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Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 2

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だれでも歓迎! 編集

Little Busters!”M@STER VERSION” (突破) 2 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


 ……………………ピンポンパンポーン♪

 ご来場の皆様、大変長らくおまたせいたしました。
 ただいまより、『ギャルゲロワ2nd第二幕番外編・最終決戦直前記念大野球大会』を開催します!


     , -=ニ= 、
   /⌒,´   `ヾヽ
  ,'.:::::::/i|:::::トi、::、:::ヽ',
  !:::;:j;:i-ヾ__l戈、i;::::::!|
  ゞ从化}   じ`リ:::;':i
   |i`i!" _'__ "リ.:ノ:/  実況はわたくし音無小鳥、単なる事務員、音無小鳥ですよ!
   i| ゞ≧ぅ´_ノイ,i:/
   `'´ ̄≧/|く´_〉==,、
.     /,}::h^ソ彡7::::八ヽ
     j'/:.:|'´  ,ク__/  `{
    ハ_ノ-、ノ└彳 ::.,!
.   〈/ `~Y.:.:.:.:.:/   i



           ,.rヘ
      _i ̄ 7´  ir ´^!
    r‐'´/  / / ヘヘ  ヽ、
    i  /   iVL__i  ヽヽ 〉
    l    / マぅ  r_レ゙
    ii  r‐v´      Y',
    `} ト、j    - 一/   解説は神父である私が務めよう。
   ノノ i ヽ,' .    ,i゙ミ 
   "イ iヽヽ.,< `'┬‐iリミ
   リ ハヽヽ==┐ ̄「V___
   ゙" 「´ ヾ゙   i;:;:;:;く   ̄ ̄ ̄',ヽ



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <……あの、解説の言峰綺礼神父?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <なにかね、実況の音無くん。
(i゙i†i´.r')



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <あなたがこの場にいるのは、その、いろんな意味でアリなんでしょうか……?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <なに、私は彼女から『好きにしていい』と言われている。問題はあるまい。
(i゙i†i´.r')



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <は、はぁ……もうひとつ疑問なんですが、神父様が野球の解説というのどうなんでしょうか?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <冬木市の草野球大会では随分とならしたものでね。そういう君は事務員だが、知識はあるのかね?
(i゙i†i´.r')



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <はい。休日はひとり部屋で野球中継見てたり……ハッ!
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <……聞かなかったことにしよう。それよりも、そろそろ試合が始まるようだ。
(i゙i†i´.r')



     , -=ニ= 、
   /⌒,´   `ヾヽ
  ,'.:::::::/i|:::::トi、::、:::ヽ',
  !:::;:j;:i-ヾ__l戈、i;::::::!|
  ゞ从化}   じ`リ:::;':i
   |i`i!" _'__ "リ.:ノ:/    で、ではではあらためまして!
   i| ゞ≧ぅ´_ノイ,i:/     この試合は実況・音無小鳥、解説・言峰綺礼神父でお送りします。
   `'´ ̄≧/|く´_〉==,、   また、プレーヤーの皆さんには私たちの存在は不認知ですので、ご了承ください。
.     /,}::h^ソ彡7::::八ヽ
     j'/:.:|'´  ,ク__/  `{
    ハ_ノ-、ノ└彳 ::.,!
.   〈/ `~Y.:.:.:.:.:/   i


 ・◆・◆・◆・


 人工芝の不思議な感触を味わいながら、《Bチーム》のピッチャーがマウンドまで移動する。
 手の平に納まるほどの白いボールと、皮製の茶色いグラブを託されたのは、野球初体験のクリス・ヴェルティンだった。

「ええと、このボールをなつきのところまで投げればいいんだよね?」

 確かめるように言う。マウンドからバッターボックスまではけっこうな距離があるようで、返ってくる声はなかった。
 初めて経験する東洋の球技。ルールは頭の中に叩き込んだものの、上手くやれる自信はまるでない。
 なにせクリスは音楽家志望のインドア系である。運動神経もそれほどいいほうではなかった。
 とはいえ、明日は嫌がおうにもこの身を酷使しなければならないのだ。これしきの運動で音は上げられない。

「打たれても後ろが守ってくれる、ってなつきは言ってたし」

 Bチームの守備陣の様子を窺う。心強い面子が、遠くからクリスを見守っていた。
 外野陣、ライトには玲二、レフトにはアルが。
 内野陣、ファーストに碧、セカンドに九郎、サードに那岐、ショートに深優が。
 そして捕手、クリスの投げる球を補給する役目には、なつきがついている。
 一塁側ベンチには、応援係としてダンセイニの姿があった。

「なんだか、戦力の分配が均一でないような気もするけど……」

 三塁側ベンチで自分たちの打席を待つ《Aチーム》の様子を窺う。あちらは女の子ばかりだった。
 野球は主に、男子がやるスポーツだと聞いている。普通に考えて、男手の多いほうが有利と言えるだろう。
《Aチーム》にも男はいるにはいるが、それがよりにもよってドクター・ウェストとあっては、あんまりな気がしてならない。
 九郎、那岐、玲二――素人の自分はあえて含まない――と揃っている《Bチーム》と比較すれば、結果は明白ではないかとも思う。

「勝つためにミドリがこういう風にチーム分けしたんだろうか……」
「クリスくーん。投球練習ー。ちゃっちゃと済ませちゃってー」

 一塁に立つ碧に急かされ、クリスはものは試しと一球投げ込んでみた。
 正式な投げ方など知りはしないので、端から見てもデタラメなフォームだったとは思うが、どうにかノーバウンドでなつきのところまで届く。

「いい感じだぞ、クリス」

 キャッチャー用の防具で身を覆ったなつきが、クリスのもとまでボールを投げ返した。
 咄嗟に空いている右手が出るものの、すぐに引っ込め左手のグラブでそれを捕る。
 一連の投球動作を確認し、そこでふと、なつきが背後を振り返りながら口を開いた。

「ところで……後ろのこれはどうにかならないのか? 気味が悪くて仕様がないんだが」
「なにを言うか! 貴様、我輩が寝る間を惜しんで制作した作品にケチをつけるというのか!?」

 なつきの声を拾い、《Aチーム》側ベンチからウェストの野次が飛ぶ。
 受け取るなつきは、どこか苦い表情だった。
 無理もない。彼女の背後には今、黒いスーツを身に纏った覆面男が、中腰の姿勢で寡黙に構えているのだから。

「これぞ、ブラックロッジ戦闘員さん改――ドクター・ウェスト球審マシン『そんなことより野球しようぜ!君』なのであ~る」

 それは、昨日の夜にウェストがカジノで獲得し、寝る直前になって碧に依頼され改造を施した、悪の秘密結社所属の人造人間であった。
 普段は戦闘員として働く覆面男だが、今回ばかりは戦闘機能はオミットされ、ストライクかボールかを判定する球審としての役割を担う。

「お遊びとはいえ、やっぱ審判は必要でしょ? いやぁ、ドクターは仕事が速くて助かるやぁ」
「ふふん。それも天才ゆえに当然のこと。もっと褒めるべきなのであ~る」

 なるほど。ああやっておだてて作らせたんだな、とクリスは碧のほうを見ながら思った。
 怪しげな球審は気になるが、それで暴投などしてしまっては元も子もない。
 クリスは極力、なつきの構えるキャッチャーミットだけを見るように努めた。

「うん、どうにかやれそうな感じかな」

 その後も二、三球。十分に投球の感触をつかんだところで、練習を終えた。
 バッターボックスに、先攻《Aチーム》の一番手が立つ。

「あ――」

 赤のゼッケンに身を包み、ヘルメットを目深に被ったその人は、捕手なつきの実母である九条むつみだった。


 一回表   【A】 0 - 0 【B】   無死無塁   A:打者:九条むつみ   B:投手:クリス・ヴェルティン 


 なつきの母親が敵――というのを考えると、正直やりづらい。
 どのように投げたものかとクリスは苦心するが、

「クリスくん、あなたの白球がなつきのもとまで届くことはないわ」

 打席に立った九条から、思いも寄らぬ言葉が投げられた。

「――初球よ。初球から、あなたを打ち崩します」



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <おーっと、これはいきなりの予告ホームランでしょうか!?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <年配の彼女だが、その運動神経は侮りがたいものがある。さて、投手がどう出るか……
(i゙i†i´.r')


 九条のあからさまな挑発に、思わずクリスの身が震える。
 射殺されそうな目をしていた。直視に耐えがたく、反射的に目線を逸らしてしまう。
 遊びなどではない。九条は本気で、クリスの身を喰らいつくそうとしているのだ。

「さあ、来なさい」

 堂に入った構えで、バッティングフォームを整える先頭打者九条。
 もたもたしてはいられない。クリスは投球を迫られ、そして。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <さぁ、ピッチャー・クリス選手、振り被って第一球……投げました!
  /)卯i、. 


 放った白球は、緩やかになつきのミットへと向かっていき――しかし届くことかなわず、九条の振るったバットに狙い打ちにされる。
 クリスの視界から、ボールが消えた。目の前には、バットを放り投げ一塁ベースに向かって走る九条の姿だけがあった。
 なにが起こったのか、考え始めてすぐ、クリスは後ろを振り返った。守備につく皆も、同じ箇所を見上げていた。
 宙を舞う白球。曲線を描き、吸い込まれるようにして、レフト側のスタンドに消えていく。
 頭の中から覚えたてのルールを呼び起こし、クリスは九条がなにを成し遂げ、自分がどのような失敗をしてしまったのかを知った。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <ほ、ホームラン! 初回先頭打者、初球からのホームランです!
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <九条むつみ……やはり侮れぬ女性のようだ。《Bチーム》としても、これは痛かろう。
(i゙i†i´.r')


 ――本塁打。

 打ったボールがスタンドに入った場合、打者がベースを踏み外しでもしない限り、そこで加点が決定する。
 クリスは開幕を告げる第一球から、敵チームに先制点を許してしまったのだった。


 一回表   【A】 1 - 0 【B】   無死無塁   A:打者:トーニャ・アントーノヴナ・ニキーチナ   B:投手:クリス・ヴェルティン 


 ベースを一周し終えた九条に続き、《Aチーム》の二番手、トーニャが打席に立つ。
 九条ほどの威圧感はないものの、彼女はクリスやファルとは違って、ずぶの素人というわけでもないらしい。
 国籍こそロシアだが、暮らしていた国は日本と聞く。野球の経験くらいはあるのかもしれない。

「いやはや、九条さんもいきなり大人気ないことしますねぇ。婿いびりでしょうか?」

 緊張した様子もないトーニャに、クリスが第二球を放る。
 相変わらずの緩やかな軌道。トーニャはここぞとばかりに、

「なるほど。たしかにこれは、打ちごろ、です、ね!」

 ふわふわと漂う白球に、構えるバットを叩きつけた。
 九条ほどの高さも距離もない、が、ボールはクリスの頭を越えて飛んでいく。
 落下地点はライト、守備についていた玲二の手前に落ちた。即座に拾って一塁に送球。
 クリスがその様子を眺めるうちに、トーニャは悠々と一塁ベースを踏みしめ、出塁を果たした。

 たった二球で、被安打一、被本塁打一という結果。
 これが初体験だということを考えれば、決して恥ずかしい成績ではない。
 しかしクリスとしては、容易に納得できるものでもなかった。

「た、タイム!」

 がっくりとうな垂れるクリスを心配したのか、キャッチャーのなつきがタイムをかけマウンドへと駆け寄ってくる。

「大丈夫か、クリス?」
「……うん。でも」

 不甲斐ない自分を見せるのが、悔しい。
 なんとなく、なつきと目線が合わせられず、クリスは俯いたまま言う。

「ごめん……僕のボール、全然なつきのところに届かない」
「あまり気負うな。ゲームはまだ始まったばかりなんだぞ」

 なつきはまるで気にしてない風に返すが、クリスの顔には曇がかかったままだった。

「それに、次のバッターは柚明だ。ママやトーニャよりは打ち取りやすいだろう」

 バッターボックスには既に、三番打者の柚明が立っている。
 名誉挽回のためにも、早々にアウトを取らねばならない。
 クリスはなつきからボールを受け取り、頷いた。

「次は絶対に、なつきのところまで届くボールを投げるから」

 きちんと前を向き、なつきと視線を合わせて、力強く言い放つ。
 その様を見て、なつきは少し顔を赤らめていたようだが、すぐに後ろを向き、

「あ、ああ……その、期待、してるから。いや、だから……クリスのボールは、私が捕るんだな。うん」

 なにやらぽつぽつと、自分に言い聞かせるような呟きを残している。

「あのー、お二人さん? そろそろプレーを再開してもらわないと困るんですが……それにそこ、目立ちますよ?」
「え?」

 一塁走者のトーニャから注意されて、クリスとなつきはようやく気づいた。
 外野や内野、相手チーム側のベンチから、にやけた視線が一点に注がれている。
 投手が立つマウンドは、一切の遮蔽物もない衆目の場なのだった。

 おそらくはさらに顔を赤らめたのだろうなつきが、ダッシュでホームへと戻っていく。
 クリスも若干の気恥ずかしさはあったが、緊張もほぐれてむしろ好都合だ。

 焦らず一歩、着実に。
 まずはこのボールを、なつきの構えるミットまで届かせるように頑張ろう。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <なにやらいい雰囲気が出来上がっていましたが、それはともかく試合再開です!
  /)卯i、. 



 一回表   【A】 1 - 0 【B】   無死一塁   A:打者:羽藤柚明   B:投手:クリス・ヴェルティン 


 柚明を相手にしての第三球。クリスは渾身の力でボールを投げ放った。

『ボール』

 審判係の覆面人造人間が告げる。
 ようやくキャッチャーミットまで届いた球だったが、ストライクゾーンからはわずかに逸れていたようだ。
 アウトを取るには、打者ひとりに対しストライクを三つ取るか、打球を守備の人間がノーバウンドで捕るか、
 または守備側の人間がボールを持った状態で走者にタッチしなければならない、とクリスはそう記憶している。
 野球はチームプレーを重んじるスポーツであり、チームリーダーの碧からもなるべく打たせて捕るようにと言われているが、
 投手としての大役を果たすためにはやはり、三振に打ち取ってみたいものである。

(いや、駄目だ。ここは焦らず、確実に……)

 キャッチャーのなつきがボールを投げ返し、クリスがそれを捕ろうとした瞬間、

「クリスくーん! セカン、セカーン!」

 ファーストの碧が、急に叫び声を上げた。
 見ると、そこに前の打席で出塁したはずのトーニャの姿がない。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <盗塁です! ファーストランナーのトーニャ選手、二塁を奪わんと走り出しています!
  /)卯i、. 


 彼女はセカンドベース目指し、猛然な勢いで駆けていた。
 走者が次の塁に進むには、バッターが打撃に成功しなければいけなかったはずだ。
 柚明はまだバットを振ってすらいないのに――と、考える中で体が停止してしまった。
 なつきから投げ返されたボールを、捕りこぼす。慌てて、クリスは足下に転がったそれを拾う。
 その間もトーニャは止まらない。二塁を蹴り、今度は三塁へと走り出す。

 そうだ、たしかこれは、盗塁というものだ。
 今さら思い出し、クリスはどうにかトーニャの進塁を防がんと動き出すが、またすぐに止まってしまう。
 盗塁を目論む走者をアウトにするには、どうすればいいのかわからなかったからだ。

「クリスくん! こっちこっち!」

 走って直接タッチするべきか、それとも誰かに投げるべきなのか。
 と考えあぐねる中で、サードの那岐がクリスの名を呼び、ボールを寄越すよう手を振ってアピールしているのに気づいた。
 クリスはほとんど無我夢中で、サードへとボールを投げた。
 初心者が慌てて投げたボールが、そう易々と仲間のグラブに納まるわけもない。

 クリスの投げたボールの軌道は、那岐の立つ位置より四歩ほど左にずれていた。
 那岐は後ろにだけは逸らすまいと横っ飛びでこれを捕りにかかるが、グラブに当てるだけで精一杯だ。
 ボールが弾かれ、勢いをなくす。トーニャはその隙に三塁ベースを踏み、悠々と盗塁を達成したのだった。

「フッ……野球初体験の素人をピッチャーに据えるとは、そちらのチームの采配は杜撰すぎるようですね」

 トーニャの言葉に、ボールをグラブに収めた那岐が悔しそうな顔を浮かべる。
 クリスは呆然とし、マウンドから三塁側に立つトーニャを見続けていた。

「ええーい、気合入れろクリスくん! 君にはビギナーズラックを期待してんだかんねー!」

 ファーストの碧から、クリスに向かって檄が飛ぶ。
 なんとか、なんとかひとつ、アウトが欲しい。
 クリスは負けじと、再びバッターの柚明に向き直った。

ユメイさん、行きますよ!」
「は、はい」

 柄にもなく大声を出し、投球を再開するクリス。
 正直、悔しかったのだと思う。
 自分の性格は負けず嫌いなほうではないと思っていたはずが、どういうわけか熱くなってしまっている。
 それは碧が飛ばした檄のせいか、それともなつきがキャッチャーを務めているからか。
 なんにせよ、ちまちま考えるのはやめにしよう。

『ストライクッ! バッターアウト!』

 何球か投げ続け、柚明を三振に打ち取ることに成功した。
 相手がボール球を空振りしてくれたおかげもあるが、ようやくのアウトにクリスの顔がパーッと明るくなる。

「いいぞクリス! この調子でいこう!」

 なつきが励ましを添え、ボールを投げて返す。
 ここでの盗塁はさすがにないだろうが、三塁走者のトーニャにも警戒は怠らなかった。



 一回表   【A】 1 - 0 【B】   一死三塁   A:打者:羽藤桂   B:投手:クリス・ヴェルティン 


 次なる相手は、四番キャッチャー羽藤桂
 以前から溌剌とした印象のあった桂は、バッターボックスに立つ姿もどこか様になっており、柚明以上に気が抜けない。
 また、彼女には鬼の怪力もある。相対するのは巨漢の怪物バッターと考えるべきなのかもしれない。

 クリスは気持ちを確かに、桂への第一球を投じた。
 途端、桂は持っていたバットを、横向きに構えなおす。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <これは桂選手、バントの構えです!
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <ワンナウト三塁でのスクイズ……手堅いな。
(i゙i†i´.r')


 三塁のトーニャは、クリスの投球と同時に走り出していた。
 桂の構えるバットがボールにぶつかり、跳ね上がる。
 打球は屋内スタジアムの天井に届くかという高さまで上がり、守備側の人間たちは揃って頭上を見やった。
 トーニャはホームベース手前にして停止。桂はボールの行く末を見守りつつ、一塁を目指して進み出す。

「落下地点はクリスさんのところでしょうか。普通に考えればイージーフライ、私は三塁に戻るべきなんでしょうけど。
 なにせ相手は初心者、零す可能性も十分にありえます。さて、進むべきか進まざるべきか……」
「捕れクリス! なんとしても捕るんだ!」

 キャッチャーのなつきに声が届く距離に陣取り、進退を見極めようとしているトーニャ。
 このフライを捕ればアウトがひとつ。捕ってすぐサードの那岐に投げれば、スリーアウトでチェンジ。
 クリスは打球が落下してくるまでの間に思索を終え、万全の体勢で捕球に望む。
 頭上から迫る白い影は、だんだんと大きくなっていき、

「あっ」

 真上に構えていたクリスのグラブへと、触れて、弾かれた。
 捕れていない。落下したボールは、クリスの足下で跳ねる。

「クリス! こっちはもう間に合わない、碧のほうへ投げろ!」

 捕り損なったボールをクリスが拾う頃にはもう、トーニャはホームベースを踏む直前だった。
 なつきの言葉で間に合わないと察し、体を反転、一塁で構える碧のグラブ目掛けて、送球。
 幸いにも、桂はまさかクリスが落とすとは思っていなかったのか、一塁への出塁も疎かな状態だった。
 碧がクリスからのボールをキャッチし、慌てて走りこんできた桂を刺す。判定は当然、アウトである。


 一回表   【A】 2 - 0 【B】   二死無塁   A:打者:山辺美希   B:投手:クリス・ヴェルティン 


 追加点を与えてしまったが、これでツーアウト。あとひとり討ち取れば、スリーアウトでチェンジとなる。
 これ以上の点は与えられない、と意気込むクリスだったが――この盤面、その意気込みがあだとなった。

『フォアボール』

 五番打者山辺美希との勝負は、四球という結果に終わった。
 これまでの人生、ボールなどろくに握ったこともないクリスである。
 本来なら、アウト以前にストライクを取ることすら難しいはずなのだ。

「弱点をつくってわけじゃないですけど、守備についてる人たちはおっかないですからね。
 下手に打って喧嘩売るよりも、四球を期待して出塁するほうが、お利口さんと言えるわけですよ」
「いいわね、それ。私も真似させてもらおうかしら」

 美希は一塁へと進む途中で、次の打者であるファルとそんなやり取りを交わす。
 同郷の友人であるファルもまた、クリスと同じく今日まで野球を知らなかった素人である。
 まともに対戦すればどちらに勝機があるとも限らないが、美希への四球がファルに知恵を与えてしまったらしい。
 打席に立つ学院の生徒会長を見て、クリスは腕に鳥肌が立つのを感じた。


 一回表   【A】 2 - 0 【B】   二死一塁   A:打者:ファルシータ・フォーセット   B:投手:クリス・ヴェルティン 



 あとひとつ、と考えると焦りが生まれ、コントロールが乱れてしまう。
 なつきは的確に、打者のストライクゾーンを考えてミットを構えていてくれているのだが、クリスが狙いをつけきれない。

「初打席にしては味気ないとも思うけれど、これも勝つためだものね」

 必死な初心者であるクリスとは対照的な、開き直った初心者が、ほとんどバットを持っただけの状態で打席に立っていた。
 銀のロングヘアを動きやすいようポニーテールで纏めた、ファルシータ・フォーセットである。

「せっかくなんだ。思い切りバットを振ってくれたっていいんだぞ?」
「当たれば爽快でしょうけど、ボールをスタンドまで運ぶだけの力は私にはないわ」
「いや、内野の頭を飛び越えるだけでもけっこう気持ちのいいものなんだが」
「私じゃせいぜい、内野ゴロがいいところでしょうね」
「……やってて楽しいか、ファル?」
「勝ちを優先したいのよ」

 なつきがなんとかファルにバットを振らせようと囁きかけるが、通じない。
 ただ審判が告げるボールの判定だけを待ち、やる気のない構えを貫いていた。
 ストライクが入ったとしても気にしない。カウントがツースリーとなっても、ファルに打つ気配は見られなかった。

「クリス、ファルに打つ気はない! どんな球でもいいから、しっかりストライクに入れてくるんだ」

 なつきからのアドバイスに、クリスは黙って頷く。
 じわり、と汗が滲む手の平で白球を握り、慎重にこれを投げた。
 バットが空を切る音は鳴らず、キャッチャーミットが閉ざされる音だけが響き、

『ボール』

 覆面の審判は無情に投球の結果を告げた。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <クリス選手、これで二者連続のフォアボールです。
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <初心者の彼には厳しい局面だな……さて、凌ぎ切れるかどうか。
(i゙i†i´.r')


 丁寧にバットをその場に置き、ファルは一塁へと進もうとする。
 去り際、

「なんだか悪い気がするわ。まあ、私は悪い女を自認しているわけだし、別に構わないのだけれど」

 などと言い捨て、悔しそうに歯噛みするなつきを一瞥した。

「とはいえ……次が彼女なら、この出塁も無駄になってしまうかもしれないわね」

 ため息とともに吐き出た台詞は、ネクストバッターズサークルからとことこ歩いてくる少女を見ることで合点がいった。
 どちらかといえば初心者の側なのだろうが、彼女には美希やファルのような戦法を取ることなどできないだろう。
 前の二人と違って、真正直すぎるがゆえに。


 一回表   【A】 2 - 0 【B】   二死二塁   A:打者:高槻やよい   B:投手:クリス・ヴェルティン 


『ストライクッ! バッターアウト! ……スリーアウト、チェンジ』

 驚くほどすんなり、決着がついてしまった。
 一塁にファル、二塁に美希を置いての打席は、七番高槻やよい

 チーム最年少の女の子ではあるが、決して運動神経が切れているわけでもない。
 だからといって、野球のセンスがあるかといえば否だったらしい。
 やよいはクリスが投げるボールをすべて、選球の考慮もなく全力で振っていった。
 築かれた成績が、三球三振である。

「うぅ~、ダメでしたぁ……」
「んー、まあ、仕方ないですね」
「ええ、仕方がないわね」

 塁に残留してしまった美希とファルから、フォローの言葉が入る。
 野球とは、バットでボールを打つスポーツである。やよいの三振は、野球の流儀に則った咎められない結果なのだった。

「初めてのピッチャーで失点を二点に抑えられたんだ。上出来だぞクリス」
「う、うん……」

 攻守交替のため、ベンチに戻る《Bチーム》守備陣。
 一回を投げ切ったクリスはなつきから称賛を受け取るが、世辞にしか聞こえない。
 開始早々に二点を失ってしまった。そしてなによりも、九条から浴びた開幕ホームランが効いている。

 どうにもやりきれない気持ちのまま、クリスは自軍のベンチへと辿り着き、一息つく。
 初めて体験する東洋のスポーツ。それもまだ、楽しみ切れないでいる。
 むしろ、付き合うのが面倒くさいという気持ちも、ないとは言い切れない。
 同じベンチに座る、やたらとハイテンションな碧の存在を疎ましく感じるほど、クリスは思うのだった。

 大切な決戦の日を直前に控えて、僕たちはなんでこんなことをやっているんだろう――と。




 ・◆・◆・◆・


 みんなで仲良く青春の汗を流そう――などという気は、九条むつみにはさらさらない。
 やるからには本気で。たとえ相手がずぶの素人であったとしても、調教を施す心構えで真剣に挑む。
 それが将来――『短い』か『長い』かはさておき――娘を任せることになる相手ともなれば、力も入るというものだ。

「先ほどは残念な結果に終わりましたが……さて、今度はどうでしょうね」

 一回裏《Bチーム》の攻撃。
 マウンドに上がるのは、先ほどセンセーショナルな幕開けを飾った九条むつみである。


 一回裏   【A】 2 - 0 【B】   無死無塁   A:投手:九条むつみ   B:打者:クリス・ヴェルティン 


 九条に対する《Bチーム》の先頭打者は、クリス・ヴェルティン
 奇しくも先ほどの回と同じ組み合わせ、攻守を逆転しての再戦となった。

「く、九条さ~ん! あの、お手柔らかにお願いしますね~……い、いろんな意味でー……」

 キャッチャーミットを嵌めた手を振り、ホームベースの後ろで腰を下ろすのは、羽藤桂である。
 彼女が捕手を務めるのならば、どのような球を投げたとしても『傷つける』ことはないだろう。
 クリス相手にも、真っ向から勝負ができるというものだ。

「もとより、手加減するつもりなど毛頭ありません」
「え? いや、そうじゃなくて、お手柔らかにお願いしたいんですけど……」
「全力でいきます。桂さんはそこに構えていて」
「は、はい~……っ」

 桂を黙らせ、臨戦態勢に入る。
 バッターボックスでは既に、ヘルメットを目深に被ったクリスが、バットを持って拙い立ち姿を晒していた。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <一回の表では会心の一撃を放った九条選手ですが、はたして投球のほうはどうでしょうか?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <さて、結果は既に見えているような気もするが……。
(i゙i†i´.r')


 九条がワンサイドアップモーションに入る。
 軸足は確かに、踏み足は力強く、白球を握る腕は上から下へ、まるで投石器のように。

『ストライク』

 バスン、と爽快な音を立ててボールがミットに納まった。
 打者のクリスは棒立ち。放たれたボールが見えなかったのか、バットを振るう素振りも見せなかった。

「な、なんか手がじんじんするんですけど~っ」

 泣き言を口にするキャッチャーの桂だったが、ボールを投げ返すその動作に不安げなところはない。
 二球目も、続けてこの調子でいく。

『ストライク』

 外角や内角ではなく、また変化球の使用も考慮に入れず、ど真ん中にストレートだけを放る。
 クリスは苦し紛れといった風にバットを振ったが、タイミングがかみ合わず空振りに終わった。

『ストライク! バッターアウト!』

 三球目も同様。
 振っても振らなくてもストライク、生き延びるには当てるしかないという状況に追い込み、勝ちをもぎ取った。
 三球三振に敗れたクリスが肩を落とし、覇気もなくベンチに退散していく。
 先の回で負った精神的ダメージが響いているのか、敵とするにも物足りない。

(明日の本番、なつきのエスコートは遠慮してもらうことになりそうかしら……?)

 なつきの母としては、情けなく、そして残念に思う。

(それはともかく)

 九条は気を引き締める。
 次の打者は、クリスとは違う。野球の腕前はいざ知れず、その運動能力は決して侮ることなどできない。
 相対するのは、日本の女子高生として振舞うシアーズ製アンドロイド――深優・グリーアだった。


 一回裏   【A】 2 - 0 【B】   一死無塁   A:投手:九条むつみ   B:打者:深優・グリーア 


 殺し合いのゲーム中ではジョーカーとして猛威を振るい、カジノではアンドロイドならではの演算能力で勝率を支配して見せた、恐るべき存在。
 その実力はスポーツにでさえ活かすことが可能だろう。クリスのときのように真っ向から挑みかかるのは、危険極まる。

(ここは一球、様子を見るべきか……)

 考えつつ、九条は投球のモーションに入る。
 桂が捕り損ねる可能性を考えると、安易に変化球は使えない。
 力技で捻じ伏せたいところだが、はたして深優にそのような手が通用するか否か。
 戦力の見極めも兼ねた、第一球。

「打ち砕きます」

 一言、誰の耳にも届かない小さな宣言を為す。
 深優は躊躇いもなく、ストライクゾーンからは大きく外れたその投球に反応。バットを振った。
 打撃音が鳴り響く。白球は深優の前から消え、九条の左側を通過していった。
 厄介なことに、高さもある。

(まずい、うちの外野は高槻さんとファルさんの二人――)

 打球の飛んでいった先、《Aチーム》のライトを守るのは初心者のファルだ。
 フォローに回れるレフトも、戦力的にはファルと大差ないやよいである。
 打球がひとたび外野まで届いてしまえば、二塁打や三塁打をも覚悟しなければならない。

「安打確認。走塁を――」
「そうは問屋がおろしませんよ」

 ぐんぐんと伸びていくボールは、しかしセカンドの頭上を越えるかというところで、見えない壁に弾かれたかのように勢いを失う。
 宙にあった打球はそのまま落下し、構えていた二塁手、トーニャのグラブに納まる。
 彼女の背後から、ロープのようなものが一本伸びているのが気にかかった。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <解説の言峰神父、トーニャ選手のあのしっぽのようなものはいったい……?
  /)卯i、. 


γ⌒`´ゝ、
ソ〃((''))(
ζ,,d゚ ロ゚ハ' <人妖能力だな。猿の尾のようなものだが、その力をスポーツで発揮するとは。
(i゙i†i´.r')


「……っ、キキーモラで打球を叩き落としましたか」
「このゲームのルールはバーリ・トゥード。事前に、言いだしっぺさんから確認を取った通りですよ」

 トーニャは人妖能力『キキーモラ』を駆使し、外野まで届くところだった深優の打球を迎撃してみせたのだ。
 本来なら反則と見て取れるこの行為も、ゲームの発案者である碧が事前に認めてしまっている。
 つまりこれはルールに則った正統な守備であり、深優の打撃結果も当然、アウトとして扱われる。


 一回裏   【A】 2 - 0 【B】   二死無塁   A:投手:九条むつみ   B:打者:吾妻玲二 


 深優に代わり打席に立ったのは、三番打者の吾妻玲二だった。
 スポーツなどといったものとは縁遠い暮らしを送ってきた彼だが、どれほどの野球センスを秘めているのかは計り知れない。
 九条は深優のときと同様、初球はコースを外して様子見に徹する。
 深優とは違い、玲二は無理には振ってこない。
 九条の球筋を見切ろうとしているのか、単にやる気がないのか、やはり一見しただけではわからなかった。

「……もうフルカウントですけど。やる気あるんですか?」
「わかってるさ。次は打つ」

 玲二に向けて、キャッチャーの桂からどこか刺々しい言葉が浴びせられる。
 しかし玲二はものともせず、凍てついた双眸を九条に固定させて、次の投球に備えた。

(……暗殺者の目、か)

 日本人としての生活を捨て、ファントムとして生きることを受容した彼にとって、この世は等しく常在戦場なのだろう。
 握るものが銃からバットに変わったとしても、彼の放つ殺気が劣化することはなかった。
 額に汗が浮かぶ。せめて手元は狂わぬようにと、九条は警戒に警戒を重ねてボールを放った。

 玲二のバットが、九条の投げた球を狙い打つ。



.'´7'´`´ヽ
! 〈(从从リ|
ヽ¶_゚ ヮ゚ノ、i <玲二選手、打ちました! しかしこれは――!?
  /)卯i、. 


 バン、とまるで発砲音のような響きが、九条のグラブより木霊した。
 玲二に打ち返されたボールは、九条の顔面手前で受け止められている。
 危うくピッチャー直撃というところだった弾丸ライナーは、九条の反射神経のかいあってアウトに消える。

 だが、額から顎先まで垂れてきたこの汗は本物だ。
 九条は驚嘆の息をつきながら、バッターボックスを去ろうとしている玲二を一瞥した。
 律儀にヘルメットを取り頭を下げる仕草が、どこか恐ろしくもある。




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