでいいのか?」
「あったりまえであろう。それによって我輩は一塁に進出、貴様はノーコンヘボピッチャーの烙印を押されるのである」

 ウェストは自信満々といった様子で、バットをろくに構えもせずに九郎の投球を待っている。

「ほう、そうかい。だがよ、これは男と男の真剣勝負なんだぜ? フォアボールで進塁することが、勝ちと言えるのか?」
「なん……だ、と……である」

 ニヤリ、と九郎が口元を緩め、ウェストの驚愕を誘う。
 その動揺ぶりたるや、今までの余裕が嘘のように消えてしまっていた。

「問題、あるよな。フォアボールじゃあ、テメェは俺の球を打ち崩したことにはなんねぇんだからよ」
「ぐぬぬ……し、しかし! 勝負の世界とは結果がすべて、どのような勝ち方であろうとも――」
「そうかい。なら仕方がねぇ。俺は今までどおり、ボールにしかならねぇ球を投げるだけさ」

 杭は差し込んでおいた。後はこの一球が、杭を叩く木槌の代わりとなるであろう。
 九郎は確信を持って、コントロール度外視の速球を投げ込んだ。

「ぐ、ぬぅ……ええい、貴様の思い通りにはいかんのであ――――るッ!!」

 ウェストは方針を変え、九郎の球をフルスイングした。
 バットが打球を捉える。快音は快打を呼び、ボールは外野まで運ばれていく。

「っしゃあ! 引っかかりやがったなこの単細胞が!」

 軌道は無意味に高く、それでいて速度は緩い。十分に捕れるフライだった。
 九郎は打球の落下先、レフトの守備についていたパートナーに向けて叫ぶ。

「いったぞアル!」
「任せろ九郎!」

 息の合った掛け声を交わし、アルが何歩か後退する。
 打ち上げられたボールとの相対距離を測りながら、自らの立つべき位置を見極める。
 脳内演算が完了し、停止。グラブを頭の上に掲げ、捕球の体勢に入る。

「残念だったなドクター・ウェスト。この対決、妾と九郎の勝ちだ!」

 言うアルのわずか後方に、ボールは落ちた。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <え、エラー! アル選手、ボールの落下地点を見誤りました!
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <もう少し下がっておくべきだったか。まあ初心者にはよくあるミスだ。
(i゙i†i´.r')


 アルの思わぬエラーにより、ウェストはそのままダイヤモンドを快走。
 体力だけは無駄にあるようで、瞬く間にランニングホームランを達成してしまった。

「どひゃ、どひゃ、どぉわーひゃっひゃひゃひゃ! 一対二でも我輩大勝利!
 貴様ら二人とも、リトルリーグからやり直してくるがよかろうなのであーる!」

 悔しさが天元突破してしまいそうだった。というより、既にしていた。歯軋りのしすぎで血が出ている。

「あー……九郎くん? さすがに交代しとこっか? ストライク入んないんじゃ、厳しいっしょ?」
「いーや! ここまできたらこの回は投げきらせてもらいますよ、絶対!」

 大量失点の危機を感じたのだろう。碧がピッチャーの交代を提案するが、本人はそれを拒否する。

「馬鹿め! そもそも投手を交代できるのは一回に一度きり、大十字九郎をマウンドに上げたこと自体が間違いだったのであ~る!」

 ウェストの言うとおり、碧自身が用意したルールの上でも、この回はもう投手の交代は効かない。
 最悪《Aチーム》がこのままバットを振らずにいるだけで、点差がどんどん開いてしまうのだ。

「さすがにそれは興醒めですので、私は振りにいきますが」

 八番のウェストがホームに帰還し、打席が一巡。次は一番打者の九条だった。


 二回表   【A】 3 - 0 【B】   無死無塁   A:打者:九条むつみ   B:投手:大十字九郎 


「ストライクが無理なら打たせて捕ればいいんだよ! 男大十字九郎、意地でも投げきってやらぁっ!」

 カキーン。
 九条は今回も、初球から打ちにいって安打を築き上げた。


 ――その後は二番のトーニャが二塁打を放ち、九条がホームに帰還して一点。
 続く柚明、桂、美希の三人は内野陣の活躍によりどうにかアウトを取れたが、
 九郎の投手としての成績を見れば、ストライクゼロという残念な結果が残ってしまったのだった。




 ・◆・◆・◆・


「なつき。二人でこっそり抜け出しちゃおうよ」

 二回裏、《Bチーム》の攻撃。
 四番の碧が打席に立つ一方、ベンチ裏では、クリスがそんな言葉を漏らしていた。

 聞き手となったのは玖我なつきだった。
 彼女は自身のチャイルド、デュランを撫でながらぽかんとした表情を浮かべている。

 おまえはいったいなにを言っているんだ――という返しが喉まできて、しかし声には出せなかった。

「あ、ミドリが打ったよ。大きい……と、フェンスに当たっちゃったや。あれは、ファールっていうんだっけ?」
「ああ。よしデュラン、ゴー」

 なつきはデュランに指示を出し、ファールになったボールを拾いに走らせる。
 本番に備え、チャイルドとのコンビネーションを磨く意味でこうやってデュランに球拾いなどさせているのだが、
 今はそんなことよりも、クリスのおかしな言動が気になって呆け顔になってしまっていた。
 なつきは、聞き間違いではないかと自分自身に問いつつ、改めてクリスに向き合う。

「えっと……つまり、どういう意味だ?」
「だから、こんなことに付き合うのはもうやめようよ。楽しくないし……僕は、なつきと二人で部屋にいるほうが楽しい」

 反射的に顔が赤面してしまうが、心の端ではクリスらしからぬ発言だと怪訝に思った。
 このようなタイプの冗談を言う人間でもないし、そもそも団体行動を乱すような行為を取ろうはずもない。
 クリスという人間を十分に理解してはいるつもりだが、今の言葉の真意はまったく読めないでいるなつきだった。

「その、それはとても嬉しい言葉ではあるんだが……い、今はまだプレー中だしな。碧の次は私だし」
「……なつきは、僕と一緒にいるのが嫌なの?」

 眠たげな子犬の面持ちで見つめてくるクリス。心臓を指で抓まれたような衝撃が走った。

「僕よりも、クロウやレイジと一緒に野球をするほうがいいって言うの……?」
「い、いいわけあるか! わた、わたしは、クリスと……その……」

 天然でやっているのだろうか。このままでは容易に攻め落とされてしまう。
 クリスの誘いは嬉しくはあったが、団体行動中に自分たち二人だけ抜け出す、というのはやはり問題のような気がする。
 今さら人の目など気にするところではないが、碧が掲げる野球大会のテーマを正しく捉えるなら輪を乱すのは好ましくなく、
 だからといってこの素晴らしい機会を棒に振るうのはどうかとも思い、それはそれとして今日のクリスはいつになく母性を――

「……汝ら、ベンチの隅でこそこそとなにをやっておるのだ?」

 頭が混乱の境地に至る寸前、なつきはアルのじとっとした視線を受けて我に返った。

「あ、アル!? いつからそこにいたんだ!」
「あー、よいよい。そう慌てずとも。汝らに関しては今さらだからな、怒る気にもならん。
 ただしなつき、次は汝の打順だぞ。碧も三振に打ち取られてしまったようだし、せめて一本といきたいところだが」

 グラウンドのほうを見やる。碧はヘルメットを取り、頭を掻き毟りながらこちらへと帰る途中だった。
 ネクストバッターズサークルには誰もいない。次に控えておくべきなつきが、まだベンチ裏にいるからだ。

「い、いま行く! とりあえず一本だな? 任せておくがいいさ。はは、はは、ハハハハハ!」
「どうしたというのだ、汝は?」

 バットを手に取り、なつきは逃げるようにバッターボックスへと向かう。
 背後、相方を失ったクリスはつまらなそうにそっぽを向き、アルがその様子を訝っていたが、特に声をかけたりはしない。
 既にこのとき、小規模ながらも異変は始まっていたというのに。


 ――この回、《Bチーム》は九条を打ち崩すにはいたらず、碧、なつき、九郎と三者凡退に沈む。
 四点差を埋めるどころか、ヒットの一本も打てていない状況に、《Bチーム》の選手は揃って顔を顰めた。
 クリス・ヴェルティン一人を除いては。




 ・◆・◆・◆・


 踏ん張りどころの三回表。

「ピッチャー交代! ノーコンの九郎くんに代わって玲二くん。キャッチャーも交代で、なつきちゃんから深優ちゃんに」
「ノーコン言うなっ!」

 碧からの急な要請により、キャッチャーミットを託された深優。
 玲二は九郎からボールを受け取り、マウンドへと向かっていく。
 深優はこの采配を疑問に思った。

「杉浦先生。大十字さんはともかく、なつきさんまで代える必要があるのでしょうか? 彼女は捕手として立派にやれていたと思いますが」
「わかってないねぇ、深優ちゃん。なつきちゃんじゃあ玲二くんの球は捕れないのだよ。そう、これは相性の話なのさ」

 他のみんなが守備位置につく中、深優と碧はベンチ裏に残り密談を繰り広げる。

「捕手は昔から、投手の女房役って言ってね。意思疎通ができてこその間柄なのだよ。玲二くんの女房役は、深優ちゃんしかいないっしょ?」
「女房役……」

 そのどこか甘美なる響きを、深優は心の中で反芻していく。
 女房。つまりは妻。玲二が旦那。仮想夫婦。比喩表現に過ぎない。
 わかってはいても、鼓動が高鳴るのを感じてしまう。

「私が玲二の女房役……しかし、それはつまり……」
「ほらほら、玲二くんがマウンドで待ってるよ。行った行った」

 碧は深優の背中を押し、自分の守備位置であるファーストにつく。
 深優がマスクを被らないことには、玲二は投球練習も始められない。
 先ほどまでキャッチャーをやっていたなつきは、既に深優が守っていたショートに移動している。
 ならば、仕方がないか。と、

「私のせいでゲームが停滞してしまうのは、望ましくありません」

 呟きをベンチに残し、深優はキャッチャーボックスへと向かう。


 三回表   【A】 4 - 0 【B】   無死無塁   A:打者:ファルシータ・フォーセット   B:投手:吾妻玲二 


 玲二と深優の急造バッテリー、初戦の相手はファルシータ・フォーセットだった。
 バットを握るのは人生で二回目。どちらに分があるかと言えば、考えるまでもない。

(バッテリーは意思疎通ができてこそ……)

 注意深く目を凝らさなければわからないような微かな動作で、ミットを動かす。
 玲二のコントロールが的確ならば、ギリギリでストライクゾーンに入る位置。
 深優は声もなく、マスク越しの眼力のみで玲二にそれを伝える。

 玲二が第一球を放った。
 ボールは回転を纏って深優のミットへ。九条ほどの速さはないが、クリスのものよりはスピードに乗っている球だった。
 先ほどの打席は棒立ちでフォアボールを選択したファルに、この球が打てる道理はない。

(彼女に小細工は無用でしょう。ここは積極的にストライクを)

 ファル自身、フォアボールを頼りにしていたのだろうが、玲二に手元を狂わす気配はない。
 立て続けに二球、ストライクの判定を得て、追い込まれたファルは三球目でようやくバットを振るも、空振りに終わった。


 三回表   【A】 4 - 0 【B】   一死無塁   A:打者:高槻やよい   B:投手:吾妻玲二 


 続く七番打者、高槻やよい。彼女の戦力も、ファルとそう変わらない。
 むしろこちらはボール球を待とうとしない分、よりストライクが取りやすかった。

(ここはあえて外れたコースに、スローボールを放ってみましょう)

 深優はミットの動きだけで、思惑を玲二に伝える。
 玲二はなにも言わず、しかし投球のモーションに入る直前、コクリと頷いた。

 放られたボールは、深優の要求通りのものだった。
 ストライクか否か球審でも悩む微妙なコースに、ゆったりとした軌道のボールが届く。
 それがやよいには効果的だったようで、悩み悩んだ末に振ったという印象のバットが、見事に空を切った。

 あっという間の三振となり、絶好調続きだった《Aチーム》を残りひとつというところまで追い込んだ。


 三回表   【A】 4 - 0 【B】   二死無塁   A:打者:ドクター・ウェスト   B:投手:吾妻玲二 


「ドォクタァァ――・ウェェェェストッ!! 我輩の出番がきたのであ――――――っる!
 投手吾妻玲二よ、貴様には大十字九郎に勝るとも劣らないかつて殺されかけた恨みが胸いっぱい夢いっぱい。
 それを我輩のゴールデンバットで清算してやるからして、お袋さんの胸で泣いておくなら今のうちよと」

『ストライクッ! バッターアウト! ……スリーアウト、チェンジ』

「キィ~ングクリムゾン!? 我輩の華麗なる活躍が時間もろとも吹っ飛ばされたような気がしてならない!?
 あ、ありのまま今起こったことを話すのである……と語り部モードに突入したい心境であるが、なに、チェンジとな!?
 ええい、次なる打席では必ず逆襲を果たしてやるのであーる。覚えておけよ、こんにゃろぅ」

 ドクター・ウェストが瞬きの間に倒れ、《Aチーム》は三回目の攻撃を終える。

「やりましたね、玲二」
「ああ」

 三者凡退という成績に、玲二は歓喜の色もない。
 それでこそだ。彼にはクールな空気がよく似合う。ガッツポーズなどキャラが違う。
 颯爽と髪をかきあげる姿も見たくはあるが、それもどこか違うような気がするし、なによりこの素っ気なさがいいのだ。
 一方通行な恋愛感情であるというのは理解している。でも略奪愛とか燃えるよね、と心中の悪魔が囁きかけてもいるのだ。
 ああ、もうこの場で押し倒してしまおうか。相手は言わずと知れたファントムだがパワーならアンドロイドの自分のほうが――。

「…………なんという、ナイスな展開」
「どうかしたのか、深優?」
「いえ、なんでもありません」

 怪訝な顔の玲二もまたいい。
 と、深優は彼の女房役として、いたって正常な感想を抱いた。
 その気持ちに、なんの疑問も抱かず。




 ・◆・◆・◆・




.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <さぁ、なんとか巻き返したい《Bチーム》、三回裏の攻撃です。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <九条むつみを打ち崩さぬことには始まるまい。さて、誰が切り込むか……。
(i゙i†i´.r')


『ストライクッ! バッターアウト!』

 三回裏。先頭打者の七番アル・アジフは、九条の投球に対し果敢に振っていくも、成果は得られず。
 早々にワンナウトとなり、次の八番打者を打ち取れば、《Bチーム》の全員が九条に辛酸をなめたことになる。

「いや~、惜しかったねアルちゃん。君くらい小柄ならストライクゾーンも狭そうなのに、向こうもよく狙うなぁ」
「なにが惜しいものか。それよりも那岐、九条を打ち負かすのは並大抵のことではないぞ。心してかかれ」
「りょーかい。スポーツは学生の得意分野だ。ま、期待して見ててよ」

 いつもの軽口を飛ばしながら、那岐が打席につく。
 封印が解かれ、『那岐』となってからは見るからに弥生時代の住人といった風貌の彼だったが、
 ユニフォームとゼッケンに身を包む今は、風華学園で不真面目ながらも学生として暮らしていた頃の姿そのままだ。
 華奢ではあるが、運動オンチには見えない活発な少年。対するスーパーお母さん。軍配はどちらにあがるのか。

「さーて、そろそろ反撃といこうかな?」


 三回裏   【A】 4 - 0 【B】   一死無塁   A:投手:九条むつみ   B:打者:那岐 


 構えを取る那岐に、九条が第一球を放る。
 相変わらずの豪速球が、内角高めを貫いた。

「間近で見ると、いやはやおっかないねぇ。桂ちゃんもよくこんなの捕れるや」
「えへへー。最初は怖かったけど、大分慣れてきた感じだよ」

 敵側のキャッチャーと、そんな会話すらしてみせる。
 九条の瞳には、それが余裕と映ったか、あるいは諦観と判断されたか。
 どちらにせよ、彼女に手加減する意思などないのだろうが。

『ストライク!』

 今度は外角低めの位置に、レーザーのような速球が叩き込まれる。
 那岐は我武者羅にバットを振るっては見たものの、虚しく空を切るだけだった。

「コントロールも抜群、と。やれやれ、大人気ないというかなんというか」

 もはやお手上げといった様子で、苦笑いする。
 そんな那岐の様子を見ても、九条の堂々たる構えに変化はない。
 このままでは追い込まれて終わりか、と那岐は嘆息するも、

「……ゲームっていうのは、対戦者同志の力が拮抗しているからこそおもしろいんだよ」

 その瞳は、まだ勝負を諦めてなどいなかった。
 九条が投球する。那岐のスイング。久々に打撃音が鳴り響いた。
 那岐の放ったボールは、セカンド方向に向け、高く高く舞い上がり――しかしそれは、誰の目から見ても高すぎた。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <那岐選手、結果はセカンドフライのようです。これで九条選手の八人抜きが――
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <いや……どうやらこの打撃、ただでは終わらないらしい。ボールの行方を見たまえ。
(i゙i†i´.r')


 高さは足りすぎで、距離は足りない。方向もトーニャの守るセカンド方向。
 誰もがアウトと確信した、そのとき。
 一陣の風が吹いた。

「――っ!?」

 どこからともなく吹き付けてくる突風に、ピッチャーの九条が顔を顰める。
 守備についていた他の面々も、突然のことに驚き身をこわばらせた。
 セカンドのトーニャは、ボールを取りこぼすまいと風を無視してこれを追いかけるが、

「無駄だよ。それ、入るから」

 すぐに追うのをやめ、立ち止まった。
 那岐がファーストベースを目指して走る、その道中で零した宣言の通りに。
 強風に運ばれたボールは、ぐんぐんと飛距離を稼ぎ――セカンドフライから一転して、ホームランとなってしまった。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <スタンドイ~ン! なんという幸運でしょう。強風を味方につけ、そのまま入ってしまいました!
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <幸運などではない。上手く風に乗ったのがそうだとしても、それは極めて作為的なものだ。
(i゙i†i´.r')


「ちょっとちょっとちょっと! 今のおかしくありませんか!?」

 明らかにセカンドフライで終わるかと思われた打球が、風に流されスタンドまで届いてしまった。
 ラッキーというほかないこの結果に、異議を申し立てたのがショートを守る美希だった。

「ええ、たしかに。野外ならともかく、屋内であれほど強い風が吹くはずもありません。なにかしましたね?」

 ファーストを蹴り、さらにセカンドも回ろうかという那岐の進路に立ち塞がり、トーニャが詰問する。
 那岐は足を止め、悪びれもせずに真実だけを告げた。

「鬼道でちょいちょいっとね。突風を吹かせるくらい、天候を操るのに比べればらくちんだよ」

 那岐はどうやら、得意とする鬼道の力で人為的に突風を起こし、打撃の補助としたらしい。
 正直に答えた走者に、トーニャは「なるほど」とだけ返し、道を明け渡した。

「えー……なんだかそれって、ものすごく卑怯くさいと思うんですけど」
「鬼道の使用もアリ。とは事前に確認したことでもありますしね、言っても始まりませんよ」

 不服そうな美希の視線を受けつつ、那岐はダイヤモンドを回り終えた。
 狡い手を使ったが、これでようやく《Bチーム》に点が入った。
 そしてこの一点が、反撃の狼煙となる。


 三回裏   【A】 4 - 1 【B】   一死無塁   A:投手:九条むつみ   B:打者:クリス・ヴェルディン 


 再びのクリス対九条。那岐は、自軍のベンチからその様子を窺う。
 那岐相手には本塁打を浴びてしまった九条だったが、それに動揺することもなく、好投を続けている。
 クリスが彼女を正面から切って崩すには、天変地異でも起こらない限り無理というものだろう。

「なら、天変地異を起こしてみせようじゃないか。僕の力は稲作のためばかりじゃない、ってね」

 あと一球、とクリスが追い詰められたタイミングで、那岐がその異能を行使する。
 九条がトドメの一球を放ろうとしたところで、また突然の強風が吹き荒れた。
 これにより九条はフォームバランスを崩し、結果、



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <九条選手、これは大暴投! ボールはキャッチャーの遥か頭上を越えていきます!
  /)卯i、. 


 ボールは手中よりすっぽ抜け、明後日の方向に飛んでいってしまう。
 思わぬ失投に、キャッチャーの桂、バッターのクリス、なによりピッチャーの九条が愕然とした。

「クリスくーん。そのままバットを捨てて走るんだ!」

 失投の原因を生んだ張本人は、楽しそうな声でクリスに振り逃げを指示する。
 やや反応の鈍いクリスだったが、言われた通りに一塁へと向かい、ベースを踏みしめる。
 桂も捕り損ねたボールを懸命に追いかけたが、拾った頃にはもう、クリスはファーストベースの上だった。

「那岐……今のもおまえがやったんだろうが、さすがにやり方が汚すぎるんじゃないか?」
「いーのいーの。汚いって言うんなら、むつみちゃんにずっとピッチャーやらせてるあっちのチームのほうがずっと汚いって」

 チームメイトのなつきにまで注意を受けるが、那岐に反省の色はなかった。

「ゲームを楽しむには、ある程度の力の均衡が大切だからね。悪いけど、むつみちゃんにはマウンドを降りてもらわなきゃ」


 ――その後も、那岐の悪質なインチキは続けられた。
 突風を巻き起こしては九条の投球を邪魔し、バッターがボールを打ち上げれば、強風でそれを援護する。
 遠回しな投手交代の要求に、しかし《Aチーム》は屈することなく、マウンドに立つのは九条むつみであり続けた。

 ほとんどが九条の意地と根性だったのだろう。
 異能に邪魔されようとも、執念で捻じ伏せんと白球を放る。
 打順はこの回だけで一巡、七番のアルまで巡ったところで、ようやくスリーアウトチェンジ。

 その頃にはもう、《Bチーム》の加点は五点にまで上っていた。




Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 2 <前 後> Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 4



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