彼等の本気 ◆nrFxk81wlQ
周囲には所狭しと樹木がひしめいており、地面は傾斜状になっている。
まごうことなき山の中だ。と、岡崎朋也は思った。
自慢ではないが、朋也は自身の事をごくごく平凡な一般人であると認識している。
魔法だとか超能力だとか、創作物ではよくある超常現象なんぞには縁もゆかりもなく、
またそういったものはこの世に存在などしていないのだと、そう思っていた。
しかし先程の広間で起きた出来事や、今こうやって自身が瞬間移動を体験した事から、
少なくとも過ぎてしまった超常現象は存在するものとして認識を改めなければならない。
それはまぁ別に構わないのだが。
「面倒臭い事になったよな……」
朋也は呟きながら頭を掻き、それから深く溜息を吐いた。
過ぎた事を現実として受け入れるとするならば、殺し合いを強制させられている事も現実で、
状況から察するに逃げる事は出来そうにない事も、また現実なのだと認めなければならない。
朋也が否定しても現実は変わってくれたりなんかしないだろうから、認めなければなけなかった。
鏡がないので目視はできないが、くだんの爆弾付きらしい首輪は確かに首に巻き付いているし、
支給品なのか、手には見覚えの無い地味なリュックサック型の鞄を持っている。抜かりなし。
これはもう素直に認めよう。自分は殺し合いをさせられているのだ、と。
だからといって、殺しを行うかどうか、それはまた別の話だった。
ひとまず朋也は鞄の中を覗き、そこから最初に目に付いた一枚の紙を取り出した。
何の変哲もない紙だ。そこにはびっしりと文字が書かれている。しかし。
「読めん」
朋也が立っている場所は、木の真下だった。枝葉が影を作って朋也の視界を邪魔している。
鞄の中に照明器具はあるだろうか、そう考えて鞄に手を伸ばしかけたが、
すぐに思い留まり、月明かりの差す場所へと移動した。明かりを点けるのは迂闊だと、直感で判断する。
自然の光だけでも問題なく確認できたので、そのまま紙に目を通した。
既に判ってはいたが、それは名簿だった。
まごうことなき山の中だ。と、岡崎朋也は思った。
自慢ではないが、朋也は自身の事をごくごく平凡な一般人であると認識している。
魔法だとか超能力だとか、創作物ではよくある超常現象なんぞには縁もゆかりもなく、
またそういったものはこの世に存在などしていないのだと、そう思っていた。
しかし先程の広間で起きた出来事や、今こうやって自身が瞬間移動を体験した事から、
少なくとも過ぎてしまった超常現象は存在するものとして認識を改めなければならない。
それはまぁ別に構わないのだが。
「面倒臭い事になったよな……」
朋也は呟きながら頭を掻き、それから深く溜息を吐いた。
過ぎた事を現実として受け入れるとするならば、殺し合いを強制させられている事も現実で、
状況から察するに逃げる事は出来そうにない事も、また現実なのだと認めなければならない。
朋也が否定しても現実は変わってくれたりなんかしないだろうから、認めなければなけなかった。
鏡がないので目視はできないが、くだんの爆弾付きらしい首輪は確かに首に巻き付いているし、
支給品なのか、手には見覚えの無い地味なリュックサック型の鞄を持っている。抜かりなし。
これはもう素直に認めよう。自分は殺し合いをさせられているのだ、と。
だからといって、殺しを行うかどうか、それはまた別の話だった。
ひとまず朋也は鞄の中を覗き、そこから最初に目に付いた一枚の紙を取り出した。
何の変哲もない紙だ。そこにはびっしりと文字が書かれている。しかし。
「読めん」
朋也が立っている場所は、木の真下だった。枝葉が影を作って朋也の視界を邪魔している。
鞄の中に照明器具はあるだろうか、そう考えて鞄に手を伸ばしかけたが、
すぐに思い留まり、月明かりの差す場所へと移動した。明かりを点けるのは迂闊だと、直感で判断する。
自然の光だけでも問題なく確認できたので、そのまま紙に目を通した。
既に判ってはいたが、それは名簿だった。
岡崎朋也。自分を見つける。そしてすぐさま、自分に続くように記された名前が目に飛び込んで来た。
「渚っ……!」
考えるより先に、朋也はその名前を口にしていた。
古河渚。朋也の同級生の少女。病気で留年しているので、彼女の方が年齢は一つ上だが。
演劇部を作りたいという彼女に感化され、その手助けをする中で──
朋也は彼女に惹かれ、そして二人は結ばれた。
渚は大切な人だ。それはいい、それはいいとして。
部を作り、文化祭での公演も成功させた。しかし渚は体調を崩して、今は療養中の筈だった。
それがどうしてここにいるのか。
答えは簡単だろう。自身と同じで、強制的に連れて来られたのだ。
だが渚は、殺し合いどころか、満足に動き回れるような状態ですらない。
最悪の場合、殺されてしまうかもしれない。そんな予想は立てたくなどないけれども。
真っ先に見つけ出して、保護しなければならない。いや、保護なんて言い回しではなく。
「守ってやらないと……!」
名簿を持つ手に力が入ってしまい、紙が少し皺になったが、あまり問題ではない。
渚を見つける。それが何よりも最優先だ。
その為には何をすればいいのか。それはもちろん、動く事だ。
渚の方からやって来るなんて都合主義な展開を考えてはいけない。
できれば安静にして、あまり動いたりはしてほしくないのだし。
朋也はもう一度、名簿に目を通す。
確か神父達は、60ウン人、正確には何人だったか、とにかく60人台もの人がここにいるのだと言っていた。
基本的には日本人名が多いが、外国人名や、偽名なのかフルネームすらない者の名前も記されている。
この中で何人が積極的に殺しを行うか、名前を見ただけでは判らない。
渚以外で間違いなく信頼できるのは、友人の藤林杏、渚の父親である古河秋生、この二名だけだ。
ここにいる事を喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。ともかく他に知り合いの名前はない。
杏の双子の妹である椋や、渚の母親であり秋生の妻である早苗の名前はなかった。
自分の父親もここにはいない訳だし、どうやら家族ぐるみという訳ではないようだ。
知り合い以外で信用できそうな者がいるならば、渚の捜索を手伝ってもらいたい。
殺し合いをしろと言われて、皆が皆、そう簡単に乗るとは──
唐突に、朋也の元へ耳慣れない破裂音が届いた。そして近くの木が、小さく爆ぜる。
なんだこの音、どこから、まさか銃声?
朋也は瞬間的に周囲をぐるりと見渡した。その間にも、またもう一発。しかし朋也には当たらない。
銃の腕は危惧するものではないのか。それともわざと外しているのか。いや、だとしたら何の意味が。
朋也の視線は人影を捉えた。その名の通り、人の影だ。それが誰かなど判らない。
距離は十何メートル、いや何十メートル、闇で距離感が判らない。とにかく離れている。
遠い人影。けれど朋也が見つけた瞬間、目と目が合った。ような気がした。気のせいかもしれない。
しかしその瞬間に、人影は朋也のいる場所とは反対の方向へと離れて行った。
ようするに逃げられた、のだろうか。
最後に朋也が見たのは、長い髪を翻したそのシルエットのみ──まさか、藤林杏?
一瞬の事で咄嗟にそう思ったが、朋也はすぐに自身の判断を否定した。
長い髪の女なんて、この世には沢山いる。即座に数人程度なら例を挙げられるくらいだ。
つまり、この殺し合いに連れて来られた人々の中にも、長い髪の女は沢山いる、という事になる。
朋也は逃げた人影をどうするか考え、結局追いかけはぜずに、
自身も相手が逃げた方向とは真逆へ移動する事にした。最初のうちは、走る。
二発の銃声を聞きつけて、誰かに来られたら面倒だ。来るのが安全な奴とは限らない。
そうだ、もう殺し合いは始まっているんだ。今、身をもって体験した。
こちらが隙を見せれば、奴らはすぐに命を奪いに来る。汚い手段すらも使って。
前言を撤回しなければならない。知り合い以外で信用できそうな者、そんな奴いる訳がない。
人間なんて、何を考えているのか判りやしないんだから。
信用して油断を見せた隙に殺されるくらいなら、こっちから先に殺した方が簡単だもんな。
よく判ったよ。教えてくれた、あの長い髪の女には感謝する。危ないから、いつか殺すけど。
だってあいつを放っておいたら、そのうち渚を狙うかもしれないしな。
排除だ。渚を危険に陥れる可能性がある奴は全部排除だ。だから知らない奴は全員排除だ。
「渚っ……!」
考えるより先に、朋也はその名前を口にしていた。
古河渚。朋也の同級生の少女。病気で留年しているので、彼女の方が年齢は一つ上だが。
演劇部を作りたいという彼女に感化され、その手助けをする中で──
朋也は彼女に惹かれ、そして二人は結ばれた。
渚は大切な人だ。それはいい、それはいいとして。
部を作り、文化祭での公演も成功させた。しかし渚は体調を崩して、今は療養中の筈だった。
それがどうしてここにいるのか。
答えは簡単だろう。自身と同じで、強制的に連れて来られたのだ。
だが渚は、殺し合いどころか、満足に動き回れるような状態ですらない。
最悪の場合、殺されてしまうかもしれない。そんな予想は立てたくなどないけれども。
真っ先に見つけ出して、保護しなければならない。いや、保護なんて言い回しではなく。
「守ってやらないと……!」
名簿を持つ手に力が入ってしまい、紙が少し皺になったが、あまり問題ではない。
渚を見つける。それが何よりも最優先だ。
その為には何をすればいいのか。それはもちろん、動く事だ。
渚の方からやって来るなんて都合主義な展開を考えてはいけない。
できれば安静にして、あまり動いたりはしてほしくないのだし。
朋也はもう一度、名簿に目を通す。
確か神父達は、60ウン人、正確には何人だったか、とにかく60人台もの人がここにいるのだと言っていた。
基本的には日本人名が多いが、外国人名や、偽名なのかフルネームすらない者の名前も記されている。
この中で何人が積極的に殺しを行うか、名前を見ただけでは判らない。
渚以外で間違いなく信頼できるのは、友人の藤林杏、渚の父親である古河秋生、この二名だけだ。
ここにいる事を喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。ともかく他に知り合いの名前はない。
杏の双子の妹である椋や、渚の母親であり秋生の妻である早苗の名前はなかった。
自分の父親もここにはいない訳だし、どうやら家族ぐるみという訳ではないようだ。
知り合い以外で信用できそうな者がいるならば、渚の捜索を手伝ってもらいたい。
殺し合いをしろと言われて、皆が皆、そう簡単に乗るとは──
唐突に、朋也の元へ耳慣れない破裂音が届いた。そして近くの木が、小さく爆ぜる。
なんだこの音、どこから、まさか銃声?
朋也は瞬間的に周囲をぐるりと見渡した。その間にも、またもう一発。しかし朋也には当たらない。
銃の腕は危惧するものではないのか。それともわざと外しているのか。いや、だとしたら何の意味が。
朋也の視線は人影を捉えた。その名の通り、人の影だ。それが誰かなど判らない。
距離は十何メートル、いや何十メートル、闇で距離感が判らない。とにかく離れている。
遠い人影。けれど朋也が見つけた瞬間、目と目が合った。ような気がした。気のせいかもしれない。
しかしその瞬間に、人影は朋也のいる場所とは反対の方向へと離れて行った。
ようするに逃げられた、のだろうか。
最後に朋也が見たのは、長い髪を翻したそのシルエットのみ──まさか、藤林杏?
一瞬の事で咄嗟にそう思ったが、朋也はすぐに自身の判断を否定した。
長い髪の女なんて、この世には沢山いる。即座に数人程度なら例を挙げられるくらいだ。
つまり、この殺し合いに連れて来られた人々の中にも、長い髪の女は沢山いる、という事になる。
朋也は逃げた人影をどうするか考え、結局追いかけはぜずに、
自身も相手が逃げた方向とは真逆へ移動する事にした。最初のうちは、走る。
二発の銃声を聞きつけて、誰かに来られたら面倒だ。来るのが安全な奴とは限らない。
そうだ、もう殺し合いは始まっているんだ。今、身をもって体験した。
こちらが隙を見せれば、奴らはすぐに命を奪いに来る。汚い手段すらも使って。
前言を撤回しなければならない。知り合い以外で信用できそうな者、そんな奴いる訳がない。
人間なんて、何を考えているのか判りやしないんだから。
信用して油断を見せた隙に殺されるくらいなら、こっちから先に殺した方が簡単だもんな。
よく判ったよ。教えてくれた、あの長い髪の女には感謝する。危ないから、いつか殺すけど。
だってあいつを放っておいたら、そのうち渚を狙うかもしれないしな。
排除だ。渚を危険に陥れる可能性がある奴は全部排除だ。だから知らない奴は全員排除だ。
◇
この殺し合いがテレビの騙し企画、いわゆるドッキリの類ではないという事を、
芸能人という立場上そういったものにそこそこ縁のある如月千早は理解していた。
自分は本当に、殺し合いの中に放り出されたのだ。法律なんて関係ないのだろう。
千早は高校一年生でありながら芸能事務所に所属するアイドルである。しかし、それだけだ。
世間的には特殊な立場であっても、この場所で、そのステータスは何の意味も為さない。
歌える事が、人殺しに何の役に立つのだろうか。立たないだろう。
しかしそれでも千早は、死にたくなかった。まだまだ歌っていたかった。
歌えなくなるくらいなら死んでもいいと、そう思い始めたのはいつからだったか。
それは間違いだと、千早は考えを改める。今は、そう──歌えなくなるくらいなら人を殺してもいい。
ステージは、家にも学校にも居場所のなかった自分が、やっと手に入れた唯一の居場所なのだ。
人殺しは禁忌だなんて、そんな事は判っている。しかし殺さなければ殺されるのだ。
幸いにも、ここには死んでも困る人はいない。
同じ事務所に所属する菊地真と高槻やよいの名前はあるが、しかし、彼女らが死んでも支障はない。
彼女を指揮するプロデューサーと、そして共に活動する少女に比べれば、ここにいる二人の価値は低い。
千早は自身を冷たい人間だと思っていたが、ここまで冷酷だとは思ってもいなかった。
むしろライバルが減るだなんて、そんな事を少しでも思った自分は最低だ。
しかしそれ以上に死にたくない。最低だ最悪だと罵られても、死にたくないのだ。
死の淵に立たされると、人はこうまでも自分に甘くなれるのか。
しかし、これが自分だったのだと受け入れるしかない。受け入れなければ、ここから動けない。
「春香……すぐに帰るから」
千早は、共に活動する少女へと思いを馳せた。
芸能人という立場上そういったものにそこそこ縁のある如月千早は理解していた。
自分は本当に、殺し合いの中に放り出されたのだ。法律なんて関係ないのだろう。
千早は高校一年生でありながら芸能事務所に所属するアイドルである。しかし、それだけだ。
世間的には特殊な立場であっても、この場所で、そのステータスは何の意味も為さない。
歌える事が、人殺しに何の役に立つのだろうか。立たないだろう。
しかしそれでも千早は、死にたくなかった。まだまだ歌っていたかった。
歌えなくなるくらいなら死んでもいいと、そう思い始めたのはいつからだったか。
それは間違いだと、千早は考えを改める。今は、そう──歌えなくなるくらいなら人を殺してもいい。
ステージは、家にも学校にも居場所のなかった自分が、やっと手に入れた唯一の居場所なのだ。
人殺しは禁忌だなんて、そんな事は判っている。しかし殺さなければ殺されるのだ。
幸いにも、ここには死んでも困る人はいない。
同じ事務所に所属する菊地真と高槻やよいの名前はあるが、しかし、彼女らが死んでも支障はない。
彼女を指揮するプロデューサーと、そして共に活動する少女に比べれば、ここにいる二人の価値は低い。
千早は自身を冷たい人間だと思っていたが、ここまで冷酷だとは思ってもいなかった。
むしろライバルが減るだなんて、そんな事を少しでも思った自分は最低だ。
しかしそれ以上に死にたくない。最低だ最悪だと罵られても、死にたくないのだ。
死の淵に立たされると、人はこうまでも自分に甘くなれるのか。
しかし、これが自分だったのだと受け入れるしかない。受け入れなければ、ここから動けない。
「春香……すぐに帰るから」
千早は、共に活動する少女へと思いを馳せた。
ユニット結成前から、周囲に壁を築こうとする千早に、懲りずに何度も話し掛けて、
親しくなろうとしてくれたのがその少女、天海春香だった。
千早の数少ない──いや、千早も自覚している。千早の唯一の、親友だった。
アイドルではなくボーカリストとして芸能界で生きたいと思っていた千早だが、
しかし春香とのユニットならアイドルと呼ばれても構わないと、そう思える程だ。
辛いことも厳しいことも二人で乗り越えて来た。
アイドルランクはまだまだ高いとは言えないけれど、しかし二人はこれからだったのだ。
新曲のレコーディングは、もうとっくに済ませてある。プロモーションビデオの撮影も終わっていた。
これから宣伝をして、売り出して。そういう、二人にとっての重要な大切な時期だった。
それがどうしてこんな事に。
嘆いても殺し合いは終わらない。自分が終わらせるしか道はないのだ。
躊躇がないといえば嘘になる。そかし、それすらをも断ち切らなくてはならない。
これはその為の、いわば決意表明なのだ。
千早は、彼女に与えられた武器、アサルトライフルを構える。
銃身の下に刃物が取り付けてある、大きくて、そして重たい。
両手で持っているのに、どこか不安定だ。
正確には89式5.56mm小銃というらしいが、千早にとっては、名前なんてどうでもよかった。
千早は銃器など扱った事はない。しかし、イメージはできる。付属の説明書も読んだ。大丈夫。
目線の先には、月明かりに照らされた男。山の中を移動していたら、偶然、見つけた。
その時から今まで、動くような気配は全く見せていない。何をしているのか。
とにかく、今しかないのだと思った。すなわち、狙撃のチャンスは。
千早は唾を飲み込み、深呼吸をした。そして息を止める。
狙いを定めて、力一杯トリガーを引いた。
手元から破裂音が響き渡る。こんなに凄いとは思わなかった。
しかし驚いている場合ではない。続けてもう一発、撃つ。
手が震えていた。重いからなのか、それとも。こんな状態で撃って、はたして当たったのだろうか。
千早は酸素を補給しながら確認する。
変わらず人影は立っていた。無傷。当たっていない。それどころか。
男と目が合う。──逃げなくては!
瞬間的にそう思った千早は、すぐさま踵を返して走り出していた。
千早は冷静ではなかった。とにかく今すぐにここから逃げ出さなくてはと、そう思ってしまった。
殺せなかった。それだけが千早の頭中を占めている。
撃ち続ければ殺せたかもしれない。そもそも成功するか判らない狙撃を選ぶ必要はなく、
人畜無害を装って接触して、真後ろから撃てば殺せたのかもしれない。
しかし千早は冷静ではなかった。千早は戦いとは無縁の少女だ。
いつも通りの、冷静な如月千早でいられる訳がなかった。
的確な判断ではない事に気付いた今は、しかし、どうする事もできない。
あの場所からは既に遠ざかっているのだ。
男が追って来るような雰囲気はないし、戻っても、留まっている可能性は低いだろう。
千早は立ち止まり、地面に膝を付いた。
アサルトライフルを置き、荒い呼吸を整えようと努めれば、自然と頭も冴えてくる。
あの男に顔が知られてしまったかもしれない、と千早は思った。
千早はアイドルだ。テレビにだって何度も出ていて、顔が広く知れ渡っている。
襲ってきたのが如月千早であると判ってしまったに違いない。名簿と照らし合わせれば一発だ。
目が合ったのは一瞬のみ。しかし充分だ。現に千早も、相手の顔を覚えているのだから。
いや、今はまだ、覚えている。
千早は既に相手の顔を忘れかけていた。こちら側からすれば、初めて見る顔なのだから。
顔だけがあやふやで、髪の長さ、それから月に照らされた薄い色のブレザー、ネクタイ、
そういった部分的な特徴だけが記憶に刻まれていた。だてに、相手の様子を伺っていた訳ではない。
あの男に「アイドルの如月千早は殺し合いに乗っている」と広められたら厄介だ。
まだ殺し合いは始まったばかりなのに。どんな不利を引き起こすか、判ったものではない。
千早は自身の詰めの甘さを悔いた。
次からは慎重に行わなくては。落ち着いて、冷静に、的確に。
最後の一人になる為には、些細なミスも許されはしないのだ。
これはオーディションではない。落ちても次があるだなんて考えてはいけない。
早く殺さなければ。千早は考える。あの男を見逃してはいけない。
様子見で節約して、単発式にしていたから当たらなかったんだ。
ただの素人なんだから、普通に撃っても当たる事はないだろう。
千早は決めた。次に会ったらその時は連射を浴びせてやると。
それから、あの場所へと戻るのは難しい話だという事に気付いた。
とにかく必死で、どこをどうやって走ってきたのか全く覚えていない。ああ、迂闊だった。
単純に180度回転して真っ直ぐ進んだとしても、戻れる可能性は無いに等しいだろう。
だったらどうするか。予測をするしかない。
あの男が向かいそうな場所を予測し、その道中で待ち伏せるしかない。
今いる場所が、山の南西側付近である事は既に確認済みだ。
考えるのよ、千早。あの男が移動するとしたら──。
親しくなろうとしてくれたのがその少女、天海春香だった。
千早の数少ない──いや、千早も自覚している。千早の唯一の、親友だった。
アイドルではなくボーカリストとして芸能界で生きたいと思っていた千早だが、
しかし春香とのユニットならアイドルと呼ばれても構わないと、そう思える程だ。
辛いことも厳しいことも二人で乗り越えて来た。
アイドルランクはまだまだ高いとは言えないけれど、しかし二人はこれからだったのだ。
新曲のレコーディングは、もうとっくに済ませてある。プロモーションビデオの撮影も終わっていた。
これから宣伝をして、売り出して。そういう、二人にとっての重要な大切な時期だった。
それがどうしてこんな事に。
嘆いても殺し合いは終わらない。自分が終わらせるしか道はないのだ。
躊躇がないといえば嘘になる。そかし、それすらをも断ち切らなくてはならない。
これはその為の、いわば決意表明なのだ。
千早は、彼女に与えられた武器、アサルトライフルを構える。
銃身の下に刃物が取り付けてある、大きくて、そして重たい。
両手で持っているのに、どこか不安定だ。
正確には89式5.56mm小銃というらしいが、千早にとっては、名前なんてどうでもよかった。
千早は銃器など扱った事はない。しかし、イメージはできる。付属の説明書も読んだ。大丈夫。
目線の先には、月明かりに照らされた男。山の中を移動していたら、偶然、見つけた。
その時から今まで、動くような気配は全く見せていない。何をしているのか。
とにかく、今しかないのだと思った。すなわち、狙撃のチャンスは。
千早は唾を飲み込み、深呼吸をした。そして息を止める。
狙いを定めて、力一杯トリガーを引いた。
手元から破裂音が響き渡る。こんなに凄いとは思わなかった。
しかし驚いている場合ではない。続けてもう一発、撃つ。
手が震えていた。重いからなのか、それとも。こんな状態で撃って、はたして当たったのだろうか。
千早は酸素を補給しながら確認する。
変わらず人影は立っていた。無傷。当たっていない。それどころか。
男と目が合う。──逃げなくては!
瞬間的にそう思った千早は、すぐさま踵を返して走り出していた。
千早は冷静ではなかった。とにかく今すぐにここから逃げ出さなくてはと、そう思ってしまった。
殺せなかった。それだけが千早の頭中を占めている。
撃ち続ければ殺せたかもしれない。そもそも成功するか判らない狙撃を選ぶ必要はなく、
人畜無害を装って接触して、真後ろから撃てば殺せたのかもしれない。
しかし千早は冷静ではなかった。千早は戦いとは無縁の少女だ。
いつも通りの、冷静な如月千早でいられる訳がなかった。
的確な判断ではない事に気付いた今は、しかし、どうする事もできない。
あの場所からは既に遠ざかっているのだ。
男が追って来るような雰囲気はないし、戻っても、留まっている可能性は低いだろう。
千早は立ち止まり、地面に膝を付いた。
アサルトライフルを置き、荒い呼吸を整えようと努めれば、自然と頭も冴えてくる。
あの男に顔が知られてしまったかもしれない、と千早は思った。
千早はアイドルだ。テレビにだって何度も出ていて、顔が広く知れ渡っている。
襲ってきたのが如月千早であると判ってしまったに違いない。名簿と照らし合わせれば一発だ。
目が合ったのは一瞬のみ。しかし充分だ。現に千早も、相手の顔を覚えているのだから。
いや、今はまだ、覚えている。
千早は既に相手の顔を忘れかけていた。こちら側からすれば、初めて見る顔なのだから。
顔だけがあやふやで、髪の長さ、それから月に照らされた薄い色のブレザー、ネクタイ、
そういった部分的な特徴だけが記憶に刻まれていた。だてに、相手の様子を伺っていた訳ではない。
あの男に「アイドルの如月千早は殺し合いに乗っている」と広められたら厄介だ。
まだ殺し合いは始まったばかりなのに。どんな不利を引き起こすか、判ったものではない。
千早は自身の詰めの甘さを悔いた。
次からは慎重に行わなくては。落ち着いて、冷静に、的確に。
最後の一人になる為には、些細なミスも許されはしないのだ。
これはオーディションではない。落ちても次があるだなんて考えてはいけない。
早く殺さなければ。千早は考える。あの男を見逃してはいけない。
様子見で節約して、単発式にしていたから当たらなかったんだ。
ただの素人なんだから、普通に撃っても当たる事はないだろう。
千早は決めた。次に会ったらその時は連射を浴びせてやると。
それから、あの場所へと戻るのは難しい話だという事に気付いた。
とにかく必死で、どこをどうやって走ってきたのか全く覚えていない。ああ、迂闊だった。
単純に180度回転して真っ直ぐ進んだとしても、戻れる可能性は無いに等しいだろう。
だったらどうするか。予測をするしかない。
あの男が向かいそうな場所を予測し、その道中で待ち伏せるしかない。
今いる場所が、山の南西側付近である事は既に確認済みだ。
考えるのよ、千早。あの男が移動するとしたら──。
【D-3 山中 深夜】
【如月千早@THE IDOLM@STER】
【装備】89式小銃(28/30)
【所持品】支給品一式、交換マガジン(30x2)、確認済アイテム0~2(武器は無し)
【状態】健康、動揺
【思考・行動】
基本:優勝を目指す
1:あの男(岡崎朋也)の行き先を予測し、早期発見、殺害する
2:優勝を目指す。その為の策を練る
【補足】
※D-3、D-4、E-4のどこかに自分がいると考えています
※現時点で、自分の顔が広く知れ渡っているものと思っています
※春香とデュオユニットを組んで活動中。ユニット名不明。ランクはそこそこ
【装備】89式小銃(28/30)
【所持品】支給品一式、交換マガジン(30x2)、確認済アイテム0~2(武器は無し)
【状態】健康、動揺
【思考・行動】
基本:優勝を目指す
1:あの男(岡崎朋也)の行き先を予測し、早期発見、殺害する
2:優勝を目指す。その為の策を練る
【補足】
※D-3、D-4、E-4のどこかに自分がいると考えています
※現時点で、自分の顔が広く知れ渡っているものと思っています
※春香とデュオユニットを組んで活動中。ユニット名不明。ランクはそこそこ
◇
朋也は走り続け、それからしばらくして速度を緩め、今度は慎重に歩く事にした。
足音にも注意をしなければならない。そう考える。
先程は、月明かりの差す場所にいただけで狙われたのだ。極力、目立つ行為は控えたい。
周囲の音や気配に気を配りながら、身を低くしながら歩き、周囲には誰もいないと判断すると、
朋也は一度その場で止まった。名簿を握ったままだった。それを仕舞うついでに、鞄の中を確認する。
武器、何か武器、武器、武器武器武器。
自分にでも扱える強力な武器があれば、銃撃の場所に戻って、来る奴を待ち伏せて殺すのもアリだ。
今すぐあの長い髪の女を追いかけ直して殺してもいい。とにかく武器武器武器。
朋也は鞄の中から、自身へと与えられた物を取り出した。それは、はたして。
足音にも注意をしなければならない。そう考える。
先程は、月明かりの差す場所にいただけで狙われたのだ。極力、目立つ行為は控えたい。
周囲の音や気配に気を配りながら、身を低くしながら歩き、周囲には誰もいないと判断すると、
朋也は一度その場で止まった。名簿を握ったままだった。それを仕舞うついでに、鞄の中を確認する。
武器、何か武器、武器、武器武器武器。
自分にでも扱える強力な武器があれば、銃撃の場所に戻って、来る奴を待ち伏せて殺すのもアリだ。
今すぐあの長い髪の女を追いかけ直して殺してもいい。とにかく武器武器武器。
朋也は鞄の中から、自身へと与えられた物を取り出した。それは、はたして。
【D-3 山中 深夜】
【岡崎朋也@CLANNAD】
【装備】なし
【所持品】支給品一式、未確認アイテム1~3
【状態】健康、渚中心の思考
【思考・行動】
1:武器が欲しい
2:渚を見つけて守る。知らない奴は殺す。髪の長い女は特に危険視
3:その後の事を考えるという発想がない程に、平静ではない
【補足】
※渚ルート文化祭以降より召集
【装備】なし
【所持品】支給品一式、未確認アイテム1~3
【状態】健康、渚中心の思考
【思考・行動】
1:武器が欲しい
2:渚を見つけて守る。知らない奴は殺す。髪の長い女は特に危険視
3:その後の事を考えるという発想がない程に、平静ではない
【補足】
※渚ルート文化祭以降より召集
016:私と貴方は似ている。 | 投下順 | 018:Memento Vivere |
時系列順 | ||
岡崎朋也 | 033:Fearing heart | |
如月千早 | 042:World Busters! |