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断片集 来ヶ谷唯湖

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断片集 来ヶ谷唯湖



「ああ、暇だ」

寂しい部屋にただポツリと、感慨も何も無い呟きが落ちる。
溜息とも言葉ともはっきりしないその呟きを零したのは部屋の住人である来ヶ谷唯湖
彼女はソファーに寝転がり、ただつまらなさそうに天井を見つめていた。
主催者達に脅され、ここまで連れて来れれたのはいいが、しかし途轍もなく暇で、彼女は時間を持て余していた。

クリスの為とは言ったのものの、これだけ長い時間があれば色々と考えることも生まれる。
クリスの事ばかりを考えるだけで無く、あれもこれもと益体もなく思考を巡らし、
そしてそれにも飽いて、今はただじりじりとした時間をただ過ごしている。

瞼を瞑りながらただ終着の時を待つだけ。
終わりのその時までここで過ごすのだ。
とはいえ、唯湖は仙人ではない。ただ過ぎ去るだけの時間を待つの苦痛であった。
なので、彼女はひとつ神崎に暇を潰すためのあるものを要求したのだ。
そしてそれを要求してからどれくらいの時間が経っただろうか。
寝て過ごしてしまおうかなどという考えが頭の中にもたげた時、部屋のドアが軽くノックされた。

「失礼します。……来ヶ谷唯湖。貴方が所望していた物をお届けにきました」
「……やっときたな。そこのテーブルに置いてくれ」
「了解しました……では、これで」
「ああ、ありがとう」

来訪者であるアンドロイドは能面のような表情を崩すことなく、唯湖の要求に従い仕事を終え、そして退室した。
それに何を思うこともなく、アンドロイドが立ち去ったことを確認すると唯湖はテーブルへと腕を伸ばした。
無地の茶封筒を開き、そして中に入っていた物を見て唯湖の顔に久しぶりに薄い笑みが浮かんだ。
彼女の手の中にあるのはただの一枚の光学ディスク。
一面にはただ『監視データ』とだけ書かれており、その脇には彼女のよく知る名前がいくつか併記されていた。


「……リトルバスターズの皆は何をやっていたのだろうか」


唯湖の仲間であったリトルバスターズ。
彼らの生き様を唯湖は一度自身の心に刻んでおきたかったのだ。
彼らは彼らのままだったろうかと知りたかったから。
変わった自分の代わりに彼らはリトルバスターズのままだったのだと思いたいが為に。

唯湖は静かにディスクを部屋のモニターの付随してある再生機に入れた。
椅子に座りなおし再生が始まるまでの短い時間を待つ。


そして、始まった。


リトルバスターズの軌跡が――。





【case1 ~宮沢謙吾の場合~】


『宮沢謙吾……君を救いにきた!』
『そう……きみが……救ってと言ったから……俺は……間違えずにいて……救われた』


最初に見た謙吾君の物語は……短く……そして濃い物語だった。
余りにも彼らしく……馬鹿馬鹿しい正義の物語。
それが彼には凄く似合って思わず私は笑ってしまう。

だって余りにも彼らしい。
何だ……見ず知らずの女の子を助けて……そして散るって。
あまりにも馬鹿すぎて、……そして謙吾君らしいじゃないか。
しかも一度は殺し合いに乗りかけてそれなのに体が動いて助けてしまった?

馬鹿だなぁ……本当馬鹿だよ。

本当は君は……君は強いなぁ。

羨ましいぐらいに……強い。

私とは正反対だ。

君は大切なものを護る為に殺し合いには乗らない事を選択した。
私は大切なものを護る為に殺し合いに乗る事を選択した。

そして

君は間違えず。
私は間違った。


全く……不思議なものだな……本当に。


でも、君に同意できる事があるな。


『救うって事はな……自分が頑張って意志を貫く事』


それは私も同意だ。
私はクリス君を護りたかった。
それはたとえ自身に破滅しかなくても私は私の意志を貫いて……そしてここに居るのだからな。

……まぁ私は決して仲間に頑張ったといわれる事は無いが。
言われるのは侮蔑の言葉……それで充分だ。


…………あぁ。


君の言葉、意志、軌跡。しっかり伝わったよ。



―――――掴めてよかったなぁ……謙吾君。




【case2 ~井ノ原真人の場合~】


『おいコラてめぇら。どうして筋肉祭りに参加しねぇ』
『……別に、それでいいんじゃねぇか?』
『ありがとよ……こんな馬鹿に最後までつきあってくれて。いい筋肉でまた会おう!』


……ふふっ……はっはっはっは!
……馬鹿だ、馬鹿!

何も変わっちゃいない馬鹿だ!


終始変わる事が無い……馬鹿だ!


可笑しくて笑いが止まらない。
何も変わって居ない。この男は。
筋肉、筋肉と暑苦しいのも全く変わっちゃいない。
そしてそのまま燃え尽きて。
その結果が疑いあっていた者達すら団結させて。
今の彼らの礎になっている。

なんだ、それは?
全く馬鹿馬鹿しい……だけど清々しいものだな。

まあ……それが君か。
真人君。

何も変わらず。
いつものままで。

そして、君は成し遂げたのか。

少し……君が羨ましいな。

ああ、羨ましい。


安心したよ、真人君。

君が君のままで有り続けたことが。

最後はどうなったかは解らないが、きっとその時も君のままだったんだろう。


しかしまぁ、君も謙吾君と同じようなこと言うのだな。
みんな生きる為に頑張っているか……

生きれたらいいなぁ……なぁ真人君。

君は今の私を見てどう思う?

死に憧れを持つ私に……どうする?


…………決まってるか。


変わらずに……君は筋肉と騒いで。


―――馬鹿をやるんだろう。




【case3~棗鈴の場合~】


『うっさい! 絶対殺す! 殺す! 殺す! 殺す!』
『ひと……り……い……や……いた……こわ……にゃ……に……ゃ…… 』


……済まないな。
……済まない。


何故だろうな……?
そんな意味も無い謝罪の言葉しか浮かばない。
今の私に存在するのは後悔しかないのだよ。


結局……成長していない君では一人じゃ生きれなかったのか。

鈴君。

君は何も変わらないで。
変わらないが故に人に依存して。
知らないが故に全てを信じきって。
純粋すぎるが故に狂気にも染まって。

そして感情のままに……死んだのか、君は。

独りが怖いと泣いて、
誰かを求め続けて、
痛みに泣いて、
誰かに助けて欲しくて、
温もりが欲しく、欲しくて、

そして、孤独のまま……君は逝ったのか。


何だ……何なんだこの気持ちは。
このやりきれないのは何だ。


……悔しい……?
悔しいのか……?

鈴君に何も出来なかったのが。
彼女を独りにしたのが。
助けに行けなかったのが。

鈴君を独りにしたままならこうなるが解っていたから?

解らない。


でも、酷く悔しく……哀しいのだ。


ああ、君は可愛かったなぁ。


済まないな……御免な。


全てを捨てたはずなのにこう思ってしまう。


傍にいてあげたかったと。


叶う訳が無かったのに


猫の寂しい泣き声に――――応えてあげたかった。




【case4~直枝理樹の場合~】


『……きっと皆が意思を継いでくれるだから……安心できるんだ』
『僕らの……リトル……バスター………………ズ』


頑張っていたんだな……君も。
私が知ってるはずの君よりも随分と成長しているようだ。

前を向いて、
希望を信じ続けて、
仲間と共に、

『リトルバスターズ』を盛り上げていたんだな、理樹君。

凄いなぁ。
独りでも頑張って。
進んでいこうとしてたんだなぁ。

随分と強くなったんだな……君は。

君は途中で逝ってしまったけど……その遺志は千華留君が継いで。
そして、まだ沢山の人にもその遺志は残っている。

そういう意味では君のリトルバスターズは不滅で。

紛れも無い大成功なんだな。


君がした事がこの島にちゃんと残っている。
君の心はちゃんと生き続けている。


君は…………凄いな……よく……頑張った。




でも、少し空しくもある。

君は結局『リトルバスターズ』に頼るしかなかったのかい?
私達は君達がリトルバスターズ無しで生きられるように虚構の世界まで作り上げたのに。
理樹君は成長しても……それを捨てる事ができなかったのかい?

リトルバスターズというチームを。

どんなに成長しても……それに固執するしかなかったのかい?
私達が助からない身であっても。

……ならば。
……だというのなら。

虚構の世界で私達が頑張り続けていた事はいったい何の為だったんだろうか?

私達がしたことの意義は……意味は何なんだろうなぁ……理樹君?


――――来ヶ谷唯湖は知らない。


無意味……だったのかなぁ?


――――成長した直枝理樹はリトルバスターズ全員の命を救いきった事実を。知らない。


なぁ……答えてくれよ。理樹君。


それが……どうしても心残りで空しくもなってしまう。


なぁ……理樹君……本当にリトルバスターズじゃないと駄目だったのか?


……いや、それほどまでに………………リトルバスターズは大きい存在だったのだろうか。


君にとっても。
皆にとっても。

そして私にとってもだ。

今となっては……意味の無い事だが。
でも、君が信じたもの、固執したものを私は捨てる。

済まないな……


私は……………………それでも。


彼の為に生きたかったんだ。


彼の為に……リトルバスターズではなく彼の為だけに。



――――死にたいよ。




【case5~棗恭介の場合~】


『もう沢山なんだよ……大切な人のために憎しみ合うことなんか!……俺はもう沢山だ! 』
『愛してる……』


…………………………はっ?
…………………………おい、何だ、冗談だろう?


……おい、何だ、これは?


棗恭介。


こんな………………生き様なのか?
こんな………………死に様なのか?


棗恭介。


直枝理樹の為に。
棗鈴の為に。

全てを捨てて、悪魔にでもなろうとしたお前が…………


こんな……無様なのか?
こんな……こんな……生き方なのか?

理樹君と鈴君の為に殺すつもりだったんじゃないのか?

なのに、なんで正義の味方みたいな事やっている?
なのに、なんで誰も切り捨てる事ができない?


貴様の覚悟は、決意は………………そんなに軽いのか?


そして……何だ……


貴様は…………その女の方が大切なのか?

棗恭介?


直枝理樹よりも。
棗鈴よりも。

そして『リトルバスターズ』よりも。


トルティニタ・フィーネの方が大事なのか?


貴様はその女の為に生きたかったのか?
貴様はその女の為だけに他の全てを捨てたのか?
貴様はその女の為に一生を捧げたのか?

それほどまでに貴様にとって直枝理樹も棗鈴も『リトルバスターズ』も軽いものだったのか?

そして後追い自殺か?
愛しい人の為に?
愛しい人の傍で死んだのか?

貴様が?

あの棗恭介が。

は……


あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!
はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!


何だ!

何なんだそれは!

ふざけているのか!?


貴様が……誰よりもリトルバスターズを捨ててはいけない棗恭介が。

女の為に死んだのか?


おい……ふざけるなっ……ふざけるな!


棗恭介っ!

なんで貴様が私と一緒なんだ!?


リトルバスターズを、直枝理樹を、棗鈴を誰よりも、絶対に捨ててはいけない貴様が!

どうして、私と一緒なんだっ!?

貴様の想いはそんなに軽いものだったのか!?


…………いや、違う。

それほどまでにあの女への想いが強かったのか。


……なんだ、なんだ。それは。


可笑しい、可笑しくて、笑いが止まらない。


罪だけを憎む?
憎しみの連鎖は沢山?


今更、綺麗事を言うのか?

人の想いを平気で踏み躙ってきた貴様が。

それを吐くのか?


そんなに女に感化されたのか?


全く……どうして、一緒なんだ……私と貴様が。


私もリトルバスターズを捨て。
彼の為に生きて。
そして、彼の為に死ぬ。

そんな、生き様。


そんな生き様に……よりによってお前が似るのか……


可笑しい。
可笑しくて堪らない。


ははっ……いいだろう。


棗恭介。


貴様すら……そういう生き様を歩んだのなら。


私は安心して死ねる。


幸せだったのだろう?
理樹君と鈴君を生かすことしか考えてなかったお前が。
こんなにも誰かに想われて。
こんなにも誰かに愛されて。
そして、心の底から想って、愛して。

お前は幸せだったのだろう…………私のように。



『リトルバスターズ』の棗恭介の生き様は認めたくも無い。



だけど………………棗恭介個人の生き様はすばらしいと思える。


よかったなあ。

素敵な人に出逢えて。
素敵な人と生きれて。
素敵な人と傍に居れて。


本当に幸せだっただろう?
本当に救われたのだろう?

そして、やっとお前は棗恭介として歩めたんだろう?


なら……それでいい。


棗恭介個人を。


トルティニタ・フィーネと進んだ棗恭介を。


祝福しよう。
認めよう。


ああ


本当に―――


好きな人が出来て。
愛せる人が出来て。


よかったなぁ――――棗恭介。





 ・◆・◆・◆・


5つの断片。
それは私にはとても価値のあるものに見えた。


私に残されているのは確実な終焉。

その中で私はクリス君の手で死ぬ事になるだろう。
あの愛する人の傍で死んだ彼のように。

私も幸せに死にたい。


私にはもう、幸せな未来など残されていないのだから。


でも、苦しくもなる。


私にはもう何も残されていない。

今まで私の心を埋めていたもの。
失って初めて気付いていた。
こんなにも私も支ええていてくれた事。
こんなにも笑顔をくれていた事。

失った代償はとてつもなく大きすぎて。

でも、もう二度と手を伸ばして届く事も無いだろう。

届きそうでも決して届かない。


私しかいない孤独。
生きられない絶望。

それに心が締め付けられて壊れそうになるけど。

想い出に残る仲間の笑顔が終焉まで励ましてくれる。


だから、私は最後まで立っているだろう。


大好きな彼が私を殺してくれるまで。



だから、待っている。

ずっと待っている。


幸せな結末を。


君の手で私の命を終わらすその時を。


待っている。


愛している……君の手で。


さぁ。


全てを終わらそう。


希望も絶望も未来も明日も。


君の―――


その手で。



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